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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

試験編 第一章「テストは利用するもの」

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04-25 さあ、特別試験の始まりだ

……法事の日程が近いと、大変だよ……いやマジで




「───うん、それじゃみんないっちょ夢でも語りなさい」

彼女の脈絡のない思いつきの発言は今に始まった話ではない。
それでもいきなり夢を語れといわれて躊躇の無い人間は少数派だ。
だが嫌がる声など聞く耳もたぬと訴える凶悪な笑顔を前に誰も逆らえない。

「さ、順番にどうぞ?」

街道から少し外れた森の一角でたき火を囲む少年少女たちは
こうなったら逆らう方が恐ろしいと、されど無様は見せたくはない。
ならばと胸を張って目指す先を、夢を、目標を、生き方を語った。

「オレは誰よりも強い剣士になる!
 それで悪い奴をみんなぶった切ってやるんだ!」

ブロンドの少年(ジェイク)が自らの剣を片手に高らかに宣言すれば周囲からは喝采。
茶化すようでどこか応援するような声援が飛んできて彼は嬉しそうに笑う。

「わたしは偉くなってわたし達みたいな子の帰れる家を作りたい、です」

がんばれ。おれもてつだうぞ。
と続く応援の声に眼鏡の少女(リリー)ははにかみながら笑顔を見せた。

「魔法術式をもっと簡単な形にしてみせるわ。
 ちょっと複雑になるとみんな全然できないんだもん」

仕方ないからワタシがもっと楽にしてあげるわ、などと
どこかませた振る舞いを見せたのはこの中で一番幼い猫耳少女(セレネ)
ナマイキいいやがってと不満が飛ぶがその声色はどこか暖かい。

「ボクは冒険者!
 ダンジョンを探索して古代の謎を解き明かすんだ!」

お前、怖がりのくせにできんのかよ。
そんなからかいが飛ぶが茶髪の少年(ロー)は出来ると強く宣言する。

「おいおい、ここは目指せリーモア騎士団!
 じゃないのかよ……俺達一応候補生だぜ?」

赤髪の少年(カッタ)が呆れたように自分達の立場を口にしながら、
ちらちらと夢を語れといった女性を意識するような視線を送っている。
誰も口にしなかったが全員“わかりやすいなこいつ”と言いたげだ。

「あら、別に気にしなくていいわよ。
 ただの言い訳なんだしみんな好きな道を選ぶといいわ。
 まあ、悪党になりたい奴は私とやりあう覚悟で選びなさいね」

別にそうなってもいいわよと笑顔でいいながらも事実上の脅迫に
一斉に全員がめっそうもないと怯えたように首を横に振った。

「で……ツギ、は、シン(・・)、あなた、の、ユメ、は?」

「……え?」

そして彼女は皆の夢語りを理解しようと必死に耳を傾けていた少年に、
分かり易いように言葉をぶつ切りにしながらそれを尋ねて、答えを待つ。
理解するのに少し時間がかかったあとその黒髪の少年はゆっくりと口を開く。

「オレ、の、ユメ、は────」











「────なんだったんだろうな、アイシス……」

地平線から今にも顔を見せようとする太陽の頭を眺めながら、
突如として切り替わったように見える視界の変化に苦笑する。

「夜明け、か。相変わらず夢のチョイスがひでえ」

器用にも大木から伸びる太い枝に腰掛けるように寝ていた彼は
夢の内容へのクレームをどこに出すべきかわりと真剣に悩む。

「どうかなさいましたか主様?」

その肩で彼が目を覚ました事に気付いたヨーコが心配げに問う。

「別に、いつものことさ。
 推測大外れで平穏に試験が終わる可能性が消えただけの、ね」

元より事件や騒動など起きないに越したことはない。
予感、予兆があったとはいえ何もない可能性もあるにはあった。
だがどうやらそれも消えたらしいとシンイチは心底残念がる。
そしてその意味を従者たる彼女は正確に察してしまう。

「いつもと違う、ユメを見たのですね」

少し切なげな声でされどそれを淡々と指摘する。
シンイチの見る夢は常にあの日(・・・)のリピートだけ。
思い違いも勘違いも精神を守る為の忘却も存在しない事実の再上映。
ただ時折、そうではない別の記憶を夢で見てしまうことがある。
そしてそれには何かしらの意味があるのだとヨーコは聞かされていた。

「過去夢で警告とかホント意味不明だが、
 的中率高いうえに自分で自分に発破かけてるみたいで最低な気分だ」

「主様……」

「ああ、でも久しぶりにまともな姿のあいつらに会えたな。
 相変わらず自分のこと以外は記憶力高くてなんか笑えるけど」

誰がどんな夢をどんな表情で語ったかさえ正確に覚えているくせに
自らが語ったはずの夢は全く覚えていないとはお笑い草である。
ただそれを笑えてしまう自分をどこか憂鬱に感じてしまう。
慣れとは恐ろしい、と。

「……頼みたいことがある」

「はい」

だがその感傷に浸る時すら惜しいとその顔から感情が消える。
彼の従者はそれに何もいわずにただ次の言葉を待った。

「今回は首謀者たちの目的が把握できていない。
 ドコのナニが目的なのかまではさすがにわからん。
 お前は学園校舎に戻ってあそこを守れ。今はあそこが一番手薄だ」

この試験のために全生徒と全実技担当教師がフィールドに出ている。
数も戦力もほぼ存在しない今の学園の自衛能力はさほど高くない。
それでも海上都市クトリアのほぼ中央という立地は襲撃側には厳しい。
攻め込むには厳重な警備システムと防衛隊がある都市側を突破するか。
輝獣が跋扈し過酷で多様な環境のフィールドを進撃するしかないためだ。
だが確実に内通者がいる現状ではその立地も安全といえる場所ではない。
“いま”ナニカあればクトリアで一番攻略されやすい拠点といえた。

「他はよろしいので?」

「残りの都市部は防衛隊やら保安部やらの領分だ。
 どこぞのバカどもが攻め込んでくるだけなら問題はない」

ハード面、ソフト面双方において信頼のおける戦力だと
今日までの実績を間近で観察し続けたシンイチはそう評価していた。
伊達に防衛情報を仮面やハッキングで堂々と盗み見ているわけではない。
彼らこそ今までの8年においてこの都市の平和を守り続けてきた存在だ。
だからこそ独自の権利と独特な人員を保有する学園を『微妙』と見ていた。
元々戦うのが目的の施設でも組織でもないといってしまえばそれまでだが。

「だが今回の一件、何の策もない奴の行動とは思えない。
 だからお前が必要だと判断すれば四尾目を使うことを許可する」

「っ!?」

学園へのアクションがあるにせよ無いにせよ本命にせよ囮にせよ。
あまりに無防備になっているその地を放置しておくのは得策とはいえない。
そのネームバリューと価値を彼は昨日生徒達から聞かされたばかりだ。
もののついでで破壊されればそれだけで世間への衝撃は計り知れない。
その意図は彼女も解るが解禁されたモノへの動揺が強かった。

「………よ、よろしいのですか?
 主様はあまりお好きではないと思っていましたが……」

「好き嫌いで語れるものじゃないだろうあれは。
 ただまあ………使った後が大変だと思う、主にお前が(・・・)

そこだけ意味ありげな─苦笑混じりの─視線を送れば彼女は頭を垂れた。

「お、お心遣い感謝します。一応気を付けては、みます」

ヨーコにしては珍しく目を泳がしながら善処すると言葉を濁す。
その意味がわかるシンイチもそれ以上は何も言わずにその頭を撫でた。

「お前一人に押し付けるんだ。
 人前でないならそれぐらい構わんさ。行ってくれ!」

「はいっ!
 必要などないでしょうが、どうかご武運を」

祈るように呟いてヨーコは肩から飛び降りると夜明け前の森を駆ける。
彼女はそれこそ疾風と呼ぶに相応しい速さで学園へ向かって行った。

「さすがにこういう所での駆けっこは勝てそうにないな」

整地されてない大地も生い茂る木々も彼女には障害物ですらない。
彼と出会う前の300年以上もの間こんな地で過ごしていたのだ。
例えヨーコの知らぬ森林であろうとも彼女の領域同然である。
僅か数秒で魔力で強化した眼でもその背が見えなくなっていた。
それを見送って、さて、と独り呟くとテントの群れを見下ろす。
3クラス分のそれらからそれぞれの気配と寝息を感じる。

「ぎりぎりセーフ、になるのかな?」

不安要素は上げればきりがないが時間内にできることはした。
初日目はまだ騒動の気配がなかったため最低限の自覚を促し、
彼らにとっての極限状態に追い込んで強引に一歩進ませた。
本音をいえばシンイチは残り二日でそれを馴染ませる気だった。
だが何かしらの悪意が蠢いているのを察知した以上そうはいかない。
だから二日目午前は対人戦への慣れと周囲への警戒心を持たせる試験に。
午後はそこから対人集団戦を想定して3クラスを学年やクラスに
関係なく戦力として均等になるよう二つに分けてぶつけ合わせた。
一回戦は敵味方入り乱れ過ぎて収拾がつかなくなってノーゲーム。
二回戦は片方のチームをシンイチの指揮の下で戦わせた。
三回戦はそちらとは逆のチームをシンイチが指揮して戦わせる。
四回戦は補佐役二名がそれぞれのチームを指揮して戦った。
それらを繰り返しながらリョウという特別科(個人)とチームで戦わせもした。
夕方6時ごろになるまで続けた時にはもう全員が初日目夕方の再現。
用意していた食事を早々に終わらせると彼らは倒れるように夢の中。
しかしそのおかげで体力が回復しきっていない生徒はいないだろう。
彼らもシンイチと同じく天井が低く、体力は休めば回復するのだから。

「思い返せば思い返すほど、ひどい詰め込み教育だなぁ……」

たかだが二日間でやる内容ではないと彼自身がそう思う。
何せはっきりいえば、どれだけ後々にまで血肉となるかは怪しいからだ。
鍛練というより『強烈な体験で一時的に脳や肉体に刻み込んだ』が正しい。
これから起こるはずのナニカをまず超える為の文字通りの付け焼刃。
だがそれでも刃は刃である。触れれば切れる。傷をつけられる。
その切れ味が今日一日だけでも保てばいいのだ。

「………………」

事前に出来ることは、行った。はずだ。いや、したのだ。
思考に入った不安を意図的に否定しながら夜明けを迎えた空を眺める。
赤々とした巨大な星がその姿を見せてくるのを彼は無表情で迎えた。
これからは余分な思考が入る余地も必要性もない。やることをやるだけ。

「大丈夫。いまの俺なら朝飯前だろう。何の問題もない」

そう思わず呟いてしまった言葉があまりに抑揚がなく陳腐な代物で
自己暗示にもなりゃしないと肩をすくめて彼はわざとらしく笑った。






────────────────────────────




6月3日の午前7時ごろ。学園校舎三階・普通科職員室。
留守を任されている教員たちは既に出勤し終え朝の挨拶の最中。
ある女性教師も自らの席につく前に又隣の教諭に声をかけていた。

「おはようございますサランド先生。
 やっと、というか、ついに、というべきでしょうか。
 試験が終わりますね。また校舎がにぎやかになります」

「おはようございます。ええ、毎年ながら大変ですが
 今年は再び彼と語り合える楽しみがある分マシですね」

強面で厳しいが授業は分かり易い。
そう評されていた教師もその話題になると破顔して子供のそれのよう。
余計に凶悪な外見に見える事を含めて彼も大変だと苦笑して席につく。

半年に一度行われる総合試験も今日で終わりを迎える。
だがその間、試験に関わってない教員が暇だったわけでは当然ない。
むしろ科を問わず半数近くの教員が試験に掛かり切りになるために
本来全員で分担している通常業務が教科担当の教員たちに集中していた。
授業は無いが結果として事務仕事は増えてしまっていたといえる。
またその後の採点作業まで実技担当教員の人手を期待できない以上、
彼らの業務増加は三日間程度では終わらないうえに授業も再開される。
その準備までを含めればこの三日間は彼らにとっても地獄の日々だった。

「先生って本当に陰謀論(そういったお話)がお好きなんですね。
 中村くん、ちゃんとついていけてますか?」

だからこそ本格的に業務を始める前の雑談ぐらいしか楽しみがない。
今朝はどうやら職員室の常連となっている件の生徒が話題となった。

「ナカムラはああ見えて実に手厳しくてね。
 私はわりと多少辻褄があってなくともなんでも好むが
 彼はあり得る話が好きで矛盾はびしばし指摘してくる。
 しかし語らってると新たな解釈も出てくるので気持ちがいい!」

そういって嬉々とした表情を浮かべられ話題変換をしくじったと悟る。
小難しい(怪しい)単語で様々な陰謀論の薀蓄や彼の見解を語るが耳に残らない。
いくらか理解できたのはその生徒がいくつかの陰謀論を否定して
それが流れた背景にこそこんな陰謀があったのではと主張したとのこと。
シンイチの転入と同時に学園に知れ渡った彼の陰謀論者っぷりは
暗黙の了解的に右から左に聞き流すという対策が取られている。
それでも残るモノは残るのでシンイチが彼の話についていけている。
という事実にその女性教師はもはや苦笑を浮かべるしかない。

「その理解力やらなんやらをどうにか成績に反映させてほしいんですけどね」

助け舟か単純にその問題が気になっているのか。向いの席の教師がこぼす。
その生徒は職員室の常連になってしまうほど授業についていけていない。
尤もそれには仕方がないといえば仕方ない事情があるのだが。

「真面目に頑張ってはいるんですけどね。
 やっぱり中学時代に漂流してすぐに戻ってこれなかったのは痛いです」

基礎が無い為に高等学校水準で進みも速いここの授業についていけない。
それでも学ぼうという意欲があるので一部の教師には好印象を持たれていた。

「………中村くん、大丈夫ですかね。
 試験で大怪我してないといいのですけど」

この女性教師もその一部であるため彼のこの試験への参加には不安があった。
シンイチの成績の悪さは何も学業方面だけではないのだから。
しかしサランドは安心させるように首を振る。

「問題ないですよ。ドゥネージュ先生がいるのです。
 それにもしそうなったらとっくに連絡がありますよ」

そうですねと女性教師は空席となっている隣の机に視線を向ける。
名のある軍人でありながら突然軍をやめて教師となった女性。
そんな来歴や功績で驕るどころか教員相手には基本低姿勢であり、
逆に態度は厳しいものの生徒を第一に考える信頼できる同性の同僚だ。
会話は少ないが隣に座っているだけで彼女の頑張りには気付いている。
少々不器用で影で意気込みが空回りしているのも、だが。

「さて、ではそろそろ今日の分を始めますか。
 あちらの先生たちがすんなり業務に戻れる状態にしておきましょう」

「そうですな。ええっと昨日はどこまで……」

「え、あれ、なんでこんな所に、えっ!?」

サランドが昨日までの進み具合を確認しようとした瞬間。
窓際にいた教員の戸惑いから続く驚きの声が響いて人目を集める。
他の数名もまた何を見たのかと窓の外を見れば全員が驚愕の声をもらす。

「ガードロボじゃないか? なんであんな、にっ!?」

「え、うそ、なによあれ、どうして、え、なんなのあれ!?」

ここで暮らす者には見慣れた四足の白い機体が敷地を埋め尽くす。
一体や二体程度ならまだ誤作動を考えるがその光景は異常だった。

──次から次へと沸いてくる

そんな言葉がまさに正しいといわんばかりに。
まるで都市中のガードロボが集まってきているかのように。
列をなして学園の敷地に侵入し我がもの顔で突き進んでいく。
もはや眼下はその“白”で染め上げられているようだった。

「何の冗談ですかこれは……」

「な、なんであんなたくさんここにっ……」

普通自動車を跨げるほどのサイズの白い機体群がまるで
アリの行列のように学園の敷地を通り過ぎていく(・・・・・・・)
その総数を数字という形で知っていてもそれらが集まった光景は
あまりに常識外で想定外であり、教員たちの思考は停止する。
足先のローラーで滑るように進む機体を呆然と見下ろしてしまう。

「み、みなさん呆けている場合ではありません!」

「あの進行方向は野外フィールドだ。誰かすぐに監督本部に連絡を!
 それと警備部と防衛隊にもです。先生方も集めるべきでしょう。急いで!」

サランド教諭の掛け声にはっとなった教員たちがそれぞれ動き出す。
関係各所に連絡をとり、幾人かがすぐさま職員室から出ようとした。が。

「───あっ、どうしたんですかドゥネージュ先生っ、先生!?
 ダメです、ここの事は伝えられましたがすぐに通信が切れてっ」

「おい、聞こえないのか! 誰か出てくれ!! おい!!
 くそっこっちはコールもかからない。どこにも通じないぞ!」

「うそっ、さっきまで繋がってたのに! ネットにも繋がらない!」

「誰か手を貸してくれ! 扉のロックが解けないんだ!」

「貸してくれって、人の力で開かないようにする為のロックだろうが!」

「な、なんで窓まで開かないの!?」

途端に露見した通信の遮断と職員室に閉じ込められた事実。
一気に穏やかな朝が教員たちの混乱の喧騒に包まれ職員室は騒然とする。
比較的冷静でいられた女性教師とサランド教諭は愕然とした顔を見合わせた。

「サランド先生、これはまさかっ……」

「ええ、間違いない。今ここは攻撃を受けているんでしょう。
 ここの教師としていつかはこんな事態もと覚悟してましたが
 まさかこんなあっさり無力化されるとはっ……」

サランドは耐えるように唇を噛んで野外フィールドに視線を向けた。
校舎の壁は扉や窓に至るまで対スキルを念頭に置いて製作された特別製。
ここにいる教員たちがスキルを使った所で窓ガラス一つ割れる事はない。
外部からの攻撃や生徒の暴走を懸念しての設計が完全に裏目に出た。
慣れ親しんだいつもの職場が一転して自分達を閉じ込める牢獄と化す。
通信や外部の情報を得る手段すら奪われた彼らには出来る事が何もない。
不幸中の幸いはフィールドに異常事態を知らせられた事だけだった。





──────────────────────────────




全てのガードロボがフィールドに突入し終えた頃。
一斉に異常行動を起こしたはずなのに都市部は不思議と静かだった。
まだ大半の者が自宅で出勤等の準備をしていて動き出す前だからだ。
例え外に出ても学園から離れていれば、今朝は警備ロボを見ていない。
学園に近ければ、今朝はよく姿を見るな、と思う程度であろう。
その向かう先をじっくり眺めていれば違う感想もあったろうが、
誰しもがその行き先にまで深く注意を向けることは無かった。
街中でパトカーとすれ違って一瞬どきりとする事があっても、
何の非も持たない者ならその行き先を別段気にしないのと同じだ。
彼らが都市のあちこちを走り回る光景はもはや日常でもあるのだから。
だがガードロボを管轄する警備部。外からの侵入者に神経を尖らす保安部。
治安維持のために常にパトロールしている防衛隊が動かないのは、何故だ。

「見よ! クトリア防衛隊は未だ事態に気付いていない!
 これぞ下等で野蛮な種族と交わったがゆえの脆弱さだ!
 我らがこの過ちを正さねばならない!」

海上都市のいつもの朝をモニターに映してある人物が訴えた。
浅黒い肌で分厚い筋肉の鎧を着込んだかのような偉丈夫だ。
倉庫のようにも見える露出した鉄骨で囲まれた場所で
壇上を模した鉄材の上に立った彼は眼下の者達に声を張る。

「諸君らのガレストを想う気持ちが今日という日を迎えさせた。
 8年に及ぶ短くも長かった雌伏の時は今日終わりを迎える!」

よくぞ待ってくれたと労いの言葉が出て、歓声があがった。
その場にいるのは男女も年齢もバラバラな50名前後の集団。
共通しているのは全員がガレスト軍の制服を着込んでいる事だ。
正確にはそれを模したモノではあるが集った人員の経歴を思えば
あながちコスプレだなどと馬鹿にするには憚られる。

「政府の愚策は我ら生粋のガレスト軍人が裁く!
 いまは反乱軍の汚名を被せられようとも義は我らにある!
 ガーエン少将閣下の旗の下、義勇軍として今の世界に否を唱えるのだ!」

集団から雄叫びがあがる。彼らもまた同じ思想の下に集った者達だ。
地球世界を認められず、地球人を認められず、交流を認められない者達。
彼らはいま最大限にその戦意を高揚させてこの場に立っていた。

「これよりガーエン義勇軍最初の作戦を決行する!
 諸君らアルファチームにはその名誉ある一番槍を命じよう。
 軟弱なクトリア防衛隊に本物の軍人(プロ)というものを教えてやれ!」

軍服に身を包んだ兵士たちが雄叫びを上げる中で彼らに光が注がれる。
分厚い鉄の天井が開いていき、閉ざされていた空間が外気と繋がった。
そして義勇軍兵士たちは一斉に自らの鎧を起動させ、その身に纏う。
ブルーメタリックな装甲と洗練された意匠は学園のそれと雰囲気が違う。
どこか丸みを帯びた印象を持つ学園と違い、刺々しい威圧感を放っていた。
そしてその統一された威圧感を持つ外骨格が隙間なく並ぶ姿は一種壮観だ。

「いまここで我らが起こした火種は小さくとも!
 幾重にもばらまけば大火となって世界に広がることだろう!
 そして互いに知るのだ。彼らと我らは相容れぬと!
 ガレストの英知があればこんな未熟な世界の助力などいらぬ!
 今こそ我らが誇りを二つの世界に見せつけてやるのだ!」


──うおおおおおおおおおおおぉぉぉっっっ!!


これまでで最高潮の雄叫びと共に一糸乱れぬ整った動きで、
義勇軍はその場から飛び立ち、そうして眼下に自分達とは別の青を見る。
彼らには異常で不気味にすら思える巨大な水たまり()がそこにある。

そう、彼らが潜んでいたのはただの倉庫などではない。
光学迷彩とステルスで巧妙にヒトと機械の目を誤魔化していた船舶。
小型のタンカーのような形のそれから蒼の兵士たちは飛び立った。
それを見送った演説者とその後ろに控えていた一人の女性は
先程までが嘘のような静かな面持ちで即座に艦橋へと移動を始めた。

「見事な演説でしたローナン隊長」

付き従う赤髪の女性副官からの─裏のない─称賛を受けた偉丈夫は、
しかしその顔に微妙だといわんばかりの薄い笑みを浮かべてしまう。

「ふ、笑ってしまうな。ほとんど自作自演だというのに」

「いえ士気高揚には必要なことだと考えます」

「そういってくれるといくらか助かる。
 こちらオメガ1、アルファは巣立った。
 そちらもうまくやったかデルタ1?」

隙間ない速度での肯定に頷きながらここではない相手に通信を入れる。
即座にモニターが開いて、青で覆われた全身甲冑の相手が姿を見せた。
アルファチームの外骨格と酷似しているが頭部バイザーは赤黒い。

『こちらデルタ1。
 作戦通り0700(マルナナフタマル)時にレーダー網を乗っ取り通信を遮断した。
 距離があって学園とフィールドの間は手間取ったが誤差の範囲だ。
 アルファの襲撃まで防衛隊は俺達の流す誤情報で異常を察知できない』

予定通りの成果に頷く両名。
秘匿性の高い工作任務中であったため双方の通信は絶っていた。
先程の演説はクトリアに動きがないことを成功と見て行ったものだ。
例え失敗していてもアルファチームの役割は変わらない。
単に隊長の演説内容が変わるだけの話である。しかし。

『……といいたい所だが警邏中の小隊と遭遇しちまった。悪い』

予想外の一言と共に彼はモニターから身体を動かすと背後を見せる。
するとそこには昏倒させられた三人一組の防衛隊員が転がっていた。

「おまえ……」
「デ、デルタ1あなた!!」

表情はメットで見えないがその声色は謝っている人間のそれではない。
せいぜい約束の時間に遅れてやってきた際のぞんざいな謝罪程度。
思わず声を荒げた副官の態度は当然といえるものだろう。
しかしそれでもデルタ1からの返事には真剣さが欠けていた。

『不慮の事態って奴だ副隊長(オメガ2)。それに心配すんな。
 言いつけ通り生け捕りにしたし通信は遮断済みだった、問題ない。
 次の定時連絡の0800にはアルファはもうクトリアに到着済みだよ。
 しかし隊長の予想通りここの練度はそれなりに高い。
 奇襲じゃなきゃうちに勝ち目はないって判断は正しいな』

「何を偉そうに! 話をずらさないでください!」

「……まあ待て」

失態をおかしながらふてぶてしい態度にさらに苛立つ副官を宥めながら、
デルタ1の感想ともいえる報告の後半部分に偉丈夫は内心頷いている。
最初の襲撃を行うアルファチームには脆弱だといったが事実は違う。
あの都市を防衛する戦力は決して侮っていい規模ではないのだ。
交流開始から8年、都市を襲う悪意と戦い続けた実績は伊達ではない。
ある意味、対人に限定すれば本国の部隊より経験値は高いといえる。
だからこそ彼らの作戦や目的には防衛隊との全面衝突はない。

「元よりこちらの求める戦果はクトリアの侵略ではない。
 交流の象徴たるこの都市に分かり易いダメージを与えること。
 どのみちアルファチームは防衛隊を引き付ける囮。
 この程度の誤差は許容範囲だ」

違うか、と言外に目で問われて不承不承ながら副官は口を閉ざした。
それこそが作戦の目的であり自分達のデビュー戦に求められる戦果
ガーエン義勇軍の名を両世界に売り込む大きな宣伝のための攻撃。
尤もその事実を件のアルファと呼ばれる部隊は知らされてない。
一番槍といえば聞こえはいいが奇襲とはいえ損害を受けてない敵軍と
最初に交戦する最も危険な役目だ。組織内で彼らの立場もわかろう。
使い捨ててもいいと思う程ではないが損害を憂うほどでもない。

『納得してもらった所でデルタチームは動くぞ。
 ベータの作戦が完了次第合流して第二フェイズに移行する。
 異世界交流だなんだと浮かれてる地球人たちに喝入れてやるさ』

「羽目を外しすぎるなよ」

『俺達ガレスト人が代々生き残るために積み上げてきたモノで
 仲良く楽しく遊んでる連中に俺達が後れを取るとでも?』

「………忘れるな、この地にはあの剣聖もいるのだぞ。
 彼女にお前の得意技が通用しないのは分かっているだろう?」

どこか窘めるような言葉にメット越しの顔が歪んでいるのが想像できた。
だが反論もできないのか最終的に彼はわかったと助言を受け入れる。

『元・同僚の言葉は重いな。わかったよ、自重はする。以上、オーバー』

声に納得できない感情を乗せたままデルタ1は通信を終了させた。

「デルタ1! くっまた勝手な………よろしいのですか?
 デルタチームは全員、作戦中に遊び過ぎる傾向があります」

好き勝手に行動させては他のチームの行動に支障が出ると彼女はいう。
いや、それ以上の事態にもなりかねないと彼女は上官に強く進言した。

「それに彼らは地球人に対する敵意が他の者より強い。
 相手はあの学園の生徒とはいえ所詮は民間人です。
 過剰な攻撃は世論を反ガレストに傾け過ぎてしまう可能性も」

あくまで自分達の目的は地球との交流断絶によるかつてへの回帰。
地球が欲しいわけでも戦争したいわけでも滅ぼしたいわけでもない。
悪感情による関係悪化は望む所だが行き過ぎて報復行動に出られるのは困る。
それが自分達だけに向けられるならいいがガレストには向けさせたくはない。
しかしデルタの言動はそれを誘発しかねないという懸念が彼女にはあった。

「構わん。あれは元よりかく乱要員だ。
 好き勝手にさせた方がなにかと都合がいい。
 学生を襲って剣聖をひきつけてくれるなら尚更な」

「……そこまで考えておいででしたか。
 確かにドゥネージュ元・中佐は職務には忠実な方でした。
 職業が教師に変わってもあの性質は変わらないでしょう。
 それに遊撃戦力としては彼女はすさまじい脅威ですが、
 指揮官や護衛役となると数段以上劣りますからね」

「そういうことだ」

嫌そうな顔で英雄にまつりあげられた元同僚の性格と力量を彼らは知っていた。
だからこそ生徒達を襲撃すれば見捨てるような真似はしないという確信がある。
彼女なら子供たちを守るために全力で戦うだろうことが容易に想像できた。
そしてそうなれば不得手の防衛戦を余儀なくされ、学園最大の武器は封じられる。
1チーム(デルタ)は犠牲になるが剣聖を抑えられるのならそれは作戦上必要な犠牲だ。

「それよりベータチームはアレをちゃんと持っていったのか?
 胡散臭いとはいえスポンサーからの要請だ。無下にはできんぞ」

「はい、主任務のついでに出来る事ですので作戦には影響ありませんが
 どう調べてもただの木箱でした。言うような効果がある物とは正直……」

思えないと首を振る副官に彼もまた頷く。
どんな思想や理想を持とうとも数多の非合法組織の例にもれず、
彼らガーエン義勇軍もまた資金が潤沢とは言い難い懐事情がある。
そのため利害か思想が一致する資産家や組織と繋がりを持って、
スポンサーとなってもらうのは当然の流れであった。

その中の一つから今回の作戦で使えと妙な装置(木箱)を渡された。
相手方がいうその効果を信用するなら確かに有用なものではあったが、
いくら調べてもそれをもたらす何かしらのシステムが見つからない。
半信半疑どころか与太話にしか思えないが貴重な資金源からの要望だ。
それが余程無茶か作戦の邪魔にならない限り従わざるをえない。

「難しく考えるな。ただのスポンサーのご機嫌取りだ。
 ダメモトという奴だ。それがいやなら……なんだ?
 ゲンカツギ……マジナイ……だったか?
 そんな地球的なものだと思えばいい」

「………隊長、私達は一応地球世界との決別を訴える組織ですが?」

そんなことをいって破顔一笑する上司に彼女は頭を抱えてしまう。
しかしそれに彼はいっそう笑みを深めると声を出して笑った。

「はっはっはっ、何を今更。
 俺達のスポンサーの半分は地球側(・・・)の連中じゃないか」

そうでしたと堅苦しい態度で彼女は前言を撤回することにした。
かつての状態に戻りたいと思う個人ないし組織はどちらにもいる。
ガーエン義勇軍はそういった者達と接触しつつ力を蓄えてきたのだ。

「さて経過を見守るぞ。状況によっては俺達オメガも出る」

「はい、既に皆の準備は完了しております。いつでも出撃可能です」

さすがだと頷きながら彼女を伴って歩みの速さを上げた。
戦場は生き物だ。些細なことでどうにでも変わってしまう。
何年も事前準備をしてきたとはいえ全てが思い通りにはならない。
図らずもそれはデルタチームが警邏小隊と遭遇した事でも明らか。
こんな廊下からではいくらその腕に優秀な兵装端末があっても
解らない事は多い。正確な状況を把握したいと艦橋に急ぐ。

「俺達は8年待った。ガーエンの爺はただの金の亡者だが、
 全てを利用して俺達は本懐を遂げる。ついてきてくれるかシェリー?」

「今更聞くのですか?
 私はどこまでもあなたについていきますよ、ジョイス」

上司と副官ではなく、男と女の顔で二人は頷き合うと隣り合って進む。
すべては“かつて”を取り戻すために。その為なら共に非道に手を染めよう。
こんな血で血を洗う争いを続けている世界との繋がりなど害なだけ。
終わらせなければならないのだとあの演説もそこだけは本意だった。
その決意を胸にこの8年を生きてきた二人にもはや躊躇いなどない。





だが、彼らは知らない。





その先に待っているのがどれほどの邪神(アクマ)であるかを。






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午前8時。これから全てのクラスで最終日の試験が行われようという時。
フィールド内にいる教師や生徒たちに向けてその通信(メッセージ)は届けられた。



『全生徒の諸君。総合監督代理のフリーレ・ドゥネージュだ。
 突然だが最終日である今日は特別に用意した試験を受けてもらう。
 現在、このフィールドに特注のガードロボの大群を送り込んだ。
 君たちにはその進撃をかいくぐってフィールド出入口を目指せ。
 試験官を指揮官とし君たちの集団戦闘と進軍能力を見せてほしい。
 なおこの試験には私の知己である元・軍人たちも多数参加する予定だ。
 加減などするなといってある。手ひどい言葉や攻撃が飛んでくる事だろう。
 遭遇時には適切な判断ができるよう心構えをしておくことをおすすめする。
 また他にも君たちを苦しめる仕掛けを用意しており当然輝獣たちもいる。
 今日一日は油断という言葉を忘れて、この最終テストに挑んでほしい───』






───さあ、特別試験の始まりだ
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