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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

試験編 第一章「テストは利用するもの」

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04-20 狂気の眼

まあ、さすがにね、そんな目がわかるかっ、ていう話




学園校舎その技術科棟には二種類の職員室が用意されている。
一つは技術科教員たち共同の一般的な役割を持つ普通の職員室。
もう一つは教師たちに各自用意された研究部屋としての個人職員室。

現在、学園全体で試験中なため試験官となった教員の姿はなく、
留守番役となった教員たちは基本的に共同の職員室に詰めていた。
そんな中唯一個人職員室に篭り、それが問題にもならない教師がいる。

──城田 奈津美

その地球人教師は教師らしいことをしない事で有名な教師だった。
担当クラスはなく授業もしないが報酬次第で補佐ならする程度。
日々、個人的な研究と開発に勤しんでいるが完全なる趣味といえる。
彼女の人格ゆえまともに働くわけがないという諦観は元々あったが、
完全に放逐されないのは大きく分けて二つの事情があった。

彼女の職務放棄を黙認する代価という形で任されている仕事がある。
警備部や保安部の外骨格や警備ロボ、生徒訓練用ドローンなどの
整備・調整、そして一部の開発をさせているという言い訳(・・・)の事情。
そして本来の事情は隠されてはいるものの話としては単純なものである。
ある教師と同じく公にすると問題のある発見や技術を持った科学者だからだ。




城田 奈津美というネームプレートが掲げられた個人職員室。
電灯はつけられておらず複数のモニターが光源となっている室内。
その中で彼女はひとり空間キーボードを叩きながら画面に見入っていた。
そこへ扉を叩くノック音が響くが彼女は気付かず操作を続けている。
本来はブザーがあったが部屋の主の手によって取り外されていた。
彼女曰く「もしその音で考えがとんだらどうしてくれる」らしい。
尤もその集中力を見るに周囲の音など聞こえているか怪しいが。

「相変わらずですねドクター・シロタ」

それも訪問者は解っているのか返事も聞かずに扉を開けた。
ブザーは取り外した癖に彼女は施錠には関心が無かったのだ。
室内の暗さからその人物の姿は傍目どころか城田からも見えない。
分かるのはその声色から十中八九訪問者が女性であるということだけ。
尤も城田は声を出した訪問者にも気付かずキータッチを続けている。
空間モニターは設定にもよるが基本的に扉側からは見えないため、
何に集中しているのかはその訪問者には全く分からなかった。
ただ彼女はそこに興味はなく城田の態度に不快感を覚えていた。

「………このまま撃ち殺しても気付かないんじゃないかしら?」

扉が自動で閉まったあと念のためロックをかけながら呟く。
その物騒な発想を試したくなる誘惑にかられるが訪問者は自重した。
代わりにカバンから透明なケースに入った電子チップを取り出す。

「ご要望のリトリアス・インダストリーの新型スキャ、っ!」

「ふふ、ふむ、へえ、こうなって、ああなってて。
 おおっやっぱ優秀で馬鹿なの揃ってるねあそこは。
 うんうん、ここは自前ので代替できるからすぐに仕上がる!」

「……………この女っ」

言葉途中で飛びあがった彼女の急襲じみた動きでチップは奪われた。
元より彼女への“報酬”であるので渡すのはやぶさかではないが、
無視された上に突き飛ばされ、自分の世界に没頭されては殺意もわく。
訪問者にとっては噂の転入生の態度などは可愛いものに見えていた。

「ドクター・シロタ。条件の最終確認をしたいのですが?
 それが成されなくては製作に必要なパデュエール産の鉱石は渡せません」

それでも訪問者にとって彼女とのやり取りはこれが初めての事ではない。
報酬次第で動かせる城田を動かすのはやはりその報酬であるのだと。
案の定マッドサイエンティストはようやく視線を訪問者に向ける。
シルエットしか見えずともさすがに声は彼女も覚えてはいた。
また姿がよく見えない事には全く興味・関心がなかった。

「なによ、言われた物は用意したし作ってあげたじゃない。
 さっさと渡して消えてよね、私忙しいんだけど?」

そして威圧的でゴミでも見るような目でストレートに去れと告げる。
いくらか慣れがあったところで不快になってしまうのは当然だろう。

「ただの確認です、ドクター・シロタ。
 あなたはこの一件の傍観者でいてくれるのでしょう?」

しかし相手が聞いてる状況では大人の対応を取る辺りは立派といえた。

「またそれ? うざいって前にも言わなかった?
 私はどうでもいいってのあんたらの事なんて。
 お好きなドンパチをどこでもしてくればいいじゃない。
 私の研究を邪魔しないところでお好きなように」

「これはまた手厳しい。
 確かに我らは少将閣下のもと『ガーエン義勇軍』を名乗ってますが
 決して好き好んで戦いを起こしているわけではありません。
 ガレストの過ちを正し、交流は無意味だと知らしめるために
 武力を使わざるを得なかったのだとご理解いただきたい」

だがソレを語り始めた途端、訪問者の方も自らの世界に入りだす。
物騒で身勝手な計画を立てた彼らにとっての正義の考え方の中に。
暗闇でも見えるほどその瞳に宿る我々が正しいという根拠なき狂信は
事実を信奉し未知を好む科学者・城田には気持ち悪いモノに見えていた。
傍から見ればどっちもどっちだが。

「そもそもあり得ないのです。政府は何を考えているのか。
 野蛮で下等、同胞を何億と殺してきた地球人種との交流など。
 自由や公平を謳って結局なにもしない者たちが蠢く歪な社会など。
 力も責任もなく義務も果たさずに権利だけは主張する愚民の世界。
 ああっ愚かだ! じつにくだらない!」

顔は変わらず部屋の暗さに隠れているが声の嫌悪感は消しようもない。
訪問者たる彼女は心底、地球人という人種に敵意と嫌悪を持っていた。

「こんな者達と交流するために我らの技術を差し出せば、
 必要となる物資も求められるのは当然だろうに無能な政府め!
 地球人どもに我らの英知とフォトンは過ぎた代物だというのに!」

ひいては交流のゴーサインを出したガレスト政府でさえその対象。
余程気に入らないのか穏やかだった口調は既に見る影もなく荒れている。

「ふーん、そう、私もその地球人なんだけどそのへんいーの?」

疑問があるというよりは義理で矛盾点を突いておこう程度の問いかけ。
その視線は完全にもうモニターに戻っており訪問者を映してもいない。
在り方の誇りや世界情勢など彼女にはモルモットにもならないのだから。

「いいえ!
 我らガレスト人は実力ある者を認める寛容さを持つ種族です。
 あなたはその頭脳の優秀さを見せていた。ずっと前から。三ヶ月前も。
 それを認められないのだから政府の無能さの証明といってもいい!」

その優れた能力を認めることすらできないのかと。
一人で嘆く訪問者を視る事もなく城田は一人思い出していた。

「そっか、あれからもうそんだけ経ってたんだ。
 今でも謎よねぇ、どうして彼だけが後から見つかったのか……」

自分の理論と装置は完璧だったはずなのにと彼女は呟く。
城田が異世界から齎されたモノの中で最も興味を持ったのは次元科学。
そして地球とガレストという世界の枠組みの違いについての研究だった。
元々その人格はともかくその頭脳の非凡さを見せつけていた彼女は
一般公開より早期にガレスト技術やその学問に触れることができていた。
地球人にとって完全に未知だったそれを早々に理解し応用し出した事で
危険視された彼女は交流公開後1年もたたない内にここ(クトリア)に送られる。

「未知の物質の発見とそれの有効利用法。
 非凡である証明はそれだけでも充分であるというのに!
 今の政府にはやはり欠片も期待できる所などない!」

「あはは、うん、そうだねぇ」

そんな彼女にも“礼”という感情ぐらい米粒ぐらいならある。
相槌程度は安い物だと大根役者並みの棒読みで答えていた。
何せその扱いは本人にとって研究できる場を与えられたに過ぎない。
事実、学園で研究を続けた城田は去年の終わり頃にある重大な発見をする。
生物には生まれた世界ごとに別々の未知なる素粒子を体に持つことを。
その実証をしたい城田はその活用法を思いつきガレスト政府に訴えた。
未知の素粒子を目印(ビーコン)にして探査すれば未帰還者たちを発見できると。
未だに完全に把握できない未帰還者の所在と生死を確認することで
地球側にさらなる“貸し”を作りたかった政府とで思惑は一致した。
結果誕生したのがガレスト中を超広域探査できる異世界人探知装置と
その反応を元に地球人を呼び寄せて“救出”する装置である。

──未帰還者捜索救出計画

安直な翻訳でそう呼ばれたこの計画は今年3月初旬に行われた。
これによって所在を把握できていなかった未帰還者たちの存在と
これですら見つからなかった者達の死亡が確認された形となった。
だがこれらの功績は当初の取引通り城田に与えられはしなかった。
未知の素粒子の発見者もその研究チーム全体に与えられている。
名声すら交渉材料にしただけだったのだが事実を中途半端に知ると
面子を潰されたくなかった政府が地球人科学者の功績を奪ったように
見えてしまうため、この手の輩が寄ってくるのは嬉しい誤算といえた。
この成功で余計にこの都市から出られない身となっていたのだから。

「何故そんな無能な政府に従わなくてはいけない!
 何故そんな者たちがいる世界と生きていかなくてはいけない!
 この世界の価値などガレストから最も近いというだけ!
 我らが英知ならばすぐに他の異世界も見つけられる!
 いまこそ時計の針を戻すべきなのだ!」

「はいはい、おおっ、それはすごい、ロマンだ、ははっ、偉い偉い」

城田流の感謝としての棒読み相槌は地味に続いていたが、
さすがにあまりに感情のないそれに興奮していた訪問者も気付く。
若干、というには語弊のある程度に顔を歪めながら愚痴をこぼす。

「……科学者という人種はどうしてこう自分にしか興味がないのか。
 無能なくせに功名心の塊か有能でも他に興味のないマッドばかり!」

「ガンバ、ガンバ、オーエンしてる、とおもうよ」

もはや話も聞いていない相槌を苦々しく思いながら溜息を吐く。
有能さゆえのことだと割り切った訪問者は踵を返して扉へと向かう。
そして近くの机に第二の報酬である野球ボール大の鉱石をいくつか置いた。

「約束通りあなたにはご迷惑をおかけしません。
 試験期間中、技術科棟から一切出ない事が条件ですが」

「おおっ、これが純度の高いエンシェント鉱石!
 ふふ、これがあれば、ふふ、きっと全部が見えるね、ふふ」

「っ」

もはやわざとなのではと思えてしまう程に彼女は話を聞いていない。
ただ手にした黒い鉱石を黒縁眼鏡をいじりながら観察して笑っていた。
これ以上は同じ空間にいるのも不快だと訪問者は足早に去っていく。

「……ふむ、構成物質は……へえこういう比率か。
 やっぱ現物の詳細データは価値あるわぁ……」

いっそ無邪気な笑みを浮かべて眼鏡型の解析機器を操作して情報を得る。
そういった形のフォスタともいえる代物は彼女自身が作ったオリジナル。
このサイズと薄さにはさしものガレスト科学もまだ到達していないが。

「ふっふふ、たっのしみだなぁ。
 こればあれが……うふふ、やり放題調べ放題。
 あとはまあ、通常電力源を普通にゲットすればオッケーかな。
 で、も…………そ・の・ま・え・に……」

表情だけなら無害な笑みだがそれゆえにその笑いは恐ろしい。
データを吸い出したチップを踏み潰し、鉱石は保管庫に仕舞う。
そして急ぎ席に戻って最初から開いたままのモニターにかぶりつく。
そこに流れる映像(・・)をどこか恍惚とした顔で見詰めながら。

「いいね、いいねぇ! 君はホントに観察ガイがあるよ!
 さっきの愚かで哀れなエセグンジンとはウンデイだね!」

興奮して手を叩きながら笑う姿は室内の状況もあってホラー一歩手前。
彼女はひとりモニターの中の誰かに向かって熱視線を送っていた。

「傍観者って言葉の意味わかってないんだから。ねえ、中村信一くん(・・・・・・)?」

そういって彼女が覗いているモニターに映るのは一人の少年。
野外フィールド内で岩肌の大地に胡坐をかいている姿がそこにある。
その表情は覗かれている事など一切気付いていない自然体のそれ。

「敵でもない代わりに味方でもない。
 ホント、モルモットにすらなれないなんて可哀想。
 彼に計画のほとんどを見抜かれてるとも知らずに」

報酬の見返りとして技術提供と不干渉の取り決めをした城田には
この試験期間中に彼らが起こそうとしている計画を聞かされていた。
だからこそ映像の中で彼が語る防衛計画草案の適切さに笑みがこぼれる。
それを彼女はガーエン義勇軍に伝える義務はない。何せ傍観者なのだから。

「思想持った軍人なんて研究しない科学者みたいなもんよ?
 だいたい他人の論文を声高に叫んで何が楽しいんだか気持ち悪い。
 君たちはただ黙って戦ってれば良いというのに、お馬鹿さん。
 そんな当たり前の事もできないくせに時計の針を戻す?」

にこり。
誰もいない闇に向かって彼女は微笑ましい笑みを浮かべた。
どこか狂気も混ざったようにも聞こえる笑い声と共に。 

「あは、あはははっっ!!
 私にも理論構築すら出来ないそんな大層なこといっちゃうなんてね!」

おかしい。馬鹿みたいだと独りで大笑い。
しかしながらその主張はどこまでも科学者染みた思考の上にある。
一度混ざり合ったモノを“元に戻す”という行為の難題さを知るために。

「これなら妹の方のドゥネージュ先生の方が観察しがいがあるわ。
 彼と個人的な付き合いがあるし……いいなぁ、私も彼で実験したい」

羨ましいと顔だけなら嫉妬し拗ねてるだけのようなそれで語る。
モニター向こうにある別のモニターに映る女教師の顔は知っていた。
城田からすればアンフォトニウムの発見者の妹という程度の印象だが。

「むむぅ、こっちはようやく彼を監視できる目を用意できたってのに」

今にもズルイと子供のような主張をしだしそうなそれは幼くもあり
また同時にマッドサイエンティストと呼ばれる狂気も併せ持つ。

「けどうまくいって良かった。
 持つべき物はやっぱりテイサツエイセイだよねぇ」

それを証明するかのように本来個人で持てるはずがない物を口にする。
しかしその証明のように映像は斜め上からではあったが上空からの視点。
通常の偵察衛星の望遠能力をはるかに超えた映像の鮮明さがそこにある。
勿論それを作り、打ち上げ、操作しているのは他ならぬ彼女だ。

城田がそれを用意したのはあまりに単純な理由からである。
時計がずれた子供。件の少年の動向が校内の監視システムに映らない。
常にではないものの城田の知りたい何かを映す事が決してない。
転入初日からいくらかあった彼の周りの騒動のログも残っていない。
校門前での案内係りとのやりとりも食堂での悶着も消されていた。
自作の装置も作ってみたが同じようにどうしてか彼を映さなくなる。

“しょうがない、もっとすんごく遠くから覗こう”

彼女にとっては当然の、他者からすれば呆れかえる理由で
城田奈津美という女性は勝手に偵察衛星を作り、非合法な手段で
それを誰にも気付かせずに宇宙にあげるという事をやってしまった。
出来てしまうことそのものが彼女が持つ恐ろしさである。

「今日に間に合ったのはよかった。いっぱい観察できて、うふ」

さすがの彼も衛星軌道上からの監視には気付きようがなかった。
別のモニターには彼の今日一日の行動のほぼ全てが記録・解析されている。
20以上の画面を操作する所も巨大人型ロボを素手で殴り倒した所も。
音は拾えていないが唇の動きが見えればあとは読唇ソフトで読み取れる。
だから既に城田は彼がガーエン義勇軍と対決する気なのは知っていた。

「せいぜい頑張ってね、志の高いのエセグンジンさんたち。
 もっともっと彼の情報を露出させれば立派な実験器具にはなれるわ」

ただただナカムラ・シンイチという少年の未知を暴くための道具。
哀れ自分達から彼女に傍観者という立場を与えたゆえに知らない所で
彼らの計画は崩壊の道を突き進み、傍観者に利用されるだけとなっていた。
尤も彼がここにいる時点でまともに成功する可能性など皆無といえる。
それは戦場というモノを全く知らない素人の彼女にすら理解できた。
彼はそれほどまでに他者と違う。毛色が違う。存在が違う。価値が違う。
今まで自分を心躍る未知と出会わせてきた科学者の直感がそう囁く。
だから彼女は傍観者となる。より正確には実験の観察者に。

「さて、君はまずどうするのかしら?」

〈───これでだいたい詰められたな、ならあとは……〉

まるで問いかけに答えるかのように彼の次の言葉が表示された。
字幕映画のそれのような文字の羅列と共に彼は周囲を指差す。



〈先生、こいつら俺に預けてくれない?〉



それは誰かに負けず劣らずのナニカを企む笑みであった。


ちなみになんか変なこといって勝手に帰っちゃった人がいますが、
彼女が散々シンイチらが推理してた犯人なわけで、
その姿をこれでもかってくらい隠してますが、


別段、これまで登場した誰かではない。
+注意+
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