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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

波紋編 第二章「異世界な故郷」

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02-18 科学VS幻想2

こいつから見るとこうなっている。


 今回“槍”に下った命令は同僚のケアレスミスの尻拭いであった。
心情的に思うところが何も無かったわけではないが命じたのは直属の上司。
恩義もある相手だ。どんな無茶な命令でも槍はそれに従う心づもりである。
また、こちらで開発した新型外骨格の稼働データ取りも兼ねている。
気に入らない(くだらない)などという程度で手抜きをする理由には全くならない。


槍は件の陽動事件が起きている建物の上空で光学迷彩を使用して待機した。
対策室に配備されているセンサー類や肉眼では発見はほぼ不可能な代物。
ここでの自分の役割は単純だ。計画通りならば逃走した便利屋の抹殺。
いずれ露見するだろうが現在の露呈を防ぐには彼らでさえ邪魔である。
そして同時にイレギュラーが発生したさいに対処する遊撃役も兼ねている。
どちらにせよ依頼をした無能な便利屋を始末することには変わらないが。

そして推移を見守るべく駆けつけてみれば想定外(イレギュラー)は既に起こっていた。
対策室の初動が計算より早く、用意させた人員の半数が確保されている。
人質も大半を逃してしまい、こちらが売っていた装備のおかげで
立て籠もることには成功していたもののいつまで持つか分からない。
囮としては確かに成功しているがミスした同僚への評価はさらに下がった。
こんなこともろくにできない者達に依頼したのかと。
だがこちらは本命が無事成功するまでは迂闊な手出しはできない。
自分がいることが発覚すれば『無銘』が関わったことを確信され、
そうなればそれはもう陽動以前の問題となってしまうからだ。
幸いなことにそちらにはイレギュラーは発生せず成功したと報告があった。
しかしこちらでは内部の生命反応の多くが動き、便利屋たちが孤立している。
そして念のためにと持たせた軍用ドローンまで起動させたが即座に沈黙。
何があったのかまでは分からないが内部に“敵”がいるのは明らか。
生命反応からすればたかが一人。どれだけ使えないのかと呆れながら
便利屋を始末するついでだと外部から外壁の爆弾を爆破させ、
光学迷彩を解除しながら衝撃と粉塵で混乱する中内部に突入した。

少なからずそこで一度“槍”は我が目を、しいては視覚センサーを疑った。
装着者の首や視線の動き、表情を悟らせないために可動部位がない球形の
頭部を覆う装甲は無骨以下な外見であるが対人戦では有効な形状だった。
部分展開によって顔を出すことができないため外部情報を手にする手段が
各種センサーに完全に依存する形になっているのが唯一の不安要素だが。

だからこそ縛られた便利屋のそばに立つ“黒”にまず故障を疑った。
何せ黒い靄で形作られた人型のそれはノイズの塊のように見えたのだ。
頭部らしき部位に白い仮面が妙にはっきり映り、その考えは捨てたが。

『何者だ、貴様』

『………それはお互い様だろう……』

この地が日本であるので翻訳機を日本語に設定して問いかけたが、
あまり返事を期待していなかった。しかしその姿とは打って変わって、
人間味ある雰囲気を醸し出す声色の日本語を返してきたので、それなりに驚く。
だが、その声は相手の年齢も性別も判断できない不思議な響きを持っていた。
こちらの機械的な処理とは違う。それと比べてあまりに違和感が強い。
映像処理ソフトと音声処理ソフトを急遽立ち上げ修正しようとするが
声は変えられず映像は周囲の黒い靄を僅かに除去するのが限界だった。
おそらくあちらも新型。それも隠密性の高い物を所持していると推察。
実験中だったのか装着者が巻き込まれたのだろうと当たりを付ける。
厄介だった。双方ともに運が無いといえる。

『………こいつらの仲間、ではないな。最終的な口封じ要員か?
 だが遅かったな。だいたいの事情はもう外にもれているぞ。
 お前らが隠したかったらしい事件もいずれ対策室が見つけるだろう』

背後を一瞬見た─ような気がする─“黒い靄”はあっさりとそれを告げる。
まるで全て知っているかのような口ぶりだがフェイクだと槍は判断した。
あちらが巻き込まれただけの同業者なら接触は勿論戦闘も避けたいはず。
そのためにこの事件の裏を推察した内容を喋っているだけにしか聞こえない。
自分を含めてもう始末する意味はないとこちらの撤退を要求しているのだ。
確かに人質は脱出し対策室に確保されているが彼らから漏れる情報ではない。
しかし対策室が突入してくるのはまず間違いなく、時間の問題。
ならば、と即座にけりを付けて撤退すべきと“槍”は判断する。
こちらと直接接触した便利屋とこの黒を始末すべき、と。

『っ!』

相手の装備や実力は未知数である。
ならば抵抗させる暇もなく一撃のもと便利屋ごと両断する。
この新型の装備の中にはそれを可能とする武器がある。
ちょうど良い試運転だと一本のランスを抜いて掲げるように持つ。
取扱書によればこれは通常は見た目通りの長さの穂先しかないが、
振り下ろすことで限りなく不可視に近い刃を最長で20メートル先に出現させる。
日本人(・・・)が考える武装は相変わらず面白いとメット内で薄く笑う。
そしてそのまま黒いモヤと背後の便利屋もろともに切るように振り下ろす。

『な、に!?』

驚愕の声は黒い靄のものだ。
だがそうすぐに叫びそうになったのは紅槍も同じこと。
刃は確かに当たった。されど相手を切り裂けず受け止められている。
何をどうやってかは視認できず分からないが切った感触はなかった。

『ぐっ!』

咄嗟に両手で握り直して押し潰すようにより力を込めるが、
黒靄の脚らしきものがわずかに床に沈んだだけであった。
それだけでも驚愕に値するが即座に不可視の刃を破壊される。
これもまた何をどうやったのかが映像ではよく分からない。

『なに!?』

されど武装を破壊されたのは事実として表示されついに驚きが口から出る。
その直後のことだった。黒靄が何か動いたかと思えば衝撃が身体を襲う。

『がっ!?!?』

押される。
まるで重機に突撃でもされたかのように自身の身体が後ろへと押された。
出来たのは吹き飛ばされないように踏ん張って脚だけで床に食らいつく事だけ。
床に二本の線を刻むようにして衝撃に堪えて壁際ぎりぎりの所でようやく止まる。
紅の装甲に残るのは削ったような損傷。不可視の武装を相手も所持していたのか。
そう考えるもぱらぱらと落ちる何かの破片が視界に入って振り返る。

『いまのは………な、なに、これっ!?』

自身が叩きつけられそうだった壁には大きな五本線の傷痕。
咄嗟に巨大な輝獣が振るった爪痕のようだと感じて身震いする。
幸いにしてエネルギー製の攻撃だったのだろう。外骨格のバリアが
大半の威力を削ってくれたおかげで装甲へのダメージは軽微。
しかしあの距離で壁を大きく削り取る破壊力と不可視性は脅威。

『……なんだ、こいついったい何の武器を?』

だがそんな武器に紅槍はまったく覚えがない。
技術力と情報収集力は屈指であるはずの無銘の幹部たる自分が知らない武器。
即座に排除するか最低でも情報は得なくてはいけないと直感が囁く。
眼前のこれは自分達にとって間違いなく脅威になると本能が訴える。
システムをノーマルからバトルモードに完全移行し両手に槍を持つ。
背にマウントした残りの四本もビットモードで起動させ解放する。
名称を事情があって把握できていないがそれぞれ種類や性能が違う六槍。
伊達に組織内で『槍』という単純だが二つ名で呼称されているわけではない。
長柄武器の扱いにかけては両世界でトップクラスだと紅槍は自負している。
時間もない以上、全力で、そして一瞬で決める。意識と感覚が黒靄に集中する。
だが見れば見ているほどにどう攻めていいのか分からなくなってくる。
姿は映っているとはいえ予想外にこの黒靄は厄介だ。手足を動かせば、
少しは何をしているか予測はできるのだがじっとしていられると
黒色の塊にしか見えてこず挙動がまったく読めない。

『っ!?』

そんな一瞬の戸惑いを突くように相手は─おそらく─真横に跳んだ。
ガス状に見える存在が人のような動きをするだけで果てしなく気持ちが悪い。
黒靄はそのまま隣にあったブックストアに入ると横長の本棚を持ち上げる。
質量など無さそうにすら見える存在が物を持ち上げる光景は不気味だった。
それらの嫌悪からか。砲弾のように投げつけられたそれに反応が遅れる。
ただそれも僅かな時だ。充分挽回が可能な僅かなロスであり、
左手の槍で飛び込んできた本棚を中身ごと一閃して切り落とす。
フォトンエネルギーを収束させた穂先にとって木製の物質など、
いくら質量がそれなりにあったところで紙切れ同然だ。
そもそもそんなものを投げつけるなど意味のある行為か。
一投目の本棚の真後ろに隠れるようにあった二投目の本棚を
迎撃する意味もないと黒靄を見据えたまま無視する。
そのままこちらに激突した本棚はあっけなくバリアに防がれ、
エネルギーとの摩擦により衝突部位を大きく消失して落ちる。

『……行け』

こんなことは常識だろうと訝しむも四槍(ビット)のうち二本を動かす。
黒い靄が─おそらくだが─地を蹴って駆けてくるのが見えていたからだ。
時間差で二槍を思念操作で動かし一本目を牽制。二本目を本命にして飛ばす。
一本目を愚直なまでに真っ直ぐに黒靄目掛けて突撃させる。
防ぐなり避けるなりした所を二本目を叩き込む──はずだった。

『えっ!?』

一本目の円錐状の槍はまるで黒靄に吸いこまれるようにすり抜けた。
本当に実体がないのかと思考しかけて、その考えを即座に捨てる。
仮に紙一重で避けたり腕でいなした場合でも“これはそう見える”。
目算が甘かった。正体不明の映像阻害システムは想像以上に厄介だ。

『っ、払え!』

一本目を無きものとして進んでくる相手に向けて二本目を大きく薙ぎ払う。
牽制の意味もある。だがそれ以上にどこまで認識しづらいのかの線引き。
これは想定通り黒靄は─おそらく─屈むようにその一閃を避けてなお進む。
精密な一撃は避けられると映像として当たったか否かが判別しづらい。
大振りな攻撃は避けたことはわかるが動きが読まれ、当てづらい。
ならばと、踏み込んでくる黒に自身も踏み込み両手の二槍を振るう。
右での薙ぎ払いを仕掛け、避けさせ動きを制限させた所を左で貫く。
例え外れても誘導兵器と違って当たり外れが感触としてすぐに分かる。
しかしまたもその狙いはこの黒い靄の前に崩れ去る。
右の払いをコレは避けなかった。

『くっ、何を装着してるんだお前!?』

避けなければ当たる。当然の帰結だが触れている筈の刃先は進まない。
手応えはあるが刃が食い込んでいる感触は全くもって感じられない。
だが果たしてはそれは受け止められたからか相手の耐久力ゆえなのか。
判別ができないまま左の三叉槍を突きだそうとするがそれよりも相手が速い。
まるで右手の槍の柄に沿って滑るかのように完全に懐まで入り込まれる。
長柄武器の致命的な弱点の距離。無論そんな常識は分かりきっている。
咄嗟に残った(ビット)を相手の背後に回して同時に覚悟を決める。
次に来る相手の一撃に耐えて、後ろから貫いてやると意気込んで身構えた。

『────っっ、がっ、あ゛っ!?』

そしてその身構えごと弾き飛ばされた。
胸部に直撃したそれが腕だったのか足だったのか武器だったのか。
それさえも解らないままバリアを突き抜けた一撃は自分を宙に浮かせた。
胸を襲う衝撃に一瞬息が詰まる。そして二、三度床に落ちて跳ねては転がり、
勢いがようやく死んだころには紅槍は20メートルは飛ばされていた。
起き上りながら胸部に視線を向ければ最初の不可視の衝撃波に似た傷。
されど装甲を薄く削っただけだったそれと違い、深い窪みが出来ていた。
同種だが威力が段違いの一撃を打ち込まれたのは疑いようが無かった。

『うぐっ………そ、そうか。だから最初に本棚を……』

完全に推測になるが黒い靄にはエネルギー性の攻撃手段しかないか。
あるいはこのバリアを突破できる物理攻撃手段がないのだろう。
だからそれなりの質量の物体をぶつけることでバリア出力を測り、
そしてそれを突破できるだけのエネルギーを叩き込んできたのだ。
言うのは簡単だが行うにはバリアと自身のエネルギー出力の細かい計算と
それを最終的に可能とする高出力の武器、ひいては純粋フォトンが必要だ。

『なんて冗談みたいな代物……』

少しこちらの分が悪いかと不気味にも追撃をかけてこない相手を見据える。
自らのも新型であるが試験的な装備が多く得意の槍は後付でこちらも試作品。
推測だが相手は純粋フォトンと高度な補助システムを搭載した隠密型外骨格。
コンセプトとしては無茶苦茶だが一対一ではとてつもない脅威だった。
相手の挙動をよく把握できないまま強烈な一撃をもらうことになる。
まるで自分のような外骨格の使い手への暗殺用装備にさえ見えた。

『貴様……本当に何者、だ』

『……………』

今度は何の返答もかえってこない。
そんなものを自分達に気付かれずに作るなど不可能のはずだ。
そして数でなく質で勝負する無銘の戦闘要員にとっては見過ごせない存在。
まだ黒靄としてでも映っている段階で始末し背後関係を知らなくてはいけない。
自身の幹部権限で停止されていた電磁ネットと空中機雷を再起動させる。
紅槍が開けた穴を使われる可能性はあるが今はそこまで気を回せない。
出来る限り他者の介入を阻止したうえで眼前の相手をいまここで倒す。
紅槍はそのためにあえて得意の槍を手放して無手となると
余裕からなのか次の動きを見せない“黒”へ左手を向ける。
そして手甲に隠されていた六門のガトリング砲を露出させた。
相手の息を呑む気配を感じながらさほど狙いを付けずに乱射する。
黒靄は先んじて銃撃を避けるように後方に跳び、柱の影へと隠れていく。
鉛玉を乱れ撃つのは資源の無駄使いと感じてしまうが仕方ない。

この新型の開発コンセプトは一言でいえばガレストの技術で
地球の武装を作成した場合の性能試験という意味合いが強い。
“新型”なのは作成した者達からすれば技術融合を図る物だからだ。
そのためこれに装備されているのはガレスト製の地球の兵器か。
あるいは構想はあったが技術力が足らず実戦使用が難しい武装だ。
内容を聞いた紅槍からすれば少々開発者の趣味が入っている気がしたが。

それでも威力は旧式の物と比べれば格段に上がっていた。
機構は大差なくともそこに使われる素材の質と技術が上がれば威力は増す。
黒色の相手もまたそれに気付いたのだろう。隠れた場所から飛び出した。
一時の壁として頼りにした支柱は1秒も持たずにハチの巣のオブジェと化す。
逃げる黒靄を目で追いながら右手を変化させて隠された兵器を露出させる。
並大抵のバリアなら突破できる銃撃を前にさすがの相手も逃げ惑っている。
相変わらず実体のない黒い靄─に見える─存在が人間のような挙動をして、
デパート内を動き回っている光景は説明できない気持ち悪さがある。
今のうちに最初の要件を済ませておこうと右手の銃口を便利屋に向ければ、
相手は突如立ち止まり店舗の飾りとして使われていた天幕を剥ぎ取り、
自身に迫る弾幕を受け止めるかのように広げてかざす。

『……は?』

あり得ない光景に思わずそんな声が出た。
そんなもので防ごうとしたことへの呆れではない。
そんなもので防がれてしまった(・・・・・・・・)という驚きの声だ。
濃紺の幕はまるで壁のように相手を隠して銃撃を受け切っている。
一発とてその後ろにまで通ってはおらず、そして何故か幕は床に落ちない。
剥ぎ取った勢いそのままに広げたそれが一瞬立ったように見えたわけでも
銃弾に踊らされ立っているように見えたわけでもなく、幕が自立している。
まるでそんな置物だというかのように銃撃で多少たわむだけでそれは倒れない。
何をしたのかという疑問を抱いたまま意識だけで右手の引き金をひく。
腕そのものを砲門と化した“一発”は狙いそのままに便利屋たちに向かう。
それは彼らを物言わぬ肉塊へと変貌させる必殺の弾丸となるはずだった。

『──────っ!?!?』

絶句し驚愕だけが胸を占めた。
いま撃ったのは試作段階とはいえ小型化を実現した可視光線銃(レーザーガン)だ。
フォトンエネルギーを撃つガレストのビーム兵器とは違う地球で構想された兵器。
その速度に間に合ったことはまだいい。何故彼らを庇ったのかも、今はいい。
これまでのことからレーザーを弾いたことさえ(・・・・・・・)実はどうでも良かった。

『………冗談でしょう………そんなのアリ?』

黒靄がその()─らしき部位─に持ち、放たれた光線を弾いた棒状のモノ。
これと本棚の件により手に持った物まで靄で隠れるわけではないと判明する。
だがそんな事よりもソレはどう疑って見ても─────モップにしか見えなかった。


余談だが簡単な解説として、
ガレストのビーム兵器全般→フォトンエネルギーを撃ちだしている。
今回のレーザーガン→現実にあるらしい(艦載級らしい)兵器をガレスト技術でブラッシュアップ&小型化したもの。
発射した光線の見た目の違いはあまりない。
+注意+
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