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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

ガレスト学園・試験編 プロローグ

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03-25 仮面は見た!






マスカレイド。
その仮面を被り、黒衣をまとえばその存在を認知する方法はない。
例外は被った瞬間を目撃しているか被った者が意図的に存在を見せるか。
あるいは科学的な撮影機器を使えば姿を確認することだけなら可能なのだが、
そのさいは黒いモヤのようにしか見えず状況によっては故障とさえ思われる。

そして現在のマスカレイドたるナカムラ・シンイチという少年には
カメラの位置を正確に把握するすべがある。魔力(フォトン)が使われている以上、
それを感知できてしまう彼にとって“隠し”など全く隠れていないに等しい。
むしろ誰かの写真や動画撮影に偶然撮られてしまう可能性にこそ気を使う。

逆をいえばそこさえ気を付ければ仮面をつけた彼は誰にも気付かれない。
自身を見張られていることもありそうした行動ができる時間は限られるが、
それとてヨーコが幻術を使って誤魔化すことが出来るために実質制限もない。
そこに魔力ハッキングの情報収集が加わればこの都市で調べられない事はない。



そう、やろうと思えばこの都市でのいかなる隠し事も密談も彼には筒抜けなのである。



とはいってもここから先の話はその中でも有意義でない情報を得た話ばかりだが。




──────────────────────────────────





「相変わらず苦情が多いね、彼は……もう一月経とうというのに」

真夜中、生徒会室で生徒達からの陳情や苦情の処理を続ける男は生徒会長・雨宮。
空間モニターに映る眠っている少年を観察しながら呆れたように愚痴をこぼす。
既にその件の転入生が学園に来てから一ヶ月という月日が流れようとしている。
当初ほどの数ではないが彼の一部の相手を除いての“相手にしない(気付かない)”言動や
授業放棄により教師や生徒たちからの苦情はひっきりなしに続いている。

「馴染む気がない。
 とここまで露骨に表現されるとむしろ……あっぱれ、でしたか?」

そんな彼に自然な動作でコーヒーの入ったカップを差し出す副会長・リルティナ。
ありがとうとそれを受け取りながら匂いと味を楽しみつつ雨宮は苦笑する。

「うーん、合っているような違うような……」

内心彼はこの学園でそうあれることに称賛してしまいたくなる気持ちはある。
嫌味か皮肉として、だが。何せそんな彼のせいで忙しさが増しているのだから。

「野生で独り生きると周囲がどうでもよくなるのかねぇ?」

成績が悪く、ステータスの低い生徒がここまで我を通せるのは異常だ。
一応彼がいた境遇を思えば、そうと受け取れなくもないのだが違和感はある。

「そう考えるには逆に人に慣れ過ぎているような気もしますが」

「ああ、交流のあるルオーナくんや担任の先生たちとの様子を見るとね」

人との交流法を忘れてしまったというには比較的フレンドリーであり、
それ以上にどこか少年の方が一枚上手のようなやり取りを彼らはしていた。

「本当によくわからない。無駄とわかっていても監視が解けないよこれじゃ」

部屋に隠しカメラまでつけた完全にアウトな方法をとっていても成果はない。
護衛任務の範疇で取り付けさせたのだが“彼女(アマリリス)”がいるため意味は薄い。

普通の(・・・)生徒にはそろそろやんわりと放置するように誘導しておきます」

ここでいう普通とは科の違いではない。紛れ込んでいる彼らの工作員か否かだ。

「ああ、任せた。せめてこの文句の山からは解放されたいよ」

それらを使えばいずれ教師たちもそのようになるであろうと言外に含めての進言。
疲れた顔の会長はそれに頷きつつ、テキストに目を通しながら消していく。

「手伝いましょうか?」

「いや、毎晩突き合わせているんだ。これ以上はね。君は君の仕事をしてくれ」

申し出をやんわりと断りながら目の前のモニターに集中して処理していく。
その言葉を受けて彼女もまたわかりましたと頷いて仕事に戻っていった。


『なんだこの狐と狸の化かし合いは?』


それを冷めた目で見ているのは監視されているはずの少年である。
制服を着て仕事に勤しむ彼、彼女らの中にいるとなれば違和感しかない格好で。
物陰に隠れるということさえなく堂々と部屋の中央で二人の仕事ぶりを見ていた。

自分が作った偽映像を見て監視してると思い込んでいる者達を監視する。

という珍妙な状況には笑ってしまいそうになるが生徒会内部は存外に黒い。
それぞれの陣営トップである二人はこうしてよく仕事を深夜まで共にしている。
そのため生徒の中には男女の仲を邪推している者達もいるがとんでもない。
表面的には仲の良い同僚だが距離は微妙に離れて、互いを監視してもいる。
副会長が差し出したコーヒーとて匂いを嗅ぐふりで成分分析をしていた。
魔力(フォトン)の動きが目で視える彼はそのことがすぐに分かっていた。
勿論問題が無かったから飲んだのだがシンイチはきちんと見ている。

『慣れた手つきでクスリ混ぜやがって……まあヤバイものじゃなかったが』

さすがに問題のある薬品ならば止めなくてはと少しばかり調べたが、
無味無臭で機械検査に引っかからないだけで中身はただの栄養剤。
それだけなら気遣っての行動ととれなくもないが何故黙ってやっているのか。
そもそもどうしてそんな薬を持ち歩いているのかを考えると恐ろしい話である。
これで馬車馬の如く働け。とか。いずれ入れる本命までの実験。とか。
一応善意である可能性を消してはいないが彼の考えは悪意に寄っていた。

『………まあ頑張ってくれ、俺は知らん』

じつのところ。
自分に対して疑ってはいるがいくらか勘違いしている生徒会への興味は薄い。
はっきりいって何のために何をしているかが解っていてその対策もある。
その時点で生徒会はもう彼にとっては脅威にも邪魔にもなっていなかった。
それは彼らが両世界の政府から差し向けられたエージェントだと知っても変わらない。
監視体制を逆に使い言動が変なだけの生徒と認識させアリバイ作りに利用する。
そして警備情報を手に入れる都合のいい機関。それが彼にとっての生徒会なのだった。




──────────────────────────────────



魔力ハッキングという足がつかないお手軽な情報収集手段を手にした彼は
元々は後回しにするつもりだった生徒たちへの調査も並行して行っていた。
とはいっても一人ずつ細かく調べるのはさすがにこの手法でも手間がかかる。
そのため際立った生徒と経歴に違和感を覚えた生徒だけを重点的に調べた。
大半が生徒会が紛れ込ませた偽の生徒か各国の調査員であったりしたのだが
正体がよくわからず且つ表向きの経歴に不自然さがある生徒がいた。

「────ふっ!」

男子寮の特別科棟の最上階には一室しかない。
シンイチらが利用する普通科とは別棟にあるそれは男子生徒トップの証。
その主である彼は広すぎる空間を持て余しているのか部屋の生活感は薄い。
尤も貴族か資産家でもない限り独りで1フロアを使い潰すのは難しい話だが。

「989、990っ、991───」

その一角にある広大なルーフバルコニーにて。
この階層の主たる少年は一心不乱に長大で重厚な大剣を振っていた。
名をシングウジ・リョウ。学園男子生徒トップにある能力と成績を持つ少年。
シンイチが来るまで傲岸不遜という言葉を欲しいままにしていた男子生徒である。

「───999、1000!」

しかしここではその自信過剰で自己アピールの強さも短気さも見られない。
汗水を流してフォトンによって重量を加重されている大剣を振るっていた。
その動きには実は無駄が多いのだが強引な力で覚束なさは感じさせない。

『思ったより真面目な………けど合ってない気がするんだがな、その鍛錬』

それをバルコニーに置かれたウッドチェアに腰掛けて眺めているのは仮面。
転入初日に見た模擬戦でも感じていたがどうも彼は力尽く過ぎる面がある。
折角地球人としては珍しい全体的に高いステータスもそれでは宝の持ち腐れだ。
それでも彼がこの地位にあるのは文字通り力技といわざるを得ない。


------------------------------------------------

名:シングウジ・リョウ 性別:男

地球年齢:16歳

身長:172センチ 体重:55キロ

筋力:AAA(限界値)

体力:AA

精神:A+

魔力:C

耐久:AAA+(限界値)

敏捷:A

技量:E+

------------------------------------------------


ガレスト式とファランディア式の合同でステータスを見ればこのランク。
筋力と耐久に能力が偏っているがそれでも全体的に見れば高い。
魔力と技量のランクが低いのは本人がそれを知らない以上当然の話。
力を引き出している割合はおおよそ5%前後といったところであろう。

『惜しいな。きちんと体の動かし方を学べばすぐに化けて使い物になるだろうに』

本人もそして周囲も能力がありすぎてその下手さに気付いていないのである。

『大剣よりむしろ乱戦なら大槌、対人戦なら二刀流の方が………って、おい』

知らず“どうすれば彼を強くできるか”で観察していた自分に呆れる。
今回男子寮をわざわざ外壁から昇ってここに来たのはそのためではない。
彼が何者なのかを調べに来たのだ。4年以上前の経歴が不鮮明なこの男の。

シングウジ・リョウという男は4年前に次元漂流でガレストに流れ着いた少年だ。
既に異世界は地球で認知されガレストも保護制度が充実しており問題は無かった。
しかしその際に高いステータスが発覚し彼は現地に留まって実地で学ぶのを希望する。
そのためか学園の生徒で限れば対輝獣戦闘では最もこの男に経験値がある。
技量ランクのプラス分はおそらくそのためだろうと思われる。
とはいえそれは法的にはかなり違法すれすれの行為であった。
未成年の漂流者を本人の意志と能力ゆえとはいえ帰還させなかったのだから。
尤もそれは輝獣の大発生という非常時に対して街を守るための行動が始まりだ。
彼が有名人だと自称したのはこの一件で少なからず両世界で名が売れていたから。
そして軍は初動の遅れに対する批判を誤魔化すために彼を英雄として扱った。
彼が2年の間ガレストにとどまっていられたのはその恩恵であった。
しかし学園に入れる歳になると突如帰国し入学。現在に至っている。

そこまでは疑う所なく解っているのだがその前がよく解らない。
母子家庭で育っていたが9年前にその母を亡くした天涯孤独の身。
されど父親に関する情報はなく、他の親戚についての情報も皆無。
生まれ育ちの情報もあるにはあるが簡単なものだけで詳細なものがない。

これが魔力ハッキングの限界ともいうべきか。
今のフォトンで構成されたネットワークが作られる以前の情報が調べにくい。
公の情報は完全に移行していっているのでそのまま見れることが多いのだが、
シングウジ・リョウに関していえばそれ以前から微妙に濁されていたのだ。
真実がデータ上に最初から存在しなければこの方法では調べようがない。

『なんだかな、この微妙に経歴を隠されている感じ……』

本人ではなく誰かが勝手にやったようなものを感じる既視感。
彼自身に何かがある。それは間違いないとシンイチは確信している。
ただそれとは別に、ここに来て別の違和感を覚えて渋面となっていた。

「うっ、くっ、はぁはぁはぁ……まだ、まだっ!」

尋常じゃない重さとなっている大剣を千回も素振りしてもなお折れない意志。
まだなのだとムチ打つように再び振り上げるがその重さに今度は脚がふらつく。

『こいつ何で(・・)そこまで頑張ってるんだ?』

人目がない所でやっているのは努力を見られるのが嫌なタイプなだけだろう。
しかしだからといって全身に汗をかいて肩で息をしながら続ける意味が分からない。
明らかにステータス維持を越えたさらなる先を目指している者の姿勢である。
無茶な鍛練はかえって肉体を酷使するだけで百害あって一利なしだ。
ここで教育を受けている者にそんなことが解らないわけがない。
ましてやこの学園においてもう目指す上などないはずだ。

「うっ、おっ、っくそっ……こんなんじゃ、ダメだ」

ついに大剣の重さに耐えられず手元から落としてしまう。
瞬間加重されていた重さも消えたため軽い音を立ててそれは転がった。
再度持ち直そうとするが肉体の方がもう悲鳴をあげており動かない。

「くそっ、なんだ。何が足りないんだ! こんなんじゃあいつに全然届かないっ!」

『……………』

彼は悔しがる声をいくつも零しながら震える足を叱咤して強引に立ち続ける。
無言でそれを眺めるシンイチは困ったように頬をかくとおもむろに立ち上がった

『………とりあえず今日はもう寝ろ』

「え、っ!?」

それを攻撃と受け取ったのか。
誰かの声を聴いたと思った瞬間リョウの意識は闇に沈んだ。
背後からの手刀で意識を刈り取ったシンイチは苦笑いを浮かべている。

『無茶して頑張ってる奴見ると手を出したくなるんだよなぁ……』

相変わらずいらんお節介だな、と。
自嘲するとリョウを片手で掴むと部屋のベッドに放り投げた。
そしてそんな理由だけでシンイチはそこから先の興味を失った。
元よりどうしても手に入れたい情報というわけでもない。
ここにいるのはただ誰かに勝ちたい、強くなりたい少年。
ならそれ以上を意味なく探るのは野暮な話だ。
シンイチはそのまま黙って自室へと戻っていく。



───だがここではもうお前の望む強さは手に入らない。


   そう気付いた時、お前は果たしてどうする?




──────────────────────────────────






シンイチがそこでの話を堂々と隠れ聞いていたのは密談の気配を感じたからだった。
なにせガレスト学園の学園長たる中年男性と海上都市クトリアの市長の会談である。
それも非公式なもので都市内の会員制のバーに互いにプライベートで入って、だ。
二人は合流すると挨拶もそこそこにグラスを傾けて、次々とアルコールを煽っていく。

『ん?』

何か違和感を彼が覚えた時にはもう遅かった。
ハイペースで飲み始めた彼らは1時間もしないうちに出来上がってしまう。

「ぐすっ、そんなことワシにいわれたって困るんだ!」

「そうだっそうだっ! 好き勝手いいやがって!!」

そしてそうなれば始まるのは酔っ払い同士の愚痴の言い合いだ。
これはもしやと半ば以上シンイチは察しがついたが他に用事もない。
いいかげんな心持ちで壁によりかかって一応愚痴に耳を傾ける。
この場合万が一もないだろうが不満から見えてくるものもある。

「一人の生徒の態度なんて学園長の仕事じゃないでしょうよ!
 それなのにまだひと月で退学だなんだのって、最近の若いのは気が短い!」

「ええ、こっちもまだ先月末の爆弾事件でネチネチ言われて!
 なんだよ、ワタシはこれまでたくさん頑張ったじゃないか!」

『……………』

思わず背を正してきちんと耳を傾けるシンイチ。理由はいわずもがなである。

「そうですっ!
 市長さんのアイディアと頑張りが今日まで平穏を守ってきたんです!」

「うううっ!
 ありがとう学園長! そういってくださるのはあなただけです!」

だいの大人。それも共に中年男性が本気で涙を流しながら慰め合っている。
普通ならば目を背けるか、あるいは呆れる光景だがシンイチはできなかった。

「だいたい政府も無茶なんですよ。
 こんな注目浴びる場所で保護するなんて、無理に決まってる!」

「そうだ! あっちこっちで文句ばっか。そんなにいうなら予算ぐらいよこせ!!
 まだ爆破被害の修復費は議会で予算通ってないんだからなちきしょう!!」

ふたりの話は酔っ払いゆえにまるで噛み合ってはいないものの、
誰にも知られずに聞いている者にとってはあまりに噛み合った話であった。

「…………おふたりとも、飲み過ぎでは?」

「おおっ、許してくれよマスター……」

「ここ以外じゃ酒も飲ませてもらえないんだ、ぐすっ」

やんわりとバーの店主が窘めるが涙声でそういわれると言葉は続かない。
それからも彼らは誰かにとって身に覚えのあることを愚痴っていった。



『…………ああ、うん、その……なんかごめん』



後日。
匿名で市長と学園長のもとに体に優しい胃薬が届けられたそうな。


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