挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

波紋編 第二章「異世界な故郷」

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

47/184

02-21 出会っていた三人1

シメの話に入る。事情があって短く三つに分けた。


デパートから脱出した最後の集団は人質だった者と犯人だった者に分けられた。
犯行に関わった者たちは全員に手錠がはめられ大半が護送車に押し込まれる。
残りが対策室の仮説本部へ聴取のためなのだろう連行されていった。
そして少し離れたテントに人質だった少女らは通され検査を受けていた。

「うん、君たちは大丈夫だね。
 彼女は少し背中の筋肉を痛めてるけどじっとしてれば大丈夫」

検査といってもスキャナーのような道具をかざして一瞬光を当てただけ。
それだけで身体の状態を把握できるガレスト産の医療器具である。
対応した医療班所属の女性は痛みが気になるなら治療するといったが
ベレー帽の少女は大丈夫だと断ると彼女は別の隊員に目で合図する。
控えていたその男性隊員が何かを語る前に少女はそれを差し出す。

「これは犯人の中でも主犯グルーブが持っていたアイ・フォスタです。
 脱出する時に利用したものですが捜査の役にたててください」

「な、なんだって!? すぐに解析をっ!
 ああっ、君たちはここでしばらく待っていてくださいっ」

彼は人質側の事情聴取のために来ていたのだが慌てて飛び出していった。
渡された物が物だ。まだ解決していない(・・・・・・・・・)立て籠もり事件解決の鍵になる。

「あの、それと申し訳ないのですがこの子のお母さんを探してくれませんか?
 はぐれてしまったようで、おそらくあちらも探していると思うのです」

「わかりました。ボク、自分の名前とお母さんの名前いえるかな?」

「うん! えっとね───」

長身男性の膝に座って落ち着いている子供から双方の名を聞き、
彼女もまたその場を離れて、そのテントには少女ら三人だけが残った。

「……さて、今のうちに口裏合わせをしておきましょう」

「は?」

「んん?」

戸惑った長身男性─大吾と意味がわからなかった少年は聞き返す。
それに対して少女は眼鏡の奥の瞳を見せないまま大吾に問うた。

「あったことをそのまま話すべきだと友人であるあなたは思いますか?」

「……………ああ、なるほど。あれは、確かに、うん、あいつ嫌がるな」

このまま事実を公表すれば一夜にしてシンイチはヒーローとなるだろう。
ほぼ素手だけで武装した者達から人質を守り、逃がしたのだから。
メディアに顔や名前が露出されることはほぼ間違いないといえる。
そして大吾が知る限り、あの友人はそういったことが大の苦手だった。
実はそんな程度の問題ではない事をこの三人は誰も気付いていない。
外壁の爆発と続く内部の爆音に先程感じたおかしな揺らぎのために
彼の安否への不安からソコをあまり深く考えていないせいだが。

「だと思いました。ひったくりを退治した時も謙遜なさっていましたし。
 日本人の中には特出して目立つことを嫌がる人たちが多いとも聞きます。
 彼が嫌だと思うのならこの一件は極力彼の活躍を無かった事にしたいのです」

だからこそ無事戻ってくる前提での会話を少女らは続けている。
しかしシンイチの行動を隠すという行為に男の子は不満を口にした。

「お兄ちゃん強くてかっこよかったのに、言っちゃダメなの?」

「うん、そうだな。でもあいつな。
 昔から人に囲まれるとか注目されるの嫌いなんだ。
 自分で想像してみろ、知らない人たちにたくさん囲まれて、
 色んなことや同じことを何度も何度も聞かれたりするんだ。
 そんなのお前も嫌だろう?」

「…………うん、やだ。わかった。オレもあの兄ちゃん守る」

「ありがとな」

大吾の言葉にその光景を想像したのかものすごく嫌そうな顔をした男の子は
両手で握り拳を作りながら力強くそう宣言し二人はそれを微笑ましく見詰める。

「ん、ってかこれも守られた側の義務って奴か?」

「それも……あるにはありますが、私の場合すぐに戻されると思うので
 お礼をいうチャンスはしばらく作れなくなってしまうのです。
 ですから今のうちにあの方が希望されることはしておきたいと」

律儀で真面目な娘だと大吾は感心する。そしておかしくも思う。
このままではヒーロー扱いになってしまうから恩返しとして事実を隠す。
普通はその逆であろうと思えてしまうがシンイチはそれを一番喜ぶだろう。

「しかしよくそんなことすぐに思いついたな、あんた」

だからこんな短い時間でそこまで考えて行動した少女に素直に褒める。
それに彼女は少し照れたようにしながらも大きく首を振った。

「たいしたことじゃありません。憧れていた人と似てるっていいましたでしょ?
 彼は皆を守るために命がけで戦いながらも自身の武勇伝は嫌いな方でしたから」

強いのになぜと問えば自分は決して強くはないからと返した英雄。
“本当の強者はそもそも襲われたりしない”と誰かと同じことを言って。

「そっか……さしずめ今日の信一(あいつ)があんたの夢の形の一つなのか。
 そうなるとずるいな。俺たちは夢を見失ってたのにあいつは夢を超えてたのか」

「夢を、超えた?」

「さっきな。ついでにあいつが昔いってた夢も思い出したんだ。
 子供らしい漠然としたものだったけど、なんからしい夢だった」

幼馴染三人組のなかで大吾が警察官、武史が科学者を目指すといった時。
信一は具体的な職業(ユメ)を何も持っていなかったのだが憧れ(ユメ)はあったのだ。

「“頑張ってる人を助けられる人になりたい”ってさ。
 誰かを助けるのは俺達に任せるから自分はそういうヒトを助けるんだ、って」

まだまだ社会を知らず助けられるばかりだった少年の小さく幼い願い。
せめて自分を助けてくれた人に何か返せる人になりたいというユメ。
幼かった当時の大吾たちは曖昧すぎるそれを理解しきれていなかった。
おそらくは当人もよく解ってはいなかったのだろう。
だが今に限っていえばシンイチはユメを越えた先にいた。

「あ~あ、あいつらしい夢だったのに、立場変わっちまったな」

文言は嘆くようなのにその声は嬉しさに満ちて語られている。
それは特定の職業を掲げていた自分たちよりある意味難しいユメだ。
けれど特定の何かを指していない分、夢の本質(サイショ)を見失いにくい。
うまいことやりやがったと我が事のように喜んで大吾は微笑んでいた。

「そうですか。だから、どこか親近感が覚えたのですね。
 守る側守られる側の相互扶助の精神は私たちに近いものがあります」

「言ってた本人はどうしてか守れる側になってたけどな」

最初から強い者などいない。人は成長する。
知識ではそうわかっていても幼き日の彼を知る身としては驚きで、
そのステータスを知る身としては疑問はわくが追及してはいけないのだろう。
最初の再会の時に何やら事情があることや年数がずれたことは聞いていた。
きっとその辺りの話なのだろうと当たりをつけて彼は口にしなかった。
少女も会話の流れから概ねシンイチの幼少期を察してか微笑を浮かべる。

「ふふ、っと。談笑してる場合ではありませんでしたね。
 それではとりあず誤魔化しようがない事実はそのままに。
 内容だけを出来る限りマイルド且つ起こりうる範囲に変えておきましょう」

彼が飛び込んできた事と犯人たちと争った事実は誤魔化しようがない。
表沙汰になると騒ぎになりそうな素手で弾丸を掴んりドローンを撃破した事。
その辺りをありていにいえば“無かったこと”にしてしまおうという事に。

「う~ん、それだとあの男達や他の人達が違うこと言いそうだけど?」

人質と犯人の主張であるのでどちらが信用されやすいかは前者だろうが
あいにくと多くの人数差があり、信憑性は五分五分に思える大吾だ。

「大丈夫です、反省された方々はそこをよく見ていませんでした。
 主犯の彼らは事実を証言するでしょうがそこはわたくし(・・・・)がなんとかしましょう」

「なんとかって、どうするんだ?」

「こうするのです」

どこか不敵に笑うと少女は自身が身に着ける大き目のベレー帽と眼鏡を取った。
するとレンズに隠されていた金の瞳と美しい青で形作られた長髪があらわになる。
その特徴的な色と印象に残る髪型(縦ロール)に大吾は間の抜けた声をもらす。

「………へ?」

「わあぁ、きれぇっ!」

男の子は素直にその美しさを褒めたものの大吾はその姿が示す意味に固まる。
どうやればベレー帽にそれだけのボリュームある髪を違和感なく隠せるのか。
などと真剣に考えることで軽く現実逃避してしまうほどに。
ちなみに結論としては「さすがガレスト科学」で落ち着く。
無理矢理な納得ともいうが。

「ありがとうございます。小さな勇者さん。
 あなたもとてもかっこよかったですよ。あの時庇ってくれて嬉しかったです」

「えへへっ」

その半ば隠していたに等しい美貌を向けられての賞賛に男の子は照れていた。
だが、その子供を膝に乗せている大吾の方はたまったものではない。
彼女に対してやりかけた事や先程までの喋り方を思い出して青ざめていた。

「あの時の気持ちだけは忘れず、けれど無茶はしないでね。
 正しい事でもあなたがケガすると悲しむ人がいるのですから。お母様を大事にね」

「うん、わかった」

素直に頷く様子にまた笑みを見せると視線だけを大吾に向けて頷いてみせる。

「わたくしの名と言葉なら強い説得力を持たせられるでしょう。
 おそらく名乗り出ればすぐに学園に連絡がいって迎えが来るでしょうから
 よければあの方に言伝を頼みたいのですが、よろしいでしょうか?」

「は、はい! な、なんなりと!」

ひじょうに緊張した上ずった声に恥ずかしい想いがあるものの、
それ以上に大吾は彼女のような有名人を前にすることに慣れていない。
一方で緊張されるのに慣れている彼女はその態度を気にした風もなく続けた。

「お礼に今度こそ食事を奢らせていただき………日本の男性は嫌がるのかしら?」

ただ、言葉途中でその可能性に思い至り、表情に困惑を浮かべて考え出す。
彼は事件が起こる前に礼として奢った金額以上の物を強引に奢っている。
その可能性は充分に存在するのではとこの少女は大真面目に考えていた。
ならばと代案を口にするがそれは彼女自身で分かるほどぐだぐだだった。

「でっ、ではご一緒に鍛錬……というのはお礼としておかしいでしょう!?
 ア、アドバイスをっ、というのは結局一緒ではないですか!?
 そうです! 最新の武装を……一般の方に贈ってどうするんですか!?
 我が家から出せるものではほとんど地球では意味が…………あ、あれ?
 こちらの殿方にはこういうとき何をすれば良いのですかっ!?」

最後の言葉はどうやら質問ではなく自身への問いかけだったらしい。
本人からすれば予想だにしてなかった事態に彼女は頭を抱えだし、
どうしてか恥ずかしそうに顔を赤くしながら右往左往し始めた。

「え、ええぇ?」

「お姉ちゃん?」

「わたくしとしたことがお礼の仕方もわからないだなんて!
 ど、どどどどうしましょう!? 殿方の好みなんて調べてませんでした!
 このままでは満足に礼も返せない女と呆れられてしまいます! 
 どうしましょうっ、どうしましょうっ、どうしましょう!?」 

こんな子だったのか。
多大なイメージ崩壊を味わいながら慌てふためく少女の姿に微苦笑を浮かべる。
目の前に友人という立場の男がいることも忘れて思考の迷宮に陥っていた。
上流階級と異世界という二重の『文化の違い』を自覚するがゆえの混乱だ。

「いったい何をすればあの方は喜んでくれるのですか!?」

それでも必死になって『お礼』を悩む姿に大吾は目を瞬かせる。
どこか頬を赤く染めながらのセリフはある懸念を呼び起こすには充分。
たとえそれが本人にまったく自覚がなかろうとも、だ。

「………うわぁ……まじか」

憧れだった人と似ているという。
よく思い返せばシンイチを称賛するような発言が多い。
“あの方”などと特別視してるかのような呼び方。
またガレストでは有事に“強い”異性が好かれやすいとも聞く。
そしてこの態度。それを疑うなというのが無理な話である。

「ああっ、とっ、とにかく!
 決して大事にはしませんので直接お礼がしたいと伝えてください。
 クトリアのガレスト学園にわたくしの名と共に………そうですね。
 ベレー帽についてだと言えば分かるようにしておきますから!」

「は、はい……」

気恥ずかしそうにしながらも勢いで決めたような彼女の姿に
反射的に返事をしていたが内心ではこれは間違いないなと確信する大吾。
彼女は彼女で取り乱していた自覚はあるのか咳払いで誤魔化して続ける。

「ええっとその……こほん。失礼。
 このアリステル(・・・・・)・F・パデュエール(・・・・・・・・・)。今日のことは一生忘れません。
 あのような状況の中で人としての誇りを捨てなかったあなた方に敬意を。
 では、わたくしが先にここのトップに話を通してまいります。しばしお待ちを……」

格好こそ一般のそれだがまるでドレスかのように優雅にお辞儀し、
テントを出るとひとりの貴族として胸を張って仮説本部へ向かっていった。
直前の取り乱し方を見ていなければ誰もが見惚れてしまう立ち姿である。

「ハハッ、ったく色眼鏡で見てたのはこっちの方ってわけか……」

世界は違う。あり方も違う。強さも違う。誇り高さもおそらく違う。
けどあんな態度を見せられては同じ人。それもただの女の子だと思えた。
なんとか体裁を保とうとした本人からすると意気消沈する話だろうが。

「ねえねえ」

「ん、どうした?」

「おじちゃん、僕あのお姉ちゃんテレビで見たことある」

「…………ああ、奇遇だな。
 俺も見たことある………けどできればお兄さんと呼んでほしいなぁ」

苦笑しながらもその名を反芻する。アリステル・F・パデュエール。
彼女はおそらくガレストの現・大統領の次に地球のメディアに露出している。
ガレストの防衛を担い、各々が自身の領地を守護しているのがあちらの貴族。
ステータスの傾向が受け継がれるガレスト人は高ランク者を排出する一族を
貴族とし、その中でもより高い素質を持つ十の名家を十大貴族と呼んでいる。
その一つであるパデュエール家の令嬢にして次期当主がアリステルであった。
彼女は友好関係アピールのためイベントの出席や取材を数多くこなしており、
子供ですらその顔を見知っているほどに彼女や彼女の家は有名になっている。
物語から飛び出してきたような美貌と整ったスタイルに特徴的な髪型。
それでいて常に優雅に振る舞う姿に地球においてもファンは多い。
先程や店での様子を考えれば中身は初心な女の子であったが。


「しっかし信一よ、お前とんでもない女ひっかけたな」


あれは絶対に気があると邪推した大吾は心底おかしそうに笑う。
全く女っ気の無かった幼馴染に降ってわいた縁の相手が相手なために。
ここは自分が人肌抜いて伝言を“盛って”伝えようなどと考える大吾だ。

しかしこのあとに行われた聴取などで親友の無事は知れたのだが、
再会ができず、連絡先も分からず結局伝言を伝える事はできなかった。
尤も必要が無かったのだと彼が知るのはそこからさらに後の話になる。



こんな子でした(汗)
ガレストのお忍び変装グッズはすごいぜ!(棒)

明日、明後日も何もなければ更新する。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ