挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

試験編 第一章「テストは利用するもの」

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

78/183

04-19 見えてくる裏

武器でもあるフォスタは防犯上持ち主以外には使用制限があるが、
緊急時を想定して通信機能だけは誰にでも使えるようになっている。
そのためアドレスさえ記憶していれば連絡をとるのは簡単だった。

『サーフィナ! お前いまどこっ、ナカムラぁっ!?!?』

他人のフォスタなので相手からするとこういう驚きを呼ぶが。
モニターに出た白髪の美女は予想外の顔が映って心底狼狽えていた。
彼も意図的に驚かそうとしたわけではないがその反応に食指が動く。
世間の評価と違いこういう不意打ちへの弱さは実にからかい甲斐がある。
そんなことを即座に考えて実行する辺りがこの少年の本性であろう。

「よ、さっきぶり、いま暇?」

だからあえて彼女の心情を弄るような事を軽々しく口にした。
最大限に相手の感情を逆なでするようにさわやかな満面の笑みと共に。

『なっ、このっ! 暇なわけがあるかーーーーっ!!』

案の定その額には青筋が浮かんで怒りと嘆きが混ざった叫びが轟く。
代理とはいえ総合監督という立場上、面倒は避けられなかったようだ。

『あっちこっちに指示飛ばして忙しいのにくだらん話を聞かされて、
 しまいには計3クラスプラス特別科の生徒まで外骨格で暴走。
 それでも穏便にすませないといけないこっちの身にもなれ!!』

生徒達が暴れただけならここまで気を使う必要は無かったろう。
ただ今回の一件に第三者の悪意が見える以上彼らは被害者である。
しかしそれを精神スキルのせいで公にできないのが痛かった。
泣きそうな顔で怒鳴る彼女の態度にその心痛を察する。

「大変だなぁ」

他人事(ヒトゴト)かお前!』

察してもそう振る舞えるシンイチはきっと鬼に違いない。
仮にもこの事態に関わっている者の態度とは到底思えない。

『まったくっ、シングウジがお前の方に向かった上に
 通信が繋がらなくて真面目に心配した自分が馬鹿みたいだ』

「あはは、いやそこはごめん。
 でも俺も安心させようといま連絡を入れたしだいで。
 報告する約束もしてたし、でもありがと心配してくれて」

即座にからかった事を謝りつつその点を真摯に感謝する。
これも不意打ちになってしまったらしく彼女はしばし目が点となった。

『ん……教師として当然のことだ………いや待て、お前大丈夫か?
 少し息も荒いし、どこか顔色が悪いようにも見えるぞ』

そういう所は本当に鋭いと感心しながら呆れた顔で誤魔化す。

「俺は2クラスの生徒とやりあったあと、さらにふたり。
 厄介な奴らとやりあう羽目になったのだが?」

それで顔色がいいわけがないだろうという常識で煙に巻く。
確かにそれだけの人数と連戦して疲れないのは逆におかしい。
普通ならば、だが。

『嘘つけ。
 私と散々模擬戦して汗もかかない奴がその程度で疲れるものか。
 ん、もしや聞いてはいけない領分の話になってしまうのか?』

彼の普通じゃない点をいくらか知る彼女には通用しない理屈だった。
さらに誤魔化そうとした理由まで言い当てられては白旗を振るしかない。

「………参ったな、正解だ。その辺りの事情で少し疲れた。
 でも2、3時間仮眠取れば回復するだろうから問題はない」

『一応、信じよう。他のみんなの状態は?』

「全員夢の中だよ。ケガもさせてない。
 朝になれば自然と起きるだろう」

そういって彼がモニター位置を操作して全員の姿を見せた。
画面向こうの彼女はそれで安堵したのかホッとした笑みをこぼす。
しかしすぐにその表情に影が差し、物言いたげに彼を見据えてきた。

『最終的に、本当にお前の所に全員集まったというわけか』

お前の言っていた通りに。
そう言外に訴える眼差しに肩をすくめてシンイチは笑う。
この場合の“全員”が何を差しているのかはいうまでもない。

「すごいだろ。誘蛾灯も真っ青な牽引体質。
 面倒だけど、これでも色々と便利なんだぜ。
 何せ解決できる奴の前に問題の方からやってきてくれるんだからさ」

『……笑いごとではないぞ』

探す・暴く手間が省けて楽だといっそシニカルな笑みを浮かべる。
それに思う所があったのかしばしフリーレの表情には苦みがあった。

『いったいどうしたらそんな偶然が起こりえる?
 これだけ広大なフィールド内で、どうして……』

まともな思考能力を失った者達が同じ者をほぼ同時に襲うなど。
大きな意味で同じ空間にはいたがそれは他の生徒たちも同じだ。
なぜ彼にだけ集中したのかと彼女は訳が分からないと首を振る。
その様子にさすがに突然教えたのはまずかったかと少し反省する。

「確かにそう考えると異常だけど視点を変えるとじつはそうでもない」

『なに?』

「俺も奴らの相手してて気づいたんだがどうにもあのスキル。
 暴走に至らずとも暗示で行動をいくらか誘導できるようだ。
 それも本人たちの願いや強い想いを利用する形で」

『なんだとっ、ああっそうか!
 だから成否を問わない陽動作戦なんておかしなこと!
 暗示で騒動をより大きくできればそれはそれで良し。
 失敗しても現状での限界点を把握できるメリットがある』

シンイチの推察に彼女の顔に不快感と憤りが真っ先に浮かぶ。
それでいてそれが示す意味を考えられる辺りまさに頼れる教師だ。
この察しの良さを軍事や戦闘面以外で発揮できれば良いのに、と
自分のことは全力で棚に上げて内心溜め息も吐いているが。

「若干推測が入るが、2-C、Dの連中は仲間集めを。
 残りの二人は強くなりたい願望に合わさる形で暴れることを。
 それぞれ命じられていたと思うんだが、さてここで問題です」

『は? 問題?』

「現状に不満のある生徒達が仲間に引き入れられると思う生徒は?
 強さの証明のために相手を探し始めた時、戦いをしていた生徒は?」

『…………お前、か』

ぱちぱちと拍手しながら正解だとシンイチはおどけながら告げる。
彼のルール知らずな言動が彼らには同志のように見えたのだろう。
だからこそ偽ラブレターでの遠回しに過ぎる勧誘が始まったのだ。
ただそれを無視された苛立ちでスキルのスイッチが半端に入り、
暴走気味なほどに彼に誘いが集中して今夜ついに直接接触した。
そんな彼らとの戦闘にもなっていない戦闘でもあの瞬間では
フィールド内で行われていた唯一に等しい戦闘行為であった。
あのふたりはその気配に釣られてやってきたのであろう。
あるいはその血筋に流れる力がシンイチの存在が持つ脅威を
無意識に感じ取ってやってきたのかも知れないが。

「単純に俺しか標的がいなかったから俺の所に集まったわけよ」

だからいうほど異常な話ではないのだと嘯くもフリーレは渋面だ。

『……若干、結果から逆算しての後付けの理由に聞こえるが?
 しかも大前提にある偶然を思いっきり無視してるだろそれ』

「あはははっ、バレたか!
 そういうことだけはホント鋭いよねえ」

『お・ま・え・はぁっ!』

この程度の誤魔化しは通用しないかと呑気に笑えば、
彼女は怒気を込めた叫びを口にして握った拳を震わしている。
残念ながらいくらガレスト科学でもモニターの向こうは殴れない。

「でも嘘はついてないよ」

しかしながら今の話も一応事実ではある。
それだけではこの“偶然”が成立しないだけで。

『分かっている。だから気に食わん!』

共に行動していたクラスはともかく個人までもが同じ目の夜。
それもほぼ同じ時間帯に暴走を始めるという“偶然”がまず必要。
いくら試験で過酷なことを強いられ苛立ちやストレス、怒りという
感情を持ちやすくとも全員がほぼ同時というのはどんな“偶然”か。
その裏を話せとどこか脅すような鋭く射抜くような視線を
無言で向けられるが彼は穏やかな顔で受け流すだけだった。
その点で語るべきことはもうないと無言で語るように。

『………まあ、いい。今は現状をもっと正確に把握したい。
 とりあえずなんでお前サーフィナのフォスタを使っている?』

「サーフィナって、やっぱりあいつのこと?」

そういって彼は遠方に寝かしている少女をモニターに映す。
日本刀がこの都市の法律上問題あるかどうか解らないため顔だけを。
青かったそれに肌色が戻っているのが見えて少し安堵の息がもれる。
どうやらカムナギはその名に恥じぬ“力”を持っていたようだ。

『そうか。
 アレはお前が来る前の話だから知らないのか』

「あれ?」

『ああ、彼女は普通科2-B所属のトモエ・サーフィナ。
 成績はギリギリBに入るぐらいだがとても熱心な生徒だ』

簡単な紹介をしながら教師として把握している情報を彼に見せる。
授業態度については概ね高評価だが成績は微妙なラインといえた。
普通科上位であるBクラス生徒だがクラス内では差の開いた最下位。
次の試験結果によってはCクラス落ちも有り得るという立場である。
だから焦ってしまったのか元々そういう性格だったのか。
今年の4月中旬ごろに彼女の身に悲劇が降りかかっていた。

『しかし熱心過ぎて授業中に頑張り過ぎてしまってな。
 それが結果的に事故を誘発させてしまい、大怪我をして入院。
 5月いっぱいまでその治療とリハビリ生活だったと聞いている。
 それほどのケガは珍しいから大半の生徒の耳には入ってるようだ』

「だから俺のことを知らなかったのか。
 しかし色々と運の無い子だな……他人事に思えん」

熱心さが災いした事故で負傷しただけでも不運ではあるが、
入院を余儀なくされた期間と学園に復帰できた時期が悪い。
授業中のケガという事で成績への影響は最小限で済んだものの、
復帰できたのが自身のランクを左右する試験開始の直前であった。

『私個人としては彼女のような熱意のある子は嫌いじゃないが、
 時期とステータス、本人の性格が残念なことに色々噛み合ってない』

「これは……」

フリーレが新たに表示した彼女のステータス情報にシンイチは唸る。



-----------------------------------------------------


名:トモエ・サーフィナ 性別:女

地球年齢:16歳

身長:160センチ 体重:45キロ

筋力:C+

体力:C+

精神:AA+(限界値)

耐久:C-

敏捷:C



------------------------------------------------------



「なんて後衛向きのステータス。
 ……本人思いっきり突撃思考っぽいのに。難儀だな」

チームの後ろからスキルや射撃で支援するなら問題はないが、
前線に立つのは厳しいといわざるを得ないステータスのランクだ。
ファランディアなら別の見方もあるがそれも技量次第の話である。

『まったくだ。
 そのうえ今回の事態に巻き込まれていては……難しいな』

フリーレが尽力すればマイナス評価にはならないかもしれない。
しかし他の生徒の成績が上がればどの道彼女はCクラス落ちだ。
自身が全力で試験に挑んだ結果ならばともかく関係のない所で、
本人の落ち度ではない理由でチャンスを棒に振らされた。

『やりきれんよまったく……』

「……返しどころとしてはその辺りか」

『ん、なにか言ったか?』

「いや、ちょっとアイディアがあるってだけ。
 それよりもさ、あいつ日本人だったのか?」

誤魔化すような強引な話題変更だが気になっていたのも事実。
名前を聞いただけではその国籍をシンイチは推測もできなかった。
だがフリーレが見せた情報の中にはその国籍が日本と記されている。

『ニホンジン? ああ、そうか出身国別の呼び名か。
 生まれた地で人種を分ける考え方はよくわからんが、
 両親が共にハーフのクオーターで生まれ育ちはニホンと聞く。
 えっと確か両親のデータも、あったこれだ』

こちらのモニターに彼女─トモエの両親のデータが表示される。
それは顔写真や国籍、簡単な経歴程度のものであったが充分だった。
少なくとも彼女の叫びの一端を知るという意味においては。

「母親は日本とアメリカの、父親はポルトガルとロシアのハーフ。
 国際色豊かな血筋だな………5年前に二人とも亡くなってるのか」

あれだけの想いを持っていたのは既に鬼籍の者だったからか。
彼ら夫婦の経歴の最後は共に『交通事故』で同時に終わっていた。
現在の保護者はデータ上、父方の祖父になっているが少し妙だった。
ハッキングで情報を洗い出せば確かにその人物は存命ではあったが、
一度も日本に来たことはなくトモエも一度も日本を出た事がない。
名前だけの保護者なのは明白である上に他の血縁者情報が皆無。
そして母方の祖父母、父方の祖母の情報は欺瞞に満ちていた。

「………なんかシングウジの親の情報と似てるな」

『お、おいこらいくら試験官でも、ああっそこまで見るか普通?』

彼は持たされた権限を軽く超えた個人情報を開示させていった。
貸しがある事で遠慮していたがそれ以上にきな臭いものを感じたのだ。

『だいいち似てて当然だ。
 母親が親戚同士だと聞いた。なら似ているだろうさ』

「初めて聞いたが、データ上そんな繋がりはないぞ」

『……なに?』

「それに全体的に情報に違和感があって気持ちが悪い。
 絶対これ、両親とも……それも別々にいじられてる」

基本の情報に嘘はなさそうだが血縁という繋がりは違和感だらけ。
母方のそれについてはフォトン式に移行する前からの改竄なせいか。
明確な確証は見つけられないが帰還の為に数多の情報を集め、
読み解いてきた経験が情報隠蔽の気配を彼に感じ取らせていた
逆に父親の情報。その大元は確実に改竄されていると断言できる。
何食わぬ顔で魔力ハッキングを用いて覗けばその痕跡で真っ黒。
それぞれのやり方の違いゆえ別々に違う者が行った可能性が高い。

『根拠は………聞いてはいけない約束か。
 だがそれはシングウジも同じなのか?』

理由を問えないまでも彼女の顔は話を疑ってはいなかった。
だからこそ教師の顔でフリーレは生徒のことを問うてきたのだ。

「母親の情報への違和感がすごく似てる。
 知り合いみたいだったから親戚同士ってのは本当だろう」

『つまり公の情報が偽りだったということか。
 一応こちら側でも入学前に身元調査はやってるはずなんだがな』

「調査を掻い潜ったのかそれすら誤魔化せる立場なのか。
 どうもふたりとも面倒臭い家系に生まれちまったようだな」

厄介なことだとこぼしながら、
それがあのふたりが追い込まれていた原因だろうと推察する。
片や誰かを倒す為に自らを痛めつけるようにひたすら強さを求め、
片や自らを周囲に認めさせることで両親をも認めさせようとした。
そんな強い想いを抱えた共に霊力を受け継ぐ一族の子供。
推測でしかないがそれだけで薄ら見えてくるものはある。
彼らがおそらくそこから爪弾きにあったのだろうと。

「認められない子供、か。
 ……子供になに押し付けてんだよ、くそがっ」

『ナカ、ムラ?』

聞く者すべてが怖気を感じるほど最後の一言にある感情はどす黒い。
呪詛の塊を吐き捨てるかのような暗さと重さのある声が出ていた。
その事に発した後になって気付いて彼は内心慌てて言い繕う。

『お、お前も!』

「ああ、悪い。
 話がだいぶ脱線しちまったな。
 じつは俺のフォスタが壊れちまって………先生?」

大人の勝手で子供に理不尽が降りかかるとつい苛立ってしまう。
悪い癖だと内心苦笑いしながら話を元に戻そうとしたのだが、
モニター向こうで彼女が大きく沈み込んでおりさすがに訝しむ。

『なんでもないから気にするな……どうして私はこう……。
 って、なに!? フォスタが壊れた!?』

「あ、ああ、急にうんともすんともいわなくなっちまって。
 見ての通り画面も真っ暗で何をしても反応がないんだ」

モニター越しにその状態を見せれば彼女は唖然とし、しばし固まる。

『た、たかが一ヶ月で何をすればそんなことになる。
 サーフィナのとコードを繋げ! こっちで見てやる!』

呆れか怒りか。
世話焼きな教師に指示されるまま二つのフォスタを繋げると
彼女の方でその状態を把握していき、小さく安堵の息がもれた。

『これは強制シャットダウンだな……その程度で助かったよ』

「なんとなく語感で意味はわかるが、なんでそうなった?」

『原因はわからんがあちこちの回路に過負荷がかかった形跡がある。
 いわゆるオーバーヒートだな。それで安全装置が働いたようだ。
 特にフォトンの抽出機関に負担がかかるとなりやすいから……』

「……クイックなんたらのせいか?」

『エクストラクトだ………おそらく、な。
 あれは眉唾理論扱いだ。対応したフォスタなどこの世に存在していない』

ゆえにQEを多用したことで負荷がかかり続けてしまったのだろう。
さらにスキル解除での連続使用がトドメを差す形となって落ちたのだ。
フォトンを扱う物で一番恐れるべき異常事態はその暴走なのである。
そのため抽出機関に異常を感知するとこのシステムが働くのだという。

『これぐらいならあと3時間で自動修復や整備も終わるだろう。
 いくらかは最適化されるが気休めだ。気を付けてQEを使え。
 あと試験が終わったらきちんと整備もした方がいいかもしれん。
 お前のいうスプーンの使い過ぎで機関が摩耗した可能性もある』

「……異世界科学の抽出システムがこの数時間で腱鞘炎かよ」

想定していない抽出回数が短期間で重なったがための負荷は
通常使用による経年劣化とは比べ物にならない消耗だったようだ。
理屈では理解したがどうにも情けない気がする彼の感覚は手厳しい。
腱鞘炎呼ばわりされて苦笑するフリーレだったがすぐに影が差す

『逆に言えばそれだけの人数に精神スキルがかけられた。
 ………教師としては笑えんよ………』

幾人か彼女も手伝ったが全体数を考えれば大半は彼による解除。
その負担が原因ならそれだけの人数が被害者となった事を意味する。
フォスタが一時的とはいえその機能を停止させるほどの過負荷(にんずう)
教師として、学園の防衛に携わる者として看破できるものではない。
不器用で変に責任感の強い彼女らしい気負った顔はそう語っていた。
シンイチにとって、つい手助けしたくなる顔だった。

「だが犯人は無節操に手を出した結果、自分の首を絞めている。
 自身や他者にかけるタイプのスキルには一種の射程距離がある。
 そのうえ被害生徒たちの学園内での共通項は少ない。つまり……」

『………そうか。
 犯人はその全員と直接接触をした可能性が高い!
 試験前まで学園外の病院にいたサーフィナにまで!』

「他の連中だけなら絞り込みは困難かもしれないが、
 入院していたあいつと()接触した奴となれば」

『ああ、かなり絞り込めるはずだ』

精神スキルを使った犯人が全て同一だった場合のみの話ではあるが、
学園や都市のチェック及びセキュリティ体制に既に出ている犯人像。
また学園外に度々出る生徒は多い中、被害者は今判明してる者だけだ。
それらを合わせて考えれば外にもスキル使用者がいる可能性は低い。
少なくともこの一件の実行犯は単独である可能性が高かった。

『すぐに病院側にサーフィナと接触した人物を洗い出させよう。
 並行してそれ以外の者全員とこの一週間前後で接触した人物も。
 どちらにも共通する人物がいればそいつが犯人だ!』

「俺もそう思う。けど、それ誰に頼む気だ?
 病院スタッフは今回容疑者から外すとしても、だ。
 内部調査は学園の誰かの手を借りなくてはいけない」

そもそも調べられる者は教員か生徒会メンバーのみ。
だが生徒と彼ら、どちらがより疑わしいかとなれば後者だ。
生徒達はクラスによって行動にいくらか制限をかけられている。
特別科の生徒もどこでも入れるわけでも何でも使えるわけでもない。
許可の優先権があるだけで彼らにも制限というモノは存在している。
しかし教師と生徒会メンバーは生徒と比べてそれらが圧倒的に少ない。
ゆえに学科を跨いだ生徒に直接接触しやすく立場上不審にも思われない。

『ああ、分かっている。より疑わしい者たちに頼らなくてはいけない。
 だがアマミヤならどうだろうか。一番無難で一番可能性は低い』

「生徒会長さんか。
 確かに日本人なうえに仕事に追われてて
 生徒たちと直接接触する姿はあまり見かけないな」

加えて日本政府のエージェントだ。
ガレストの情報や技術を集める役目も持っている。
そんな彼がガレストにとっても未知に近いスキルが使えるとは思えない。
何らかの方法で手にしたとしてもここで実験するのは違和感を覚える。
外の目が届きにくくとも内部の目が厳しい事を彼はよく知っている。
ましてやこの試験は生徒会の権限が及ばない学園行事なのだから。
さらに防衛の責任者であるフリーレは元・ガレスト軍人だ。
その線から見抜かれる可能性を考えないとは思えない。

「……待てよ?」

そこまで考えてシンイチはふと思う。
フリーレがここにいることは彼女自身の名声ゆえか有名である。
仮にも学園で何かしようという者が彼女を警戒しないわけがない。
初期の段階で露見し警備をより固められる事態は招きたくないはずだ。
それでも精神スキルが使われたのはそれだけバレない自信があったから。
何故か。彼女の知識の程度を事前に知っていたからではないか。

「………うわぁ、また面倒な」

完全に証拠のない推測だが経験則としてあり得ると思えるのが痛い。
正確にいうのならそれを知れる可能性が高い者達の職業が、だが。
本当にただの推測であるため意見として主張するのは憚られるが。

『どうした?』

「いや、念のため嘘の理由を作って会長個人に
 極秘ってことで依頼しておけばいいかなって思って」

『また流すか……で、その心は?』

「試験で教師までグルになった不正が行われた疑いがある。
 という名目で被害者たちと接触した共通の人物を探ってもらうんだ。
 会長を疑うというよりそこから漏れてもバレないようにする処置だな」

それでもメンバーを見られたら犯人には一発で分かってしまうだろう。
だからこそ会長だけに極秘という形にすればその危険性は減らせる。
教師まで含んだ不正としたのは極秘扱いへの説得力を増すためだ。

『………良いアイディアだとは思う。が』

半眼となって胡散臭げにこちらを見てくるフリーレ。

「が?」

『よくもまあ、そんな嘘がさらっと出てくるなお前』

信じられないと若干引いた表情で見られるが彼は心外だと即座に返す。

「これぐらいあんたの方からさらっと言ってくれよ社会人」

『ぐっ!』

大人であるお前が出来なくてどうするのだと返せば狼狽えた。
そのあまりにも分かり易い態度に無理そうだと彼は頭を振った。

『あ、いや……うん、お前のアイディアでいこう!』

「そうか、うん、へぇ、ホント、よかったねぇ」

人の事はいえないものの強引に話を戻した彼女に生返事。
その対応にさらに衝撃を受けた彼女は冷や汗と共に目を泳がす。

「……本当に分かり易い女」

『うるさい!
 お、お前だってさっき何かに勘付いた顔した癖に流したじゃないか!
 もしかしてお前、犯人のこと何か気付いたんじゃないのか!?』

「…………」

そういう勘は本当に鋭いと感心するシンイチだ。
8割方、ただの当てずっぽうな気がしないでもないが。

『お、おいナカムラ? いきなり黙るなよ、不安になるから』

「…………そういえば。
 あんたって自分専用の外骨格って持ってるのか?」

変な所で気弱だと思いながら確認したい事を一方的に告げた。
なにせ彼女が使っていた学園教師用のは一部破損し戦力にならない。
壊したのは素知らぬ顔で問うているこのシンイチという男なのだが。

『え、あ、ああ、あるぞ。退職金代わりにもらった奴がな。
 まあ、正確にいうとオーダーメイドだったからピーキーな代物で
 私以外だと使えないから邪魔だから持ってけ、だったけど』

「用意しておいた方がいいね」

しかしその顔にもう相手をからかおうとする意志は完全に消えた。
真剣な表情でそれがこれから必要になるとシンイチは彼女に告げる。
それを受けて、フリーレの顔からも動揺や狼狽えも消えていった。
それが必要な事態になるという言外の言葉が聞こえたからだ。

『………お前の考えを、聞いておこう』

「たいしたものじゃないさ、まず─────」

シンイチは自らの気付いた可能性を語りながら自らの考えを語る。
どこにどういう情報を送り、どう動かして、どういう防衛体制を敷くか。
そしてその“コト”が起こった時に互いにどうして、生徒達をどうするか。
星空の下で学園の命運を握る防衛計画がたった二人で練り込まれていった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ