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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

試験編 第一章「テストは利用するもの」

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04-05 彼的スキル運用法

普通は未知の技術って扱いには慎重になるよね。


野外フィールドAランクエリアは学園から見た場合クトリアの一番奥にある領域。
それは無秩序に生えた木々に覆われた樹海が子供の遊び場に思えてしまう環境だった。
草木どころか生命の息吹さえ一欠片もなくなってしまっている赤と黒だけの風景。
数多の防御機構を持つ外骨格に守られてなお感じる息苦しさと肌を焼く熱風。
生身であれば5秒も立ってはいられないだろうと思わせる美しくも無慈悲な輝き。
地面さえ溶かし、大地を燃やす灼熱の海がそこにあった。


───溶岩である。
火山エリアともいわれるここは人為的に溶岩が湧き出てくるようになっている。
そのため植物は育たず、水はなく、動くモノがあるとすればここで発生した輝獣。
あるいはそれを狩るためにやってきた技術の鎧を身に纏う学生たちであろう。

そこが試験エリアとなった3-Aに出された課題はとても単純なものだ。
同時刻に1-Dが受けた課題とおそらく種類としては同じものである。
“三人一組で5個の直系15センチ以上の結晶を回収せよ”だった。
フィールドは奥になればなるほどエネルギーが集まりやすく設計されている。
ここで発生した輝獣は総じてエネルギー総量は高くなり結晶は大きくなる。
一体の輝獣を倒すだけでおそらくは合格に必要なものは集まるだろう。
数も5個だ。これだけならシンイチが出した課題より簡単に聞こえる。

だが学園から貸与された量産型の外骨格では長くこの溶岩の上に立てない。
軽減されているが地表すれすれでも熱湯の浴びたような熱を感じてしまう。
総じて彼らは輝獣の姿形に関わらず空中にいる事を強いられてしまっていた。
また輝獣の発光器官である結晶体は本体から離れれば非常にもろくなる性質を持つ。
ただ倒しただけでは灼熱のマグマに呑まれて回収する前に消滅することになる。

つまり灼熱の海の上で輝獣と戦い、結晶回収のため近距離で戦う必要があった。
ともすれば集中力を奪う熱にさらされながらのそれはひどく体力・精神を削り、
時に複数のAランク輝獣とも戦うことになる彼らの消耗はDクラスの比ではない。

それでも無事目標を達成し合格をもらった生徒たちに息の乱れは少ない。
地面に降り立ち、休憩できるスペースなどが無いため彼らは上空にいた。
これからの三日間。彼らが主にいるのはこの空中という場所になる。
食料もこの領域では期待できないため持ち込めた少量でやり過ごす予定だ。
一種の極限状態でも常と変らぬ動きがどこまで出来るかを彼らは試されている。

そして───

「アリステルさま、全員終了です。残りはあなたさまだけとなります」

時刻が昼の12時を越えようという時に最後のひとりに順番が回ってきた。

「わかりました……少し、離れていてください」

従者のリゼットからの言葉に短く答えると言葉通り彼女は上空へと逃れていく。
人数とクラス委員という立場もあって自分以外の試験が終わるの待った少女(アリステル)
無事に全員が合格できたことに安堵しつつ次は自らの番だと内心気合をいれる。

ここにあらわれる輝獣の傾向はこれまでの試験経過で見て取れた。
溶岩の海を泳ぐシャチを模したモノから炎をまとった翼竜のようなモノまで。
とかく場所柄に引きずられるためか火や岩が肉体の一部となった輝獣が多い。
そしてそれらはこれまで特別科によって多数討伐されているがまだ視界に入る。
故意に残したわけでは決してなく、3-Aが無駄な動きなく輝獣を討伐した結果だ。
そのため討伐数がクラス全体では少数になってしまったに過ぎない。

「これぐらいなら、一発でいいでしょう」

ふわりとした動きで溶岩の上に熱さを感じさせない動きで舞い降りて見据える。
熱と息苦しさは確かに彼女にも届いているがそれを全く感じさせない立ち振る舞い。
それを自分達以外の異物と捉えた50を超えるAランク輝獣たちの群れが目をむく。
生命の息吹は欠片もないが人工物とも違う存在感が一斉に彼女を標的として襲う。
されど少女の表情に焦りはない。まるで一人だけ草原に立っているかの穏やかさ。
襲い掛かってくる輝獣を視界に収めながら、むしろ少し残念がるようにして呟く。

「人が相手なら武装の乱舞を試せたのですが、仕方ないですわ」

試験が終わったあとに誰かに頼んで相手をしてもらおう。
いまにも輝獣の牙や嘴、爪が届かんとする中で冷静にそんな事を思考する。
同時に彼女の意志を感じ取って外骨格の手甲に収納されたフォスタが輝く。

「『アイスエイジ』」

そして短く呟くように唇がその形に動いた途端その言葉は遜色なくその場に再現された。
攻撃系自然干渉型・氷属性上級スキル『アイスエイジ』は空間制圧さえ可能なスキルだ。
通常の氷属性は空気中の水分を凍らせて利用するがこれは氷河期(アイスエイジ)そのものを生み出す。
彼女を中心として灼熱の海を飲み込む津波のように広がっていく無慈悲な白き牙。
溶岩の灼熱は生み出された冷気と氷の波を溶かすより早くに凍らされていく。
そのまるでついでのように襲い掛からんとした輝獣群は全て氷像と化していた。

「うわぁぁ……溶岩地帯の一角が一瞬で凍りつく光景は何度見ても圧巻ねぇ」

「うっ、さむっ!
 ここまで冷気が……さすがパデュエールさん、並の威力じゃない」

眼下にあったはずの赤と黒の世界が一瞬で白に飲み込まれていく。
その中心点に優雅に立つ鎧姿の少女はさしずめ氷原の女王にさえ見えた。
特別科の中でもトップの実力を誇る彼女のそれに3-Aは感歎の息を漏らすだけ。
精神ランクAAAを誇るとはいえ同じ事を汗ひとつかかず行うのは他者には出来ない。
パデュエール家に所属する従者たちはその様子を我がことのように喜んでいる。

「……こんな大技を使うしかないというのはまだまだ未熟ですわね」

ただ少女自身は表情には出さないがこれしか取り柄がない自分に自嘲気味だ。
本人からすればフォトンから抽出した多量のエネルギーを使っての力技でしかない。
一族が預かった土地や民を守るために強力な殲滅力は必須であることは理解している。
時には万を超える輝獣の群れを屠る必要さえガレストという世界ではよくある話だ。
けれどもし相手が知能のある人間で一定以上の実力を持った猛者ならこれは通じない。
遠距離からでは容易に避けられ、近距離でも外骨格の性能で効力が出る前に逃げられる。
知能のない輝獣だからこそ使えるスキルなため実用性という点で彼女には不信がある。
彼女が将来的に戦う必要がある相手はなにも輝獣だけではないのだから。

「対軍向けの移動砲台といえば聞こえはいいのでしょうけど」

自分はいずれ家を継ぐ身。前線に立つしかない能力よりは良いとは言われる。
彼女自身もその意味は理解している。けれど、これが本音となると少し違う。

──いつか見たあの背を誰かに

叶わぬから憧れなのかと小さく溜息を吐けば周囲ゆえか白く染まった。
ブレードを取り出し、氷像となった輝獣から結晶を切り落として回収する。
考えるまでもなく出来る動作ゆえか彼女の脳裏にはある少年の背中が浮かんでいた。


あの日からずっと自分を魅了してやまない誰かの前に立つ者の背中を。





──────────────────────────────────────





野外フィールドDランクエリア。1-D試験領域。
川辺にある岩に腰掛ける形でひとりシンイチはモニターを操作している。
時刻は午後5時半。午後の部の試験が終わった彼は即座に全員の採点作業を始めている。

「………しかし、見事な死屍累々だな」

透過性のある空間モニター越しに小石が敷き詰められたような川辺の異物に目を向ける。
文字通り倒れている。死んでいる。ぴくりとも動かないという表現が適切な異物たち。
時折溜め息や呼吸音が聞こえなければ本当に死体の山にしか見えない1-Dがそこにいた。

「そりゃね、やっとの思いで課題達成した途端に輝獣の襲撃だもんね。
 撃退できたのは良かったけど回収した結晶を紛失した班が続出。
 ここに無事に規定数持って全員が帰ってこれたのはついさっき」

心身共に疲れ果てて当然でしょうとおかしそうに指摘するミューヒ。
事実ここで倒れている誰も彼女がここにいることに気付いてさえいない。
どれだけ疲労がたまっているのかはもはや語るまでもないことだろう。
やり過ぎたかと苦笑する彼はまだいいが隣で再び毛繕いを始めた“彼女”は欠伸中。
試験開始時1-Dがアマリリスにかけた期待をミューヒは一生知ることはない。

「おい、そんなところで寝てると風邪ひくぞ。ってか背中痛くないか?」

一応見かねたシンイチが声をかけるが誰からも反応がない。反応する元気がない。
身体を起こしている者でさえ人生の終わりを迎えたかのような暗い顔をしている。
初めてに近い実戦でBランクの巨大輝獣に圧倒されたと思いきやその次は数の暴力。
やっと終わったと思ったところでの試験官が仕掛けた─とは知らない─輝獣の襲撃。
生も根も尽き果ててしまった彼らにはもはや会話すら億劫だった。

「………まあ疲れてるならそのままぶっ倒れててもいいけど────」

優しい声色で好きなだけ寝かせてやるというかのように語るが両隣の狐は苦笑する。
何せシンイチの顔はとてもではないが優しさの欠片も見えない邪悪さに満ちていた。

「────夕食と寝床がないまま明日を迎えても俺は知らんぞ」

小さくぼつりと呟くような声がせせらぎしか聞こえない川辺に響いていく。途端。

「ああっ!!」

「やべっ、しまった!! また忘れてた!!」

「おい、誰か例の果物確保に行け!」

「川だ、魚だ、全部とっ捕まえてやる!!」

「経験ある人はテント張るの手伝って!」

死屍累々となっていた生徒達はぴくりと体を震わせ、一気に起き上がった。
そして各々が出来ること、できそうな分野ごとに別れて食料と寝床確保に動きだす。

「なんだ、まだ元気じゃねえかあいつら」

「うーん………そうかなぁ?
 むしろ生命活動維持のために最後の力を振り絞った的な何かのような?」

必死の形相を見せる1-Dを前にしてミューヒは微苦笑を浮かべている。
そして横目で採点を続けるシンイチを覗いてその出鱈目さに溜め息が出そうになる。
余裕のない彼のクラスメイト達は誰も気付いていないが異常なほどその作業は速い。
この試験はチームでの課題が出ても個人ごとに評価するため採点作業は地味に過酷だ。
ひとりひとりの行動を吟味しなくてはならず教師達からは地獄だとまで言われる。
だからこそ本来試験終了後に採点は行われる。試験中の空き時間にやる事ではない。

それを今日の分だけとはいえ一人で的確に採点する彼は何者だろうか。

複数の空間モニターを開き、そこに映る情報を同時に把握し吟味する。
その評価基準は行軍と適応力を重視しているが彼女から見て妥当であった。
問題があるとすれば彼が転入してまだひと月しかここにいない生徒である事と、
授業を事実上ボイコットしてモニター操作に慣れているはずがない事にある。
他の生徒達もある程度のマルチタスクは程度の差はあれどできるだろう。
むしろ作業の手際を考えれば彼はまだ不慣れさもあって下手な部類である。
何かしらの操作10回の内およそ3回前後のミスをしてはやり直していた。
それでも作業スピードが優れているのは操作する腕の動きと情報認識が速いため。
モニターに流れる映像は三倍速以上でスクロールも目が痛くなるスピードだ。
拙さをカバーする方法としてはあまりに単純かつ出鱈目だと内心彼女は呆れている。

「そういえばお前、自分のクラスに戻らなくていいのか?」

「え、うん、大丈夫だよ。
 基本的に合格点出しちゃうとエリアから出なければ自由行動なの。
 ボクはそこからも出ちゃったけど、ほらボクってイッチーのお世話係だから」

「それを言い訳にサボリに来ただろ、お前」

「まさかどこかの転入生じゃあるまいし」

「へえ、そんな転入生がいたのか。知らなかったな」

「そうなの、困った子がいるんだよ」

そのうえこんな雑談をする余裕があるのだから作業の拙さがマイナスになっていない。
見る見るうちに30人分の採点を20分前後で終わらせた彼は伸びをしながら立ち上がる。

「んー、やっぱ面倒なのは先にすませておくに限る。
 それじゃ俺たちも夕飯の支度といこうか………一緒にどう?」

呼びかけに応じたアマリリスが肩に乗るなかもう一人の狐娘も誘う。
驚いたように目を瞬かせた彼女は少し不満そうな顔をして文句を言った。

「普通こんな場所で誘う? ムードも何もあったもんじゃないよぉ」

ましてやこれから雰囲気の良い店に連れていかれる可能性は皆無である。
女性を食事に誘うにしては状況があまりにもテンプレートからずれている。

「でも、うん……イッチーのおごりならいいよ」

「果物と魚ぐらいしかないけどな」

一転して見せた無邪気な笑みのおねだりにそれでもいいならと少年は頷いた。





1-Dの仮とはいえ拠点になりかけている川辺から目と鼻の先にある森の入り口。
体力の消耗がクラスの中ではより辛い者達が集まった果物確保班はそこにいた。
場所が近い事と取るだけなら楽だろうとそういう編成になったが動きは止まっている。
シンイチの言葉を頼りに向かった場所には確かに彼が昼間食していた実がなっていた。
ただ初見でこれに気付くのは無理があるのではないかとそこに集まった者達は思った。

「…………どうするよ、これ?」

「聞かないでよ」

そして同時にリリクの実がなっている木を見上げて途方にもくれていた。
瑞々しく美味しそうな赤い実は確かにそこにあるのだが枝葉に隠れて見つけ辛い。
また実がなっているのは木の先端に近い位置にありそこまで登る体力・気力がない。
そもそも現代日本人である彼らは肉体こそ鍛えているが木登りの経験は無いに等しい。
浮遊するようなスキルもあるにはあるがDクラスが使える難易度ではなかった。

「あ、みんなもリリク見つけたんだ。よくわかったね。
 あれって葉っぱに隠れて見つけにくいことで有名なのに」

そこへひどく場違いのように明るい声をかけられた彼らは戸惑った。

「え、わっ、ルオーナ先輩!?」

「ななななっ、なんでここに!?」

否、振り返ってその姿を見た途端疲れを忘れたかのように飛び退いた。
にこにことした少女とは対照的に彼らの表情にあるのは恐れにも似た感情だ。

「………人のことはいえないがお前俺が入る前になにやったんだ?」

「えへへ、ちょっとした若気の至りをしちゃったの」

失敗、失敗と朗らかな笑みを浮かべるがクラスメイトは目で全力で否と言っていた。
それでも口にはしない辺り1年生にもその悪名は轟いているということなのだろう。
深く聞いてもこれではどちらも何も語らないだろうと溜め息を吐きながら流した。

「あれを取るか。昼間は生で食ったが夕飯は炙って肉の味を試してみよう」

「けど結構高いところにあるよ。ボクがひとっ走りしてこようか?」

「人におごれって言っておいて何を。俺がやるよ」

そういってクラスメイトの横をすり抜けるようにして木の根元まで歩み寄る。
手甲状態のフォスタがスキル発動直前の光を放っている事に彼らはそこで気付いた。

「……はぁ、横文字好きだよね日本人って……『ジェットナックル』」

フォスタがあるのとは逆の右腕にエネルギーが集束され、後方に排出される。
その勢いに乗ってフォトンを纏った拳で右ストレートが樹木の根元に突き刺さる。
攻撃系拳撃型スキル。数多あるスキルの中で数少ない素手を用いての攻撃であった。

「え、なに?」

その行動の意図が解らなかった彼らは目が点になっていたが彼はそれを一言で説明した。

「くっ……倒れるぞぉっ!」

「へ……あ、わあぁぁっ!?」

叫び声の中身と拳が突き刺さった幹から響くみしみしという音が早急に彼らに理解をさせた。
そしてまるでその避難が終わるのを待ったかのようにリリクの木は誰もいない所に倒れた。

「よし、っと。しっかし身体が勝手に動く感じは全然慣れないな。気持ちが悪い」

「ふふふ、イッチーはそれダメなタイプの人かもね。
 特殊な攻撃が出来るから重宝してる人もいるんだけど合わない人は合わないから。
 軍人さんでもうまく戦術に取り入れてる人もいれば全く使わない人もいるって聞くよ」

勝手に動いたといえば聞こえは悪いが正確には正しい動きをトレースさせるのだ。
それにより特殊な付加を一撃に持たせられるがシンイチには合わないようだ。
ミューヒの説明を倒れた木から実をもぎ取って聞いていた彼はそうなのかと軽く頷く。

「こんだけあればいいか。じゃ、次は魚でも捕って一緒に焼くか」

5個ほど抱えるとまるで何事も無かったかのように彼は川辺へと戻っていく。
それを呆気に取られた顔で見送った形になった彼らの中で誰かが小さく呟いた。

「………そっか。切り倒せばいいんだ」

「確かに。それなら今の俺達が使えるスキルで充分だ」

登って取ることばかりに意識が行ってしまい彼らはそれを思いつけなかった。
あっさりと思いついて実行された事に溜め息が零れる。またこれは減点か、と。




彼らがいる領域に流れる川は人工とは思えぬほど澄んだ水が流れる清流である。
そこを泳ぐ川魚は地球のそれとは色合いに若干の違いはあるが形として差異は無い。
1-Dはまずフォスタで調べて人が食しても問題ないと知るや捕獲に乗り出した。

「あっ、くそ速い!」

「このっ、このっ、ああっ!」

「やっぱ何の道具も罠も無しに捕まえるの無理だったか?」

何人かが手足の裾をめくりあげて直接素手で捕まえようとするが水中の相手は素早い。
よしんば手が触れられてもつかみどころが少ない相手は慣れていなければ中々難しい。
だが、ここには釣竿もなければその手の罠を作れる知識を持った人間はいない。
フォスタに記録されているデータにはガレストの生き物についての情報はあれど
その捕まえ方や捌き方、調理方法なんてというものも入ってはいなかった。
またテスト中はネットへの接続が切られているため事前に
記録していたデータ以外は調べる事さえできない。

「うーん、やっぱ本物のエサ無しじゃきついか」

別の何人かはその場にある枝や蔦を使って釣竿や疑似餌を作ってみたが釣果はない。
網のようなものを作れれば全員で一か所に追いやってという事もできるが、
いくら頭を捻ってもそんなモノを作れそうな材料は見つけられなかった。

「お前ら、ちょっと川から上がれ。邪魔だ」

どうしたものかと釣り担当班が唸っている背後からそんな言葉が飛んできた。
声の主が誰か分かった彼らは半ば反射的に文句を言いかけたが即座に押し黙る。

「ケガしてもいいなら、別に動かなくてもいいぞ?」

自分達の代理試験官は問答無用とばかりに彼らにシューターの銃口を向けていた。
それはもう楽しそうな笑みを浮かべているので彼らはそれはもうゾッとした。

「おいお前何を!?」

「ま、待って! いますぐ出るから待って!」

ただの脅しとそれを見れる人間は残念ながらもう1-Dにはいなかった。
確実に撃つと確信してしまった彼らは慌てふためきながら川から離れていく。
それが終わるか終わらないかの瀬戸際にシンイチは小さくそれを連呼した。

「『サンダーショット』『サンダーショット』『サンダーショット』」

雷属性のエネルギー弾が彼が呟いた数だけ銃口から発射され、清流に落ちる。
小さな水柱がいくつもあがる中、1-Dはそれが沈まった後の光景に唖然となる。

「………そうだよ、電撃系で感電させたら一発じゃないか……」

「な、なんで思いつけなかったんだ、俺達……」

「コロンブスの卵の話みたいで情けなくなる。
 …………けど、思いつく前にやられるとやっぱなんかむかつく!」

あんなにも素早い動きで水中を逃げ回っていた魚たちはしかし。
水中だからこそ逃れられぬ電撃の網に引っ掛かり水面に浮かび上がっていた。
1-Dはそんな簡単かつ単純な手段に気付けなかった自分達に呆れてしまう。

「やりすぎたか?
 まあ別にいいか『バックラー』」

「……今度はその盾で何する気?」

打ちひしがれるようなクラスメイトをあまり気にせず次のスキルを使う。
それを若干引きつったような笑みを浮かべて問うミューヒには答えず川に入る。
彼の手には円形で前面が多少丸みを帯びた形をしたエネルギー製の盾があった。
防御系下級スキル「バックラー」はバリアなどの一種の壁を作るスキルと違い、
持ち運びや肉体への装着を可能とする防具としての盾を作り出すスキルである。
本来その使い道は現実にある盾と同じく攻撃から身を守るためなのだが。

「よっと、大漁、大漁っと」

「え、ええ?」

「そんな使い方あり?」

ゆるやかな川の流れとはいえ徐々に下流へと向かっていく感電した魚たち。
それをシンイチはひっくり返した「バックラー」の内側の窪みで掬い上げた。
盾は古来より防具としてだけ使われていた物ではない。時には鈍器にも投擲にも使われた。
よって彼がそれをただの盆か桶のように使用するのは突飛でもなんでもないアイディアだ。
だがスキルの系統を絶対と考えていた1-Dの面々は軽い衝撃を受ける事になっていた。

「ちょっと薪になりそうなの見繕ってきてくれるか?」

「キュイ」

「本当にイッチーって当たり前に顎で使うよね」

魚を掬った盾を川辺に置くと彼女に一言を物を頼んで彼は一匹魚を持つ。
彼女としてはさも当然のようにアマリリスを使役する姿にまだ慣れない所がある。
地球人の感覚に置き換えるのならサメかクジラが人の言う事を聞いているに等しい。
それもただのそれらではない。ホオジロだのシロナガス辺りが、だ。

「俺としてはお願いしてるだけのつもりなんだがな……『ナイフ』」

相手が従者のつもりなので基本的になんでもいうことを聞いてしまうのだが。
などと内心苦笑しながら戦闘向きではない刃物をスキルによって作り出して手に持つ。
系統としては“その他”に分類されるスキルを集めた所謂日常系スキルである。
生活において刃物が必要になってくるのはたいていの世界で変わらない事柄だ。

「さすがサバイバル長い人。魚も捌けるんだ」

「出来なくもないが今回は簡単に処理して焼くだけだ。道具も調味料もないしな」

そういうと大きめの平らな石をまな板代わりに川魚を寝かせてナイフを構えた。
手際よく片刃の背で鱗を取り、拾っておいた小枝を器用に使いはらわたを取る。
掬った10匹の下処理を終えるのにさして時間はかからなかった。

「慣れてるね。それに器用」

「ほとんど食い物は自分で取ってたからな。出来なかったら死んでるだけだ」

若干の誤魔化しも入っているが実際に彼の2年の異世界生活はそういうものだった。
人里に入って普通に食事することもあったが出来る限り距離を取っていた彼は基本野宿。
旅中とはいえまともな生活が出来たのは“彼女”らと知り合った最後の数か月間だけといえた。

「体験が伴ってる人のいうことは重いねぇ」

「……全然そんな風に受け取ってない口調でいうな。マジで大変だったんだ。
 何日も何も見つけられなくて花がご馳走に見えた時は本気で俺終わったと思ったぞ」

「…………ごめん、本当に重かった」

話の中身かそれを語る彼のすごく真剣な目つきを見てか。
さすがに彼女も本気で謝罪するほどに危ない状況だったのだと理解した。

「わかればよろしい。じゃあ『ニードルショット』と」

「は?」

何が「じゃあ」なのか全くわからないまま彼はまた妙なスキルを使った。
シューターの弾丸をただのエネルギー弾から別のモノに変化させる攻撃系スキル。
散弾に変える「ショットガン」爆破する特性を持たせた「グレネード」など、
いくつかある中で「ニードルショット」は文字通り弾を針状に変化させるもの。
針とはいってもその長さと太さはどちらかといえば菜箸にほど近い代物だ。
利点として威力を一点に集中させるため相手の防御を貫きやすくなる効力がある。
また着弾時に突き刺さるため着弾の余波や跳弾が好ましくない状況でよく使われる。
それを地面に向けて何回か発射したあと彼は───

「…………まさかの串代わり?」

「え? だって長さとかちょうどいいじゃないか。
 それに解除しなきゃ放っておいても2、3時間消えないだろ?」

───なんでもない顔で突き刺さったそれを引き抜くと処理した魚を貫いていた。
目が点となった彼女はその発想力に呆れればいいのか感心すればいいのか僅かに悩んだ。
ただその悩みは上から降ってきた笑い声に中断されることになったのだが。

「ふ、ふふふ……ナカムラさんは本当にこちらの常識が通じない方なのですね」

「え?」

柔らかな声で笑みをこぼしていたのは背面が重厚な外骨格で空に浮かぶ一人の少女。
ゆっくりと川辺に降り立つと同時に制服姿に戻った彼女は華麗な所作で一礼する。
そしてどうしてか有無を言わさぬ迫力を持った笑みと共に告げた。


「わたくしもご一緒してよろしいかしら?」



きちゃった
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