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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

試験編 第一章「テストは利用するもの」

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04-04 これはテストではない

そりゃ、試験官がこいつですからねぇ……まともにやるわけがない(笑)

「あ、あいつ、何が午前よりは楽なものにしてやる、だ!!」

Dランクエリアにある森林の中、三人の生徒達は駆けている。なぜか?

「無駄口叩いている暇があるなら走って!」

答えはひじょうに単純で“逃げているから”だ。では何から?

「あわわっ! な、なんか足音が増えてない!?」

それもまた単純である───────輝獣の群れだ。


彼が出した午後の課題は内容だけを見るなら無難なものだった。
まさに教科書通りのようなそれに1-Dの生徒達が拍子抜けするほどに。

『───俺が指定した三人でチームとなってエリア内の輝獣狩りを行う。
 合格ラインはチームひとつにつき結晶を15個集めろ。大きさや質は問わない。
 15個手にした時点で今日の午後の部においてその三人に合格点を出す。
 それ以上集めようと加点はないから無駄にはりきる必要はない。
 また他のチームと協力するのは厳密に禁止する───』

この合格点である15という個数は一見多く感じる者もいるかもしれない。
最低でも15体の輝獣を倒さなくてはいけないようにも聞こえているだろう。
しかし実際は1体から複数回収できる事が多いため最低ラインはもっと下がる。
またDランク輝獣は弱く、一般人でも奇襲を受けなければ負けないという。
諸々足りない彼らでも一対一なら簡単に勝つ事ができるだろう。
そう、あくまで一対一ならば。

「増えてるどころか倍増してないか!?」

「っ、一か所に集まり過ぎてレーダーじゃ数が把握できない!」

便宜上第6班と名付けられた三人一組は猪型の輝獣に追い掛け回されていた。
サイズは標準的な猪と同じだが体毛はなく皮膚もない筋肉がむき出しの猪だ。
見ているだけで嫌悪感を覚える気色悪さに彼らはろくに直視もできない。
そして問題となっている数はおよそ60体。もはや陸上の津波にさえ見える。
全部を倒せればお釣りがくるほどの結晶を回収できるが、現在3対60だ。
一旦全員で足を止めて攻撃すれば先頭の何体かを倒すことは可能だろう。
だがその後が続かない。厳密には時間がない。猪輝獣の脚は速いのだ。
スキルで身体能力を強化している彼らがやっと逃げられるスピード。
足を止め先頭集団を倒せてもその後方に対応する暇もないまま蹂躙される。
けれど、それはあの巨体輝獣に比べれば遥かに劣る衝撃であろう。
彼らにその身を守る鎧さえあれば耐えられないものではない

「あの野郎! こうなること見越してプロテクター禁止か!?」

無論それが無いために彼らは走り続ける羽目になっているのだが。

『───そうそう、相手Dランクだし制限ってことで簡易外骨格と
 各々が持ち込んでる個人武装は試験官権限で使用禁止にするから。
 フォスタのソードかシューター、もしくはスキルだけでやれ───』

それをたいしたことではないと片付けた自分達が恨めしい。
授業でもたびたび聞くありがちな制限であり相手がDランクだったため楽観した。
尤もあの時点で仮に気付いて文句をいったところで撤回はされなかっただろうが。

「だからあんたは文句をいう暇があるなら何か考えなさいよ!」

「無茶いうな! あんなのどうしろってんだ!?」

「後ろに向けて攻撃して少しでも数を減らしていくってのは!?」

「この速度を維持してか!? それこそ無茶いうな!!」

走りながら後方に狙いをつけて撃つという行為ができないわけではない。
ただ補助系スキルの力で身体能力を上げた足の速さに彼らはあまり慣れてない。
その状態で少しでも後ろを見れば当然前への注意が疎かになり、問題が生じる。
小石に躓きこける。木にぶつかる。馬鹿みたいな話だが彼らには笑い話ではない。
現時点でさえその速さに一瞬も前方から視線を外せないというのに。

では狙いを付けずに出鱈目に後ろに撃つというのも実は問題がある。
何せ彼らが走っているのは人が走る事は(・・・・・・)考えられていない(・・・・・・・・)森だ。
生い茂る木々はまるで彼らの逃亡を邪魔するかのようにそびえている。
彼ら唯一の武器はそんな前方にある邪魔な物体の破壊に使われていたのだ。
それを後方に向けることは同時に前方のナニカの排除ができなくなる事を示す。

そのため森に入ってこの集団に見つかった彼らはずっとこの状態。
午前中で体力が尽きかけているなど甘えた事はいってはられない。
全力でいつ終わるともしれない障害物競争兼鬼ごっこに挑み続けるしかない。
止まってしまえば鬼役の猪に轢き殺されてしまう運命が待っているのだから。
それらの恐怖と午前から続く全力での肉体行使は精神と体力を否応なく削っている。
互いに怒鳴りあっていなければ正気を保っていられない。現状保てているのとて、
午前中にとんでもない化け物の相手をさせられたからだ。それに比べれば、
後方から追いかけてくる輝獣の群れは脅威ではあるがあの絶望的な圧迫感はない。
対応策が思い浮かばず、一歩間違えば重傷を負うという点では残念ながら同じだが。


『───やっぱお前等、馬鹿か?
 いや、人間追い込まれると考えが狭まるからな』


そこへ本気で呆れたような、そして同時に仕方ないかと溜め息を混ぜた声が響く。
三人のフォスタから同時に聞こえた声は自分達をこの窮地に追いやった男のだった。

「て、てめえどのつらっ」

『三人いるんだから二人が前で障害物排除してさ。
 後ろの一人が出鱈目でも攻撃すればいいんじゃないの?』

「「「あっ」」」

『他にもさ、一直線にしか進んでこないんだから横に跳んで逃げるとか。
 周囲のモノを壊して足止めの障害物にするとかやれることはあるだろうが』

そう言われてからの第6班の行動は顕著なほど変わった。
周囲の手頃な木々を障害物排除作業の一環で後方に倒れるように攻撃する。
倒れたそれらがわずかに輝獣の群れの動きを一瞬遅らせた隙に二人が前に出た。
そして残った一人がほとんど後方を確認せずにシューターからエネルギー弾を乱射する。
後ろから追いかけているのはわかっている以上出鱈目な射撃も大半は群れに当たっていく。
先頭集団のいくらかを倒せたに過ぎないが続ければ60体程度ならば時間の問題だ。
あとは自分たちが走り去った所を戻っていけば容易に結晶を回収できるだろう。
おそらくは大半は踏み潰されてしまうだろうが数が15個揃えばいいのだ。
砕けていようが砕けた数だけ個数が増える分、彼らは最終的に楽をすることになる。
尤も通信が入るまでに消耗した精神・体力を思えばつり合いが取れるかは微妙だが。





そんな目途が見えたことで彼はその(・・)モニターからは少し意識(・・)を離す。

「終わりが見えてくれば案外長くともマラソンは楽なんだよね。
 露骨に顔つき変えやがって………まあ、帰り道まで安全とは限らないけど」

結晶回収中にもまた一騒動あるだろうとどこか確信した口調でほくそ笑む。
第6班が駆け巡った森にいる輝獣はその疑似猪の群れだけではないのだから。
意地が悪いが既に(・・)破綻しているとはいえ試験である以上その体裁は残すべきだ。

「ん、1班、相手も三体だからって一対一ずつになってどうするよ。
 9班、ソードの刃が食いこまない相手に普通の弾をいくら撃ったって意味ないだろ。
 4班、2時方向に輝獣の集団。さっきみたいに考えなしに突進したら減点するぞ。
 10班、対策が浮かばないなら結晶撃ち抜いてとっとと次に行け、次に!」

代理試験官という立場を得たシンイチはいま行軍の際に道標となった川辺にいる。
正確にはそこから少し離れた森の出入り口。彼がガレストの果実を見つけた木の下。
その樹木に背を預けるようにしながら複数開いた空間モニターの映像をチェックしていた。
モニターの数は20。各々の班を映すものとそれを俯瞰した周辺映像の二種類。
付け加え、自身のフォスタにはDランクエリアの情報が映っているので合計21個。

「おいおい7班、そんなの相手に逃げてどうするんだよ?
 第2班、それは待ち伏せじゃなくてただのサボリと判断してもいいか?」

そこに映る全10班の行動を観察しつつ採点しつつ彼は完全に口出ししていた。
時にアドバイスを、ヒントを口にして取っ掛かりを与えて活路を見出させ、
時に嘲るような口調で馬鹿にすることで彼らのやる気と反骨心に火をつける。
もはやこれを見て『試験』だと思う者はいないだろう。もう『鍛練』である。



「────イッチーは本当に“まともに”やる気ないよね」



それを揶揄するような声と共に女は突然その樹木から落ちてきた(・・・・・)
口許を掌で隠して笑いながらモニターを見ている彼の目の前に上下が逆さまな姿で。
気配はなく、音もなく、視覚さえ騙して潜んでいた少女の奇襲染みた登場は、しかし。

「別にいいだろ。どうせ入学して二ヶ月目のあいつらに評価すべき積み重ねは無い。
 なら普通にテストするより数少ない実戦経験の場として有効活用した方がいい」

あと、邪魔だ。
彼はそう普通に対応するとモニターの位置をずらして1-Dの観察を続けた。
どこか楽しげに笑っていた少女の顔は音を立ててしばし固まり、そして叫んだ。

「……………こういう登場してスルーされると悲しいんですけどっ!?」

今度こそはと意を決して隠れていたというのに結果はこれである。
適当な枝に膝裏を引っ掛けての突然の登場は相手に驚きさえ与えなかった。

「俺にどうしろってんだよ。
 人間を騙くらかす狐だと思っていたが八方美人のコウモリだったのか。
 とでも言ってほしかったのか、ヒナ先輩は?」

「っ、ううっ、ひどい!
 ここ最近うまく予定が合わないから人が一生懸命試験片付けて会いに来たのに!
 冷たい! ひどい! 不気味だ! 納得できない! 訴訟も辞さないぞボクは!」

代わりにまるで“お前の正体を知っているぞ”とも取れる言葉に彼女が驚かされた。
平静を装い、よよよと泣き崩れる芝居をするが彼は微笑を見せるだけで感情は読めない。
これではどちらが調査員と調査対象なのかわかったものではないと内心冷や汗だ。

「後半だいぶ意味不明だぞ。しかしそうだな。
 世話役のくせに全然俺の前には出てこなかったな、最近」

「うふふ、みんなボクを寝かしてくれなくて」

ことさら“俺の前には”の部分を強調されて、微笑みながらも心臓がドキリとする。
写真の一件でバレているのは確信しているがそれを彼が黙っている意図は見えない。
彼の場合は面白がっているという動機が一番しっくりくるのが余計に厄介だ。

「ふーん」

しかしわざと際どい発言をして反応を窺うがかなり芳しくない反応だった。

「わあ、すごく興味のないふーんもらいました!
 イッチーってじつはボクのことかなり興味ないでしょ!?
 ひどい、あの時あんなに強くボクを抱きしめてくれたのに!!」

自分のことは遊びだったのねぇ、ねぇ、ねぇ。
などとセルフエコーで言い出した少女に彼は呆れた顔を浮かべる。

「いつの話をしてるんだお前は………第一興味はあるぞ。たとえば──」

「たとえば?」

「──ぶら下がってるのにどうしてスカートはめくれていないのだろうか、とか」

にっこりと、それこそ柔和な笑みを浮かべて逆さまのままな彼女のそこを指差す。
制服姿の彼女のスカート丈は短い。逆さまになれば重力に従いめくれるはずだ。
しかし実際は普通に立っている時と代わりない状態だ。どうしてか重力に逆らって。
一瞬「そこだけ!?」という反論をしそうになったミューヒはだが一考する。
これは彼のいつもの手だ。決して乗っかって取り乱してはいけない。
むしろこれを使って逆にやり返すべきだ、と。

「ボクのスカートどうなってるか、知りたい?」

「いやまったく」

だからスカートの裾を軽くつまみながら目一杯色香を含んだ声で囁いたがにべもない。
欠片も興味はないといわんばかりの即答に若干不機嫌そうな表情を見せた少女は
それこそ仕返しのように彼を咎めるような声色で問い質していた。

「前々からちょっと思ってたけどイッチーってそういうの興味ない人?」

「うーん、同世代に比べると薄い自覚はあるけど………」

「え?」

また呆れられるかさすがに怒るかと思えば普通に返答された。しかし。
それまで一度として彼女を見据えなかった視線がはっきりと向けられる。
普段の気の抜けた顔でも誰かをからかって楽しんでいる顔でもない真剣な顔。

「ないわけじゃ、ない」

ミューヒからすれば逆さまだがそんな視線が自分に向けられている事に一瞬時が止まる。
その隙をつくように自然な動作で差し向けられた指先が少女の頬を優しく撫でた。

「だから知りたい時は押し倒して脱がす(・・・・・・・・)から問題ない」

「──────っ!!??」

そしてそんな本気か嘘かわからないような言葉と共にその指が唇に触れた。
果たして、その光景を妄想したのか乙女の唇を異性に触れられたからか。
顔は一瞬で赤く染まり頭はそれを許容しきれずいとも簡単に彼女を慌てさせた。
意味なく両手をばたつかせ、意味のない音を口から発し、意味もなく“足を動かした”。

「ふっ、えっ、やっその、へっ、きゃあぁっ!?」

脚を使ってぶら下がっていたのだから考えなしに脚を動かせば当然落ちる。
慌てた彼女だったが体に染みついていた危険回避の本能が受け身を取らせた。

「あたたっ……」

背中を少し打ってしまったが元よりさほど高い場所から落ちたわけでもない。
痛みも口にした声色以上にたいしたものではなく、ただのポーズである。

「だ、大丈夫か?」

むしろ彼の少し驚いたような心配顔を見れただけでもしてやった感を覚える彼女だ。
ただ想定外の行動が出来た事を誇るべきか想像できない程間抜けだったのかは微妙だ。
案の定、シンイチが差し出した手を借りて立ち上がれば軽く笑われてしまう始末。

「しかし、ふふっ、思ってた以上にウブだなお前」

言葉には嘲りの色は全く無かった。そこが可愛いと思われている気さえする。
だがそれをどうしてかミューヒは軽く流すことができず恨みがましく吠えた。

「絶対いつか女の子に刺されるよ、こんなことばっかして!」

勘違いさせた末に痴情のもつれか単純なセクハラ沙汰か。
どの道そういった問題を起こしそうなぐらい彼のそれは際どい言動が多い。
しかし当人は気にした風もなくあっけらかんとその言葉に大丈夫と答えた。

「背後には常に注意を払ってるし刃物の扱いは得意だ」

「大丈夫ってそっち!?」

「それにお前とフリーレ先生と縦ロール以外にはやってないぞ」

「自分でいうのもなんだけど学園トップクラスの有名人だよ、その三人!
 実力的にも知名度的にもっ! 本当に自分でいうのもなんだけど!!」

「あはははっ、そうかぁ………3班それ以上進むと他の班のエリアだから戻れよ」

さして、どころか全く気にしていないといわんばかりに軽く笑って指示を出す。
分かっていたが自分のキャラ設定以上のマイペースさに眩暈すら覚える彼女だ。
どれだけ自分が突拍子もないことをしても最終的にそれを上回ってくる。
いつもの調子をかき乱されて疲れ果てさせられてしまうのだ。

「まったく………それで、Dクラスの子たちに経験つませてどうしようっていうの?」

「どうって何が?」

だから話題を変えた。
そんな意図が無かったわけではないが純粋な疑問でもある。
転入初日やそれ以降において結果的にミューヒは1-Dの体育授業を見ていた。
はっきりいえば例年以上にひどい出来栄えのDクラスだと彼女は判断している。
それを見るシンイチの顔を見れば似たような事を感じているのがわかった。
だから試験官の立場となっても彼は最低限のことしかしないと思っていた。
しかし予想外にもシンイチは明確に彼らを鍛えようとする態度を見せた。
それが分からない。なんでこんな期待の持てない子らを鍛えるのかと。

「なにか悪いこと企んでない?」

「まさか。俺は純粋に彼らにもっと上に行ってほしいだけさ。
 才能があって努力もしてるのに進めない奴を見ていると気分が悪いからな」

そんなただの自己満足だよと語る言葉を彼女は嘘か真か判断できなかった。
理由の一つである気はするのだが全てではない。そんな感想を覚える。
一方で気分が悪いという表現に羨むような声が混じっているのが不可解だった。

「そう、でも今年のDクラスの子はたぶん……」

「そこは見解の相違だな。
 ほら、素人と思えばけっこういい線いってると思わないか?」

ムリなんじゃないかと否定的な意見は口にすることはできなかった。
代わりに彼が指し示す20もあるモニターに彼女は釘付けとなる。

「……え? え?」

最初の声は戸惑い、次の声は驚きの声だった。
覗き込んだモニターには生徒達が三人一組に別れて輝獣と戦っている。
相変わらず動きは拙くDランク輝獣相手に数の差や不慣れさで苦戦していた。
だが、違う。

「三日全部使うぐらいの気持ちだったけど、才能がある奴はこれだから困る」

全く困っていない口調で困ったと口にする彼の言葉は右から左に流れていく。
違うのだ。彼女が体育授業で見ていたあの“ただ動いている”だけのそれと。
彼の転入から約一ヶ月。視界に入っていたから偶然知った程度の話だが、
昨日の(・・・)体育授業まで彼らの動き方に進歩らしい進歩は何もなかった。
武器を考えなしに使う素人。体の動かし方も攻撃の仕方もなってないアマチュア。
それが、なんだこれはといいたくなる。

「…………なにしたのイッチー?」

だから少女は珍しく愕然とした顔でしたり顔をしている少年を問うた。
何せ端的にいえば1-Dはあり得ない時間で格段に“さまになっている”のだ。
劇的にステータスが上昇したわけでもアマチュアの領域から出たわけでもない。
まだまだ一段階上にあるCクラス相手にまともにやりあえる動きでもない。
しかし、輝獣という脅威を前に必死に抗う姿から拙さはいくらか減っている。
無闇に攻撃する癖は抜け、真剣な目が輝獣の動きを観察して隙を突く。
そんな表現をして浮かぶ光景より実際はかなり泥臭い動きなのだが、
これまでを知るミューヒからすればこの数時間での進歩は異常だった。

「必死になるしかない状況に放り込んで、少し誘導しただけだよ。
 あとは本人達が考え……いやこの場合は感じて動けばそれでいい。
 実戦の中に放り込むのが一番鍛練になる奴が世の中にはいるんだ、これが」

まさかDクラス全員がそうだとはさすがに思っていなかったと苦笑気味に語る。
モニターの中の1-Dは相変わらず拙い動きだが確実に一歩踏み出している。
その一歩の出し方が分からなかったからこそ彼らは伸びなかったのである。

「よくわかったね、そんなこと。もしかして将来は有望な教師?」

「ただの消去法だから。教師なんて面倒な職業は死んでもやだよ。
 せめて鬼教官ぐらいにしてくれ、そっちの方がしっくりくる」

「ふふっ、こんなことをする以上の面倒があるの?
 時々イッチーの面倒の基準がよくわからないよ」

「長期か短期かじゃないの?」

「ああ、そうか。ってなんで他人事!?」

さあなんででしょうととぼけるシンイチに彼女はもう疲れはじめていた。
意味もなく煙に巻く言動をして遊んでいるとひしひしと感じているからだ。

「ううっ………ん、あれ、そういえばいつも一緒のアマリリスちゃんは?」

「あいつにはちょっと輝獣の整理を頼んでいる」

そういって22個目のモニターを開いて“彼女”がいる場所を映しだした。
小さな体躯をふらつかせる事もなく十倍以上のサイズの輝獣を投げ飛ばしている。
そして群体として発生した輝獣を進路を阻む手法で上手く誘導して操ってもいた。

「………これ、どこに向かわせてるの?」

「すぐにわかる」

「え?」

疑問の声は答えを誤魔化されたからではなく彼の行動ゆえだ。
一歩分だけ数あるモニターから距離をとってその両耳を塞いでいた。途端。

『うわあああぁっ!?』

『ぎゃあぁっ、熊みたいなの来たぁっ!!』

『なにあれ、なにあの群れの数!!??』

『巨大ミミズっ!?』

『ちょっ、もう動けない……無理だってぇっ!!』

『もういい! もう15個集まったからもういいよぉっ!!』

『なんでさっきからこんな頻繁に!?』

『で、でかいセミが……飛ん、で、いやあぁぁっ!!??』

「────っ!?」

通信越しの悲鳴と怒号が一気に湧き出してミューヒは頭の耳を押さえた。
彼女の優れた聴覚を一瞬麻痺させかけるほどのつんざくそれに目を瞬く。
モニターの中でなんとか目標を達成して落ち着いていた彼らの姿はもうない。
輝獣に突如奇襲されたに等しい彼らは疲れもあって右往左往の阿鼻叫喚。
ちらりと横を見れば、してやったりな顔で笑うシンイチにさすがに呆れる。
これを狙ったのだとすれば自分が思う以上に彼は悪辣な愉快犯だと。

「この鬼教官」

「お褒めにあずかり光栄だ」

くすりと笑う姿にミューヒはつっこむ気も起きなかったという。
+注意+
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