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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

試験編 第一章「テストは利用するもの」

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04-09 ロマン武装、乱舞(前篇)

遅れた。活動報告にも書きましたが、本来の投稿予定日に
この話の書き直し・修正を初めてしまい、尚且つそれに手間取っておりました。

しかも長くなったので二分割になるという始末です。
一応後編は明日更新予定。





「さて、何して待ってる?」

アリステルとヴェルナーの精神状態をなんとか平時に戻した後。
フリーレから人を送るからその場で待機していろと命じられた彼ら。
その通信が切れた直後に彼は当たり前のようにそんな事を皆に聞いていた。

「え、ドゥネージュ先生なら2分もかからず来られるでしょう?」

「あの先生以外でも外骨格使えば10分程度、選抜に少しかかっても15分程度だろ?」

しかしこの場のメンツでは比較的学園の常識を知るお嬢様と技術者は首を傾げた。
学園トップのお嬢様と趣味でアニメロボットを完全再現してしまうような者達が
常識人という括りな辺りこの4名が色々濃すぎるのだがそれは横に置いておこう。

「甘い。甘いよ、二人とも。
 あのフドゥネっちがそんなまともな対応できるわけがない!」

「だよな、真面目に人の選抜には入るだろうがあいつは同僚との付き合いが薄い。
 ましてや今はギリギリの人数で試験をしているから余分な人員はどこにも無い」

荒事に関係しないのなら校舎で留守番している教員たちでも良かったのだが、
原因不明で暴れ出した生徒と教師だ。しかも彼らが確保されたのはフィールド内。
最悪外骨格を使いこなせる人員が複数名必要なのは誰の目にも明らかである。

「彼もダメ、彼女もダメと一人で判断して『こうなったらもう私が行く!』まで10分。
 そのために周囲に事情を説明するのにさらに10分。説得にさらに5分ほど。
 見かねた周囲が手配してくれるだろうから本隊が来るのはさらに20分かな。
 計画性ってやつがないからな、あいつ」

「………それマジ?」

「あ、あの、なにかドゥネージュ先生のイメージがガラガラと……」

仮にも学園最強の教師であり剣聖と名高い元軍人であり試験の総合監督。
それをあたかも人付き合いも指示を出すのも下手くそで苦手な残念な人扱い。
技術者は疑っているがお嬢様は彼の発言を全面的に信じたために愕然としていた。

「あははっ、二人とも夢見すぎだよ。
 フドゥネ先生は必死にデキル女気取ってるだけの残念美人さんだよ」

「そういってやるなよ。あれで結構必死に怖い教師やってるんだからさ」

「わ、わたくしの目標の一つが音を立てて崩れましたわ!?」

厳しい態度で生徒に接しながら学園や都市の防衛にも手を貸す女丈夫。
元軍人として高い名声と実力、そして女性としての美しさを併せ持つ彼女を
アリステルは純粋に憧れ、目標としていただけにその発言はショックが大きかった。
ただ。

「…………いい意味でお前とどっこいどっこいだと思うけどな。
 まあそれでもお前よりだいぶ強いと思うから目標にはしておいてやれよ」

「君それさっきから全然フォローになってないぞ!?
 あと本人には絶対言ってやるなよ!?」

「ハハハ、ソンナノトウゼンジャナイカ」

衝撃に崩れ落ちたアリステルの肩を叩いて慰めてるシンイチだがトドメに近い。
ヴェルナーはこの場に本人がいなくて本当に良かったと強く思ったという。
突然の片言での発言は残念ながら翻訳機によって誰にも伝わっていなかったが。

「はぁ、しっかしな。
 暇つぶしといっても遊び道具の類はさすがに俺も持ち込んでないよ」

「でもお前、こんなのばっか(・・・・・・・)、作ってるんだろ?」

そういって未だ横たわったままだったグランファイザーの躯体を拳で叩いた。
それが指し示す事の意味に勘付いて、ヴェルナーは苦笑を浮かべてしまう。

「……とぼけた顔して耳聡いね、まったく」

彼としては事情説明を軽くすませるつもりで発した言葉だったが嘘八百ではない。
実際授業や課題で出された物は手早く作って提出して残りは趣味に使っていた。

「けどそれで今持ち込んでるのは今回の試験で使われなかった物だけだぞ。
 それにどっちかといえばまだまだ未完成な代物ばっかなんだけど……」

「でも、面白いモノなんだろ?」

しかし未完成ゆえに渋る彼にシンイチは確信がこもった言葉を向ける。
見てもいないのに何故だと聞き返したくなる彼だが実際その通り(・・・・)なのだ。
面白い物を作った自負が彼にはある。他の誰かがどう思かが分からないだけで。

技術科におけるこの試験は他の科とわずかに趣きが異なっている。
試されるのが彼ら自身ではなく彼らが作成したモノとその運用法なのだ。
そのため事前に与えられた三つの課題をクリアする作品をいくつか作らされる。

ひとつは戦いで役に立つ機体(ロボット)だ。
直接戦闘型から斥候型、拠点防衛型。戦いに関係するなら目的は問わない。
自己判断型や遠隔操作の無人機や搭乗型に大型・小型という中身も問われない。
このフィールドでの実戦に耐えられることを証明できる機体を作るのが一つ。

次はどんな環境でも生活するために必要と思われるサバイバル道具だ。
水の確保から快適な環境作りまでこれもまた中身までは問われていない。
何が必要でそのためにどんな機能があればいいのかを考えるのも評価基準。

最後に人が使う武装だ。ブレード、ブラスター、ランスにバズーカ。
種類は特に限定されておらず生身や外骨格どちらでの使用が前提かさえ自由。
どんな目的でどんな武装を作るのかさえ試験の評価の内なのである。

そして技術科生徒は当日この三つの分野からランダムで二つを受ける事になる。
すべてに参加できずどれを受けるか選ぶこともできないためどれも手は抜けない。
不得意や興味が薄い分野に対しても最低限の製作知識や経験を得るための対策だ。
将来的にどの分野に進むにしても生徒の段階では幅広くモノを知ってもらう。
それがガレスト学園における技術科生徒たちへの教育方針の一つであった。
尤も苦手分野のみで試験が行われないようにという救済処置の一面もあるが。

「はぁ、運良く武装試験に外れたから安堵してたのに嫌な試験官に捕まったよ」

「そいつは残念だったな」

「………嬉しそうに笑いやがって。
 噂って本当にあてにならないな。どこが人間嫌いだよ。
 こいつ絶対人使いの荒いタイプだろ。ああっもう! こうなりゃ自棄だ!」

不敵な笑みさえ浮かべて出せと促す姿にどこか頭痛を覚えながらフォスタに触れた。
途端画面から光球が飛び出すとそれは地面に着くと広がって一つの箱を形成する。

「存分に見るがいい! これこそ俺がこの数年ハマった、もとい!
 新しく手に入れたバイブル(アニメ)から得たアイディアを具現化したものだ!」

そういって一般家庭の浴槽ほどの大きさと深さのある箱を指差すヴェルナー。
興奮気味の言葉にシンイチは目を輝かせながら─他二名は苦笑─中を覗きこむ。

「え、これのどこが武装ですの?」

「ジャンクパーツの山じゃなくて?」

それが苦笑組の率直な第一印象であった。そも武器として見えなかった。
溝の入った謎の円錐(ドリル)L字型の棒(トンファー)噴射口がついた篭手(ロケットパンチ)などなど、
彼女らにはどう使うか分からないモノが多すぎるので当然の反応ともいえる。
シンイチも理由は違う(・・・・・)が困惑の混ざった表情で動きが止まっていた。

「失敬な!
 確かに未完成だから色々危ない所もあるけど失敗作でも廃棄パーツでもないぞ!」

「そうは仰られても。これなんか完全に武器ではないじゃないですか」

ヴェルナーにとって未完成品でも心血注いだ作品であるため否定の叫びをあげたが、
純正ガレスト武器に数多く触れてきた彼女にとってそれらはまるで武器に見えない。
特に彼女が指差した“掌サイズの円盤を重ねた物”は以前に資料で見た覚えがある。
武器資料ではなく地球、とくに日本人の文化資料の一部において。

「確か地球の昔のおもちゃで“よーよー”でしたっけ?」

「あ、ホントだ。こうやって紐を指に引っ掛けて上げ下げして遊ぶんでしょ?」

言うが早いかミューヒはそれを掴むと円盤から伸びる紐を掴んで上下させて遊びだす。
彼女らの目は完全に未完成の武装ではなく明らかに地球産の玩具を見る目。
そして二人の言う通りソレは誰が見てもヨーヨーにしか見えない代物であった。
しかし彼女が遊びだした事に製作者たる彼はどうしてか一気に顔を青くしていた。

「ばっ馬鹿! 未完成だっていってるのに勝手に使うなよ!
 確かにそれはヨーヨーとしても遊べる設計だけど勢いよくぶつけると
 激突した瞬間スパイクが飛び出て相手を粉砕するというとても危険な」

「え、こういうこと?」

「わーーーーっ!?」

説明半ばで紐ごとヨーヨーを放り投げた彼女にヴェルナーは絶叫する。
どういうことだと少女らが首を傾げている間に目標にされた樹木に激突。
瞬間フォトンの突起物が突き出るように現れ、樹木をいとも簡単に粉砕する。
人の胴より太かった樹木は激突した部位を粉々にされると音を立てて倒れた。

「へえ、思ってたよりすごいね」

「ダメっ、よそ見してないで避けろ!!」

「へ?」

予想以上の破壊力に感心したように頷く彼女に向かう必死の注意。
だがミューヒはそれを真摯に受け止めていなかった。その時間が無かったともいえる。
だから“ソレ”に反応し、のけぞって回避できたのは彼女の優れた五感のおかげ。

「え。なに、うそ!?」

しかしそれは反応できただけで何が起こったかを把握できていたわけではない。
今しがた自らが投げて樹木を粉砕したヨーヨーが自分目掛けて飛んでくるなど思慮外。
既存の投擲武装の中には自動的に手元に戻ってくる機能がある物も存在してはいる。
だがこのヨーヨーが戻ってきた速度は彼女が投げつけた速度とまるで大差がなく、
ましてや未だ樹木を粉砕した凶悪な鋭さを誇る円錐状のスパイクが飛び出たままだ。

「だから勝手に使わないでっていったのに!!
 それまだエネルギースパイクの収納システムがうまくいってないんだ!
 自動返還システムは誰かが受け取るまで戻り続けようとするし!」

「なにその欠陥兵器!?」

「だから未完成だって最初に言ったんじゃないか!!」

「ルオーナさん、また来ますよ!」

さらに文句を言い募ろうとした彼女だがアリステルからの注意に意識を戻す。
一度回避した事で背後の樹木に突き刺さっていたそれが再び彼女目掛けて飛ぶ。

「わっ、ちょっとっ! 受けとめたら止まるんじゃないの!?」

「木にぶつかった程度じゃ受け止めたと認識しないんだよ!」

「あれをじかに受け止めろっていうの!?」

一撃で人間よりはるかに太い樹木を粉砕する兵器なのだ。
いくらフォスタのバリアがあっても受け止めるのは絶対に避けたい所である。
周囲に巻き添えが出ないよう位置取りに注意しつつ彼女はヨーヨーを回避する。
だがそれは何かにぶつかろうともぶつからなくとも彼女の元に戻ろうとしていた。
容易に人を貫き通せる凶悪なスパイクと剛腕投手の速球並のスピードでもって。

「よっ、やっ、とっ、ねえ他に方法ないの?」

「………10分ぐらいでエネルギー切れを起こすからそれまで頑張る、とか?」

そして開発者が語るには穏便な手段ではそれしか方法がないらしい。

「ちょっ、さすがにこの状態10分ってうざ過ぎるんですけど!?」

小柄な体躯を見事に操り軽業師も裸足で逃げ出す動きで避け続ける。
その動きには気楽ささえ見えているが表情にはうんざりとした感情が浮かぶ。
訓練でもないのに暴走兵器に襲われ続けるのを長続きさせたい者は普通いない。

「ははっ、やっぱり面白い物だったな。
 ヨーヨーの武器化は定番……とはいえあれではもうモーニングスターだな。
 しかしあれだけ動き回って、見えないめくれないのはさすがだ。拍手したい」

「ナカムラさん何を仰ってっ!? そうです外骨格を起動させて受け止めれば!」

体力及び技能的にそれで問題が無いため彼は飛び回る彼女を面白そうに観察中。
生真面目なお嬢様はそれに怒りながらも打開策を提示するが即座に否定される。

「学園量産品じゃ動き回りながら起動なんて真似できないよ!」

次々と飛び跳ねながら無理だと首を振る彼女にそうだったと苦々しくアリステルが唸る。
つい自身本来の(・・・)外骨格で考えてしまったが学園の物はかなりデチューンされている。
装着者に動きに合わせて装甲を展開装着させられるほどの性能は与えられていない。

「ならば破壊します!
 未完成品とはいえあれは危険すぎます。借りますよ!」

「え、それは!? 待って!!」

箱の中から唯一まともそうな武器である両刃剣(ブレード)を掴むと飛び出した。
制止の声を“自分の製作物を壊されたくない”言葉と切り捨てた彼女は止まらない。
ミューヒの実力は知っていても彼女は危険を放置して待つという選択ができなかったのだ。

しかしこの時のアリステルは決して冷静といえる精神状態に無かった。
武装の暴走という事態に生来の生真面目さと責任感が空回りしていたともいえる。
彼女にとってその回避運動を10分続けることなどたいした労苦でも危険でもない。
本人が語る通りウザイだけでありそれはアリステルにとっても同じ事のはずだ。
また破壊しようという判断は良いが同じ製作者の武器を手に取るのは失策だろう。
おそらくは自らの武装を取り出すその一瞬すら惜しんだのだろうが不用心だった。

「ふふふっ」

だから。
刀身に薄らと見えた“線”に次の騒動を察して少年が笑みを深めたのと、
ミューヒの前に立った彼女が剣を振り上げて飛び込んでくる凶器に狙いを付けたのと、
フォスタがその武装を認識してエネルギーを自動供給し始めたのはほぼ同時。

「はあっ──えっ!?」

その刺々しいスパイクごと真っ二つにしようと振り下ろした剣の感覚がズレる。
まるで手にした剣が急激に軟体となったかのように手元で踊っていると感じた。
そしてアリステルのその感覚は概ね(・・)間違った解釈ではなかった。

「な、なんですかこれぇっ!?」

想像していなかった事態に彼女らは困惑と驚愕の絶叫をあげる。何せ刀身が伸びた。
正確に表現するのなら一本のワイヤーで等間隔に別れた刃が連なって踊っている。
凶器(ヨーヨー)そのものはワイヤー部分に当たってしまい破壊には至らなかったが、
伸びた刀身はまるで東洋の龍か大蛇のように自身を波立たせながら地を這っていた。

「おおっ、蛇腹剣(じゃばらけん)とはさすがわかってるじゃないか!」

「趣味をわかってくれてありがとう! でもそんなこと言ってる場合じゃない!
 あれもまだ未完成でどうしても思い通りに動いてくれないんだよ!」

サムズアップまでして興奮するシンイチだが言われた方はそれどころではない。
蛇腹剣とは等間隔に分裂した刃がワイヤーで繋がり鞭のようになる機構を持つ剣だ。
連結刃とも呼ばれ剣と鞭の特性を併せ持つためどの交戦距離でも対応できる優れ物。
しかし地球技術では強度問題を解決できず機構も再現できず所詮は架空武器。
また現実に完成したとしても普通の鞭自体が武器として扱いの難しい物である。
それに刃が付随したこれの難易度が跳ね上がっている事は容易に想像できる。

そんな問題点を異世界技術を用いることで解決してしまったのがヴェルナーだ。
強度の問題をガレスト由来の武装開発技術を流用することで解決した彼は
扱いの難しさを意志に感応する特性を持つフォトンを用いる事で解決を試みた。
刀身全体をフォトンで包み、使い手の意志で伸縮させて自在に動かす。
はずだった。

「きゃっ、いやっなんですのこれ!? なんですの!?」

「ちょっ、さすがにこんなの二つも相手するのはウザイどころじゃないよ!?」 

しかし現実には彼女の持つ蛇腹剣は本人が制御できているようには全く見えない。
周囲全てを薙ぎ払うが如き動きで木々を貫き、大地を抉り、持ち主にさえ牙をむく。

「っ、『ラウンドシールド』!」

咄嗟に張った丸みを帯びた盾がそのエネルギーを大きく削られながら大蛇を反らす。
そして彼女の制御下にないそれは助けるはずだったミューヒにさえ容赦なく襲い掛かる。

「ああもうっ! なにやってんのアリちゃん!」

「申し訳ありませんっ!! でも言う事きかないんですこれ!!」

一直線に飛びかかってくるヨーヨーは軌道が読みやすく回避は容易かった。
だが変則自在ともいうべきその大蛇の“しなり”は不慣れもあって読みづらい。
それでも持ち前の軽やかさで涼しい顔で避け続けている辺りさすがではある。
むしろどう命じても動かしても思い通りにいかないアリステルの方が焦っていた。

「どうすれば止まるんですかこれ!?」

「だから待ってって言ったのに!
 いま接続を切っても余剰エネルギーで5分ぐらいそのままだ。
 ああっ手を離しちゃ駄目だからね。見境なく動き回っちゃうから!」

一度接続し供給を受けた事でそれだけのフォトンが貯蔵されてしまうという。
すぐに接続は絶ったが剣に戻すことができず大蛇はうねりながら暴れ続ける。

「ねえ、いくら分かれてるとはいえなんか刀身以上に長くなってない!?」

「フォトンで形成した刀身やワイヤーが増設される設計なの!」

いわれてみれば普通の両刃剣に見えたが鍔やナックルガードは太く大きい。
鍔にはそのためのギミックが、ナックルガードは手元を守る意味があったのだ。

「っ、このっ、じゃあフォトンがある限り伸び続けるのあれ!?」

「彼女が焦ってるせいで余計な機能が動いているんだと思う。
 フォトンの減りは早まるけど剣が届く範囲が増えて、わっこっちに来た!?」

「………仕方ないな」

ヒナの下には暴れる大蛇と共に同じく制御不能の玩具が襲い掛かってくる。
そして安全圏にいたはずの彼らの所へもその牙は襲い掛かってきていた。
咄嗟にヴェルナーはスキルではなく実体のある盾を取り出して下がるが、
もう一人は剣の動きを観察しながら、気軽に一歩前に踏み込んで一言。

「似非ロケット学者、あのヨーヨーを使わせてもらうぞ」

「え、なにを、ってかそれ俺のこと!?」

意味の解らない呼称と共に音も立てずに大地を蹴った彼はまるで当然のように
大蛇の刃先に触れることさえなくアリステルの下に一足で飛び込むと柄を奪った。

「え?」

それは果たして突然彼が眼前に現れた驚きか。持っていた柄を奪われた驚きか。
シンイチがその大蛇の尻尾を彼が掴んだ途端に誰の目にも分かる形で動きが変わった。
彼が二、三度手首を動かしただけで不規則に暴れていた大蛇の動きが整っていく。
そこにはもう暴れる大蛇はなく彼の意志に従順に従う武器の姿があった。

「やっぱりそうか……ヒナ、動くなよ?」

「い、いや、なんとなく分かるけどその顔でいうのやめて!?」

何かを掴んだらしい彼が浮かべた表情は限りなく邪悪に近い不敵な笑みだ。
強烈な不安に襲われながらも結局動きを止めたのが彼女が出したシンイチへの答え。
一転して呆れ顔の彼だがそこに少しだけ喜色が混じったのは気のせいではあるまい。

「ほら、とっとと食らいつけ!」

命じるように叫びながら手首を一度回せば剣先が急激に方向転換し大地を走る。
それはミューヒ目掛けて何度目かの襲撃を行おうとした凶器を明確に狙っている。
空間に螺旋を描くように突き進んだ鋼の大蛇は暴走する玩具に見事に牙を立てる。

「あはは……まーじーでー?」

眼前で蛇腹剣に貫かれた凶器(ヨーヨー)の姿を目撃した彼女は苦笑いだ。
やるとは思ったがいとも簡単にやられると驚くよりも彼女は呆れてしまう。
初めて触った未完成─欠陥─兵器を使って小さな標的に命中させるなど。
驚くべきだと頭では思うのだがどうしてか呆れという感情が勝っていた。
その間に伸びきった刀身は縮まっていき、元の両刃剣へとその姿を戻していく。
剣先にスパイクが消えたヨーヨーが突き刺さったままという多少間抜けな姿だが。

「た、助かりましたわ。ありがとうございます」

「色々と言いたい事はあるけど、うん、まあ助かったよイッチー」

お嬢様は素直に、狐娘はどこかぶっきらぼうに感謝を言葉にする。
しかし彼がそれに“別に”と返すより先に彼女等は笑顔で己が武装を抜いた。

「でもまずはその危険な欠陥武装箱を処分しましょうか」

「そうだねアリちゃん。ちょっと恥かかされたしね」

二人は見事に建前と本音をそれぞれで口にするとそれぞれの砲身を箱に向けた。
フォトンエネルギーを放出する巨大なバズーカ砲が彼女らの肩に担がれている。
少女の体躯とのアンバランスさはあるがこの学園ではさして珍しい光景でもない。
尤も彼女らが攻撃的になったのは誰かさんの前で不格好を見せたため。
などというじつに女の子らしいものなのだが、無骨な武装で台無しである。

「いやっ待って!!
 確かに危ないのもあるけど勝手に使ったのはそっちじゃないか!?」

ある意味学園ツートップの砲口に狙われるという恐怖の光景にしかし彼は立ち塞がる。
それだけ自らが心血注いで作ったモノが大事だからではあるが若干腰は引けている。
正面に立った事で彼女らの笑ってない笑顔を直視することになったせいだった。

「事前説明もなく放り出して触れられる状態にしたのはそちらでしょう?」

「説明不足だったのは認めるけど未完成ってことは言ったじゃないか!」

「いくら未完成とはいえ人前に出す以上もうちょっと選別するべきじゃない?」

「する前にそっちが使ったんじゃないか!」

にっこり微笑むその圧力に屈せずに言葉を返すもが彼女らに引く気配はない。
彼女達も自分達に非が全く無いとは思ってないが制御不能武器への危機感もあった。
最大の理由が彼の前で恥をかかされたように感じた事なのは否定できないが。

「だいたい、っ!?」

「なっ!?」

そんな彼と彼女らの視線がぶつかる合間に突如として鋼の大蛇が割って入る。
驚きと共に視線を向ければ微笑を浮かべた顔で蛇腹剣を操る(・・)少年がいた。

「まあまあ落ち着いて」

「どの口でいうんだお前!?」

「いやいやっ、なんでまた使っちゃうのイッチー!?」

「そうです! そんな制御がきかない武器をっ、ってあれ?」

折角動きが止まったのにと誰もが口に出しかけて、ようやく全員が気付く。
そもそも誰がどうやってその暴走を止めたのか。安堵と怒りから失念していた。
そして再度解放された大蛇の動きを彼らは知らず目で追って全員が息を呑んだ。

「これ、は……」

彼と彼女らの間を線引くように一直線に突き進んだ刀身はその先で空を這っていた
そこに先程まで見せていた暴れ回る大蛇のような凶暴さはなく人の正確さが見える。
まるで地上を滑空するかのように波打ちながら空を走ると一本の樹木に絡みつく。
そしてそのまま鋼の大蛇は巻きつくように木を締めあげて簡単にそれを粉砕した。
自然と誰かの喉が鳴る。彼らにはまるで蛇型のドローンか輝獣にさえ見えた。
それほどまでに彼が操った蛇腹剣は一個の生命体じみた動きをしたのだ。
剣先には玩具のヨーヨーが突き刺さったままという不格好さではあったが。

「よし、こんなものかな」

「………さっきのも含めて、どうやったの?」

完全に彼の制御下にある証明のように両刃剣へと形を戻していく蛇腹剣。
それを眺めながらヴェルナーはシンイチへと当然といえば当然の疑問を問うた。
その目には若干の恐れも存在したがそれ以上の疑問と好奇心に溢れている。

「ええっとだな。簡単にいうと誤動作のパターンを読んだ、なのかな?
 観察してたらどうやったらどう動くかが何となく分かってきたからさ」

「つまり、どう違った動きをするかを把握して思い通りに動かした、と?」

「わ、わたくしが焦って何もできなかった時に既にそこまで!」

「あー、はいはい。アリちゃんは少し落ち着こうね」

そんな馬鹿なと開発者が呆然とする横でアリステルは目を輝かせている。
一方でミューヒだけがすごいとは思いながらも呆れたように彼女を諌めている。
しかしながらその視線はどこか困惑気味にシンイチに向けられていた。
明確に指摘はできないがどこかいつもの彼と対応が違うように感じていた。

「納得できないけど実際にできちゃったもんな。
 けどそれじゃどうして制御がきかないのか原因は解らないよね?」

「え、刀身の動きとフォトンの動きが微妙にズレてるからだろ?」

「は?」

「技術的なことは解らないけど、この膜と剣の動きが合ってないんだ。
 すごく些細なズレなんだけどな。あとは剣先が少し軽いのも原因か」

アイディア自体は間違ってはいなかった。
しかし肝心のそれで包まれた剣とのバランスの兼ね合いが甘かった。
刀身の重みや柔軟性による動きとそれを包んで操るフォトン伸縮の動き。
それらの間に生まれた僅かなズレが制御困難を起こした主な原因である。
そう告げられた製作者はその場で崩れ落ちるようにして頭を抱えてしまう。

「そこ一番気を付けて作ってたのに!!」

どうやらヴェルナー自身は完璧に仕上げたと思っていた点だったようだ。
灯台下暗しとはまさにこの事であろう。原因そのものは知っていたのだから。

「あはは、そこはまあ技術者と使い手の違いだからしょうがないと思うぞ?
 それに今は剣先に重石(・・)があるから良い重量バランスになってマシになったはずだ」

落ち込む姿に苦笑を浮かべながらも改良点を明確にして説明する。
それを参考になったと言って復活したヴェルナーと違い、ミューヒは渋面だ。
何せそれでは玩具を攻撃した理由が大きく様変わりしてしまうことになる。

「む、ボク助けたのそのついで?」

「ふふ……さあ、どっちでもお好きな方を」

「な、なんかむかつく! イッチーのくせに!」

多少苛立ちを含んだ言葉も余裕綽々に切り返されて顔の渋さが増していく。
負け惜しみのように怒り心頭で吠えたが案の定彼はおかしそうに笑うだけだ。
その裏で残りの二人が意外なモノを見たかのように驚いているなど露知らず。

「ルオーナさんが顔まで怒らせるなんて……」

「なんて貴重な」

表情を種類はともかく笑顔から変えることが少ない彼女のそれに二人は目を瞬かせる。
それほどまでにその極々当たり前の表情の変化は彼女に限定すれば珍しいものだった。

「すっごくむかつくからやっぱそれ吹っ飛ばす」

「ま、待ってぇぇっ!! ってかそれ絶対八つ当たりだよね!?」

その視線に気付いたのかたまたまか。再び砲口を武器箱にヒナは向けた。
悲鳴のような声をあげて庇うように箱に覆いかぶさるヴェルナーは必死だ。
彼のような技術者にとって未完成とはいえ製作物は我が子同然なのだろう。

「ヴェルブラちゃん、どいて、そいつ壊せない」

「ガレスト人がどこでそのネタ知ったんですか!? いやっそうじゃなくてっ!
 確かに危ない物もあるけど完成品に近いのもいくつかあるんだ!」

なんとか有能性を示そうと「例えば」と彼は次々と武装を取り出すのだが───

「この大鋏は少ない力で対象を潰すように挟み切ってしまうという武器で…」

「取り回しづらそう」

「それ両手塞がって邪魔ですよね?」

「まんま巨大なハサミじゃねえか。
 挟む動作は機械任せにしてせめて腕に装着する形にしろよ」

「じゃ、じゃあこのチェーンソーと大剣を合わせた凶悪武装!
 フォトンの刃が高速回転して硬い岩盤すら切り裂く代物さ!
 まあ、そのせいで生徒のフォスタだとフォトン供給量が足りないんだけどね」

「ダメじゃん」

「威圧効果はありそうですが正直振り回したくありませんわ」

「疑似フォトンでも埋め込んで供給補助に回せば?
 どっちにしろでかくしすぎだ。小型化しないと周りが危険だろ」

───散々な結果であった。
ある程度ロマンは理解しているシンイチですら厳しい意見が出る。
そも彼はそういった物を作りたくなる気持ちには理解を示しているが、
武器としての出来栄えには理解を示しているわけではないのである。

「ど、同士にすら否定されるとは………けどアイディアはもらう!」

「図太いね君……ところでもうぶっ放していい?」

一瞬それに落ち込んだ顔を見せたヴェルナーだが既にメモをとった辺りしぶとい。
呆れ顔で笑うミューヒはそのまま当たり前のように砲口を再度箱に向けていた。

「ま、待って!
 これっ、これ自信作なんだ! せめてこれだけでも見て!」

最後の懇願とでもいいたげな雰囲気で取り出されたのは赤く塗装された銃。
片手で持てるサイズなため拳銃といえなくもないが従来の物より二回りは大きい。
特に銃身は重厚でありむしろ銃より鈍器として使えそうな幅と重量感を与える。
その形状や無骨なデザインはガレスト武器より従来の拳銃の発展系を感じさせ、
シンイチからすれば玩具のような意匠のガレスト銃器より遥かに“銃”に見えた。

「これはフォトンを極力消費しない事を目的に作った圧縮空気銃だ!」

「……ほう」

「あ、圧縮空気銃? なんですか、それ?」

「それって圧縮した空気の力で弾丸を撃つ銃のことだよね。
 地球の銃器が旧式化した今わざわざガレスト技術で作るほどのもの?」

言葉の並びで概ね理解したシンイチと違い女性陣は意味が分からなかったようだ。
むしろ正しい見解だったともいえる。別の意味でとらえる男子の方が間違いだ。
しかしそれに慌てたヴェルナーは銃口を手近な樹木に向けながら説明し始めた。

「正式にはそっちが正解なんだけどこれは圧縮した空気を弾丸にするんだ。
 通常の射撃兵装で使われるフォトンの弾丸より少ないエネルギー消費でね
 そして圧縮量と集束率を変動させることで威力や効果範囲を変えることもできる。
 まずは空気を弾丸サイズにして放つ通常モード!」

軽やかな発射音とわずかに遅れる形で空を裂くような激しい音が響く。
途端、的となった樹木の真ん中に小さくも向こう側が覗ける穴が開いていた。
空気ゆえに目に見えない弾丸が確かにそこを貫いていった確かな証拠だった。

「おおっ! リアル風の銃とかたまらんな!
 やっぱ空気で撃つより空気を撃ってこそ空気銃(エアガン)だよな!」

「うんうん、君ならわかってくれると思ってた! まさに同意見だよ!」

「よく……わかりませんが、確かに思っていた以上に貫通力がありますわね」

女性陣には分からない理由で盛り上がる二人に苦笑しながら彼女らは感心している。
どこにもである空気を弾丸とするアイディアと実現にかこつけた技術力は本物だ。
ここまでに見たいくつかの武装より確かに完成度は高そうだと考えを改めていた。

「ああ、集束率を高めると結局一点に集中できるからね。
 これぐらいの木なら貫通させるのは難しいことじゃない。
 で、続いて圧縮量を増やして集束率を下げた拡散モードだと───」

木の幹ではなくその上の枝葉を狙って銃口を上げながら彼は引き金をひいた。
多量に圧縮した空気が広範囲に向けて一気に解放されるように放たれたことで
樹木を覆う程あった枝葉がたった一発の空気弾によって吹き飛ばされ丸裸に。
そして木そのものも大きく傾いており今にも折れるか倒れそうになっていた。

「───ざっとこんなもんだ!
 今のはあえて威力を抑えたけど本来なら一発で制圧射撃さえ可能なんだぜ!」

「おお!」

「すごいですね」

見せれた成果に自慢げに拳を振り上げた彼に彼女らも納得した顔で頷いていた。
外観はガレスト式ではないがそれで本質を見間違うほど二人は節穴ではない。

「中級スキルのエアハンマー以上の威力だよ、これ。
 省エネ設計っていうのもポイント高いし、うん、自慢するだけはあるね!」

「それに武器を変えずに威力や効果範囲の変更ができるのは嬉しいです。
 弾丸が視認できないというのも相手からすればかなり厄介な特性です」

学園のツートップからの惜しみない称賛に満足気にヴェルナーは笑みをこぼす。
趣味に走って作った物でも理解されると嬉しいものだと彼はこの時初めて知った。

「で、未完成な理由は?」

だがそこに水を差すように─楽しそうに─シンイチは未完成の由縁を問うた。
満足気な表情が息がつまったような物に変わったが答えない選択肢はない。
作ったのも未完成だと最初に言ったのはヴェルナー自身なのだから。

「…………残念ながら強度が圧倒的に足りなくてね。
 圧縮量を80%以上にするともれなく腔発、いや暴発の方が意味は伝わるか。
 70%以上で集束率が60%超しても暴発。6:6で一回撃てるけど罅が入る」

「わあ、そこでオチがついちゃうんだ」

あくまでシュミレーションの結果だけれど、と注釈をつけるが大いに問題である
強度不足というのはこれまでの物と違った意味で武器として致命的な欠陥だ。
制御が難しい事などよりも使用時に壊れる可能性があるなど論外でしかない。

「つまり最大出力の半分程度までしか安全に使えないということですか?」

「うん、構造と材料の兼ね合いでこれ以上強度をあげられないんだ。
 銃全体やバレルを重厚にして多少はあげてみたけど焼け石に水だった。
 もっと大型化する事も考えたけどそうすると扱い辛くなっちゃって。
 それでもBランク程度の輝獣までなら使える威力ではあるんだけどね」

「え、それってもう充分だと思うんだけど?
 わざわざ武器自体が壊れるほどの威力なんて持たせてどうするの?」

対輝獣に限定すればそれは問題点というよりは過剰な威力要求である。
単純に出力上限を現状の半分程度にすれば解決する話にミューヒには聞こえた。
しかしどうやらこの変わった“熱”を持つ技術者に常識は通じなかったようだ。

「なにをいうんだ!?
 リミット解除とか一か八かとか銃身が壊れる程の最大出力とかロマンじゃないか!」

腕を大きく広げながら演説するかのように“理屈など知るか”と熱く語る技術者。
これで技術科Bクラスの実力者。他の生徒に忌避される理由を察する三人である。

「この子馬鹿(バカ)なのか愚か(バカ)なのかよくわかんない」

「ね、熱意は素晴らしいと思うのですが……」

「あはは、気持ちはわかるけど、そんな武器は使いたくないな」

呆れ、苦笑する女性陣とさすがにそこはフォローできないシンイチである。
いくら同じロマンを共有できても彼は間違いなく武器を使う側の人間だ。
強度不足だと開発者本人が認める武器には厳しい視線を送らざるを得ない。

「同士にまで否定された、パート2!?」

「数えるなよ……俺が武器に求めるのはまず頑丈さだからな。そこは譲れん」

尤もそこが一番難しいのだが、と口には出さず胸の中で続けた。
彼がファランディアで武器を持ち歩かなかったのはなんでも武器にできる点と
彼の扱いや魔力に耐えられる武具が手に入らなかったという根本的な理由がある。
技量が高過ぎるために引き出せる範囲が異様に広い彼の筋力を活かすためには、
そして魔装闘法術による魔力負荷に耐えるためには尋常ではない頑丈さが必要。
だから武器を用意しても戦闘のたびに壊れるので結局持ち歩かなくなったのだ。
そんな全力に近い力を使う状況になる事が多かったせいもあるのだが。

「だからじゃないけど、フォトンで包み込んで保護するってのは?
 技術的に可能かどうかはわからないけどさ、それで解決するだろ」

「え?」

「多量の圧縮空気を集束させる圧力やら発射の衝撃とかからバリア的な何かで
 銃そのものを内外から覆って守ってしまえば耐えられるんじゃないか?」

それは彼がよく“その場限り”で武具の強度を上げるのによく使った手だ。
魔装闘法術・剛の型を同種のエネルギーを使うとはいえ機械的に行う提案。
その難易度は技術者ではない彼には想像できないため成否は丸投げだ。しかし。

「そうか。ようするに武装の外骨格化か!」

「は?」

「えっと、その顔だと多分イッチー知らないで言ったんだろうけどさ。
 外骨格の防御力はアーマー自体の強度と常時展開されるバリアの厚さ。
 そして装甲表面を覆うフォトンエネルギーの量で決まるんだよ」

「武装強度を上げるために使うのは効率が悪いので行われてませんけれど。
 ………1年生なら外骨格の概要を習った時に教えられたと思うのですが?」

「なぬ?」

苦笑と呆れの混ざった顔で女性陣から指摘されて彼も唸った。
そんな授業があったことは現在授業放棄中のシンイチとて覚えている。
だがあまりに専門的な単語が飛び交って全く理解できずリタイアしたのである。
彼が理解していた概要は基本的な使い方と性能方面であり仕組みは分かっていなかった。
だがこの事実はつまるところ外骨格とは自動的に魔装闘法術を行っている鎧ともいえた。

「道理でなんか触った時に妙な感触がしたわけだ………なんかずるい」

こちらの魔力の外装が思った以上に干渉を受けた理由を理解して呟く。
同種エネルギーによる結界(バリア)のためと考えていたがこれもあったのだ。
しかし彼としては安易に使える技量とはいえ本来すさまじく調整に気を使う術を
機械的に簡単に再現され、皆がその恩恵を受けているのは納得がいかない所がある。
スキルと魔法の類似点と相違点も考えると楽をしすぎだと誰かに訴えたい気分だった。

「エネルギー調整はこのラインを使って、バリア発生領域を微調整。
 最小単位で銃を内側からコーティングするように設定して───」

一方で解決策を提示されたヴェルナーはもうそれらの調整作業に入っていた。
未完成品の中でも一番の自信作だったため早く完成させてやりたいのだろう。
空間にモニターとキーボードを投映すると手早くキーを叩きながら操作していた。

「ふふふ、これで最大出力での発射が現実味を帯びてきたぞ。
 最大の圧縮量と集束率で放てばバリアごと外骨格抜ける威力になるはずだ。
 それこそ針の穴ぐらいになっちゃうけど夢の貫通力が今まさに目の前に!」

指先の動きは繊細でよどみないものの表情は嬉々としていき声は興奮気味だ。
だがそんなヴェルナーの発言にアリステルだけがひきつった笑みを浮かべる。
それは彼女がこの中では一番の常識人に当たるからこその笑みであった。

「そ、それは威力制限を多大に無視してませんか?」

この学園で生徒が自作できる兵器には様々な制限が課せられている。
材料や工房設備もガレスト本国に比べればかなりランクが低い物になっており、
威力という点でもガレストの一般基準よりさらに細かな制限を課せられていた。
生徒の暴走や技術や兵器の大規模な流出などの危険性を考えて作られた規則だ。
それを破るのは減点や降格どころではない処罰を受けてしまう可能性すらある。
だからこその忠告にも似た注意をアリステルはしたつもりだった。しかし。

「いやそれを無視して作ったのはむしろこっち」

そんな事を口にした彼があるキーを弾けば不可思議な形状の黒い武装が現れた。
彼の言葉を信じるなら法にも近い規則を故意に破った武装をあっさりと。
アリステルは眩暈を起こしかけたが責任感で踏みとどまって叫ぶ。

「無視しないでください!」

お嬢様のそんな叫びは残念ながら色んな意味で周囲から反応はなかった。
“規則を守らない方が悪いですよね”“わたくし間違ってませんよね!”
と再度周囲に対して訴えるが残りの二名では悲しい結末しかない。

「ニャハハハッ」

「………」

一方はいつもの笑みで誤魔化され、一方は無言で目を合わせてもくれなかった。
どちらも規則をわりと平気で、且つ日常的に守っていない側の生徒であった。残念。
ただ後者の少年は何かに目を奪われたようにして固まっているだけのようだが。

「そんなぁ!」

「まあまあ、それよりも今度はどんな武器なのそれ?」

一人泣き崩れるお嬢様を尻目にミューヒは新たな武装に興味を示し指を差す。
篭手と盾が融合したような形状と盾側面から拳側に突き出た杭が目を引く武装。
ヴェルナーは空気銃の調整作業に集中しながらも彼女の質問に簡潔に答えた。

「それは俺が威力を追求して他をほぼすべて無視して作成した武装だ。
 おかげでクリーンヒットすれば外骨格をも中身ごとぶち抜けるぞ!」

「だからそれすっごい違反ですからぁ!」

生真面目お嬢様の切ない叫びは聞こえているが誰にも相手にされなかった。
先程からその武装に目が奪われているシンイチは残念ながら聞いてすらいない。

「……………………あれ、は」

「イッチー?」

問いかけるような呼びかけにも応じずにただ黒の光沢を放つそれを彼は見ていた。
中世イタリアにあった盾と武器が融合したランタン・シールドにも似ているそれ。
だがあまりに太い杭とそれを射出する(・・・・)ギミックが見えたシンイチは直感する。
あれはそんなちゃちなものではないと。

「…………パイルバンカー、か」
やっぱね、進んだ技術とかいう設定である以上ね。
色々とトンデモ兵器を出したかったのであります。欠点だらけだったけどね!

ん、つまりこのパイルバンカーも?

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