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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

試験編 第一章「テストは利用するもの」

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04-01 試験開始、その前に

ガレスト学園サバイバルテスト。
それはこの学園で毎年2回行われる実技試験の一つである。
6月と12月の頭三日間を通して行われる野外フィールドでの輝獣狩り。
普通科、特別科、技術科を問わないうえに全ての学年が参加する一大行事。
広大な人工自然の中での輝獣との戦闘とサバイバル能力を試す実戦的なテストだ。

ここでの結果は総合成績である校内ランキングに大きく影響する。
下位グループにとっては一気に駆け上がる千載一遇のチャンスであり、
上位グループにとってはその地位に甘んじていないかが試される場。
新1年生にとっては公式行事として初の野外フィールドでの戦闘だ。
ランキングを上げられることもあって興奮と緊張はどの学年より強い。
尤も。もはや当然のようにある一人の男子生徒を除き、だが。

「ふはぁぁ……ギリギリまで寝過ぎたな。余計に眠い」

「ふきゅー……」

野外フィールドと学園校舎の敷地との境界地点にある空間。
各学年がクラスごとに分かれて整列する中でひとり大あくびの少年。
頭に乗っている小動物はあくびどころか丸まって完全に寝息をたてている。
どう好意的に見た所でそれはテストにすら興味ないと暗に示していた。

彼らからすれば仕方がない話ではあった。
これが行われるためにこの数日は朝の模擬戦がなかったとはいえ、
初めて入るに等しい1年生達の中では唯一20回前後も入ったのだ。
元よりランキングに興味も無ければこの場所にはもう新鮮味もない。
さらにいうなら彼にとってサバイバルとは数か月前までは日常だ。
何に興奮し何に緊張しろというのか。その要素があまりに皆無である。
当然そんなことを他の生徒が知っているわけもなく視線は厳しいまでに鋭い。
しかし悲しきかな。そこらの小僧・小娘の視線など路傍の石と同じだ。
これまたいつもと変わらずシンイチはそれに反応する気がない。

「─────ではありますが安全第一を心掛けて挑んでください。
 ケガはともかく大けがだけはしないよう注意してテストに望んでほしい」

当然整列している全生徒の前に立つ学園長の声は届いていない。
正確にはそこから空間に投映された巨大モニターの音を右から左に流していた。
内容があたりさわりのない無駄に話の長い定番のそれだったせいもあるが。

「それでは続いて、今回のテストの総合監督に任命されたドゥネージュ教諭から
 ご挨拶と説明をしていただきたいと思います。先生、どうぞ」

「はい────総合監督代理(・・)をすることになったフリーレ・ドゥネージュだ」

そしてそれは何も彼だけに限った話ではなかったが彼女の登場で生徒達の雰囲気が変わる。
注目度は学園長の比ではない。挑戦的なものから陶酔したものまで多様な視線が集まっていた。

「……こういう所見ると本当に有名人なんだなって納得しちまうな」

朝の模擬戦ではそんな顔が皆無であり教師らしくもないため彼だけは苦笑しているが。

「本来の総合監督である三年主任の先生が体調を崩したため私が代理となった。
 そのせいで若干人手不足だが例年以上に厳粛且つ公正なチェックをするつもりだ。
 経験者の上級生も初参加の1年生も今以上の強い覚悟を決めてこれに挑め!」

シンイチからすると無駄に力を入れて虚勢を張ってるようにしか見えないが、
他の生徒達からすると雲の上の存在からの叱咤激励に打ち震えている者もいた。
彼女がDクラスの担当であるためにそれ以外の生徒達と接点が少なかったせいもある。
それに気付いているのかいないのか。フリーレは総合監督代理として説明を始めた。

「ルールは特に変わっていないが例年通りここで最後の説明をする。
 まず各クラスごとに野外フィールドの指定したエリアに散ってもらう。
 どのクラスがどこに行くかは各々の担当試験官から説明されるので聞くように。
 そこに辿り着けるか過程も評価の対象となる。気を抜くなよ」

説明に注意を混ぜつつ話は進むとモニター映像が切り替わりフィールドの簡略図に。
そこにはいくつかの境界線が入れられておりAからDまでの英字がふられていた。

「このように野外フィールドには安全性や環境の違いによる難易度の地域差がある。
 ランクが高ければ高いほど人が生きる場としてそぐわないと考えてもらっていい。
 既にこのランク分けに合った輝獣をそれぞれのエリアに追いやってある。
 そこで各々輝獣を狩ることになるがそこでの評価基準は担当試験官に一任する。
 倒した個体数か結晶の回収率か個人戦か集団戦か。基準は直前まで説明されない。
 これは各々のクラスで求められるモノが違うためだ。その点もよく話を聞くように」

「ふむ」

さすがにルール説明だからか相手が世話をしている(・・・・)相手なためか。
思いっきり後者のような気がするがシンイチも一応耳を傾けてはいた。
それを見て周囲が彼女の評価をさらに上げているがそれは彼も知らない話。

「またこのテストでは戦闘だけでなくいつもと違う環境への適応力も試される。
 とくにさほどここに入った経験がない1年生はたかがと油断しないように。
 周囲の環境が変わることで実力を発揮できなくなる事は珍しくもない。
 今からお前たちが入るのは整備された学園ではなく人工ではあるが、
 人の意思ではどうにもならない大自然の世界だということを忘れるな」

これまでで一番強い語気での注意に最も気を付ける点である事を告げていた。
それがどれだけ生徒達に伝わっているかはいくらか疑問ではあるが。

「無論戦闘時を含め、試験官がいざという時は手を出すが当然その場合は減点だ。
 ただその減点もできないのに無理をした場合と不測の事態では幅が違う。
 自らの力を過信しない冷静で適切な行動を君たちに期待する」

「行軍に討伐、そして適応力全部試すわけか。随分欲張りなテストだこと」

生徒達全員が頷くような声をあげる中、彼だけがその中身に微笑を浮かべていた。
テストと銘打っているが全員に実戦経験を与える名分だろうと推測しているからだ。
そうでもしないと中堅やその少し下の生徒達には経験を積む場が少ない。
待遇の差といえばそれまでだがそれを上げるチャンスを与えないのは問題だ。
実際成績は悪いが能力は高く、実戦でのみ実力を発揮できる生徒もいる。
これはそういった生徒たちへの救済処置の側面もあるのだろう。
まさに欲張りな試験であった。

「それでは各クラスごとにフィールドに入ってもらう。
 一度に全員ではバリアを大きく開いてしまい危険なためクラスごとに。
 ただし特別科だけは時間短縮のためここで外骨格を装着して空から入れ。
 開いた場所はフォスタに表示されるから間違ってバリアに突っ込むなよ、以上だ」

そうしてフリーレが最後の説明を終えると指示通り特別科が動き出す。
試験官を務める担任教師から奥地の試験領域を説明されるとある女生徒が前に出た。

「全員、構え!」

他の女生徒と違いどこかお嬢様然とした意匠の制服姿で縦ロールを揺らす美少女。
その号令に均等な間隔を保って整列していた特別科の生徒たちがフォスタを装着した。

「外骨格展開後、私が先頭に立ってフィールドに入ります。
 くれぐれも特別科生徒らしからぬ無様な行動はしないように、では───」

説明と軽い注意を発しながら彼女自身も左腕にフォスタを装着する。
そしてガレスト語でスタンバイと書かれている画面に触れながらそれを、呼ぶ。

「───強化外骨格(パワードアーマー)、アクティブ!」

倣うように声をあげ次々とガレスト技術の結晶を動作(アクティブ)させていく。
各々が瞬間的な光に包まれる中、制服は溶けるようにフォスタに回収された。
代わりに全身を覆うようなボディスーツに身を包み、その上に装甲が展開する。
排出されたパーツが変形し結合しサイズを変え、鎧となって装着される。
最後に頭部にサークレットのような簡易的な防具がはめられた。
それがおおよそ一瞬の閃光の間に起こった出来事である。

「………変身バンクって現実でやるとこう見えるのか」

まだ個人として外骨格を所持していないランクの生徒たちは生装着に興奮気味だが、
過程をしっかり視認できたのは彼のような基準(ルール)違いの男だけであろう。
だが少年の感想は他に無かったのかといいたいほど斜め上であった。

「けどこれじゃ特撮ヒーローの立つ瀬がないな。
 ……いや、むしろこれでマジで変身できるんじゃないか?」

生徒達のそれはサークレットの形状に若干の違いがあるだけの量産モノ。
だがもし真剣に外骨格を変身ヒーローのそれに似せたのなら、と夢が膨らむ。
彼はこれでも幼き日はそんなヒーローたちの活躍に憧れた男子の一人である。
出来るのならやってみたいという小さな願望ぐらいなら今でも持っていた。
それゆえにマスカレイドへの変化は断固変身として認められないのだが。

「あ」

完全に装甲を展開していないのか。
全身とは言い難いものの科学の鎧を身に纏った生徒達を彼が眺めていると
偶然クラス委員として彼らの前に立っていた縦ロールの少女と視線が合った。
途端に彼女は誇るように胸を張って自らの晴れ姿を見せつけるように空に舞いあがる。
それに続く特別科生徒を引き連れ彼女は自分たちの試験場へと飛んで行った。

「………なんだあの縦ロール固定用の装甲は?」

尤も彼が意識を持っていかれたのはその美しい飛行機動ではなく、
以前巻き込まないのかと心配していた特徴的な髪型とそれを固定する装備だった。
二房の小さな縦ロールだけが豊かな胸部装甲の上で揺れていたが他は背面に回され、
固定しつつ保護するようにスラスターのような装備に覆われていた。

「そこまでするぐらいなら髪型変えようぜ……」

この学園に来て最大に技術力の無駄遣いだと切に感じたシンイチである。
他の生徒はそんなことを気にしないのか純粋に外骨格の存在に心奪われていた。

「やっぱすげえなガレストのパワードスーツって」

「あこがれだよな、ああいう全身甲冑って」

「私もいつかあのバトルスーツ着てみせるわ!」

「……………」

その興奮具合は別にいいのだ。彼とて分からないわけではない。
むしろ交流以前の人間であるため存在的な憧れは彼ら以上のところがある。
ただ余計な知識や懸念があって素直に興奮してはいられないだけの話。
問題は耳から聞こえてくるその呼称が全く同じではない事である。

「統一性が無さ過ぎるだろう。
 固有の名称ぐらいつけておけよ……翻訳ソフト次第で表現が違うのか?」

同じ文章の翻訳でも誰がやったかによって表現が変わることはある。
そういうことなのかと考えながら耳元にあるインカム型のそれを撫でる。
先日副担任であるフリーレからいいかげん持てと強引に渡された翻訳機だ。
その機能を考えれば会話するどちらか片方が着用するだけで通じ合えるが、
両世界交流の場では全員着用するのが一種の礼儀作法にもなっていた。

「あいつらと俺のとで二重に翻訳されるからソフトの違いで単語が変わった?
 いや、単に日本語にするとアレを表現できる言葉が多すぎるのか?」

装甲服。全身鎧。強化服。パワードスーツ。ジャケットアーマー。
数多の創作物にある特殊な呼称も含めれば他にも存在していることだろう。
そのために翻訳機において表現が一定ではないのではと彼は考えた。

「お前はなんというか自分で疑問を出して自分で答えを出すタイプだな。
 なんとも教師泣かせというか教え甲斐のない生徒だよホント」

しかもたいがい正解しているから始末が悪いと苦笑を見せたのはフリーレ。
どうやら特別科がフィールドに無事全員入ったのを確認してこちらに来たようだ。

「輝獣の呼称とは違ってその問題は当初露見しなかったんだ。
 現在は統一しようとしているが個人個人で名称が多々あり過ぎてな。
 結果現在も翻訳ソフト作成時に参考にしたものによって呼称が違っている」

「そして日本側もどれに統一すべきかで見解が割れてる、と?」

「ああ、中にはもうこのままでいいんじゃないかって意見まである」

馬鹿みたいな話だがガレスト語においてアレに対する呼称は一つしかない。
いくら日本語を調べて同じ物を示す言葉が複数ある言語と知っていたとしても
まさかアレを示す、示せる言葉が湯水の如く出てくるとは思っていなかっただろう。
またガレスト語での呼称をそのまま使えばいいのではという案も出たが、
日本人にとって非常に発音しづらい単語であったらしい。

「8年では発覚するまでが限界か。
 ………ところでここにいていいの総合監督代理さん?」

「ん、ああ、まだな」

Dクラスの面々は地上から入るBクラスの行軍に夢中で気付いていないらしい。
特別科には劣るものの所持する装備はDクラスでは見られない武装ばかりなためだ。
そもそも彼女が気付かれぬようにシンイチに接近したから、でもあるが。
だから何か用かと彼は暗に聞いたのだが困ったような苦笑だけが返ってきた。

「詳しいことは………他のクラスが入ってから説明する」

どうやら他の教師やクラスにはあまり聞かれたくない話らしい。
そう察したシンイチはならばと続く生徒による行軍を見守ることにした。
クラスごとに入っていくが慣れているのか一年生以外はすんなりと進む。
その中において目立つ格好をした二人がいて思わず視線を向けてしまう。

「っ、ふんっ!」

「あはは……」

どうしてかあちらもこちらを見ていたために視線が合ってしまった。
少女の方は即座に視線を背け、少年の方は苦笑しながら目でごめんと謝る。
千羽姉弟。Bクラス全体の引率を請け負っているのか行軍を補助していた。
その姿は唯一外骨格を装着したもので嫌でも目に付いてしまう。

「あのふたりだけどうして外骨格着てるんだ?」

「ん、センバたちか。あいつらはBクラストップの生徒だ。
 それに特別科への昇格がほぼ決まってる生徒でもある」

そういった立場の生徒には先に慣れさせるために外骨格が与えられるのだ。
二人以外は授業や見回りで装着することはあるが個人で所有してはいない。

「それって……すごいこと、なんだよな?」

いまいち現代の、というよりこの学園での価値観がうまく把握できない彼だ。
それがどの程度の話なのか他は察しのいい少年でも理解しきれていない。

「無論だ。特別な背景がない地球人としては異例な速度だ。
 それも委員会活動の影響で昇格が遅れているというのだからな。
 風紀委員は多忙でなり手が少ないからあの姉弟に仕事が集中している。
 結果、色々な試験や鍛錬に回す時間が減った影響で遅れているんだ」

それが無ければ2年への進級時にはもう特別科だっただろうと彼女は言う。
尤も委員会活動も評価されておりマイナスどころかプラス評価になっているとも。

「そうか………本当に、頑張ったんだろうな」

話には聞いていたがこうして形として見られるとどこか感慨深い。
自分の後ろをついてくるだけだった双子姉弟が自分達だけそこまで歩いた。
そこに至れるまでいったい彼らが何を犠牲にしたのかと考えると胸が痛い。
あるはずだと思っていた当たり前の学校生活はおそらく送れていまい。
それが良かったのか悪かったのかは決して自分は考える事すら許されない。
ならばせめてと陽介の方に向けて小さくサムズアップと頷きを見せた。
頑張ってやってこいとメッセージを込めるように。

「っ、いくよ姉ちゃん! 目指せ満点! 今日の俺のやる気はMAXだ!」

「え、ええ? こ、こら何はりきってっ!? お、押さないでよ!」

途端に表情を輝かせた弟はBクラスが既に全員入ったのもあってか。
残った姉を押し入れるように意気込んで自身もフィールドに入っていった。
あまりのテンションの上がり具合にシンイチの方が戸惑ってしまった。

「なんだ、弟の方はあんな奴だったか?」

「さ、さあ?」

そういう以外になんといえばいいのか彼は分からなかった。
それから続く形でCクラスや上級生のDクラスを見送っていく1-D。
次第に興奮も薄れたのかそこで彼女(フリーレ)がいることに気付くクラスメイトが出始めるが、
肝心の副担任はそれにあまり反応せずに1-Dだけが残るのを待った。

「さて、最後にお前たちが入るだけだがその前に知らせることがある」

そしてあとはもう彼らがフィールドに入るだけとなった所でようやく口を開く。
口調はどこか重たく、申し訳なさを全面に出した表情で1-Dを見据えていた。

「私が総合監督代理になったのは先に説明した通りだが、
 それにより私はお前たちのテストを監督することができなくなった」

総合監督はこのサバイバルテスト全体の総括や調整、安全管理をする立場。
どうしてもフィールド全体を俯瞰する必要があり一つのクラスに集中はできない。
だから今回は1-Dの試験官をすることはできないのだと彼女は言った。
その言葉にシンイチは妙な違和感を覚え、他はざわざわと騒ぎ出す。

「え、それじゃ誰がするの?」

「もう実技方面で残ってる先生いないよな」

「技術科の先生か?」

「先生、まさか俺達テスト不参加なんてことないですよね!?」

「え、いやよそんなの。課題だけ出してもらって私たちだけ入れば」

「馬鹿、私たちだけでこんなとこ入れるわけないじゃない!」

学園最強といわれる教師の監督は彼らには無意識の安心を与えていた。
それが無い不安と初挑戦する野外フィールドへの恐れが一気に膨れ上がる。
これまで授業中には出たことのない動揺にフリーレも僅かに困惑した。
自分の存在が与えていた安心感を理解していなかったらしい。

「はぁ………話の途中で騒いでんじゃねえよ、バーカ」

だからそれを冷ややかな声で嘲笑った。あえて全員に聞こえるようはっきりと。
視界の隅でフリーレが頭を抱えたのが見えたが彼は小さく肩をすくめるだけだ。

「な、なんだよ!
 どうせ参加しないお前は黙ってろよ!」

「そうよ! やる気がないのならせめて邪魔しないでよ!」

近くにいた男子生徒がそう詰め寄れば他のクラスメイト達も同調する。
その様子を他人事のように眺めるとにっこりと微笑んでフリーレに目を向けた。

「では先生続きをどうぞ」

「は?」

「…………お前、やり方が無茶苦茶だ。
 人の気も知らないで、まったく。余計に言い出しづらくなったじゃないか」

各々が騒ぎ出していたクラスを自分に憤らせることでまとめる。
目の前でやられた手法に教師として何をいえばいいのか分からず彼女は頭が痛い。

「まあいい、続けるから話を聞け!
 お前たちの不安はわかるが不参加は無い。また試験官もなく入らせもしない」

しかし今は説明すべきことを先にしておくべきだと話を続けた。
1-Dも彼女のその言葉に少しほっとしたよう表情を浮かべて耳を傾ける。

「それで肝心の試験官代理だが技術科教員はこれ以上は出せないといわれた。
 実技担当教員は他にいない。全生徒参加のため特別科に補助要請も出せない」

他の試験官役について生徒達が思いつきそうな候補をあえて彼女は消していく。
そうして外堀を埋めながらクラス全体を見ていた彼女の視線がある生徒に留まった。

「よって────総合監督代理から正式に補助要請をナカムラ・シンイチに出す」

「……………………」

瞬間、名指しされた生徒も含めて時が止まったように1-Dは沈黙した。
その理由は色々ある。言われたことが理解できなかった者もいれば、
耳がおかしくなったのかと戸惑う者もいれば理解して固まった者もいる。
当の本人はまさかの裏切りにあったような感覚で愕然とした顔をしていた。
そういう意図は全くなかったが彼女はどこか意趣返しできた気がして微笑む。

「つまりはナカムラ、お前が試験官代理だ。頼むぞ」

「「「「はああああぁぁぁっっっ!!!???」」」」

その瞬間これまで一度として重なり合わなかったクラスの気持ちが一つとなる。



───なにいってんのこの人!?───



と。
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