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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

帰還の波紋編 プロローグ

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05-00 壊された日常

こいつだけテイストが違う上に今のところ一番未来(笑)
 ここにとある特殊なルールや授業のある特別な学園があった。
そこに通う生徒たちは最先端を歩く誇りと新たな時代の幕開けを背負う自負を持っていた。
勉学と鍛練に勤しんで自らを磨き、いつかは自分たちが先駆者として世界を駆ける事を夢見ている。
教師たちもまたその歴史的出来事に関われることに誇りを持って教鞭を振るっていた。


だからこそある少年の行動は彼らの日常を破壊した。
今回はそのいくつかのケースを紹介しよう。





ケース1:授業中での居眠り
(個人情報保護のため個人名は伏せさせていただきます)


5月末日。その学園にて。
学園では何の変哲も無い一つの教室で授業をする教師は激しく苛立っていた。

「…………おいN起きろ!」

そして机に突っ伏し自分の腕を枕にして堂々と眠る生徒をついに怒鳴りつける。
普通ならそれで彼は飛び起きて周囲の生徒たちが笑う、なんていうお約束が起こる所。
しかし周囲の生徒たちはもう嫌気がさしたような顔で「もう放っとけよ」とはっきり呟く者もいた。

「ほら、起きないか!」

声を張り上げ、体を揺らすが無反応。
いびきこそかいてないが起きる気配はゼロにひとしい。
彼はここに来る前から普通の学校で教鞭をとっていた教師歴がそこそこあった人物。
その中で授業中に居眠りするのをなかなかやめない生徒がいなかったわけではない。
しかしこの『N』という生徒は今までの誰とも違っていて最悪に性質が悪い。
なにせ本当に起きない。どれだけ熟睡しているというのか何にも反応しない。

「おい!」

「先生、やる気のない人は放っておいてください。
 そいつのせいで授業が遅れると私達が困るんです」

「そうだよ、何したってそいつ起きないって」

「無駄なことしてないで授業してくださいよ」

近づいて強めに揺すりながら叫ぶが反応はない。
それどころか他の生徒たちから早く授業をすすめろと催促される。
彼らにとってもその生徒の居眠りは今に始まったことではない。
この少年が学園にきてから少ししてほぼずっと授業中はこうなのである。
生徒も教師もそれこそ最初の頃は注意していたが彼が聞かないために放置に至っている。
この教師はそれでも起きている時にしつこく「起きて授業をきちんと受けろ」と注意したのだが、
彼はなんとはっきりと即答で「できません」とそのたび答えて、この居眠りである。

「っ、いいかげんにしないか!」

これまで幾人もの態度が不真面目な生徒を見てきた彼も、
出席しても“大真面目に”授業を受けない生徒は初めてだった。
たまっていた苛立ちとクラスメイトに対する他の生徒の冷たい態度が癇に障った。
手にしていた指し棒をついに振り上げ、居眠りの生徒に向ける。
瞬間あがった生徒達の悲鳴の意味を理解する前に彼の意識は飛ぶことになる。

「ぐぎゃあああぁぁっっ!!??」

「………ああ、またこれで授業が遅れる」

稲光が教室を照らし教師の悲鳴が反響する中、誰かが小さく溜め息をもらした。
その後、件の男子生徒が目を覚ましたのは授業終了を伝えるチャイムによって。
すでにそこには気を失った(・・・・・)教師なんておらず誰も彼を気にしない。したくない。

「ふわぁぁぁ………授業中しか寝る時間がないのって面倒だよ……なぁ?」
「キュー」

当の本人だけが気楽そうな顔であくびをしているのだった。



ケース2:いざこざの起点


件の男子生徒はいろいろな事情から多くの生徒たちから良く思われていない。
理由は様々だ。出席しても授業を放棄した態度とそれゆえの授業の遅れから来る者。
学園に溶け込もうとしない態度が自分たちをバカにしていると考えての者。
唯一親しくしているある女生徒を慕う者たちのやっかみと嫉妬からの者。
学園で起こる騒動の原因を排除したいと理念に燃える者。
自分達はあんなに苦労したのに何故そんな男が入学できたのかと怒る者。
ゆえにこんな光景はある意味、日常茶飯事になりつつあった。

「おい“出来損ない”! 今日こそは……って無視するな!」

意気込んで正面から声をかけてきた同級生を完全無視してその隣を黙って通り抜ける。
まるで廊下でただすれ違っただけの相手への態度であり彼の他者に対する常の態度。
振り返って捕まえようと肩に手を伸ばすがほんの数センチ届かずむなしく空を切る。

「っ、待てよ!人の話くらい聞け!」

人目のある廊下で周囲に聞こえる大声で叫ぶが男子生徒は気にした風もなく歩いていく。
彼に苛立ちを与えるには充分な態度でカッとなって手元に持っていた端末に──

「それ以上は風紀委員の仕事になるからやめなさい」

──触れようとした途端、背後から冷たい声が届いて動きが止まる。
小さく舌打ちした彼は端末をしまって、行き場のない感情で床を蹴った。
背後に立つのは女子とはいえ上級生の風紀委員だ。逆らうのはあまりに得策ではない。

「N・S、止まりなさい」

「………………なに、か?」

名前を呼ばれて動きを止めた彼は数秒停止したあと何故か困ったような顔で振り返る。
その態度に内心ではイラつきながらも風紀委員たる彼女は鋭くにらみつけるだけ。

「馬の耳に念仏な気はするけれど、せめて話ぐらいは聞こうと思わないの?」

「……………は?」

「はぁ……」

彼女とて最初から見ていたわけではない。
しかし入学してまだ“1ヶ月”でブラックリスト入りした男子生徒である。
彼が騒動を起こす傾向というのはこの“無視”がキッカケである事が多い。
そしてそれに対する本人の証言を信じるなら本当に気付いていないから性質が悪い。
何せ本気で困惑した顔をしており話しかけられた事に気付いてさえいなかった。

「彼に呼び止められたでしょうが……どうして解らないのよ……はぁ」

「………そうなのか?」

「う、うるせえっ! もういい!」

彼女が視線を向けて、ようやく初めて彼を見た生徒は素直に訊ねた。
その態度がより明確に彼の存在が完全に眼中になかったことを証明してしまい、
人前でプライドを傷つけられたと感じて逃げるように去っていく。よくあるパターン。
このケースでの不幸中の幸いはここの生徒たちが一人で彼と相対することにある。
誇りある立場という自負が集団で囲むという行為に嫌悪感や屈辱感を持たせている。
しかしながらいつもこんなことになるので事態の解決にならず悪循環にもなっていた。

「N・S、あなたはどうしてそう話しかけられても気付けないの!?」

「さ、さあ?」

「っ、そんなに他の生徒たちには興味がないってわけ?
 そんなにこの学園はつまらない? 気に入らない?
 だったら出ていきなさいよ、その手続きならいくらでも手伝ってあげるわよ!」

彼女の迫力に後ずさりながらも曖昧な表情を浮かべた態度が余計に彼女を怒らせる。
それに心底困った顔を浮かべながら気弱な態度で、されど見事に感情を逆撫でした。

「……ええっと…………好きにしたらいいんじゃないかな?」
「────ッッ!!」

それはまるで“どうでもいい”といわれた気がして彼女の沸点を越えかける。
声は突き放すものでもいい加減に呟かれたものでもない。
困惑した顔と声で、提案のような雰囲気があったのが余計に。
ちょうどよくチャイムがならなかったら風紀委員自身が問題を起こす所だった。

「あっ、次の授業が……いい!?
 いまの調子を続けるっていうなら何がなんでも退学させるわよ!」

そんな捨て台詞を残して、走ってはいない速度で歩いて去っていった。




「はぁ、なんでみんな怒ってるんだよ……俺なにもしてないじゃないか」




当の本人の呟きに答える者はいなかった。





ケース3:食堂での学園校則無視。


この学園の生徒たちはほぼ全員が寮生活を送っている。
必然的に食事は学園の食堂で食べるか購買で買うのが主だったものになる。
例外として弁当持参や外食という選択肢が無いわけではないが、
そんなことが出来るのはよほど時間と金銭に余裕のある生徒だけである。

広大に作られた食堂もそのため昼時となれば席が埋まってしまう。
ここの食堂は生徒全員が座れるほどの席数は最初から用意されていない。
そのため授業が終われば急いで駆け出して席取りというのはいつものこと。
今日も食堂は人で溢れ返っているが不思議と空いているテーブルで食事する者が一人。
トレイに乗った栄養やカロリーバランスが計算された定食を黙々と食している。
件の人物N・Sである。その隣で狐のような小動物が彼からのおすそ分けを食べていた。

「うまいか?」

「キュー!」

機嫌よさげに鳴き声をあげて食べているのを見守りながら食事を続けている。
それをもし正面から見れた者がいたなら「わ、笑ってる!?」と驚愕する所だが、
幸か不幸か誰もその男子生徒がいる方向には視線を向けない。巻き込まれたくないのだ。
だからそのテーブルの周辺に座るしかなかった生徒達は不安げに急いで食べて去っていく。
彼の存在が地味に回転率をあげているが誰も喜んでいなかった。なぜなら。

「てめえっ、またか!」

「そんなに私たちを怒らせたいの?」

「いいかげんそこは俺らの席だってことを覚えやがれ!」

本来、そのテーブルは彼らのために用意されているものなのだ。
他のそれよりしっかりとした作りの大きなテーブルにゆったりとしたイス。
長机が所狭しと並んで詰めて座っている周囲を見ればどれだけ特別な席かは一目瞭然。
明らかに他のテーブルより差が付けられたそれに彼は堂々と一人と一匹で座っていた。

「………ああ、うめえ……」

男女含めた数名のそのグループはそこに座ることを認められた特別な集団だ。
彼らの怒声など聞けば教師でも怯える者がいるほどの立場にあるのだが、
この問題の男子生徒Nはいつものように(・・・・・・・)無視して食事を堪能している。

「おまえ!」

当初こそまだ学園に来たばかりということで大目に見て注意ですませていた。
しかし言っても言ってもやめず、そもそも話を聞いているのかすら怪しい。
そんな態度をいつまでも続けられて彼らの苛立ちは募っている。
そのためかなり前から力尽くという手段を行使していた。
今日もそのためにその手を彼に向ける。が。

「キュ!」

「わっ、くそ!」

共に食事をしている謎の小動物が短く鳴いて、火を吹いて牽制する。
そしてもう食べ終えたのか眠そうな仕草で男子生徒の頭上に乗るとあくびをした。
これで油断して近づこうものなら丸まって眠る小動物は今度は指向性の電撃を放つのだ。
見た目は小さいが高い戦闘能力を持つ生物。食事の席程度で争うには割に合わない相手。
この護衛がいるせいで彼らはその生徒の暴挙を実力で排除することができないでいた。

「いっつも邪魔しやがってペットの分際で!」

「あれで希少動物だから下手に傷つけたらこっちが罰せられる」

「そんな可愛い子に守られてて悔しくないわけ、男のくせに!」

舌打ちしながら悪態をつくがまさにどこ吹く風で箸を進める男子。
しっかりと噛みしめて味わっているのが背後から見ても分かってしまうのが苛立たせる。

「また、ですかあなたは……」

その様子に溜息と共に現れた存在に人の波が別れて道を作る。
見ただけで良家の者とわかる容姿と存在感に誰もが気圧され、集団も沈黙している。
いやむしろ強い畏怖と尊敬のまなざしを向けて小さく名前を呟いてもいた。

「何度目かはわかりませんが、解るまで私はいいますよ。
 そこは実力で勝ち得た者たちだけが使うことが許されている特権なのです。
 それを黙って勝手に使うとはなにごとですか!」

びしっと指差して叱責する。
実力主義であるこの学園でそれを示さず勝手をするのは許されない。
こういった明確な待遇の差を作ることで競争心を煽って向上させるのがここの方針。
そしてそれを真っ向から“無視”するのがこの問題の男子生徒だった。

「あなたがここのルールに無頓着なのは今更ですが、
 あなたの国には郷に入っては郷に従えという諺があるではないですか。
 不本意にここに来たのだとしても、そこでのルールを守るというのが人として……」

ガタリ、と彼女の言葉途中で立ち上がった彼に思わず固まる。
今回も聞き流されると思いながらだったので反応があると思ってなかった。

「な、なんです……」
「ごちそうさまでした」
「キュ」

手と手を合わせてしっかりとそういうとトレイを持って軽い足取りで返却口へ。

「おばちゃん! 今日も美味しかったよ!」
「キュキュー!」
「あ、ありがとね」

背後の状況を見て食堂に勤める女性たちは若干ひきつりながら笑う。
ここまで真っ直ぐに賛辞をくれるのは彼ぐらいなのだが、騒動の種でもある。
特に現在進行形で完全に無視された形になった“彼女”は身体を震わせていた。

「せ、先輩落ち着いてください! 気持ちは痛いぐらいわかりますが落ち着いて!」

「え、ええ……大丈夫ですよ。
 わたくしは落ち着いています。ええっ落ち着いていますとも!」

その前に立ってなだめに入った風紀委員の女子に彼女もまた笑みを見せる。
かなりひきつった無理に作ったような笑みを、表情筋をぷるぷるさせながら。
周囲の生徒たちは沸点を超えようとしている何かを感じて恐怖から沈黙するだけ。



「いやあ、毎日うまい飯が食えるって幸せだなぁ……」
「キュイキュイ」


原因たる少年らは満腹の幸福感に浸りながら食堂を去っていった。
背後の不気味なほどの静寂にはまったく気づかずに。





ケース4:教師たちの亀裂


そしていくつかの騒動や事件が起こりつつも少年が学園に来て、
二か月近くも経つ頃にはついに彼の影響は彼がいない場にも出だしていた。
教員たちが集まる場。職員会議において、ついにその言葉が飛び出す。

「学園長、1-DのN・Sは即刻退学にすべきです!」

怒り狂った。
といえば語弊があるがそれを口にしたのがいつもは温厚な教師であったため、
その進言は普通より強く感じられ周囲に彼が怒り狂っている印象を与えていた。

「そうです! 学園をバカにした態度で授業中は居眠りばかり。
 他の生徒たちとはいざこざを起こして反省もない」

「保護動物を護衛役にして好き放題。そもそもペット同伴こそがおかしい!」

「このままでは他の生徒たちにもよくない影響を与えます!」

「幸いにも奴の能力は低ランク、この学園の実力主義を徹底するいいチャンスです!」

それに追従する形で問題の生徒に不満を持つ教師陣が次々と賛同を示す。
比較的強い口調でのそれに冷や汗をかいて曖昧な表情を浮かべる学園長は言葉を濁す。

「しかし、彼はまだここに来て二ヶ月もたってないわけで……」

「ひと月前ならわかりますがもう二ヶ月ですよ!?」

「慣れてないなんていう時期はとっくに過ぎているでしょう!?」

しかしながらそれは退学派に油を注ぐだけで余計に学園長の冷や汗が増える。

「いや、その……そういう話ならせめて担任か副担任がいる所で……」

「そんな悠長なことをいってられないのです!」

それでも彼が必死にここでの結論を避けようとするが切って捨てられる。
文字通り学園長の言葉に火が付いた彼らは声高に叫ぶ。

「そもそも! 彼にはここに慣れる気が毛頭ない気がします。
 ここがそんなにイヤなら望み通り、追い出すべきです!」

「……それは、教育者としてどうでしょうか?」

だが熱くなる彼らに冷や水を被せるように静かな声が届く。
楕円形の会議机のほぼ対面に座っている別の教師陣からだ。

「今のは完全に彼の感情を想像した意見です。
 それが正しい場合も、まさか“追い出す”とは。ここがどんな学園なのか。
 まさかあなた方が(・・・・・)ご理解してないというわけではないですよね?」

「そ、それはっ!」

痛いところをつかれて退学派が押し黙る。
この学園は特殊ゆえにそう簡単に生徒を放り出すわけにはいかない。
ここだけで教える知識や技術を中途半端に学ばれて社会に出てもらっては困るのだ。
そんな者たちが何か問題でも起こせばそれはこの学園の不祥事も同然になる。

「ましてや彼が未熟だと分かっているのなら導くのが我ら教師の務めでしょう」

「だいいち彼が居眠りしているのはあなた方の授業だけだ。
 私たちの通常授業では非常に真面目で勤勉な姿勢を見せている。
 他の生徒にも見習ってほしいほどの、ね」

続けるように正論と意味深な視線を混ぜた反論をされて苦味を含んだ顔をする退学派。
そう、問題の生徒は授業態度だけに関していえば他はまともに受けているのだ。
彼らからしてみれば出来のいい生徒であり退学にされるいわれはないと感じている。

「いざこざとあなた方がいう出来事もよく聞けば他の生徒が彼にちょっかいをかけて
 彼がそれを相手にしなかったからという彼だけが悪いとはいえないもの」

「それを彼だけが悪かったかのようにいうのは教師として、どうなのでしょうね?」

少しあざ笑うような声色で優越感に浸りながら語る反対派。
感情ではともかく言葉としては正しい理屈の前に黙る退学派である。
実はこの考えの相違の状況は元々あった教師たちの問題を表面化したもの。
この学園の教師陣には大なり小なりに溝があって同僚でありながら格差があった。

特別なこの学園が特別たる由縁の授業を担当する教師。

他の高等学校と同じ内容の授業を担当する教師。

これまで明確に対立してはいなかったが前者が後者を見下す傾向が強かった。
そしてそれは生徒たちの授業態度にも現れ、一部を除けば普通授業に対して
かなりいい加減な態度をとる生徒は決して少なくは無かったのである。
ゆえに重要視される授業を出席はするが事実上ボイコットするが
通常授業は真面目に受けるという件の生徒は後者の教師達にとっては
実に小気味良いものに見えており優越感を覚える存在だった。

「わ、我々も最初はそう思いましたがあちらに歩み寄る気がなくては何も言っても……」

「そうです! 私たちも努力しましたが聞く耳がなくてはどうしようも……」

一方で退学派も最初からそうしようと思っていたわけではない。
何度も話をしたがあちらは改める気がなくその理由を語らない以上手詰まり。

「それをなんとかするのが教師の仕事でしょう!」

「彼に舐められているのではないですか、話を聞く必要もない相手だと!」

そんな弱気な姿勢をこれ幸いと反対派に責められる。
しかしそれで黙っているわけもなく彼らも果敢に言い返す。

「っ、そこまでいうのならあなた方がなんとかすればいいでしょう!」

「問題なのはあなた方の授業なのでしょう! 責任転嫁するな!」

そんな応酬がキッカケとなってヒートアップしていく議論という名の罵り合い。
頭を抱えて、湯呑み片手に胃薬を飲み始める学園長はもはや知らん顔である。
実は彼を絶対に退学にできないややこしい事情があると知っている彼は関わりたくない。
なんとかなぁなぁでこの問題が終わらないかと祈っている状態で解決策など出るわけもない。
元より問題が起きてほしくない日和見主義の彼ではこれを治めるのは無理であろう。

「…………」

それをどこか他人事のように見て観察している一人の女教師がいた。
たったひとりの生徒の行動であの均衡がここまで簡単に崩れるなんて。
少年が異常なのか、彼ら教師が軟弱なのか。どちらにしろ面白い現象だ。と。

そんな彼女自身を仮に派閥で分けるなら中立派。
それも“どうでもいいから”という理由で中立な人物。
本来の中立派は双方の言い分に納得できる点があるから右往左往している。
彼らは通常授業も特別授業も受け持っているので片方だけに味方し辛いのだ。

「……けど、困ったわね」

それもまた他人事と見ている彼女はしかし、このままでは時間の無駄と判断する。
もっとも彼女が困るといったのは無駄な議論を続けることではなく、
まだ彼には退学になってもらっては困ると考えているだけだ。

「あの、よろしいでしょうか?」

周囲の思いや考えなど知らないとばかりに個人的な思惑だけで
彼女は議論を終わらせようと律儀に手を挙げて発言する。
視線が彼女に集まるが気にした風もなく立ち上がる。
議論していた教師たちは露骨に嫌そうな顔をした。
この女教師もあまりよく思われていない様子である。

「なんですかな。
 また研究に戻りたいので帰っていいですか、なんて聞きませんよ」

「そうです!
 これはこの学園の将来に関わるかもしれない問題なのです。
 研究したいだけの人は黙っててください!」

そんな言葉もなんのその。
知らないとばかりに勝手に話を続けて、極論を提示する。

「もう彼のことは放任すればよいのでは?
 実際にもう大部分の生徒は彼に関わらず、彼の行いを放置しています」

生徒たちの大半はもはや彼をいてもいないもの同然に扱っている。
そうすることが一番なんの被害も自分たちに襲ってこないからだ。
しかしそれは生徒だからでもある。教師として問題を放置するのは職務怠慢であろう。
さすがにそれはどの考えを持つ教師たちもすぐに賛同できるものではなかった。

「………それはつまり彼が行っている問題行動を放置しろ、ということか?」

「そもそも問題とされる行動そのものは誰にも迷惑をかけていません。
 居眠りも放置すればいい。相手にされないのなら相手にしなければいい。
 なんとかしようと関わるから不快な感情を得て悪循環に陥っているのです。
 いつも突っかかっているメンバーの顔はあまり変わっていません。
 そちらを説得するほうが彼を説得するより現実的だと思います」

「うぬ……」

そういわれれば、と思わず納得しかける面々だが問題はそれだけではない。
彼が連れている攻撃的なペットがいるのである。
その存在がなければ彼はとっくに粛清されている。

「しかし保護動物をペットとして連れ込むのは……」

「あれは確かに保護動物です。
 しかしそれゆえに私たちはその意志を尊重しなくてはいけない。
 ケガでもしてない限り保護すら違法となっているのは知っているでしょう?」

新しくできた保護生物に関する法律の中にはそういった一文があったのだ。
治療のための保護以外は何が理由でも捕まえるのは違法だが、
勝手についてくる個体に対して撃退や追い返す行為もダメなのだ。
これは人間種を敵だと思わせないために作られた法律だった。
無論、正当防衛となればある程度認められている。

「その点で考えればあれはペットではないでしょう。
 彼に勝手について回る保護動物と考えてしまえばいい。
 そしてあの個体は彼に懐き完全に従っている。
 何かしなければ敵として攻撃してくることもない。
 許可を取って撫でさせてもらっている女生徒たちを見たこともあります」

「…………………」

彼女から出たとは思えぬ理路整然とした話に言葉もない教師たち。
放置という選択肢を取るだけでここまで彼の問題が問題にならなくなるとは。
その方法に問題があるとすれば彼ら教師にその選択ができるか否かであろう。

「仰りたいことはわかりました。
 しかしさすがに放置するのは教師として何か、こう……」

「いえ、放任や放置といいましたが無視するのではありません。
 彼から何も言われない限りこちらからは何もしないだけです。
 興味のない事を無理やり教えるよりよほど個人を尊重した対応だと思いますが?」

そんな最後の一押しがきいたのか不承不承ながらその提案は受け入れられた。
通常授業派と特別授業派の間にある亀裂は決定的になったが、
そこは彼女の知った所ではない。彼女には微塵も興味がない。
彼女の興味は現時点ではこの騒動を起こした少年に向けられている。
彼だけが持つ秘密。それを暴くためなら職場の人間関係など知ったことではなかった。





ケース??:???



面白いね、彼は。


彼ならきっと僕たちの同志となってくれる。


この歪んで間違ってしまった世界の。


けどそのためにはもうちょっと待ってね。


すぐに僕がこんな世界をめちゃめちゃにしてあげるから









───少年が新しい日常を始めた中で崩れていく別の誰かの日常


       それが良いことなのか悪いことなのか


     まだ誰も知らないその結果を決めるのは皮肉にも


          彼ら自身でも世界でもなく


         少年の決意にゆだねられていた─────

追記:05の時間枠なのは正確にはケース4の転入二か月たった時期だけ。
他の話は後々にやる「試験」の少し前までの話だったりする。
+注意+
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