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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

試験編 第一章「テストは利用するもの」

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04-21 試験二日目開始




多くの生徒が夜を通して起きた事件を知らないまま。
野外フィールドではあちこちで試験二日目の朝を迎えていた。
その一つの1-D試験領域。初日でBランク輝獣と戦わされた場所で
彼らは昨日のこともあり緊張した様子を見せているもきちんと整列していた。
その1ーDの前にはアマリリスを肩に乗せた試験官が腕を組んで立つ。
今日はどんな難題を吹っかけてくるのか。そういう不安も当然あったが、
それ以上に彼らの目は自分達の隣で整列させられている集団に向いていた。

「おはよう、昨夜はよく眠れたか?」

「え、ええ、まあ……」

明確で無視できない疑問のためか1-Dは気もそぞろな返事をした。
途端、彼の脚が置かれていた岩の大地に稲妻のような罅が入った。
そして抑揚のない声で試験官は言い直しを淡々と求める。

「返事はもっと明確に、大きな声で言え」

「よ、よく眠れました!」

「ぐっすりです!」

「昨日の疲れはありません!」

1-Dはそういわなければ不味いと本能的に察して口々に答える。
実際は確かに疲れから寝つきは良かったものの不慣れな環境のために
快眠が出来たか出来なかったかでいえばかなりの否であった。

「あ、あの、それで試験官。質問よろしいでしょうですか!?」

「緊張しすぎだろ………いいから言え」

語尾が微妙に怪しいことに呆れながら頷く。
話題を変えるために思わず疑問を口にした生徒は後には戻れないと
なぜか勇気を振り絞るような気持ちで質問をぶつけるしかなかった。
明らかに試験官─シンイチのクスリが効き過ぎた結果である。

「な、なんで2年生のC・Dクラスの人がここにいるのでしょうか?」

若干上ずった声ながら指差した隣の集団は彼らからすれば上級生。
同じ下位クラスとはいえ1年と2年では得ている情報と経験が違う。
いずれ届くかもしれないが今はまだ遠い。それが彼らの間にある差。
間違っても一緒に試験を受けられる成績では決してない。が。

「そちらの試験で問題が起きて担当試験官が外れる事になった。
 そのため二日目からは余裕のある1-Dと合同での試験を行う。
 ようにとフリーレ先生から要請があったので受けた」

あっさりとそのあり得ないことを当然のようにシンイチは肯定してしまう。
1-Dの大多数の生徒は今度はこれかと半ば諦めの顔で肩を落としている。

「お、おいっ! ふざけんな! なんで俺たちが1年坊主どもと!」

「そうよ、そうよ! 1年と一緒にテストだなんてふざけてるわ!」

「だいいち最下位のお前が試験官なんて……」

しかしそれは当然初日目の彼の振る舞いを知る1-Dだけの話である。
昨夜の出来事を記憶していない彼らが素直に納得できるわけがない。
だが記憶というものは何も脳に刻まれるだけではないのだ。

「どんぐり風情が………なにか文句でもあるのかな?」

僅かに毒を吐きながらもにっこりとした笑みをシンイチは浮かべる。
それは昨夜彼らを叩きのめした時に浮かべたそれに非常に似ていた。

「うっ、な、なんだ?」

「あ、あいつに逆らっちゃいけないような?」

「逆らったら終わると何かが訴えてくる!」

「え、笑顔見ただけで寒気が!?」

どうやら記憶こそないものの無意識下レベルで刷り込まれたようだ。
コイツに逆らってはいけない、と。脳にではなくその肉体の方に。

「なに心配することはない。
 1年生向きの簡単なテストだ。
 お前等には楽な話だろう。なあ、みんな?」

「お、おう! そうだな!」

「え、ええ一緒にやりましょう先輩方!」

「きっと、ええきっと皆さんなら簡単ですよ!」

1-Dに声を投げかければ引きつった顔で全員が同意を示した。
誰が見ても明らかに本心のソレではないと解ってしまう表情だ。
むしろどうせなら巻き込んでやろうという意思が透けて見える。
彼らも察したが拒否ができず全員「分かりました」と口にした。

「………あんた、この子らに何したわけ?」

「イジメ・カッコワルイ、って言葉知ってるか?」

だがシンイチの両隣に立つ少年少女はその様子に胡乱な眼を彼に向ける。
傍から見ればどう考えてもこの3クラスを脅しているようにしか見えない。
それもあってか少女は半歩、少年に至っては三歩以上距離をとられている。
事実、脅しているも同然なので間違ってはいない。

「えっと、ナカムラ試験官。そのふたりもどうしてここに?」

質問が続けられそうな流れとなった事で1-Dクラス委員が手を挙げた。

「さすがに3クラス分となると手が足りないので補佐役をもらった。
 2-Aからシングウジ・リョウと2-Bからトモエ・サーフィナだ」

「そうですか………え、サーフィナ?」

一回は納得した顔をしたがすぐに彼らは訝しげな視線を彼女に集中させた。
リョウは日本人トップの成績の持ち主あるためその立場に説得力がある。
だが入院で不名誉に名が売れた事でその順位も知れ渡った彼女は違う。
ましてや2-C生徒にとっては蹴落とせば上に行ける相手でもある。
知らないわけがなく、またそれゆえに試験官補佐は不自然に見えた。

「なによ! あたしが補佐役なのになにか文句あるわけ!?
 きちんとドゥネージュ先生から要請あったんだから!」

文句があるならそっちに言いなさいと吠えて全員を睨みつける。
整ってはいるが刺々しさも感じさせる異国然とした相貌から
鋭く射抜くような青い視線を向けられて彼らは思わず委縮した。

「まあ、そういうわけだ。
 別に納得しなくてもいいが、文句は受け付けん。
 分かったといった以上どんな状況でもやってもらう」

彼女の前に立って視線の間に入り込むと彼はそう宣言する。
表情には笑みも威圧感もない淡々としたものだがそれゆえに怖い。
当たり前の顔で、当たり前とは違うことを要求されないかと。

「……それで、今日の試験内容は?」

しかしそれを聞かなくては徒に時間が過ぎていくだけ。
どうせ厄介な試験になるのなら時間だけでも確保しておきたい。
そんな考えから1-Dの誰かがそれを促すように質問を投げかけた。

「今日の午前中は2-C、Dは三人一組を作って結晶を集めろ。
 輝獣を倒す以外での収集と他チームとの協力は禁止事項だ。
 武装制限は設けないがプロテクターの使用も禁止とする。
 目標数は1チーム25個。ただし最低サイズは3センチ以上。
 時間制限は今から午前が終わるまでの約4時間だ」

「わ、わかった」

「異論はない」

昨日1-Dに与えられたそれよりも細かい上に難易度が高いが、
伊達に先に1年分の授業と経験を得ている生徒達ではない。
それぐらいならこのDランクエリアでなら問題ないといえた。
尤もそれは1-Dに対する試験内容を聞くまでだったが。

「俺たちは?」

「それを奪え」

「は?」

「だからこいつらが集めてる結晶をどんな手段を使ってもいいから奪え。
 お前たちの方が立場でも人数でも劣ってるからやり方に制限は設けない。
 30人全員で1チームを襲うことも許可する」

「なっ!?」

「えええっ!?」

「そんなのアリ!?」

その内容に1年も2年も驚きを隠せずに思わず叫んでいた。
この試験で対決するのは輝獣であり対人戦はあまり行われない。
下位クラスは特にそれよりも輝獣戦を経験させる事が多いからだ。
しかも指示されたのは直接的な対決ではなく結晶の強奪である。
また2年生組も30人で一気に襲い掛かられては一溜まりもない。
ハンデはあるべきだが“なんでもあり”はあまりに大きなハンデだ。

「そういう内容だから結晶をフォスタにしまうのは禁止。
 2年生組は1-Dを警戒しながら輝獣狩りと結晶集めを行え」

だが既に彼自身が述べた通り文句を受け付ける気はなく、
淡々とルールと内容を語って不満や疑問の声には一瞥もしない。

「……みんなの声、本当に聞く気ないのね」

「転入初日からこっち全くブレないな、こいつ」

呆れをみせる補佐役二名だが彼らに助け船を出す気はなかった。
本気で順位やクラスを上げる気ならそれぐらいやれる必要がある。
ギリギリとはいえ今日までBクラスであり続けたトモエと
入学してから常にAクラスであり続けているリョウだ。
そこに居続ける苦労を体験として理解していた。

「最後にそれぞれの合格点をはっきりさせておこう。
 2年生は正午までに結晶をチームで25個集めてここに戻る。
 俺に提出できた数で採点するから集めれば集めた分だけ加点するぞ。
 ただし奪われた結晶を奪い返すのは禁止だ。減点行為とする。
 しかし1-Dに結晶を奪われてもそれは採点には影響しない」

「え?」

合格点や採点基準に疑問は出なかったが最後の一言に首を傾げる。
争うことを試験内容にしておいてその攻防を採点しない不自然さ。
つまりは奪われる事のデメリットと防衛するメリットが少ない。
無論、結晶数という合格点に関わるので守り切るに越した事はない。
それでも何人かがおかしいと疑問を抱くが彼は気にもせず続けた。

「1ーDは2年生から結晶を奪え。合格点はクラスでサイズ問わず80個。
 自分達で輝獣から集めようなんて思うなよ。しっかり監視してるからな」

わかったな、と指を差しながら確認すれば1-D全員が大きく頷く。
何度も首を縦に振る仕草に昨日を知らない2年生組は冷や汗が流れる。
“こいつ、なにやったんだ”と。

「そしてまず2年生組が先に、その15分後に1-Dがスタートだ」

では試験開始。
その宣言と共に指示された領域に慌てて入る2-C・Dクラス。
15分後に1-Dは彼らを追うようにしてそこへ向かっていった。

「……1-Dの子ら作戦会議して入っていったわね。
 歴代最低のDクラス、なんて話聞いてたけど案外まともじゃない」

待ち時間を有効活用したことにトモエは意外そうにしつつ感心する。
クラスを3チームに、そこからさらに警戒役・偵察役・実行役に分けて
自分たちが輝獣と遭遇する事も考えながら細かい打ち合わせをしていた。

「何も考えずに行動すると不味いのは昨日でわかっただろうしな」

数の利を活かせなかった初戦。食料確保の失念。結晶確保後の襲撃。
少し頭を働かせれば気付けた事に気付けなかった昨日を思えば、
当然といえば当然の事前準備といえた。単純にこの試験官の場合、
それだけでは終わらないという懸念があったからかもしれないが。

「で、オレたちはどうすればいいんだよ試験官殿。
 さっさと指示らしい指示をしてほしいんだけど?」

「ちょっとリョウ!」

少し険のある声と視線を向けた彼を咎めるトモエだが相手にされない。
毛を逆立てて威嚇する肩のキツネをシンイチは苦笑しつつなだめる。

「確かに、オレは……試験官を襲って、そのあとの記憶がない。
 本当なら問答無用で失格の所を挽回のチャンスが与えられた。
 それはいいさ。感謝するさ、ドゥネージュ先生にはさ。
 それがどうしてお前の補佐役ということになるんだ」

納得がいかないと鋭く睨む彼とシンイチとの距離は信用の無さか遠い。
彼らのことはフリーレとの話の中ではそういう扱いになっていた。
事情不明ながらも試験領域からの逃亡あるいは試験官への暴行。
完全に記憶が残るトモエとそこまでは覚えていた彼に弁明はない。
したくとも自分の身に起こったことが不可解すぎて出来ないのだ。
それでも与えられた機会だ。Dクラスの試験官(シンイチ)の補佐でなければ
この少年もここまで刺々しい態度をとることはなかったろう。
そしてトモエも昨夜の事を覚えてなければ気持ちは分からなくはない。
むしろ彼女はシンイチがDクラスであったことに納得がいっていない。
どちらも今日までの死にもの狂いの日々を方向は違うが否定された気分だった。

「納得しなくても文句は受け付けん、とさっき言ったはずだが?」

それを知ってか知らずか。
絶対に前者であろうに挑発染みた言葉を返してリョウを煽る。

「おまえっ」

苛立ちから彼を睨みつけるが意に介した風もなく肩の彼女を撫でる。
血の気が多い幼馴染が爆発寸前なのを感じ取ったトモエだが、
彼女が何かする前にシンイチの方が先に動いた(・・・)

「シングウジ、俺が気に食わないのは構わんさ。
 でもならどうしてお前……そんなに俺から距離をとっている?」

「っ!?」

どこか嘲笑うかのような笑みを浮かべた途端、彼の足が大地を蹴った。
岩の大地に足形の窪みが生まれ、彼はシンイチを一瞬見失いかける。
だが一直線に飛びかかってくる姿と左手にあるソードの刃が見えた。

「このっ!」

フォトンの大剣を取り出しその幅広な剣を盾のように構える。
視認できた速さを前にして、それがリョウの精一杯の反応だった。
しかしシンイチは構わずに一般のそれより短いソードの刃を突き立てる。
そしてフォトンの長大な刃をフォトンの短剣がいとも簡単に(・・・・・・)貫いた。

「なっ!?」

顔を庇っていた位置を突き抜け眼前に迫った刃に驚愕の声がもれる。
フォスタのソードとこの大光剣とでは必要なフォトン量が天地ほど違う。
この現象はペーパーナイフが分厚い鉄板を貫いたのと同義といえた。
彼とそしてそれを目撃しているトモエの衝撃はいかほどか。

「速さはそこそこ良いんだが、なっ!」

その衝撃に固まる彼らの前でさらなる“あり得ない”事が起こる。
長大な剣身を貫いていた短剣をシンイチはそこからさらに振り下ろす。
エネルギーで構成された光刃といえど半実体化した存在である。
その()の半ば以上を斬られて元の状態を保ってはいられない。
ふたりの見ている前でその剣身は根元から事実上斬り落とされた。

「…………」

リョウは何故か呆然とその落ちていく剣身を眺めてしまう。
これまで頼りにしてきたナニカが音を立てて崩れるような錯覚に陥る。
ガレストで得た力が、でもその武装が、でもなくもっと根本的なナニカが。

「意識を余所に向けるな、たわけ!」

岩の大地に沈んだ元・大剣はフォトン供給源から別たれた為に霧散した。
その視界に再びフォトンの短剣(ソード)が突きつけられ彼は大きく息を呑む。

「っ!」

「………いい目だ。ちゃんと武器に怯えている」

その顔を穏やか表情で眺めた彼は文面とは裏腹に褒めるように評した。
意味が解らず呆気にとられるリョウを尻目に彼女は疑いの眼差しを向ける。

「あんた………本当になんでDクラスなのよ?」

一晩経って“気付いた”もののトモエはその疑問を解決できない。
彼は外骨格を装着した特別科生徒から逃げ続けた。荷物(トモエ)を持ったまま。
ありていにいえばその身体能力は最低でも相手と同格でなければならない。
生身の、それも学園の底辺に存在しているDクラスの1年生が、だ。
警戒してある程度距離を取ってしまうのは当然だろう。
例えそんな距離が無意味だと見せつけられたとしても。
そんな彼女にしかしシンイチは得意げに微笑む。

「そりゃステータスがオールDだからな」

自分はそんな程度の者だと、もう戯言にしか聞こえない発言と共に。
確かにステータスはどう調べても彼の言うとおりのランクであった。
霊力に至っては人が当たり前に持つ僅かなそれしか感知できない。
彼女が知るありとあらゆる異能の力のどれもその気配を感じない。
それなのに昨夜のようなことを涼しい顔で出来てしまう異常。
ガレストと異能の常識を知る彼女でもそれは容易に受け入れられない。

「そんなのなんかインチキでしょ!」

「俺のあれをインチキで済ます辺り大物のような気もするが………
 あんな無茶苦茶な刀やら霊力を受け継いでる連中にいわれてもなぁ」

そのあちらでもこちらでも異常な能力を警戒しつつも、
インチキと評してしまうトモエに彼と肩の彼女は微笑を浮かべる。
とはいえシンイチからすればお前らがそれをいうか。という気分でもある。

「こっちはインチキじゃないわよ!」

「わかってるよ………だからちょっと憂鬱だよこっちは」

「キュ?」

霊力の実在だけでも認め難いというのに実在する霊剣など。
岩の大地に振り下ろしても刃毀れもしない規格外な強度と切れ味。
その上増幅した霊力を斬撃として飛ばすなど漫画の中の武器だ。
現実に─この世界(チキュウ)に─そんな幻想めいた力や武器があることに、
これでも彼は眩暈を覚えるぐらいの大きな衝撃を受けている。
単にあちらを知った後なので耐性ができているだけだ。

「……そういうのが無い世界だと思ってたんだがなぁ」

あるいは、故郷はそういうものであって欲しかったのか。
どっちなのだろうなと自嘲するようにシンイチは笑う。

「本当に世界に好かれないな俺は」

力無くそう零しながら愚痴をこぼす。
ただの被害妄想だと自覚はしているがそういいたくもなる。
ファランディアに慣れてきた頃に居続けられない事情を知り、
決死の想いで帰ってきてみれば世界や家族は様変わりしていて、
そして今更この世界にも元々こんな力がありましたときたのだ。

「地味な嫌がらせじゃねえか、そんな力があるなんて」

次元漂流(神隠し)対策ぐらいしとけよ。
そういうのはそういった力の領分だろうがと文句がわく。
言ってもしょうがないがクレームの一つも言いたいシンイチだ。

「いきなり使いこなした奴がなにをいってるのよ!?
 あたしの10年に及ぶ修行の日々を返しなさい!!」

尤もそれは初見で猿真似されてしまったトモエとて同じである。
彼の意味深な発言は理解できていないが自分が必死に学んだそれを
否定的にとらえているように聞こえたのもあって睨んでいた。
そのために先程までの警戒心は露と消えている事に気付かないまま。

「やっぱり……昨日のはお前だったのか」

ただひとり吠えて詰め寄っていたトモエを彼の目は映していない。
確信を込めたその呟きはシンイチをどこか恐れるように見ているのだから。

「え?」

「記憶がない、ってのはやっぱり嘘だったか」

「え!?」

「……ぼんやりとだが自分がやったことは覚えてる。夢だと、思いたかった」

「ええ!?」

「キュ~」

ふたりの少年の間でその言葉にいちいち反応するトモエ。
それを内心とはいえ面白がっているのはシンイチだけだ。
肩の彼女は“またおもちゃを見つけたよこの主”と横目で溜息。
しかし会話のもう一方は彼女を気にする余裕がまるでなかった。

「なあ、どうしていきなり霊力を使えたんだ? あの速さはなんだ?
 それにどうやればあんな短剣でオレの大剣を斬れるんだよ!?」

矢継ぎ早に彼はその当然といえば当然で、どこかずれた質問をする。
それに気付きながらもシンイチはあっさりと隠す気もなく答えた。
覚えている彼にはもうその程度の情報は隠す意味もないと。

「フォトンを含めてああいう魔力(エネルギー)の扱いは慣れててね。
 それに少ない、小さい、という改善できない短所があるなら
 圧縮して硬さや一点の破壊力を追及すればいいだけだよ」

「……どういうこと?」

問い返したのはトモエだがリョウもまた理解しきれていない顔だった。
その辺りは生まれ持った力の総量が優れている者の弊害といえよう。
足りなくなった経験がないため節約や効率、運用を深く考えない。
あくまで凡人以下な彼と比べて、なので比較対象として低すぎるが。

「…………」

内心僅かな僻みの感情を持ちながら平静そのものな顔でシンイチは続けた。

「あの一瞬であの長さの大剣を形成できたのは見事だったが、
 咄嗟過ぎて刀身全体のエネルギー量はまだまだ足りなかった。
 そこに小さくとも必要以上のフォトンで構成した刃をぶつければ」

「お、大きさや全体の量は関係がなくなる……」

いったいどうなるのか。
そう言いたげな彼に愕然とした顔でリョウは呟くように答えた。
どれだけ多量であろうとも長大にした刃の、しかも完成前の状態だ。
量で及ばずとも通常以上を一点に集中した刃が勝るのは当然の話。
誰もが教えず、誰もが気付かず、そして少し考えれば解る道理。
ただどうしようもなくガレスト流に無い考え方なだけだ。
何せこれは弱者の工夫の話なのだから。

「そんな単純な理屈が……ああでも実際できたんだし。
 ったく、何が猿真似よ。そんなやり方思いつけるくせに!」

言われるまで気付かなかった自分達に愕然としつつも彼女は
修行の末に身に着けた力をあっさり真似された悔しさもあり
恨みがましい視線を向けたがシンイチは軽く肩をすくめるだけ。

「真似だよ、俺のアイディアじゃねえし前例は山のようにある」

あくまでファランディアには、だが当然彼はそれを口にしない。
どこか釈然としない所も感じた彼らだがそれ以上をシンイチは語らない。
昨夜、彼が見せた実力を認識してしまった二人は深く踏み込めなかった。

「………まあ、いいわ。
 けどリョウも覚えてたんだ。だからこいつを警戒してたわけね」

「…………普通するだろ。
 霊力のおかげとはいえ生身で外骨格のオレを撃退したんだぞ?」

彼女も幼馴染の様子が少しおかしいのは気付いていたし、
その事実は今の時代を生きる者には無視できる出来事ではない。
しかしそう語るリョウの目はなぜか彼女の姿をとらえていない。

「俺についてはそうだろうが、怯えているのはそれだけか?」

「なにが、いいたい?」

目聡くそれに気付いた。という以上に彼にはその感情がよくわかる。
なにせシンイチにとってその経験はもはや忘れ去れるものではない。
またそれを考えればトモエの警戒の意味も少し変わる。何せ。

「自分がやったことはぼんやり覚えているんだろ、なら。
 当然わかっているはずだ………お前は、俺達を殺しかけたんだ」

「っ!」

「ちょっとそんな言い方!?」

「事実だろう。そしてそれはお前にも当てはまる。
 あの時なにかが違っていれば死者が出てもおかしくはなかった。
 それを誰よりも実感しているのは他ならぬお前らのほうだろう?」

「それ、は……」

「…………」

撃った者。撃たれた者。それが事実であるために彼らは反論できない。
殺しかねない攻撃をした。殺されかねない攻撃を向けられた。
とくにトモエはどちらにもなったゆえに顔を青くしている。
あれは偶然(・・)相手が彼であったから双方無事で済んだのだと。
それを無意識に目から反らしていた。という事実に気付いて愕然とする。

「自分の意志じゃなかった。体がいうこときかなかった。
 案外、そういうのって免罪符としては役に立たない(・・・・・・)

「「っ!」」

そしてその動揺の隙をさらに突くように的確な言葉が突き刺さる。
対外的にはそれは充分免罪符になる。そういって慰めてもらえる状況だ。
だが本人たちにとってはそうではない。何せ、記憶しているのだから。
制御できない体でもその感触は記憶に残ってしまっている。
自身の意志でなくとも傷つけた相手や襲われ怯えた顔も覚えている。
心でいくら悲鳴をあげても破壊がもたらされたのを忘れられない。
自分の手で、手にした武器で、必死に磨き上げてきた力で。
その恐怖と絶望はその程度の免罪符では消えてはくれないのだ。

「ちょっと自覚が足りなかったんじゃないか?
 今日という日まで霊力にしろガレスト武装にしろ。
 散々使ってきておいて、ソレが人を殺しうるものだってことをさ」

淡々とした口調なれどその声に混ざる責める色合いは濃い。
そのあまりにも正し過ぎる指摘は彼─リョウの一番脆い所に触れていた。

「っ、ああそうさ!! お前の言う通りだよ!
 あんだけ偉そうに武器を振り回しておいて!
 そんなことカケラも考えてなかったよ!
 いつかはあの野郎をぶっ殺してやろうと思ってたのに!」

「………リョウ」

一気に沸き上った言葉は彼の正直な気持ちだった。
強くなりたかった。超えたい。どうしても倒したい相手がいたから。
だからガレストに漂流しても残って少しでも実戦経験を得ようとした。
それでも得られない知識や対外的な立場を得ようと学園にも入った。
今では日本人のトップランカー。しかしそれは所詮学園内の順位でしかない。
彼の目的にはまだ、まだまだ、地平線の彼方のように遠い。まるで届いてない。
そんな自分がこんな無様をさらし人に武器を向けただけでこんな有様。

「それでいざこうなったら情けなく怯えてんだ!
 殺しかけた相手を満足に見ることもできねえほど怖ぇ!
 あれが夢じゃなかったって解って今更膝が震えてきたさ!
 笑いたきゃ笑えよ、甘いってさ。本当に戦う気あるのかって!」

目標しか見ていなかった彼は自分が他者を容易に傷つけられるものだと、
そんな力をとっくに手にしてしまっていたことに昨日まで気付けなかった。
そして気付いた途端、今まで見ていたモノが一気に怖くなってしまう。
競争相手ですらなかった下位の生徒たち。装備が劣る相手。
これまで蹂躙するだけだった人を殺せる能力を持つ輝獣たち。
今日までその殺傷力を知らずに振り回していたすべての武器。
今日まで持ち前の耐久力で避ける事も考えなかった相手の武器。
自分の目標は、その周囲はこの恐怖を越えた者達なのか。
一欠けらも感じない者達なのか。ならば自分はもう無理なのか。
あんなに強く決意したことがそんなことで揺らいでいる。

「馬鹿か。その当たり前を笑う奴がいたら俺が始末してやる」

「は?」

その情けなさに嘆くよりも怒りが沸いていた彼に届く強い否定。
言葉は乱暴でもそれが正しいのだという甘さと温かさがそこにあった。

「その当然を露ほども感じないような奴なら
 とっくに両手足を粉々に粉砕してトラウマほじくりかえして
 一生ベッドの上でしか生きられないようにしていたよ」

「……………………え?」

次に出た言葉には正真正銘“恐ろしさ”しか感じなかったが。
なんでもないことのように表情を変えずに口にされたため余計に。

「あんたそれ……リョウを慰めてんの? 脅してんの?」

「両方だ、ふふっ」

「ひっっ!?
 ね、ねえっ、せめてその凶悪な笑みを浮かべていうのやめて!
 あんた普通の顔してるから余計にギャップがあって怖いのよ!!」

一見して凡庸。どこにでもいそうなという表現が似合う顔つき。
それが地獄の鬼たちですら裸足で逃げ出しそうな笑みを浮かべるのだ。
醜悪でおどろおどろしい外見の輝獣(バケモノ)を見慣れた彼らでも震えた。

「あははっ、よく言われる!」

実際は面と向かって言われたのは初めてでどこか嬉しそうに笑う。
しかし一転して普通に笑われてしまった彼らは戸惑うだけだが。

「まあ、俺の事は置いとくとしてお前らの話だ。
 怖くとも、それでも戦いの道を進むっていうのなら。
 次の一歩目ぐらいは教えてやるよ、強くなるためのな」

どうせ授業や自力だと行き詰ってんだろお前等。
そう問われれば否定することはできず、またここで降りられるほど
彼らが抱えている事情と決意は少なくとも本人には重たいものだ。

「……あたしはやるわよ」

「トモエ……」

「理由は知ってるでしょ。あたしはまだ止まれない。
 それにあんな無様さらして、逃げるなんて我慢できない!」

「………フンッ、そんなのオレだって一緒だ。
 教えろよ、試験官殿。期待してねえが次の一歩目って奴をさ」

意図せず命を傷つける手前までのことをしてしまった恐怖。
それを彼らは拭い去れたわけではない。ただ言葉通り止まれない。
生来の負けん気もあってふたりはその怯えと怖さを抱えたまま、
されどようやくシンイチの顔をまともに正視してきた。
それが自分達の決意なのだと真っ直ぐに。

「わかったよ…………まあ、でもどっちにしろ……」

「なによ?」

「なんだ?」

軽く頷きながらも両者に意味ありげな視線を送って、口許だけで笑う。
ふたりがあまりにも根本的な事実を忘れているのがおかしくて。

「点数が欲しけりゃ俺の言う事きくしかないんだけどな、補佐役殿?」

「キュキュキュ」

試験中の逃走。試験官への暴行。それらを犯したふたりには
もうその役目を全うするしか合格点をもらう方法がない。
クラス落ちギリギリのトモエにはもうこれだけが頼みの綱。
成績に余裕のあるリョウとて不名誉な形での順位落ちは免れたい。
さもありなん。彼らがどう思おうがこれからも学園で過ごす以上、
この場でシンイチに逆らう選択肢というものはほぼ存在しない。

「あ、あんたから聞いておいてそれをいう!?」

「お前、性格悪すぎるだろ! ついでに肩のキツネも!」

主従揃ってニタニタと笑う姿に憤慨して声を荒げるも意に介されない。
そしてそのまま彼らに背を向けて鼻歌でも歌い出しそうな足取りで進む。
いくら文句を口にしても受け取ってもらえなくては不毛なだけ。
そんな態度に憤りはあったが結局ふたりは彼を追う道しかなかった。

「……難儀だねぇ」

その苛立ち交じりの足音を背にくすりと笑うのはシンイチだ。
彼らの反応が面白いのではない。そのあり方に難儀さを感じただけ。
あの免罪符で自分は悪くないと開き直れれば楽だろうにと首を振る。
世の中にはその逃げ道がどうしても使えない人間がいるのだ。
あるいはそれでは楽になれないと自覚している種類の人間が。

「主様もお人が悪い。
 ああいうバカで不器用な子たち、お好きでしょうに」

「どうだったかな?」

とぼける主の姿に彼女もまた笑う。我が主はこれでこそだと朗らかに。
からかい、かき回し、怒らせておいて楽しそうに笑う彼に“らしさ”を覚える。
だから──ああそうだといきなり振り返った彼に笑みが止まらなかったらしい。

「ところでお前ら、千本ノックとか得意?」

「「は?」」

ほら。
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