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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

ガレスト学園・試験編 プロローグ

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03-27 進路相談?

生徒と教師が向かい合ってする話の定番は進路相談ですよね!



「───ということもあり我々ガレスト人は幼少期より武装を所持している。
 戦闘員でなくとも身を守るために最低限の教育と訓練は受けているんだ。
 そのためそれを無闇に使わせないために道徳や倫理教育はかなり厳しい」

時刻はもうじき六時になろうというところ。
いつもよりは遅くなったものの一戦交えたあとの質問タイムは行われた。
その様子は二人の立場を考えればなんともらしい授業風景のようであった。
一方が授業放棄常習犯で一方が実技担当であるので奇妙に見えるのが残念だ。
ちなみにあれからすぐにフリーレは上着を羽織ってチャックを閉めた。
おかしそうに「残念だ」と彼が口にすればまた水柱があがったが。

「無論全員が全員おとなしくその通りに振る舞ってくれるわけではないが
 全体数からみれば悪戯、犯罪での使用数は少ない方だと自負している」

今日の質問の大元はガレストではどの層がどんな武装を所持しているか、だ。
立場上フリーレは細かく教えることはできなかったが彼の疑問には答えていた。
そしてそれは次第に武器を扱う心構えの話にずれていったが誰も気にしていない。
これは授業のように見えるだけで実際はそんなものではないのだから。
興味があることに話が横道にずれていくのは珍しくもないのだ。

「とくに貴族ともなれば、その教育はすさまじいの一言だ。
 有事には矢面に立って強力な武装を使う立場である以上仕方ないんだが、
 私は最初に一般教育を受けたあとに貴族流を学んだから………すごかったよ」

ドゥネージュ家もまたパデュエール家と並ぶ十大貴族の一角だ。
フリーレ教諭もまた昔にそれを受けたのだろう。若干遠い目をしている。
幼心に刻まれるほどの“すさまじい”教育を受けたことは想像に難くない。
疲れたような声で「あれはもう荒事や流血沙汰に恐怖するレベルだ」ともらす。

「それ、守護職を司る貴族としていいのか?」

「そのあとにみっちりいざという時に戦える覚悟を植え付けるから
 貴族は貴族としての役割をこなせるようになる………らしい」

普段は争いごとを、無意味に武力を用いることに拒否感を覚えさせ、
いざ有事となれば躊躇わないあり方を心身に教え込むのがガレスト貴族なのだと。
尤もこの学園に通うぐらいの年齢の子はまだその考えのバランスが悪いらしく、
また自らは特殊なケースだったので断言はできないと注釈するフリーレ。

「なるほど、半端な教育のせいで暴れたい衝動があんたは強いのか」

「ち、違う!
 私は単に強い奴と戦いたいだけというか。
 どうやったら勝てるか考えるのが楽しいというか。
 とにかくっ、無節操に暴れ回りたいわけではない!!」

「……ふーん、そう……」

一気にまくしたてるように否定するが彼が向ける目は白い。
いきなり背後から襲ってきた前科持ちが何をいってるのか。
あえてそれを目で訴えれば言い訳できないのか小さくなる女教師だ。

「うっ、ま、まあ私は確かに剣を振るうしか興味も能もなかったし、
 パデュエールほど貴族らしさはないだろうがドゥネージュ家は元々武闘派だ。
 “らしさ”より護国の武人たれと戦いを重点的に教える家系なんだ……」

申し訳程度にそういう事情なのだと言い訳する姿は恥ずかしげだ。
彼女にとって“それしか”できないのはコンプレックスなのである。
そこに憧れる者達からすれば何をという話だが得てして人とはそういうもの。
隣の芝生は青い。されど、そうだと分かっていても青く見えるのだ。
シンイチは似たような悩みを持っているためかそれ以上は追及しなかった。

「確かそうやって剣ばっか振るってる所を軍のお偉いさんの目にとまって
 直弟子のように扱われて入隊。それからは水を得た魚のような大活躍。
 剣聖とまで呼ばれるようになって軍内外に知られるスターに、だっけ?」

代わりに感情のこもってない棒読みのような言葉で確認するが、
その内容に彼女は疲れたような顔で溜め息交じりに声を返した。

「やめてくれ。戦うのは好きだが目立つのは正直好きじゃないんだ。
 あの時期はそれなのに周りがやれ剣聖だの次期将軍だのと持ち上げてきて、
 それで軍上層部が広報関係の仕事ばかり回してきて、うんざりだったんだ」

「………周囲の声だけが原因じゃないだろうが……まあご愁傷様」

表情を見る限り本当に嫌だったのだろう。彼も本気で同情はしている。
ただ、ガレスト人特有のカラフルな髪色の中でも目立つ美しい白。
整った容貌に若い男には目に毒なスタイルを持つ美貌の剣士。
そして周囲が強く認めるほどの功績を若くして重ねたその実力。
軍の宣伝としてこれ以上無い逸材であるのを本人は理解していないようだ。

「そういうのが必要だというのもドゥネージュ家のネームバリューも解る。
 けどいいかげん辛くなってな、通常任務に戻してくれと何度も訴えたのだが……」

「ダメだったわけね」

こくりとフリーレは頷いた。
その時期は戦乱の気配も輝獣の大発生も目立ったテロ活動もなかったためか。
のらりくらりと彼女の要望はかわされ、フラストレーションがたまっていく。
戦闘が身近な軍生活のおかげで彼女の戦闘狂っぷりは露見していなかった。
そのために彼女が不満を溜め込んでいる事に誰も気付かなかったのだ。

「そんな時に兄さんが故郷を出てクトリアで教師になるって話を聞いて、
 ただでさえ色々と疎遠になってたのもあって、その……もう知るかっ、と」

勢いに任せて除隊申請を叩きつけると半ば脅すようにそれを認めさせたという。
それからその名声を逆に利用して自分を学園に売り込み実技の教師になった。

「ついカッとなってやった。反省はしてない、か。
 ここまでやられるといっそ見事だよ、ねえブラコン先生」

「うぐっ!」

にっこりと微笑みながら胸にぐさりと突き刺さる呼称を使う。
今でも『剣聖フリーレ・謎の退役と教師への転向』は様々な憶測を呼んでいる。
都市や学園の防衛任務説。要人の護衛説。地球世界への牽制説。などなど。
そんな憶測飛び交う騒動の真相が兄恋しさと仕事の不満だなどと誰が思うのか。

「っ、このっ、おとなしそうな顔して容赦がないなっ!
 私は……これでも、い、色々と気にしてるんだからな!」

「はいはい………ま、俺よりはましな理由だろうけどな」

家族と共にあろうとした者と離れて逃げようとした者。
比べるのもおこがましいほどに勝負になっていないと影で小さく笑う。

「ん、なにか言ったか?」

「いいや、そんなにしてまで会いたい男かね、と思ってな」

「……お前にこれといって悪い印象を与えてはいないと思うが?」

分かり易くむっとした顔になりながらも遠回しの物言いは彼女なりに
教師として振る舞おうという気概であろう。今更な感はあるが。
実際生徒から見たフランク教諭の評判は可もなく不可もないもの。
物腰は柔らかいが教師としては並で義務以上の事はしない男。
嫌悪するまでではないが好感を持つほどでもない。ただ。

「あそこまで露骨に妹に嫉妬してる奴にいい印象を抱けといわれてもね」

シンイチからすればその点で大きくマイナスな印象を持ってしまう。
むしろ見苦しいとして嫌悪にも似た感情を彼は抱いているほど。
概ねの事情は察して理解しているが同じ兄として納得できないのだ。

「……やっぱり、妬まれているんだな。
 分かってはいたが第三者から肯定されると余計に、来るな」

溜め息ひとつを吐いて、物悲しげに胸元を押さえるフリーレ。
どうしてかはわからずとも本気で慕っているのは誰の目にも明らかだ。

「……相談ぐらいなら、乗るぞ?
 一応俺も立場としては『兄』だからな」

彼女からすれば分からないことも自分になら分かるかもしれない。
ほぼ毎朝に近いとはいえ戦うだけで彼女の立場の補助を受けるのは
取引としてつり合いがとれてないと感じていたがゆえの発言だった。
兄妹の問題というのが他人事に見えなかったというものあったが。

「そうか、お前も兄だったのか……お前の場合は下が大変そうだ」

その事実にどこか納得したような不憫さを感じたような。
複雑な表情を見せると彼女は珍しくそんな軽口をシンイチに向けた。
ほっとけ、と地味に気にしている事を言われた彼は若干不機嫌顔だ。
やっと一本仕返しできたと薄く笑って、少し悩んだが口を開いた。
立場上教師である自分が相談をもちかけるおかしさは感じているが、
模擬戦で連敗している相手を彼女は自分より下の存在と思っていなかった。

「昔はな……あれで家で一番優しかったんだ。
 まともに私の相手をしてくれたのは兄さんだけだった」

だからそういってぽつぽつと一つずつ思い出すように語っていく。
自分が誰に救われ、そして誰を傷つけて追い込んでしまっていたのかを。

「生きがいの“剣”だって兄さんがくれたもの。
 私はドゥネージュ家において何も期待されていなかった。
 一緒にやるか、って兄さんが誘ってくれなきゃ多分手にしなかった」

「……一緒にやってたのか?」

「影でこっそりな。兄さんが教官代わりで一緒に素振りしたりして、遊んでた」

その頃を思い出して楽しげに笑う姿は同時に物悲しい。
思えば、あの頃が一番仲が良かったのかもしれないと彼女はこぼす。

「当時あの人は次期当主として毎日みっちり厳し鍛練と教育を受けていた。
 けれど兄さんはあまりそれが好きではなくて辛そうな顔をよくしてたよ。
 幼心に自分が強くなったらその負担を減らせるんじゃないかと……馬鹿だったよ」

「幸か不幸か、そこであんたの才能が開花しちまったわけか」

ああと頷いて、悲しい程に雲泥の差だったとフリーレは苦笑を浮かべる。
兄が厳しく過酷な鍛錬の下で何日もかけてようやく一歩進んでいる頃。
遊びも同然の鍛錬の真似事を少ししただけで妹は十歩先に進む。

「もういっそ気持ちがいいぐらいの手の平返しを受けたよ。
 でも、認められたら兄さんの助けになれると思っていた私は
 それが兄さんの立場を日に日に悪くしてる事に気付かなかった」

「……どっちに継がせるかで問題になったんだな?」

「いやそれよりひどかった。あっさりと跡継ぎは私になった」

「は?
 あ、そうかガレストの貴族は守護職だから当主は実力優先なのか」

「ドゥネージュ家は特にな。
 歴史的に本妻の子だろうが妾の子だろうがお構い無しらしい」

「…………あのな、人があえて突っ込まなかったのに告白するなよ」

やはり気付いていたかと気にした風もなくくすりと彼女は笑う。
わざわざ言うことでもないとフリーレなりにぼかしてはいたが、
本人にとってはどうでもいいことなためか隠しきれてはいなかった。
例えば今日の会話だけでも貴族なのに最初は一般の教育を受けていた。
ドゥネージュ家においては当初は期待されておらず疎まれていたという。
そしてそも容姿もフランクとフリーレ兄妹は類似点があまり見つからない。
これだけ揃えば誰でもある程度の想像はつくというものである。

「もう少し気を付けろよ。
 俺がそういう話を吹聴する噂好きだったらどうするんだ?」

「お前のどの口がいうんだ?
 それに何度も切り結んだ相手だ。なんとなく分かるさ。お前は大丈夫だ」

だからこそ気が緩み、ヒントをいくつかもらしてしまっていたのだ。
実際そこまで彼女が気を許したのは3年ここに勤めてシンイチだけであった。
尤も彼からすればその理屈は手放しで受け入れられる理屈ではないが。

「出た。戦闘好きの根拠のない勘からくる信用……ま、嫌じゃないけど」

彼はその物言いには呆れるもののそれ自体を否定したりはしなかった。
そういう所が彼女の信用を買ったのだが口にせずにフリーレは話を続ける。

「……当時の私はまだ幼くて母の違いや跡継ぎがどうのとか。
 色々と意味がわからなくてな。情けないが戸惑っているうちに
 私は本家に正式に引き取られ、兄さんは継承順位を落とされ分家へ。
 そして会う事も、連絡することもままならなくなってしまった」

軍に入ったのはそのあとの話。
彼女からすればよく分からないまま唯一慕っていた兄と引き離されたのだ。
その不満と抗議の意味もあって思い出の剣を振るう以外の事を彼女は拒否した。
教育が中途半端なのはじつはそのせいなんだとフリーレは肩をすくめる。
それをある高名な軍人が見て、推薦され、それからは既に語られた通りだ。

「子供だったよ。戦えば、戦うほど楽しくて、みんな喜んで、見てくれた。
 だからきっと兄さんも見てくれてると、喜んでくれていると思っていたんだ……」

だから彼女はガレスト全体に名が売れるほどの活躍をしてしまった。
幸か不幸か。それが出来るだけの才能に恵まれてしまっていたのだ。
それを兄フランクがどんな心境で見聞きしていたかなど気付かずに。

「まあそんな子供でも軍組織でもまれていけば成長もする。視野も広がる。
 それで、やってしまった、と気付いてなんとか再会した時にはもう……」

愚かな己でも分かるほどの厚い壁を作って他人のように振る舞う兄がいた。
罵倒や嫌味、皮肉などを言われたわけでもないのに彼女は強い衝撃を受けた。
それからずっと以前のような優しい声はかけてもらってはいない。
人前でも二人きりの時でも彼の態度は変わらず他人行儀のそれだった。

「まだ兄妹だってことは認めてもらってるだけマシじゃね?」

わりと本気でそう思ってしまうのは彼特有の事情からだろう。
それを知らない彼女は声を荒げてそれを即座に否定してきた。

「そんな開き直りができるぐらいならここまで追ってくるか!
 なんとかしようと全部捨ててでもやってきたんだ私は!」

「……それで現状があれじゃ成果ゼロじゃねえか」

「うぐっ!」

「というよりか、思いっきり逆効果だろう。
 あっちからすれば自分が欲しかったものを全部手にいれたくせに、
 それをいとも簡単に捨ててわざわざ同じ職場までやってくるなんて。
 もうはっきりいって何もかも嫌味な行動にしか見えん」

「なにっ!?」

「しかも疎遠になっててこっちに来てもあの感じってことはさ。
 一連の出来事をどう思っていたのかも軍をやめた理由も伝わってないぞ?」

「あうっ!」

「あんたさ剣の攻めは苛烈なくせにあの先生には腰が引けすぎなんだよ。
 いったいこの3年でなにやってたわけ、おたく?」

「うっ、おおぉぉっ……」

ぐさぐさと彼女が一番突かれたくなかった点を容赦なく指摘する。
精神的なダメージに悶絶して崩れ落ちた姿はさすがの彼も笑えない。
いくつか自分にも返ってくる言葉があるせいか見据える視線は同情的だ。
それでも辛辣な指摘をしている辺りが彼の本質なのかもしれないが。

「う、ううっ、どうせ私は愚か者だよ。なにも気付かず兄さんを追い詰めて。
 馬鹿みたいに頑張った結果がこんなだ……もういっそ盛大に笑ってくれナカムラ」

打ちのめされた彼女はその場に崩れ落ち、際限なく自らを嘲っていく
一気に落ちた彼女の心持ちは暗く、一瞬白髪が黒く見える程空気が濁りだす。

「ははっ、そんなんだから生徒に連敗するんだ。説教されるんだ。
 どうせ私はダメな教師でダメな大人ですよぉ……うううっ」

自虐的に呟いて蹲るといじけるように地面に“の”の字をかくフリーレ。
頭では色々と理解も納得もできる事柄も感情でできない所があるのだ。
気分が沈みこんだことでそれらが一気に噴き出してきているのである。

「あんたどこでそんなの知ったんだよ……」

だが彼はまずそのいじけ方を異世界人がやっていることに感心と呆れが出る。
交流開始から8年経過している以上どこかで知ったのだろうと当たりをつける。
しかしその様子にシンイチは彼女が周囲の評価に比べて自己評価が低いと感じた。
普段は教師として戦士として気を張って誤魔化しているが突きつけられると脆い。
外見や知識は大人になっても根は兄に甘えていたという昔と変わっていないようだ。
その辺りが少年からすると他人事に思えず、また放っても置けなかった。

「よし、とりあえずお前の勘違いを一つずつ訂正していこうか」

「え?」

「まず何をもってあんたはダメ教師だというんだ?
 俺にはいうほどダメな教師という印象はないぞ」

言葉や態度は厳しいものの授業の姿勢は真面目。基本に忠実である。
難点がないわけではないがそこまでいうほどダメな教師だとは思えなかった。

「う、だってそんな私情だけで教師になったんだぞ。
 元々人に教えるのだってうまくないと分かってたのに。
 やるからには一生懸命やったけどあの子らの成績は上がらないし、
 それ以前に、お前にいうのもなんだがDクラス担当ってそういうことだろう?」

だが彼女の言い分はこうだ。
教師になった経緯があまりに私情を挟んだものであるからだと。
また自分は教師として無能だ。証拠に受け持った生徒の成績が伸びない。
そしてそれが解っているから学園一期待されてないクラスの副担任なのだと。

「ああ、やっぱそう思ってたか。
 逆だよ、もっと冷静になって考えろ。
 本当にお前が受け持った生徒は誰も伸びなかったのか?」

「え……あ!」

強い確信のこもった声で尋ねられて、彼女の脳裏に数名の顔が浮かぶ。
確かに受け持った生徒の何人かが彼女の教鞭を受けてすぐにクラスが上がった。
ただ全体数から比べるとあまりに少なかったので印象が薄くなっていたのだ。

「いいか。
 この学園に入学できた時点で俺みたいな例外を除けば全員才能がある連中だ」

入学条件として一番重視されているのがステータスの伸び代であるために。
無論その他の学力や素行なども吟味の材料であるがそれは大きな伸び代が前提の話。

「なのに四月に入学してからまだ二か月未満とはいえ成長の兆しがないのは
 単純に学園の通常カリキュラムが合ってないか身についていないからだ」

一般には大器晩成という言葉や考えもあるにはあるのだが、
ステータスの成長においては厳密にいえばそんなものはない。
ただ後であるほど伸ばし方のコツを掴んで成長が速くなるだけの話。

「そしてよく甘えの一つとして受け取られてしまうが、
 実際問題として人にはそれぞれ合った教育方法ってのがある。
 個人でするか集団でするか、飴を与えるか鞭を入れるか。
 それだけでも向き不向きって奴は個性がある以上どうしたって出る」

それが各々でバラバラな地球人系ステータスの成長なら尚更である。
そこまではわかるな、とフリーレに問えば即座に彼女は頷きを返した。
いつのまにかその場に正座し真剣な眼差しで彼の言葉に耳を傾けている。
どっちが教師なのかなどと今更突っ込んではいけない。

「ましてや素質のある奴を徹底的に吟味して全国から集めたここでは
 それがより顕著となってしまい“合わない”奴はまったく芽が出ない」

「………つまり、私のせいではなく学園の教育法が悪い、と?」

「半分正解だ。ようは合う奴には最高の環境だが合わない奴には最悪なんだ。
 けどそこへあんたが来た事は伸び悩んでいた生徒の一部には意味がある!」

人差し指をびしっと擬音付きで彼女に差し向けて彼女に強く訴える。

「お前はほぼ我流で才能を磨き実戦経験を積んで実績と名をあげた。
 そんなあんただから示せる道があり、それが合う子もいるんだ。
 誰もいわなかったみたいだから俺がいうけど学園側はそれを期待して
 あんたをDクラス担当の教師にしたんだよ」

「わたし……だから?」

学園の教育手法はいわばガレストのそれをマニュアル化したものだ。
それは理論であり理屈だ。その言葉を噛み砕けなければ意味がない。
一方でそれと縁遠かった彼女のそれは我流と経験で培ったものである。
言葉足らずではあるが芯はとらえており感覚で考える者には伝わりやすい。

「じゃあ今Dクラスに残っているのは……学園のも私のも合わない子たち、か?」

「そういうことだな。普通そういうのはあんなに集まらないんだがな」

能力や素質だけで線引きした結果似た性質を持つ子供たちが伸び悩んだ。
それが集まったのが落ちこぼれのDクラスの真相だとシンイチは推測している。

「理論でも感覚でも分からない奴はもう実戦に放り込んで自分で理解させるしかない。
 まあ学生でそれは無理だから及第点として非武装でここに放り込めば勝手に化ける」

断言しながら彼が指差すのは地面、ひいてはこの野外フィールド全体のことだ。
いわれてフリーレはゆっくりと周囲を見回して、即座に首を振る。無茶苦茶だ、と。

「いやいや、確かに近々入ることになるがそれだって完全武装でだぞ?
 見ろ、あの人間を軽く見下ろせるサイズの肉食獣型を!
 獲物を狙うかのように飛び交う翼竜じみた鳥獣型を!
 木々を軽々と吹き飛ばしながら闊歩する甲殻類型を!
 間違いなくあいつら死ぬぞ!」

比較的奥地でもない場所でもそんな輝獣が跋扈する場所に非武装で放り込む。
しかも経験も無ければ満足なステータスも持たない生徒をなどと正気の沙汰ではない。
だがそんな反論を受けても当人の顔はあっけらかんとしたもので意に介していない。

「あんたが生徒には内緒で引率してれば問題ないだろ。
 一回でも死にかける体験をするとヒトは一回りも二回りも大きくなるもんだ」

むしろ満面の笑みでそんなことを言い出すのだから彼女は頭が痛い。
シンイチがこの学園に馴染めない理由をなにか強引に納得させられた気分だ。

「で、次のあんたが負け続けてる理由だが……」

それでもうこの話はお終いだという態度にさらに頭が痛くなる。
シンイチにとっては一番簡単なアイディアを提示したに過ぎないからだ。
教師として即座に頷けない内容であるということも一応は自覚している。

「ん、理由は?」

そして彼女もその物騒な提案は一時棚上げして既に聞く姿勢になっていた。
連敗した相手からその理由を教えてもらえるのだ。聞かない手はない。
この辺りは戦闘への優先度が高い彼女らしさが出た切り替えの速さである。

「ネタバラシをすると単なる相性と得意分野の違いだ」

「は?」

「俺は基本的には(・・・・・)受けに回ってのカウンター狙いが常だ。
 だからあんたみたいな剛剣使いが突っ込んできたらいいカモ。
 模擬戦をやり始めた頃は比較的そんな負け方だったろ?」

「あ」

強烈な一閃を流され、いなされた隙に一撃をもらって彼女は負けた。
今日のように的確に距離を取り始めたのは5、6戦目ぐらいのこと。

「お前もそれが分かってたから今日みたいに俺からの動きを誘ったんじゃないか?」

そしてそんな戦術を取り始めたのは9戦目辺りからである。
毎朝の限られた時間での戦いにも関わらずこの速さでの対応は見事。
普通ならば例え対策が思いついても身につくのに一定の期間が必要となる。
数回の模擬戦で一つ一つ迫ってくる強さは確かに天賦の才といえた。

「そ、そうか、そうだったのか!
 いやなんとなくそうした方がいい気がしただけだったからな」

とはいっても本人はその辺りよくわかってない感覚派な人だったが。

「……これだから天才肌な奴は始末に負えん」

才無き者の嫉妬といわれようが思わず渋面で睨みたくもなる。
いくつもの反則の上に成り立つ自身の力量になんとなくで迫られているのだから。
しかし詮無きことだと溜め息と共に首を振って考えることすらやめて続ける。

「次は、得意分野の話だったな………うん、まずあんたの得意戦場は?」

「ん、しいていうなら外骨格を用いての高速機動による空戦だ」

「俺もしいてあげるなら一対一の地上での白兵戦だ」

「………………………んん?」

さらっと返された言葉にフリーレは思わず眉根を寄せた。
確か模擬戦を行う前提条件の取引には外骨格の使用禁止があった。
そうなれば自然と戦いはフリーレとシンイチによる一対一の地上白兵戦になる。

「お、おまえっ!?」

「……やっと気付いたか。
 バトルマニアとやるからには本気でやった方が喜ぶと思ってな。
 だから最初の取引条件から本気で俺が勝てるようにやらせてもらった」

そんなもっともらしくもない理由でもっともらしくにこやかに語る少年。
してやられたと開いた口が塞がらない様子の彼女を見てより笑みを深める。

「戦う前に勝負は決まっている、とはよく聞くが……お前それは……」

「そういう小細工しないと勝てないんだよ。
 だいいちだな、これに勝てとかいろいろ無理だって」

一転呆れ顔で額を押さえる彼女に向けてフォスタで見せたのはある戦闘映像。
相手は鳥獣型の輝獣の群れで、鎧を身に纏う彼女が単独で切り込んでいる。
数の差をモノともせずに逆に利用するほどの速さと鋭さを見せる戦いぶり。
空の王者のような怪物たちが彼女の高速機動に振り回され、落ちていく。
そして剣の一振りで二十、三十の輝獣が真っ二つにされていった。

「あんたの資料映像見させてもらったけど、
 こんなの相手に俺、生身で戦えっていわれても絶対いやだからな」

「そ、そうか……」

だから外骨格は使用禁止にしたんだという。それほどこのお前は強いと。
白兵戦において勝てる気のしない相手から褒められると彼女も悪い気はしない。
だが、その若干照れたような表情も次第に微妙なものにかわっていく。

「…………一応褒めてくれたのは嬉しいがな、ナカムラ」

「うん?」

「外骨格を装着している相手と生身でやりあう。
 なんて発想をすること自体がこれまた無茶苦茶だからな?」

そして他では絶対そんなことを口にするなと指摘されて思わず目が泳ぐ。

「……………ソウデスヨネー」

「まだ映像か生徒達のしか見たことないから理解してないかもしれないが……
 確か空飛ぶ戦車と生身で戦うようなものだと言えば地球人には解ると聞いたぞ?」

「ソレハナントモコワイナー」

それほどにあり得ない考え方だといわれて痛くもない頭に痛みを覚える。
世間では無茶苦茶な発想をまるで疑わずにやった前科がある身としては片言にもなる。
尤も経験があると言えば嬉々として「ならば自分も」と言われかねないからだが。
秘密うんぬんよりも相手が彼女の場合はそちらの方がかなり面倒な話であった。
また、あれは閉鎖空間だったから戦えた面が強い。さすがに空戦となれば、
いくら風の魔法があっても映像資料で見る外骨格の速さには追いつけない。
あくまで、追いつけないだけ、でもあるのだが。

「分かれば良し、しかしそうか。私が圧倒的不利だったのか、納得だ」

そんな考えなど知らない彼女はようやく教師らしいことをいえたとご満悦。
不利な条件だったことは驚いたが連敗した理由としては納得したらしい。

「さっぱりしてるな。普通怒るところだぞ、そこ」

「いやお前のやり方は色々と新鮮で面白い。
 それにそこまでして勝ちにきてくれたのは正直嬉しい。
 軍にいた頃も最後の方は誰も戦ってさえくれなかったからなぁ」

当時の不満を思い出しながらも屈託のない満面の笑みを浮かべる。
強い弱い以前に自分に勝つために手を尽くしてくる姿勢が彼女は嬉しかった。
それはとても年上の教師とは思えない少女のそれだったが眩しい表情だ。

「そうかい。だがそんなあんたに残念なお知らせだ。
 勘違いは訂正したからここで本題といこう…………フランク教諭との関係について」

「う、あ、おう……そ、そそそうだな。その話だったな」

名を出した途端に表情が一転してうろたえだす姿に昏い愉悦を覚えるが流す。

「まず一ついいか?」

「───な、なんだ?」

若干言葉に澱みながらも覚悟して問い返した瞬間。
少年の目に鋭い光が宿ったのを見た気がしたのは彼女の錯覚だろうか。

「────挨拶ぐらいはできてるんだろうな?」

「………………」

「そこで目を背けるのは何よりも雄弁に語っているぞ」

シンイチは大きく溜息を吐いてやっぱりかと小さく呟く。
二人の会話は片手で数える程度しか見たことはないシンイチだが、
そうであろうことは容易に想像できていた。ならばまずはそこからだろう。

「あんた、今から職員玄関で兄貴待ち構えてろ」

「は?」 

「ただでさえ普通科と技術科で職員室も違うし住居も違うんだろ?
 なら数少ない学園という共有の場でどれだけ接点を持てるかが重要だ。
 まずは毎日挨拶をするところから。目指せ仲の良い同僚っ、だ」

「……私は妹なんだが?」

言いたいことは彼女もわかっているのだが最後の目標が微妙におかしい。
そこは普通『目指せ以前のような兄妹関係』ではないのだろうか、と。

「まったくそう扱われていないんだ。そんなもん忘れろ」

「ええ!?」

「いいか期待はするな。
 現状からではまず徐々に関係を改善していくしかない。
 昔にようになれたらなんて夢物語は頭の片隅に追いやっておけ」

「またはっきりと言うなお前……」

示されていることは間違ってはいない。正論だとも彼女は思うが、
所々に彼女を地味に追い込む発言が挟まれているため素直に頷けない。
これでも彼としては脳内に置くことは許可しているのは破格だったのだが。

「あんただって一朝一夕でどうにかなるとは思っていないだろう?
 これは長期戦になるぞ。こういう事に一撃必殺も一刀両断もない。
 今度はお前が頑張って、コツコツとやっていくしかないんだよ。
 少なくとも俺にはそれ以外のやり方なんて思いつかない」

嫉妬と不信が積み上げられたのならそれを越える友愛を積み上げるしかない。
それも今度はフリーレから動いて兄フランクの信頼を取り戻すために。

「それでまずは挨拶か。
 ああ、確かに偶然会った時ぐらいだったしな。そこから、か」

劇的な方法はなく一発逆転もない。だからこそ当たり前を積み上げる。
何を当然と思う者もいるだろうが彼女はそれも出来ていなかったのだ。

「わかった。今度からやってみる」

それを突きつけられ、道を示された以上やるだけだと。
彼女はこれまでに比べれば少しだけ前向きな表情で頷く。
尤もその返事はシンイチから呆れた声を引き出した。

「何をいってんだお前。俺はさっき、今から、といったぞ」

「は?」

「時間は充分あるぞ。まだ7時にもなっていない。奴はまだ来てないぞ」

彼女からの要請で早朝の模擬戦が続く日々を送っていたため。
結果的にだがシンイチはあらかたの教師の出勤時間を把握してしまった。
それで考えればこれから校舎にゆっくり戻っても充分に間に合う時間である。

「い、いやまだ色々と心の準備が!」

「同僚に挨拶するのに準備もくそもあるか! とっとと行け!
 HRのあとで結果を聞くからな、出来てなかったら明日はやらないぞ!」

「なっ、お前、そんな殺生な!?」

まさかの脅しに今にも泣きだしそうな顔になるが彼は取り合わない。
そこまでしなければ彼女が動かないという確信があるからだ。
だが今のフリーレにそこまで察することのできる余裕がない。
何せこの3年ほどの教師生活でやっと見つけた相手からの戦闘拒否。
兄との関係が改善できない現状では彼女にとって戦いは唯一の娯楽で癒し。
それを奪われてしまう事と今の兄と積極的に挨拶を交わすことが天秤に乗る。
ぐらぐらと彼女の中でそれは左右どちらにも傾き、結論を出すのに三分かかった。

「…………わかった。
 こうなれば自棄だ。決死の覚悟でやってやろうじゃないか!!」

「……人に言えた義理じゃないが、そこまで覚悟決めないとだめなのかよ」

自分を奮い立たせるために無駄に燃えている彼女を尻目に一人溜息を吐く。
だが彼はまだ知らない。これを機に彼女の相談を受け続ける羽目になることを。
何せもっともらしいことをアドバイスすればするほど全て自分に返ってくる。
取引の代価が精神的に高くついてしまった事に気付くのはこの数日後の話であった。

なんかこれが今年最後の更新のようです。
読んでくださっている方々に感謝しつつみなさんよいお年を!
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