挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

転章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

52/184

03-22 生徒に向かない生徒

一応「壊された日常」で語られたケースの序盤の話。
こういうのが繰り返されたと思ってくれ。


「失礼します」

短い休み時間を利用して何度も職員室に通うシンイチだがその顔は暗い。
転入して一週間未満で既に職員室の常連になっているほど彼は通っている。
五教科関連の授業で理解できなかった点を聞きまわっているのだ。
教師陣に嫌がられるかと思いきや嬉しそうに答えてくれるのが幸いだ。
おそらくそんな熱心な生徒が珍しくもあり嬉しいのだろう。
教師の中にある担当授業ごとの溝も遠因ではあるのだが。

「キュイ」

お疲れさまですとねぎらうような声に微笑を浮かべる。
彼女からすればシンイチの熱心さは当初不可思議だったが、
“何もなければ”普通に学んでいたはずの知識だからといわれて納得。

『こういう境遇にでもならなきゃ、きっと適当にやってただろうけど』

とは本人の弁だ。そういう想いもあってか。
学べる境遇にあるのにしないのはもったいない気がしているのだ。
ガレスト関連を早々に切ってしまったのは思い入れと必要性が薄いせいだが。
唯一の副教科ものである体育ですらステータス上昇と維持のための肉体鍛錬が主。
普通の体育授業と違い、もっぱら肉体改造じみたことばかりなのである。
高ステータス者を育てるという目的から考えればまったく間違ってはいないが
せっかく高校生なのだからとスポーツに汗を流してみたかった気持ちがある。
地味に彼の中で高校生ライフへの憧れが多分にあったのだろう。

「おいまた職員室通いかよ、この“出来損ない”が!」

「ステータスだけじゃなくて勉強もできねえのかよ」

しかしいくら真面目に努力しても中学の基礎ができてない彼にはきつい。
がっくりと肩を落としながらも次は確かスキル関連の授業かと困り顔。
寝てしまおうかと考えながらやけにうるさい廊下を一人と一匹で歩く。
肩に乗る一匹は気付いているが教える必要もないと無視を決め込んでいた。

「は? おい待てよ! 人の話を聞け!」

「無視するんじゃねえ!」

だから授業場所である第二視聴覚室を目指してただ歩く。
頭で道順を思い浮べながら周囲の動く障害物(・・・・・)を避けて進む。

「なにをやってるの。中村信一」

「っ!?」

その中の一つが途端に人間になってびくつく。
何よりその声から連想される人物に心当たりがあって彼は顔がひきつる。
名前を呼ばれたのはいい。フルネームなのも別段にこだわりはない。
しかしその声を耳にしたシンイチが振り返るのには勇気が必要だった。

「………………なん、でしょうか?」

出来るだけ動揺が顔にでないように注意して振り返る。
その先にいた女子生徒の顔が予想通りなあまり彼の声は硬くなった。
腰まで伸ばした日本人らしい黒髪が特徴的な風紀委員がそこにいた。
彼にとって学園転入の最大の誤算ともいえる少女。千羽陽子その人である。
知っていたのなら“別の学校”という選択肢も真剣に考えただろう。
尤も。最終的にここを選んだ可能性は高かったが心構えは事前に出来た。
それが未だできてない状態でどんな顔して彼女の前に立てばいいのか解らない。
結果シンイチはひじょうに緊張した面持ちを彼女に向けている。
肩に乗っている“彼女”の目はそれどころじゃない鋭さだが。

「なんでしょうかじゃない!
 話しかけられてるのに無視するなんてどういうことよ!」

幸か不幸かシンイチだけを睨んでいた彼女はそれに気付かない。

「え? 話しかけられた? 誰がどこで?」

しかし“彼からすれば”いわれのない言葉に本気で戸惑い、
つい相手が彼女であることさえ忘れて素で聞き返してしまった。

「は?」

これには陽子の方が困ってしまった。
彼女とて最初から見ていたわけではないが彼は確かに無視をしていた。
だが彼が呼びかけに気付いていなかったのだとすればそれは別の話だ。
そして彼女は圧倒的に後者の可能性が高いと感じてしまっている。
こういう時、付き合いが長いのは良し悪しだと心中複雑な陽子である。

「…………あなたたち何か彼に用事があるなら今のうちにいいなさい」

彼女は内容まで聞こえてなかったが何かを訴えていた様子の後輩を促すが
発していた内容が内容だけに風紀委員を前にして再度言えるものではない。

「も、もういいよ。いくぞほら!」

「あ、ああ……ちっ」

そんな捨て台詞を残して一目散に去って行ってしまう。
彼らの態度に彼女も大まかに事情を察するもアレは恒例行事だ。
上級生からすれば入ったばかりの一年生がやる哀れな勘違いである。
あと半月もすればそんな悪態をつく元気すらなくなっていくだろう。
入学したての一年生にとってこれからこそが本番となっていくのだから。

「……………」

「……………」

普通ならここで悪態をつかれた側のフォローもする彼女だが、
今回の場合は言われた当人がそも聞いてさえいなかったのである。
自分から声をかけた手前なんといえばいいのか解らず困る陽子と
突然沈黙した彼女の様子にどう対応すればいいのか解らないシンイチ。
自然と両者の間には微妙な沈黙の空間が出来上がっていた。

「………ええっと、俺があいつらに話しかけられてたんだな?」

未だにそこをよくわかってなかった彼は確認の意味もあって聞いた。
どちらかといえば話を進めないとここから逃げれそうにもないからだが。
陽子はそれに、そのようね、とぶっきらぼうに答えつつ大きく溜息を吐く。

「はぁ………風紀委員として一応言っておくわ。ここは上下関係に厳しい場所よ。
 気付いていなかったなんて言い訳は滅多に通用しない。次からは気を付けて」

「無理いうな……あっ」

「は?」

投げやりながらも委員の立場でした助言に即座に否定が返された。
返した本人もまずいと思って手で口を塞いでいるが時すでに遅し、である。
シンイチは考え事に集中すると周囲の声が入ってこなくなるタイプだ。
しかも長い独り旅と積極的に他者を排除した生活を続けていたのだ。
意識して周囲の声に耳を傾けている状態でもない限り殺気や魔力、
強烈な敵意などが妙な動きをしなければ気付けといわれても出来ない。
だがそんなことを目の前の彼女に向けていえるわけもなかった。

「……いまの『無理』は改善する気もない『無理』と受け取るわよ?」

「ああ、えっと、そのぉ……」

苛立ったようなその言葉にシンイチはしどろもどろだ。
平時の冷静さがあれば取り繕うこともできるのだが今の彼にそれは無い。
また改善する気があるのかと聞かれれば答えとしては『無い』のだから。
もう今更改善することに彼はまったく必要性を感じていなかったのだ。
それが対外的にどう受け取られるかは理解しているため言葉が出ない。

「あっそ、好きになさい!」

だが当然そのうろたえを肯定として受け取った彼女は怒り心頭で立ち去った。
それを肩から眺めていた一匹は困ったように頬をかく主人の様子に溜息だ。

「沸点の低い娘だこと」

「俺に関することだけ、なんだろうけどな。ははは……」

おそらくとても正しい自身の推察に渇いた笑みを浮かべるしかなかった。




午前すべての授業が終わった時、自分の席で少年は崩れ落ちていた。
頭から湯気が出ているようにさえ見える一匹は苦笑を浮かべている。

「キュキュイ?」

「………ひどい、ほんとひどい……なにひとつ満足に授業が受けられない」

心配するような声に力の無い声が返ってきた。その顔は疲れ切っている。
この数日間で彼にとって授業とは大まかに三つに分類されていた。
ひとつは知り過ぎたあるいは出来過ぎたゆえに加減が難しいもの。
次は未知すぎて理解が追い付けずまったく授業にならないもの。
最後に単純な知識不足と授業スピードの早さでついていけないもの、だ。
つまりはどの授業も彼にとってはまともに受けれたものではない。
唯一希望が見えている五教科に勉強意欲が集中したのも仕方がない話ではある。

「しかし! 俺は耐えきった! いくぞっ食堂が俺を呼んでいる!!」

「キュキュ!」

あとはそれだけが彼の心のオアシスとなっているからかもしれないが。
頷くように鳴いて彼女が肩に飛び乗るとシンイチは一目散に教室を飛び出す。
明らかに急上昇したテンション差に周囲が唖然としていることなどお構いなしだ。


ガレスト学園という場所で彼がもっとも楽しみを見出しているのは食堂だ。 
異世界での2年で不安定な食生活していた者にとって“安定した食事”はご馳走だ。
食堂に入るなりメニュー表からいつぞやのリベンジだと生姜焼き定食を注文。
そしてトレイごと受け取ると空席を探した。何せいま一番食堂は混んでいる。
元よりいくら広くとも全校生徒を受け入れるキャパシティはない食堂だ。
昼時の殺到している時間にはグループ同士の境目にすら空席は無い。

「お、空いてる。とっとと座って食っちまおうか」

「キュイ!」

その中心にあるテーブル席だけが何故か空席であり彼は喜色満面で座る。
途端周囲の騒がしい昼食時の空気が完全に止まって静まり返った。
普通なら誰しもこの混雑状態で空いている席に懸念を抱くだろう。
よしんば気付かずともこの反応に何か不味かったと気付いただろう。
だが、目の前の食欲をかきたてる生姜焼きの見た目と匂い。
輝く白飯と味噌の香りを漂わせる汁物と色鮮やかなサラダ。
涎が止まらない定食を前に彼は冷静ではなかった。

「はむっ、くううぅっ!! おれ、生きてて良かったっ!!!」

「キュウゥゥッ!!」

迷いなく座ると一口一口深く味わうように租借していく。
美味な食事を前に周囲の狼狽えや不思議と空いていた席など些末事。
従者の一匹もまた与えられた稲荷寿司に舌鼓して歓喜していた。
当人たちはまさに幸福の絶頂のような状態ではあったが周りの顔は青い。
奇しくもこの瞬間食堂内の生徒達の気持ちは一つになっていた。


───なにやってんのあの転入生っ!?!?


そう思うのは当然の話である。
その席は本来生徒内で最大の特権を持つ特別科に用意されたもの。
一般生徒が堂々と座っていい場所だとは生徒たちは誰も思っていない。
だから、知らないのではないか、という発想に誰かが辿り着いた時には遅かった。

「ん、おいお前なに勝手に座ってんだよ!」

運悪くその特別席の正当な使用権を持つ者たちがやってきてしまった。
しかもよりにもよって特別科内でもっとも血の気の多い者達に、である。

「キャベツの甘さに泣けるぜ! 野菜嫌いだった昔の俺を殴りたい!」

「は?」

とはいえ食事に夢中なシンイチにその怒声はまったく聞こえていない。
合わせのおまけであるサラダを頬張っては満面の笑みを浮かべていた。

「肉のうま味に、白飯の輝き、味噌汁の温かさ、豊富な野菜。
 くううぅっっ!! これで今日も俺は午後の授業を耐えられる!!」

まったく実りがない授業と比べてなんと食事の美味さか。
もはやこれだけでいいとさえ思いかけている姿に周囲は呆然だ。

「………ああ、うめえ……」

米一粒、一粒の味が彼をダメにする。味噌汁のうま味が彼を満たしていく。
彼は至福の時にいた。先に食事を終えた彼女はそれを涙ぐむように見ている。
よって。

「っ、ふざけんな、おまえ!」

「キュ!」

「わっ、くそ!」

それを邪魔する者など彼女にとってはただの敵である。
紫電が走って近寄ろうとする生徒達を威嚇し、牙を見せて唸る。
瞬間そこで初めてその生物の存在に気付いた彼らはさすがに慌てた。

「ア、アマリリス、だと!?」

「ちょっ、なんで接触禁止の保護動物がここに!?」

その生物の悪名は名高い。本当のことをいえば彼女は似ているだけの
別の生物であるのだが実情を考えると同種と見て問題ない能力を持っていた。
そんな相手に阻まれてはさしもの特別科生徒といえど手を出せない。
たかが席ひとつ奪うためにこの生物と争うのはあまりに割に合わない。

「…………あんな方、でしたか?」

それを食堂の入り口付近から見守っていた豪奢な雰囲気の少女が呟く。
食堂中の視線が彼に向かっているので誰もまだ彼女の存在に気付いていない。
彼女の頭上にあるのは疑問符だけだ。同一人物のはずだが訳が分からない。
彼が転入生であることを考えると同じ科の者達の態度はかなり問題なのだが、
当の本人が気付いてすらいない様子にどちらを気に掛けるべきか彼女は迷う。

「ふ~、満足、満足……ごちそうさまでした!」

「キュ」

どうしようかと彼女が考えているうちに彼は食事を終えてしまう。
周囲の人物たちの心境などまるで気付いてない足取りでトレイを返却口へ。

「おばちゃん! 美味しかったよ!」

「キュキュー!」

「あ、ありがとね」

そして感謝の言葉を告げると今にもスキップしそうな雰囲気で去っていく。
唖然とした顔で思わず声をかけるのも忘れた彼女の隣を素通りする形で。

「………あ、ちょっと待ちなさいあなた!」

慌てて呼びかけるが既に聞こえる距離ではなかったのか。
あるいは単に聞こえていないのか。振り返ることもなく。
シンイチは肩にいつものように一匹を乗せて去っていった。

「本当にどういうことですの!?」

伝言が伝わっていないことを知らない少女はその態度に困惑するのだった。





そして昼食を終えて意気揚々と午後の授業に向かった彼だったが、
放課後になった頃には昼間とまったく同じポーズになっていた。

「フッ、燃え尽きた……燃え尽きたよおやっさん。真っ白だ。
 ねえ、二次関数ってなんだっけ? ホイヘンスの原理ってなにさ?」

「キュ、キュウ……」

そんなこと聞かれてもと戸惑う彼女である。
例え普通の五教科でも中学時代の基礎がないため謎の呪文のオンパレードだ。
思わず勉強ができない学生がいう定番のセリフをいいたくなってしまう。

「そんなの習って、あとで何の役に立つんだよ……」

机に乗る一匹はそれに曖昧な声色で小さく鳴くだけだ。
溜め息交じりに気になった点を書きだした紙のメモ帳を彼は読み返す。
フォスタにも似た機能はあるが人前では“まともに”使う必要がある。
それが面倒だったのと書いて覚えることを期待してのメモ書きだった。

「今日はここらへんを聞くか。よしっ、職員室に殴り込みだ!」

「キュイ!」

読み返して自分が分からなかった点を反芻すると席を立つ。
授業でわからない点は教師に聞く。当たり前の話ではあるが、
彼の場合その頻度と回数は日常の一コマと呼べるレベルになっていた。

「先生! 今日もまったくわかりませんでした!」

「……ナカムラ、せめて他に言い方ないのか」

わずか数日で常連として顔を覚えられてしまうほどには。
すべての休み時間と放課後に同じ理由で顔を出せば当然の話だが。



そうして一日の授業が終わり職員室での質問攻めを終えれば、
彼は校舎を後にして男子寮へと向かって一人と一匹で足を進めていく。
世話係ということになっている少女は時折顔を見せるが今日は会わなかった。
クラスも学年も違ううえに“困ってはいない”彼の下にくる意味もない。
尤も。シンイチからすればその気配だけはずっと感じているのだが。

「ん?」

道すがら縦ロールの少女を先頭に走る集団が遠くに見えて彼は笑みをこぼす。
以前にも見た特別科の自主練の一つであろう。あれで一体何週目なのか。
学園の敷地の広さを思うとかなりの距離だろうと感心するシンイチだ。

「努力してる若者っていうのは絵になるねぇ」

そういった地味な努力がステータスの発展と維持には必要な行為。
伸び代の限界はあるにしろ努力しなければその限界にさえ届かない。
そのための地道な鍛練を続けている姿は彼からすれば微笑ましい光景だ。
目標に向かって日々努力を重ねていくという行為が持つ価値は高い。
少なくともシンイチにとっては何よりも眩しい姿である。
彼が決して経験できなかったものなのだから。

「羨ましいことだ……」

学園にいる間、周囲の声を無視しているように思われている彼だが
実際は他の事に意識が集中しているだけであったり、その邪魔はさせまいと
存在に気付いた彼女がシンイチに気付かせないうちに追い払うのが原因である。
そのためもう部屋に戻るだけという気の抜けた今は周囲がよく見えている。
それが彼にとって得難い輝きを持つ光景ならば余計に。

「……主様も勉強を頑張ってらっしゃると思いますが?」

「そうだな。でも、ある意味趣味も同然だ。動機が安い。
 形だけでも高校生やってたいっていうだけで学んでいるからな」

だから続けられない事情があればすぐにやめられる程度の意気込みだ。
ガレスト関連の授業を早々に捨てたようにあっさりと止めるだろう。
暇を持て余した主婦のお稽古のようなものだと自虐的に笑う。

「主様……」

「気にするな。それはそれでいい話だ。俺が暇なのは、な」

平和な証拠といえるからな、と笑う。
だがそれは言外に、いつまで続くか解らない、とも言っていた。
その言葉に彼女はなにも言葉を返すことはできなかった。


男子寮の門を通ってもう慣れた足取りで己が部屋へと向かう。
途中幾人かの男子生徒とすれ違うがそこには挨拶さえない。
既に悪い意味で目立ちだしている彼と関わろうという猛者がいないのだ。
シンイチもまた彼らと仲良くする気が皆無であり気にもとめていない。
ただ残念だと思うのは学園にいる同年代の者達の考えや常識がわからない点。

当初シンイチは自分の監視のためにルームメイトがいると予想していた。
その目があるのは面倒ではあったが最低限の交流でそれらを知る気であった。
だが監視側は一人部屋を用意し自由にさせてボロを出させることを優先した。
結果本当に好き勝手やったシンイチによって今日も偽映像を見せられている。
相手側の情報を彼が一方的に得ていることを考えると結果失策だったろう。
おかげで彼もまたこの世代の『当然』を知るのが面倒になっているが。

「ん、あ?」

突如フォスタから発せられた軽快な電子音に首を傾げるシンイチ。
ディスプレイを覗けばメールが届いたこととその送り主を知らせていた。

「凜子さんから、か」

現状彼のフォスタのアドレスを知るのは凜子たち中村家と世話係の少女のみ。
あとは学園側の事務程度であるがそうなると監視してる側も知っているだろう。
どんなメールが送られているかまでチェックしているだろうことは想像の範疇。
なら彼らが見る事になるメールを彼がそのままにしているわけもない。
今頃彼の魔力改竄によって凜子から味気もなければ親密さもない近況報告が
監視している者達のもとに届いて「またか」とでも思わせているだろう。
実際は───



『 信一くん、勉強がんばってるかな?
  今日は真治が初めて掴まり立ちが出来たの(o^∇^o)ノ
  写真、添付してあるから見てね!
  私の息子は最高に可愛いのだ!

  あと信彦さんが俺にもメールくらい寄越せって
  (´・з・)←こんな感じですねてるから
  なんでもいいから送ってあげてね!

  P.S.
  そろそろ学校で気になる娘とかできたかな?
  お姉さんに相談とかしてくれてもいいのよ! 』


───義理の母からかなりフレンドリーなメールが送られているが。
連絡を取り合うという転入前の約束は彼女からのメールで成り立っていた。
父と同じくシンイチが筆不精なことを凜子には多分に見抜かれていたのだろう。
かなりの頻度で送られてくるので改竄は送信回数にも及ぶほどだ。

「おっ、ほんとだ、って父さん……」

添付された赤子か机に掴まって不安定ながら立つ画像に頬が緩む。
そして父の拗ねた顔というのがじつに簡単に想像できて余計に笑みがこぼれる。
だが微笑ましく心癒されるような幸せな光景に、安らぎと共に痛みも感じていた。
なんて身勝手な。彼女はただ家族の近況を送ってくれただけだというのに。
余計なことばかり考えて、勝手に傷つく自分自身が彼は情けなかった。

「………そして背後にはあいつ、というね。ほんとどうしよう?」

何かを訴えるかのような強い視線を男子寮に入ってから感じている。
だが振り返るとその視線の主は姿を隠してしまって直接は見えない。
気付いてほしいのかほしくないのか。あるいはその両方なのか。
どれにしろその存在と名に気付いている身としては対応に困る。

「始末してきますか?」

肩の上で目を細めて剣呑に輝かせる彼女に呆れた声が飛ぶ。

「やめろ。なんだその突拍子のない物騒な発想は?」

「主様の従者ですからね」

「………うわぁ、なんていう説得力だ」

小声での談義は物騒な方面に傾きそうな雰囲気である。
尤も。互いにそんなことを実際にする気は皆無でありただの軽口だ。

「はぁ、けどこのままつけられるのも面倒か………今晩釣り上げる」

「よろしいので?」

件の姉弟─片割れだが─と接触を避けようとする彼にしては積極的な態度だ。
訝しむような、心配するような声に大丈夫だといいながら苦笑気味に言葉を返す。

「あんな目で見られたら話聞くしかないだろう。内容も、想像がつくしな」

昔とまったく変わってない。
それをどこか悲しげに呟いて彼は自らの部屋に足を踏み入れた。
追跡者がそれにどこか気落ちしたような息遣いを聞いたのを最後に、
ナカムラ・シンイチという少年はクトリアから姿を消した。




───いいかげん吹っ切るべきだろう───




その決意は正しくも、その方法はあまりに乱暴だった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ