挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

波紋編 第二章「異世界な故郷」

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

49/179

02-21 出会っていた三人3

なんとかなった! はずだ。

そしてこの話で、どう思われるかわからないあるキャラの正体が発覚。


デパート立て籠もり事件が終結していることを世間がまだ知らない頃。
ある少女が対策室の仮説本部に名乗り出て一芝居打っていた頃。
少年が従者の狐と共に今後を考えて盛大に気落ちしていた頃。
そんな事件の渦中からは遠く、デパートから見ておよそ10km離れた地。
全国では無銘だが地元では親しまれている歴史ある神社がそこにあった。
その境内にある社務所には限られた者しか知らない地下への入り口がある。
厳かな境内の雰囲気とは違う静かさに包まれた空間にいくつか部屋が並ぶ。
そのある一室ではここでは珍しく激しい怒号がとびかっていた。

「メインもサブもダウンしてます! 再起動できません!」

「外部からの信号を受けつけてない!
 プログラムが滅茶苦茶になってるぞ!」

「変わらず呼びかけに応答ありません!」

「生命維持装置も反応なし。
 最低限のバイタルしか確認できません!」

「外部脱着のマニュアルはどこだ!?」

目の前のコンソールを叩きながら悲鳴のような声をあげるオペレータ。
鋼鉄のチェアの周りをせわしなく動き回るつなぎ姿の整備員たち。
大小様々な何本ものケーブルが繋がれた部屋の中心にあるそれ。
そこに座すように固定されていたのは微動だにしない“紅”。
素体フレーム状態の、誰かに装着されたままの外骨格。
ここはテロリスト支援組織『無銘』の日本支部のひとつ。
神社の地下にそんなものがあるとは誰も夢にも思うまい。

「くそっただのデータ取りの予定がなんでこんなっ!」

「外はたいして壊れてないのに中身(システム)がぐちゃぐちゃだ!」

しかし意識を無くした紅が帰還してからずっとここはこの状態だった。
完全に機能停止を起こした外骨格を外部から脱着させるのは難しい。
どこか正常なところがあれば自動で外れるか縮小分離して兵装端末に戻る。
それさえ壊れても装着者側からなら簡単に脱げるようになっているが、
その着ている者が意識を失っていては手の打ちようがなかった。

「……なにがあった」

動揺と焦燥が蔓延している場に静かで厳かな声が響く。
最初に気付いた一人のオペレータが入ってきた存在を見て息を呑む。
その白髪と白髭を見ればどれほどの年齢かは想像に難しくないのに
腰は全く曲がっておらず伸びた背筋と剛の肉体を老年の男は持っていた。
この者こそこの無銘という組織を束ねる一人の豪傑であった。

「閣下! それが詳しいことはなにも。
 突入するまではモニターできていましたが内部はジャミング中。
 あれはまだこちらで使うかの試験中でしたので特殊コードは……」

「つんでいなかったというわけか。リュビンめ、大盤振る舞いしすぎだ」

陣頭指揮をとるだけなら優秀なのだがと渋い顔を見せる。
無銘で開発された特殊な通信妨害装置の影響下において、
彼らが用意した特殊通信コード以外ではあらゆる通信は使えない。
当然その運用には慎重であり外注の試作品には搭載していなかった。

「通信が途絶えてこちらに転移し戻ってきたのが約10分前。
 前後の状況から逆算して突入後488秒後にほぼ全てのシステムがダウン。
 それを感知した緊急離脱システムがこちらに帰還させたと思われます」

外骨格には緊急時に装着者を守るシステムがいくつか存在していた。
それらは通常のシステムとは別系統であるため機能停止しても稼働する。
特に反政府組織である彼らには機密保持もあって転移機能が付加されていた。
精度や安全性を考えれば緊急避難でしかないものだが。

「あいつと8分も戦ってそこまで追い詰めたと?
 どんな大部隊が百貨店にいたというのだ!?」

あり得ないとばかりにさしもの老人も驚きを隠せない。
それはこの場にいる全員の総意でもあるが事実はさらに驚愕だ。

「そ、それが外部からサーチした生命反応を見ていた限り、
 未確認敵性体(アンノウン)の数はおそらく、1、かと」

「……一対一で打ち破ったというのか。どこの者だ。
 まさか、あの戦闘狂のお嬢ちゃんではあるまいな?」

「記録媒体が全て修復不可能なほど破損しており確かなことは何も。
 しかし少なくともドゥネージュ女史はクトリアから動いていません」

全くの未知の敵か。難儀だなと呟いて老体は足を進めた。
まるで重病人のベッドのようにさえ見える整備椅子(チェア)に横たわる紅。
せわしなく整備員たちが外骨格を取り外そうと動いているが作業は進まない。

「っ、閣下これは!」

「挨拶はよい。
 もはや破壊しても構わぬ、早く我が槍を取り出すのだ」

「はっ!」

その指示にこれまでマニュアル通りに脱着させようとした作業員たちは
即座にその動きを外骨格を破壊してでも装着者を解放する動きに変えた。

「ぅ、ぁ……あ……かっ、か?」

その動きの変化か身近で聞こえた敬愛する人物の声か。
もはや変声機すら機能していない頭部装甲から声が届く。
内部の損壊状況からすれば視覚センサーもモニターも停止しているだろうに。

「ああ、私だ。どうした、何があった?」

「え、なにが、あった?
 わた、しは……リュビンの後始末で突入し、て………っ!?
 ぁ、やああぁぁっ!! 来るなっ来るなっ化け物! いやだっ、やめてぇっ!!」

閣下と呼ばれる男の問いかけはこの場では当たり前の疑問であり、
彼からしてみればいかな敗北をしようとも当然答えられる話のはずだった。
だから“紅”の脳裏に浮かび幻視してしまったモノとそれへの怯えに
周囲と一緒になって唖然となり、立ち尽くしてしまう。

「化け物が来るっ!? ああっ食べられる!!??
 うわっ、ああぁっ……いや、いやあぁ、助けてぇっ!!」

その間にも幻の邪神(モンスター)を見続けていたその声は悲痛に響く。
所詮錯覚でしかないのだが神気の残滓はそれを幻だと気付かせない。
この場にその恐怖を理解できる者がいない中、いもしない怪物に怯える。
反射的に整備装置(チェア)から逃げようとしてもがいて暴れようとするが、
完全に機能停止した外骨格など装着者を縛る拘束具や重石にも等しい。
ただ重たいだけの鎧と化してしまい中の者にいくら筋力があっても
満足に動ける代物にはなっておらず手を動かすことさえできない。

「落ち着け! 私の声を聴くのだ!」

その恐慌具合に誰よりも先に我に返った老年の男は両肩を掴んで揺さぶり、
地下空間に響き渡るような声で己が最も信を置く部下に呼びかけた。

「ここにそんなものはいない! まやかしに怯えるな!
 私の声だけに耳を傾けろ、己が正気を取り戻せ!」

「うあっ、いやっ……あぁ……ぁぁ」

その叫びが聞こえたのか。暴れるように怯えていた紅は動きを止めた。
メット越しに見えない視線がどこか正面の相手を見据えるように動く。

「あ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………閣、下……わた、しは……」

未だにどもりながらで呼吸も荒いが言葉には正気が戻っている。

「良い、気にするな。それよりも何があったか話せるか?」

「閣下!? いまの様子を見てたでしょう! 先に休ませてっ」

「大丈夫だっ………皆には情けない所を見せたな。閣下、報告いたします……」

心配する仲間たちの声を強い口調で抑えて紅は見聞きした事を話していく。
黒いモヤとしか見えない謎の相手。手にした物体の武器化。正体不明の攻撃。
最終的に殆どの武装と装甲を破壊され、最後の手段に打って出たが、
それに至ってはまったく通用せずに一方的に反撃を受けた、と。

「そして何かをされて、先程のような状態に。
 まるで抗えない恐怖を無理矢理植え付けられたような、うっ。
 い、いま考えると……こちらの攻撃はなに一つ届いていませんでした」

互いに相手の装備に未知があったようでその戸惑いは感じとれていたが、
終わったあと振り返ればまるで遊ばれたかのように撃退されたと感じる。
既に想定していた老年の男以外はみな信じられないと青い顔をして聞いていた。
戦闘部門のトップが惜敗ではなく惨敗したというのだから。

「………聞いているのだろドクター、心当たりは?」

ひとり静かな面持ちをしていた彼は突如何もない空間に呼びかけた。
するとちょうどその視線の先に音声だけを伝える黒いモニターが浮かぶ。

『───あるわけないだろう?
 装備は確かに試作品ばかりでも外骨格としては特注品だぞそれは』

そこから返ってきた声は若い男性のようだがこちらに顔を見せる気はないらしい。
だがそれはお互い様という話でもある。無銘もまた誰も彼に顔は見せていない。
(ドクター)に許したのはせいぜいがここへの音声オンリーの通信だけだ。
外部の技術者にしてはこれでも破格の待遇であり今回の報酬の一部でもあった。

『計算上なら平凡な軍人でも単機で一個中隊と戦える俺の自信作を一蹴か。
 本当にその黒モヤ、化け物以上の化け物だったんじゃないのか?』

老年の男はこの新型の製作者である男に意見を求めたが、
予想以上に当たりがきつく、苛立ちが混ざった返しであった。
寝る間も惜しんで作り上げた装備や外骨格の稼働データさえ満足に取れず、
完膚なきまでに破壊されたのだから技術者としては当然の感情ではあった。
そしてその下手人を化け物以上だと思わずいいたくなるのも。

「いいや、間違いなくあいつは人間だった。
 目だけは見えた……あれは人間の目だ……感情のある、人間だった」

だがそれを戦った張本人がどこか強い調子で否定した。あれはヒトだと。
その肯定に毒気が抜かれた博士(ドクター)は幾分か冷静に分析し始める。

『………それはそれで由々しき事態だがな。一対一で君に勝つ相手など。
 外がこちら以上だったのか中がこちら以上だったのか。あるいはその両方か。
 どれにせよ、どこの誰の手の者かまったく見当もつかない。そちらは?』

「私は、ない。未知の武装を除いても、あんな相手は初めてだ。
 今まで戦ってきた者とはまるで違う。戦い方の根本が違う気さえする」

「私もだ。単純に戦闘力だけで見れば候補は幾人か浮かぶが、
 我が槍の話を聞く限り、所感ではあるが誰とも一致しない。ドクターは?」

『……学園に隔離されてるあの天才(アホ)科学者ならあるいはと思うが、
 奴の最近の興味はもっぱら次元科学で、外骨格には向けられていない。
 俺の新型を一方的に嬲れる装備なんてスペック上だけ見れば存在しない』

同等のスペックの外骨格を作れる者。
そうではなくともあれだけの戦闘をこなせる者。
どちらにも完全に合致する人物や組織を彼らは思いつけない。
ならばとドクターは疑問を乱暴に棚上げし、彼にとっての本題を告げる。

『どのみち情報が少なすぎる。これ以上は今いくら考えても無駄だろう。
 それよりもオルティス将軍、いまはビジネスの話をしたいと思うが?』

「わかっておる。今回はこちらの失態だ。賠償金は充分に支払おう」

データ取りを任された機体をこちらの事情で実戦投入して、ほぼ全壊させた。
記録した戦闘データさえもすべて破損したため骨折り損どころの話ではない。
彼らの間にあるのは契約だ。表沙汰にはできない研究成果の検証とデータ取り。
それをまったくこなせなかった以上そこにはそういう金が発生する。
法的な保護のまったくない裏は表以上に実力と信用の世界なのだ。
無論、無法の世界なのでそういったことさえ無視する輩はいるが、
この『無銘』は金払いが良いために裏側の絶大な信用を得ている組織だ。

「そしてそちらが希望するなら、資材や機材の優先した手配。
 データ取りについてもかなり融通することができるが?」

『ふん、こちらがそっちしか頼れないのを知っておいてよくいう。
 まあいい。いまの言葉に甘えて頼ることにしよう。あとでリストで送る』

だがこの男のように技術はあるがコネも資金も表の地位もない技術者からすれば
他に頼れるほど信用のおける組織がないという世知辛い話でもあったが。

「わかった」

こちらの頷きに応じる気配だけを見せて、通信は切られた。
老齢の男─オルティス将軍と呼ばれる無銘の主は目線だけを
オペレータに向けると相手は無言で頷いて完全に通信が切れた事を伝えた。

「………申し訳ありません閣下、このような失態を」

「いうな。もとを正せば自分達を過信しすぎた私の采配ミスだ。
 後詰をさせるさい欲張らずに万全を期した装備にするべきだった」

これではリュビンを笑えんなと砕けた笑みを浮かべる老人に、
周囲は少し穏やかな空気を取り戻していったが槍は答えなかった。

「………………」

果たして本当にそうだったろうか。
万全の装備でもアレに勝てたかと自問して声が出なかったのだ。
それに気付いたものの場の空気を壊すまいと将軍はあえて問わない。

「少しじっとしててくださいよ。今メット外しますから」

「ああ、頼む」

作業員たちがシステムが停止した頭部を分解するように外していく。
鋼鉄のチェアに身体を預けたまま槍は敬愛する上司に声を投げかけた。

「閣下、一つだけよろしいでしょうか?」

「なんだ」

「これは所感ですらない、ただ漠然とそうだと感じた話です。
 あの黒いモヤと戦っている時、何もかもが違うのに同じだと思ってしまった。
 似ている所なんてなかったのに、どこか─────閣下と同じモノを感じました」

その予想外の報告のような感想のような言葉に一瞬虚を突かれた将軍は
たがすぐに落ち着いた顔を見せると小さく呟くようにそうかと返した。
報告した紅自身もそうして言葉に出してようやく激昂した理由に納得がいった。
無意識に同一視していたために否定されたことが許せなかったのだと。

「……報告ご苦労。
 今日はゆっくり休め、どの道明日にはクトリアに戻らねばなるまい」

「はい、外出許可は明日の昼まででしたから……」

「よし、外します」

会話の裏で邪魔しないようにしながらも分解されていく頭部。
小さく声をかけてようやく“槍”と呼ばれる者の顔をさらす。
ここにもし無銘以外の第三者がいればきっと唖然とする相貌を。

「すまないな、こちらにはお前以外にあそこに潜入出来る者がいない。
 任せたぞ、ミューヒ(・・・・)・ルオーナ(・・・・・)。我が槍よ」

「はい、お任せください閣下」

疲れ切った体にそれでも鞭打って狐耳を持つ桜色の髪を揺らす。
愛らしい少女の顔をした女性が学園の誰もが知らない顔で頷いた。
そしてそこで彼女は限界を迎えて、眠るように意識を手放していく。
慈しむように頭を撫でる将軍の手の暖かさに包まれながらどうしてか。
あの一瞬に見えた謎の相手の瞳が思い出される。




────どうしてあいつは迷子の子供のような目をしていたのだろう?




あれだけの強さがあって何故だと。
彼女はそれが不思議で、気になりながら意識は誘惑に負ける。
心身の疲れからくる穏やかな闇に彼女は落ちていくのだった。




ちなみに03-19までの時点で
縦ロール→「あの時の!?でも何か態度がおかしいような???」
狐少女→「うん? どこかで会ったような?」
ヘタレ→どちらにも気付いていない。
    若干縦ロールをもしやと思っている程度。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ