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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

ガレスト学園・試験編 プロローグ

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03-24 アマリリスの報告

私の書くこの作品の中でアマリリスは花ではなく狐の代名詞みたいになっております。ご注意ください。とかいっておいてすぐに花出てくるんですけどね(笑)

ちなみに新編突入なのに数字が続いているのは03は転入してからの約一か月間の時間軸となっているため。
04は転入一か月後から二か月後までの予定で、05は二か月後からの話を予定しております。


─────アマリリスの花言葉を知っているだろうか?


     おしゃべり、誇り、内気、すばらしく美しい



          そして、虚栄である─────











GW直前という時期外れな転入生を迎え入れたガレスト学園。
その人気が消えた深夜。校舎の一室で暗がりのなか複数人の気配と息遣いがあった。
会議室のような部屋でモニターの前に立つ少女が感情の無い声で何かを報告している。
唯一の光源ともいえるそこには件の転入生の学園での様子が映し出されていた。

「────今日までの目標との接触における詳細は以上です」

そう締めくくって報告を終えた少女。その中身に溜息が室内を包みこむ。

「……結局、半月を過ぎた程度では何もわからないということか」

その中でモニターとは反対の位置に置かれた机に向かう男が総論を口にする。
席の位置を見ればどうやらこの場における立場が一番高い者のようであった。

「申し訳ありません」

即座に少女はそう言葉を発するが抑揚のない声での簡潔すぎる謝罪だ。
かえって相手の感情を逆なでしそうなものだが彼にそういう意図は無かった。

「いや、責めているわけではない。君はよくやってくれているよ。
 他に比べれば友好的な関係を築けただけで今は成功してるといってもいい」

そういって少女の成果を褒めつつ男は視線だけを他に向けて彼らを縮こまらせた。
彼らは件の転入生に対してアプローチするも何も成果があげられなかった面々だ。

ある者は幾人もの様々なタイプの男女を接近させて親密にさせようとしたが、
最低限の応答をするだけで彼は周囲に対して余計に壁を作って逆効果となった。
男子数を調整(・・)してまで隠しカメラだらけの一人部屋にしたというのに、
彼は部屋でたまに独り言をいうぐらいでこれという情報を手に入れられない。
実力を測ろうと事故を装って窮地に追い込もうと画策するも直前に逃げられる。
入ったばかりの無知に近い転入生ゆえに勝手に揉め事が起こるのだが、
彼はそれをするりとかわして暴力には連れているアマリリスが対応した。
引き離そうと画策した者もいたが“彼女”が対象から離れることはなかった。

「現状、分かったことといえば。
 彼が人との関わりを積極的に(・・・・)絶とうとしていること。
 授業はガレスト関連に出席するだけで事実上ボイコット。
 通常授業は真面目に受けているようだが理解はあまりよくない。
 こちらが仕掛けた事に対しては運がいいのが危機察知能力が高いのか。
 引っかからずよしんばかかっても常にアマリリスが対応してしまう。
 彼自身の何らかの対応を見る機会がこれではゼロに等しい。
 そしてアマリリスの高い能力の前に立ち向かえる生徒や教師は皆無、か」

そのうえ少なからず交友のある人物は担任・副担任である教師と
特別科トップの3人に一部の風紀委員という手を出しづらいメンツ。
巻き込むにはあまりにも学園内において難しい立場にあった。

「見ていてあのアマリリスが対象にひどく懐いているのは間違いありません。
 またその能力を考えるに物理的な手段で引き離すのも容易ではないでしょう」

すでにスキル・アナライズにより問題のアマリリスのステータスは露見している。
アナライズは人だけに使えるスキルではない。すべての生物に対応している。
結果アマリリスのそれを見た調査員たちや興味本位で見た生徒たちが
そのランクの高さに卒倒しかけたのは笑い話ではない。



----------------------------------------

学名:アマリリス・フォックス 性別:メス

全長:45cm 体長:30cm 体重:5kg

推定年齢:300歳から399歳

筋力:AA+

体力:AAA

精神:A+

耐久:AA

敏捷:AAA+


----------------------------------------



特別科を除けば生徒の大半がCかBだけであることを考えれば破格。
もしヒトであったのなら特別科に文句なしで入れるほどの高ステータス。
人間が踏み入れられないほど未開の奥地に生息する野生の個体並のレベルだ。
彼自身がそういう場所で出会ってそれからずっと一緒だと証言しているので
ある意味整合性はとれていると言えるが証言以外に証拠がないので判断は難しい。

「やはり、これほどのアマリリスが嬉々として従っているのは、
 対象にそれ以上のナニカがあるからではないでしょうか?」

あちらの野生生物を人に従わさせるには生まれた時から仕込むしかない。
あるいは危険だが実力を見せつけて屈服させるかの二択しかないのだ。
尤も。どちらもリスクが高すぎるために実現したケースのない机上の理論だが。
そしてアマリリスは尻尾の数で年齢が大雑把にだが一目で把握できる生物であり、
100歳ごとに尻尾が一本増えていくことを考えれば前者の方法はありえない。
だからこそ屈服させたのではないかという意見が出るのはある種当然だった。

「いや、他の生物ならともかく。
 アマリリスは人語を理解できるほどの高度な知能を持つ。
 訓練すれば彼ら自身が喋れるようになる、とまでいわれているほどだ。
 彼らを見る限り順当な交友のもと関係を築いていったと考えた方が妥当だよ」

「…………それでも、彼は何か重大な事実を隠していると?」

自身の推測をトップに否定されて気落ちする誰かと代わるように少女が口にする。
彼は特殊な次元漂流をしたため両世界の各種機関・組織から程度の差はあれど
その身柄を監視されている立場にあり、ここに集まった面々は日本政府から
彼の護衛を命じられているのだが、別の命令もあった。

「かもしれないから調査しているのだよ。
 現在はその下地を作るのに精いっぱいだけどね」

対象の帰還直後から彼の周囲では不可思議なことが起こった。
それを解明するための監視調査命令に当初彼らも馬鹿なと耳を疑った。
しかしそれらの報告書を見て、納得する不可思議さだったのだ。

外での護衛監視任務についていたプロが何度も見失う。
そればかりか次に見つけた時には予想外の場所にいる神出鬼没さ。
偶然巻き込まれた事件の不可解で早期な解決。
彼の身柄を狙っていた非合法な裏組織の突然の壊滅。
監視を率先して行っていた対策室管理官の不自然な方針転換。などなど。
一つだけならたいした問題ではない話もここまで集中すれば不可思議だ。
だから彼らには護衛だけでなく調査・監視という命令も出されたのだ。

「……………」

「不服かね?」

だがここまでの結果から分かったのは彼がいってしまえば単なる人見知りで
連れているアマリリスがすさまじく高い能力を持っているということだけである。
彼自身のステータスは間違いなく(・・・・・)オールDであり関わっていたとは思えない。
少女の顔には果たして彼は何かを隠しているのかと疑問視する意思がありありと出ていた。

「私としてはあのアマリリスが何かしたと考えた方が現実的かと思います」

対象に対する危険に対して誰よりも敏感に反応する“彼女”が常に守っていた。
害を与えようとする存在を陰日向で退治していた。能力的にも充分納得できる話。
その意見に他の面々も言葉には出さないが同じことを思っていた。

「ふむ、確かに。一番身近で接している君の意見だ。
 参考にはしよう……しかし私は彼の妙な勘の鋭さとアレが気になるんだよ」

そういって自身のフォスタを操作するとモニター映像が切り替わる。
映されたのは中心部のみが撃ち抜かれた的とその後ろの小さな穴が開いた壁。
低ランクなうえに初めて使用したスキルの結果にしては高すぎる貫通力。
いくつもの実験をしたがこの学園の誰もがこれと同じことが出来なかった。

「少なくともこの方法について知らなければ、
 私たちは彼の監視体制を緩めるわけにはいかない」

「フランク教諭の追跡調査の結果は?」

「理論上では一発に五発分以上のフォトンエネルギーを込めれば可能らしいですが」

「しかしそんな実験は我らもしている。
 第一それなら精神Bクラス以上なら誰しもが同じ結果になるはずだろう!」

「俺に当たるな! 彼の報告をそのままいっただけだ!」

ところが誰一人として的を破壊し壁を焦がす程度で似た結果すら出せない。
理論では解決できないナニカを対象であるあの転入生は握っている。
少なくともこの場のトップである男はそう考えているのだ。

「精神Dでは精神C以上の者よりエネルギーを引き出せない。
 にも関わらず低級スキルではあり得ないエネルギーを引き出し、
 尚且つ他の者とまったく違う結果を、彼の様子を見れば、無意識に出した」

これでナニカあると疑うなというのが無理があった。
しかも彼は授業放棄する前に授業でスキルを使ったさい、
他の生徒と同程度の結果しか出さない普通のスキルを使っていた。

「何かのトリックがあるはずだ。特殊なフォトンエネルギーの引き出し方か。
 あるいは特殊な次元漂流をしたことで体質の変化が起きた可能性もある。
 もっと単純にステータスの隠蔽や改竄ができる可能性も否めない。
 なんにせよ、この時の彼の態度を考えれば意図的ではなかったはずだ。
 少なくともフォトンの扱いに関して彼は何かを知っている」

それを知ることができれば、とトップの男は真剣に語っている。
技術も高く、軍事力においては比べるまでもないガレストと日本。
その力関係は考えるまでもなくガレスト側が優位なものである。
尤も。日本政府もそれを分かったうえで一番手に名乗り出たのだが。

「今はまだ最初に決断したことで他国からはリードしている。
 ガレスト世界での日本のイメージ戦略もうまくはいっている。
 その間になんとしても技術の解析や交渉時のカードを手にしなければ!」

政府の思惑は単純に説明すればそういうことだった。
自国の軍事力を持たず国民性的に受け入れやすいのを利用して、
異世界ガレストと最も親しい関係を早期に築き上げようとしたのである。
それによって起こるであろう数多のデメリットにあえて目を瞑ってでも。
しかしそれでも相手の優位性をいくらかは削りたいのも本音である
ここに揃った面々はその情報を集める極秘の任務も帯びていた。
その真剣な表情か。熱意ある声にか。頷くように少女は軽く息を吐く。

「…………わかりました。
 では今後も変わらずに対象との関係を維持していこうと思います」

「それで頼む」

「ですが性急に事を進めようとすれば失敗する目算が高いので長期戦になりますが?」

「急ぎたいが仕方ないだろう。君の何が良かったのか判断はつかないが、
 君以外では彼と友好関係を築くことすら難しいようだ。
 ふふ、もしかしたら彼はキツネ好きなのかもしれないな」

くすりと冗談をいい周囲も笑みをこぼすが当人たる少女はぴくりともしない。

「……ではそのように。失礼します」

内心でどう思っているのか表に出さないまま少女は退室する。
他に議題も無いこともあってそれを切っ掛けに定例報告会は解散となった。



『……どういうことだ?』



その小さな呟きは喧騒に紛れてなのか誰の耳にも入らなかったのだろう。




────────────────────────────────────






定例報告会から退室した彼女は誰にも気づかれぬように大きく移動する。
職業柄(・・・)よく知っている人目がなく監視カメラにさえ映らない場所へと。
校舎という生徒を預かる場なためかどこもかしこもカメラだらけにはできない。
また地球人向けに内装デザインも気を使ったため見た目と防犯の妥協点の結果、
あまり知られてはいないがそんな死角がいくつか生まれていたのだ。
そこに入り込むと彼女は壁によりかかり小柄な体を休ませるように息を吐く。
疲れた、と小さくこぼしながら“最後の冗談はない”と内心で斬り捨てて。

「…………」

だが仕事はまだあると再度息を吐いて気持ちを切り替えるとフォスタに触れた。
ディスプレイの中だけにモニターが開いたことで定例報告会の報告会が始まる。

『お疲れさま。“会長たち”の会議はどうなったのかしら?』

「現状維持です。こちらにも都合がいいことなので了承しましたがそちらの考えは?」

映ったオレンジ色の髪の淑女リルティナ・バーグマン。
生徒会副会長であり平時は先程の報告会で中心だった生徒会長・雨宮要の片腕。
だと他の生徒たちに思われているが実際は立場的に彼と大差がない。
つまりは───

『変わらないわ。相変わらず出来る範囲で彼の謎を解くように要請されてる。
 外にいたのならもっと強引な手を使えたかもだけど、ここでは難しいわね。
 まだ政治的にも微妙な立ち位置の都市(ここ)で騒動を起こすなというのが大前提だもの』

───彼女もまた政府からの密命を帯びた者である。
生徒会は表向き学園OB・OGによる生徒の扶助及び管理団体であり、
学園運営部や都市の自治組織と学園生徒の間に入っている組織である。
だが実際は日本人は日本政府の、ガレスト人はガレスト政府のエージェントだ。
いつからそうなのか。どちらが先だったのかはこの8年の話だがもう分からない。

「……ガレスト側も彼にはまだ何かあると?」

『そうじゃないわ。優先順位はわりと低い命令よ。
 どうせ正規の学習をしてないから妙な癖がついてるだけでしょ。
 たまにいるのよね、それで常識外の結果を出す子って。それだけの話よ。
 けど、どっちにしろ護衛は必要だからついでにやってくれってことなのよ』

特殊な時間差を持った次元漂流をしたことは間違いない以上、
それを非合法な組織や研究者にだけは決して渡すわけにはいかない。
自衛できるステータスなら必要ないが彼の場合は必要だと考えられていた。

「では引き続き、彼の監視護衛の任務とあちらへの諜報活動を続けます」

そう語る彼女に頷いた少女はガレスト側から日本側に入り込まれたスパイ。

『ええ頑張ってねルオーナさん(・・・・・・)
 身寄りもなく行き倒れていたのを助けた恩はきっちり返してもらうわ』

「はい、もちろんです。リルティナさま」

笑みを見せる少女のその返答に満足気に頷いて彼女は通信を切った。
同時に少女の顔に浮かんでいた笑みは跡形もなく消えてまた溜め息。
頭部にある“狐耳”はペタンと倒れて力も覇気も感じられない。

「……どっちも三文芝居に引っかかって馬鹿みたい」

インカム型の翻訳機を一定のリズムで叩きながら冷めた声でひとりごちる。
“その”設定でどちらにも取り入ったその顔が少女の、いや彼女の本性。

「クリムゾンから定時報告。日本もガレストも件の少年については現状維持」

途端に翻訳機はその役目を放棄し特殊なコードを積んだ通信機となる。
そこへ呟くような小さな声で彼女─ミューヒ・ルオーナはひとりで語る。

「対象との接触による新規情報は……とくに無し、任務を継続する」

一方的な通信を簡潔に終えて先程とは逆のリズムで翻訳機を叩く。
途端に本来の翻訳機に戻ったのを確認して、どうしてかまた溜め息を吐く。

「はぁ………なんでかなぁ?」

誰にたいしての何の問いかけなのか。
本人が一番困っているように首を傾げてフォスタに触れる。

「色々と変だと思う所いっぱいなのにね」

ディスプレイに映った少年の画像に向けて思わずそうこぼす。
彼に接していて、変だ、おかしい、謎だ、と感じる点は多々ある。
それら疑惑すらも彼女は本来報告すべきなのだが、していない。
生徒会の両面はもちろんのこと自分が本来所属している『無銘』にでさえ。
理由付けは簡単だ。所感な点が多すぎて確証に至ったものが何もないからだと。

「とはいえさすがにこの写真の数々は報告しないと不味いのにねぇ?」

まるで画像の中の彼に問いかけるように語るが当然返事などはない。
ディスプレイの画像では“相変わらず”彼は笑顔でVサインをしている。

「………これ全部隠し撮りなんだけどなぁ」

どうして気付かれているのか。
完全なカメラ目線でしか撮れなかった彼女はいくつもの方法を試した。
超望遠カメラによる500メートルを超えての撮影や囮のカメラの設置。
あえて近づいての隠し撮りに、両手が塞がっている場面を狙いもした。
しかしどれも結果的に失敗し彼はこう映って笑っている。彼女に向けて。
それを彼女自身は果たしてどう受け取ったのか。からかいか嘲笑か挑発か。
何にしろ生徒会の両面や組織への報告の資料としての撮影の域を超えて、
たった半月という期間ではあり得ない枚数のVサインの笑顔を撮っていた。
その数おおよそ5000枚。

「なんか調子狂うのよね、この子」

あとからその枚数の異常さに気付いた時は純粋に恥ずかしかった。
初対面の時からこの少年の態度や独特の言動は彼女のキャラ設定を崩す。
破天荒でマイペース。次に何をしでかすか解らない自由人なボクっ娘。
それがこの学園でのミューヒ・ルオーナであったというのに。
原因を彼女は薄らとだが理解している。出会ったあの瞬間のせい。


キャラ付けに則って、悪戯しようと背後から近づいたあの瞬間。
気配を完全に殺して物音をたてずに背後に迫ったはずが振り返られた。
その瞬間自分を見た瞳に彼女はまったく身動きがとれなくなった。
別に彼は鋭く睨んでいたわけでも呆れて笑っていたわけでもない。
不思議そうな視線のその奥で、瞳に宿る想いがどこか悲しげに見えただけ。
まるで、そうまるで。


───迷子の子供が今にも泣き出してしまいそうな目


だと。
一瞬手痛い惨敗の記憶がフラッシュバックして思考が停止した。
そう、彼女はあの瞬間自分を下した黒いモヤと目の前の少年を同一視した。
何を馬鹿なと即座にその考えを打ち消して、いつものキャラで接していた。
思考の再起動には彼女からすればかなり時間がかかってしまったが。

しかしながら結果的に彼女の動揺はそれからずっと変な形で続いた。
意識が定まらず愛称をコロコロと変えて、肩まで揉もうとする始末。
拒否を示すように掴まれた腕力のあり得ない強さに余計に動揺は広がった。
Dランクではあり得ない力にキャラは続けられたが内心の焦りは強い。
無駄に呼び方の話などしながら彼女は平静を取り戻そうとして──


『じゃあ………ヒナ』


──そんなそれぞれの語尾から一字とっただけの愛称に力が抜けた。
考えてみれば彼女が誰かに変な愛称をつけることはあっても逆は無い。
そんな何でもない事実と名前をくれたという事実がどうしてか嬉しく思えた。
元々自分の名が好きでなかったのもあるがその愛称に暖かみを覚えたからだ。

『いやなら他にも考える』

そういって自分を見るその瞳は相変わらず迷子のそれであったが、
目を引きやすい耳や尾に一切視線がぶれずに瞳を覗かれて首を振っていた。
地球においてもガレストにおいても獣の耳や尾を持つ所謂獣人は少ない。
そのため彼のように気にもしていない視線を受けたのは初めてだった。
だからこそ初対面ながら彼女はその少年に好感を持ったのだが。


「そこからがわりとひどかったけどね」

ふふふ、と思い出すように笑う。
その後の案内で見せた少年の言動は彼女の想像を超えていた。ナナメに。
フリーレ教諭が発する威圧感をまるで感じず、クラスでは自由に振る舞う。
休み時間において成績上位グループに目をつけられてもマイペース。
そのうえ助けに入ったつもりの彼女を投げ飛ばすという暴挙を受けた。
授業ではパデュエールのお嬢様を手玉にとり、あり得ない結果(スキル)を出す。
これはさすがに彼女も無銘へとしっかりと報告している。
生徒会が認知しているためせざるを得なかったともいうが。

そして普通の食事を前にした途端大興奮して子供みたいにはしゃいでいた。
年齢だけを考えれば子供で当然だが彼女にはそれがアンバランスにも見えた。
そしてあの風紀委員姉弟とは遺恨を感じる関係性だったらしく、
予想外の再会をしてこれまでが嘘のようにひどく落ち込んでいた。
自分がつけたキャラ付けより次が読めない、とおかしかった。

「子供なんだか大人なんだか……」

その姉弟との関係も少年が持っている謎といえば謎だ。
いくら双方の経歴を調べても彼女はその接点を見つけられなかった。
まるで誰かがナニカあるのを隠そうとしている意志を感じてしまうほどに。
直接尋ねれば本人か姉弟のどちらかから答えを聞けるかもしれないが
表面的には良い関係を築けている以上、今はまだ踏み込むべきではない。

そしてその次に起こった出来事をなぜ自分は秘密にしているのか。
彼女自身がそれを一番謎に思っており、少年の最も注意すべき点だった。

あの一連の出来事は彼に見抜かれた通り、あらかじめ用意されていた罠。
緊急事態に対しての反応と対応力をみたいがために技術科職員室に連れて行く。
予定では扉を開けて飛びかかってきたドローンに彼女は気絶させられるシナリオ。
彼らだけとなったことで自由に対処してもらうはずが気付けば少年の腕の中。
見れば壁には罅が入っており瞬間仕掛け担当の科学者(マッド)に彼女は殺意が沸いた。
内心憤りながら人の耳で敏感にそれを察知して引き寄せた少年の対応には感心した。
襟を引っ張りながら首が締まらない角度と力加減で引き寄せしっかりと抱きとめる。
“うまい”なんてものではなかった。もはや“慣れている”動作。

『次やったら俺がお前の頭を殴る』

そして演技としてお礼をいいかけたらそんな釘を刺されて愕然とする。
遠回しにお前も関わっているのだと確信をもって言われてしまう。
どう言い繕うべきか彼女が悩んでいる間に事態は進み、二体目が現れた。
これについて知らされていなかった彼女は彼の対応に息を呑む。

修理中のブレードで城田(マッド)お手製のドローンが真っ二つ。
動揺も困惑も見せずに反射的に近い動作で当たり前のように見せた行動。
間違いなく慣れている。この程度の奇襲や突発的な襲撃は何度も経験している。
それを窺わせる動きと冷静さ。戦いを知らない子供じゃない。

自分の中の警戒心が跳ね上がったのを彼女は感じていた。
ステータスがDランクなことが悪い意味で気にならない感覚。
動物的な本能ともいえるものが“こいつは強敵だ”と訴える。
さらにいうならこの時点では彼が黒モヤの正体とさえ疑った。
この日の夜に監視カメラによってアリバイが証明されるまでだったが。


城田(マッド)という科学者が心底気に入らなかった様子の少年に、
警戒心から機嫌を損ねないように話しかければ彼女は逆に心配や気遣いをされた。
どうしてだと困惑してしまう。彼は気付いていたはずだ。自分達の所業を。
それで多少なりとも怒っていたのに忘れたと嘯かれ、余計に彼女は戸惑った。
何せたったそれだけのことで頭の中で鳴っていた警鐘が止んだのだから。
だからつい(・・)口が滑って城田の機密情報をリークしてしまった。
密着してサービスをしたのもそういうことだと彼女は誰かに言い訳している。
これが迷惑料とお礼だと考えれば破格なのだと虚勢を張って。しかし。

「……………ない、わけじゃ、ないわよ」

それに対する反応が無かったことは地味にプライドが傷ついたが。
思い返しながら制服越しの胸元を見下ろすがそこには山も丘も無い。
色仕掛けなどは元より得意ではなく、やりたいと思ったこともない。
そも色仕掛けでもなかったのだが反応がないのは女として敗北感があった。

枯れているのではないかとある種失礼なことを考えた彼女だが、
少年の持つには不相応な高すぎる目線に気付いて、納得してもいた。
15歳相応な面も確かにあるが彼の根幹はそちら寄りである、とも。
それが歪でアンバランスに見えたからだろう。指摘して暗に注意した。

「なんでかなぁ……」

それも考えればおかしな話である。
なぜ調査対象に対してそんな肩入れしてしまったのかが解らない。
そのステータスにあるまじき戦闘力と経験豊富さを報告しないのも解らない。
報告会で暗に調査が不要だというような趣旨の発言をしたことも解らない。
けれど現状維持を命令されてホッとしている自分が余計に解らない。

「あなたならわかるのかしら、この理由」

ディスプレイに映る少年の顔を指が知らずうちに撫でていた。
それは彼女が撮ったものではない。食堂の監視カメラ映像から抜き取ったもの。
いくつかを並べて頬が緩む。本当に美味しそうに、幸せそうに食べている。
見てるだけで笑みがこぼれる無邪気で無防備な姿だった。
一緒に食べてみたいと思うが、彼女の仕事は他にもある。
護衛監視役の中心人物ではあるが四六時中は無理だった。

せめて、学年とクラスをどうにか一緒にできなかったのか。
きちんと仕事させたいなら環境作りをしっかりしてほしいと内心愚痴る。
もう夜もだいぶ更けてきていた。朝までに戻らないとルームメイトが怪しむ。
そこでふと彼はしっかり寝ているのだろうかと妙に気になった。
すぐに部屋のカメラ映像を開けば、暗い室内でベッドに眠る姿がある。

「誰のせいで遅くまで起きてると思ってるのかしら?
 ……ふふ、なーんてね。また明日、おやすみイッチー」

自然と“ヒナの声”で画面の少年に呼びかけて彼女は足早に女子寮に戻る。
その足取りはどこか楽しげで、腰元にある尻尾は嬉しそうに揺れていた。
そうして誰もいなくなり夜の校舎はよりいっそう静かになった。



『どんな認識を受けているかを調べるつもりが、
 なにか、見てはいけないものを見てしまったような……ははっ』



そんな苦笑気味の声がいくら響いたとしても、そこは“静か”だ。
何せその声を聴くことができるのが発している本人だけなのだから。
黒衣を身に纏った白い仮面が彼女が寄りかかっていた壁の前に立っていた。

『しかし間諜の類だとは思っていたが……三重とは恐れ入る』

おかしなテンションの裏にあった鋭い視線と隠し撮り。
そして生徒会に彼女の懸念や知った情報が流れていないこと。
あとはその種類の人間が持つ独特の雰囲気とでもいうものを感じ取り、
外からの間者ではないかと疑っていたがさすがにその立場は純粋に驚いた。
逆に彼女の態度に演技が入っていたことは解っていたので驚きはない。

『それにしても………歳の割には存外乙女だな……』

先程まで自分の写真に向けていた視線や態度を思い返して笑みがこぼれる。
気恥ずかしい想いもあるがそれ以上にからかいたくてしょうがなかった。
彼としてはこれでもかなり頑張って我慢していたのである。

『はぁ……さてはて、俺の何が良かったのやら』

呆れるように溜め息を吐いて視線を動かす。
明日を待ちわびるように歩いて行った背中を追うように。
そこにはもう狐耳の少女はいないがそれでも彼は彼女に語りかけた。

『おやすみヒナ。また明日……』

届かない夜の挨拶をして、転移の魔法で自室へと戻るのだった。





───ああ、でも一言だけいいたかった





   ヒナ、お前のそれは任務なんだろうが、





   一歩間違うとストーカーだぞ?───


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