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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

試験編 第一章「テストは利用するもの」

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04-16 集まってくる“厄介”








フィールド内の地図と地形データを表示させながら闇夜の森を駆ける。
追ってくる者達を決して引き離さない(・・・・・・)ように速度に注意して。
その顔には追われる者特有の逼迫した表情はまるで無くどこか嬉しげだ。

──存外に良い教師じゃないか

当初はこれほど信頼できる相手だとは思っていなかった。
バトルマニアでそれ以外は色々残念な美人という認識が強く、
ある種の信用はしていたが、それは信頼とまでは行っていなかった。
付き合いを重ねていく内にそれだけでない部分が見えてきて今日のあれだ。
未熟な部分は多々あるもののあそこまで生徒優先の思考は今時珍しい。
耐久への自信もあったのだろうがあそこでああ動けるのは評価に値する。
何気にその動きに驚いて、シンイチ自身は若干動きが鈍ったほどだ。
どこか本当に鬼教師であったある女性と似た部分が見えて頬が緩む。

現存する神装霊機の数少ない担い手でありながら次代を育てていた教師。
神の武具を徹頭徹尾ただの道具か武器としてしか扱わない破天荒なシスター。
教会の教義より自らの命よりもただ一人の少年()の命と未来を優先した女性。
代償に自分自身の命と魂。そして神装霊機そのものを支払って、
彼女は邪神に抗う力を直接シンイチに打ち込む事に成功した。

「ヒト一人救うのに大盤振る舞いしすぎだろうに」

釣り合いが取れていないと衣服の下の三日月(ペンダント)を無意識に押さえる。
そんな自分に気付いてすぐにその手を離して誤魔化すように振った。
フリーレに色々と聞き出されて感傷的になっていると自嘲する。
少し気を許しすぎたかと思うがそれに値する人物だとも思っている。
だからこそ当人以外にとっては信じがたい話までしたのだから。
あれを誰かに自ら語ったのは必要性ゆえもあったが初めてだった。

「……とはいえこっちに戻ったら弱まると思ったんだがな」

──いくらなんでもそれは虫が良すぎたか
思わず呟いた愚痴を内心でさらに愚痴る。やはり変わらなかったと。
これでは3年ここで過ごす事もできるかどうか怪しい気がしてくる。
そうなった場合の身の振り方を考えておかなくてはと頭に記憶する。
転入して約一ヶ月程度で考える話ではないなと苦笑しながら。

そしてそこで足を止めた。
木々の囲いを抜けた先にあった開けた場所。
森を抜ければ美しい星空が見え、硬い岩の大地があった。
1-DがBランク輝獣と戦った場所と似た環境で彼は足を止める。
途端その周囲を取り囲む気配が現れる。暗視のスキルなど使わずとも
鍛えられた夜目はその数と姿をしっかりとシンイチに教えていた。
その姿は頭には硬質的なヘッドギアと胸部や四肢を覆う簡易装甲服。
後ろから追いかけてくる数さえ含めればおおよそ60人前後の大所帯。
中には各種兵装を展開している者さえいてまるでSF映画における
武装した名も無き兵士たちに囲まれるワンシーンのようだった。

「おい」

尤もそれは外見だけの話ではあり中身には呆れの入った声が向かう。
そのメンバーに予想外の者は今の所いないが簡易外骨格(プロテクター)姿は予想外だ。

「それがないと夜の森とはいえあの速度で走る事もできんのか」

ついてこれるように加減して駆けたつもりの彼としては頭が痛い。
これで自分より学年が上の2年生なのかと学園の教育に疑問が出る。
妙な軍事バランスである以上どこまで本気で地球人を鍛えられるのかと
聞かれれば彼も答えには困るし簡易外骨格は野戦向きの装備ではない。

「っ、ははっ、いやあナカムラくん随分と足が速いね。
 プロテクター無しでこの暗い森を軽々と走り抜けるなんて」

一人歩み出た男子の顔に浮かぶ隠しきれない驚きに余計に呆れながら、
とりあえず誰も息を乱していない事だけは評価しておこうと心に留めた。

「……何か御用ですか2-Cクラス委員のオクムラ・レイジ先輩」

「っ、へ、へえ、僕のことを知っているのかい?」

「ええ、そりゃもう。
 あんな下手くそなラブレター送ってくる妙な人達のことですから」

「っっ!?」

名前を含めて言い当てられた彼の素直な驚きっぷりに口許に笑みが浮かぶ。
反応が出やすい分かり易い相手はじつに弄り甲斐があると思ってしまう。
時間的余裕があったのなら主だった面々や書き手を名指ししたうえで
彼らが用意した偽ラブレターの音読添削をしてやりたかったと悔しがる。

「な………ふっ、ふふふ、そこまで解ってるなら話が早い!
 いや、じつに嬉しいよ。君のような優秀な人間が入ってきてくれて!」

口許だけで笑う顔の裏でそんな事を考えられてるとも知らずに彼は
どこか興奮した様子で演説でもするかのようなアクション付きで語りだす。
周囲もまたその言葉に賛同を示すように裏で雄たけびをあげていた。

「君ならきっと僕たちの同志となってくれると思っていた!
 誰が相手だろうと我を通す君の在り方はじつに気持ちが良い!
 この学園は、いや世界は歪んでしまっているのだよ!
 ステータスだけ見て本質を見ようとしないあんな世界に毒され、
 僕たちが誇っていた文化や歴史は汚さ、ぐぎゃらばっ!?!?」

「うっさいわ、バカども!」

それを罵声と共に彼の顔面を殴りつけてシンイチは黙らせた。
ヘッドギアに挟まれた顔を潰されて硬い岩肌の地面に倒れて目を回す。
興奮気味だった周囲はその予想外で目にも止まらぬ一撃に呆然とした。

「ちょっとは聞いてやろうかと思ったが、もう食あたりな気分だ。
 どうせお前ら成績が上がらない事に不満なだけだろうが」

「なっ!?」

「俺達は世界の未来を想って!」

「この学園はおかしいのよ! 私たちが変えるべきなの!!」

「折角同志に迎えてやろうとしたのに……よくもオクムラさんを!!」

既にほぼ全員が揃ってきた2-C及び2-Dの生徒達の合唱を
面倒臭さそうに眺めながら故意に馬鹿にした口調で声をかける。

「あ~、はいはい分かった分かった。御託はいいからとっとと来い。
 お前らは運の良いことに頭にリングはめた哀れな被害者だからな」

「は?」

訳が分からないという顔を浮かべる生徒達の頭にはヘッドギアでも
隠しきれていないフォトンのリングがシンイチの目にはっきりと映る。
その輝きは技術科3-Bに比べるとわずかに鈍っているが同じモノ。
彼ら2-C及び2-D総勢約60名が精神スキルの次の犠牲者だった。
一週間前から続く偽恋文を考えるなら“最初の”かもしれないが。

「頭叩くだけにしとくからさっさと来いよ、なぁ。
 くそったれで甘ったれな元・御曹司に元・社長令嬢の皆さま方?」

嫌味ったらしくそう指摘してやれば大半の生徒の顔に怒りの赤が灯る。
偽ラブレターの犯人たちのその身元は試験前に完全に把握していた。
8年前まで権威や立場ある物たちの子という立場だった彼らはしかし、
親たちが時代の変化に対応できなかったため落ちぶれてしまっていた。

「人が傅いて当然? 甘やかされて当然?
 なんでも周りにやってもらって当然?
 ハッ、自分じゃ1円も稼げない奴がなに勘違いしてんだよ」

ただの偶然か根っ子の根性の無さゆえの必然か。
今期の2-C・2-Dはそういった立場の生徒が集まっていた。
彼らは再起をかけて親に学園に入らされたが成績は振るわず下位グループ。
持て囃されるのが当然の幼少期を過ごした彼らはその不満が溜まっていた。

──なんともふざけた話だ
ここに来れているだけで充分恵まれているだろうにと内心毒を吐く。
本音をいえば全員今ここでその心も体も折ってしまいたい衝動がある。
しかしながら内心が腐っていようがこの行動は彼らの意志ではない。
それを知る自分に許されるのは少々強めに頭を叩くぐらいの事だろう。

「いわせておけばオールDの落ちこぼれ風情が!」

「ステータス主義を否定してたんじゃないのかお前ら、くふふ」

「黙れ! 俺たちがこんな目に合うわけがないんだ!」

「下々の人間は私たちの言う事をただ聞いてればいいのよ!」

「ふふっ、その下々な最弱一人囲んで何もできない腰抜けが世界を変える?
 なんだお前ら新手のお笑い芸人か? ならけっこう面白かったぞ滑稽で」

「おまえぇっ!!!」

だからあえて彼らを挑発して完全に精神スキルの制御下に落とす。
リングの輝きが少し前に見た技術科3-Bの状態に似通っていく。
あれを弾き飛ばしたあと彼らは自分達の言動を全く覚えていなかった。
これからすることを思えばそれを明確に覚えてもらっては困るのだ。

「こっちは2クラス丸々いるんだぞ! 袋叩きですむと思うなよ!!」

「どうぞご自由に……お前ら程度に出来るのならな」

「っ、馬鹿にするなっ!!」

精神スキルのせいか元々の血の気の多さからか。
シンイチの心底馬鹿にした顔と声が彼らの最後の理性を消した。
彼を取り囲んでいた者の中で一番内側の輪を形成していた生徒達が
一斉に大地を蹴って跳び上がり、各々の武器をシンイチに向けた。
学園では下位グループとはいえ簡易外骨格装備の2年生たちだ。
その一跳びは軽々と2mを越えた高さに到達する。しかし。

「………」

彼は沈黙したまま数歩横にずれた。頭痛に耐えているような表情で。

「がっ!?」
「ぎゃっ!?」
「あだっ!!」

その上空で実に間抜けな生徒の悲鳴があがって彼らはそのまま落ちてきた。
10人ほどの人間がバラバラと一瞬前までシンイチが立っていた場所に。

「そりゃその人数で同じ相手に一斉に跳びかかればそうなるだろ」

呆れた表情で重なり合うように地面に伏している生徒を見下ろす。
似たり寄ったりなステータスで同じ装備で強化された人間の跳躍力だ。
そこに大差は生まれずタイミングと目標が同じなら空中での激突は起こる。
普通はそれを考えて動くものだが精神スキルのせいで冷静ではなかったのだ。
若干、そうであって欲しいなという彼自身の願望も入った考察だが。

「このっよくも!」

「自滅だよね、それ?」

恨みがましい怒声と共に向けられた周囲360度からの銃口に苦笑もでない。
そのマズルフラッシュを視認した彼は上体を大きく仰け反らせて光弾を避けた。
視線が正直過ぎて誰も下半身を狙っていないのが突っ立っていても察せられた。

「きゃっ!?」
「うわっ!?」
「ぐぅっ!」

見上げた格好の視界を光弾が過ぎ去れば悲鳴と苦悶の声が聞こえた。
上体を元に戻せば複数の生徒が倒れ、蹲っていて溜め息が零れる。
彼らの簡易外骨格には薄く焦げたような痕さえ残っていた。

「囲んだ奴に向けて方々から撃つんだ。流れ弾ぐらい考えろよ」

その考える力を奪うスキルの影響下だという事は承知しているが、
彼らの成績を見る限り素でやりかねないので痛くもない頭が痛い。

「馬鹿にしやがって貧乏人が!!」

「……お前の家よりうちは裕福なんだがな」

主に義母・凜子の収入のおかげで、と父を思って苦笑しながら
大金鎚を振り上げてくる男子の家計事情を考えてツッコミをいれる。

「ほざけ!!」

言葉を聞いているのかさえ微妙な受け答えと共に振り下ろされる大鎚。
その重量と勢いは平素の彼なら受ければ大怪我必須の一撃といえる。
しかし僅かに筋力と耐久を引き出してしまえばその限りではない。

「ぐっ、なっ!?」

片手を軽く上げて人体すらプレスできそうな大槌の勢いを完全に殺した。
むしろシンイチの手に当たった衝撃で男子生徒の方がたたらを踏んだ。

「はぁ……武器を振り回す、振り回される以前にもうちょっと鍛えてこい三下!」

そのふらつく身体を蹴り飛ばし、続こうと─見えるだけ─の周囲にぶつけた。
大槌を持った体が宙を舞って幾人もの生徒を巻き込んで地面に転がっていく。

「………はあぁぁぁ………なんなんだろうな?
 ここまで出来損ないだと逆にこっちがイライラする」

深いため息を吐きながらがっくりと肩を落とす。
相手を怒らせて暴走させるはずが対峙してるだけでこちらに苛立ちが募る。
確かに1-Dに比べるといくらか上ではあるのだが五十歩百歩といえよう。
むしろ自らの不出来に自覚がある分、彼らの方がマシともいえる。

「こいつら一人ずつから精神スキル吹っ飛ばすのか。
 うわぁ、考えるだけで気が滅入る……やる気出ないなぁ」

その人数と手間を思うとげんなりとしてくるシンイチである。
気を失わせてあとは全部フリーレに押し付けようかと考え出す。

「……るんだ…」

「ん?」

そこへ起き上がった誰かの呟きが耳に入る。最初に殴り倒した生徒だ。
続くように無様な空中衝突や誤射で被害を受けた生徒達も立ち上がる。
頭にはまるリングと焦点の合ってない瞳を怪しく輝かせながら。

「っ、なんだ?」

「やるんだ! 僕はできるんだ! そういってくれたんだ!」

「戦えば認められる! 認めてくれる!!」

「全部壊す、全部壊す! そしたら褒めてもらえるんだ!」

「撃って、斬る、撃って、斬る……出来るから私をちゃんと見て!!」

一度倒れた者達の様子がおかしい。まだそうではなかった生徒たちも
まるで呼応していくように頭のリングが同様に妙な輝きを見せていく。
そして全員が口々に戦うこと暴れること破壊することを叫ぶ。
同時にどこか何かを求めるかのような願いも口にしながら。

「……胸糞悪い……妙な暗示もかけられるのかそいつは!?」

簡単な指示を仕込んでおくことができるのだろうと推測する。
自然とそれを思い込めるように彼らの願いと連動するような形で。
そこまで追い込まなければ陽動役としても実力不足とされたのだ。

「ハッ、ちょっとやる気出た」

まだ見ぬ首謀者を鼻で笑いながら誰もを慄然とさせる形相を浮かべる。
現状その顔を誰も認識できていないのは幸か不幸か判断に難しい。
誰もその危険性を知ることがなかったのだから。

「ちょっと痛いのは我慢しろよ」

誰にともなく呟いて、硬い地面を蹴って弾丸のように跳んだ。
その勢いのまま両手で適当な生徒の頭を掴んで木々に叩きつける。

「だっ!?」
「ぐあっ!?」

衝撃で意識を奪いながら同時に純フォトンをぶつけてスキルを消し飛ばす。
その彼の動きに反応した集団に向けて赤き銃が抜かれて()を吹く。
圧縮された空気の塊が彼らに悲鳴さえあげさせずに吹き飛ばした。

「へぇ、人をぶっ飛ばすにはちょうどいいなこれ」

威力や効果範囲そして自身の消耗の無さがいいと内心絶賛する。
同時に取り出した蛇腹剣をもう一方の手に握って、軽く振るった。
それが合図となったかのように鋼の大蛇は野に放たれ、空を這う。
彼の意思が乗った刀身は生きているかのように弧を描いて動き、
生徒達の背後に回り込むと蜷局を巻くように彼らを縛り上げた。

「一人ずつはちょっと面倒だから、なっ!」

わりと本音をこぼしながら伸びた刀身を引き寄せるように腕を引く。
すると一本釣りのように彼らは宙を舞い上がり、そのまま振り回された。
縛られた生徒達の塊を鉄球のように扱って彼は周囲を一掃していく。
詰め寄ってきていた別の生徒達は吹き飛ばされ、木々はなぎ倒される。
そしてその一撃のために振り回された彼らはもう用無しとばかりに、
蛇腹剣の柄ごと軽々しく且つあっさりと手放された(・・・・・)
途端、同じ事しか叫び続けられないはずの彼らは絶叫をあげる。

「あべっべべっっ!?!?」

「ぎゃあああぁぁっ!?!?」

「があああぁぁっ!?!?」

「これはこれで便利だよな」

安全装置による電撃を浴びせられる生徒達の姿にうんうんと頷く。
本来想定されていた使い方ではないが武器の特性と妙にマッチしていた。
良い物を手に入れたと満足しながら彼らを背に他へと視線を向ける。
そこにはそんな光景が見えながら武器を構える残りの生徒の姿。
正気のない彼らに嗜虐的な笑みを浮かべた彼の口調は何故か明るい。

「あと半分ってところか。心配するな、傷を残すヘマはしないからさ」

何の慰めにもならないと正気であれば誰しもが思っただろう。
見た者を慄然とさせる凶悪な笑みを浮かべながら彼は飛び込んだ。
あとに響いたのは何かの衝撃音と誰かの反射的な苦悶か苦痛の声だけ。
そして2分とかからない内に残りの生徒たちの意識も闇に落ちた。

だがしかし、彼らはもしかしたら幸運だったのかもしれない。
少なくともこの出来事を脳に記憶する事はなかったのだから。
何せ間違いなくトラウマになるほどの一方的な蹂躙であった。

「…………うむ、やりすぎたか?」

全員をなぎ倒し周囲を見回すとどこか困ったように彼は首を傾げた。
60名にも及ぶ生徒が意識を失って倒れ伏す光景は一種異様だ。
しかも周囲の木々はすべてなぎ倒され、岩の大地はひび割れている。
ここで起こった出来事の激しさを語るその光景とは裏腹に
彼自身は無傷であり生徒達にもこれといった外傷は無かった。
一対多において単独の方の一方的な勝利だけでも異常だが、
双方に全くケガがないという異常さもまたそこにはある。

「まあ外にも内にもケガはさせてないから、別にいいか」

未だにその辺りの境界線をいまいち把握できていない彼だった。




───────────────────────────────




野外フィールドほぼ中央部に設置された仮設テント。
そこはこの試験の監督官たちが本部とした場所であった。
試験官たちとの役割の違いは採点をしないだけで試験中の
様々な不測の事態への対処や不正の有無を探る役割を持つ。

「────以上の先生方はパトロール班と合流を。
 警戒を強めて、些細な異常もすぐに本部へ報告してください」

「わかりました」

「ドゥネージュ先生、ブラウン君が到着しました!」

シンイチと別れて外骨格で本部に戻った彼女は仕事に追われていた。
一クラスほぼ全員の暴走など前代未聞でここの教師陣も戸惑っており、
苦手でも場数を踏んでいる分彼女(フリーレ)の指示は的確で必要だった。
回収部隊を用意した時とは立場が逆になったと後々彼らは語ったという。

「ならすぐに事情聴取を。流れをまとめておいてください。
 ああ、それと運び出した生徒や担当の先生方の受け入れは滞りなく?」

「はい、既に病院側から順次検査中との報告が」

原因は取り除かれているがどの道精密検査は必要である。
体裁を整える意味でもこの事態に巻き込まれた被害者としても。

「結果が出たら私のところにお願いします」

「はい!」

総合監督代理として各員各所に指示を出しながらフォスタの画面を覗く。
監督官の中に件のリングを仕掛けられた者は見受けられず安堵する。
そこへ初老に入った男性教師が労いと共に声をかけてきた。

「お疲れ様ですドゥネージュ先生。
 しかし何とも嘆かわしい。誉れあるガレスト学園の生徒と教師が
 試験中に揃って暴れたばかりか記憶が無いなどとふざけた言い訳を。
 生徒も含めて厳しい処置を下すべきではありませんか?」

本音を言えばそんな事は後にしてくれと怒鳴りつけたかった。
しかし相手は実技担当の中では一番古参の教師であり軽視はできない。
だが古参ゆえ学園に思い入れが強いらしく体面を一番に気にするので
フリーレは内心ではあまり快く思っていない先輩教師ではあった。

「記憶が無いのは事実だと考えています。
 見ておられないので仕方がないのでしょうが。
 あの状態は演技や嘘で出来るものではありません。
 パデュエールにルオーナ、そして私が証人です」

「うむっ……そ、そう、ですか。
 成績優秀者と次期当主の方々がそこまで断言なさるなら……」

そのうえ肩書きや立場に弱く、それらで意見をすぐ引っ込める。
その程度の意思と意見ならば最初から黙っていろと思いながら
いつもの厳しい表情で冷静に今するべきことを淡々と主張した。

「それにまず他に同じ状態に陥った者がいないかを調べるのが先決かと」

「せ、先生はまだ出てくると?
 こんな馬鹿なことがまだ続くなど……」

あり得ないと言いたげな顔に溜息を吹きかけたい気分の彼女だ。
ガレスト人ではあるがここに居過ぎた弊害か警戒心が薄れている。
ただ生徒や教師が暴れた程度にしか考えていないのに内心呆れた。
ここは確かにいま平和ではあるが平穏とは無縁な場所だというのに。
閉鎖的な都市なため住む人は外からの害意に鈍感になってしまうのだ。

「それを今調べているのです。いらぬ混乱を避けるため
 事情を知るパデュエールたちに手伝ってもらっています。
 彼女らならすぐに結果を……失礼、その連絡が来たようです」

まだどこか納得していない様子だが彼女は知った事ではない。
今はアリステルから入った通信を聞く方が何十倍も有益なことだ。
彼に聞かれても面倒だと適当な仕事を命じて机につくと通信を繋ぐ。

『フリーレ先生、いくつか不味いことが判明しました』

「……開口一番いってくれるなパデュエール」

開いたモニターに出る苦々しい顔のお嬢様に彼女も似た表情となる。
それだけで他にも犠牲者がいたことを克明に告げていたからだ。

『失礼しました。ですがこの事態です。
 余計な言葉は省いた方が良いかと思いまして』

「……なんでお前が同僚じゃないんだろうな」

『え?』

「なんでもない……その不味いことを報告してくれ」

『はい、わたくしとルオーナさんが調べた事を合わせると
 直接会えた生徒や教員に例のリングはありませんでしたわ。
 ですが2-C、2-Dの全員が行方知れずになっています』

「ああ、あの集団か」

シンイチを追いかけていた者達の反応を思い出して微笑を浮かべる。
一番の適任者の所に自分達から来てくれるとは手間が省けたと。

「そちらはいい。多分あの男がもうどうにかしてる頃だろう」

『あら、なら安心ですわね。
 しかし行方知れずな生徒は他にもいるのです。
 そしてそちらの方が厄介で不味い事態になっています』

「ん……聞きたくはないが聞くしかないか。誰がいない?」

対応に不安はなくとも三クラスの暴走というだけで既に頭が痛い。
今後必要になる事後処理を思ってげんなりとするフリーレである。
原因を隠したままどこまで彼らを庇えるかが非常に気が重かった。
だがアリステルの次の報告に彼女はそれを吹き飛ばされてしまう。

『2-Aと2-Bからそれぞれ1名ずつ生徒が行方知れずです。
 その内特別科(Aクラス)の生徒は先程まで続いていた試験中突如暴走。
 試験官を打ち倒し外骨格を装着したまま飛び去ったそうです』

「なっ、よりにもよって外骨格を装着したままだと!?」

その事実を知らされ思わず声を荒げるフリーレ。
だが学園で上位に位置する生徒が例え外骨格を着ていようと
決して捕えられない相手ではなく今いる監督官たちなら対応は可能。
問題はそれが可能となるまでの間の起こるかもしれない可能性だ。
もし外骨格装着者がいない他のクラスが襲われれば目も当てられない。
さらに今の時間は大半のクラスが休眠をとっていて無防備といえた。
そこを襲撃などされたらと思うと彼女は気が気ではなかった。

『今ルオーナさんが探していますがフィールドは広大ですので……』

「あの暴走状態で飛び回られたら一人では探し切れんか」

フィールドから出た反応は何もない以上中にいるのは確実だが、
面積としては四国のほぼ半分ほどの面積を使っている広大な大地だ。
フォスタのレーダー範囲を最大にしても単独で見つけるのは至難の業。

『なのでそちらでフォスタの反応を探って頂きたいのです。
 確か緊急事態を想定して個人ごとに識別信号が用意されていたはず』

「分かった。
 総合監督として使う必要があると判断する。その生徒の名は?」

『……厄介なことに“あの”シングウジ・リョウです』

「っ、そこもよりにもよってか!」

それは学園のランキングにおいて3位に名を置く生徒。
日本人としては校内トップのステータスと成績を持つ少年。
筋力ランクでは学園最強のフリーレと僅差という厄介さである。
言動にやや難がありシンイチとは違った方向で人間関係が壊滅的だが、
その裏に隠した強くなろうとする姿勢を彼女は個人的に高く買っていた。
しかしその力が暴走状態にあるならその評価はより不安を煽る。

「すぐに調べる!
 シングウジの識別信号は……見つけた、なっ!?」

フィールド全体を映し出したマップ情報。
そこに出た位置情報とその進行方向を確認した彼女は絶句する。
そして脳裏につい先程の会話が思い返され、一気に鳥肌がたつ。


──騒動は集まってくるぞ、ここ()


彼が向かっているのはまさしくそう言った少年が走り去った方角だった。
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