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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

試験編 第一章「テストは利用するもの」

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04-12 クイックエクストラクト

「───ともかく、すぐに原因が分かったのは僥倖だ。
 お前が帰還者で本当に助かったよナカムラ」

「ふふ、確かに。最終的にはどこかで辿り着いただろうけど
 帰還者のイッチーがいなかったらこの時点で気付けたかは怪しいね」

「………どゆこと?」

帰還者に重きを置いた言葉に意味が分からず首を傾げれば驚きの声が返る。
本日何度目かの“なぜ知らない”という驚きに双方またかと言いたくなった。

「ホ、ホントに誰かに教わらなかったのイッチー?
 一度次元漂流を体験した人間は未だ原理は解明できてないけど
 フォトンへの感知能力が何らかの形で上がる傾向があるんだ」

「元々フォトンが身近にあり過ぎる我々より地球人は能力が高いのですが、
 漂流を体験した人物はそれがより顕著になることが証明されています」

「そういえばフォスタをもらった時、
 あの先生に帰還者がどうのこうのと言われたような?」

「にい、フランク先生の話はきちんと聞いておけ!」

教師としてよりブラコンのそれに聞こえる言葉に苦笑いで誤魔化す。
あの時は今以上に平静ではなかったがゆえにフォスタに気を取られて
ろくに覚えてもいなかったが、感知能力上昇には身に覚えがあった。
ファランディアへの漂流直後から訓練も無しに魔力を目視出来ていたのだ。
尤も彼の周囲全員が出来ていたので当初普通の事だと彼は勘違いしたが、
いまは一定期間に及ぶ鍛錬が必要な技巧なのだと知っている。
シンイチにとっては数少ない次元漂流で得たモノだった。
当時全く役には立たなかったが。

「けれど……だとしてもおかしいですわ。
 普通は保護した対策室か保護者の方が教えてくれると思うのですが?」

少し怪訝な顔をしながらもどうだったのかと尋ねるアリステル。
しかしその言葉にやっと自分がそれを知らなかった原因を概ね理解した。

「ああぁ、そのせいか。俺の保護はかなりごたごたしたからな。
 違法な異世界渡航だと間違えられて、誤解をとくのに手間取ったし、
 父さん達はあんまり俺にガレストに関した話はしなかったから」

そしてそれを概ね嘘ではない事実だけで誤魔化したシンイチである。
正確な話を知る教師を除き、話の前半に疑問を持った者はいなかった。

「え、話をしなかったって、なんで?」

「気を使ったんだろ。
 帰ってきたばかりで色々混乱もあるのに次から次へと色々教えてもな。
 それよりも新しい場所での生活に早く慣れさせようとしたんだろう。
 父さんたちに引き取られた時はまだ学園に行く予定はなかったから」

この推察は見事に正鵠を射ていた。
本来なら保護した対策室あるいは凜子が説明すべき事だったのだが、
あり得ない時間差とその情報の隠蔽に対策室は上を下への混乱を起こし、
帰還初日の出来事や管理官の心無い指示などで凜子は激しく動揺していた。
そしてそれらの問題の対処と新しい生活に彼が馴染むのを優先させた結果。
異世界関連の話題や説明は中村家では後回しにされていってしまったのだ。
彼女としてはその後ゆっくりと一つずつ教えていくつもりであったのだが、
シンイチが突如として学園行きを決めた事で間に合わなかったのが真相。

「それより他にないんだろうな、帰還者の特性って。
 転入初日の挨拶だとなんか高ランク者が多いって話は聞いたけど」

「あの時も言ったがそれはその方が生き残りやすいという傾向に過ぎん。
 全員が全員、比較的安全な都市やその付近に出るわけではないからな」

むしろガレスト世界の人が棲む領域とそれ以外の比率を考えれば、
都市外に漂着してしまうことの方が可能性としてかなり高いのだ。
生き残って帰還出来た者の大半が高ランク者なのは当然の流れと言えた。

「けどその話ってステータスの上げ方を知るとおかしく思うんだが?
 フォトンの負荷をかけて鍛えるからステータスはあがるんだろ?」

地球人は元々ステータスの概念がないためにそのランクが低い傾向にある。
生き残るのに高ランクが必要なら上げるための道具や時間がどこにあるのか。
他にも気になる事があって後回しにしていたが当初から疑問であった。

「それも知らないのか……世話役、説明しろ」

「はいはーい! では、説明しよう!」

教師の丸投げに嬉々としてとびついたミューヒはドヤ顔でそのフレーズを使う。
裏でヴェルナーがもう真似されたと愕然としたが誰も気に留めてはいない。

「漂着した地球人がランクを上げれるのはガレストの環境が原因なの。
 ガレストには空気中に高濃度のフォトン粒子が漂っていてね。
 エネルギーとして活用できないぐらい小さくて微弱なんだけど、
 濃度が高いせいかステータス強化のための負荷としては充分なんだ」

それが生まれて初めてフォトンに触れるような地球人なら尚更。
極限状態で生き延びるためにする行動全てがランク上昇に繋がる。
単純に走っているだけでも筋力や体力は上がっていくという。
無論、本人に伸び代があればの話ではあるが。

「わりと最近分かったことなんだけどね」

ガレスト人からすると身近にあり過ぎた存在ゆえに気付いていなかった。
また体がその環境に慣れているため彼らにその恩恵が無かったのも大きい。
だが地球人の急激なランク上昇速度を調べる過程でその事実が判明したのだ。
その説明にそうだったのかと大袈裟に頷きながら影で小さく懸念を呟く。

「魔素じゃねえだろうなそれ」

これまでの奇妙な共通点や類似点のせいかそれを疑うシンイチである。
やはり一度行かなくてはいけないかと今から憂鬱になる彼だった。
きっとそこでも色々起こるのだろうと思えてしまうからだが。

「……先生、少し話は変わるのですが彼への説明の少なさは問題では?
 突然の転入や家の事情があったのは解りましたがいくらなんでも変です。
 入学案内もどうやらまだもらっていないようですし」

帰還者で転入生ゆえだと考えていた彼女も知らない事の多さに困惑気味だ。
これはむしろ境遇や不勉強さというより教育すべき学園側の怠慢に見える。

「なに?
 それが本当なら問題だぞ。どうしてそんなことに……」

「単に重要視されてないだけだろ、帰還者なだけのDランカーなんてさ」

「そう、でしょうか?」

深刻な表情になりかけた彼女を含めた全員に聞こえるようにそう言うと
そんなものだと首を振りながら怪訝な顔を浮かべる教師に目で合図する。

──その話はいまはやめろ

彼も本来なら与えられるべき情報が遮断されているのは勘付いていた。
それが生徒会を含めた自分を調査したい者達の手によるものだという事も。
目立つ時期と形での帰還と時間差まであっては注目されないのが無理だ。
何かあるのではと疑わずにはいられないことは本人がよく分かっていた。
これはそれを探る策略の一つ。事前に知るべき常識や情報を遮断すれば、
シンイチがどんな性格でもどんな態度をとろうとも結局は騒動となる。
高いランクの自負が強く低い者への当たりがキツイここでそれは顕著だ。
それに彼がどう対応するかを判断材料の一つにしようとしていたのだろう。
まさか周りの喧騒を完全無視されたのは予想外だったろうが。

そんな裏話を内心誰を信じるか誰を疑うかで悩む少女には言えない。
悩みがなくともかなり危ない話であるので告げる事は無かったろうが。

「それより原因がわかったんだからどうにかする方法はないのか?」

これでその話は終わりだといわんばかりに未だ叫び暴れる者達を指差す。
アリステルは納得のいかない顔をするがそれを考えないわけにもいかない。
そしてそちらの方が優先度が高いため彼女の思考はそちらに流れた。

「んん~、確かに早急に手を打ちたい所ですが、
 第三者が既に発動したスキルに干渉するのは難しいのです。
 しかも精神に影響を及ぼす物なら迂闊に手を出すのは危険でしょう」

されどそれはかなり難題な話でもあった。
ましてや仕掛けられたのは人体の重要な部位である頭部だ。
下手な干渉は事態の悪化や深刻な後遺症を残す可能性が高かった。

「正規の手順だと外部からスキルプログラムを解析させて、
 それで得られた情報を元に解いていくが………長期戦になるな」

精神に関わるスキルだとするならこの都市の人間では解析もさせられない。
信用の問題もあるが解析するノウハウや技術があるかどうかが疑わしい。
よしんば軍部のその手の人間を呼べたとしても解析にかかる時間は未知数。
そこから解除するとなるとどれだけ時間がかかるか推測もできない。
時間経過で効果が消える可能性に賭けた方がまだ現実味があった。

「それだとこの状態で長期間過ごすことになるよね……喉が潰れそう」

「ルオーナ、そんな問題か。
 いくらか経過を見る必要はあるが最悪眠らせ続けるしかないだろう。
 それも限界があるがな………いったいどうしたものか」

シンイチのおかげでかなりのステップを飛ばして原因は解明できた。
しかしそれでも即座の回復はまだ遠いと皆厳しい顔を浮かべている。
口汚い怒りや不満の叫びは続いているが痛々しく聞こえるフリーレだ。

「そこまで難しい話か?」

経過を見守るぐらいしか選択肢が浮かばず苦悩する中で出た軽い調子の声。
どういう事だと皆が問い質すより前に彼は生徒の額を思いっきり弾いた。
フォスタを装着した左手の指で。

「ぎゃんっ!?」

ダンッという衝撃音さえ出したデコピンに頭を後ろにそらされた生徒。
周囲は彼が何をしたのか理解できずに呆然となる中、誰かの怒声が響く。

「い、痛っ!? なにしやがるっ!!!
 って、あれ、お前だれ? う、え、なんで俺縛られてんのっ!?」

「へ?」

「なぬ?」

「おい」

「………は?」

額を弾かれた生徒は突如正気を取り戻したが自分の状態に混乱しだす。
本来ならそのフォローを誰かがすべきなのだが全員がそれどころではない。
ある意味彼が外骨格INフリーレを殴り倒した事より衝撃的な何かだった。

「ナ、ナカムラお前いま何をした!?」

「デコピン」

「それだけですか!?」

「と一緒に多量の何の加工もしてないフォトンをぶつけてみた」

「それでスキル解除したってか!? 無茶苦茶だ!!」

「いや成功したじゃないか」

「それは結果論だよ!
 第一そんな方法聞いたこともないよボク!?」

次々と騒ぎ立てる面々になぜだと小さく首を傾げるシンイチだ。
彼女らや彼からすればこの少年がやったことは自分達の常識外のこと。
スキルの解除は時間経過による自然消滅か解析情報を用いた方法以外では
対象を状態異常にする物や相手の身体強化などといった特定のスキルの
効果を打ち消すためのアンチスキルがいくらか存在する程度なのである。
それを含めても存在してなかった四種類目を思いつきで披露されたのだ。
皆の驚きは推して知るべしだ。尤も彼なりに根拠はあったが。

「ええ、そうかぁ?
 加工前のフォトン───純フォトンだっけ?
 あれって人体に無害だから安全だって教わったぞ。
 そしてこのリングやプログラムだってフォトンで構成された物。
 同質のエネルギーをぶつけ合えば互いに打ち消しあうのは道理だ。
 欠片も残さないように純フォトンの方を多めにして撃ちだしてもいる。
 ほら、念のためにやったシュミレートでも問題ないって出たぞ」

自論を展開しつつモニターを開き、そのデータと結果を皆に見せた。
食い入るようにその全てを見た面々は痛くもない頭が急に痛くなっていく。
そして疲れたように溜息を吐きながらどこか遠い目をするのだった。

「基礎の基礎の知識だけの感覚理論なのに……合って、いる、だと!?」

「フォスタの扱いがひと月でもう熟練の域ってどゆこと!?」

「こんなこと教えてないのに。独学にも程があるぞ、教師の立場が……」

「このような分野でも賢慮をお持ちだなんて……すごい」

相変わらず驚きの方向性という点ではみんなバラバラであったが、
シンイチに常識を期待してはいけないと全員が共通の認識を持った。
約一名だけが微妙に、いやかなり周囲とは方向性はずれているが。
だが彼女らはまだ甘かった。常識が無いことの恐ろしさを知らなかった。
そしてそこに彼の発想力と器用さが加わって起こる化学変化を舐めていた。

「そこまで驚くことかね? ほいっと」

「だっ!?
 なっ、なんだ!? え、もう夜? え、まさか寝落ち!?」

「……未知のスキルをデコピンで解除された身にもなってほしいよ、ん?」

二人目の生徒もあっさり正気に戻されて彼女もさすがに溜息を吐いた。
発言や混乱した様子から察するに暴走状態の事は覚えていないようだが、
現時点では彼女らも動揺しており正気に戻れた二名への説明は延期中だ。

ちなみに放出した純フォトンを彼が口にするまで誰も気付かなかったのは
結晶からただ抽出してから可視状態である時間がごく僅かであるためだ。
センサー類が警告しないのは純フォトンが前述のフォトン粒子と同質で
無害でありガレストでは空気中に漂っているごく普通の存在ゆえだ。
そのためどれだけ(・・・・)抽出しようが純フォトンというだけで警戒されない。

「あれま。
 本当にうまいこと純フォトンを抽出し…て……はああぁっ!!??」

だから偶然彼女が自分のフォスタに視線を落とさなければ。
センサーをフォトン感知に特化させたままにしていなければ。
ディスプレイに表示された異常な数値に気付けなかったかもしれない。

「な、なんですのルオーナさん!?」

「ちょっ、え? なに、これっ! こればっかりはちゃんと説明して!!」

表面上はまだあった笑みなどかなぐり捨ててミューヒは詰め寄った。
今にも胸倉を掴んでしまいそうな勢いに周囲はもちろん彼も戸惑う。

「な、何がだよ?」

「どうして君がBランク並(・・・・・)のフォトンを放出してるわけ!?」

自身のフォスタが記録した情報を見せつけながら叫ぶように問う。
そこには彼がデコピンをする姿と共に感知されたフォトン量が出ていた。
未知のスキルをかき消したフォトン量は間違いなくB相当だとはっきりと。

「どうしてって、それぐらい必要だと思って集めたからな」

「集めたってイッチーの精神ってDランクだよね!?」

「ああ、だから97回ぐらいかかったぞ」

「何が!?」

即座に各々が自身のフォスタにも記録されたその量に驚愕している中。
シンイチとミューヒは微妙に噛み合っても会話にもなってない言葉を並べていた。

「落ち着けルオーナ! 気持ちは分かるが話が進まん!」

「ナカムラさん、“どうして”ではなく、“どうやった”のですか?」

それで僅かに我に返った彼女等は冷静さを失っミューヒを羽交い絞めにして、
彼に向けて正しい言葉で自分達の疑問をストレートにぶつけて問いかけた。
こればかりはさすがのアリステルも見惚れてはいられない現象である。
不可能とされていた事をやってのけられたのだから。

「ああ、精神ランクって一度に引き出せる最大量で分類されてるだろ。
 それを学園で初めて聞かされた時に、ふと思いついたんだよね。
 なら短い間隔で(・・・・・)何十回も引き出せば(・・・・・・・・・)Dランクのままでも
 結果的に(・・・・)多量のフォトンを用意できるんじゃないかなって」

「あっ、言われてみれば確かに……なんで今まで気付かなかった!?」

これまた感覚的な話ではあったがヴェルナーは理屈は正しいと感じていた。
彼は彼なりに独自の技術運用を考えて特異な武装を生み出していたが、
それでも教わった常識を鵜呑みにしていると気付いて内心歯噛みする。
だがその裏でその表現がガレスト人たちに与えた衝撃度は存外に強い。
しかしそれは何も精神ランクの常識を打ち崩しただけが理由ではない。

「先生、あのっ、これはもしかしてあの!」 

唖然と興奮を織り交ぜたような複雑な顔でアリステルは教師に言葉を向ける。

「QE……クイック、エクストラクト」

けれど返ってきた呟きは彼女に羽交い絞めされている狐娘からだ。
女教師もお嬢様もその言葉に小さく頷き、同じ考えであると示す。
彼女らは彼の説明にこの単語が頭に浮かんで驚いていたのである。
それはシンイチが知っているわけがないある仮説だった。

「は? クイックエス、なんだって?」

「クイックエクストラクト!
 あ、もしや横文字に翻訳されてるから意味がわからないの?
 もっと頑張ろうよ、下手したらガレスト人(わたしたち)より分かってないよ」

「うっ、そう、いわれてもなぁ……」

ろくに聞き取れてない理由をすぐに察したミューヒは苦言を呈するが
シンイチはこれに関しては全く自信がないせいか言い淀んで目を泳がす。
他は無頓着でも基本の五教科は強い意欲で学んでいるが英語は特に壊滅的。
苦手意識が強すぎるせいか単語を全く覚えられずヒヤリングも最低だった。

「ならわたくしが分かり易く直訳いたしましょう。
 おそらく『素早い抽出』という意味の日本語になりますわ。
 数年前にガレストの学会で提唱されて妙な形で話題となった仮説で
 個人で運用できるフォトン量の増加を目的に考え出されたものです。
 中身はあなたが仰った内容を専門用語を用いて難しくしただけですが」

さすがに何十回という程の回数ではなかったけれどと付け足しながら
それがクイックエクストラクトという抽出方法なのだと彼女は語った。
しかしフリーレは苦い顔をしつつもそれを補足する。

「だがどうも仮説にもなってない思いつきだったらしくてな。
 実際にできる者がおらず発表後も誰もできなかった事から
 机上の空論とみなされてすぐに見向きもされなくなったんだ」

「噂だと実現性の証明に行き詰ってたから方法を公表する事で
 ガレスト中の人たちにタダで試してもらおうとしたらしいよ」

結果的にそれさえも失敗した事でその研究者は完全に諦めたらしい。
この顛末の方が話題になったことでガレストではかなり知られている話。
研究者自身は実績があったため干される事も追放される事もなかったが、
元々変人なきらいのある者でまたかという印象だったのだという。

「技術科にはあっちの科学情報誌とかもあるけど初めて聞いたぞ?」

「さすがにこれは外には明かせない話でしょうよ」

地球側へ公表する情報には審査が入る以上そんな眉唾仮説が伝わる訳が無い。
だがそれは彼が独自の発想と手腕で実現まで辿り着いた事の証明でもあった。

「けど、よくよく考えてみれば気付けたはずだよね。
 夕方サンダーショットを連射してた時点でおかしいと思うべきだったよ」

「ええ、ニードルショットの連射もDでは無茶です」

共に下級スキルとはいえ精神Dランクがあの間隔で連射するのは難しい。
この学園に精神がDなのが彼だけであったため誰もが見落としていた。

「ああ、そうなんだよな。
 Dだとあちこちで足りなくなってな。普段から使ってるんだ。
 えっと、その………クイックエクストラテクトとやらを」

「ナカムラさん、エクストラクト、です。なんで文字数増えてるんですか?」

「ふふ、おかしな奴だな。
 しかし英単語一つまともに覚えられない子供と
 同じ発想をしたって聞いたらその研究者卒倒しないか?」

しかも思いついて即座にできてしまったのだから立つ瀬がない。
立場的に近いものがあるためかそれを想像して笑うヴェルナーである。
だがその笑い話を尻目にフリーレとミューヒは怪訝な表情でシンイチを見る。
どうにも彼の言動が迂闊だ。常識が足りないのは仕方がない面があるが、
いつもならば隠すあるいは誤魔化している事を正直に見せすぎている。
何を考えているのかと二人は彼のこれまでを思い返して頭が痛くなった。

「………まあいい。ナカムラ、お前それで全員を解除できるか?」

「いやいやフドゥネっち、現実逃避はいかがな───あいたっ!?」

諦観にも似た気持ちでそれを横に置いておくことにした教師に
ミューヒは胡乱な目を向けるが手刀の一振りでまた黙らされてしまう。
これ以上は話が脱線しすぎる上にこの問題の解決が遅れるからだ。
隠すべき事(・・・・・)が増えた以上、後発部隊が到着する前には作業は終えたいのだ。

「……出来なくもないけど、何人かはそのまま残す必要があると思うが?
 ()のことも考えてさ、データは収集しておくべきじゃないか?」

「え?」

その考えを察しつつも今後を考えてシンイチはそれを提案した。
フォスタという汎用性の高い装置で各種データを取れたとはいえ、
同世界由来の専門的な調査機械と比べれば精度はいくらか劣ってしまう。
また今のデータだけでは時間経過の変化については不明瞭になる恐れがある。
そして推測される犯人像が当たっているならこれだけで終わるとも思えない。
再度使われた時のために現時点で集められるだけのデータを取るべきだ、と。
しかし。

「もっともな意見だが、どちらにしろ精神スキルの事は迂闊に話せない。
 それにこのクトリアではその道のプロも専用の機械もないからな。
 フォスタ以上のデータ収集や解析はできないと考えた方がいい。
 いま取れた分のデータを昔の部下を通じて調べてもらおうと考えている」

「そ、それにこの人たちはいうなれば被害者です。
 ナカムラさんの仰る事は解りますが助ける方法がわかっているなら!」

「助けるのが道理か。いいよ、その理屈は好きだ。
 それに被害者をモルモットにするのは大嫌いでな」

「ふえ?」

「………試したな、お前」

彼の主張は間違いではないがこの都市では適切な対処ができないのも事実。
また彼の信条として完全なる被害者に二次被害や重みを背負わせるのは論外だ。
もっともらしい事を言ったのはその必要性“は”訴えておきたかったのと、
それに対する反応を見たかったからだが彼は微笑を浮かべて誤魔化した。

「さてなんのことやら。
 しかしこの人数を一人ずつ解除していくとなると面倒くさいなぁ……」

だが即座に憂鬱そうな顔になって未だ叫び暴れる者達を見てげんなりとする。

「一気に全員にはできないの? 大量のフォトンを浴びせるとかで」

「無理なんだよそれ。
 空気中に放出された加工前の純フォトンは伝導率が悪いし拡散も激しい。
 直接、それも素肌で素肌に触れた状態から放出しないといけないんだ。
 だからこれってスキル解除方法としては実戦では使えないんだよね」

フォトンの特性上の問題と外骨格装備が基本であるため実戦では役立たず。
この場合では彼らの正常化のためには地道に一人ずつ解除していくしかない。
肩をすくめてどこか自らの発見を茶化すようにいうが疑問を持つ者もいた。

「どうしてそういう事は知ってるかな?」

「ははっ、そこが独学の妙だよ。だから色々知らなくて困ってる」

またもはぐらかされている気がするが反論もしにくいので黙るミューヒだ。
物言いたげな彼女の視線を背にしながら彼は生徒達の頭に左手を翳していく。

「わたくしたちも手伝いましょう。
 この量ならわたくしたちは普通の方法で放出できるのですから」

「ああ、頼む。でも感覚じゃなくて機械的に放出量を一定にして
 それを一気に放つように設定してやった方が安全だと思うよ」

わかりましたと頷いたアリステルを筆頭にミューヒもフリーレも手伝った。
精神ランクがBに届いていなかったヴェルナーは自主的に見学だ。
正気に戻ったクラスメイトへの説明も彼の立ち位置では逆効果だろう。
尤も。

「気分は悪くないですか?」

「え、あ、だ、だいじょぶです!」

「ふふ、痛くなかったかな?」

「あ、いや、う、うん……」

「もう問題はないはずだ。しゃきっとしろ」

「は、はははっはい!」

女っ気が少ない技術科に所属する男子生徒たちは異性に慣れていない。
見た目は文句なしの美女・美少女たちに額に触れられているという状況と
その距離の近さに顔を赤らめて狼狽えておりそれどころではないようだ。

「男って正直な生き物だよなぁ」

「男の子が自分で言うのはどうなのよイッチー」

既に生徒達を任せて教師陣の解除を進めている彼の言葉にミューヒは呆れた。
格子越しでやり辛いこともあってそちらを引き受けたのもあったが、
彼なりの被害者たちへのサービス兼混乱防止のための策略だった。
シンイチに解除された二人が周囲をどこか羨ましそうに見ていたが。

「これで終わりましたわね」

だが元より普通科以上に狭き門の技術科の生徒数は多くはない。
それも上位に位置するBクラスともなれば十数名程度である。
3人で分担すれば5分もかからずにクラス全体の解除は終わった。
ただ魅惑された彼らが本当に正気に戻るにはまだかかりそうである。

「けど思ったより疲れちゃったよボク。
 調整はフォスタ任せでもこの量の連続放出ってキツイ」

そんな生徒達たちから距離を取ると大きく息を吐くミューヒ。
笑みは浮かべているが額には汗が浮かんでおり疲れを示していた。
フォトンの抽出は引き出す量と疲労感が比例して増えていくのだ。

「短い間隔で中級から上級のスキルを連発したのと同じですからね。
 クイックエクストラクトがどれだけ無謀な方法か身に染みましたわ」

同程度の疲労感を僅かに表情に出しながらアリステルは同意した。
鍛えている彼女らでもそう感じてしまうほど自らに負担がかかっていた。
しかもこれはQEですらないただ連続して行っただけの抽出と放出だ。
Bランク相当でもこれだ。最大値の短時間連続抽出など試したくもない。
これ以上醜態を晒すまいと平気な素振りのフリーレも胸中では同感だった。

「それを涼しい顔でやっちゃうイッチーは何者だよ、っていう話だけどね」

「……そういう事を俺を見ながら聞こえるようにいうな」

ミューヒは解除を終えた彼が戻ってくるのを眺めながら疑問を口にした。
そのあからさまな問い方に溜め息交じりながら簡単な話だと彼は答える。

「俺とお前らじゃ器が違うからな」

「おおっ、ついにイッチーが俺はすごいんだぞ発言?」

「何が、ついに、だ。逆だ、逆。
 俺は小さじのスプーンでお前らはいわば寸胴鍋。
 どっちが満杯まで水を汲むのが大変かなんて言うまでもないだろう?」

「ず、っ!?」

それを連続させるのなら尚更だと続けられ彼女達は大いに納得した。
高ランク者が一定量を連続抽出するのはいわば寸胴鍋での水汲み作業。
だがDランクの彼の場合は最大値でも一回の疲労感が半ば無いスプーン。
回数という手間はかかるが速ささえ手に入れば楽な作業と言えた。

「私たちは底が深いが取り回しは悪い大きな鍋で、
 自分は底は浅いが扱いやすい小さなスプーンときたか」

「じつに………わかりやすい例えです。
 平均がBほどのガレスト人では使えないわけですね」

目から鱗だと感心し納得したアリステルやフリーレと違い、
ミューヒは虚ろな目でなにやら呟きながら表情から笑みを消していた。

「ボクたちは……ずん、どう? 平均は、B?」

珍しく抑揚のない声を発する彼女は何気なく、そう何気なく。
本当に何気なく目の前の彼女らの胸部を見た後で自らを見下ろす。
そこには丘も山もなく自らの足と地面が何の苦もなく目に映った。
再度見上げれば目の前には足元を覗くには邪魔そうな山が四つ。

「ふ、ふふふ………イッチー。
 それは未だA以下なボクへの宣戦布告と受け取るよ?」

シンイチの例えは地味に彼女のコンプレックスを直撃していた。
後半は彼の言った言葉ではない上に前半以上に関係がなかったが。
しかし戻った笑顔は暗い。発した声も重い。そして彼を見る目が怖い。
フリーレたちも思わず怯んでしまうナニカがそこにあった。ただ。

「曲解して勝手にダメージ受けてんじゃねえっ!!」

「あいたっ!?」

それに怯えもしなかった彼に頭をはたかれるまで、だったが。
叱りつけるような顔と声でそうしたシンイチは若干不機嫌になっていた。
取りようによっては自身を卑下したとも取れる物言いに怒っていたのだ。

「だいたいな、お前のどこが寸胴だ?」

「へ、な、なにぃっ!?!?」

ほら、すごくくびれてるじゃないか。
などと臆面もなく両手で彼女の腰を掴むと軽々と抱きあげて言う。
ミューヒは絶叫しながらも驚き過ぎて抵抗らしい抵抗さえ出来なかった。

「こんな小柄で愛らしい外見持ってて何が不満だお前?」

「う、え─────っっ!?!?!?」

心底解らないと素でこぼされたミューヒは完全に照れて茹蛸になっていた。
その光景にヴェルナーは引きつった笑みを浮かべて思わず教師に問うた。

「先生、俺あいつに会うの今日が初めてなんだけど、
 すっごい女慣れした誑しに見える。半分くらい天然が入った系の」

でなければたかが15歳の少年が、
破天荒と名高い狐娘の凄味に怯まずその頭を軽々しくはたき、
何の抵抗もなくあっさりと抱き上げるなど正気の沙汰と思えない。

「………いうなブラウン。もう知っている。
 残り半分がわざとだから余計に性質が悪いんだ」

羨ましそうにしているアリステルも視界に入っているのか。
大きなため息を吐いた女教師の姿に彼女も経験者なのだと察した。

「改めてとんでもない奴だな。
 この三人と自然に接せられている時点で大物だけど」

「そのまとめられ方には言いたいことがあるが、
 ………大物のスプーンなど、扱いに困るよ」

軽そうに見えて触れれば存外に重く、管理するつもりが使われている。
胸中でそう呟いて、今度はアリステルにまで矛先を向ける姿に再度溜め息。
最初は素での言動だったのかもしれないが今のは果たしてどちらか。


──最後の息抜きをさせてるつもりかナカムラ


()の可能性を提示した男が犯人の目的を考察してないわけがない。
この時期にあんなスキルを使った相手がこれで終わるなどあり得ない。
これが事件の始まりなのだという予感にフリーレは苦々しく天を睨んだ。
+注意+
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