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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

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03-20 未だこのざま




じつのところ。
シンイチがデパートでの事件の全容と結末を知ったのは半月以上も後の事。
転入後早々に巻き込まれた爆弾事件から数日ほど経過してGW中のこと。
それまでの間まったく気にならなかったというわけではない。
ただ調べられるつてが無く学園転入に反対する中村夫妻を説得するのに
大方の精神力と労力を持っていかれ、その余裕が無かったのである。

『帰還者は程度の差はあれど行かなきゃいけないんだし、
 今の俺は変わった世界の常識にまるでついていけない。
 荒療治じゃないけど集中的に学ばないと将来的に困ると思う。
 それでどうせなら一番最先端なところに行った方がいいかなって』

こちらに戻ってきてからの自身の行動が引き寄せた監視の目。
事件に関わったことで強くなったその目を家からそらす意味もあった。
あの“紅”が語っていたことも気になっていないわけでもない。
また自分が絶対起こしてしまう騒動を無難に処理できる場所とも思えた。
無論、一番の理由はいってしまえば“この家にいるとつらい”だが。
しかしそんなことは例え拷問されてもいえる話ではない。
だからそんなお題目で彼は説得しようとしていた。ところが。

『やっと帰ってこれたのにどうして離れて暮らさなきゃいけないんだ!』

『この学園は結局ステータスの高い子向けです。
 信一くんが……ちゃんと学べる場所だとは思えません!』

家から通える学校だってある。もっと気持ちよく学べる場所もある。
概ねそういった方向性で夫妻は強くシンイチのガレスト学園への転入を反対した。
凜子の場合は信彦がいない場所では遠回しに隠す事は不可能だと言った。
彼女は『何を』とはいわなかったしシンイチもまた『何が』とは聞かなかったが。
信彦はこの件に対してはかなり感情的になってしまい話は平行線。
想定以上に譲らない二人にシンイチは仕方なく心情を吐露するはめに。

『ごめんなさい。じつはまだ帰還した日の衝撃が抜けてないんです。
 だから、俺のことを誰も知らない場所で落ち着く時間をください』

それでも事情の核はかなり誤魔化したが夫妻からもう反対意見は出なかった。
家族を別けた負い目のある信彦とあの日をよく知る凜子にできるわけがない。
卑怯な物言いだという自覚はあったし出来れば彼とて口にしたくはなかった。

『連絡を欠かさないこと。
 長期の休みには必ず戻ってくること。
 学園が辛くなったらすぐに私たちにいうこと。いいわね信一くん』

結局はそんな当たり前のことを交換条件にした形で転入が決まった。
尤も。そのせいでクトリア行の船で彼はずっと自己嫌悪に陥っていた。
ましてやその日のうちにいくつも騒動が起こり終いには爆弾事件。
彼が精神的余裕を取り戻すのにさらにいくらか日数が必要だったのだ。



それでもテレビや新聞で報道される程度の情報は既に仕入れていた。
例えば事件は主犯と彼らに騙された協力者たちの内輪もめで終結したとか。
それを見ていた人質の誰かの証言で協力者は重罪であるテロ容疑を免れたとか。
匿名の複数の人間がデパート側に多額の寄付金を入れたとか。

「……パデュエール家以外からの寄付が怪しすぎる」

都合の良い改変に管理官がうまくやったのだと彼は疑わなかった。
だがフォスタが空間に投映している多数の情報には渋い顔をしている。
ここは学園で唯一彼にとってのプライバシーが存在する部屋だ。
そのために彼以外のプライバシーの存在は怪しくなっているが。

魔力ハッキング。
フォトンと魔力が同種同質のエネルギーであるためにその信号でもって
形作られた新しい形の電脳は彼にとってはあまりにヌルイ代物であった。

複数のモニターを同時に開いて読み解くというのにも慣れてきている。
その一つにあるさも善意の施しとでもいいただけのすべて匿名の寄付金。
出所を遡るといかにも複数の人物が別々に入金したように見えるが
そこからさらに遡れば寄付金の出所は概ね同じだったのである。
ただその人物なり団体なりの正体はデータ上存在していなかった。
いくら彼でも電脳に入力もされてない情報は調べようがないのだ。

「一部はパデュエール家なんだが……あの縦ロールいたんだあそこに。
 けど残りはあの紅いのかはたまた組織の方か……おかしなテロ組織だ」

彼としては無残に破壊してしまったせめてもの詫びを考えていたが、
ここまでの額が集まっているのならば自分の手はいらないと判断した。
元より彼が持つ個人的な資産は今は(・・)たいした金額とはいえない。
帰還後、家族と接触しない道を選んだ場合や共に暮らせなかった場合を
想定して用意していた換金目的の貴金属や宝石類は大半がまだあちらだ。
現在は最初の次元転移の際に当面の資金源としていくらか持っていたのを
外見年齢や必要書類などを魔法で偽装して売却した小金がある程度だ。
仮にこの多数の寄付金がなければ魔力ハッキングで違法に得た情報を元手に
合法的な手段で増やそうと考えていたが危ない橋は渡らないに越したことは無い。

「何らかの資金源が豊富であっても普通こんなことに使うか?
 まだパデュエール家の『自分たちがいたのに被害を抑えられなかった詫び』
 なんていう理屈のほうが納得できるってもんだ………やっぱあれマジなのか」

本人の発言を思い返しながら別のモニターに映るその紅を見る。
無銘所属の正体不明の戦闘員。地球を含めての広域指名手配犯。
ガレスト軍側がつけたコードネームを日本語訳すれば紅の鬼(レッドオーガ)

「安直……まあこんなのは分かり易さ重視だろうしな。
 それに、確かにこれは鬼神のような戦いぶりだ」

映し出される映像には単機で軍の部隊を蹂躙している紅い鬼がいた。
二刀流ならぬ二槍流で振るわれる槍が外骨格を切り裂き、貫く。
宙を舞う多種多様な槍が部隊の隊列を穿ち、乱して突撃する。
状況に応じてそれらを持ち替えて軍を、戦場を、蹂躙するさまは
彼女(・・)自身がまるで一本の槍のようにさえ見えてくる。

「彼女が最初から慣れた装備で最初から殺る気だったら不味かったかな?」

データベースにあった過去の戦闘映像のそれとは外見が違う。
新型あるいは試作のものだったのだろうと彼は推察している。

「でも一対一なら本調子でない主様でも充分……って!
 また横道にいかないでください。目的からずれてますよ!
 というより、こいつ女なのですか!?」

誰かに投げかけたつもりもなかった疑問に横合いから否定が飛ぶ。
ついでとばかりにヨーコは苦言と驚愕の声も飛ばしてきたが。

「たぶんな。神気浴びて出した悲鳴は思いっきり女だった。
 オネエでもなければあれは十中八九女だろうよ……なんでそこで溜め息だよ」

「別に。この彼女がいま心穏やかでいることを祈っただけです。
 マスカレイド見ただけで怯える程トラウマになってなければいいですね」

またか。とでもいいたげなヨーコの態度と発言に返す言葉がない。
渋面になりつつ“それは俺のせいか?”と目で訴えるが彼女は気にしない。

「それより『無銘』の本命がなんだったのか分かったのですか?
 先程から主目的からずれた情報ばかり見ているようですか?」

「………別件の調べでもう見つかったから遊んでただけだ」

さらりと話を元に戻したヨーコにシンイチもまたあっさりと返した。
さすがにこれは想定していなかったのか彼女は目を瞬かせながら驚いた。

「え、見つかった? それも別件って。
 あれ、でも前は候補が多すぎてよくわからないって……」

魔力ハッキングは既に手馴れたもので対策室のデータベースから
学園のホストコンピュータにまで痕跡を残さずに侵入できていた。
あまりに手軽過ぎて使っている本人が一番戦々恐々としている。
とはいえ使うのに精神的抵抗が無ければ何でも使うのがシンイチだ。
気になったことは正規の情報とは別にハッキングで調べてもいた。
その際に得た情報が別の案件で重要になる事がたまにだがあった。

「確かに新聞やテレビの情報だけだと候補が多すぎたけどな」

あの事件が陽動だと知る彼は同日に起こったナニカをすぐに調べてはいた。
デパートから半径おおよそ10キロ圏内を目安に事件・事故・騒動を
ひとつひとつピックアップしていき、その数に思わず眉根を寄せた。

ステータス偏重ではなく法律の基準を順守しろと訴えるデモ行進が一件。
銀行強盗が三件。公共の建物を狙った放火と思われる火事が二件。
化学薬品を積んだトラックの事故及びそれに伴う車両火災が一件。
エネルギー送信施設での職員の操作ミスによる一部地域の停電騒ぎ。

主だった騒動でさえこんなにもあり小さな物まで含めればきりがない。
しかもそれでもその中に無銘という組織の本命があればまだよいが、
単純な取引や交渉が目的だったとすれば痕跡すら残っていないだろう。

「そのうえ一番怪しい銀行強盗は手間と実益があってない。
 主様は確かそう仰ってましたよね?」

それでも分かる形で残っていた事件の中ではそれが特に怪しかった。
ほぼ同一地域で同日に別々の場所とはいえ銀行が三店も襲われた。
それを偶然と思える人間は稀有であろう。ただ怪しすぎたことと
それによって得られる実益と陽動の手間があまりに釣り合わない。
だからコレは違うと考えたのだ。貸金庫の中身を知るまでは。

「けど奴らの本命はそれで良かったんだ。そして狙いはこれだな」

そういって彼女にも見えるように画面を操作して見せた画像は複数の装飾品。
対策室のデータベースにある貸金庫から盗まれた物の目録から引っ張ってきたのだ。

「これ、ですか?
 たしかに高価そうですが………それだけではないのですね?」

彼があえてこれを狙いだと断言した以上、そこには何かがあるのだ。
その信頼のような何か裏がなければ断言はしないといいたげな顔に苦笑する。

「ああ、それだけじゃなかった。だからこれが本命だと思う」

ピンクダイヤのような宝石を中心とした豪奢な宝飾品の数々は大層な金額だろう。
しかし逆をいうなら金を積めばどうとでもなるもので騒ぎを起こす程ではない。
事実これらの持ち主は三ヶ月以上前から複数の相手に売買を持ちかけられている。
確証はないがシンイチは半分は無銘、残りはガレスト政府と睨んでいた。

「こいつはガレストの宝飾品だ。使われている石は全部あっちのもので
 物珍しさもあってかこっちの小金持ち連中が気に入って結構売れている。
 今ではガレストの外貨獲得手段の柱の一つにもなっているんだが、
 その一部によく使われていた石、このピンク色の宝石だ。
 それにとんでもない特性があったことが近年になって発覚した。
 驚いたことに発見者はあのフランク先生殿だ」

「……あの露骨に妹に嫉妬してる男ですか?」

「ああ、露骨に嫉妬してる先生」

本人はあれで隠しているつもりであり彼に興味のある者がいないので
じつのところ当人(・・)以外で気付いているのは彼らだけなのだが。

「まあ他人様の家庭についてはこっちが言えた話じゃない。進めるぞ。
 この石にはある周波数の電磁波を浴びせながら加工すると白く変化するんだ。
 そしてその状態だとフォトンエネルギーを無力化する特性を持つらしい」

「フォトンの無力化?」

「アンフォトニウムって裏では名付けられてる。
 俺達流にいうのなら反魔力物質だな、そういうと分かるだろ?」

「それって古代の遺跡とかにたまに出てくるゴーレムに使われている?」

「そうあれ。魔法とか魔力攻撃とか全部跳ね返してくる俺の天敵」

ファランディアの古代遺跡。それも三千年以上前の“本物”と付く遺跡には
侵入者排除のために大小様々なゴーレムが現れ、冒険者や学者を襲うのだ。
その装甲には反魔力物質が使われ魔法はもちろん魔力の外装すら反射する。
多用な魔法を使い分け、魔装闘法術で戦う彼にとって面倒な相手だ。
しかしそれを聞いた彼女の表情には呆れが出ている。

「………な~にが、天敵、ですか。
 柔の型の力技でぶん殴ったり遺跡ごと崩落させて押し潰したり
 反射されるのをいいことに濃密な魔力塊押し付けて吹き飛ばしたり、
 オロル鉱石の爪でぶった斬ったりしてのいつもの無双っぷりで
 リリーシャたちを唖然とさせてたのは誰ですか?」

「ハハハ……あの頃の俺は若かった」

「ほんの三、四ヶ月前の話です!」

それを行った時はさほどおかしなことをしている自覚はなかった。
だが時間が経過して他者から指摘されると常識外れではあったと自省する。
本来あの世界で遺跡探索を生業としている者でもゴーレムとの遭遇率は低い。
彼らが基本的にここ一千年から二千年ほどの遺跡を探索しているからである。
不思議と三千年以上昔の“本物”にしかゴーレムは配備されていない。
それでも万が一にゴーレムと出会ったさいは逃げるのが常識なのだ。
魔法が通じず硬い装甲を持つ自動人形の兵士が襲ってくるのである。
高い腕前とそれに見合う名剣があれば物理的に斬ることは可能だが
魔導核を潰すまで動き続けるため手間を考えれば逃げた方が無難である。
そんなのを相手にしてさも当然のように戦って叩き潰せば唖然もされる。

「まあそれはともかく……ともかくだ!
 あれはせいぜい反射か拡散だ。これは無力化だからな。
 さすがに周囲に影響を与えるほどではなく直接触れる必要はあるらしい」

強引に話を進めようとした途端ジト目で睨まれたが彼はさらに強引に進める。
アンフォトニウムの効力はファランディアの古代で精錬されていた反魔力物質以上。
しかしその効果範囲は等しく、直接そのエネルギーと接触する必要があった。 

「ガレストで宝石として見られるようになったのもここ十年、二十年の話だ。
 変な石らしくてな。地下深くにしか存在しないのに一定期間空気に触れさせないと
 石ころのまま。宝石化したあともさらに加工しないとすぐ砂になるんだと」

そのために昔から消える宝石として一部では有名だったらしい。
話だけを聞くとどこのファンタジー世界の石かといいたくなる話だが、
研究して完全に宝石として固定化させた辺り科学技術の高さが透けて見える。

「けどそうなるまでに埋蔵されてた大部分を浪費して希少性は純フォトンより上。
 まあエネルギー資源ではないから政府も表向き集めてはいないんだが……」

「裏では回収に躍起になっている、でしょう?
 ただの不思議石が一気に自分達の首を絞める危険物質になったのですから」

「だよな、ガレストの生活基盤にも武装にもフォトンは使われている。
 これがもし公になって、それがもし反政府主義者にでも渡れば……」

ろくでもないことになるのは目に見えていた。使い道はいくらでもある。
装備に流用されれば大半の攻撃は無力化され、こちらの防御を突き抜ける。
都市や主要施設を守るバリアもフォトンエネルギー製なため侵入が容易となる。
ライフラインを止めてしまうことさえ、やり方次第では可能となるだろう。
そういった事態を懸念してかこの事実は公にならず学園のホストコンピュータにも
フランク教諭がこの学園に来た経緯を示す情報に僅かに書かれていた程度だった。
だがその存在さえ分かれば彼には感覚で情報を探れてしまう術がある。
ましてや。

「もう渡ってるじゃないですかぁ」

「だよねぇ」

あははと軽い口調で笑いあう。笑わないとやってられないともいう。
そう既に無銘というテロリスト支援組織の手に渡っている。
どういう過程かは分からずともその価値を知っていた証明だ。
その石の特性を知らない対策室ではあの事件の裏を把握できていない。
ガレスト側は強盗事件まで調べてないせいかそこに気付いた様子がない。
どちらの機密情報も気軽に見れてしまう彼だから到達した事実であった。
せめてガレスト側だけは知るべきだと彼はいくらか情報を流しているが、
はっきりいえばしないよりはマシ程度の話である。

「先生も余計な発見をしたものだ。
 もう少し冷静なら自分がろくでもない発見したと分かったろうに。
 普通新発見は功績だから内容まで気にしてられないほど焦ってたか」

ドゥネージュ家の在り方を調べればそうなってしまうのは納得できるが、
その結果彼自身がこうむった事態を考えれば自業自得であり傍迷惑な話だった。

「数を揃えられない時点で軍や民間では使い道が少ない。
 そこで劣るからこそ利用価値が生まれるのがテロリストでは、ねえ」

「そう思ったお偉いさんが研究成果をもみ消して、学会から追放。
 表向き栄転な左遷でこの学園に飛ばされたとは……じつに笑えない」

二人は苦笑顔で見合ってそれぐらい想像しろと当時の彼に言いたい気分だ。
そうして今から3年ほど前にフランクは技術科担当の教師として赴任した。
クトリアは外界との繋がりが薄く、出るためには絶対的に許可がいるため
罪人ではないが世間から離れてほしい人材の隔離先として都合がよい。
シンイチが初めてここに来た時に感じたことは奇しくも大正解だった。
だからこそ笑えないのだが。

「そうして入れられたのは先生だけじゃないってだけでね。もう、あれだ。
 いや、いいんだよ。俺もその利点(・・)を考えてここに来た口だし」

滅多に都市外に出れず居住条件は厳しい。
その隔離されているような環境が逃げたかった彼には都合が良かった。
分かっていて自分からこの都市に来たのは本当に彼だけであろう。

「主様の動機はともかく、なんなんでしょうね、ここは?
 調べれば調べるほどここは学び舎ではなく魔窟かなにかだと思えます」

そんな溜め息と一緒の指摘と呆れに彼は苦笑いするしかない。
これまでの調査で判明した事や学園の様子を見ればそう言いたくもなる。

情勢的にテロが起こりやすく輝獣までも存在する海上都市。
そのことを半ば当然のように受け入れてしまっている住人や生徒。
地球とガレスト、両政府からの思惑に振り回されている自治組織。
学園にはガレスト十大貴族の一つパデュエール家の跡取り娘。
その従者の一部にいる反地球主義者やランク分けに拘りすぎる者達。
独自の動きをし続けている学園OB・OGで作られた生徒会。
教師陣には担当教科による溝があり一部は世間から隔離された者。
信奉者さえ軍にいるといわれる剣聖と名高い元軍人の戦闘狂女教師。
漂流したガレストにあえてとどまり暴れ回った日本人トップの生徒。
いくらか調べてもまるでつかみどころのない尻尾を持つ狐少女。
意欲と才能がどこか空回りしている最下層の生徒たち。

「そういう側面もあるってだけだと思うが……そんな魔窟に俺が転入か」

「大爆発する未来しか見えませんよ。何がとはいいませんけれど」

そこへ別の異世界から帰ってきて秘密を山ほど抱えた少年が転入。
騒ぎを呼び込む事にかけては本人が泣きたくなるほど運のない少年が、だ。
ヨーコの主語が抜けた言葉が何を差しているのか解りたくもないのに解る。

「…………こんな場所でいつまで隠し通せると思いますか?」

それを見越したうえで彼女はどこか責めるように一番の問題点を指摘する。
今更ではあるが、内情を知ると余計にそう思えてきた彼女からの最終確認だ。
彼は様々な事を隠すと決めていた。理由は端的に言えば世界を今より乱すからだ。
しかしながらここは彼の秘密を隠すにはあまりに難易度の高い場所である。
シンイチが誰とも関わらず厄介事にも関わらないのなら話は別なのだが、
そんなことは天地がひっくり返ってもあり得ないと彼女は知っている。

「あちらではあまり隠してませんでしたから余計に心配です」

「まあな、あっちだと隠すより外に出して牽制した方が面倒なかったからな」

強者にあえてケンカを売る者は少数派。恐れられれば近寄ってくる者は減る。
強さを利用しようとして近寄ってくる者は相手にしなければそれまでだ。
どうせ何もしなくとも面倒や厄介事はそっちからやってくるのだ。
自分で招く必要はなく、どうせ放っておけない性分なのだから。
などという諦観しきった考えからだが。

「それで、どうするおつもりで?」

「うん、ああ………ちょっと取引でもしようかと」

ちょっとコンビニにでも行ってくる。
そんな日常的なニュアンスであっさりと悪巧みがあると告げるシンイチ。

「……『ダレ』と『ナニ』をですか?」

「ガレストに詳しくてこの学園である程度権限のある奴と俺の秘密を」

一瞬、何を言い出すのかと目を瞬かせたヨーコだがすぐに狙いを察する。

「………ある程度の秘密を売って、見返りに隠すのを協力させるのですか?」

「そゆこと。そゆこと。ちょうど色々と都合のいい奴がいるからな」

不敵に笑ってひとつの空間モニターを弾けばそれはある人物の個人情報。
映る彼女(・・)の顔写真を見て、ああそういうことか、と彼女も納得する。

「なるほど。主様から聞いた人物像が確かなら彼女は適任ですね。
 与えるのもどちらかといえば情報というより労働力っぽいですし」

「だろ」

「はい………で、これを主様はいつ思いついたのですか?」

従者の支持に満足そうに頷いていたシンイチの動きが止まる。
彼女は満面の笑みで“つい最近思いついただろお前”と指摘していた。
これは取引相手の人物像を把握してないと思いつけない策なのである。
こちらに来てから初めて会った以上考えたのはそのあとになる。

「……………」

「いつ、思いついたのですか?」

黙って目を泳がして暗に自白するも彼女の追及は止まらない。
これには二重の意味での叱責が込められている。場当たりすぎるのと
そんな程度のことを自分が見抜けないと思ったのか、という二点だ。
返す言葉もないのかシンイチは黙ってフォスタを持って立ちあがる。

「さあて、喉が渇いたから外の自販機でなんか買ってくるか」

誰が聞いても逃げるための言い訳にしか聞こえない事を口にして。

「やっぱりこの数日で思いついたのですね!
 心情は察しますが思いつきで行動しすぎてますよ!?
 それに飲み物は冷蔵庫に買ってきたのあるじゃないですか!」

「いや、いまはひじょうにコーヒーが飲みたい」

「嘘です! あの黒茶嫌いだっていってたじゃないですか!」

「う、あ、ああーーー!! 聞こえない、聞こえなーーーい!!」

わざとらしく声をあげて耳を塞いで部屋を出ていく姿に彼女は頭を抱える。
案としては悪くはないと彼女も思っている。この学園である程度(・・・・)彼を知る者は
何か秘密があると疑っており、それを知りたいと思っている者が大半。
提供する物とその相手を間違えなければこの案は現状“次善”といえる。

「ああもうっ!
 来たばかりと思えばしょうがないのでしょうが、
 なにかどんどん自分の首を絞めているだけのような」

シンイチも彼女も諸々の事情から最初から全てをずっと隠せるつもりはなかった。
だが何が悲しくて転入してたった数日で対策を打たなくてはいけない事態になるのか。
その時点でもう自分達だけでは隠し通せないと諦める羽目になるのは想定外だった。

「これではまるで考えなしに動いている歳相応の子供と一緒………ん?」


───あれ、それはそれで良いことでは?


しかしそれは気を張って隠さなくてはいけない秘密を思えば問題だ。
だがあの年頃らしさを取り戻してほしいと願っていたのも彼女の真実だ。
部屋に残ったヨーコはどうすればいいのかとしばし唸って悩むのだった。





逃げるように部屋を出たシンイチだが彼女が思うほど無計画でもなかった。
確かに案を形にしたのは昨日の話ではあるがいずれ味方を作る予定はあった。
正確にはいくつかあった案の中に“誰かの弱みを握る”というのがあっただけ。
転入して即座にという時期と“味方作り”になったのだけが予定外だった。

「しかし、どうしたものかねぇ……」

だがどうしようもなく自分が考え足らずになっている自覚もある。
そこから一時逃げるために部屋を出たのに余計に突きつけられていた。
何せまるで待ち構えていたかのようによく知る気配があとをつけていた。

誰にも聞こえぬほど小さな溜め息と共にフォスタを自販機にかざす。
内部の機構までは解らないが外見だけなら彼が知るそれと何も変わらない。
硬貨を入れる部分がフォスタを感知するセンサーになっているだけだ。
学園の生徒はクトリアではこの端末を使ってすべての支払いをしている。
各々によって電子マネーや保護者への請求など支払い体制は様々であるが。

どれにしようかと迷ったふりをしながら手元のフォスタを覗く。
ここは彼が入室することになった部屋がある階層である。
そのためか階層全体にいくつか隠しカメラが設置されていた。
いま彼はその中で自販機ブースを撮影している映像を見ている。

「おいおい」

気配と視線で曲がり角の影から覗いているのはわかっていた。
しかしカメラの位置から偶然にも見事に撮れていた格好と表情に呆れる。
曲がり角から顔だけを出して窺うような、懇願するような顔を見せている。
どこか期待と不安、焦燥と罪悪が混ざった複雑な感情が渦巻いている表情だ。
そんな顔でじっとこちらを見詰めている一人の男子生徒。

「そうだよ、男子寮なんだからそりゃいるよなぁ」

どうして気付かなかったのか。あるいは単に気付きたくなかったのか。
呟きは肝心の隠れているつもりの生徒にはまったく届かない小さなもの。
バカだろ俺はと自嘲しながら果汁100%のリンゴジュースを購入する。



───もうちょっとうまく隠れろよ



困ったときの態度が昔と一緒じゃないか。
そう複雑な表情を浮かべながらシンイチは苦笑するしかない。
何せ自分を影から見詰めるのは学園で二度目の再会をした姉弟の片割れ。
彼が男子寮にいることをシンイチはこの瞬間まで失念していた。
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