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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

波紋編 第二章「異世界な故郷」

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02-17 科学VS幻想1

1と書くからには当然2、3があるわけで………(汗)




惨劇を引き起こしてしまった少年の胸にあったのは激しい後悔と憎悪。


だがそれをぶつけるべき邪神教団の者達は復活の儀式で自ら生贄となっていた。


ならば、残りの連中だと少年が意識を切り替えるのは早かった。


そして怒り狂いながらも与えられた邪神の情報により、


今回の儀式が復活を望む教団の一部と


分かりやすい敵の存在を望む教会の一部が


利害の一致から結託して行っていたことであり、


どの道、恩人たちが捨石にされる計画だったと知った。


そして同時に邪神の知識で他の生贄だけだったなら。


自分が憑代になってさえいなければのifを知ってしまった彼は


激情のままその地方にあったすべての教団・教会施設を破壊しつくし、


その場にいわせた関係があったかどうかも解らない信者たちを半殺しにした。


少年が通ったあとはまるで嵐でも通り過ぎたような破壊と蹂躙の痕跡だけ。


死者が出なかったことが奇跡だったと誰もがいっていた。


そして目撃者は語る。


あれは悪魔だったと。


腕の一振りで建物は巨大な爪で抉られたように細切れとなり、

その一歩はまるで巨人が闊歩したかのように大地を大きく震わせ、

人のものとは思えぬ絶叫は聞く者すべてを怯えさせ、

種類の問わないあらゆる暴力が振るわれた。

そしてそれは老若男女関係なく死の手前まで追い詰めた。


死者は確かに出なかったが地域にも心にも負わせた傷はいまでも根深い。


ゆえに今でもその地方では2年前のそれを“黒嵐の悪魔”と恐れる者は多い。


たが目撃した全員がそれを悪魔の所業とみなしたわけではなかった。



ただひとり。



白い仮面だけが暴走する彼に、されど希望を見出していた。






───────────────────────────────





三階を端末片手に、そして男の子片手に集団を連れて駆ける少女。
遠回りな道筋ながらもその全員を見事に誘導して階段を目指していた。

「────この事件が、囮?」

長身の彼は少女が推察した結論を先に聞いてオウム返しする。
どういうことだと目で問えば既にまとまっていた内容が返ってきた。

「ええ、おそらく。
 考えてみれば彼らの態度はおかしなことだらけでした。
 あの方が飛び込んできた時は混乱したのに閉じ込められた時は冷静。
 立て籠もり事件では重要なはずの人質をほとんど失っても無頓着。
 反ガレストを訴えておいて自分達だけガレストの武器を所持している。
 全ては別の目的をもってこんな事件を起こしていたからでしょう」

シンイチによる遠回しに大吾を諌めるような発言のあと。
崩れ落ちずに立っていた者達は他とその前後からして態度が違っていた。
それに対して明確な理由付けが出来なかった少女も彼の言葉で納得した。
主犯にとってこの事件は所詮茶番に過ぎなかったのだと。

「本命はここじゃなくて、けれど遠くないどこか。
 そこで起こる事件か騒動を注目させないための陽動がこれです」

「え、いや確かにこれだけの騒ぎを起こせば人の目は集まるだろうけど、
 金品狙いとか関係者に恨みがあるとかいう線もあるんじゃ?」

「いえ、ここが銀行や美術館、博物館。
 あるいは研究所のような施設なら窃盗狙いもあり得たでしょう。
 けれど、こんな面倒な手段を使って騒動を起こしてまで
 欲しいと思うほどのお金や希少な物がある場所ですかここは?」

「た、確かに」

一般人が日常生活において求めるものしか揃ってないデパート。
テロを装ってまで手に入れたいモノがある場所とは思えない。

「それに私が見ていた限り、彼らは不気味なほど何もしてなかった。
 恨みがあるならこんなまどろっこしい手段はそもそも取らないでしょう。
 第一他の方と違って彼らには沸き上るような激情を何一つ感じなかった」

しいてあげるなら思い通りにいかなかった事に対する苛立ちぐらい。
物欲も怨恨も、そして思想もなくこんなことをする理由は限られる。
騒動を起こすことそのものが目的と考えるのが無難であった。
それが愉快犯なのか別の目的を持つのかは彼に正体を指摘され、
それを否定も肯定もしなかった態度で一目瞭然である。

「おそらくあの方はその可能性に早期に気付いていたのでしょう。
 そして最終的に彼らを含めた私達がどう扱われるかまでを。
 だからいつでも出来た抵抗を好機が来るまで耐えて凌いでいた。
 彼が動いたあの瞬間がそれ、もしくは限界と考えたのでしょう」

尤もあなたの自刃は予定外だったでしょうが。
笑みを含んだ声でそう付け加えられて、思わず頬をかいて目を泳がす。
だが、その説明には聞き流せない文言があった。

「あ、いや……待って、俺たちやこいつらの扱い?」

「……これが囮の事件なら最後に主犯の彼らは逃げなくてはいけない。
 共に捕まる義理もなければこの方々の主張に付き合う意思も無いのだから。
 でもそうなれば後々捕まるこの人たちから自分たちの存在がばれる。
 それを防ぐためにこんなものを三階の床に仕込んでいたのです」

少し後ろを走っている大吾に見える形でフォスタをかざして見せた。
画面に映っているのはこのデパートの構造を簡略化した図面である。
三階の床のあちこちが赤く点滅しており先程までいた場所も含まれている。
そして注釈のように伸びた点線がそれがなんであるか端的に示していた。
BOMB。ボム。つまりは爆弾だ。

「っ、まさかこれで!?」

「ええ、そのまさかです。疑似フォトンを燃料とした爆弾。
 真下で爆発されたら私も生身ではひとたまりもありません。
 先程から遠回りしているのは万が一に備えて他の爆弾を避けてるからです」

そこまでいわれればこれでも彼は警察官を目指した人間だ。
主犯である男達が目論んだ計画がはっきりと見えてくる。
頃合いを見て彼らを残して逃走。残った人達を全員爆破して口封じ。
皮肉なことにシンイチの行動で大人の人質が大吾だけという状態だった。
後に遺体から人質と犯人を分ける作業はおそらく大人か子供かだけでされる。
そこから身元を調査できても出てくるのは今の社会に不満を持つ人たちばかり。
となればそれはただの自爆テロとして処理されてしまうだろう。
ガレストの装備を使ったのも抗議の一環と受け取られかねない。

「なんてこった。全部をこの人達に押し付ける気だったのか。
 だから、利用されただけ、死なすほどでもないって、そういうことかよ。
 でもさっきスイッチは切ったから危険は………無いわけじゃ、ないな」

自分で口に仕掛けてすぐにそうではない可能性に気付く。

「はい、同じものを他の三人が持ってない保障はありません。
 全員で逃げれば彼らは追いかけるよりこのスイッチを入れるでしょう。
 爆弾がある場所はわかってますがきっと少なくない犠牲が出ます。
 それを避けるためにあの方は残った」

「戦ってればそんな作業をする暇はない、か。
 理屈はわかるけどやっぱりいくらなんでもガレストの武装相手に……」

「だから逃げてるんです。私たちのことを気にしなくてすむように」

背後を気にせず、人目がなければ全力が出せると少女はいう。
その目にはどうしてか強い確信と信頼がある。彼ならば問題はないと。
それが本当に分からないのが大吾だ。

「今日初めて会ったんだろあんた。なんでそこまで……」

大吾とてシンイチの格闘能力をもう疑ってはいない。
想像するまでもなく本気でやりあえばこちらが一秒ももたない。
だがそれは相手も生身であればだ。もし簡易外骨格でもあれば危険。
そんなことは少女の方がわかっているはずだと大吾は言外に問う。

「…………あなたはあの方の言葉で何を思い出しました?」

「え?」

されど返ってきたのは違う話題で、戸惑う彼を余所に少女は
あの時心中に去来した想いを再度噛み締めるように胸元に手を置く。

「私も思い出したんです。幼き日に憧れていたモノを。
 そのためにずっと鍛えてきて、でもいつからかそれに蓋をして、
 周りに求められるままの自分を演じるようなってしまった。
 ………憧れてた人がガレスト政府に反旗を翻したんです」

それはガレスト全体からみても、幼き日の少女にとっても衝撃的な事件だった。
護国の英雄だった存在が突如として政府に刃向うテロリストとなったのだから。
少女が夢を見失い周りが求める人物像を演じ始めたことと無関係のはずがない。

「でも、それとこれは別の話でした。
 私が憧れたのは彼ではなく彼の行い。私たちに見せていたあの背中。
 自分は強くないのだと嘯いて、それでも誰かの前に立った彼の在り方!」

それがこの少女のユメへの出発点。同じ背中を持つ“守る者”になりたいと。

「あの方は私が憧れた人と一緒です。それが自然と出来る人。
 生身では役にも立たないこの身では足手まといに過ぎない……」

もっと非武装下の戦闘を考慮しておくべきでした。
またも悔しげに表情を歪ませて自らの無力を少女は嘆く。
ガレストの考えでは生身で敵と応対することは避けるよう教えられる。
犯罪者なら確実に武装しており輝獣の大群は生身では勝てないから。
だから常に持ち歩く。何らかの形で携帯できる兵装を所持するのはそのため。
彼女は端末を奪われたがこれがガレストなら周囲もみな所持している。
少女が戦えなくなっても周りが必ずカバーできる環境だったのだ。

「戦えないことをこんなに悔しいと思ったことはありません。
 やっと本当の憧れを、夢を思い出せたというのに……」

「気持ちは、なんとなく分かるし、足手まといなのも解ってる。
 でも、でもそれでもあいつが危ないことは違わないだろう!」

憧れの根源を思い出すという同じ経験をした二人である。
気持ちの面では理解しあえるところはあった。戦えないのも解っている。
だが大吾はそれでも近くにいたかった。自慢の友だと言ってくれた彼の傍に。
その素直な感情の吐露に少女は嬉しそうに笑みをこぼした。
どこか羨むような色さえこめて、しかし大丈夫だという。

「大丈夫です。あの方は周囲をずっと観察しながら耐えられた方です
 動けない私のせいで逃げることも立ち向かうこともできずとも、
 あえて罵声を吐き続けて皆の敵意や悪意からも守ってくれました。
 そんなことを咄嗟に思い付いてやってしまう方ですよ?」

いくら殴られ罵倒されても冷静さを失わない胆力と判断力。
それほどの者が引き際を間違えるとは少女は思えなかった。
また軍用の犬型ドローンを素手でそれも一瞬で三体破壊した手際の良さと力。
少女からすれば大吾がいう所の簡易外骨格でも正直相手にならないと感じる。
そしてそれはガレストの強者の中でさして珍しい話でもなかった。
素手である点がおかしいといえばおかしいが気にしてもいられない。
少女がすべきことは彼の戦力分析ではないのだから。

「無論、どんな強者・識者でも万が一はあります。
 でも今更戻るなんていわないでくださいよ。
 詳しく説明したのはあなたを戻らせないためです」

シンイチがなぜ残ったのか。犯人たちの本当の目的。
この建物に潜む危険性。自分達の無力さ。全てを語って理解させる。
全ては友を想うあまり来た道を戻ってしまいそうな彼を引き留めるために。

「それでも戻るというなら乱暴な手段を使ってでもあなたを連れ出します。
 あの方に守られた私には彼の高潔な行動に応える義務があるんです!」

どうか自分にそれを無事に果たさせてほしい。
嘆願するような声に大吾はもう言い返すこともできなかった。
そこにいたのは店で少年に遊ばれていた女の子ではない。
戦う者には戦う者の、守られる者には守られる者の誇りがある
守られた者には戦う者が心置きなく戦えるようにする義務がある。
本当は自分も戦いたかったガレストの少女はそう力強く訴えた。

「これがガレストって世界の人の在り方か……」

交流を始めて8年。
大吾を含めた大人達はその少女の言葉(コエ)を聞いて、
ガレスト人という人種とどこか初めて会えたような気がしていた。







───────────────────────────────





こいつはいったいなんだ。
彼らは動揺と混乱と恐怖の中にいた。
少年の推測通り。男たちはいわゆる裏の何でも屋である。
それも二束三文程度の報酬でも殺人をいとわない血も涙もない傭兵(チンピラ)
8年前の交流開始前からそう生きていた彼らにとって今の時代は稼ぎ時だった。
新たな技術に対応でき、そこそこなステータスを持てた彼らは重宝され、
また今まで以上の社会的不満があちこちで芽吹けば依頼は必然的に増えた。
今回舞い込んだ依頼は単純明快。ただ指定された日に騒ぎを起こすだけ。
内容は問わないが対策室が駆けつけてくる程で尚且つすぐに解決できない騒ぎを。
そういうオーダーを受けた時点で男たちの脳裏には立て籠もりが浮かんだ。
だから指定された日付までに場所を選び、融通された装備を仕掛ける。
使えそうな人間を幅広く勧誘し、そして都合よい言葉で扇動し集めた。
今のご時勢、異世界交流で不利益を被った人間ほど集めやすい人材はない。
使いやすいうえに使い捨てたところで誰もが勝手に納得してくれるのだから。

すべてはうまくいっていた。

金だけで雇った者を含めても30人ほどを短期間で集められた。
カモフラージュでもあり必要な武器でもある銃器も人数分用意できた。
その他に必要な装備も依頼人経由で割安で手に入り、準備は万端。
適当に騒ぎを起こして、適当なところで逃げて全てを彼らに押し付ける。
たったそれだけで男たちは破格の報酬を手に入れる────予定だった。

「なんなんだよお前は!?」

立ちはだかった少年は最初から何かおかしかった。
銃に恐怖せず素手で巨漢を殴り飛ばし囲んでも罵声を止めなかった。
いくら殴られてもその鋭い眼光が衰える事はなく、意にも介さない。
銃弾を掴み、犬型ドローンを破壊してガレストの装備を見て、余裕の笑み。
異常だった。不気味だったといってもいい。だから容赦なく武器を抜いた。
だがそも必要になる事態を想定していなかった彼らの装備はじつは貧弱。
プロテクターの付属装備である高周波の振動ナイフと短銃型ビームガンのみ。
一般向けの疑似フォトンで稼働する装備ではその程度が限界ともいえた。
いくら裏ルートがあるといっても純粋フォトンの管理は非常に厳しい。
彼らのような場末の傭兵もどきが手に入れられるモノではない。

「くそっ、くそっ、なんで効かねえんだよ!?」

それでも、生身の人間相手なら過剰な殺傷力のある“兵器”である。
ナイフは鉄をバターのように切り裂き、短銃は20センチの鉄板を撃ち抜く。
そのはずだと男達は佇む少年に向けて一斉に何度目かの(・・・・・)発砲をする。
既にマガジンに込められたフォトンエネルギーは残り二割を切っていた。
少年は避ける素振りも全くせずビームは直撃し、そして霧散(・・)している。
ヘッドギアが見せるモニターは〈 bad shot(ハズレ) 〉と訴えるが故障と信じない。
確かに当たっているはずなのにビームは穴をあけるどころか弾けて散る。
あり得ないと心が叫ぶまま乱射していくが、それでも当たっているのは
プロテクターと短銃に標準装備された照準補正システムのおかげだ。

「底辺の武器でこれか。なかなかの威力と命中精度だ……」

平然とした顔で無傷ながらすごいと褒めた所で男達の恐怖が増すだけ。
少年はまるで近所を散歩するかのように気楽に、されど感情のない顔で迫る。
自分に襲い掛かっている兵器の威力を冷静に見極めながらという気味悪さで。

「う、う、うわああぁぁっ!!」

ビームの雨の中をそんな風に歩いてくる存在を冷静に見てられる人間は稀だ。
振動ナイフを抜いて、少年の姿をした恐怖に─自暴自棄に─立ち向かう。
狙ったのは顔。それもこちらを射抜くように見詰める静かな瞳を。
男は怖かった。怯える目。怒る目。諦めた目。憎悪の目。興奮した目。
そんな目なら仕事柄腐るほど見ていたがこの状況でそうあれるあの目が怖い。
だからそれだけはこの場から排除したかった。
相手が無抵抗であるわけもないというのに。

「っ、ひゃあぁっ!? 嘘だ、嘘だっ、こんなバカなことがあるか!?」

一直線に突貫して突きだしたナイフは少年のかざした手の平に突き刺さる。
否、当たっているだけと表現した方が適切だ。刃が肉に刺さってもいない。
そして突貫してきた自分を静かな面持ちで色のない目が見据えていた。
これならば街中ですれ違っただけの相手の方が人としての反応がある。
少年はもはや理由を考えたくもないほどに静かすぎた。

「っ、ぁ……ば、化け物め!!」

「たわけ、その程度(・・・・)と一緒にするな」

そう罵るのが彼の精一杯の勇気であり限界だったが彼は意に介さない。
体格で勝っているはずの自分の突撃を片手でナイフごと受け止めている相手。
巨大な岩に突撃したのかと思うほどいくら力を込めて少年は微動だにしない。
ステータスが勝る者相手に対しても力を込める意味がないと思えた事はない。
何もかもが異常で何もかもが違う。自分たちの知るモノとコレは違う。

「さて、防御力はいかほどか」

「あ、ぁ、へっへへ……」

受けとめた手で振動する刃を握り潰しながら逆の腕が握り拳を作る。
大丈夫だ。あれはただの素手の拳のはずだと男は楽観視する。
こちらが身に纏っているのは簡易とはいえ銃器を無価値にした防具。
例え一般人レベルで強力な一撃を出せる拳であろうと不可視の膜のように
覆っているエネルギーバリアを突破できるはずがないのだから、と。
それが恐怖で麻痺した頭が下した考えだとはついぞ気付かずに。

「へへっ、がはぁっ!?!?」

恐怖から逃れるように笑っていた顔が一気に歪む。
胸部を覆っていたプロテクター目掛けて大振りな一撃が叩き込まれた。
途端に衝撃で息が詰まり、視界が白く染まって彼の意識はそこで途切れる。

「うぬ?」

戸惑ったような声と共に殴られた男はその場で仰向けに倒れこむ。
胸部を覆っていた装甲はひび割れ、転倒の衝撃がトドメとなって砕け散る。

「これがバリアか?
 なんかどっかで似たようなの殴った覚えが?」

なんだったかと小首をかしげる仕草さえも残った二人には恐ろしい。
ここにきてようやく、あるいはやっと敵う相手ではないと認識する。
プロテクターが底上げした敏捷さと補助ブースターが火を噴く。

「───おや、どこに行くんだ?」

視界に彼を収めたまま全速力で後退したはずが見失って背後から声。
慌てて急停止した彼らを少年は不気味なほど明るい笑顔で出迎えた。
もう彼らには逃げる権利さえ許されてはいない。男達の悲鳴が木霊する。
それはすでに二階に下りていた少女らには─運良く─届かなかった。






男たちに与えた恐怖の仕掛け(タネ)はじつは単純なものであった。
『魔装闘法術』というファランディアにかつてあった古い魔力運用法だ。
この呼称はあちらでの呼称を無理矢理日本語風に訳した場合の表記である。
これはファランディアで魔力という一種の生体エネルギーが発見されたさいに
ヒトが編み出した歴史上初の“魔力の使い方”であり究極の強化術だ。
内部に魔力を流して基本能力そのものを底上げしてしまう柔の型。
外部を魔力で包み込み対象の性質を変化させずに硬さを与える剛の型。
魔装闘法術とはこれらを使い分ける。あるいは同時に運用する術。
現代では廃れてしまったものだが邪神の知識を受け継いだ彼は
数多知る戦い方からこれが最も自分に必要なものとして選んだ。
正確には、暴走した時に無意識ながらに使っていた、なのだが。

それからも使い続けた理由は三つある。
一つ目はいくら技量が高くとも他のステータスが標準以下だった事。
身体を強化する術は彼にとってどうしても必要なものだった。
二つ目はその中で最も強力であり世に知られていなかったこと。
効果が弱い既知の術では元が低い彼にとってはアドバンテージにならない。
既に廃れ、魔力を使うほど効果が上乗せされるこれは都合が良かった。
三つ目は必要なのが魔力だけであり余計な手順がいらないこと。
特定の道具も武具も不要で魔法のように唱える必要性もない。
先程口にしていたのはこちらにきて初めて使うことになり、
また絶対に失敗できない状況だったために行った軽い自己暗示だ。

概ね攻撃を受け止めているのは剛の型。身体能力を上げているのは柔の型。
ビームや刃が“当たらない”のは魔力の膜を張って防いでいるから。
あり得ない速さと力を発揮するのはこれがランクさえ底上げするから。
地力が他者に劣る彼が戦えているのは技量ランクの高さによる引き出しと
魔装闘法術による強力な補助効果があってこその代物であった。



「こんなものか」

気を失った男たちを彼らが持っていたロープで一括りに縛りあげる。
無論そのなかには最初に気絶させた三田という男も入っている。
怯んだ残り二名の意識を刈り取るのは彼にとって目を瞑ってもできること。
否、目を開けていても(・・・・・・)できると彼の場合はいうべきであろう。

「……技術が発達した世界の武装、か……」

手間ばかりかかった立て籠もり事件の終結にしてはじつに呆気ないが、
彼の感想は意外にも重たい。何せ味わった武器・防具は間違いなく一級品。
これを問題なく量産でき、尚且つ誰にでも扱えるというのは脅威である。
一定の訓練は必要だろうがファランディアで新人を鍛えあげるより短期で済む。
何せプロテクターを身に着けた後から格段に男達の動きの洗練さが上がった。
動きを補助する機能もあるのなら使いこなす訓練は最低限で済むだろう。
威力も難なく防げてはいたが同じ男が振るうただのナイフを防御するのに
仮に魔力を10ほど消費する場合、あの武器は30ほど消耗させられた。
単純計算で3倍。使い手や状況、装備が変われば消耗度合は上がる。
ビームは比較対象がなく判断しづらいがナイフと同じ換算にすれば45ほど。
そこから計算すれば一般的な騎士や魔法使いの攻撃とさして違いがない。
傭兵(チンピラ)が一人前のそれらと同程度の攻撃力を持っているのだ。
防御力も彼の拳は男を転倒ではなく殴り飛ばす予定だったのを考えれば、
衝撃緩衝能力と単純な硬さは見た目以上であると結論を出していた。
しかもそれほどでありながらこれらは予備兵装に近い代物と考えられる。
ここから正規軍の装備の威力や性能を推移してシンイチは頭が痛い思いだ。
思わずそれらで武装した60億を超える地球人の兵隊を想像して背筋が凍る。
彼にとっては脅威とならなかった武器だがそこは彼だったからでしかない。
シンイチと魔装闘法術の相性の良さと扱いの妙さゆえといえるだろう。
それでも十万、二十万で攻められればいずれはこちらが力尽きる。
逆をいえばそこまでなら対抗できると考える異常さには無頓着だが。

「相変わらず最悪の想定が最悪過ぎる……」

自らがした想像の光景にげんなりとなってしまうシンイチだ。
彼が考える最悪が重なった最悪はもはや世界が崩壊するレベルの話。
それをあり得ないと楽観視できる明るい情報を彼は何も持っていない。
分からない事が多い場合はどうしても悲観的に物事を考えてしまう。
それは使命を託され且つ頼る相手もいなかった彼としては当然の思考。
だが、もしそれが当たった時、当たりそうになった時、自分はどうするのか。
ここは彼が一種の許可証を持っていたファランディアではないのだから。
それを考えると無意識に手が顔を覆うように触れていた。

「………なんで、これを俺に託したんだよ……」

そこに無いようであるモノに複雑な感情が動く。
世界の陰日向となって戦乱を防ぎ、厄災を打倒する仮面の使命。
重たすぎるそれが自分を生かした要因の一つである事は否定しない。
それでも文句の一つもいいたくなる。なぜ自分なのかと。
けれどすぐさま首を振って悪い癖だと意識を無理矢理切り替える。

「ほんと、やってる時は悩まないのにな。
 終わるとぐじぐじ悩みだすんだから相変わらず情けない男」

事件や騒動と相対している時は何をいわれてもされても自分は揺らがない。
けれど終わってしまうとああだこうだと無駄に悩んで際限なく落ちていく。
自嘲して自らを笑ってしまう事でなんとか心の均衡を保っていた。

「ステラにも散々言われたなぁ……」

───責務を果たしておいて卑屈に笑うのはやめなさい

記憶の中で鋭い視線と口調で諌めてくる姿が思い浮かび苦笑がもれる。
あくまで精神衛生上の問題だから見逃してほしいのが彼の本音だ。
無様極まりないなと再度自嘲して意識を切り替え、周囲の気配を探る。
そして大勢のそれが建物の外に出たことを確認してホッと息を吐く。
壁越しで三階から地上までの距離となると気配を読んでいるというよりは
それぞれの魂の存在を霊視しているようなものに近いが細かくは視えない。
ステータスは視えず確認できるのはせいぜいその数と位置ぐらいである。
だがそれでも視える範囲なら人の動きをほぼ正確に認識できる便利な術だ。


だから油断していたといえば、していた


果たしてどちらが先だったのか。
外部からの爆音が彼の耳に届いたのが先か。
濃密な殺気が三階という空間を覆い尽くしたのが先か。
とにもかくにも感知できない敵意を持った第三者が、来る。

「マスカレイド!」

意識した途端反射的にシンイチは仮面を被り、黒衣をまとった。
そうしなければいけないと彼の全身が否応なく反応したのだ。
この相手に自分は正体を絶対に隠さなければならない。
そしてこの姿でなければ太刀打ちできないかもしれない、と。
思わせるほどの苛烈さと鋭さがこの階層を支配した殺気にはあった。
黒衣への変身が終わるのと内壁が爆音と共に砕け散ったのはほぼ同時。

『まったくっ、終わったと思ったらこれか! じつに俺らしい!』

毎度のことに悪態を吐きながら破壊の粉塵が舞う先を見据える。
15メートルほど先からの視界が一部閉ざされソレの全体像は視辛い。
しかし噴煙の向こうにあってなお目立つ紅き全身甲冑(パワードスーツ)はよく見えた。
そして徐々に晴れていく視界のなかで黒と紅は視線を─おそらく─ぶつけた。
分厚い装甲で覆われた紅の人型。頭部は固定された外観で内部の動きが出ない。
どこを見ているのかさえ判断できないがそれでもシンイチは視線を感じた。
マスカレイドとなって攻撃もしてないのに視認されたのは初めてのこと。
被った瞬間をギリギリで目撃されたのかと思ったが謎解きは棚上げする。
複数の槍を背負った姿は異様だがコレがこの階を覆う殺気の根源なのだから。
悠然と立つその姿だけで歴戦のそれを感じさせる余裕と威圧感がある。
だが何よりこの距離で霊視しても魂がはっきりと見えない不自然さに驚く。
大まかなステータスどころか年齢も性別さえも覗き見ることができない。
そういったことも初めてで警戒心がさらに跳ね上がる。

『何者だ、貴様』

『………それはお互い様だろう……』

先に問われてしまったが、おかげで彼は確信が持てた。
くしくも仮面の声と同じように紅の槍兵は老若男女が判断できない声を発した。
仮面のそれと違うのは明らかに機械的に変質させた声だとすぐに分かる点だ。
されどそれでもその声の下にある困惑までは隠しきれていなかった。
それに全く見えないわけではない。ヒトの魂があることまでは分かる。
相手は間違いなく人間だ。

『………こいつらの仲間、ではないな。最終的な口封じ要員か?
 だが遅かったな。だいたいの事情はもう外にもれているぞ。
 お前らが隠したかったらしい事件もいずれ対策室が見つけるだろう』

だからこそ面倒で厄介だと思いながら遠回しに撤退を勧める。
そもそも大吾らが外に出れた時点で対策室は部隊を送ってくるだろう。
それと鉢合わせてして困るのは相手も同じはずだと考えてだ。

『っ!』

だがそれはどうやらシンイチだけのことらしい。
背負った中から一本の槍を片手で掴むと穂先を天に掲げるように持った。
紅の槍兵が持つ槍はそれぞれ形状が違い、掴んだそれはどこか薙刀に似る。
あれは厳密には槍ではないが穂先の形状からしてそれが一番適当だ。
どちらにせよ長柄武器とはいえ15mはある距離を即座に縮める物ではない。
顔が見えない以上手足の動きに集中して接近を警戒するが、動かない。
動いたのは掲げたそれをその場で振り下ろそうとする腕だけ。

『な、に!?』

途端、背筋に氷塊が滑り落ちるような寒気。
頭で理解するより早く染みついた経験とそれがもたらす勘が肉体を動かした。
一瞬で全身に魔装闘法術をかけ、腕と足により多くの魔力を流すと
頭上で両腕を交差して、ソレ、を迎え撃つように受け止めた。

『ぐっ!』

腕に走るのは予想より重い衝撃と鈍痛。
不可視の刃のようなものが自らの腕に振り下ろされたと感じる。
魔力で強化し覆った腕にさえ通用する一撃は強力で鋭い。
両足が床に10センチは沈み、足形の窪みが出来上がる。
相手が何をしたのか解らないまま、されど彼は動きを止めない。
受けとめた刃を交差した腕で挟みこむとあたかもそんなものはないと
いわんばかりに力技で腕を振り切って、一気に破壊した。

『なに!?』

それによるあちらの動揺など見ることもせず。
砕け散った破片のような物も無視して右手を開き、指を魔力で覆う。
振り切って下げられていたそれを紅の槍兵目掛けて全力で振り上げる。
当然距離は変わってないためその腕が届くことはあり得ないのだが、
それは間違いなく彼にとって無意識に近い形での反撃(・・)だった。

『がっ!?!?』

一瞬の間のあと紅の槍兵は何かに弾かれるように押し出されていく。
床に二本の轍を作りながら壁際まで押されてようやく止まった。
そして紅はそこで驚愕の声をもらすことになる。

『いまのは………な、なに、これっ!?』

相変わらず頭部は隠されていてどこを向いているか分からない。
されど体は後ろの壁に向かれておりその光景に愕然としているようだ。
内壁には刻まれた五本の線のような文字通り“深い爪痕”が残されていた。
そして唯一あった空白部分を埋めるように紅の装甲にも同じ痕がある。
変声機越しにでさえ息を呑んだのが分かるほど槍兵は動転していた。

『あ……』

一方で内心やってしまったと冷や汗をかくシンイチ。
コレを使うことはまだ自重しようと思っていたのだ。
魔装闘法術は強化術だ。ゆえに遠距離攻撃は本来はない。
ただ邪神の知識と経験、異世界人であった彼の発想がそれを変化させた。

──体に纏った魔力を腕を振る勢いで飛ばせるんじゃないか?

そんな単純な思いつきで魔族以外には難しい純粋魔力攻撃を可能にしていた。
破壊力という点だけ見れば同じ量の魔力を使った魔法よりは威力が高い。
ゆえに魔力が視認できない相手ならば決定打に成りえる技だったのだ。
しかし。

『今のでその程度とは、なんて重さと硬さ……』

『……なんだ、こいついったい何の武器を?』

装甲の表面を削っただけのような損傷と吹き飛ばなかった体。
結果的に互いに一手を打ちあった状態で彼は相手を警戒して動きを止めた。
明らかにこの相手は装備も中身も先程の男達とは天地ほど差がある。
時間をかければ対策室が駆け付け、目撃される恐れもある。
だが目の前の相手が去らなければシンイチも去ることができない。
そして気を抜けばやられるのは自分だと判断して油断なく見据えている。
相手もそう判断したのか背から二本の槍をそれぞれの手で掴み取り、
残った四本の槍を中空に浮かせて穂先をすべて自分に向けてきた。

『自立浮遊型の誘導操作兵器、か………槍使いのくせになんてSFな』

個人装備でそれを可能とする技術に驚嘆する。
なれどこちらはファンタジーな暗殺者だと胸中で息巻く。
決して引けは取らないはずだと全身から無駄な力を抜いて、自然体に構える。
空間に広がっていた殺気が一点に集約されて注がれたのを受け流すために。
二槍を構え、四槍を浮かせて舞わせる紅の戦士は完全に自分と戦う気だ。
その事実をはっきりと認識して、思わず見えないだろうが口が笑った。
この場でおそらくこの戦いの重大さに気づいているのは自分だけだと。
誰も知らず誰も見てない所で起こるにはあまりに歴史的価値のある戦い。
それがこんなどこにでもあるデパートで起こるなど笑うしかなかった。




なにせこれは異世界の科学をまとった戦士と



異世界の幻想をまとった暗殺者がぶつかりあうという



本当ならあり得るはずがない史上初の戦いだった───
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