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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

試験編 第一章「テストは利用するもの」

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04-18 カムナギ




彼の手を振り払った少女はしかし問題ないとは言い難い。
頭はふらつき足元もおぼつかないが自分だけで立とうとしていた。
お前の手など借りるかという強い敵意を向けられながら渋い顔をする。
それは“意識を奪うのを忘れた”という自らの失態へだったが、
彼女の眼にはそうは映らなかった。

「お前っ!」

刀を持たぬ手が素早く振り抜かれようとしたのが見え、手が動く。
右頬を狙った平手打ちを右手で掴むように直前で止めてしまう。

「なっ!?」

「うん?」

「このっ!」

互いに方向性の違う驚きの中で彼女は刀を手放して再度狙うも
左頬を狙った手も彼の左手に易々と受け止められ両手を掴まれる。
唸り声をあげてもがく彼女だが掴まれた手はぴくりとも動かない。

「く、このっ、もうっなんなのよ黙って引っ叩かれなさいよ!!」

「あ、そうか、すまん。つい反射的に」

腕の拘束から逃れようと暴れながらの叫びにやっと彼は理解する。
彼女の記憶がほぼ地続きで自分がひどい侮辱者になっている事。
そしてそれによって彼女に引っ叩かれるべきシーンであったと。

「なにが、つい、だ。ふざけるな!
 お前が例えどこの上位クラスでも絶対に許さない!!」

「………………」

どうしたものか。
妙な勘違いはされているが怒りの正当性は彼女にある。
言い訳は勿論ある。他の方法ではケガをさせない自信が無かった。
剣筋は読みやすくともその冴えは鋭く、二の太刀が避けられない。
そして当たればあの霊刃によって自分は行動不能にさせられる。
そうなればあとはもう暴走する彼女による一人リンチであろう。
魔力をあれほど削り取れる攻撃の前に魔装闘法など時間稼ぎだ。
また霊力と魔力の相互作用や性質が解らない以上魔法にも頼れない。
さらに彼女が使う術は完全に未知のもので手間暇かけて探るのは危険。
そして時間をかければ精神への過負荷に耐えられなくなる恐れもある。
彼女の安全を確保し確実にスキル解除をするためにはその精神を
暴走状態に傾けて動きの精細さを失わさせるしかなかった。
また不安定な状態の精神スキルを同じ方法で解除した場合の
不都合や後遺症が出てこないかという不安もあったのだ。

しかしそんな事情があろうとも言葉として侮辱したのは事実。
ここはおとなしく殴られ蹴られ、そして罵詈雑言を向けられるべき。
だから素直に手を離そうとして───即座にその身を引き寄せる。

「きゃっ、なに──」

「ああくそっ!
 二度で終わるわけがなかったか!」

彼女の戸惑いと悲鳴の声は一切無視した。
それまで引き離そうとした所をいきなり引かれてつんのめ、
バランスを崩した体を彼は慣れた動きで抱え上げて後方に跳んだ。
瞬間彼らのいた場所に砲弾でも落下したかのような衝撃と爆音が轟く。

「なにがぁっ!?」

突然、視点が変わった事を理解できないまま届いた轟音。
叫ぶ彼女を庇うようにそちらを背を向ける彼の表情は複雑だ。
“やっぱりか”とでも言いたげなどこか疲れた顔が浮かんでいる。

「やっぱこうなったか。デパートの時と一緒だ。
 いつものように(・・・・・・・)どんどんどんどん面倒臭くなっていく………はぁ」

やはりこちらでも同じかと。
大きな溜め息を吐きつつ彼女と共にソレに身体を向けた。
落下してきたモノの影はまごうことなき人型のそれであり、
全身を覆う機械的な鎧はここでは見間違う事もない外骨格。
白を基本としたカラーに黒字のラインが入ったアーマーは
学園ではその人物だけに許されたパーソナルカラーでもあった。

「な、あれは?」

そしてサークレット型の防具だけが守る頭部では顔は露出している。
暗闇に慣れた目はそれが誰なのかを両者にはっきり教えてくれていた。

「シングウジ、お前もか」

「………あんた、シーザーでも気取ってるつもり?」

半分呆れ半分疲れたように笑う彼には強く輝くリングが見えていた。
彼女は彼女で彼の登場に驚いていたがシンイチの発言に胡乱な顔を見せた。
腕の中からの的確なツッコミは黙殺するもネタが通じる嬉しさを感じる。

「いいから今みたいにしっかり掴まってろ」

「掴ま、る?」

そういった瞬間彼女の目が点となってすぐ近くのシンイチの顔を覗いた。
両頬を狙って掴まれた手は彼女自身が抱きかかえられた時に引っ張られ、
首の裏に回されるようにしがみついた格好となり互いの顔が目と鼻の先。
そして背中と膝裏に回された彼の手によって横抱きにされた体は宙にある。
つまりは傍から見て、少女はいま“お姫様抱っこ”をされていた。
しかも相手の首に手を回して自ら望んでされているかのように。

「っっ、お、下ろしてぇっ!!」

その近さと密着具合のためか。異性への不慣れか。
顔を赤くし慌てて両手と顔を離して暴れるが彼は意に介さない。

「却下だ馬鹿者。
 こんな柔らかい感触、もといこんな役得、もとい。
 その足であれから逃げられると思ってるのか!」

「最後以外本音がだだ漏れじゃないこのスケベ! 死ね!」

羞恥と怒りの混ざった拳が飛んでくるが彼は痛くも痒くもない。
魔装闘法による防御によってただの殴打ではノック程度の衝撃もない。
感情が昂っているせいか少女はその点に気付いてはいないようだが。

「うぬ、しまった。ついいつもの癖で遊んでしまった」

とはいえさらに心証を悪くしてしまったと軽く反省する。
しかしその発言はさらに彼女の火に油を注いでしまうことに。

「いつもって、あんたその顔でまさか女の敵か!!」

「否定できる要素が何もなくて地味につらい!
 って、あっちがもう待ってくれそうにないぞ!!」

「え、ちょ、あいつ本気!?」

憤りはあれどさすがに突如空から落ちてきた乱入者を無視はできない。
現在何より問題なのは彼らの身を守る薄い魔装闘法やバリア程度を
容易に突破できてしまう攻撃力を持つその三度目の襲撃者なのだから。

「……オレは、負けない、負けない、負けない」

何かうわ言を呟きながら自身の身長以上の光の大剣を彼は担ぐ。
そして白い外骨格の背後でフォトンの輝きが一気に増した。
背面のスラスターがその火を放出して、彼自身を押し飛ばす。

「ちょっとリョウなにし、ひゃあっ!?」

人の踏み込みとは段違いの速度を前に彼女の問いかけは遅い。
先んじて察知していたシンイチが変わらぬ体勢で横に跳べば、
その場に大地を深く割るフォトンの大剣が振り下ろされていた。

「オレは、勝つんだ! あいつに!!」

「な、ななっ、なんでいきなり襲ってくるのよ!?」

「お前と同じ理由だよ、喋るな噛むぞ!」

「同じってなにぎゃんっ!?」

手短に答えながらも薙ぎ払おうとする大剣を真上に跳躍して躱す。
その動きに忠告虚しく彼女は本当に舌を噛んでしまったようだが。

「だから喋るなっていったのに」

剣が通り過ぎた後に着地しそのまま白い鎧と距離を取るように下がる。
完全にこちらを標的と捉えているのか彼はそれを愚直に追ってきていた。

「う、うるひゃい」

彼女の手が文句をいうようにシンイチを殴るが効果は無い。
気にした風もなく追っ手の挙動だけを彼は注視していた。

「って、あ、ああっ、追ってくる、追ってくるっ!?!?」

「わかってるから首を掴んで揺らすな。視界がぶれる!」

相手の動きを見るために後ろ向きで飛び退き続ける形で彼は逃げている。
それを地表すれすれを飛ぶように白鎧はこちらを追いかけてきていた。
少女の目にはそれこそ暴走車に追い掛け回されてるように見えるだろう。
おかげでそんな逃げ方で追いつかれない異常性に気付かれなかったが。

「リョウも身体がいうこときかないの!?」

「あっちは完全に意識が飛んでるがな。
 奴の後ろにまとまって倒れてる連中も同じ状態だった」

正確には後々を考えて同じ状態にした。が正解だが教える余裕はない。
後ろ向きに彼が飛び退き続ける中2-C、Dの姿は小さくなっていく。

「あの状態で放っておくの!?」

「あの状態の奴を連れていく気か?」

輝獣が跋扈するこんな場所でと言いたげな少女に対して、
幸か不幸かこちらしか目に入ってない白き暴走車を顎で示す。
さすがに考えなしの発言だったと思ったのか彼女は押し黙った。

「………もしかしてこいつ、あたしの刀を避けてた時も?
 いや、そんな、だって、うん、でも……」

「また噛むぞ!」

「え、きゃあぁっ!?」

降り注ぐ光弾の雨を避けるように急に律動を変えて横に跳ぶ。
白いガントレットが展開し内部の三連ガトリング砲を覗かしていた。
激しい回転とマズルフラッシュに似た閃光と共に光弾が向かってくる。

「いやあぁっ!!??」

「ちゃっかりそういう所はこっちの武装を取り入れやがって!」

ガレスト銃器の意匠とは違う無骨な形状に悪態をつきながら
左右に動いて射線から逃れ続けるが岩の大地と周囲の木々は
蜂の巣どころか原型が解らなくなる程光弾の雨に削り壊されていく。
あれがむき出しの人体に当たる光景など想像するだけで寒気が走る。

「あ、あはは、当たってない……当たってない……」

引きつった笑みを浮かべて彼女はその光景に青ざめていた。
いくらフォスタのバリアがあってもそれには最低限の防御力しかない。
拳銃の銃弾なら衝撃すら通らないがフォトンの弾丸はエネルギー量次第。
外骨格の出力で放たれた光弾の雨の前では“無いよりはマシ”程度の鎧。
無残に破壊されていく光景に自らの末路を想像してもおかしくはない。
ましてや左右に動いて避けたために白鎧との距離は縮まってもいた。
確実に自分を殺せる凶器を躊躇なく使う理性のない存在が目前。
怯えるなというのが無理な話である。

「…………幽霊の類の方が怖いと思うが?」

異常事態の経験値が異常に多い彼は不思議そうに首を傾げるだけだが。

「な、なに言ってるのよ!?
 あいつら話せばわかってくれるし最悪祓えるじゃない!
 そもそも人に危害加えられるほどの霊なんて滅多にいないわ!
 けどあれはどう見ても聞く耳なしの暴走大特急じゃない!
 っていうか別にあたし怖がってなんかないわよ!」

素朴な疑問のような言葉に彼女は怒涛の勢いでそう答えた。
空元気や虚勢であろうともこの状況でそう振る舞えるなら立派だ。
例えその顔が青ざめており恐怖にひきつった物でも彼はそう思う。
おそらくこれが生身で外骨格と対峙した人間の正常な反応だろう。

「それだけ叫べればまだ大丈夫だな」

「な、なにを偉そうに!
 そうよ、なんであたしがリョウを怖がるのよ!
 伊達にあいつを小さい時から泣かせてないわよあたしは!」

それは自慢できることではないだろう。
思わずそうツッコミかけたがそれよりも早く彼女は呪符を取り出す。
抱えられたままそれを投げつけると白の鎧の注意がそちらに向く。
無残にも何かをする間もなくいくつもの符は光弾の餌食となるが
彼女の目的はそれによって射線がこちらに向かない時間だった。

「来て、カムナギ!」

手を合わせて祈るように刀の銘を呼べば空間が揺らぎ、
勾玉を二つ合わせたような紋章が浮かんで一振りの刀が現れる。
そして自ら意志を持つかのように彼女の手の中に舞い戻った。

「物体側が短距離転移だと? いやこの感じはむしろ召喚か?
 どっちにしろ呼べば来る刀って、マジで漫画じゃないか!」

「うっさい! とにかくこれで、っ、ぁ……」

抱えられたままなれど霊刃を放とうとした彼女の顔が苦悶に歪む。
どうしてか先程より顔色が悪い。唇さえ真っ青になって震えている。
彼女の強がりにも似た口調に隠れて、気付くのが遅れた。

「おい、どうした!?」

「うそ、な、なんで、霊力がいきなりっ……うっ」

その分野における知識が足りないシンイチに原因は把握できない。
しかし急激に魂の力が萎縮したのが見え、霊力が使えないのを察する。
そして呪符が稼いだ時はもう消え、白鎧は次の武装を出現させていた。
人ひとり納まりそうな巨大な砲口がいくつもこちらを向いている。
砲身のみの自立浮遊型フォトンバスターキャノン。その数、十五。

「オレは負けない、お前なんかに負けない!」

「じょ、冗談でしょ、あ、あんなに受けたら!?」

既に発射態勢なのかその砲門にはフォトンの輝きが詰まっていた。
横一列に並ぶその砲口はまるで砲身の壁のように立ちはだかる。
そのまま一斉に発射されれば砲撃エネルギーが文字通り壁となる。
自立浮遊型の砲身ゆえに角度は発射しながらでも調整可能。
多少、前後上下左右に動いた程度では避けきる事は難しい。

「あ、ぁぁ……父さま母さま!」

それを悟ってか嘆くように体を震わせ、両親を呼ぶと体を縮まらせる。
されどその肩をシンイチは掴んで震えを止めるよう強く抱き寄せた。

「大丈夫だ」

「え?」

「少し借りるぞ」

怯えながらも戸惑う彼女の手からカムナギと呼ばれる刀を奪う。
解放された脚が地につくがそんなことを気にする余裕はなかった。

「なにをっ、カムナギは素人が扱え、っぁ、いやぁぁっ!!」

文句とも注意とも取れる言葉は最後まで紡がれなかった。
自分達を照らすフォトンの強い輝きを前に彼女は悲鳴をあげる。
視界を覆うほどの攻撃性を持ったフォトンが一気に襲い掛かる。
十五にもなる大口径の砲身から一斉に発射されるエネルギーの塊。
一発や二発なら避ける隙間はあったが数を揃えての一斉射によって
彼らの前で一つにまとまってフォトンの壁といえる砲撃を作っている。
どこに避けようが一足で逃げ切れる範囲は黄金に染まろうとしていた。

「ふん、たかが武器風情が持ち主を選ぶつもりか?」

そんな実質的な死の壁を前にして彼は奪った刀に悪態をつく。
少女が言うようにこれは素人が扱えるようなものではないらしい。
使い手を選ぶのかシンイチを拒絶して霊力の奔流を叩きつけてくる。
それを平然と無視する彼は知ったことかと力尽くで刀を振るった。

「黙って従えっ!!」

拒絶する霊力を自前の霊力と魔力で強引にねじ伏せ、従わせると
刀身に縛り付けるようにして纏わせ、迫る壁に向けて振りおろす。
フォトンの黄金の輝きが黒色(・・)に染まった刀に切り裂かれて霧散した。

「………………うそ」

周囲の大地は削れ、残っていた自然は跡形もなく吹き飛ばされる中、
彼らが立つ場所から後方だけが元の光景をかろうじて残していた。
腕の中の少女はその所業を見て自然とそんな言葉をもらす。
恐怖に目を瞑ることもできなかった彼女はその一部始終を見ていたのだ。

それは果たしてにどれに対する『嘘』と思いたい感情か。
所有者でもないのに刀を扱えた事か。霊力を使えた事か。
彼女の淡い光と違ってシンイチのそれが黒一色だった事か。
それとも。

「か、刀でビーム斬るとかあんたの方が漫画じゃない!!」

どうやら少女が気にしたのはそういう所だったらしい。
意外にも脅威が去れば即座に復活できるほど精神は図太いようだ。

「………うむ、否定できる要素がまるでないな俺」

彼としてもそこなのかという思いもあるが言い得て妙だと思った。
異世界帰り。魔法使い。変身道具所持。邪神の権能。そこに加わる霊力。

「マジで洒落にならん」

日々順調に人間離れしていっていると卑屈気味に自らを笑う。

「まあ、でも」

今更だとそれを意識の外に出すと刀を振り上げて白き鎧を見据える。
大量のフォトンを放出した砲身はいま力を失い、地に落ちていた。
そして白鎧は新たな武装を出そうとしていたがその動きは緩慢。
隙だらけ、と言えた。

「とりあえず沈め」

黒い一閃を放ち、矢のような霊刃が白い鎧に突き刺さる。
科学の鎧はその役割を果たせず衝撃に宙を舞い岩の大地に沈む。
威力か重量か大地を砕くように人型の窪みを作っていく。

「霊力は基本物体を通り過ぎる。生命体なら一時的にせよ力を奪う。
 固めると物理的な干渉力を持たせる事も可能。この認識で合ってるか?」

これまでの体験からの推察通りなら装甲もバリアも意味をなさない。
霊刃が体を突き抜ければ生命力を奪って感覚を喪失し動けなくするだろう。
不安点があるとすれば、いま霊刃が突き抜けたように見えなかった点。

「う、うん。練度によっては影響を受けることもあるけど、
 霊力は基本霊力じゃないと防御はできな……あっダメ!
 リョウが相手だと当てただけじゃ届かない!」

「そのようだな」

理屈は分からずとも霊刃を胸部に当てたはずの白い鎧は起き上がる。
動きが緩慢だが一度倒れた衝撃ゆえか霊刃の影響かは判別できない。

「あいつとあたしは親戚同士でそういう家系に生まれたの。
 あっちは修行してないけど生まれ持った霊力は段違いなのよ!」

それに阻まれた。“視”れば魂の力─霊力が垂れ流されている。
偶然にもそれが膜となりシンイチの霊刃をギリギリで防いだのだ。

「はっ、これだから才能のある奴は面倒臭い。
 扱えもしないくせに余計な場面で才能(それ)で無駄に抵抗する!」

「ラノベや漫画知識でいきなり使ったあんたが言う!?」

「ふん、情けない事に猿真似しかできなくてね」

じつに腹立たしいと心底不快そうに吐き捨てて立ち上がった白を睨む。
だがそれは彼が憎らしいというよりそんな自分を責めるような顔だ。
この身は経験を真似ているだけの身。誰かの研鑽を模倣するだけの身。
自身から湧き出たモノも積み上げてきたモノさえない反則者。

「所詮は自己満足の話だがな……それも借りるぞ」

そんな個人的な悩みなど今ここではまるで意味も関係もないと、
頭の片隅に追いやると無造作且つ乱暴に少女の衣服をまさぐった(・・・・・)

「え、ちょっ、こらっ、どこ触って、あん!」

「変な声を出すな。やましいことしてる気分になる」

「充分やってるじゃない! このっ、ってそれは!?」

怒りと羞恥から顔を真っ赤にしながら彼から離れるが、
その手に5枚ほどの呪符があるのを見て、彼の目的を知る。
途端に黒い霊力がそこに浸透し符の中央に『縛』の字が浮かび上がる。
あり得ないはずの光景に彼女はその青い瞳を大きく見開かせた。

「うそ……それあたしのオリジナルの符なのに、どうして?」

「言ったろ、猿真似しかできないって」

それは逆にいえば一度や二度見れば真似ができるということでもある。
その意味と脅威を理解してか少女は直前のセクハラも忘れて息を呑む。
戦闘関連に限った話なのが本人にとっては別の意味で切ない話だ。
日常の家事や専門技術となると猿真似さえできないのだから。

「あっ、ダメよ! 符術も結局は同じでリョウには!」

「本人に当てる必要は、ない!」

その場で振り下ろした刀から放たれる黒い霊刃が白鎧に向かう。
そして避ける方向を見越して符を続けて投げ放って、駆けた。

「負けない! 負けない! 負けない!」

そんな見え見えの行動でもソレしか頭にない者に判断はできない。
まるで操られるように白鎧は霊刃を符が投げられた方向に避けた。
バリアに干渉されないままその装甲に全ての符が張り付く。

「あ、そうか外骨格には!」

「これに抵抗する手段はない」

符に込められた霊力が縄となって幾重にも巻きつき縛り上げる。
中の人間にその影響力が届かずとも外の鎧を止められては同じこと。

「そして垂れ流す程度で何度も耐えられるわけでもない。
 強くなりたいならもっと自分を精進してこい!!」

刀の間合いに踏み込んだ彼の一刀が白き鎧に黒い一撃を刻み込んだ。
垂れ流しの霊力の膜は紙切れほどの防御力も発揮できずに斬り裂かれ、
装着者が短い苦悶の声を上げるとふらつきながらも力尽きて倒れた。

「手間かけさせやがって、今晩はこれで打ち止めにしてほしいぜ」

そんな愚痴とも切なる願いとも取れる言葉をこぼしながら、
倒れ伏した少年の頭部に手を翳してそのリングを魔力で消し飛ばす。

「これで残り2割7分か……節約できたほうだな」

魔装闘法を最低限しか使わなかったおかげでその程度で済んだ。
だが最近回復量が4割を越えない。その前に使用せざるを得なくなる。
そして残った2-C及びDの生徒数を考えれば2割残るかは怪しい。
何か手段を講じるべきだと考える中で少女が荒い息で駆け寄る。

「リョウは無事!?」

「意識を飛ばしただけだ。直接斬り込んだわけじゃない」

あくまで刀身に纏わせた霊力を叩き込んだだけであり外骨格に傷はない。
傷を残すのは誤魔化しは難しくここまでの消耗を考えれば割に合わない。
未だシンイチを拒絶して霊力を削ってくるこの刀も割に合わないが。

「暴れてた原因も取り除いたから問題はもうない。
 ま、意識があったお前と違って記憶は残ってないだろうが」

「なっ、これだけのことして、おい、て……あれっ?」

「おい!?」

その事実に激昂しかけた少女の体が突如ぐらりと揺れる。
咄嗟に手を差しのばして支えるが彼女は表情をより苦悶に歪めた。

「あっ、ぐっ、なにこれ、こんなの初めて、あぐっ!」

顔面は今まで以上に青く、唇は白い。体の震えが止まらない。
霊力の消耗や死の恐怖のためだと考えていたがそれだけではない。
他の何かが直接的な原因だと直感するが答えが出そうで出ない。

「いったいなにが……ってああくそバチバチうるせえな!
 お前の主人の容体が悪いんだ少しは黙って………待て、カムナギ?」

知ってるはずの何かが出てこない。
それを刀のせいにしかけて、不意にその銘が引っかかる。
カタカナで考えていたがそれは日本刀。正確には漢字表記のはずだ。
ならばカムナギという銘には何の漢字を当てはめることができるのか。
彼が知る中でその音に類似し意味を持ちそうな文字はそう多くない。

「……神を、薙ぐ?」

「う、あ、なんか懐かしいな、それ。
 カムナギは神を薙ぐ刀。大昔、悪神を断ち切った刃。
 本当か知らないけど母さまによくお話、聞かせて、う、ぐっ……」

そんな御伽噺を母親に聞かせてもらったと力無く少女は笑う。
具合の悪さで意識が朦朧としているのか敵意もなく思い出を彼に語る。
だが彼女のそんな症状を含めてその逸話はシンイチには全く笑えない。

「だからか、くそっ!」

慌てて彼女を抱え上げると休ませるために木陰に移動して横にした。
体を冷やすまいと自らの学生服の上着を被せようとするも途中で止める。
代わりに唇同様に白くなっている手にカムナギを強引に握らせる。

「こいつは返す。しっかり握ってろ。
 代わりに少しフォスタを借りるぞ、先生たちに連絡したいからな」

「……」

声を上げる元気もないのか黙って頷くとそのまま目を瞑った。
それを確かめずに彼女のフォスタを持って一気に距離を取る。
遠目から寝息を立てている様子を見て、少しばかり安堵した。

「………霊感が強すぎると引き寄せるとはよく聞くが、
 何も異世界の邪気まで引き寄せることはないだろうに」

カムナギの拒絶も彼女の体調不良もそれが原因だった。
これが怨霊怪異の類なら彼女も自らを守れたのだろうが、
理が違う異世界の邪気など耐性や抵抗の術などあるわけがない。
それでも当初その様子が見えなかったことから平時ならば
鍛え上げた霊力で身を守れていたのだろうがそれを消耗し、
怒りや恐怖を心に抱いたことが呼び水になってしまった。

「知ってたはずだろう……まだ抜けてる気か」

そんな状態で密着などしていればより強い影響を受ける。
上着を貸せなかったのも自身の残り香が悪影響だと判断したからだ。
いくら完全に制御し抑え込めても一度変わった己が属性は戻らない。
この身は既に“そういうモノ”になってしまっているのだから。
視え過ぎる者には近くにいるだけで良くない影響が出てしまう。
あちらには所謂『本物』が少なかった事といても教会の者ゆえ
あまり気にしていなかったのがこんな所で悪影響を出してしまった。
その力を認めた時点で彼女との接触はもっと気を使うべきだったのだ。
尤もあの状況では彼が抱えて庇うしか安全は保障しかねるのだが。

「今はあの刀の逸話と力を信じるしかないか」

例えその話が偽りでも長くそう信仰されればその概念を持つ。
実際にシンイチを拒絶し続けた以上あながち嘘とも思えない。
本体である自分はともかく纏わりついた邪気程度なら祓えるはずだ。
それを願いながら彼はその場で仰向けに倒れるように崩れ落ちた。

「ああぁ、くそっ! たったあれだけで霊力が底ついたぁ、だりぃ」

魂に宿るそれが失われてる気怠さに四肢を投げ出す。
魔力消耗とは違う感覚とその少なさに苦笑いを浮かべる。
彼が行ったのは5枚の符を放ち、四度刀を振るっただけ。
しかもカムナギの拒絶を含めて全て魔力で補助してもいた。
魔力を併用しなければそれらを満足に行えない証明でもある。
少女は数えきれないほど霊刃や霊矢を飛ばしてきたというのに。
しかもそばにいたのが彼でなければまだ余裕もあったはずだ。
それは鍛えた者とそうでない者の差、というだけではない。
元より彼はその大元である魂の力は扱えていた。
ただ鍛える余地さえろくになかったのだ。

「………一般人の魂とはよくいったものだよな」

異世界最高峰の魔法使いの言葉を思い出して笑う。
その存在力も大きさも許容量もその程度でしかない只人の魂。
尤もその表現の真の意味は本人以外には笑えたものではないが。

「ああ、しかしいきなり借り二つか」

そんなどうしようもない事柄など考えるだけ無駄だと切り捨て、
その返し方を考えながら上体だけでも起こすと携帯(フォスタ)を操作する。
さすがに迷惑をかけた相手の個人情報を勝手に見るのは気が引ける。
だからここは頼れる教師(フリーレ)の手を借りようと彼は悪い顔で笑った。

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