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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

試験編 第二章「テストを利用するモノ」

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04-26 弱者の戦い方(前編)

長くなったので分けました……そして連続投稿です!

遅れてごめん!
これもすべて夏の暑さってやつのせいなんだ!
「───ということだ」

唐突で一方的な動画通信(メッセージ)を共に見たあとシンイチは皆に振り返る。

「いや、ということだ、なんていわれても……」

「全クラス参加のミッション型試験なんて」

「輝獣だけでも大変なのに」

総合監督代理からの特別試験の開始宣言は前例が無く、また突然に過ぎた。
いくらかシンイチのとんでも試験を受けてきた彼らも動揺が隠せない。
輝獣だけで手一杯な所にガードロボの大群に元・軍人たちの参戦。
そして何やら不穏な仕掛けまであるという話に尻ごみしてしまう。


尤もそんなことはこのメッセージを(・・・・・・・・)作った(・・・)シンイチには予想通りだが。


生徒会の監視カメラに偽りの映像を流し続けている彼だ。
この程度の映像を作って生の通信と誤認させるぐらい朝飯前である。
ある事情から既にフリーレは監督官たちとは別行動を取っていた。
それを内外の者に知られないための偽装だが、本命は別にある。

「なに緊張してんだよ、お前ら」

その本命である彼らに向かってシンイチは軽い物言いでいう。
たいしたことではないという空気を醸し出すが皆の表情は硬い。

「………なにか、まーた勘違いしてねえか?」

「え?」

「俺たちは所詮、CやDの下位クラス。
 いったいどこの誰か見てくれる? 注目してくれる?」

そんな奴がこの学園にいるわけがないと嘲笑うかのように告げる。
皆の顔に緊張とは別の力が入り、悔しげに歯噛みする生徒もいた。
だが言い返せる言葉はない。それが事実だ。彼らは学園の下位グループ。
親身になってくれる教員は少なく、授業や鍛練の苛烈さゆえに
上位グループは下位グループを見下す暇さえ存在しない。

「自惚れんな、誰も見てねえ、気にしてねえ────」

スクールカーストがあると思い込んでいるのは一部の者だけ。
ここではそんなことを考えている者こそ下に行く。彼らは別の畑だ。
同じ種類であるからこそ比べることに意味が生まれてくる。だから。

「────だから、好き勝手に暴れてやろうぜ」
「……なぬ?」
「……は?」

ニヤリと笑ってシンイチはいかにもな企み顔を皆に見せた。
それは一瞬前まで彼らをけなしていたような顔とは違う不敵なもの。
これまで彼らが見た事のあるどれとも違う“面白がっている”笑顔。

「注目や期待がないってことは一番自由でもあるってことだ。
 どうせ誰も気にしてないんだ。何しようが勝手というわけさ。
 泥臭かろうがカッコ悪かろう卑怯だろうが……1位を取れば、勝ちだ」

そんな顔で軽々しくも当然のように勝つと口にして皆を唖然とさせる。

「………1位、目指すのか? 俺達が? 本気で?」

「いやいやこの状況で無茶でしょそれは!?」

呆れるのを通り越した驚きの声に、この状況だからこそだと彼は続けた。

「俺たちの位置はフィールドの中ごろだが一番出入口まで近い。
 他はもっと奥だし今頃特別科には飛行での突破は禁止と説明されてる。
 そして3クラス合同な俺達は事実上の最大勢力だ。不可能じゃない。
 なにより──────そうなったら面白いと思わないか?」

少し間を開けて全員の顔を見回したあと。
同意を求めるように浮かべた笑みは今までよりも凶悪で、楽しそう。
まるで幼い子供が思いついた悪戯を自慢げに語るそれのようだった。

「マジかこいつ……ははっ、どうするよみんな」

面白いか否かで、悪戯を仕掛ける子供のような幼稚さでの挑戦。
思わず笑うも確かにそれは面白そうだと1-Dのクラス委員(ヤマナカ)は思った。

「……いいんじゃない。
 どうせやるなら、目指すならやっぱ一番でしょ!」

「今日までの試験に比べればある意味、まとも、だよねそれ」

「あり得ないことやらされてるわけじゃないんだ。やってやるよ!」

「他のクラスや試験官たち俺達が1位だったらどんな顔するかな?」

「やべ、それチョー見てえ!」

そしてそれは他の者からも無駄な力みを奪っていく。
あるのはやってやるといわんばかりの熱く強い戦意である。
今ここに最下層のグループは学園で最も士気の高い一団と化した。

「決まりだな。ならプロテクターや武装は全解禁だ。
 学園中が度肝抜くぐらいの大暴れを見せてやる。行くぞっ!!」



──うおおおおおおぉぉぉっっ!!



簡易外骨格を身に纏い、各々の武装を手にして彼らは雄叫びをあげた。
唯一生身のままのシンイチを中心にして百名足らずの集団が進軍する。

「昨日やった通りに得意系統に分かれて隊列を組め!
 長期戦になる。ローテーションも決めとけよ!」
「おおっ!」
「はい!」

伊達に昨日の午後。時間一杯まで集団戦闘の試験(たんれん)をしていた訳ではない。
指示された途端にクラスごとに別れていた集団が得意分野ごとに別れた。
筋力・耐久が優れた者達が三角陣形の辺となって森の大地を突き進む。
どの方向からの襲撃に備える前衛組。その内側の辺は耐久の高い者が続く。
そして真ん中に配置された精神が高い者達が一斉に彼らに強化スキルを使う。
自身に使うなら効果は微々たるそれもフィジカル面が強い者になら話は別。
これが続く限り精神が低い前衛も上位者には勝てずとも食いつける力を得る。
役割分担。ある種ガレストのそれの地球版ともいえる集団がそこにいた。

「前方に輝獣が5、6体!」

「構うな、この勢いで吹っ飛ばせ!」

「おらぁっ!!」

散発的に遭遇する輝獣もその程度ならば鎧袖一触する勢いが彼らにはある。

「ねえ、ちょっと質問いい?」

その余裕があるいまのうちに聞くべきと思ったのか。
走る彼に並んだトモエは耳元で囁くように問いかけた。

「なんだ?」

「ちょっと気になったんだけどリョウはどうしたの?
 それとこれ、もしかして一昨日の夜と関係ある?」

朝起きた時にはまだ彼はいたが気付いたらいなくなっており、
そして突然過ぎた事とまるで逃げるように出口を全員で目指す状況に
自分の身に起こった事もあって彼女は素直にこれを試験と思えなかったのだ。

「シングウジには少し用事を任せた。先生が言ってた仕掛け対策だよ」

一つ目の質問にそう答えながら二つ目にはどう答えるか僅かに彼は悩む。
教師陣ひいてはシンイチらには事実を生徒達に明かす選択肢もあった。
だが事実を知らせて起こるのは間違いなく小さくはない混乱である。
中には落ち着いて行動できる生徒もいるだろうが大半はそうではない。
ならば試験と偽って、生徒達を集団で行動させた上で戦力として扱った方が
じつのところパニックを起こして統制が破綻するより安全性が見込めた。
それが『特別試験』という大嘘を吐いたことの“本命”であった。
だからトモエに話すかどうかは本来考える余地はない事柄だ。しかし。

「推測通り、お前がああなった原因たちがやってくる」

あえて彼は彼女だけに正確に意味が伝わる物言いで事実を教えた。
トモエはやっぱりと怒気の篭った表情で呟くと背負った竹刀袋を掴む。
さすがに周囲の目がある事を理解しているのか言葉にはしないものの、
怒りに燃える目が“カムナギの錆にしてやる”と訴えていた。

「おおっそうか! さすが補佐役。助かるよ!」

その怒りないし闘志に水を差すように─白々しい─喜びの声が周囲に響く。
意味が解らず訝しむトモエや周囲の視線が集まったのを確認してから
シンイチはここ数日で最高なまでにさわやかな─嘘くさい─笑みを浮かべた。

「お前が自分からスキル組に入れてくれとはありがたい!
 おいお前らっ、こいつが中核を担ってくれるってさ!」

「なっ」

「本当ですか先輩!?」

「サーフィナさんがいるなら百人力ね!」

トモエの当惑や疑問、驚きの感情が出てくるより前に喜びの声が沸く。
落ち目だが彼女はBクラスの生徒。そして精神はAA+と特別科にも匹敵する。
最高値がB-までとなっているこの混成クラスにおいては破格のランクだ。

「俺達この中で高いだけだからさ」

「あなたが入ってくれると助かるわ!」

精神ランクだけが高い者達で構成されているスキル組。
彼らは後方からスキルによって他の者達を援護する事を要求されている。
例え一人でも高ランク者が入ればそれだけで全体的な消耗は減るのだ。

「え、ええ……ま、任せておいて!」

そんな期待や羨望にも近い眼差しを向けられたトモエは頷くしかない。
こうなっても知らぬ存ぜぬと己を貫ける厚顔無恥さを彼女は持っていない。
正直な話、頼られて悪い気はしなかったというのもあるが。

「く、くくくっ」

とはいえ、だ。彼女が怒る事実を教えた癖にその役割を振った男の
こらえきれていない笑い声はトモエの感情を大いに逆撫でしていた。

「あんたね……絶対地獄に落ちるわよっ」

引きつった笑みを浮かべながらの苦々しい言葉が精一杯の反撃である。

「知ってるよ。まあ閻魔大王に俺を裁く権限があればの話だが」

過去の所業や自分の属性を鑑みてのわりと本気の言葉だったのだが、
茶化されたと感じたトモエはもう知るかとスキル組に完全に合流した。

「……お前を前衛にできるかよ」

それを見送って再び前を向いたその顔にふざけた雰囲気は皆無。
トモエを能力的に相応しい場所に置くための一芝居であった。
多少不満があっても一度やると決めた事を放棄しない性格なのは
昨日一日の付き合いだけでもシンイチは十二分に把握していた。
また事実を教えたのも彼女をこの混成クラスに留めるため。
それを聞いた以上トモエに彼らから離れるという選択肢は消える。
再び自分及び彼らに何かされないという保証はどこにもないのだから。

「さて、そろそろ初戦のようだな。試金石にはちょうどいいか」

そしてその視線の先。
周囲に向けている意識が拾った情報に彼は一人ほくそ笑む。
フォスタがそれを訴えるより先に彼の感覚はその存在に気付いた。

「正面2時の方向から警備ロボが三機接近中!」

「遠路はるばるご苦労なことだ」

ガードロボの侵入は今からおよそ1時間前の事ではあったが、
市街地用のマシンが舗装されていない大地を難なく走行できるわけもない。
またフィールドの前半部分はどのクラスも試験に使用していなかった。
そのため学園側に最も近い位置にいた彼らと遭遇するのでさえ、
ガードロボはそれだけの時間と装甲の汚れという対価を必要とした。

「迎え撃つぞ、構えておけ!」

「うげっ、いきなりガードロボ三機かよ!」

「逃げるとか隠れるとか……ああ、もう気付かれてるなこれ」

簡易的に表示された周辺情報の光点を見て幾人かが肩を落とす。
動体機械反応がほぼ真っ直ぐに自分達に向かってきてるのが見えたからだ。

「俺達の武器じゃ装甲を削るのがやっとだしスキルもあんま効果ねえんだぞアレ!」

それらを用いた犯罪者と相対する事も求められる以上それは当然の性能。
しかしその程度が低いことを自覚する彼らには弱点のある輝獣より厄介な敵。

「おいおい、昨日やったことまさか忘れたなんていわねえよなお前ら!」

その不安を笑い飛ばすように指摘すれば全員が何かに勘付いた顔になる。
昨日、特に午後彼らがやらされた模擬集団戦闘において下された様々な指示。
それにはガードロボ相手に使えるような戦術もなかっただろうか、と。

「あんなのシングウジに比べれば、たいしたことない、だろ?」

不安など微塵も見せない顔での明確な助言に皆の顔に笑みが浮かぶ。

「ああ、そうだな!」

「やってやるさ。昨日の通りに!」

「おい、そろそろ見えてくるぞ。前衛! 止める(・・・)跳べ(・・)!」

土煙を上げて生い茂った木々の裏から─視界の上では─滑り出てくる機体。
いくらか茶色で汚れた白き四肢で大地を走るその姿が見えた途端に彼らは動く。
三角陣形の頂点を担っていたメンバーが一斉に地を蹴って跳び上がった。
それよって前が開いた中腹に位置する生徒達が一斉にシューターを構える。

「この距離で外すんじゃねえぞ! 『グレネード』!」
「わかってるよ『グレネード』!』

爆発性を持たされたフォトンの光弾が三機編成で突き進む機体群へ放たれた。
それは見事なまでに彼らの狙い通りにガードロボの足元に着弾して爆発する。
拡散する衝撃の中で、それでもなお進もうとする機体は途端に動きが止まる。
グレネード弾が大地に激しい凹凸と罅が生んで走行不能に陥ったのだ。
本来車体さえ跨ぐ長さの四肢があちこちで窪んだ大地に脚を取られていた。
そしてそのタイミングで飛び上がった生徒たちが落ちてくる(・・・・・)

「おらぁっ!!」
「くらえぇっ!!」
「だりゃあぁっ!!」

落下のスピードさえプラスして各々の武器をロボの胴体部に叩き下ろす。
ブレードが、ハンマーが、ランスが装甲に食い込むが僅かに凹む程度。
身体強化スキルと落下の威力があっても彼らの能力ではそれが限界だ。
彼らの攻撃がそれで終わるならば、だが。

「やああぁっ!!」
「はあぁぁっ!!」
「おおおぉぉっ!!」

三機それぞれに突き立てられた武装。
その地点にさら続く落下してくる生徒達による追撃に次ぐ追撃。
さらなる追撃が刃を食い込ませ、鎚を押し込み、穂先が食い込む。
だがそれは胴体部に開いた小さな傷。致命的な損傷とはいえない。
しかし彼らにとってはその綻び程度の穴で充分なのだ。

「今だっ撃てっ!」

「あたしが補正するっ通して(・・・)! 『ロックオン』!」

「了解! 『ライトニング』!」

円と十字が合わさった照準マークが空中に三つ浮かぶ。
幾人もの生徒がそれ目掛けて雷撃を放てばそれぞれで集束され、
装甲に開いた穴にまるで吸い込まれるようにして落雷(めいちゅう)した。
内部に入り込んだ雷が暴れ回り、ぷすんと音を立ててロボはその場に沈む。
見た目に損傷が無くともその機構を支える中身が破壊されれば沈黙するのみ。

「どれだけ進んだ技術で作られようとも、
 内部の回路をあらかた破壊されればもうただの模型だな」

それが『機械』という存在が持つ決定的な弱点であり、
昨日リョウの外骨格相手に彼らが挑戦した事の応用だった。尤も。

「初めてうまくいった! よっしゃぁっ!!」

彼相手の場合は標的の小ささと動きの速さでうまくいかなかったのだが。

「ガードロボ三機を瞬殺って俺達すごくね!?」

「まあな、普通にやったら俺達がジリ貧だってのに」

「へへ、やったねサーフィナさん!」

「やっぱすごいのねBクラスは。
 あんだけの数のスキルを集束して別々に当てるなんて!」

「え、え、ええ……まあ、それほどでも、ななっ、ないわよ。うん!」

考えられなかった勝利に沸き立つ混成クラスの興奮度は高い。
そして惜しみない称賛に不慣れもあって照れと虚勢と困惑が混ざって
狼狽えてしまうトモエを尻目にシンイチは停止したロボにそっと触れる。

「………やっぱりネットワークから切り離されていたか。
 弄られたのは管理システムじゃなくて内部のプログラムか。面倒な」

そんな独り言をこぼしながらうんざりした顔で息を吐く。
中身は電撃で死んでいたが外部との繋がりが切断されていたのは解った。
これでは奪い返すのに一機ずつ直接魔力で干渉しなければならない。
それも今のように装甲にどこか穴を開けるというひと手間が必要だ。
スキル対策の施された装甲は完全ではないが魔力の通りが悪い。
無理をすれば問題ない程度だが面倒であり他の生徒の手前もある。
試験で用意された敵性ドローンとして破壊してしまった方が無難だった。
だがその事実は全警備ロボの中身を何者かに書き換えられた事も意味する。
間違いなく昨日今日にクトリアへと来た人間にできることではない。

「予想通り、だいぶ前から準備してたってわけか。
 まあその辺りの調査は先生頑張れとしかいえないが」

丸投げする気満々の声で呟くと未だ興奮冷めやらぬ集団に振り返る。
感覚としては理解しきれないがこれだけでも彼らには大金星なのだ。
ならばその喜びと興奮に水を差すのは憚られる。だから利用する(・・・・)

「お前等これで分かったろ?
 一人一人の力が弱くても、それを数という力で束ねて、
 知恵という名の戦術で使えば自分達より強い奴とも───戦える」

「っ、ぁ」

“戦える”
その言葉は彼が思う以上に強く彼らの心に響いていく。
きっとそれは皆がどこかで望んでいた、聞きたかった評価。
学園内で認められることが無いに等しい彼らが欲しかった言葉。
だがそれはある意味においてこの学園の教えとは少し違う戦い方だ。
しかし今この時において、そして今の彼らに必要な戦い方でもある。
彼らはもう同じ土俵(ルール)の中にいる。そこからは工夫(ワザ)が生きるのだから。
そんなやり方も選んでもいいと彼の声には柔らかな肯定もあった。尤も。

「ま、戦えるだけで不利なのはどの道変わらんけど」

「おい!」

「あ、あんたねぇ……」

一旦持ち上げておいてそれかと混成クラス中からツッコミが入る。
それにくくっと笑ったシンイチは彼らに背を向けるように再度振り返る。

「要するに油断する余裕なんざ俺らにはねえってことさ、来るぞ」

「っ、レーダーに反応!
 輝獣が200いえ300っ、どんどん増えてる!?」

ある生徒がフォスタからの警告音と表示される光点数に驚きながら叫んだ。
どこかで発生したその大群が時間経過と共にレーダー圏に侵入してくる。
まだ見える範囲の事ではないがこれから彼らが進む予定だった大地が
輝獣を示す光点で埋め尽くされていくのが一秒ごとにはっきりと見えた。
全員の顔から一気に喜びと興奮が消え、緊張した面持ちで武器を構え直す。

「まさか全部こっちに向かって来てんのか!?」

「ううん、扇状に広がってる。こっちにくるのは一部だけだけど、
 これだとどこを通っても輝獣の群れの中を突っ切るしか!」

フィールド出入口という目指すべき目的地は変わっていない。
そこを目指す以上選べるルートは元々そんなに多くはなかった。
輝獣の数が急増して一定範囲の密集率が跳ね上がれば尚更である。
個々の能力が低い自覚がある彼らは集団の利点は持てても、
一撃での殲滅力や長期戦に向けての高い持久力がない。
また密集した敵陣を貫ける突破力も彼らは持っていない。

「なんだ、分かってんなら説明の手間が省けて助かる」

しかしそれをやるんだとこの集団の長は事も無げに口にした。

「………おい試験官(しきかん)、マジか」

「マジさ。さっき言った通り戦えるんだよ俺たちは。
 そしてこの試験の目的はなんだ? 輝獣どもを全滅させることか?」

「あ」

「そう、か」

その指摘に彼らははたとその事実に気付く。
そう、これはそんなことが目的の試験ではないのだ。
目的地に到着するだけでいい。無理に戦う必要も、無理に勝つ必要もない。
それを念頭において考え直せば今の状況はいうほど難しいものではなくなる。

「輝獣を倒しながら突き切るのは確かにこの面子だと厳しいけど、
 密集率の低い所を縫うように進んで極力戦闘を避ければ……」

「なら、ここの川目指そうよ!
 輝獣はなんか河川(そっち)とは逆に向かって広がってる!」

ある生徒がフィールドマップを指差して訴える。
扇状に広がっていく光点はフィールドの奥を目指して進んでいた。
生徒が示した河川はその広がりとは僅かに離れた位置を流れている。

「この案でいいかナカムラ?」

ヤマナカからの確認する言葉に彼は黙って頷いた。
そして満足気にほくそ笑んだシンイチはその両手に武装を出す。
左手には漆黒のパイルバンカー。右手には真っ赤な空気圧縮銃。
技術科3年の趣味人ヴェルナーが作ったトンデモなロマン武装たち。
見慣れぬそれらに訝しむ彼らだがそれはシンイチも戦う事を意味する。
知らず混成クラスの面々は戦う意思を示した彼を前に息を呑んでいた。
有無を言わせない迫力がさらに倍増したように感じてしまったのだ。

「ルートは俺が選ぶ。スキル組!
 俺以外の全員にフィジカルブーストとアクセルをかけ続けろ。
 効果時間終了前にかけ直すのを忘れんな。前衛組! 邪魔な奴だけ吹っ飛ばせ!
 倒すことに固執しなくてもいいがどうせやるなら結晶ぶち抜いて一撃必殺狙え!
 それ以外の奴は割り振られた役割を忘れるな! 何かあれば俺が指示を出す!
 こっからが本番だ……覚悟と準備が出来てないなんて戯言は今更聞かねえぞ?」

一息で指示を出し終えた彼の顔に浮かぶは挑発的な笑み。
それに誰がと。出来ていると口々に彼らは叫んで雄叫びを再びあげる。
一度高まった士気と最初の勝利の興奮はこの程度で冷めてなどいない。
シンイチの戦意と煽りを受けて、より高まり彼らの脚を前へと進ませていた。
そうして後々学園で伝説として語り継がれることになる進撃が始まった。

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