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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

波紋編 第一章「転入初日」

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03-02 恐ろしいのは認識の違い



 狐耳の少女の後ろを追う形で校舎に入ったシンイチと狐一匹。
飾り気のない簡素な造りながら重厚さのある壁に包まれた廊下を歩く。
窓や各教室などへの扉もあるが無駄はかなり省かれている設計と意匠。
そこで校門前で待っていた時から覚えていた違和感の正体を知った。

「なあヒナ。俺の記憶違いでなきゃ今日は確か日曜のはずだよな?」

「うん、今日は日曜だけど、どうしたの?」

慣れた様子で廊下をスキップするように進むミューヒに続きながら、
同じデザインの制服を身に纏う生徒たちの波をかき分けて進む。
ひとり黒い一般的な学生服のシンイチはとてつもなく目立っていた。

「生徒多くね?」

その周囲からの奇異な視線を彼は無視して彼女にだけ問う。
休日にしてはあまりに校内に人の気配があり過ぎると。

「え、ああそっか普通の学校は日曜に授業ないんだったね」

「…………あるんだ。授業」

久しぶりのカルチャーショックに思わず苦笑いする。
詰め込みだろうとゆとりだろうと日曜は変わらず休日だったというのに。
どうやらこの学園ではそういう考えはないのだと知って愕然とする。

「そういうことだナカムラ・シンイチ。
 お前が知る日本の学校と同じだと思うと痛い目を見るぞ」

苦笑するシンイチとそれを見て微笑むミューヒの前に立つ人影。
強くよく通る声は子供のそれではなく大人で、女性のそれだった。

「あ、フドゥネ先生!」

「フリーレ・ドゥネージュだルオーナ!
 妙なニックネームで呼ぶなとあれほど言ってるだろう!」

やぼったい灰色のジャージ姿で先生と呼ばれた白髪の妙齢の女性は
手にしている刃が潰されたブレードを苛立ちそのまま床に突き立てる。
一昔前の風紀指導教員が竹刀片手にやってた事のガレスト版のようだった。
もとが本物の武器である点とそれをやった彼女の迫力が合わさって
周囲の生徒たちが慄く中、ミューヒとシンイチだけが意に介さない。
少女は変わらず笑うだけで少年はどこか哀れむような視線を送る。
自分だけじゃなかったんだと同士を見つけたような心持で。

「………」

その反応につり上がった金の眼で訝しげに睨みつけるが二人の反応は変わらない。
少女はともかく少年のその態度が奇異に映っていることを彼自身が気付かない。

「…………まあいい。
 しかし遅いぞルオーナ、おかげで色々と説明する時間がなくなった。
 次の授業が始まる前に教室に案内するからついてこいナカムラ」

「はい……歩きながら質問いいですかドゥネージュ先生?」

「……そうだな。ここは一般とはだいぶ違うからな。
 教室までなら出来る限り聞こう……それで?」

わずかに視線だけを一度肩越しに振り向かせながらも促す。
同時に鋭い眼光が何かを探るように彼に注がれるが、
そこにあるのは少し不思議なものを見る困惑だけで観察の意図は感じない。
すごく正直な視線をしているとシンイチは内心で微笑みながら続ける。

「日曜でも授業やってると聞いたけど、なんで……でしょうか?
 ガレストには週休的な考えはないってことか……ですか?」

妙に間を開けて語尾をつけてしまうシンイチ。
いくら翻訳機があるといってもそれはその傾向を機械が受け取れれば、だ。
全く敬語になっていない言葉をガレスト語の敬語に翻訳したりはしない。
ファランディアに行ってから誰かに敬語を使ったことが無かったせいか。
彼の言葉は詰まってしまう。後付で強引に敬語にするしかなかった。

「いや、ある。だがこの学園では教えることが多いために、
 これまでのやり方だと授業日数が圧倒的に足りないのだ」

翻訳がうまくいっているのか気にした風もなく説明するフリーレ。
視線はもう前を向いていて、淡々と話す言葉をシンイチは聞きながら後に続く。

「ガレストの歴史から言語、技術、武装、戦い方まで教えて、
 そのうえきちんとこの世界の基本五教科も教えているからな。
 だが詰め込み過ぎも問題だからと日曜は午前だけとなっている」

自然と見ることになった彼女の背には結ばれた長髪が揺れる。
首元で雑にゴム紐で結ばれただけの白髪(ハクハツ)だが色合いは美しい。
色素が抜けた白髪(シラガ)と違い、元々この色だと一目でわかる輝きだった。
衣服が色気の無さすぎるジャージでなければもっと映えるだろうに。
そんなことを考えつつも話はきちんと聞いているシンイチだ。
相槌をしていないので相手は聞いているかどうか判断しづらいが。

「これについては誰に文句をいっても変わらんから愚痴は聞かんぞ」

「いえそういう事情ならむしろ当然なので文句はない……です」

「は? ああ、そうか。ならいい」

他の新入生と同じようにいわれると思って先に釘を刺したフリーレだが、
物わかりが良すぎて肩透かしを食らってしまい、調子が崩れる。
その戸惑いに気付かずに彼はすぐに次の質問を投げた。

「あと、迎えに来てくれたってことは先生が担任な……のでしょうか?」

「いや、私は君のクラスの副担任だ。
 基本的にクラスごとに教科担当と実技担当の担任、副担任がつく。
 君が所属する1-Dの担任は教科担当、主に歴史関連でお世話になる。
 教え方が厳しい人だから今のうちに覚悟を決めておくように」

あとで泣き言いっても特別扱いはしないと続けた。
しかしその物言いに狐耳の少女はおかしそうに笑う。

「それフドゥネ先生が言えた話じゃないよね。
 学園一の鬼教官、冷徹な女教師、凍てついた視線で空気をも凍らす女!」

「………なんか最後のは意味違わないか?」

前者二つは教え方や態度が厳しいという意味だと伝わるが、
最後のはまったく違う意味に聞こえてしまう。おもに空気読めない的な何かに。

「おいブリッ子キツネ娘、グラウンドを100週ぐらい走りたいと聞こえたぞ?」
「ははっ、やだなぁ…………ボクがその程度で疲れるわけないじゃない!」

静かに、されど怒気を含めた声で暗に罰を示すが彼女は笑うだけ。
その程度のことはなんでもないと不敵なそれを。
顔を顰めたフリーレを見ればそれが事実であるのは確か。
そのために笑顔の生徒としかめっ面の教師が睨みあっている。
校内でも有名な光景なのか廊下の生徒達は黙って距離をとっていた。
気持ち彼らの表情はひきつっている。

「仲いいねぇ……あ、そうだ。
 気になってるん……ですけど制服に白衣の子とか。
 ヒナみたいにわざと丈短くしたり大き目のブレザー着たりして
 制服改造してる子とかいますけどああいういいの……ですか?」

「…………」

「…………」

だというのにあっさりと入り込んで自分の質問をぶつける少年。
思わず彼女等はシンイチに唖然とした顔を向けてしまう。
火花散る間に飛びこめる勇者かそうと気付かぬ愚者なのか。
それ以前に自分たちの言い合いになぜノータッチなのか。

「はぁ……この学園は大きく分けて三つの学科があるんだ。
 お前が入る普通科に、より深くガレスト技術を学ぶ技術科。
 そして成績優秀者のみで構成される特別科だ。
 白衣は技術科の制服の一部。制服改造は特別科にのみ許される特権だ」

既に時間がない事もあって不毛な睨みあいをやめて答える。
普通科は特色がないかわりに全体を万遍なく学べる学科。
技術科は完全にガレスト技術だけを習う授業だけとなって、
特別科は特権の多い学科で各々の進みたい分野を好きに学べる。
代わりに成績が落ちると普通科に戻されることもある。

「まあ特権ある分、義務とか責任とかも多いけどね!
 イッチーの案内役もそういうのの一つだし」

「たいていは普通科から入って特別科を目指すものだ。
 お前の事情は聞いているが、お前もそれを目指して勉強してくれ」

「えー」

「……は?」

ほぼ即答に近い形で不満で嫌そうな声が返ってきたのに彼女は心底驚いた。
目指す力量にないのは既に副担任として知っているがこの『えー』には
“そんなの無理”というニュアンスではなく“なんでそんな面倒なことを”
というこの学園で初めて見る妙なやる気の無さが全面に出ていた。
その困惑を彼は失言だと感じて、慌てて言い繕う。

「あ、えーとなんでもないです。ところで!
 先生俺の事情知ってるっぽいけど学園内だと誰まで、
 それと“どこまで”知ってるの……ですか?」

強引な話題転換だったが深く追求する話でもないと流すフリーレ。

「学園長と生徒会、担任、副担任の私たちだけだ。
 すでに注意を受けてるだろうが吹聴するなよ。
 それで目立つとこの学園だとそれこそ面倒なことになる」

実力を示す以外での目立ち方はこの学園ではあまり好まれない。
そうなると騒動の種だと彼女は教師としてよく知っているのだ。

「はい、元より目立ちたくないので」

「はぁ? 目立ちたくない?」

「ははっ、ここに来る生徒の言葉じゃないよねぇ」

それに対するあまりに熱のない返答にフリーレは再び肩透かしを受ける。
ミューヒに至っては妙に嘆いているように見える顔で苦笑している。
なぜそんな顔をされるのか心当たりのないシンイチは慌てて付け足した。

「え、誰だって面倒事は嫌いでしょう?」
「キュキュキュッ」

ふたりが息を合わせて胸中で“そういう話ではない”と反論してる間に、
頭の上のキツネは彼の言葉におかしそうに笑った鳴き声を出した。
半眼になったシンイチは無言で頭を振って、彼女を振り落とすと歩みを進める。

「なっ!?」
「ふえっ!?」
「キュキュキュー!?」

落とされた彼女は慌てて追いかけて体をよじ登ると再び少年の頭の上に戻る。
今度は振り落されるような事は無かったのでホッと息を吐くキツネである。
一方その現場を見た二人はどこにどう反応すればいいのか解らず固まっていた。

人に懐かぬというアマリリスにここまで懐かれていることか。

保護動物を雑に扱うその態度とそれを受けても変わらぬ関係か。

否。二人を本気で慄かせたのは成獣一匹で一軍にも値するというアマリリスの
いくら幼獣とはいえ人間側が上に近い関係を結んでいる常識破りの様子だ。

「なにか?」

「い、いや……あんまりそいつを乱暴に扱うなよ?」

何よりそれを当たり前として受け入れている少年の精神を理解できない。
知らないということはここまで人を豪胆になれるのかと呆れる女教師だ。
その昔、アマリリスの力を知らなかった富豪が毛並の美しさから
幼獣を親元から連れ去ったさい両親の激しい怒りを買い、
富豪の家がある複数の街がそこを防衛する軍ごと全て滅んだという逸話がある。
さらった本人も幼獣の反撃にあって半死半生の状態にされたとも。

「そっか。アマリリスは保護動物でしたね。人前では気を付けます」

実際は見た目や習性が似ているファランディアの生物なのだが、
こと戦闘力という点だけを見るなら数値上まったくの同格といってよい。
そのため二人の怯えにも似た態度はあながち間違ってはいない。

「お前も学校ではおとなしくしてろよ?」

「キュキュイ!」

頭の上で直立して敬礼のような仕草で頷くキツネ。
明らかにどちらが上の立場なのかを表す行動でふたりとも冷や汗をかいている。 
彼らは本来攻撃性が低いおとなしい種族だが仲間を守るためなら全てを滅ぼす。
シンイチがここに来たのは仕方がない事情があるのは知っている。
だが彼らを迎え入れるのはとんでもない爆弾を抱えること以外の何物でもない。

「一年後に、この校舎まともに残ってるかな先生?」

「おそろしいことを口にするな…………想像したくもない」

何せこの学園の生徒と相性が悪そうな考えと態度なシンイチと
その彼に付き従うアマリリス(テンコリウス)である。
嫌な予感にフリーレは眉根を寄せ、ミューヒは笑顔だが苦笑気味である。

「どうしました? あの、次はどっちに曲がれば?」

その様子を不思議そうに眺める彼だけがそれをよく解っていなかった。

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