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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

波紋編 第二章「異世界な故郷」

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02-21 出会っていた三人2

アリステルが右往左往してる時に肝心のこいつは……こんな状態(笑)
うちの主人公は変なところがヘタレである。

ちなみにサブタイの数字が一緒なのはほぼ同じ時間の出来事だからです。

信彦からの懇願を受ける形で再度デパートに戻った“彼女”。
誰にも気づかれぬように侵入すると気配を頼って一階を駆けた。
なぜ三階に向かったはずの彼が一階で、しかもじっとしているのかは
外にいて内部の状況を何も知れなかった彼女では推測もできていなかった。
だから目的地にて上階から崩れ落ちてきた瓦礫の山の上を見て固まる。
一人の少年がうつぶせの状態で倒れており、彼女は首を傾げた(・・・・・)

「…………なに不貞寝してるんですか主様?」

一見すれば瓦礫と一緒に落ちて気絶してるようにも見えるが、
彼女─ヨーコから見れば意識があるのと落ち込んでいるのは見て取れた。

「……お前、どうして来た?」

しかし問いには答えずどこか責めるような声色でシンイチは問い返す。
彼女には直接指示は出していないが家族の護衛を頼んだはずだと、
それを放ってなぜここにいるのかという叱責を込めた言葉。
相変わらず顔を伏せたままの態度を訝しみながらも素直に彼女は答えた。

「どうしてって、いくらなんでも神気が外にいた私たちにも届いたら
 いてもたってもいられませんよ。父君さまにも頼まれてしまいましたし」

「………なん、だって? 神気が外まで、届いた?」

「ええ、道路向かいに作られた避難所にまで届いてました。
 何があったのです。あの距離にまで届く神気を放つほどの事態など……主様?」

言葉途中で乾いた笑い声を俯いたまま発し始めた彼の様子は尋常ではない。
いったい何があったのかと瓦礫の山を登って近づくとぼそりと呟いた。
どこかぐずるような涙声で。

「……………俺もうファランディアに帰るぅ」

「…………」

突然の発言に目をぱちくりさせながらヨーコは察しがついた。
ある程度の騒動を終わらせたあと彼はよくこういう状態に陥る。
投げやりな自暴自棄になって目茶苦茶なことを言い出す困った状態に。
だが口にするだけで本当に実行する気は全くないただの弱音であり、
単におかしな方向に傾いた精神のバランスを取るための応急処置だ。

「はぁ、さしずめ“いつもみたいに”やらかしたって事ですか?
 相手にも事情があったろうに侮辱しすぎたんじゃなかろうかとか。
 感情的になって説教くさいこと言ったのが急に恥ずかしくなったとか。
 力量を隠そうと思ってたのに結局うまくいかなくてそこそこ見せたとか。
 あとでどうやって誤魔化そうとかここまで建物壊す予定じゃなかったとか。
 まあ、そこらへんなんでしょう?」

だからこそ遠慮のない指摘をぶつけるのがこれの慰め方と彼女は知っている。
当人もそれが一番いいと解ってはいるが俯いたままの表情は渋面となる。

「………まるで見てきたように語りやがって」

あまりに正確に指摘してくるので別の意味でへこんでしまいそうになっていた。

「毎回似たようなことを気にするから覚えただけです」

平時と有事の際におけるシンイチの態度はかなり違う。
基本的に彼は敵対者に容赦がない。罵倒し挑発し動揺を狙って全てをこき下ろす。
地力が他者に劣っている彼にとってそれは非難ではなく攻撃の一つなのだ。
しかし正しくあるように育てられた彼はそうした罵倒に罪悪感を覚えてしまう。
そのためコトが終わったあとになって、いじいじと後悔してしまうのだ。
ただ反省しない辺りそうして頭や心を整理してると彼女は推察している。
実際こうやって落ち込んだあと彼はすぐに後始末に動くのが常だった。

「いったい何年の付き合いだと思ってるんですか主様?」

「バカいえ、まだ半年もたってねえだろうが。
 それに今回はそれだけじゃないんだ。いくらなんでも、ひどすぎる」

それもあって軽口を言い合うが返ってきた言葉がまだ重い。
今回ばかりはいつも以上だと彼の嘆きに、そこでようやく彼女は訝しむ。
もう泣きたいとぼやきながら顔をあげて大きな穴が開いた天井を見上げた。
そのあまりに“限界”にきた表情にヨーコはこれは重症だと息を呑んだ。

「喋ってる最中に、神言(しんごん)がもれた……」

「……………………はあぁっ!?」

だから続けて出た言葉の内容に彼の気落ちに慣れていた彼女ですら驚愕した。
大まかではあったが彼女は主人の身に起きた出来事を聞かされてはいた。
尤もどちらかといえばどんな異能を持ってるかの説明の比重が大きかったが、
それでも何が起こりどんな傷を彼が負ったのかには察しはついていた。

神言とは文字通り神の言葉だ。そしてヒトは根本的に神の言葉に逆らえない。
理屈抜きで神とヒトとの間にはそれほどの絶対的な差があるものなのだ。
例外があるとすればシンイチのような偶然にも神の理の外にいた存在か。
はねのけられるほどの強靭な精神力か強力な加護のある道具を持つ者か。
放たれた神言の内容とはまるで関係がない存在だけであろう。
だから主犯の男達には神言の作用がまったく見られなかった。
彼らにはそもそも追い求めるユメや理想をもってなかったのだ。
あるいはこれまでの傭兵もどきとしての日々に満足していたか。

とにかく邪神とはいえそれの憑代となり同化しかけた彼は
元のヒトに戻れても神の領域に足の指先程度だが踏み込んだままだ。
並の人間であるのなら彼の言葉を聞いただけでなんでも言う事を聞くだろう。
普段は同時に口の中で神言を打ち消す言葉を紡いでいるため問題は無い。
だがあの一瞬だけ、どうしてかそれができていなかった。

「あんなの初めてだ。こんなこと一度も無かったのに!」

彼は手にした邪神の権能の中で神言を最も嫌っている。
あまりにヒトの意志を無視して捻じ曲げる事を可能とする力だから。
使い方を誤れば、良くも悪くもヒトの運命さえ歪めることができる。
だから使うのは以前した実験の時のような小さ過ぎることか。
別に封印されていた邪神の他の分体を相手にした時ぐらいか。
それとて2年の旅の中で片手の指より少ない数しか使っていない。
意図せずにもれたことなど本当に一度としてなかったのだ。

「そのうえ神気もコントロールできてなかったなんて……」

そしてその事実に気付きもしていなかったことがより彼を追い込む。
感情的になっていたとはいえそんな広範囲に放つつもりは無かった。
神気の制御はさほど難しいものではない。感覚的には魔力と違わない。
魔力制御が難しい魔装闘法術を呼吸するように使える彼の制御は巧い。
そんな自分が制御を失敗して神気を拡散させるなど想定外にも程があった。

「やっぱ今の俺はダメだ…………時間を置けば大丈夫だと思ってた。
 母さんたちの事情もわかってるから理解してるって思ってたのにっ」

自分が想定していた以上に世界と家族の変化を受け入れられていない。
今の中村家を暖かな場所だと解っていても受け入れられていない自分がいる。

「本当はわかってたんだ。年月とか異世界とか関係なく、
 変化をしてようがいまいが帰ってくるだけでみんなの生活を乱すことは!」

その事実に耐えられない。自らに落ち度がないのは理屈ではわかる。
だがどうしても自分が家族の負担となることが彼は許せない。
自身の帰還が切っ掛けとなって起きた一連の出来事が重くのしかかる。
落ち着いてきていたのだろう母たちの心を乱したのは自分だ。
父たち三人で始まっていた新しい家庭を邪魔したのも自分だ。
事情や心情は理解できる。父らが喜んで受け入れてくれたのも分かる。
ただ、彼自身が自らの帰還がもたらした波紋を許容できないだけ。
邪神にすら抗った男でも、世界を前に大芝居をしてみせた男でも、
銃口に怯えることもない男でも自分が家族を苦しめた事実に耐えられない。
どんなことでも自分のせいにしてしまえる彼もそれだけは受け止められない。

「主様………」

「……信じられるか?
 俺がここに落ちたのだって足場の耐久力を忘れて馬鹿みたいにやりあったからだ。
 そのくせ敵の存在をさっきまで忘れて、一緒に落ちたのに気付いたらいない。
 アホらしいにもほどがある……戦いの中でさえ引きずったままだなんて!」

八つ当たり気味に瓦礫に拳を叩きつけるシンイチ。
確かに、とヨーコも言葉にしないが信じられない思いはあった。
こうやって思い悩むことが多い彼だが有事の際には一旦忘れられる。
悩みを抱えたまま戦場に立つなど危険な行為以外のなにものでもない。
また故意以外で相対した敵を彼が取り逃がしたのを彼女は見た事がない。
敵はまず身も心も叩きのめす。話はそのあと。
それが彼の戦闘における基本理念なのだから。

「では、どうするのですか?
 探さないで、とでも書置きを残して家出しますか?」

「…………無茶いうなよ、今度は父さんがおかしくなるぞ」

そうなった光景を想像して苦々しい顔で彼は首を振った。
父は時折思い詰めた顔をしていると息子として感じていたのだ。
離婚した事。家族との溝を作った事。再婚して異母弟を作った事。
それらシンイチにとって衝撃的だった事柄への罪悪感があるのだろう。
それで心がいっぱいになっている所に自分が失踪すればどうなるか。
想像するのはひじょうに容易かったが、したくはなかった。

「でもあの家でこれ以上過ごすのは無理なんでしょう?」

だがヨーコにもシンイチが落ち着かない原因がそれだと、
わずか二週間ほどの生活とはいえ薄々だが勘付いてはいた。
あの新たな中村家は暖かで優しく、居心地のいい場所だ。
だからこそ、そこにいるだけで彼は知らぬ間に追い詰められていた。
あそこは彼がいなくなって家族が苦しんだ末に生まれた場所なのだから。
そこに誰の落ち度も悪意もないからこそ余計に苦しかったのだ。

「居心地は最高なのに、ただ俺が一方的に苦しく思ってる……最低だよ。
 あんなに暖かく迎え入れてくれたのに、どうして俺はこうもっ」

「わかっていますよ。ええ、あなたはいつも運も間も悪い」

悪いのは受け入れられない自分だという彼の言葉を優しくヨーコは肯定する。
耐えられない責苦でも別の何かのせいにするより彼にとっては楽なのだ。
自分が悪い。そう考え、気落ちしている方が逆に心が落ち着く。
難儀な性格だと彼女は思うがそれがなければ出会うことも、
それから一緒に旅をすることもなかったかと思うと複雑だ。

「でも、あの家はよいところでした。
 弟君には少し困りましたが、久しぶりに母様と父様を思い出しましたよ」

あそこは当たり前の家族の場所だ。久しく二人が体験していなかった。
いられるのならいつまでもその暖かなモノのなかにいたいと思えるほど。

「だからこそ、怖くもなってきたのでしょう?
 不安定になっていく自分が何をしでかすか。
 今はそれに付け加え権能の制御への不安も生まれた……距離を置くべきです」

だからせめてとその結論を彼女は口にした。彼自身に言わせるよりはいいと。
その裏でもっと長い時間をかけていけばあるいはという希望もあった。
今は同じ世界で同じ時の中を生きているのだから。

「そうだな……何か正当に家を出る理由がいるか」

元々彼はもう少し家族サービスをしてから身の振り方を考えるつもりだった。
中村夫妻の意見も充分に聞く予定だったがここまで自身が不安定だと難しい。

「しかし、そんな状態でよく2週間“も”なんとかなったものです。
 いつ猫被りのボロが出るかと内心ずっと冷や冷やしてましたよ」

どうしたものかと悩む主人に見ていておかしかったと彼女は告げた。
丁寧な言葉遣いをして日々を─表面上だけとはいえ─穏やかに過ごす。
そんなことはヨーコの知る限りあちらでは三日と続かなかったものである。
彼の周りは常に騒動の渦中であり、それに対する彼の口ぶりは常に汚い。

「うるせえっ、どうせ今の俺は粗野で口も態度も悪い男だよ。
 これでも昔はおとなしくて素直な子供だったんだ………多分」

周りの事はよく覚えているが己となると衝撃的な事件があったせいか。
それとも元より興味が薄かったのか記憶が曖昧になっているシンイチだ。
頑固で毒舌であったらしいが素直さやおとなしさも持っていたはずだ。
信じられないとでもいいただけな視線は徹底的に無視している。

「それにだな。いきなり素で喋るのも、難しいだろ。俺こんなだし。
 凜子さんは俺との関係は希薄だけど家族だから礼儀を欠くわけには……」

信彦だけだったのなら話は別だったのだろうが凜子と真治がいた。
全く関係のない他人なら素で話しても良かったのだが関係があり過ぎた。
距離感が掴めず、また適当な関係性を彼自身が見つけられなかった。
あるいは自分がいなくなった後の父を救ってくれた相手として
全力でもって彼女に対して礼を尽くそうとしていたのかもしれない。

「それでただでさえ底辺になっていた精神をさらにすり減らしてこのざまですか?」

尤もヨーコからすれば変なところで真面目過ぎると呆れる話だ。
シンイチ自身も無理な態度がより精神を圧迫していた自覚はあった。
ただ彼女に嫌われて父に迷惑をかけたくないという意思が強すぎた。

「…………面目ない」

「まあ、今はもういいです……まずはここをどう誤魔化すおつもりで?
 折角4割まで回復してた魔力も減ってる所を見ると色々使ったのでしょう」

何があったのかと何をしたかを完全に把握してはいないヨーコだが、
回復させていたはずの魔力が減っているのを見れば状況的に想像はつく。
この世界で弱者と分類される主人が“いつものようにやった”と。
また対外的には最後まで建物内に残っていたのに無傷の一般人である。
怪しいという程度ですまされる話ではなくなっている。
だというのにそんな指摘を前にしてシンイチの目は泳いでいた。

「…………主様?」

「ほ、ほらな。おかしいだろ? 俺なんにも考えてねえ」

まさかといいただけな呼びかけに苦笑しながら返ってきた言葉に頭を抱える。
これは自分達の想像以上にナカムラ・シンイチという少年の精神は限界だと判断した。

「いつもなら無軌道に動いているようでも後のことは考えてましたし、
 自分が暴走する可能性すら視野にいれて行動していたのに……おいたわしや」

「やめてくれ。言葉にされるとなんか余計にへこむ」

がっくりと肩を落とす姿は常のものだがまとう雰囲気はより暗く、そして重い。
彼は自分に求める及第点が高い傾向がある。今回それを大きく下回り過ぎた。
これではしばらく上がってこないと胸中で溜め息を吐くと彼女は話を進める。

「それで、具体的にはどうします?」

「…………またあの管理官を動かすしかねえか。
 運良く前に言った嘘の事情から大きく離れた話でもないしな」

あの男には『中村信一』が目立つと困るという趣旨を告げていた。
今回の一件は充分その範囲内の出来事だ。何せ放っておけば大事になる。
だがその報告を受け取る側の人間を脅せるなら誤魔化すのは難しくない。
隠蔽工作としてはかなりの下策であるとわかっているが他に手段がない。
彼自身もこのあと戦いの痕跡やあの紅が残した武装の隠蔽はするが、
所詮その方法は“破壊”でしかないので『未知の者が戦った現場』から
『なにかが大暴れした現場』になるだけの微妙な変化したもたらさない。
むしろ、より建物を破壊するのでより大事になってしまう可能性もある。

「なんとか………なるといいなぁ……」

「主様がそういう時ってたいていダメな時ですよね」

「ははっ、だよねぇ」

何度目かもはや解らないほどがっくりと肩を落とした。
そして明日にもならないうちに管理官を交渉(キョウハク)しにいった彼は
自分がこの2週間ほどの日々でどれだけ奇異な行動をしていたかの詳細と、
そのために両政府により注視されているという頭の痛い事実を彼は知らされる。
だが同時に『ガレスト学園』という都合のいい選択肢も知ることになる────


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