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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

試験編 第一章「テストは利用するもの」

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04-08 男の子のロマン

べつに、熱に浮かされながら書いたわけじゃないんですよ?

こういうところも本当はあるんですよ、彼。

立ち上がった巨体を間近で見上げた時の衝撃をなんと表現すればいいのか。
夜の闇と距離によってシルエットしか分からなかったその姿がはっきりと彼の目に映る。
それは少年の予想通りに、いやそれ以上に男の子のユメ(スーパーロボット)を完全に具現化していた。


燃える炎のような赤きボディ。闘士を思わせる堅牢な装甲。

胸元に輝くはGFという英字を模った黄金の巨大エンブレム。

立ち塞がる相手を威圧するような鋭さを持つブルーのカメラアイ。

大地を踏みしめるのは重厚でありながら愚鈍さ感じさせない洗練された脚部。

構える両手に武器は無くともその鋼こそが最大の武器であると訴える拳。


全高は20メートル級の実用性など度外視された見た目重視の巨大人型ロボット。
ただそれだけであったのなら彼の胸にわいた感情はそこまでではなかったろう。
しかし彼にも幼少期この手の作品に心躍らせた時期があったのは確かであり、
所謂ファンタジー世界で過ごした弊害かテクノロジーの塊に対する熱は秘めていた。
これまでそれが表に出てこなかったのはひとえにそれどころではなかっただけ。
しかし今はある程度の落ち着きを取り戻しておりここに他者の目はない。
あくまで見入ってしまっている彼の視界の中にはという意味だがそれで充分。
ましてや彼─シンイチにとってそのロボットは特別な意味を持つ姿だった。


「うはああぁぁっっ!!! マジかぁぁっ!!!」


だからこそ出会ってしまった夢の存在を前にして彼は叫んでいた
それこそ森中に響いてしまうほどに恥も外聞もなく熱狂してしまった。

『ま、またかよ! いい加減にしてくれ!!』

ただそれはそのロボの搭乗者にとっては警戒対象の“興奮した人物”にしか見えない。
少年の涙声がそこから聞こえた事など気にした風もなく駆け寄ってくる存在に彼は怯えた。

『来るなぁっ!』

「っ!」

シンイチを見下ろすようにしたカメラアイが一際輝いた瞬間彼は飛び退く。
その直後、彼がいた場所に目から放たれた青色のビームが地面を焦がしていた。

「………メーザー・アイ?
 そ、そこまで……そこまでやったのかお前!!」

『うわあぁぁっ、だから来るなって!!
 生身相手にうまく手加減できる設計なんてしてないんだ!』

搭乗者目線では攻撃されてなぜかより興奮していく姿に叫びながら腕を構えさせた。
鋼の拳をシンイチ─よりわずかに上─目掛けて突きだすと肘に当たる部位で炸裂音。

「ま、まさか!?」

『あっち行ってくれぇっ!!』

瞬間期待するように彼の眼が輝いた事など知るわけもなく。
喚くような搭乗者の叫びと共にロボの右拳はその技名と共に発射された。

『グランナッコー!!』
「グランナッコー!?」

どうしてかそれを向けられた側のシンイチとハモるようなタイミングで。
ジェット噴射による直線の軌道を描いて落ちるように進む鋼の飛拳(ロケットパンチ)
興奮した様子の彼は避けるどころか喜色満面で走りだすと、軽やかに二度跳んだ。

『なっ、踏み台にした!?』

地面を蹴り、そして飛び込んできた鋼の拳をさらに踏みつけるようにして跳ぶ。
跳躍して迫ってくる彼の姿が頭部のカメラアイに飛び込んでくるのがモニターに映る。

『これは!?』

それにどこかで見たような既視感を覚えながら反射的に残った腕で頭部を庇ったのと
勢いそのままに突っ込んできたシンイチが振り上げた拳が衝突したのはほぼ同時。

『う、うわああぁっ!!??』

突き抜ける衝撃に機体が耐えきれず大きく揺れ、操縦席の彼もまたそれに呑まれた。
鋼の巨体は謎の興奮状態に陥った一人の少年の一撃で仰向けに倒れ込んでしまう。
殴り飛ばした張本人たる彼は頭部付近に降り立つとカメラを覗きこむように叫ぶ。

「グランファイザー第22話!」

『破られた正義の拳! って、え?』

その意味不明のワードに半ば反射的に答えてしまった搭乗者はしばし呆然とする。
シンイチはまるでその顔が見えているかのように楽しそうに笑うとさらに続ける。

「紅蓮のボディは」

『正義の炎が宿った証!』

「唸る熱き拳で」

『邪悪な氷を打ち砕く!』

「『グランファイザーと俺たちの熱血は火傷程度じゃすまねえぞ!!』」

事前の準備もなしに行われた息の合った掛け合いが夜の森にどこまでも響いていく。
それを搭乗者であり倒れたロボの開発者でもある生徒はどう受け取ったのか。
彼はその答えを腰部のコクピットハッチを開いたことで存分にシンイチに示した。
そこに打算は何もなく、ただ彼らだけに分かる“熱さ”がふたりの間に満ちている。

「うおおぉっ!!」

そしてその熱に促されるまま雄叫びと共に操縦席から飛び出してきたのは白衣の少年。
ブロンドのぼさぼさ頭が特徴的な彼は駆け寄ると力強いハイタッチをシンイチと決めた。

「「俺たちの熱さは最強だ!!」」

そのタイミングで締めの決め台詞をしっかり合せると彼らは即座に抱き合いまた叫ぶ。

「「心の友よ!!」」

瞬間ふたりの間に様々な経歴や感情を越えた問答無用の友情が成り立ったのであった。

「………………………………………なに、あれ?」

「さ、さあ?」

尤も他者から見れば全く理解できない光景なのだが。
異様に興奮したシンイチの声を聴いて慌てて駆けつければこれである。
人生の中で最高に意味不明の状態に彼女らは呆れと困惑が混ざった顔で固まっていた。
それも仕方がないことである。彼女らには目の前で倒れているロボの価値は分からない。

それこそが一人の生徒が己が願望を叶えるために心血注いで作り上げた“物”。
現実に存在しなかったはずの架空の英雄を形作った偽者なれど同じ熱を宿した“物”。
シンイチの本当の同世代にこれを見せたのならば誰もが同じ名を口にする“本物”だ。



───紅蓮鋼人グランファイザー




説明しよう!
紅蓮鋼人グランファイザーとは!
今から約10年前に放送された超熱血ロボットアニメ(全52話)である。
当時すでにその分野の作品は手を変え品を変え出尽くした感が業界内にはあった。
しかしだからこそだと当時の子供達に向けて作られた原点回帰の作品がこれだった。

心こそ世界に不必要な物だとその熱を封じようとする悪の帝国『サムザムーン』と
人の心にある熱血の化身であるグランファイザー及びその搭乗者に選ばれた少年達との
激しい善と悪、熱血と冷血の戦いとそれに伴う彼らの成長と友情の物語をこれは描き切った。

ただあまりにどストレートに勧善懲悪の熱血ロボット路線を展開したため往年のファンの間で
賛否両論巻き起こした作品となったが対象とした子供たちには逆に新鮮で大ヒットする。
当時のシンイチもまたそのグランファイザーの活躍に心躍らせた子供達の一人だった。

それが目の前に完全再現された形で現れ、動いたばかりか同じ武装を放った。
忘れていた子供心が飛び出して興奮し、はしゃいでも仕方がないというものであろう。
余談だが先程の動きはすべて第22話『破られた正義の拳!』の劇中シーンの再現である。
新たに登場した敵幹部の生身での攻撃にグランファイザーが初の敗北を喫する場面だった。
いくらか地球のサブカルチャーの勉強をしたとはいえ彼女らに分かる訳がない。しかし。

「ふ、ふふふっ……」

「アリちゃん?」

「いえ、すいません。ただ……」

突然笑い出した事を小さく謝罪しつつ視線を未だ興奮状態の二人に向ける。
既に肉体の距離は離れていたが彼女らには分からない話で盛り上がっているのは分かる。

「ふふっ、どこか子供っぽい所のある方だとは思っていましたが、
 あんな純粋に楽しそうな顔を見るのは初めてで、どうしてか笑ってしまいました」

言われた彼女はシンイチの表情を注視して、内心複雑な想いになったが頷く。
見知らぬ技術科生徒と意気投合して語り合う彼は見た事のない顔で笑っている。
それをアリステルのように笑えなかった彼女はどこか悔しさを覚えるも表には出さなかった。

「そう、だね…………まあ、ボクとしてはこの状況を早く思い出して欲しいんだけど」

「………意外に真面目だったのですね、あなた」

心底意外だといいたげに見詰められてさすがに彼女も笑顔のままながら眉根を寄せる。
一方でシンイチたちの熱いグランファイザー談義も一段落つこうとしている所だった。

「───しっかし、よくグランファイザーを知ってたな。
 日本人だって今じゃ知らない奴の方が多いだろうに!」

大ヒットとしたといってもそれはかつて、しかも10年前の話だ。
覚えているとしたらその世代の男の子たちとその親世代くらいだろう。
だが何事にも例外はあり、また特定の作品を愛し続ける猛者も世の中にはいる。

「親父がグランファイザーの大ファンでな。ガキの頃からのバイブルさ!」

「なにその羨ましい英才教育!
 俺の周りには他に好きな奴いなくてさ。
 思いっきり語れる相手がいなくて少し寂しかったってのに!」

「俺も親父以外だと初さ。なにせ10年も前のアニメだからな。
 お前こそよく知ってたな……もしや知らぬ間に再放送か復刻版が!?」

「……いや、そういうことはないと思うぞ。調べてないから分からないけど」

「そっか、だよな」

10年前。そんなフレーズを前にしてシンイチはわずかに言い澱む。
途端に心の内で燃え上がっていた熱が冷めていくのも感じてしまう。
世間では10年も前のアニメでもシンイチからすればまだ4年前の話だ。
二倍以上の感覚の差に気付いて、苦い感情が湧き出てくるのを止められない。
それを悟らせない表情作りはこの場合良いか悪いか判断の難しいところだ。

「……もういいかなお二人さん?」

「わっ、ってなんだヒナか」

「うわっミューヒ・ルオーナ!?!?」

会話が途切れるその隙を窺っていたのか。
突然顔を出した少女に対して各々が正反対の反応を見せながら飛び退いた。
具体的には前者は平然としているが後者は膝を震わせて怯えを見せていた。

「………お前本当に何したんだ?」

「あははっ、劣化版イッチー的な何かを実力行使付きで!」

「一ミリもわからんけどなぜか説得力を感じてしまう俺がいる」

「それをご自身で仰いますか、普通?」

「こ、今度はパデュエール!? え、なにこの状況!?」

何かをやらかしたらしい彼女の登場にただでさえ戦々恐々とした所に、
苦笑気味ながらさらに特別科のトップが登場してきたため彼は混乱の極みに向う。
わずかに冷静となって自分が先ほどまでいた状況を思い出した、ともいうが。

「ご安心を。私たちは他と違い(・・・・)冷静です。
 我々はこのエリアで何か異常が起こったと感じて駆けつけてきたのです。
 何があったか説明していただきたいのですが……失礼ですが、お名前は?」

「あ、ああ。俺は技術科3-Bのヴェルナー・ブラウン。ドイツ出身の地球人だ」

相手の立場ゆえか堂に入った所作ゆえか。
思わず佇まいを直し櫛など入った事もないだろう髪を気持ち正して彼は名乗る。
それを受けて当然の流れとして彼らもまた名乗り返して自己紹介をした。

「既にご存じのようですが特別科3-Aのアリステル・F・パデュエールです」

「知ってたみたいだけどミューヒ・ルオーナだよ! 所属はたぶん特別科の2-A」

「たぶんってなんだよ?
 ああ、俺は普通科1-Dのナカムラ・シンイチ。日本人だ。
 あんたのことは名前だけ(・・・・)なら知ってたがまさか同好の士とは思わなかったよ」

「俺もだよ。みんなの名前と顔はよく知ってる。
 自己紹介してもらってなんだけど君らのことを知らない生徒はいないぞ?
 組み合わせとしては謎だけど色んな意味で全員学園の有名人じゃないか」

少女達はいわずもがな。シンイチはここ最近話題の傍若無人なDランカーとして。
その名は関係が全くない技術科上級生の耳に入ってしまうほど学園に広まっていた。

「何故もうそこまで広まった!?」

「こっちとしては『何故』と言っちゃうことが『何故』だよ?」

そんな話は知らないと愕然とする少年とその態度そのものをおかしそうに笑う少女。

「……………なにこれ?」

「お気になさらず。それより何があったか教えてくださいますか?」

聞いていた話と様子の違う彼らの姿に唖然としたように目を瞬かせるヴェルナー。
しかしこれでは話が進まないと問答無用の笑顔で促すアリステルの圧力に彼は負けた。

「あ、ああ……といっても俺もよく分からないんだ。
 夕方までは多少イラついてるなぐらいは思ってたけどテストだったからな。
 さして気にしてもなかったんだがよくわからないことでいちゃもんをつけられて、
 いつものことだと思って相手にしてなかったらそれで突然キレられて襲われたんだ。
 いくらなんでもおかしいと思って先生たちに報告したら今度は先生たちもだからな。
 慌てて檻に閉じ込めたけど他には逃げられて自分のガードロボで襲ってきたから
 こっちも仕方なしにグランファイザーに乗って応戦したってところかな」

けれど人が搭乗しているのは分かっていたため強く攻勢に出れずに苦戦していたと語る。

「グランファイザーの武装って大味なの多いからなぁ……GFバーストとかもある?」

「正直、めちゃくちゃ装甲強化しておいて助かったよ……もちろんだ!」

スーパーなロボットを再現してしまった弊害ともいうべきか。
威力がありすぎて相手の生命を気にして戦うには向かない攻撃手段ばかりだった。
そして装甲の硬さを頼りにしてなんとか耐えていた所にシンイチたちが来たのである。
余談だがGFバーストとは胸部エンブレムから発射される強力な熱線の事だ。

「ええっと失礼ですが……いつものこと、とはどういう?」

「え、ああ、俺周りからも先生連中からも受けが悪いからな。
 相手にしてないから細かい理由は知らないけど、面白くないんだろ。
 自分達はガレスト技術の再現がやっとなのに俺は“こんなのばっか”作ってる。
 そんな遊んでるだけに見える俺が成績上ではBクラスのトップだからな」

肩をすくめてどうしようもないやっかみだと彼は気にした風もなく話す。
さらに教師陣の言葉もあまり聞かない問題児なんだとヴェルナーは自分で付け加えた。
思わず少女らの視線がなにか物言いたげにシンイチに向けられるが彼は沈黙で返す。
彼女らが日本の諺に詳しければきっとこう思っただろう。類は友を呼ぶ。
厳密には成績という形で実力を示しているので同じとは言い難いのだが。

「……そういえば確かに生徒達はそんな事を叫んでいたような気がします。
 もしかしてその不満が積もり積もって今日爆発したということなのでしょうか?」

「うーん、ないとは言いきれないけど全員一緒にっていうのは考えづらいでしょ」

「そうだね、先生たちが叫んでた内容とはあまり関係なさそうだし」

「なんにしろ俺達だけですませていい話じゃないな………というわけで来て欲しいんだが?」

「は?」

「へ?」

「んん?」

急にここにはいない誰かに向けられたような発言に三人が首を傾げた瞬間。
シンイチのフォスタが何もない空間にモニターを開いて相手の姿を映し出した。

『まったくっ、反応がDランクエリアにないと思ったら!』

「わっ!?」

「ドゥネージュ先生!?」

途端、不機嫌さを隠そうともしていない白髪の鬼(フリーレ)に彼らは一斉に睨まれた。
整った相貌を持つだけにその眼光の鋭さは誰であれ委縮してしまう代物である。

『それにパデュエールにルオーナ! お前たちまで何をやっている!?
 いくらランキング1位、2位でもやっていい我が儘とそうでない我が儘ぐらいわかれ!!』

「ひっ!?」

そこに般若もかくやという表情と激しい怒声が合わさりさしもの彼女らも狼狽える。
本来、叱責されてはいないヴェルナーですら怯える辺りその迫力は折り紙つきだ。

「ボ、ボクはお世話係だし何かイッチー困ってないかなぁって。
 それも先生たちにはしっかりOKもらってからきたよぉ」

「ト、トップだからこそ下の者を気に掛けるのは当然です。
 それにわたくしだってきちんと先生方の許可はとりましたわ」

『そんな言い訳聞く耳もたん!
 だいたいお前たちにすごまれて否といえる教師など私以外にいるか!!』

「あ、やっぱりそうなんだ」

それでも自らの正当性を訴える辺り彼女らもそれなりに豪胆ではある。
フリーレ女史相手では全く効果は無かったが他では意見すらできないだろう。
のほほんと自分の推測は当たっていたかと考える誰かと比べるべきではない。きっと。

『はぁ、まあいい。事情は通信越しでだが聞いていた。
 災難だったな、ブラウン。だがどうしてすぐにこちらに連絡しなかったのだ?』

「はっ!
 自分を襲った者達のガードロボにはどうやら通信妨害の装置があったようで
 フォスタも自分の機体の通信機でも外部と連絡がとれなかったのであります!
 性能を追求し外部操作できない搭乗型である事に油断し最低限の対電子対策(ECCM)さえ未搭載。
 それがご報告をここまで遅らせてしまいました。たいへん申し訳ありません!」

いい、とは言いつつも声にまだ怒気が残っていたせいか。
ヴェルナーは引きつった表情で部下が上官に答えるような喋り方で返答している。
彼女が元軍人であったことも関係しているのか彼はしっかりと敬礼までしていた。

『…………そ、そこまで畏まらなくてもいい。だが話は分かった』

アリステルの攻撃によって結果的にそれも破壊されたのだろうと彼女は頷く。
平静を装っている風だが被害者まで怯えさせた事には内心かなり気落ちしている。
そんな彼女の様子に気付いて苦笑しつつもシンイチは呆れたように疑問を口にした。

「しかし生徒自作の警備ロボ程度にも通信妨害機能とか。
 こっちはグランファイザー自作するし、ちょっと権限与えすぎじゃねえの?」

後者を見れた事は嬉しかった事ではるが一歩引くと少し恐ろしい。
一人の生徒がここまでのモノを作れてしまうことそのものが警備上問題ではないか。
遠回しにそう非難しているともとれる発言に唯一の技術科生徒は豪快に笑った。

「あはははっ、俺のは好き勝手やっただけだけど電子戦装備はわりと標準だよ。
 警備ロボは何と遭遇するか分からないから一番に求められるのは汎用性なんだ。
 何に襲われても少しでもそいつを足止めするのが警備ロボの役割だからね」

そのために最低限の電子戦装備は試験とはいえ必須なのだとヴェルナーは語った。
結局のところ時間稼ぎでしかないのだがそれ自体が彼ら警備ロボの役割でもある。
納得しつつもそれを語る相手が怠っていたのでツッコミをいれたかったシンイチだ。
ちなみに全くの余談だが電子戦やECCMといった言葉は表現として適当であるために
ここでは使われているが実際はフォトンを用いた物であるため正式名称は異なる。
翻訳機を通した場合ガレスト人たちには適切な単語に切り替わって聞こえている。

「まあじつは輝獣には電子戦する奴がいる。なんて理由よりはマシか。
 さすがに姿は多種多様でもそんなことする輝獣はいないだろうしな」

輝獣発生の過程である程度特殊な能力が付与されることは十二分にありうるのだが、
獣とは名ばかりの“現象”である輝獣はそれをまともに使う知恵や本能がないのである。
ただそのあり得ない例えでもそんなモノの存在を考えたくもないと一人の少女が震えた。

「お、恐ろしいこといわないでくださいまし!?
 あれにそういう機能がないからこそこちらは数の差を埋められているのですよ!?」

「ど、どうどう……アリちゃん大丈夫だって」

「あ……そ、そうですわね。ふぅ……」

どこか怒るかのような勢いでまくしたてたアリステルをミューヒがなだめるようにあやす。
いわれて取り乱したと自覚したのだろう。自身を落ち着かせるように深呼吸を繰り返す。
その突然豹変したような態度に目線だけでシンイチはモニター越しの女教師に尋ねた。
彼女は少しだけ瞼を落とすと淡々とした口調でただそれを語った。

『今から12年も前の話だ。
パデュエール領は大発生した輝獣の大群に襲われた事がある。
 もしそんな奴がいたら、パデュエールはここにいなかったろう』

「……そうか」

何の感情もない端的な説明はだからこそ当時の凄まじさを暗に語っていた。
シンイチもその戦いの事はガレストの歴史調査の過程で知識として知ってはいた。

“リトリアス防衛戦”
歴史にそう刻まれたパデュエール領中央都市にまで攻め入った輝獣の大群との激戦。
この時点でパデュエール軍は有能な指揮官を何人も失っていたために指揮系統が崩壊。
相手はほとんどがCやDランクの輝獣だったとはいえその数は百万を越えていたという。
そこまでの戦いで7割ほど退治できていたが崩壊した軍では都市一つ防衛しきれない。
運悪く情報伝達が遅れ、隣接した領地を持つ貴族達の対応は後手に回り援軍は間に合わない。
防衛軍は数こそ残っていたが崩壊寸前。援軍は期待できず領主夫婦は既に『戦死』していた。
偶然とある老齢の将軍(・・・・・・・・)が現場に居合わせたおかげで戦線を立て直す事に成功したのだ。
歴史家は語る。彼がいなければパデュエール領は輝獣の大群により崩壊していた事だろう。と。
まさかその場に彼女自身がいたことは歴史の情報(テキスト)には乗っておらず知らなかったが。

「心配すんなよ」

「え?」

だからか。何でもないような口調であっさりとシンイチはそう彼女に告げた。

「輝獣は現象なんだろ?
 生物じゃねえんだ。進化することはない。そんな奴はでねえよ」

これが野生生物ならば知恵や本能、進化という可能性(危険性)を持つが輝獣はそうではない。
いわば竜巻や地震のような天災なのだ。威力の差は生まれても本質まで変わることは無い。
そして発生メカニズムは既に解明され、次元エネルギーの集束は常に監視されている。

「それにもう数を揃えた程度でどうこうなるお前じゃないだろう?」

恐れる必要はないと自分の左腕を叩きながら彼女のフォスタ(それ)に視線を向ける。
あの頃には無かった。けどいま確実に自身が持っている力の象徴にアリステルは大きく頷く。

「ええ、もちろんですわ!」

そしてもうお前自身が戦えるのだと認めてもらえたような言葉に喜色満面に答えた。
シンイチは彼女の正確な実力を知らないが覚悟と意志はそれを簡単に越えると知っている。
そこに生まれながらの素質が加わっているのだ。シンイチは彼女の中のそれらを信じていた。
だから彼もまた満足気に─そして羨ましがるように─笑顔で頷いた。しかし。

「まあどこぞのバカが操ろうとでも考えてたら、山ほど厄介なの出てくるだろうけど」

「ひっ、ですからそのようなことを仰らないでください!?」

にやりと即座に笑顔の意味を変えて、それを想像して蒼白となる彼女をからかう。
意図的な輝獣創造。操作装置や兵器の搭載。輝獣に宿る人知。最終的な制御不能の暴走。
等々暗い妄想を次々と語っていけば彼女は涙目になりながら耳を塞いで蹲った。

「………なんかふたりとも噂とだいぶ違うんだけど?」

まるで怪談を怖がる子供のようだとヴェルナーは高貴なお嬢様の真実に眩暈を覚えている。
彼女をそんな状態にしたのが傍若無人な最下位なことも微妙に頭痛のように頭に響く。

「ははっ、噂ってあてにならないからねぇ」

そうにっこりと微笑むのは慰め役をシンイチに譲った形で隣りに来た少女。
だがヴェルナーは“笑顔の破壊者”の噂だけはどうしてか真実のような気がした。
これまでシンイチに向けていた笑みと自分に向けている笑みが、すごく、全く、違う。
何がどうとは彼はうまく説明できないが隣りから笑いかけられているだけで背筋が凍る。

「…………君は、余計なこと流布したり、しないよね?」

そして零れ出た甘く溶かすような吐息交じりの声は怖気が走るほど彼を震え上がらせた。

「サー・イエッサー!!」

「いい子だねぇ、ふふふ……」

かくしてそこには再び恐怖に怯えて敬礼する白衣姿の生徒の姿が生まれた。

『そんなことで人を脅すんじゃないこのぶりっ子キツネ!!』

「えへ」

だがミューヒは女教師の非難をかわすように可愛く笑って誤魔化したのだった。

けどやっぱり女の子はいじめたくなってしまうのであった。
まあ実際問題その危機感は持っておけという意味もあるんですけどね。
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