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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

試験編 第一章「テストは利用するもの」

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04-15 本当の軍事バランス

「っ─────────」

まさに絶句という言葉が正しい表現であろう。
それはこの3年の教師生活において初めてされた質問だった。
これまで足を止める事はしなかった彼女はそこで初めて歩みを止める。
目の前の少年はそれに気付かぬふりで数歩先に進むと体ごと振り返った。

「ねえ先生、答えてよ。そうなったらガレストは必ず(・・)勝てる?」

「──────────」

まるで悪魔の微笑みのようだと。
彼女は自分の血の気が引いていくのを、そして感情が凍るのを感じる。
これは易々とは答えられる話でも、また誤魔化せる相手でもない。
勝ち負けを答えるのは比較的簡単だがその理由は簡単に口にできない。
本能的に精神が戦闘態勢を取ってしまうほどに危険な質問だった。

「……………」

しかし逆をいえば警戒心を前面に出した顔での完全なる沈黙が
元軍人のフリーレにできるその質問への最大限の返答ともいえた。
彼女にはそれで相手が察するであろうと判断していた。しかし。

「うん、それが限界なのも分かるけど、
 今はもう(・・・・)そういうわけにも、いかないんだよねぇ」

そう考えた事すら読んだ上で、そこで終われないと少年は首を振る。
そして踵を返すと背中を向けて一人でより深い森の中に入っていく。
フリーレは精神状態を何も変えずに黙ってそのあとを追った。
少し木々の囲いの中を進んでいけば星明りさえ届かぬ闇がそこにある。
フォスタによれば半径300mに人や機体の反応は自分達以外にはなく、
例え超望遠のレンズがあろうとも密集した枝葉に阻まれ何も見えない。
夜間森林戦体験のために作られたそこは人工且つ天然の結界。
そこでようやく少年は独り言のように語りだした。

「俺はここに来たばかりの頃まで、技術力に大差がある限り
 地球とガレストで戦争になっても戦いにすらならないと考えていた」

語る声には先程まであったわざとらしい明るさは微塵もない。しかし。
スキルによって暗視状態の眼に映る少年はどこか落ち着いてもいた。

「馬鹿だよね。そんなことその頃の俺に判断できるわけがなかったのに」

むしろ彼が喋るごとに落ち着かなくなっていくのは彼女の方だった。
だから少年の発言に相槌さえ打てずにフリーレはただ黙って耳を傾ける。

「だって俺、ガレストは勿論のこと地球の軍事にも明るくないド素人。
 生の拳銃だってこの前初めて見たような奴に何が分かるってんだ」

そんな者が行った勝手な想像の結果など無意味だと彼は切って捨てる。
だがそれは多くの人々がそうだと思い込んでいる常識の事でもあった。
顔だけは平静に、されど動悸が跳ね上がったのを彼女は感じた。

「けど、そんな素人でも大雑把にどんな兵器があるかぐらいは知ってる。
 そしてここに来てたいていのガレスト武装や兵器をいくつも見た。
 実物から資料映像、実戦映像までそれこそずらりとね」

暗闇の中で意味ありげに語る彼に身震いする。
この少年は多くの授業に出席はしても参加はしていない。
されど資料室の閲覧はクラスごとの制限はあれど自由であり、
学園内を歩くだけでそれらを目にする機会はごまんと存在する。
そのため決しておかしな発言ではないがフリーレはまるで
全ての軍事情報を覗かれたような錯覚さえ覚えてしまう。
クトリアにそんなデータが存在しないと分かっていても。

「いうまでもないけどガレストの主武装は人が纏う外骨格だ。
 主な兵器といえるのは地形に対応させた各種ガードロボ。
 あとはそれぞれの都市を防衛する対輝獣用の砲台が基本だよね?」

間違いが悔しいぐらいに無いため息が詰まる思いだ。
授業をまともに受けてない癖に基本はしっかり押さえている。
教わるのではなく自分で裏を取りながら調べているのが見える。
独学とはそういう事かと色々と問い詰めたい気分だった。

「これらに守られている都市を攻めるのは簡単なことじゃない。
 近付けばエネルギー砲弾の雨で、それを突破しても頑強なロボの壁。
 そして遊撃戦力として縦横無尽に戦場を舞う外骨格の軍勢がいる。
 防衛隊としても侵略軍としてもひじょうに強力な軍隊だろう」

地球の戦車を超える頑強さと踏破能力と火力を持つガードロボ。
人間サイズで空を舞い、銃弾や光弾程度では傷も付けられない外骨格。
それらが数を揃え統率された軍となって攻めてくる光景は圧巻といえる。
電光石火で要所を押さえられ侵略された地球が目に浮かぶと彼はおどけた。
されどそれは一瞬で、即座に刃のような鋭さが彼の目に宿る。

「だけどそれは歩兵と騎兵だけの軍ともいえる。
 互いの武器が届き合う戦術の領域で強さを発揮できる軍隊だ。
 けど、地球の軍隊が最も得意とする戦場は………たぶん違う」

知らず唾を飲む。知られていると確信して頭で警鐘が鳴る。
交流しないわけにもいかず、されどし過ぎたくもなかった誰かの思惑。
表向きの事情も嘘ではないもののここが閉鎖的な大きな理由の一つが
とある事実をぼかすためであったなど誰が知ろう。そのはずだったのに。

間違いなく彼は勘付いているとフリーレは知らず体を固くする。
少年が指摘したい事が分かってしまうために精神が軍時代に戻る。
無意識に彼の立つ地点を斬りやすい自分の間合いに移動していた。
それは手足の長さや身長の違いゆえ彼のそれの僅かに外でもある。


「先生、もう一度聞くけど、それでもさ。
 もし全面戦争になったら─────ガレストは(・・・・・)地球に勝てるの?(・・・・・・・・)


言外に告げられる負けるのではないかという言葉。
まるでそれを合図としたかのように二人はほぼ同時に動いた。
それぞれの手には実体剣(ブレード)が握られ、闇夜の中で剣身が交差する。
触れ合った鋼が軋み、火花が散って、互いに肉に食い込んだ感触が返る。
両者が繰り出したその刺突は示し合わせたかのように同じ場所を貫いた。
相手の顔の真横を何の狂いもなく。

「…………はぁ、少しは怯んで欲しかったんだがな」

突き出したまま溜め息交じりに首を振り数瞬前の緊張を脱力して消す。
内容が内容だけに無駄に力んでしまったが意味のないことだった。

「え、いまのなんか怖がる要素あったのか?」

襲われるなど微塵も疑わず不思議そうに首を傾げるこの少年相手には。
情けない姿を特に見られているはずの彼からの真っ直ぐな『信』は
嬉しくもあるのだがどこか気恥ずかしくて異常に照れくさかった。
自分から彼への信頼は理解できるのだがその逆の理由が分からない。
見続けていられず思わず視線をずらして空いた手で頬をかく。

「俺はむしろなんで自分の方(・・・・)を斬らなかったんだって話なんだが?」

「生徒の安全優先に決まってるだろ。私は教師だぞ!」

それもあってか。
どこか誤魔化すように吐き捨てて輝獣(・・)の額から剣を抜いた。
彼もまたそれに倣うようにして剣を抜けば二体の輝獣が霧散する。
二人の背後には大型の似非蝙蝠輝獣が音もなく忍び寄ってきていた。
その存在に気付いていたからこその互いの動きだったのだ。

「ふふ、あんたのそういうところ好きだよ」

何がおかしいのか彼は嬉しそうに─なぜか懐かしむように─に笑う。
照れたままながら彼女は半眼となって僅かに悩みながら問いかけた。

「………それはどっちだお前?」

「は、何が?」

返した顔を見て天然の方かと地味に頭痛を感じるフリーレだ。
どうにもこの男はスイッチが入ってないとからかう事はしないが、
この手の台詞を臆面なく口にし、あるいは平然とこちらに触れてくる。
彼の異性との距離の取り方は極端に近いか遠いかの二極化をしており、
フリーレはなぜか少年の周囲にいるはずのない女性集団を幻視する。

「……誰かたちに間違った環境で鍛えられた気がするな、こいつ」

男所帯で育った自分が男言葉寄りの喋り方になってしまったように
何か少し変わった女性集団に囲まれていたせいなのではと推測する。

「いや、だから何?」

「はあ、別になんでもない。
 それよりも…………お前はどっちが勝つと思っているんだ?」

だが今は関係ないと首を振って、試すように本題を投げ返した。

「そんなの解るわけねえだろう。
 先手を取る以外はせいぜい指揮官か時の運次第なんて。
 そんな勝負にどんな予想をたてろってんだよ?」

身も蓋もない言葉で即座に打ち返されてしまったが。
だがそれはそれらでしか勝敗は左右されないと告げている。
本当に嫌になるほど察しがいいと別の意味で頭痛がする彼女だ。

「……どこで気が付いた?」

「学園で過ごす内に疑いを持って脳内シミュレートしてみたら、かな。
 確信したのはさっきだよ。ガレストの超過激派の話をしてる時。
 先生、重要な部分をわざと飛ばしたでしょ?」

あれがまずかったよねぇと笑顔で他人事のように語る彼に渋面となる。
その話を要求したのが彼であることを考えれば仕組まれた感が強い。
あるいは最終確認に使われたともいえるだろう。

「一応聞いておこう。何を飛ばしたというんだ?」

「超過激派が誕生し今でもなお残っている直接的な理由だよ。
 環境破壊や戦争ばかりする地球人たちへの不安や不信だけで、
 戦争が滅多にない世界の人間が『侵略』を口にするのは少しおかしい。
 なら、それらの間には彼らをそう焦らせた(・・・・)ナニカがあったはずだ」

「……うまく誤魔化せたと思ったのに」

既に用意していたといわんばかりの返答に溜め息すら出てこない。
この推察は正しい。ただの不安と不信なら交流の仕方を変えるだけで良い。
40年以上前の当時ですら侵略戦争を経験している者など誰もいない。
なのにこちらより遙かに面積が広く、人口が何倍もある一つの世界を
不安だけで『侵略する』などという馬鹿げた言葉はいくらなんでも
地球人に悪感情を持つ者たちからでもそうそう出てはこない。
裏を返せば出てきた以上、理由はそれだけでは無かったのだ。

「うまかったと思うよ。
 そこに元々疑いの目を向けてなかったら流してたよ俺」

「それはどうも………褒められてる気はまったくしないがな」

褒められたのか慰められたのか。
後者のような気がしながらもそれでは仕方ないかと諦める。
原因を先に勘付かれてしまっては下手な誤魔化しなど無意味だ。
件の約束が無ければ本当にお前は何者だと問い質したいフリーレだ。
しかし今はそれ以上に聞いておかなければならないことがある。

「だがつまりお前は、先にそのナニカに気が付いていたわけか」

先程までの話はそういうことなのだろうと目で問えば頷きが返る。

「学園で全く見聞きしなかったから違和感はあった。
 けど思い込みって奴は恐ろしい。夢にも思わなかったよ。
 いわゆる戦略級の兵器や大量破壊兵器の類が『無い』なんてさ」

あると思い込んでいたことか。無い世界を想像できなかったことか。
彼はどこか自分に向けて呆れた表情を浮かべると首を振った。

「私としてはあんな非人道的な兵器を作ったこと自体が信じられんよ」

戦術兵器が戦場で戦闘行為を行うための“直接戦う”兵器ならば、
戦略兵器とは敵国の重要施設等を破壊して“戦えなくする”兵器だ。
大量破壊兵器は広義においてその戦略兵器に入るといえる代物。
大量の人間の殺傷や建造物に多大な破壊をもたらすことが可能で
主に生物兵器、化学兵器、核兵器という人類史上最強最悪な兵器群。
その概要や実際に使用された例を見るだけで彼女は嫌悪感を拭えない。

「気持ちは、分からないでもない。俺もそう思うよ。
 でもだからその存在を知った人たちは地球人たちを恐れたわけか。
 そんな物を作ったあげく、同胞に使用した歴史まで持つ地球人を」

だから超がつくほどの過激派が生まれ、今日まで存在し続けている。
いつかその矛先がこちらを向く前にその力を消し去ってしまうべきだと。

「正直、私個人はそれ以上に地球の戦争の在り方が恐ろしいがな。
 私たちとは戦い方の形が違い過ぎてまったく理解ができんよ。
 あまりにもそちらの戦場は悲惨で、冷酷で、無残だ。
 それをあれだけ続けておいて進歩したのは兵器の威力と射程とは」

発達した外骨格(パワードスーツ)とそれが主力であるガレストの戦場で死者は稀。
されど地球の戦場は文字通りの死屍累々であり、兵たちの命は軽い。
ステータスが高く鍛え上げられた兵士はそれだけで重要な財産だ。
複数の他者の命を守る事ができる戦士の命は他よりも価値が高い。
戦いという危険に曝さなければならないが易々と失うわけにもいかない。
だからこそ彼らの命を守る装備は時を重ねるごとに充実していっている。
しかしそんなガレストの常識は地球の戦場には存在していなかった。
彼女の目には地球の兵の装備は進歩してるとは言い難く見えている。

「本当に相性が悪いというか耳が痛いというか。
 気付いてみれば単純な話だったんだ。何故外骨格が(・・・・・・)発達したのか?(・・・・・・・)
 地球から見れば確かにあれはオーバーテクノロジーの塊だけど、
 所詮は戦術兵器でしかない。目が届く範囲内の敵を倒す兵装だ。
 技術が劣る地球には海の向こう側を攻撃する手段さえあるのに」

例え兵同士がぶつかりあう戦場を支配できたところで
その背後にある守るべき街を滅ぼされては意味がない。
それどころかその照準が向けられているだけで動けなくなるだろう。
実際にその兵器を向けられた経験がないため迎撃経験もまた無いのだ。
そんなどこか馬鹿げていて、切実な弱点をガレスト軍は持っていた。
地球の軍事技術を知る前は気付きもしなかった弱点が。なぜなら。

「軍はそれぞれが所属する領地の守護が基本、いや限界なんだ。
 超遠距離にいる相手を攻撃するという発想や余裕がまず生まれない。
 周囲に発生する輝獣の討伐や都市の防衛に手一杯なのが実情だ。それに
 威力があり過ぎる兵器は守るべき街や環境資源、地下資源を傷つけかねん」

「ただでさえ資源が潤沢とは言い難いガレストでそれは致命的か。
 ましてやミサイル系のいわば使い捨ての兵器の研究は
 例え思いついたとしても無駄遣いにしか見えないだろうな」

必要がなく求められなかった。彼らの敵は身近に発生する輝獣か。
同じ体系の装備と戦闘方法を取るテロリストたちだったのだから。
輝獣討伐任務を何度か請け負った事があるフリーレにしてみれば
このフィールド内の輝獣の数とて比べれば少ないといわざるを得ない。
まず目先の敵を減らさなくてはいけない軍の装備が長い歴史の中で
地球から見て偏った物になったのは必然性と資源保護の観点からだった。

だからガレストという世界ではそれらが生まれなかった。
大量破壊兵器のような威力が強く、二次被害が大きくなる兵器や
大陸間弾道ミサイルのような超長距離兵器は求められなかった。
必要だったのは自分達の周囲に発生する輝獣を安全に倒す兵器だ。
どちらが先だったのかは歴史の謎ではあるが外骨格が発達したのは
それこそが最も適任な兵装であったためだと考えられている。

「そんな世界の事情が互いの軍事力に妙な相性の悪さを生み出した。
 ガレストには地球の戦略兵器を防ぎきる確実な手段はなく、
 地球側には人間サイズの兵器を迎撃するノウハウはないはずだ」

とかく交戦経験や適切な迎撃や処理のノウハウが互いに無い。
ガレストの都市を覆う防護壁やバリアではそれらに耐えきれない。
地球の武装は外骨格の防御を越えられず戦略兵器は迎撃には向かない。
そのため防衛側に回った方が圧倒的な劣勢に陥る可能性が高い。
少年が先手をどちらが取れるかを重要視したのはそういう事だ。
そういう意味ではガレストと地球の軍事力は互角ともいえる。

「無論もしものケースを想定してのシミュレーションはしている。
 対応策も考えているが未だ模索している段階というべきだろう。
 それほどまでに私達にとって戦略兵器は未知の領域であり、
 また日々の輝獣討伐で余裕がないともいえる」

尤も45年前から調査していて現在でもそうなっているのは
当時のガレスト政府がさらなる超過激派たちが出てくることを、
そしてその兵器の概念が広まる事を恐れて軍部にさえ秘匿したからだ。
軍全体に戦略級兵器の認識が完全に広まったのは奇遇にも8年前のこと。
結局はそれが新たな別の過激派を生み出すことにもなったのだが。

「長距離ミサイルを狙撃で迎撃するのは限界があるだろうな。
 もし数を揃えて、弾頭に厄介な代物を積んでしまえば尚更」

「防護壁やバリアの強化は検討されているが余分なフォトンはないし、
 外の環境を破壊されたらこちらがダメージを受ける事に違いはない。
 こちらが“所持していない”という手札を切れないこともあって、
 それらの基本的な情報を得るのも一苦労だというのが外交筋の話だ」

あちらも技術力で勝る相手に下手に公開したくはないだろう。
自国がそれらの標的になった時を考えていま以上に確実な対応策が
欲しくともそれを異世界に任せられるほどにはまだ互いの信頼がない。
結局軍が手にしているのは一般に出回っている程度のもの。
諜報活動しようにも文化や見た目の明らかな違いがあって難しい。
元より軍の諜報部はガレスト内の対テロが念頭にあるのもあってか。
地球で活動するのに向いておらずノウハウがある政府の諜報組織が
どう動いているかはさすがの彼女もあずかり知らぬところである。

「なんていうかホント時間もあってあちこち根回ししてるのに
 妙なところで雑な交流開始だったよね。双方の世界にとって」

「ああ、それもあってか政府に疑念を抱いている人間もいる。
 資源不足解消のためと言われれば反論できないのが痛いがな」

細かい部分の調整にはあえて目を瞑ったと言われると文句は出るが、
非難はしきれないガレストという世界が抱える根本的な問題がある。
また十全な防衛体制や対応策を用意するのは地球側に過度の緊張を生む。
将来的には対応できるようにはしておきたいが今は時勢が微妙といえる。
実際にはどうなるか解らないというグレーゾーンが現在は必要なのだ。

「それであの紅いのみたいなのが出てくるわけか……それで?
 あんたから見て地球側は『無い』事にどれだけ気付いてると思う?」

「もう軍部の上の方は気付きだしていると考えている。
 互いの一般人は技術コンプレックスで気付いていないがもう8年だ。
 確信には至らずとも疑い出されていても全く不思議ではない」

両世界の一般人には良くも悪くも無意識の優越感と劣等感がある。
自分達より数段遅れている技術しか持たない地球人への優越感。
交流開始による公開で知った優れた技術力を見聞きしての劣等感。
この思い込みによる思考のロックが事実を隠す一助となっていた。
しかし多くの者が出入りする学園を開いてもう8年である。
いくら規制しようとも漏れ出た情報は多いと見るべきだ。
軍事への見識が明るい者がそれらを手にすれば推測はされる。

「だが幸か不幸か互いの間には次元の壁がある。
 これを飛び越える武装は今の所どちらにも存在していない。
 それに地球は各国で思惑が違っていて一枚岩にはなれないし、
 ガレストは侵略ができるほど人や物資に余裕があるとは思えない。
 行き来の要のディメンジョンゲートはこちらが管理・防衛しているから
 滅多なことで撃ちあうことにならないと思いたい、が……」

希望的観測を口にしながらもその表情は暗い。
仮に戦争する事になったとしても部隊を送り込むために
どちら側であろうともディメンジョンゲートは必須である。
されどそれゆえに互いにゲート周辺は監視体制が敷かれている。
不穏な動きは即座に察知されてしまう上にそこが肝である以上、
最悪すべて破壊してしまえば相手の侵入をほぼ防ぐ事が可能となる。
次元転移技術を持つガレストもそうなれば個人単位でしか人を送れない。
しかしそうなれば交流を始めたそもそもの理由が問題になってくる。

「……ガレストからすれば資源不足で始めた異世界交流だ。
 根本的な解決をしてない以上こんな所でやめるわけにはいかない」

「地球にしてもその技術力を見せつけられた以上、
 交流が途絶えてそれを得るチャンスを逃したくはないだろう」

まだまだガレストの技術が欲しい地球と地球の資源が欲しいガレスト。
世界としての思惑は合致しているものの人々の感情はそうはいかない。
互いの世界への悪感情は両世界の頑張り虚しく増えているのが実情。
世界を別ちたいと考える勢力にとってその事態を招くだけで勝利だ。
それが分かるだけに二人は顔を見合して溜め息を吐いた。

「こういってはなんだが面倒な時代の一番厄介な時期に戻ってきたなお前」

「それを言わないでくれ、浦島太郎ぐらいなら俺も諦めがついたよ」

ウラシマタロウの名の意味を彼女は解らなかったが文脈的に
すべてが終わったあとの方が良かったという意味だろうと解釈した。

「ん、もしかして、だから俺は8年ずれたのか?
 いやいや、行きでずれてたら関係はないけど、ううん……」

しかし突如として何事か呟きだして考え込む様子には訝しんだが。

「どうした?」

「………なんでもない、とは言えないか。
 一応この話をしておこうと思った原因でもあるか」

そういって苦笑した少年はもう移動しようといって歩き出す。
一瞬どうしてかと思ったが自身のフォスタを見れば納得した。
追従する形で足を進めるフリーレに何気ない彼の声が投げかけられる。

「なんで今この話をしたか分かる?」

「ん、今回の事件がガレスト過激派の仕業である可能性が高いから、だろ?」

精神スキルなどガレストでもまだ研究段階のモノを使ってきた相手。
それを学園内の生徒と教師。それも技術科にいつのまにか仕掛けたのだ。
最低でもガレストのスキル研究者と学園内部に協力者がいなければ不可能。

「それにこの時期に精神スキルで一部の生徒と教師を暴走させるなんて。
 別の思惑があってそこから目をそらさせるためと考えるのが普通だ。
 試験中は学園の人員がほとんどこっちに集中しているからな」

そこで騒ぎが起こればまず間違いなくそちらに掛かり切りとなる。
一時的にせよ余所への注意が散漫となればそれだけ外部の者は動きやすい。

「新スキルの実験と、うまくいけば程度の陽動作戦だろうあれは」

仕掛けた側からすればタネが早々に明らかにされ、
解除までされたのは想定外だったろうがこちらには嬉しい誤算(イレギュラー)だ。
この少年がもしいなかったらと思うとフリーレは少し恐ろしい。
これから始まるだろうメインの計画への対応策は練れなかった。

「お前ってこっち関係だとすごく頭回るよな。さすが元・軍人」

「そ、その言葉そっくりそのまま返してやるぞ謎の転入生!
 お前はもうちょっと頭を使って人と接してくれ!
 約束は守るがお前への苦情は私の所にも来るんだぞ!」

全く褒められている気がしない褒め言葉に食ってかかる。
自分が日常生活において残念な思考をしているのは自覚しているが、
極端な方法でしか人間関係で距離をおけない相手に言われたくはない。

「あはは、それは、うん、ごめん。頑張って」

殊勝に謝罪はするが同時に改める気はないという励ましをもらって頭が痛い。
他人の事は言えないが自分以上に距離感の取り方が苦手そうな我が生徒に
彼女はなんと言い含めるべきか。それとも諦めて放置すべきか本気で悩む。

「────────でも、それだけが理由じゃないんだよね」 

「なに?」

そこへ何でもないような口調で、微苦笑を浮かべながら告げる。
少年が纏う雰囲気がどこか硬くなっているのを彼女は敏感に感じ取った。

「あんたにはそろそろ知っておいてもらおうと思ってたんだ。
 まず断言するよ。きっとそいつらが何かしでかすだけで終わらない」

「……どういう意味だ?」

「根拠はない。推測ですらない。けどいつもの(・・・・)空気を感じる。
 第三勢力の介入か。他の勢力の協力者がいるのか。細かくは解らないが、
 その心構えを事前に持っておいた方がいい」

予想外の出来事ほど人を動揺させ動きを鈍らせるのだから、と。
前を向いてただ歩く少年はまるで決定事項を語るようにいう。
自身で根拠はないと言っておきながら声には確信があった。

「勘、というものか?」

「だったらまだマシだったんだけどね。
 理由は単純な経験則と『俺がここにいる』からだ。残念なことに」

「ん、さっぱり意味が分からないぞ?
 確かにお前は奇異な体験をした身だ。
 知る者たちには狙われているだろうが……」

「あはは、それもあるといえばあるんだけど、まあとにかくさ。
 俺がいる所は騒動の坩堝だと思ってくれればいいよ」

それ以上は説明が難しいと困った顔で笑う少年に余計に困惑する。
話している内容は出鱈目に思えるのだが彼の表情がそれを裏切る。
仕方がないことを不承不承で語っているように見えた。

「うーん、じゃあこういえば納得するかな」

その困惑が顔に出ていたのだろう。
困った笑みを一瞬深めると分かり易い言葉に置き換えた。
一切の感情を排したどこか冷酷とさえ見える表情で。

「俺が学園に来たのはここなら大抵の騒動は処理できると考えたからだ」

「…………な、に?」

「普通の街ならともかくここならそれを未然に防ぐ事もできる。
 被害を出したとしてもそれを最低限にすることができるし、
 元よりここはそういう騒がしい場所だろう?」

それが増加しても誰も不審には思わないと冷めた顔で少年が笑う。
その態度か言葉か。自分でもよく分からない感情に押されるように
フリーレはいつのまにか少年の胸倉を掴みあげていた。

「お前はそれが分かっていてここに来たのか!?」

そんな状態になっても落ち着き払った顔に責めるような言葉を向けた。
彼の語る内容は与太話にさえ聞こえる。理解はまるでしきれていない。
しかし彼が本気でそう考えているのが分かって激情に駆られた。

「ああ、その思惑があったのは事実だよフリーレ・ドゥネージュ。
 実際対応できる人材や施設が存外に揃っていて助かったよ」

怒りを込めた鋭い視線に間近で曝されながら平然と彼はそう答える。
こちらを侮っている様子はなくただ淡々とその事実だけを語る。
ともすれば不気味なほど彼は静かな眼でこちらを見上げていた。

「…………なぜ、いまそれを私に話した?」

どこかそれが偽悪的な態度に見えたからでもあったが、
その異常な静けさに彼女もまた自らを落ち着かせて問うた。
途端に彼の表情から硬さが一瞬で消えて、優しく微笑んだ。

「あんたがそういう目で怒れる人間だから、かな?」

「…………意味がわからんぞ」

「他の生徒が危険に晒されるのを承知で俺は自分の意志でここに来た。
 その根拠はわからなくとも、あんたが怒ったのはその一点だ。
 うん、そんなあんただから信じられるし信じてくれると思った」

こんな馬鹿げた主張を本気で考えてくれる。
そう思えたから話したのだと彼はなぜか寂しげに語る。
何故かその時だけ少年が迷子の子供に見えて思わず手を放した。

「おっと……これからは前以上に大変だ。気を付けろ。
 今回の件が無事終わっても騒動は集まってくるぞ、ここ()に」

いつも以上の注意と警戒心を持っておいた方がいい。
自分を信頼できる防衛の担い手と見る少年はそう語った。
その根底にある理由がよく解らないフリーレだが彼の転入後、
確かに増加している事件数を思い出して言いしれない不安を覚える。

「……そんな顔をするな。お前が考えてる通りにはならない」

「なにを?」

しかしそれを払拭するかのように続けられた声はとても力強かった。
そして見上げてくる瞳はどこか初めて見る鬼気迫るものを感じさせた。

「違えないことを誓うよ、フリーレ・ドゥネージュ。
 俺のこの目と手が届く範囲で子供たちは誰一人死なせない。絶対にだ!」

「─────────」

言葉を失った。その不安を見事いい当てられたからか。
大言壮語にも等しい事を真顔で誓われたからか。どれも違う。
その力強くもどこか余裕のない宣誓に彼女は見惚れてしまっていた。
今まで見たどの表情よりも真剣で揺るがない決意の瞳から目が離せない。
何か言わなければならない気はしても自分の言葉が出てこない。

「……………お、大きく出たな」

それでもなんとか出てきた声がそれで内心舌打ちしたい気分になる。

「それぐらい出来なきゃ、意地を張ることもできないからね」

「ん?」

一転して気安い笑みでそうこぼすとフリーレから距離を取る。
そして黙って人差し指を周囲全体を指差すように回して、一言。

「こいつらも任せてくれ。多分目当ては俺だ」

「…………報告はしてくれるんだろうな?」

「もちろん、じゃまた後で連絡する」

短く必要な事だけやり取りをして少年は適当な速さで駆けだした。
慣れているのか暗闇の森を軽やかな足取りで進み、点になっていく。
フォスタに視線を落とせば彼を示す光点を複数の光点が追いかけている。
実は場所を移動したのは自分達を囲むように人が接近してきたから。
その全てがこの学園の生徒達であったため強くは警戒してはいないが、
自分と離れた途端に距離を詰めだした事から狙いは彼だけなのだろう。

「……騒動が集まってくる、か」

冗談じゃない、が冗談ではなさそうなのが彼女に眉を寄せさせる。
仮に事実だとするならここにやってきたのは理屈の上では正しい。
そんな存在がいなくともここは元よりそんな場所なのだから。
普通の街の何倍もそれらへの対応力は高いといえるだろう。
そこで実際に住む者達の事をまるで考えないなら、だが。

「いや、今はそれじゃないだろう私」

何を埒もないことを考えているのだと自身に叱責する。
走り去っていった少年は暗さもあって目視できる距離にいない。


──なぜお前もその子供の一人だと言えなかった?


あの宣誓に対して自分はどうしてそう言ってやれなかったのか。
大人として教師としてフリーレ個人として言えたはずだったのに。
理由は単純だ。そう言い切れる強さを前にしてただただ欲が勝った。
この男と今すぐにでも剣を交えたいと興奮していただけだった。
自分の性分を別段疎ましく思った事はないが空気を読めとは思う。

「まったく……戦い以外で胸が高鳴った事など初めてだぞ」

どうしようもないなと自嘲しながらも同時に別の事も考える。
あの時の少年には確かに強い決意と覚悟が見えていたが、
それだけが支えのような脆さも垣間見えたようにも思えた。
それを刺激してしまって良いのか彼女には分からなかったのだ。
気持ちを知りたいと偉そうに語った癖にこれだと声なく笑う。
結局は大人として教師としてまだまだ未熟なのだと実感しただけ。
ただそれでも。

『それぐらい出来なきゃ、意地を張ることもできないからね』

何でもないように口にされたその言葉がどうしても彼女は気になった。



「ナカムラ、お前はいま………意地を張って生きてるのか?」
+注意+
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