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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

試験編 第一章「テストは利用するもの」

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04-02 試験開始



だいぶ遅れてしまったことをせつに詫びたい。
この時期いつもなら仕事はさほどひどくないので油断してたらこれですよ。
このいくらか先を書き進められなくて更新できなかったわけです。
ストックの数が微妙なので。それはなんとかなったと、思う。


では前回から直の続きです。


「まて、おい、なんだそれは!?
 いや違う。もう一度いってくれませんかフリーレ先生」

誰よりも先に我に返って彼女に詰め寄って問い質したのはシンイチだ。
しかし気持ちは皆同じ。1-D全員が同じ意見を持った貴重な時間は続いていた。

「だから言っただろ。
 私は監督できない。他に監督役が出来る教員もいない。
 なら、残ったお前たちの中から代理を出さないと1-Dは参加できない」

「おい、自分が無茶苦茶いってる自覚はあるかお前!?」

「問題はない。生徒からの授業補助は成績優秀者のみの権利と義務だが、
 逆に教師から生徒に向けての補助要請には制限は一切存在しない」

「なに!?」

それは学園が抱える慢性的な人手不足を補うために作られていた制度の穴。
ありていにいえばこの学園では規則として教師が生徒をこき使えるのだ。
勿論乱用は禁止され、授業に関係する事のみというルールは設定されている。
また多用は事前準備や授業進行が下手なのだと判断され降格や減俸にも繋がる。
教師からすればこの要請はどうしても手が回らない時の最後の手段なのである。

そしてテストもまた授業の一つである以上、規則上この要請に問題はない。
またこの制度には基本的に拒否する権限が要請をされた側に与えられない。
余程の体調不良や緊急性の高い用事があればさすがに拒否できるが、
教師からの要請が最後の手段でもある以上断られるわけにはいかないのだ。

「だからいくら騒いでも決定は覆らない」

「待て待て待て! だからってなんで俺だよ!?
 そこはほら、一番優秀な奴とかクラス委員とかだろ!?」

「一番期待できる者にチャンスを与えるのがこの学園の方針だ。
 だからクラスで一番期待を持てないお前が適任だ。どうせお前やらないだろ?」

「そりゃそうだがおま……え?」

そこでふとシンイチは自分を見下ろす視線に言葉とは別の感情を見た。
突拍子もない発言につい冷静さを無くしたがフリーレの言動はおかしい。
貶めても構わないと取引条件にはあったがこの言い方は何かが変だ。
サプライズのように直前になって全員に発表するというのもらしくない。
彼女はそんな教師像をこれまでやってきたわけではないのは彼とて知っている。
だからその疑問を解く問いかけをシンイチは口にした。

「………先生、質問です。俺にやらせるのが決まったのはいつですか?」

「今朝だ……理由は他にもある(・・・・・)が、これが精一杯(・・・)だ」

つまり今朝突然何かがあってそうせざるを得なくなったと彼女はいう。
それがシンイチとの約束を守るうえで自分が取れる最善だとも。
いったいそれがなんなのかはここでは言えないであろうし聞けない。

「はああぁ……悪い、気を使わせたな」

大きく溜息を吐いた彼は呟くように詫びると彼らへと振り返る。
そして未だ動揺と困惑で渦巻く1-Dの生徒たちを鋭い視線で見据えた。

「確認するけど、それって学園教師として正式な要請なんだよね?」

「ああ、お前のフォスタにいま申請した。
 受諾した瞬間、試験官代理としての義務が発生する……すまん」

色んな感情がこもった謝罪に気にするなと背中越しに笑う。
そして画面を覗き込めば確かに彼女名義で代行要請が来ていた。
そこにはYesやNOといった選択権は用意されていなかった。

「受諾っと」

「おまえ!?」

あっさりと画面に映ったそのアイコンに触れたことに1-Dが騒ぎ出す。
その驚愕の声と顔を見据えるようににやりと笑った彼は朗らかな声で語る。

「今から俺が試験官になった………いうこと聞かないと落第にするぞ」

内容は思いっきり脅迫に近い代物でありクラスは紛糾するが彼は涼しい顔。

「お、おいナカムラ? お前わかってるよな?」

お前を代理に指名した意味をと問う声に肩越しに振り返った顔には深い笑み。

「ええ、もちろん。
 全力で彼らの試験官代理を務めさせてもらいますよ。ふふふふ」

───やってしまった。
彼女にそんな後悔をさせるほど底が見えない邪悪な笑顔だった。
やる気だと、いつか言ったあのプランを本当にさせる気だと確信する。

「………い、一応私のプランも参考にしてくれ。
 それではあとはナカムラに任せる。皆もいうことを聞くように。以上だ」

多少の葛藤は出たがどの道これは苦肉の策。それ以上の対策は彼女には出ない。
だから彼が言う全力で務めるという言葉とこれまで見た実力を信じる事にした。
無論それでは納得できない者達がこの場には他に30名程いるのだが。

「ま、待ってくれよ先生! こんなの無茶苦茶だ!」

「彼が試験官なんてそんなの無理です!」

「最低限の安全もないじゃないですか!」

彼らからすればステータスが劣り授業もまともに受けてない生徒だ。
そんな相手を試験官及びいざという時の安全(アテ)にすることは受け入れがたい。
当然の反応だろうと彼女も思うが他に手が無い以上納得させるために再度口を開く。
が。

「なに舐めたこといってんだお前ら?」

それよりも彼は直前の動揺を怒りに変化させた時のように冷ややかな声で
今度ははっきりとクラスメイト全員に向って聞こえるように見えるように嘲笑う。

「お前ら俺と違ってここに希望して入ってきたんだろ?
 しかもプロフィール見ると全員が将来的に戦闘関連の仕事を希望している」

「なっ!?」

軽く指で画面をタッチすればクラス全員のそれらが空間に浮かび上がる。
試験官代行を任された事でそれらを正式に閲覧できる権限を一時的に有したのだ。
頭でそれを理解できても『自分達より劣る不真面目な生徒』と思っている相手に
個人情報を好き勝手に覗かれてしまうのは当然だが良い気分ではない。
親の仇でも見るような視線をぶつけるが残念ながら気にもされない。

「細かく分類すれば方向性は各々違うがようするに『戦う場』に出たいんだろ?
 その時も敵が強いから嫌だ。安全がないから嫌だ。嫌いな上司だから嫌だ。
 なんていうアホな我が儘をいう気じゃあるまいな、お前ら?」

変わらぬ冷ややかな声と視線が小馬鹿にするように彼らに向けられる。
これまで満足に彼に“見られた”ことも無かった1-Dは思わずたじろぐ。
そこにいたのは無気力無関心ないつもの彼ではく強烈な圧迫感を放つナニカだった。
ギャップも手伝って実際に彼が放っている威圧感よりも強力に感じられていた。

「で、で、でもっ、わ、私達まだ学生なのよ。
 そういう場に、で、出るための、く、くく、訓練するためにここにいるんだから」

それでもなんとか、だからその期間には安全性があるべきだ、と誰かがいった。
何度も言葉に詰まりながらの精一杯の主張だったが返事は即座の否だった。

「今できない奴がいつかできるわけないだろ、バカかお前ら!」

間髪入れず出された否定に誰もが言葉を返すこともできなかった。
納得できた者は皆無だったが自分達を強く睨む視線に怖気づいてしまったのだ。

「努力すればいつかできるようになる。その言葉を否定はしない。
 けどそれはその分野の基礎ができあがってこそ意味がある言葉だ。
 ガキのお遊戯も満足にできない奴が一丁前の口を叩くんじゃねえよ」

どこまでも尊大で見下す言葉と視線。普通ならば罵詈雑言の反論も出る所だろう。
何せこれを言っている相手は少なくとも彼らにその力の片鱗さえも見せていない。

「お、お前にそこまで言われるすっ筋合いはねえっ!
 俺たちは確かにDクラスだよ! 底辺だよ! わかってるよそんなことは!」

その理不尽に思える言葉に誰かが怒りでなんとか立ち向かって言い返すが、
シンイチはそれを鼻で笑いながらさらに彼ら全員をひどくおちょくった。

「わかってないね。分かってたらこんな恥知らずな真似はしない」

「なにを!?」

「だってそうだろう。俺たちはDクラスだ。
 学園の底辺。何の権限も優位性もなければ、チャンスは最低限なうえに
 なんの期待もされてないといういてもいなくてもいい生徒なのに安全性?
 ちゃんとした監督役? そんな我が儘俺だったら恥ずかしくてできないよ」

ここはそういう場所だと言外に再認識させながら、
心底おかしそうに“よくそんな真似ができたね”と嘲笑する。
怒りによって何とか彼に噛みつけていた一人の男子生徒はそれで爆発した。

「うるせえよ! お前には関係ねえだろ! 何もしてねえくせに!」

詰め寄った彼は信一の胸倉を掴みあげ、至近距離で怒声を浴びせて睨み付ける。
今にもそのまま殴りかかってしまいそうな雰囲気だがシンイチは呆れ顔だ。
まるで拳を振るう度胸もないのかと暗に馬鹿にされているようにも見えた。

「ちっ、くそっもういい! まだ俺たちは1年だ。半年後に二回目もある。
 ちゃんとした監督役がつかないってのなら今回パスすりゃいい!」

「そうだ! 危険を避けることこそ正しい選択のはずだ!」

「そーよ、たかが半年すぐよすぐ!」

そんな挑発に乗るかとすぐに手を離してテスト不参加の意思を示した。
幾人かの生徒達もその考えに追従するかのように賛成の言葉を発していく。
それに対しシンイチはあっさりというほどすぐに頷いた。

「いいよ、別に」

受けるか受けないかはお前たちの自由なんだからと口元だけで笑う。
間近でそれを見た男子は同じ歳とは思えぬそのゾッとする笑みに凍りつく。

「その代わり最低あと半年はお前ら俺より下の学園最下位になるけどな」

そしてそんな爆弾を放り投げるとそれはもうにっこりとした笑顔を見せる。
一瞬前のゾッとするものに比べれば普通の、されど何故かより恐ろしい笑みを。

「ど、どういうことだよ。テストに不参加でも減点はないはずだ!」

「でも俺には代行を引き受けたことでの最低合格点は与えられている。
 そしてこのテストでの点は他の評価より強く校内ランキングに影響する」

「あっ!」

仮にクラス全員がテストに不参加した場合。
彼ら自身にプラスマイナスはないがシンイチには最低とはいえ合格点が入る。
これは授業などの補佐をした生徒の成績が下がらないようにするための制度だ。
こういった補助がなければ生徒による授業補佐制度など成立できるわけもない。
そのために他にランク上昇のチャンスが無いDクラスは次まで彼より順位が下がる。
これまでの成績では彼らが上でもこのテストの点数はそれを容易にひっくり返せる。

「いや悪いね。何もしてない(・・・・・・)のに勝っちゃって」

表情だけ見れば人の好い笑みなのに誰もそれを素直には受け取れない。
シンイチは自他ともに認める学園最下位であり一部を除き評判も悪い生徒だ。
それよりもランキングにおいて下になってしまうという事実は彼らを動揺させた。
事実を告げれば理解はされるが果たして自分達(Dクラス)の声を誰が聴いてくれるのか。
おそらく次までの半年間ずっと1-Dは落ちこぼれ以下という視線を向けられる。
果たして自分達はそれに耐えられるのだろうか。そしてそれに気付いた以上、
誰もがテストを受けるか否かのメリット、デメリットを真剣に考え出す。
しかしそれは同時に“不参加”という選択肢を選びにくくしていた。
選んだ瞬間に彼よりも下になることが確定してしまうからだけではない。
自分が不参加を選び他が参加すれば“自らだけ”最下位という事もあり得るからだ。

「そんなっ、どうするのよっ!?」

「し、知らないわよ!」

「参加しないって言ったよなお前?」

「うるせえっ、ただの売り言葉に買い言葉だよ!」

クラスはその事実の前に疑心暗鬼を抱えながら騒然となっていく。
結果的にそうなったのなら仲間意識を持ち庇いあえたかもしれない。
だが知った以上誰もが最下位になるのは嫌だという感情を持ってしまった。
けれど参加するには多くの危険がつきまとう以上誰かに参加しないでほしい。
そうなれば例え結果が芳しくなくとも自分が最下位になることはない。
そんな考えが出てきてもそれは人間として当然の心理である。

「…………これしかなかったはずなんだが、もう後悔してきたぞナカムラ」

「くす……」

眉根を寄せて渋い顔をするフリーレにシンイチはくすりと笑うだけ。
受諾をしてからの短い時間で制度内容や各種情報を把握したのも驚きだが、
それを利用してクラスメイトたちの感情を操る言動に感心半分呆れ半分。
生徒達は目先の問題にばかり意識が持っていかれて誰も気付いていないが
完全に1-Dはナカムラ・シンイチという代理試験官の手の平の上だった。

「それじゃフリーレ先生。そろそろ俺は試験官として中に入ります。
 みんなは好きにしていいよ。参加したい人だけついてきて」

そして唐突にそれだけ告げると1-Dに考える時間を与えずに足を進める。
フィールドを覆うバリアに真っ直ぐ向かう背中を前にして彼らは迷う。
参加しなければならないが、安全を左右する試験官を信用できない。
どっちに賭けてもハイリスクなギャンブルをやらされる気分だった。

「おい、そろそろ起きろ。入るぞ」

「キュ? キュイ!」

そこで自然と頭上で眠る“彼女”を起こしたシンイチに女教師は額を押さえた。
なんというダメ押しにして、なんてひどい人心操作だと眩暈を感じてしまう。

「そ、そうよ。最悪アマリリスがいるじゃない!」

「あ、そうだった!」

「くそっ、待てよおい! 試験官だけ先にいってどうすんだ!」

幼体でありその強さを見たわけではないがステータスぐらいなら見たことはある。
またアマリリスの伝説を知っていた彼らはそこに安全性(アテ)を見出したのだ。
全員が参加の意志を示し、バリアを越えて野外フィールドに入っていった。
見送る形となってフリーレは小さく溜息を吐いて乾いた笑みをこぼす

「ははっ……自分の生徒ながら肝心な部分が抜けている。
 あの個体はナカムラのいうことしか聞かないんだぞ?」

果たして危機的状況に陥った時に自主的に助けてくれるのか。
そこが大いに疑問であるがそこはシンイチを信用するしかない。
さすがに死を招くような危険な目には合わせないだろう。

「あれで結構世話焼きというか面倒見が良い奴だからな」

でなければ毎朝の模擬戦だけでも面倒な自分の相手をし続けたうえで、
個人的な相談にも乗ってくれるわけもないと彼女はひとり微笑を浮かべる。
先程までの暴言もこの流れに持っていかせるためと考えると計算だろう。
初めから全員にテストを受けさせる気だった以上、きちんとするはずだ。

「………ん?
 もしかして、だからあいつ誰とも距離を取ってるのか?」

一度でも関われば世話を焼かずにはいられなくなってしまうから。
そしてそれが彼の抱える何かしらの秘密を隠すのに不都合だったとしたら。

「まずかったのか?
 いや、だとしてもどのみちあんな指示が出た以上は……」

彼との約束を守るためには普通にテストを受けさせるわけにはいかなかった。
自分が総合監督代理に任命されなければ別の手段があったのだがそれもできない。
だからこそのこの苦肉の策だったのだが、それも失敗だったかもしれない。

「ドゥネージュ先生、急いでください!
 もう殆どのクラスが所定エリアについています!」

「わ、わかりましたっ、くっ」

どちらが最善、いや次善であったのか判断がつかずに悩む。
けれど突如背負わされた役職はフリーレの感情を待ってはくれない。
彼女はせめて余計なことが起きるなと職務に励むしかなかった。




───────────────────────────────




1-Dはフィールドに入ってからずっと進んでいた。
入り口にあった森を抜けて丘を越えて見えた湖を半周して別の森を突き進む。
当初は先頭にいたシンイチはいつのまにか最後尾で彼らの行軍にただ黙ってついていく。
1-Dの生徒達は代理試験官である彼が指定したポイントに向けて一直線に進んでいた。
ただでさえ最後の出発だったというのに試験官のごたごたでさらに遅れてもいる。
これ以上の遅れは下手をすれば今日一日を無駄にする可能性もあった。
行軍や適応力も試されているとはいえ最も点が高いのは戦闘の試験だ。
特にさほど奥地でも危険な環境に行くわけでもないDクラスにとっては余計に。

「やっと川に出た。
 あとはこの川沿いに少し昇っていけば指定されたポイントにつく」

先頭でフォスタに映ったマップを頼りに進んでいた1-Dのクラス委員がいう。
言葉通り森を抜けた彼らの目の前には幅は広いが穏やかな流れの河川があった。
既に試験エリアには入っているが“行き”の行軍はさらにその中の一か所を目指す。
試験官が決めるそれは多くの場合テストを行うための拠点としての側面も持つ。
尤もそんなことを初参加の1-Dや暗黙の了解には疎いシンイチが知るわけもない。
だが川を横に置いて前へ前へと進んでいく集団を最後尾の少年は冷やかに見ている。
その視線の意味に彼らが気付くことなく、気付いたころには手遅れだ。

「行軍も評価対象って本当にわかってんのかね、こいつら?」

呆れた色の乗った声は彼らが進む盛大な足音にかき消されて誰の耳にも届かない。
およそそれから15分ほどかけて進んだ1-Dはようやく指定されたポイントに到着する。
それは流れる川の水源があるのだろう山脈の麓と抜けてきた森林の間にある空間。
ここが人工である以上どういう考えなのかそこは岩で構成された大地が広がっている。
地面の感触は当然硬く、所々ひび割れそして隆起しており油断すると躓くという最悪な足場。
到着した時刻は11時前。全員の顔に疲れは見えず試験内容は何だと即座に彼に詰め寄る。

「…………はぁ」

「な、なんだよ」

これみよがしに盛大な溜息を吐いた彼は呆れ顔だ。
今ここで失点を指摘したい所だが“楽しみ”は後にとっておこうと考える。

「普通ならここで課題を出してそれを達成できるかがテストになるらしいが
 お前らの実力なんて全く知らない俺にこのクラスに合った課題なんて分からん」

「おい!」

「先生からの資料とかあるでしょう!?」

「そこで、だ。頼む、適当なの見繕ってきてくれ」

「キュイ」

1-Dからの抗議の声を完全に無視して頭からその従者を下ろす。
端的な指示ながらその意図を理解した彼女は短い四足で山の方へ駆けていく。
どういうことかと彼らがシンイチに問い質すより早くそこから轟音が響いた。
大気と大地を震わす振動が走り、何か巨大なモノが倒れる音が耳を打つ。
まるで大きな建造物が倒壊するような音にさえ彼らには聞こえた。

「………なに、してるんだ?」

駆けていったアマリリスがなにかをしたのは明白。
だがここに集まった30名ほどの集団はそれが何か解らない。
いや、解りたくないのだろう。咄嗟に思いついた内容が恐ろしくて。

「察しの通り。お前等の初日の試験相手を見繕ってるんだよ。
 都合よく輝獣が出るのを待つより連れてきた方が手っ取り早い」

そんな感情を分かったうえで認めたことで彼らの緊張が高まる。
あれだけの音を出すような巨体を1-Dは誰も正確に思い浮かべない。
彼らが実際に見たことがある最大サイズはせいぜい大型犬程度までだ。
資料映像でならそれ以上の巨体を見た事はあるが実感など持てるわけもない。
ゆえに誰もが現実で聞いたのにまるで現実感のない音だと感じていた。

「お前らの実力を測るという意味も含めて。
 これからあいつが連れてきた輝獣とここにいる全員で戦ってもらう」

「は、全員?」

「ちょっと待ちなさいよ!
 確かに私たちは輝獣との戦闘経験は殆ど無いわ。それでもこっちは30人よ!」

「いくら大型でもDランクエリアにいる奴なら多くても10人で充分だ!」

あまりに自分達を下に見る言い方に憤慨しつつ言い返すが柳に風。
試験官代理は気に留めた様子もなく、ただとても楽しそうに笑った。

「別にそれでも構わないが……俺がいつあそこをDランクエリアだと言った?」

「は?」

「確かにここはDランクエリアだ。存在する輝獣は弱い。
 お前たちでも三対一なら楽勝だろう。けど、あの山らへんは違うぞ?」

にっこりと朗らかな笑みを浮かべながらアマリリスが向かった山を示す。
慌てて何人かがフォスタの地図の表示項目を切り替え、分類を確認すると愕然とした。
彼の言う通り“ここ”はDのエリア内だが同時にBランクのそれと隣接した地点だと。
今まで指定エリアを目指す道筋(ルート)を示す地図を見ていた彼らはそこに気付かなかった。
当然のように自分達が向かう先も戦う相手も同じDランクだろうと思い込んでいた。

「うそ、でしょ……っ!?」

「ひっ!」

彼らがそれを認識した瞬間を狙ったかのようにソレは落ちてきた。
どんっという文字にすれば呆気ないのに大地を割る巨大な音を出し彼らを転ばす。
咄嗟に踏ん張った者でさえその場で尻餅をつく衝撃の中で誰もが息を呑んだ。

──ナニカガイル

毛むくじゃらの巨体が目の前で壁のように横たわっている。
輝獣だとはわかってはいるが形状も何を模した形をしているのかさえ、
その大きさと舞った粉塵のせいでその全容をすぐに把握できなかった。

「キュイ!」

「よくやった」

そんな巨大さに圧倒され、動揺さえできていない1-Dを尻目に、
悠々自適とコレを放り投げた幼獣が一仕事終えたとばかりに主人の肩に乗る。
その頭を軽く撫でながら不敵な笑みを浮かべた試験官は彼らを地獄に叩き落す。

「全員でも10人でもいいからそいつと戦え。その出来栄え(・・・・)で能力は判断する。
 もし倒せたらその時点で合格点やるよ…………まあ無理だろうけど」

そんな死刑宣告じみた試験内容の発表と倒れていた巨体が起き上ったのはほぼ同時。
岩の大地はその重さを完全には支えきれずひび割れ、生徒らはソレを見上げたまま。

「………………」

絶句。その言葉をここまで表す状態はないだろう。圧倒されてるともいう。
起き上がった事で把握できたその姿は文字通りの怪物だ。いや怪獣という表現が近い。
そのシルエットが何に似ているのかと問われればギリシャ神話のケンタウロスだろう。
たが半人半馬のそれにあるような馬の体の美しさも人の上半身の逞しさもない。
象のような丸く太い四肢を持つ寸胴な体から人型の上半身がただ生えている姿。
全身は毛むくじゃらで人型から伸びる腕はまるで丸太のように太く、また長い。
頭部と思われる部位には顔らしきパーツはあるが全て輝獣の証である発光器官(結晶)だ。

「っ、ぁ、ぇ……」

そんなただ目の位置にあるだけの光る物体に見下ろされる。
姿を人型や象と例えたが本来のそれらとはサイズにおいて桁が違う。
全高15メートルの強烈な圧迫感と疑似的な眼光の鋭さに1-Dは言葉を忘れた。
彼ら輝獣は生物ではない。あくまでエネルギーがそれらしい形をとった現象だ。
ゆえにそれに温情も慈悲も無ければ動物らしい生態を持っているわけもない。
その事実を巨体から向けられる圧倒的な存在感と共に認識させられ思考が停止する。
怯えるということさえ、彼らはすることができなかった。

「じゃ、頑張ってね」

「っ、ふざけんなっ!!」

「信じらんないこの悪魔!」

「アホだろ、こんなことでするなんて絶対アホだろ!?」

そんな空気を完全に無視してどこか他人事でどこか無責任に軽い調子で告げる。
彼への怒りか輝獣への恐怖か。どちらにしろ生徒達の顔に感情が戻り各々叫ぶ。
しかしそれを合図としたかのように太い足が地ならしするかのように大地を踏みしめた。
獣らしい咆哮はない。威嚇する意味も声を発する必要性も輝獣は持っていない。
そこに生じるのは風を切った剛腕が頑強なはずの岩の大地を殴り砕いた音だけ。

「くっ、くそっ!」

「も、もうやるしかないわ!」

「ああもうっ、みんなプロテクターを! 武装も出して!」

「あの野郎……終わったら絶対ぶん殴る!」

「やればいいんだろ、やってやるっ、やってやるさ!!」

「舐めんなよ、こっちは30人もいるんだぞ!」

なんとかその初撃を避けた1-Dは自暴自棄にも似た心持ちで戦闘態勢に入った。
そして学園最弱のDクラスとBランクの輝獣という勝負にならない戦いが始まった。



「その意気は良し、といいたい所だが………撤退の考えが誰にも無さそうだから減点」



裏で早速マイナススタートになっていることなど、つゆ知らず。




ここから徐々にうちの主人公は本領を発揮していく予定。
+注意+
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