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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

試験編 第二章「テストを利用するモノ」

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04-27 弱者の戦い方(後編)

二話連続投稿なので「最新話」で飛んできた人はお気をつけて。






フィールドを跋扈する輝獣の合間をその百名足らずの集団は突き進む。
本格的な戦闘は極力避けての進撃ではあったが避け続けられるものでもない。

「前方11時の方向から三体突っ込んできます!」

土煙を上げてこちらに突進をかけてくる輝獣群は止まる気配がなかった。
自動車並の全長と速度。そしてその頭部に見える三本の角は鋭く太い。
この人数の集団が避けるのは難しく無視するにはこちらを狙い過ぎていた。

「視認した! 俺たちが前に出る、前衛下がれ!」

「トリケラもどきに押し負けんじゃねえぞ!」

「了解だ、うおおおぉっ!!」

耐久力自慢が各種武装を盾のように構えながら前衛組と入れ替わる。
15名ほどの生徒が恐竜(トリケラトプス)もどきの突撃を陣形を組んで待ち構える。
そこへ重厚な胴体による激しい突進と鋭い三本角が容赦なく突き刺さった。

「ぐうぅぅっ!!」
「こな、くそぉっ!!」
「負けるかぁっ!!」

衝撃を直に受けた彼らは踏ん張ったまま地面に轍を作って後退させられる。
彼らはこの中では耐久が比較的高いだけ。筋力もそれほどではない。
自動車の衝突以上のそれを受け止められたのは各種強化・補助のおかげ。
それでもフォトンのバリアは削られ簡易外骨格(プロテクター)の装甲が軋みを上げる。
だが、いくらか下がらされたとしても一時輝獣を止めたことには変わりない。
そして彼らの役割はまさにその一時止めることだった。

「おらぁっ!」
「くらえっ!!」
「ぶちぬけ!」

結晶型発光器官という明白な弱点を持つ輝獣にとって停止は致命的な隙だ。
前衛組が飛び出しそれぞれの輝獣の結晶部位を殴打し、切り裂き、貫く。
存在の核を破壊された輝獣たちは跡形も残さずに霧散した。

「いいぞっ、その連携だ! いまの呼吸を忘れるなよ!」

上空から狙ってくる鳥獣型を撃ち消しながら指揮官はその動きを褒めた。
仄かに嬉しそうな笑みを浮かべた彼らだが即座に真剣なそれに戻す。
周囲の状況が余談を許さないというのもあったが上空への警戒を
事実上彼一人でやっていることを思い出して意識を切り替えたのだ。
赤き銃の空気の塊を放つ面による銃撃が空の輝獣を迎撃している。
これのおかげで彼らは上の心配をほぼしなくてよくなっていた。
その事実が他方は自分達で対処しなければという意識を皆に持たせている。

「ん、救護班!
 そこの三人、腕にケガをしてる。治療を!」

「了解!
 こっちきて、すぐに治します『ヒール』」

それゆえにそのまま壁役に戻ろうとした幾人かを彼は呼び止めた。
角の直撃で腕を痛めていた生徒たちに治癒スキルがかけられる。
幸い角そのものは手甲を貫いてはおらず衝撃による打撲だった。
下級スキルのそれでも十二分に治療できる範囲の負傷である。

「今度からは自己申告してくださいね。
 わたし、指揮官さんほど洞察力ないんで隠されたら分かりませんよ」

「わ、わりぃ……あ、で、でも俺たちまだやれます!」

治療の為とはいえ女子と接触していた気恥ずかしさからか。
頬を赤らめ視線を泳がしながらも素直に言葉を受け入れる男子三名。
しかし下がらされるのを嫌がってか自分達は大丈夫だとアピールする。
尤もシンイチの顔には何をいってるんだという不機嫌さがあった。

「当たり前だ! まだ半分も進んでねえんだぞ!
 次のローテーションまで下がってろ。今度もケガするまで酷使してやる!」

「は、はい! え、え?」

「それでは三名うちでひきとりまーす」

半ば以上有無をいわせずその生徒らを救護班に任せて彼は後方に目をやる。
一旦は引き離したはずの輝獣が群れをなして追いかけてくるのが見えた。

「後ろから詰められてるぞ、塞げ!」

「はいっ、みんな合わせるぞ! 『ストーンウォール』!」

スキル組に属する10人の生徒が一斉に同一のスキルを唱える。
途端に自分達が通った後の道を塞ぐように大地が隆起し岩の壁となる。
高さ約15m長さ約30mの壁は追ってきた輝獣群と彼らの間に線を入れた。
単独で使ったならその10分の1程度の壁しか作れなかっただろう。
重ねることで下級でありながら地形を変える程の効果を持ったのだ。
だがそれでも輝獣の群れが攻撃し続ければ、いずれは壊されてしまう。

「今のうちに強化系かけ直すわ!
 『アクセル』『フィジカルブースト』!!」

「いいタイミングだ。
 なんだやればできるじゃないか、このままいくぞ!」

「へっ、了解だ!」

されどその“いずれ”までの間に彼らはもっと先に進むことができる。
身体能力と脚力の強化によって混成クラスは輝獣を無視するように駆けた。
彼らが破壊行動に移るより先にその範囲から離脱すれば戦闘にならない。

「昨日、一昨日と散々やりあったせいかな。なんか距離感わかってきた」

「うん、うん!
 輝獣が気にする範囲とか大きさごとの間合いとかなんとなく解る!」

その隙間を縫うように彼らは駆ける。濃密な戦闘経験によって得た感覚が
大半の輝獣と適切な距離を保つことを可能にして接敵を最小限にしている。
高い士気とこの二日の試験(シゴキ)がもたらした呼吸の一致が90名という
人数の多さが持つ素早い移動にはネックとなる点を補って異様な速度を維持し、
消耗を抑えながらゴールまでの距離を短時間でさらに縮めていく。

「目標河川まであと200m!」

「よし、そこまで行けばあとは川沿いに下っていけば、っ!?」

すぐに出入り口(ゴール)に辿り着ける、と喜んだ誰かの声を遮る轟音。
爆発音にも似たそれの正体はすぐに判明した。何せ彼らの真正面で起こった。
大地を突き破るように現れた一本の長大な胴体がそこにあった。

「ひぃぃっ!!」

「うげえっ!」

「また気持ち悪いの出たぁっ!?」

ソレに生理的な嫌悪を覚えてか一部の生徒達が悲鳴をあげた。
地表に出ているだけで10mを越える長さはその全体像を想像させる。
人間を簡単に丸呑みできる太さを持つそれは巨大ミミズ(サンドワーム)といえるモノ。
伸縮性と軟体さを示すような等間隔な蛇腹と透けた体色は生々しく、
僅かに透けている為に疑似的な内蔵の律動が見えて嫌悪感を煽る。
地表に出ている方の先端には円形の口があり環状に並ぶ鋭い歯が
熊型輝獣を咥えて弄んでいるような姿も合わさり余計に気色が悪い。

「ああいうのも共食いっていうのかね?」

涎のような粘液を垂れ流しながらのそれを前にシンイチは
気分を害した風もなく、これまた妙なことを気にしていた。
見た目としては類似性が皆無だが輝獣というある意味での同種。
その表現はあながち間違いではないがズレた発言なのも確かだった。
たまたま彼が陣形の内にいたためトモエが呆れながら答える。

「あんたねぇ、言うわけないでしょ。
 あのね地中で発生した輝獣は疑似感覚器官が触覚以外弱いのよ。
 だから上を通った奴をただ襲っちゃったんじゃないの?」

本来輝獣は別個体も同一存在と認識する為に輝獣同士は争う事がない。
唯一地中発生タイプだけがそんな特性ゆえにこんな事態を引き起こす。
その説明にああそうかと素の顔で頷いた彼は、しかし即座に地を蹴る。
巨大ミミズは口腔で弄んでいた輝獣を突如こちらに吐き出してきたのだ。
嫌悪感から思わず構えが解けていた彼らは対応が間に合わない。

「押せ!」

そんな彼らを追い抜くように前に出たシンイチはパイルバンカーを
縦に構えてその重厚な装甲で吐き出された輝獣を正面から受け止めるが
もはや原形の面影が無きに等しい巨大な塊がもたらした衝撃は存外に重い。

「ぐっ!」

剛腕投手の投球すら超える速度で吐き出されたその疑似砲弾は
使い手以外には超重量を誇るパイルバンカーでさえ僅かに押し込む。
だが我に返った前衛組が即座に陣形を組んで彼の背を押し止めていた。

「悪い、油断した!」

「いや上出来だ! そのまま支えてろよ!
 モード変更、近接広域攻撃フォトンバースト!」

くらえ、とバンカーからフォトンの輝きを宿した衝撃が放たれた。
それを叩きつけられた塊は衝撃に粉砕されるようにしてその存在が霧散する。
本来『杭』を打ち出すための爆発をそのまま攻撃として放出したのだ。
一点に対しての威力では劣るが範囲と連射性はこちらが勝る。
シンイチが初使用時に思いついたのはこのことであった。

「弾幕張って寄らせないで!」

その裏で後方の生徒達がスキルやシューターでワームを牽制する。
塊を吐き出したあと彼らを襲おうとしたのに気付いたトモエの指示だ。
傷は与えられていなかったがその行動を邪魔することには成功していた。
おかげでシンイチを含めた前衛組は追撃を受けずに済んでいる。
そこへトモエが後方から叫ぶように気遣う声を発した。

「大丈夫なのーっ!?」

「ああ、誰もケガなんかさせてねえよ!」

「……は? なにいってるの!
 あんたの話をしてるに決まってるでしょ!」

「…………え?」

「な、なんでそこで首を傾げるのよっ!?
 ああもうっ! 腕とか大丈夫かって聞いてるのっ!」

直接的な表現でやっと理解したシンイチは問題ないと答えるも
そこまで言わなければどうして解らないのかと彼女は本気で呆れた。

「サーフィナ先輩! あいつが!」

「あ、しまったっ、潜られた!」

彼女らの攻撃がわずらわしかったのか獲物が近場にいないと錯覚したのか。
なんにせよ巨大ミミズは大口を開けて大地を食すように掘って地中に潜る。
予想以上に長かった胴体が予想以上の速さで彼らの視界から消えた。
残ったのはその胴体の太さを示す穴だけである。

「誰かセンサーを! あいつどこ行ったの!?」

「はいっ、え!?
 真下です! 上がってきます!!」

その事実に驚くより前に後方にいた彼らが立つ大地が揺れた。
地震にも似たその地響きの原因が何なのかもはや考えるまでもない。

「散開!」

咄嗟に揺れる大地に踏ん張ってしまった彼らにシンイチの指示が飛ぶ。
それは当人達が困惑してしまうほどしっかりと彼らを動かし方々に散らす。
今日までの一、二日で反射的に従ってしまう程に刷り込まれていたのだ。

「あっ!」

ただ中には例外といえる人物がおり、さらにいえば厄介な場所にいた。
彼女(・・)はこの中で唯一シンイチの細かい指示を受け続けた事が無い。
仕事を命じられた事はあってもその後は基本的に自主性に任されていた。
またスキル組の中核を担う彼女はそのほぼ中心という位置に立っていた。

「逃げて!」
「きゃっ!?」

だから僅かに逃げ遅れた仲間を大きく突き飛ばした事で彼女自身が逃げ遅れた。
瞬間彼らが立っていた場所はサンドワームの突き上げで天高く吹き飛ばされる。

「っ、きゃああぁぁっ!?」

「サーフィナ先輩!!」

悲鳴と共にトモエの身体は木の葉のように軽々と宙に舞う。
地中から飛び出したワームは同じく飛び散った岩や土塊を粉砕しながら
狙っているのか偶然なのかその大口を開いたまま彼女に向かっていく。

「ひっ!」

外骨格ならともかく飛行能力など無い簡易では空で身動きが取れない。
自らを噛み砕かんとする環状の歯が見えてトモエは小さな悲鳴をあげた。
相手の巨体もあって身に纏っていたプロテクターが急に頼りなく感じる。
思わず衝撃に身構えるように体を縮めたが────引っ張られた。

「え、え、なにぃっ!?」

突如ナニカが巻き付いて横合いから引っ張られたような感覚に戸惑う。
それを訴える声を余所にしてワームの口は虚しく空を切っていた。

「よっと、大丈夫か」

「………………へ?」

そしてトモエはそのナニカに引っ張られてデジャブを覚える位置にいた。
作りだけは優しげな凡庸な顔が近い。自分を支える腕の感触に不安がない。
耳元から感じる体温と鼓動の音が妙に心地よく感じてしまっている。
頭は状況変化についていけずも心身は“ここ”は安全だと理解していた。

「しかし何気に新記録だな。
 この短期間で三度も同じ相手を抱きかかえるなんて」

要するに彼女はまたシンイチにお姫様抱っこされていたのである。
その事実がおかしかったのか彼はからかうような笑みを浮かべている。

「一応気を付けて蛇腹剣使ったがケガとかないか?」

「───っ! ええっ誰にもケガさせなかったわよ!」

されどトモエを気遣うように覗きこんだ目には本気の心配があった。
その真っ直ぐな目か。顔との距離か。ただの気恥ずかしさか。意趣返しか。
おそらくはその全部が原因で彼女は先程の彼の発言をそのまま返していた。

「…………なるほど、これは若干むかつくな」

彼女を心配しているのに全く違う他者の事を持ち出される。
やられると僅かな苛立ちを覚えたことに彼は思わず感心していた。
一方彼女は彼女で何故お礼すらまともに言えないのかと落ち込んでいたが。

「おいっあいつまた地中に!」

その隙に─というわけでもないが─再び口から地面に潜った巨大ワーム。
近付くのは危険とスキルや射撃で攻撃を続けていたがその成果はなかった。

「くそっ俺たちの攻撃じゃ全然ダメージが通らない!」

「でも逃げようにも速度が段違いでこれすぐに追いつかれるわよ。
 けど、相手が地中にいられたんじゃ手の打ちようが!」

これまで使っていた足止めの手段はどれも使えそうにない。
よしんば使えてもあの巨体では突破されてしまいそうだった。
逃亡は難しく、攻撃は効かず、その進みを止める手段もなかった。
どうすればいいかと悩むもいつ襲われるか解らない状況に集中できない。
だがそこへトモエを抱えたままのシンイチが妙なことを確認してきた。

「………なあお前らって学業の成績はそれなりにあるよな?」

「え、そりゃまあ一応この学園に入れたからな。
 そこらの高校生よりは点数良い自信はあるけど……」

「じゃあさ、水から水素を取り出す方法ってなんかある?」

「え? ええっと確か従来の電気分解って手もあるし、
 フォトンを用いた新しい方法も最近発見されて………おいまさか!?」

「あ、あんたそれ本気?」

その元素の名が出てきたことで皆の頭にはほぼ同じ考えが浮かんだ。
だからこそ本気なのかと誰かが問いかければ満面の笑みが返ってきた。

「奴が掘った穴に風のスキルとかで水素送り込んで火つけてみない?」

さも面白い悪戯を思いついたといわんばかりのていで。
シンイチの非常識っぷりに慣れ始めてたつもりの彼らも
水素爆発を軽い感覚で狙う彼にしばし開いた口が塞がらなかった。
しかし。

「たまや~!」

「おい、できちゃったぞ」

「むしろこれ、やっちゃった、じゃない?」

数分後スキルを駆使した生徒達によってその悪戯は完遂される。
結局他にワームを倒す程の火力とそれを確実に当てる手段が両立できず、
シンイチの物騒なアイディアに乗っかった混成クラスのメンバーである。
自分達は事前に張った風属性や水属性の防御スキルのおかげで無事だったが、
大爆発で吹き飛ばされたワームは天で黒焦げになって霧散していった。
玉屋と掛け声をかけて楽しそうなのは発案者だけである。

「もうこれ威力だけなら上級スキル並じゃね?」

「あ、あは、ははっ……俺もう二度とあいつに文句いわない」

「先輩、私達そんなの初日目から理解してますよ」

青ざめた顔のまま張り付けたような笑みで彼らは心を一つにする。
恐怖や驚きが一週するともはや笑うしかないのだと彼らは知った。
スキルで放った小さな火種から起こった火柱と爆風は強力だった。
トモエが張った防御スキルと浮遊(フロート)なくばもろとも吹き飛ばされただろう。
そう思わせる直径50m越えのクレーターが足元(・・)にあって彼らは戦慄する。
ましてやこれを成したのがスキルを用いただけの『理科の実験』である。
スキルで水を出し、そこから水素を分離させ穴に送り込んで爆発させた。
発想は非常識でも常識の範囲の知識を用いた結果がただただ恐ろしい。

「……もしかして世界一渡しちゃマズイ相手にフォスタ持たせちゃった?」

ガレスト技術に対してどこか自分達と全く違う見方や扱いをする彼を
トモエは柔軟とも無節操とも無茶苦茶とも評さず、そう言い表した。
言い得て妙といえる。彼の中には皆にある使い方の常識(制限)はない。
交流開始前の人間である彼にそんなモノがあるわけがなかったのだ。
あるいは汎用性の高いファランディア魔法を使い続けたゆえか。

「くくっ、たぶんそれ正解」

ただ当人はその表現が気に入ったのかおかしそうに笑っていたが。

「自覚があるのなら自重しなさいよ……」

その態度に呆れつつ彼女は皆をクレーターから少し離れた地に下ろす。
窮地からは無事脱した面々ではあったがその顔には複雑な色があった。

「はぁ、これどうすんの?
 みんな微妙な顔でフォスタ見てるじゃない」

地に足がついたと同時に下ろされた彼女は皆の様子に彼を半眼で睨む。
『武器』という認識はこれまで持っていた彼らも使い方しだいで
ここまでの破壊をもたらせる『兵器』になるとは思っていなかった。

「自分が使う武器の怖さも知らない奴など三流だ。違うか霊能術者?」

「っ、まさかあんたこれわざと?」

口許だけで笑う不敵な顔に身震いしつつもそれを否定はしきれない。
幼き日トモエが母から霊術についてまず教わったのはその怖さだった。
使い方を誤れば簡単に命を奪える力なのだと徹底して教え込まされたのだ。
だからフォスタが兵器に化ける可能性があることを教える必要性は解る。
いまが平時ならば、の話だが。

「でも今やらなくても!
 みんな戦えなくなっちゃうかもしれないじゃない!」

足りない地力を士気の高さによる勢いで補っている節がある彼らだ。
自らの使う武装への過剰な恐れは今においては余計といわざるを得ない。
時と場合を考えろとシンイチを睨むが彼は肩をすくめるだけだ。

「悪いが俺は面倒臭がり屋でな」

「は?」

意味の解らない言い訳に呆然とするトモエを尻目に、
その場でしゃがみ込んだ彼は足元に転がっていたナニカを掴む。
爆発の影響で吹き飛ばされた物なのかそれは黒焦げになっていた。

「……なるほど、だからこんな所にAランク並の輝獣がいたわけか」

それは原型を保ってはいなかったが明らかに何かしらの人工物の一部。
鋭く目を光らせたシンイチはそれがなんであったのか読み取れたようだ。

「いったいどれだけ前から準備していたのやら……ご苦労なことで」

「ねえ、さっきから面倒臭がりだの準備だのいったいなんの話よ?」

「別に、面倒ごとはまとめて解決しましょうって話。
 大型の輝獣を吹き飛ばすほどの大爆発が起こったんだ。
 その音と衝撃はかなりの範囲に届く。そうするとどうなると思う?」

先程と同じく悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべるシンイチ。
意図は解らなかったがその顔だけで嫌な予感をトモエは感じてしまう。

「どうなるって───」

「おい貴様ら!
 このクレーターはなんだ! 何が起こったか話せ!」

「───馬鹿な蛇がつっつかれてもないのに飛び出してくるのさ」

こんな風にな、としたり顔のシンイチと違って皆の顔が驚愕に固まる。
彼らの前に降り立った三つの影は誰もが青い軍用外骨格を装着していた。
総合監督代理の知人という(てい)になっているとは露とも知らずに
彼らガーエン義勇軍(テロリスト)たちは生徒たちの前に堂々と姿を現してきた。

「舐められてるなぁ……くくっ」

シンイチたちの集団からおよそ二、三歩程度の距離の場所。
愚かにも武装さえ手に出していないという無防備さで彼らは地に立つ。
空という優位性と距離を取るという真っ当な戦術を取る気もない姿。
これには思わず声に呆れた笑みが入ってしまうシンイチである。
この程度なら自分が影でサポートする必要性すらない、と。

「何を黙っている! さっさと答えないか地球人!」

トモエとシンイチを除けば試験と思っている生徒達は沈黙している。
気圧されているわけではなくどうするのが適切なのか思考しつつも
指揮官たる男が何をいっても反応できるように身構えていたのだ。
そのため質問に答えるなどという余裕がない。

「まあ待て、我らが誰かもわからんのだ。怯えや混乱も当然だ」

他の兵士が怒鳴る同僚をそういって窘める。
生徒らの沈黙をそういうことだと勘違いした───というわけではない。
彼らが爆発の確認に来た時に既に混成クラスのステータスは確認済み。
下位の者達と判断した彼らにとってこの集団は戦士とすら映っていない。
戦う役目のない一般人としか見えず畏怖や動揺があって当然と思い込み、
生徒達が緊張感を持って身構えているのを見てさえいなかったのだ。
油断ではなく常識の違いによる非戦闘員─と思い込んだ─への無警戒。

「我らは現在の世界を憂いて立ち上がったガーエン義勇軍!
 こんな未熟で野蛮な地球世界との繋がりなどガレストには不要!」

「両世界は関係を絶つべきと訴えるべく我らはこの地で武器をとった!
 一般人を攻撃する気はないが出来れば素直に質問に答えてもらおうか!」

そしてその三人の元・軍人たちはそんな多大な隙があっても
生徒達にとってはある意味先程の巨大ワームよりも強敵である。
既に全てがB以上のステータスは判明しており外骨格は軍用。
輝獣のような一発逆転を狙える致命的な弱点も存在しない。
武装を持たずともこれという隙はなく強い言葉での脅しに委縮しかける。
が。

「───という設定だ」

「ん、ああっそういうことか。そうだよなぁ」

「一瞬本気にしちゃったわ」

「うん俺も」

シンイチがそんな一言を呟くだけでその主張は一気に眉唾に成り下がり、
委縮しかけた心と体はそれだけで適度な緊張状態に戻ることが出来た。
むしろ迫真の演技だったと一部の生徒達は感心してさえいた。
トモエだけはその発言に唖然とした表情を浮かべているが。

「そういうことにしちゃうんだ……」

「っ、なにをごちゃごちゃいってる!!
 貴様らは聞かれたことに答えていればいいのだ!!
 そんな常識もないのか貴様ら地球人は!?」

癇癪持ちか元より地球人が気にいらないのか。
最初に怒声を浴びせてきた男が焦れたように再度怒鳴った。
それに“ああそれなら”といって彼らの後ろをシンイチは指差す。
これまで彼と共にあった者なら胡散臭いと思う満面の笑みと共に。

「そんなのあそこにいるドゥネージュ先生がやったに決まってるじゃない」

「なっ、剣聖がここに!?」

「馬鹿な、そんな反応はどこにも!」

「彼女はまだ見つかってないんだ油断するな!
 かの剣聖ならレンジ外からでも一気に詰めてくる!」

その名前に全員の声に緊張が走って、彼が指差した方角に身体を向けた。
どうやら彼女を隠す策はうまくいっているようだとほくそ笑みながら
“こいつら馬鹿なんだろうか”とわりと本気でシンイチは思った。
それを狙っての発言だったが一瞬騙された演技なのではとさえ考えた。
こちらを意識してもいない背中にその懸念すら馬鹿らしくなったが。

「全隊、突撃! 押し潰せ!」

──ならそんな愚者に異世界の現実というモノを教えてやろう
強い声での命令に混成クラスは再び半ば反射的に従っていた。

「ん、うわっ!?」
「ぐっ、な、なに、がっ!?」
「な、なんだいっ、うああぁっ!?」

それでも距離があれば相手が先に気付いて避けれただろう急襲。
警戒する必要もないという彼ら“だけ”の常識がもたらした失態。
飛びかかった生徒達は自然と均等に別れて彼らにのしかかっていた。
90対3という圧倒的な人数差はテロ兵士たちが考えているより重い(・・)
何せ全員が簡易外骨格を装着しており10人程度ならば力負けするが、
1人頭30人によるのしかかりには咄嗟には対応できず押し潰されていた。
それ以前に彼らの中では襲ってくるわけがない相手が襲ってきたのだ。
その驚きと困惑によって彼らの思考は致命的なまでに鈍っていた。

「武器を渡してやれ(・・・・・)!」

そこへ届いたある意味不自然かつ彼らだけに分かる命令。
これもまた昨日のリョウとの対決時に挑戦した『武装のおかしな使い方』。

「『バインド』!」

脳裏に蘇った光景のまま彼らは自分達の武器を彼ら“に”拘束する。
フォトンのロープが外骨格のあちこちに巻き付けるように縛り付けた。

「くっ、邪魔だぁっ!!」

「スラスター全開!」

だがさすがに相手も黙ってやられたままではない。
人間の重石から逃れようと外骨格の出力を上げて強引に飛翔する。
倒された状態のまま放出されたフォトンの奔流に人数差による優位性は
簡単にひっくり返され、生徒達はいとも簡単に吹き飛ばされてしまう。

「な、なんたる屈辱と侮辱!」

「しょ、正気かこいつら!
 簡易しか持たない只人が軍人たる我らに!?」

「ランクの違いもわからんのか地球人は!!」

一瞬で空に逃れた彼らは口々に信じられない。許しがたい。
そんな声をあげて方々に吹き飛ばした生徒たちを見下ろしていた。
バイザー越しで顔は見えないが憎々しいモノになっているだろう。

「バーカ! ここは地球で相手してるのも地球の人間。
 お前らの常識が通用するわけねーだろ、頭大丈夫か?」

そこへ人を苛立たせる口調で彼らを嘲笑う男子の声が響く。
それが混成クラスの中で最も低いステータスでありながら
最も偉そうにしている少年だと気付いた兵士達は一気に頭に血が上る。
シンイチの態度は彼らが思う“当たり前”を悉く馬鹿にしていた。

「オールD風情が戦場で我ら軍人を愚弄するかっ!」

「子供だと思って甘くしてれば付け上がって!
 もういいっ、二、三人ほど痛めつけ───っ!?」

そのまま武装を取り出そうとした彼らはようやくそこで気付く。
自分達に見知らぬ武装がいくつも縛り付けられていることを。
それらが放っている火花のような光と音によって。

「ふんっ戦場で相手の言葉にいちいち反応してんじゃねえよ、ド素人が」

だからそんなことにも気付けない。
独り言のようなそんな呟きと彼らの絶叫が響いたのはほぼ同時。

「ぐぎゃああぁぁっっ!?!?」
「あがぐがああぁぁっっ!!??」
「ひぎゃあああぁぁっ!!!」

空中で迸る激しいスパークに包まれるテロリスト。
およそ全ての武装に組み込まれている奪取防止用システムによる電撃。
外骨格越しでもそれを思わず手放してしまう程の痛みを与える装置。
括りつけられた為にそれが連続し耐えがたいダメージを彼らに与える。
そして装甲を越えてくる激しい電撃が外骨格の機能をも麻痺させたのか。
空を華麗に舞うはずの異世界科学の鎧は無様にも地に墜ちた。

「ぐあっ、がっ、バ、カ、な……」

「う、あぁ……な、なにが、起こって……」

それでも意識を失わなかったのはさすがだが痺れでまともに動けない。
また外骨格も電撃による一部機能の麻痺とその状態での落下により、
パワーアシスト機能を破損してただの重たい拘束具と化していた。

「がっ!?」

「革命家気取りのテロリストなんざこんなものさ。間抜け」

地に伏した誰かの頭を踏みつけて尊大な口調で見下すシンイチ。
それが先程の嘲笑した少年と気付いた彼らは憤るが体は動かない。

「現実が見えてないからこんな子供に後れを取って墜とされるんだよ」

「ぐっ、ふざけっ、るな!」

「ふっ、ふんっ、このてい、どで……勝った、つもりか」

「すぐに…なかま、が、きて…がっ!?」

一方的に嘲笑ったシンイチだが負け惜しみのような反論は無視し、
頭を踏みつけたまましゃがみ込んでその男の腕を取って一言呟く。

「ほい、武装解除」

「は、なっ!?」

驚きと呆然の中で外骨格が彼の端末に収納され、それごと奪われた。
それも驚くほど簡単かつ軽過ぎる掛け声と共にあっさりと少年の手の中。
いくら機能の一部に不全があっても兵装端末は自軍の者以外には使えない。
その常識すら無視されて彼らは本当に何をされたのか理解できずに固まる。
触れただけでシステムを覗きこみ書き換える能力など誰も想像した事もない。
唖然とする残りの2名からも端末を奪って武装を解除したシンイチは
その三つの端末を見せつけるようにして彼らに囁く。

「心配するな、定時連絡は俺が誤魔化しておいてやるよ」

にっこりとそう微笑んで彼らに助けの手が来る未来を潰す。
そして身ぐるみはがされた彼らは遅れて来た生徒達によって拘束され、
フォトンのロープで全身を縛られて無様に大地に転がされる事となった。

「…………勝っちまったな、俺達」

「外骨格装着してた元・軍人なんだぜ、この人たち」

「夢じゃ、ないよな?」

口にすら猿轡のようにロープで塞がれた彼らをきちんと視認しながらも、
その事実を生徒達はどこか現実味が感じられずに呆然としてしまう。

「夢じゃねえよ。
 例え油断に付け込んだだけでも勝利は勝利。背を向ける方が悪い。
 どんなに優れた装備でも中身が馬鹿ならこんな間抜けを曝すってことさ」

シンイチは遠回しに隙をついただけと釘を刺しながらも、
その勝利を肯定し油断する方が間抜けなのだとその兵士らを評した。
明らかな侮蔑に猿轡越しにわめきちらすが彼は相手にもしない。

「お前等はこんなつまらん姿を見せるなよ。
 その腕にくっついてんのはお前らの価値を示す為の道具だ。
 うまく使って、利用して、少しはマシな姿を見せてほしいものだ」

シニカルな笑みを浮かべつつも彼の声色はどこか柔らかく暖かい。
そこにかすかな期待があるような気がして思わず生徒達は目を瞬かせる。
初めてそんな言葉をかけてもらえたせいか妙にこそばゆく感じる彼らだ。

「それってようはどんな武器も使い手次第っていいたいんでしょう?
 なんでそんな遠回しなうえにめちゃくちゃ上から目線なのよあんた」

「なにせ試験官さまで指揮官さまだからな」

「ホ、ホントああいえばこういう! 年下のくせに生意気よ!」

当然のことだと開き直る態度にトモエは苛立って怒鳴りつけるも
彼は肩をすくめて意に介さずいつもの笑みを浮かべるだけだった。
その光景がおかしかったのか皆も笑みを浮かべて声をもらす。
もうそこに自らのフォスタに対する複雑な色を持つ者はいない。
“自らの価値を示す物”といわれては下手な使い方はできない。
目の当たりにした悪い見本のような間抜けを曝したくないのも本音だが。

「ははっ……あ、けどナカムラ。
 この人達をここまで厳重に縛って良かったのか?
 俺たちの試験の為に先生が用意してくれた人達なんだしさ」

「んがっ!?」

もっと丁重に扱った方がいいんじゃないかという声に、当人たちが驚く。
なんだそれはと問い質したいが猿轡のせいでまともに言葉を発せられない。

「いや彼らは試験が終了するまでずっとテロリスト()だ。
 怒りっぽい間抜けな人物設定のようだがそれでも拘束は厳重に、だ」

基礎能力が段違いって事を忘れるなと生徒達に注意しつつ、
そういうことになってるんだと縛られた彼らに無情に告げる。
敵とさえ思っていなかった相手に情けなく敗北したばかりか。
戦いの理由さえも演技(ウソ)にされた屈辱を彼らは味あわされる。

「とはいえ、このまま置いておくのも不義理だな。全員整列!」

彼の掛け声によってまた生徒達は半ば反射的にその通りに動く。
素早くクラスごとに整列した彼らは兵士達に自然に視線を向けた。
そこには怯えも敵意もなく晴れ晴れとした顔と素直な感謝がある。

「今回の試験への協力と間抜けな道化役(ピエロ)を演じてくれた彼らに、礼!」

「「「ありがとうございましたっ!!」」」

シンイチも含めた生徒達は一斉に感謝の意を示して頭を下げた。
ひとり微妙な顔をしたトモエは遅れながらも一応彼らに続く。
そして誰よりも早く頭を上げたシンイチの顔にはこれまでで
最も分かり易く且つ相手の神経を逆撫でする嘲笑が張り付いていた。

「んぐぐぐっ!!」
「むがむがぁっ!!」
「うぐぐぅっ!!」

それにより彼が分かっていてやっていると理解した兵士達は
顔を真っ赤にして叫ぶがそれは人の言葉にはならなかった。

「…………あんた本当に性格悪いわね」

状況的に彼らが自分達に何かをした者達の仲間だと気付いていたが
ここまで哀れな扱いを受けるとやり返す気も失せてしまうトモエだ。
彼女はこれには彼お得意のしてやったりな顔が返ってくると思った。
しかし。

「ふんっ、子供が本気で頑張ってるのをくだらん理屈で
 邪魔しようっていうクズどもにはお似合いの扱いだよ」

そこにあったのは静かなれど強い怒気と侮蔑の感情だった。
これまで見せたどの顔とも違う本気の怒りを見て彼女は絶句する。

「気に入らないから、理解できないからって、
 力尽くで排除し破壊しようなんてのはただの我が儘なんだよ。
 特にこのガーエンなんとかの主張は根元からズレてやがる。くだらない」

地に転がる彼らを一瞥することさえなくそう切って捨てると
もう用はないとばかりに振り返って生徒達に指示を飛ばした。
進軍の陣形となった混成クラスは目的地の川を目指して再出発する。
トモエはその強い感情が気にはなったが後衛組の中心役として
周囲全体に気を配らなければならずそのまま進むしかなかった。

「……………」

その中で特に異常もないせいか無言で進むシンイチ。
彼の手元にはテロリストから奪った三つの兵装端末がある。
さすがに防衛隊等に奪われ解析される可能性を考慮してか。
それとも偵察に出されるような末端には知らされてないのか。
この襲撃の戦略目的や細かい作戦内容は記録されていなかったが
ガーエン義勇軍の通信コードを手に入れることに成功していた。


──こちらアルファ、戦線が膠着してる援軍を!

──設置が完了した。ベータはこれよりフェイズ2へ移行する

──デルタ了解、これより合流する

──所定位置に到着、ガンマは指示を待つ


誰も見ていない所で彼はひとりほくそ笑んだ。
自称・面倒臭がり屋の彼があの爆発を起こした意図は複数に及ぶ。
巨大ワームの撃破。フォスタの危険性の提示。敵の誘い出し。
それを利用した悪い見本の提示。そして敵の通信コードの把握。
シンイチの魔力ハッキングは便利ではあるが万能ではない。
“完全に情報がない場所”には魔力の触覚を送り込めないのだ。
またフィールド内において学園関係者でも通信が可能なせいか。
あちこちでそれらが飛び交っておりその選別には手間もかかる。
誰と誰の間の通信なのかはその回線ごとに調べないと解らない。
だから誰の物でもいいから義勇軍の端末を手にする必要があった。
そして一つでも解れば後は芋づる式に見つけ出せるのがこれの便利さ。
例え一部隊のコードでもそれを受ける本隊(ハブ)の位置さえ特定できれば、
そこから繋がる全ての部隊の位置と通信内容は彼には筒抜けとなっていた。
そしてそれはもう彼に改竄されない保障はなく、またその事実を誰も知らない。




───さあ邪神(オレ)の手の平で踊れ



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