挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

波紋編 第二章「異世界な故郷」

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

40/184

02-14 恥を知れ

なんとか一ヶ月止めることは避けれました……ギリギリですけど(汗)
偶然なんだけど、このサブタイ自分に言われてるみたいです(苦笑)

言い訳させてもらえると本当は9月末に更新できる予定だったんです。
ところがそこから我が家は葬式ラッシュでてんてこ舞いに。
(身内は曾祖母だけで他は出なきゃいけない、だけど)
書く時間が全然作れず、ある程度書き溜めもしたかったので
今日という日になったわけであります。
今の書き溜め分と執筆スピードなら再開してもいいかと。


けど今回は別に再開にふさわしい話でもなんでもないんですけどね
むしろ、ちょっと、重い?
彼が邪神復活の憑代に見出されたのは何の才能もない少年だったからだ。

ステータスオール()。ランク評価上、一桁の年齢の子供と同程度。

しかも異世界の者であるためにわずかとはいえあった魔力も使えない。

素質や将来性を考えれば、あるいは赤ん坊にすら劣るかもしれないランク。

それが、残念なことにその少年の限界だった。

ショックではなかったといったら嘘になる。

だがそれよりも彼は“やっぱり”という気持ちが大きかった。

何をやっても人より劣っている。

常に誰かに守られ、助けられている。

自分ひとりでは何もできない。

それらは少年がずっと気にしていたことだった。

まだ13歳とはいえ、いやだからこそ彼は周囲と自分を比べていた。

頑張って人の何倍努力しても、勉強でもスポーツでも誰にも勝てない。

どうしてだと内心悩んでいた答えを提示されたようでむしろ納得したほど。

だが、それは後にステータスに対する正確な知識を手に入れると

大きな勘違いであったと知ることになるのだが、この時はそう思っていた。

それでも平和な日本にいれば、命にかかわるほどの話ではない。

だが街の外には魔物、中には無法者。

いつそれらと遭遇してもおかしくない世界でそれは致命的な弱さだった。

命を救ってくれた恩人たちにさらに守られ続ける日々。

しかもその多くは自分とそう変わらない年齢の子供たち。

これで戦い以外のことが出来るのなら良かったのだが、

親の庇護を当たり前に受けて生きてきた子供が出来ることなど限られている。

そのうえ彼はあまり器用でなく何かを新しく習得する能力も低かった。

より正確にいうなら片言とはいえ異世界の言語を覚えるのが限界だったのだ。

恩を返したい。役に立ちたい。

彼らと一緒にいてもいい人間でありたい。

気ばかりが焦って、逆に失敗ばかりを繰り返す。

そして片言でしか周囲と意思疎通できないせいか。

互いの言葉は一緒にいればいるほど噛み合わず、

焦りと不安と孤独感の中、少年は強く願うようになる。



“力が、欲しい”




それは本当は誰かのためを想った優しい願いだったのに。


どうしてあんな闇を招き寄せてしまったのだろうか。





───────────────────────────────





デパート三階はおおよそ娯楽に関係した店舗が集うフロアだった。
書籍からDVD、玩具、ゲームといったものを取り扱う店が揃っており
比率として若者が多く実際にフロアを見回せば客層はそれだった。
だから、というわけでもないが“彼ら”に違和感などなかった。
二十代半ばといった外見の男女がフロア中で天井に向けて発砲する。
中にはデパートの店員もいて、その凶行も客達を混乱させ怯えさせた。

「キャァッ!?」

「うわぁっ!?」

本物は見慣れず聞き慣れずとも目と耳の肥えた日本人だ。
それが何の音で手にした武器が何かなど解説されなくとも理解できる。
だからこそ皆が続くように悲鳴をあげそうになるがそれは黙らされた。

「静かにしろ! おとなしくしてれば危害は与えん!」

一人の男が自動小銃をまた天井目掛けてフルオートで発砲してから怒鳴る。
言外にいうことを聞かなければハチの巣だと告げられ悲鳴もあげられない。
複数人の武装した者達が脅すように誘導して一か所に集めていく。
運良く階段やエスカレータ近くにいた客たちは一斉に駆け下りていくが
犯人たちはそれは仕方がないと諦めているのか多くの人質はいらないのか。
見逃されることになったのだが運が悪かったのはその中間にいた客達だ。
犯人たちからも階段からも微妙な距離にいた彼らの動きはバラバラ。
逃げようとする者もいれば恐怖から動けなくなる者が点在していた。
そしてバラバラのそれに翻弄されて何もできなくなっている者も。

「え、あっ、その、みなさん慌てな、きゃあっ!?」

中でも比較的冷静さを持てていた“ベレー帽の少女”が一番不運であった。
逃げ出した者を避ければ止まっていた者にぶつかってしまう。
それから離れればまた逃げようとする者が目の前に迫ってくる。
断続的に続く銃声に誰もが冷静な状態ではなく他人を気遣う余裕がない。
そして何度もそんなことが繰り返され、誰かとの衝突で少女は転んでしまう。

「あたっ……わ、私がなんとか……あれ!?」

せめて動くこともできずにいる人達だけでも逃がさなければ。
そんな使命感に燃えた少女は───あるはずのモノが見当たらず呆然とする。
転んだ時に落としてしまったのだと理解した時にはもう少女は詰んでいた。

「探し物はこれかな、お嬢ちゃん」

そして上から降りかかった嫌味な声に背筋が凍る。
武装犯の一人が気味の悪い笑みを浮かべて少女の端末(フォスタ)を持っていた。





「さっさと歩け!」

「わかった、わかったから!」

時折発砲して脅しながらフロアの端にあるスペースに客達は集められた。
書店の隣に設けられた休憩か客の読書のためと思われる場所には
子供を含めてもおよそ50人ほどの人数がひとまとめにされている。
犯人達は10人にも満たないが銃を向けられれば抵抗の意志は折れていた。

「さて、まず諸君らの誤解をといておこう」

そんな彼らに向けて自動小銃を所持したスーツ姿の男がベンチに立って語り出す。

「我らは正しき義のために立ち上がった勇士たちである!」

こんなことをしておいて何を言うのか。
誰もがそう思ったが周囲を武装犯たちに囲まれた状況では黙るしかない。
スーツの男もそんな反応は分かっていたのか狼狽える事もなく続ける。

「無論、説得力に欠ける行動をしているのは理解している。
 だがっ、今一度ここで諸君らに考えてほしいのだ!」

身ぶり手振りを交えながら男は真剣な顔で強く訴える。

「この8年でなにがあったのかを!
 ガレストという異世界が現れて、歪んでしまった私たちの世界のことを!」

まるで演説でもするかのような熱の入った弁舌は
銃で脅されているという不安定な心理状態の客達の意識を少しずつ集めていた。

「無能な政府が訳の解らない存在を受け入れたせいでこの世界は変わった。
 みな覚えがあるはずだ。昨日まであった当たり前の日常が壊され、
 掴めるはずだった夢を奪われ、みじめに奴らのルールに押し潰された事が!」

少なくない人数が覚えがあるのか表情を変えた。
彼らは皆若く、十代後半から二十代全般の者が多い。
言い換えれば8年前はまだ学生か新社会人だった者達。
その時から始まった交流による混乱の煽りを一番受けた年代といえた。
程度の差はあれどスーツの男が言ったことに誰しもが覚えがあった。

「異世界交流などしなければ良かったんだ!」

「政府は何も考えずに受け入れたのだ!」

そしてそれに続くようにして武装犯の仲間たちが口々に叫ぶ。
自分達の正当性とガレストとの交流の闇を暴くように。

「俺はボクサーを目指して毎日死にもの狂いで頑張ってたのに
 奴らが現れたせいでルールが変わってデビューさえ出来なかった!」

「私も陸上で奨学金がもらえるはずだったのに!
 今まで何にもやってなかった連中が選ばれて落とされた!」

「俺はガレストが色んなものを持ち込んだせいで
 会社は商品が売れなくなって倒産に追い込まれた!
 なのに運良く委託を受けれただけの会社が生き残るっておかしいだろ!」

「私の家族はみんなガレストのせいで不幸になったのよ!
 ガレストの機器が使えないからって両親は仕事を失った!
 妹はステータスが低いって今も学校でいじめにあってる!
 私は憧れの仕事につけるはずだったのにガレスト人に奪われた!」

客達を取り囲む犯人たちの悲痛な叫びとガレストへの憎しみ。
人は単純な生き物で“努力したのに理不尽な扱いを受けた”という話に弱い。
それが自分に銃を向けているような相手でも、いやだからこそ同情する。
どれもが客達の身にも起こってもおかしくはなかった話。
あるいはこれから起こるかもしれない話なのだから余計に。

「こんなことがあっていいのか!
 政府はいまでも言う。異世界交流だの新しい時代の幕開けだの。
 そんなものはまやかしだ! 気付くのだ諸君!
 ガレストが現れたせいでこの世界はおかしくなったのだと!
 確かに新しい技術は入った。ではそれを今まで研究していた者はどうなる?
 新しい雇用もまた生まれた。それで仕事を奪われた者はどうなる?
 変化に犠牲はつきものだ。ついていけない者は切り捨てるというのか!!」

スーツの男の発言が小さくは無かった彼らの不満を的確に刺激した。
変化の恩恵を受け取れるのはごく一部だ。普通に生きる人たちにとって
この変化はそれまでと違う生き方を程度の差はあれど彼らに強要していた。
だが殆どの者は仕方がないと諦観するか少ない恩恵と便利さを受け入れた。
それらで少なからずあった不満を誤魔化したともいえる。

「きゃっ!」

その裏で別の男の指示のもと、ひとりの少女が客達の前に突きだされる。
突き飛ばされて床に突っ伏した彼女は即座に上体を起こすも息を呑んだ。
武装犯たちの言葉は少女も聞いていたので反ガレスト主義者と判断していた。
だから彼らからガレスト人である自分への視線が厳しいのはまだ理解できる。

「な、なに……?」

意味もなく体が震えた。それ以外の視線に恐怖を覚える。
少女はベレー帽で頭部がほぼ覆われているので傍目には分かり辛いが、
その青い髪が完全に隠れているわけではなく一目でガレスト人と分かってしまう。
眼光鋭く、恨みがましい視線が少女をそうだというだけで貫いていた。
少女に顔を向けてない者の方がまだ良心的だ。睨みつける者とて少なくない。
言外に“お前らのせいだ”といわれた気がして少女は衝撃を受ける。
悪感情を明らかに狙って煽ってガレスト人を目の前に連れ出す。
前に人心は感情の向かう先を用意してやれば簡単に操れるなどと
いっていた者の言葉が浮かんでしまって言葉が無い。

「こんなことって……」

けれども少女はこれから自分が何をされるかの怯えより
こんなにも人々に自分達への悪感情があったことが衝撃だった。
うまくいってるのだと聞いていた。どこでも歓迎されていた。
互いの世界に無い要素がそれぞれ入って進歩しあっているのだと。
少女はそこからこぼれ落ちてしまう者がいる事を知らなかったのだ。

「………ちっ」

絶句し、言葉を失った少女の態度が予定外だったのか気にいらないのか。
舌打ちしたスーツの男は彼女を見下ろしたままよく響く声で演説を続ける。

「見ての通り、こいつはガレスト人。
 けれど少女の外見に騙されてはいけない!
 彼らは人間などではない! 私たちの世界を壊す悪魔も同然の存在だ!」

やれ、と視線で示す。
言葉を証明して見せようというのか。
合図を受けたのは犯人たちの中で一番の巨漢。その手には棒状の物体がある。
デパート内のどこかにあったのだろう飾りがついたチェーンポールだ。
本来なら人の誘導や立ち入り禁止の区間指定を示すための道具は
鎖を外され、いま抵抗のすべがない少女に凶器として向けられる。

「っ!?」

男が両手で掴んで振り上げたそれは重石の部分を向けている。
振り下ろされるそれを前に少女は咄嗟に頭や顔を庇って腕を交差させた。
さすがに目をつぶった者もいたが、彼らの前でその異常(フツウ)が起こる。

「くっ、化け物め、このっ!」

見るからに腕力の強そうな男が我武者羅にポールを振るっている。
鈍い音を響かせ、少女に向けて凶器が何度も振り下ろされていく。
たがそれを彼女の細腕はなんでもないかのように受け止めていた。

「ガレストさえ、お前らさえ現れなければ!!
 俺はなにも失わなかったんだっ、この悪魔めっ!」

「や、やめてっ、っ!」

衣服はたしかに歪むし汚れもつく。
されどかざした両腕は叩きつけられる衝撃を前に微塵も揺るがない。
平均的にステータスが高い種であるガレスト人。少女の耐久はB+だ。
そして筋力はAランク。それらが合わされば見た目の筋肉の差は無意味。
ただし、それはこんな状況でなければ、の話だが。

「どうだ、これは? いやなんなのだこれは!?
 あれだけ叩きつけても痛くもかゆくもないこの異常!
 見た目が似ているだけでこいつらはみんなただの化け物なのだ!」

「そんなっ、きゃっ、やめっ!!」

「お前らが、お前らのせいで!!」

否定の言葉をのべたくとも振り下ろされる凶器は止まらない。
だが少女は耐えられるだけであり痛みも衝撃もないわけではない。
一撃が入るたびに顔は歪み、怯えと恐怖に身体が縮こまっている。
だがそんな表情を武装犯たちに思考を誘導されている彼らは気付かない。
彼らの目には暴力の前に生身でケガの一つもしない恐ろしい生物(・・)がいるだけ。

「このままではこんな化け物たちにこの世界は支配される!
 今こそ地球人としての誇りを持って立ち上がるべきだ!
 ガレストを追い出せ! 俺たちの世界に化け物はいらない!」

客達はその光景を震えながら見ている。
どれだけ凶器をふるっても傷つかない化け物に皆怯えて。
その視線が何の遠慮もなく“お前が恐ろしい”と少女に伝えていた。

「っ、やめっ、ん!」

振るわれる暴力に少女は抗えない。どうすればいいのか分からない。
凶器を振るう男が怖い。向けられる殺意が怖い。周囲の目が怖い。
何もかもが恐ろしく、何がどうなっているのか分からない。
助けを求める選択肢さえ少女の頭からは消えている。

「くたばれ化け物っ! この、このっ、ぶっ!?」

乱打され続ける行為が、突然変な声と共に止まる。
何があったのかと見上げれば男の顔に粘着質な物体がへばりついていた。

「やめろよ!」

そして何かを投げつけたポーズのまま小さな男の子が巨漢を睨みつけている。
足元には捨てられた玩具のパッケージ。そこには『スライム』と書かれていた。

「お母さんいってた!
 女の子に乱暴するのは最低だって! お姉ちゃんから離れろ!」

「このっ、ガキ!」

顔に張り付いた玩具のスライムをはがして床に叩き付けるように投げ返す。
足元に叩きつけられ、そして怒りの矛先が自分に向いて子供の顔は引きつった。

「っ、こ、怖くないぞ! お前みたいな悪者に負けるもんか!」

巨漢の相手から威圧的に向けられた眼光に、されど子供は気丈に睨み返す。
腰は引けて、身体は全身が震えていたが歯を食いしばって耐えている。

「ガキがわかったようなことを!」

少年のそれは確かに勇気ある正しき行いだったろう。
だがこれは蛮勇でもある。彼には犯人たちに立ち向かえる力が無い。
そして相手が子供だからと見逃せるほど彼らそのものが冷静ではない。

「邪魔するなっ!」

巨漢の標的が変わる。
少女に向けていたポールを躊躇なく子供へ振り下ろす。
客達からは悲鳴があがり、咄嗟に子供から距離をとって逃げた。
脚がすくんだ男の子だけが一歩も動けず迫る凶器をそれでも意地で睨む。
その光景に、一秒後の未来に、少女は叫びと共に飛び込む。

「っ、ダメッ!!」

巨漢と男の子の間に体が割り込み、自らを盾とする。
子供を抱きかかえて庇う少女の背にポールが振り下ろされた。

「あっ、ううぅっ!!」

「お、お姉ちゃん!? だ、大丈夫、ねえ!?」

苦痛に顔を歪めた少女に腕の中の子供が必死に声をかける。
それにぎこちない笑みを浮かべて大丈夫だと言葉を返す。
いくら耐久が高くとも意識してなかった場合は格段に防御力は下がる。
庇う事を強く意識したため敏捷さは発揮されたが自分に当たる事は失念した。

「うぅ……いったい、なにをするんですか!?
 この子はあなたたちと同じ地球人でしょう!
 あなた達が恨んでいるのは私たちなのに、どうしてこの子まで!!」

「う、うるせえっ! お前らを庇うのが悪いんだ!
 子供に何が分かる。何にも知らないガキが好き勝手いいやがって!
 ガレストに味方する奴は誰でも敵だ! ガキでも許さん!」

「なんて無茶苦茶な……」

呆れ半分、怯え半分で少女は腕の中の子供はより強く抱きしめる。
犯人たちの目にひとつとて正気の色がないのを感じ取ったからだ。
これまでの主張には一理はあるように聞こえたが子供を襲った時点で霧散した。
それが目の前の巨漢だけの感情的な暴走ならばまだ良かったのだが、
他の犯人たちの目には非難する色はなく怒りと憎悪だけがある。

「俺たちがここから示すんだ。ガレストなんざいらねえって!
 俺たちの世界を取り戻すんだ。俺の未来を取り返すんだ!」

「そうだ!」

「やってしまえ!!」

仲間たちの賛同と興奮の声を聴いているのかいないのか。
巨漢はその手からポールを落とすと拳銃を握りしめた。
その表情には昏い笑みだけが浮かび、ヒトを撃つ事への躊躇いはない。
あるいはそんなことを考えてもいない顔だった。

「いくら頑丈でもさすがにこれなら死ぬだろう?」

「なっ!?」

むしろあったのは狂気だけ。
そして彼らの言う通り、生身で銃弾を受けてはケガでは済まない。
少女自身はもちろん。腕の中の男の子も。

「待って、せめてこの子は!」

「死ねぇっ!!」

「邪魔だ、どけ!」

無慈悲な金属音と共に黒い銃身が向けられる。
苦痛に顔を歪めながら少女は腕の中の少年をせめてと突き飛ばした。
違う所から別の声が聞こえたような気もしたが気にしていられない。
横目で引き金にかかった指が動いたのが見えたが銃口の向きは変わっていない。
良かったと安堵して動かない(・・・・)体ながらに身構えて目を瞑る。
そして響く死刑宣告のような銃声に身体を縮こませたが──────衝撃がこない。

「っ…………え?」

少女は恐る恐る目を開けて見上げれば見覚えがあるような背中があった。
その“彼”が巨漢の腕を大きくそらして銃口を天井に向けさせていた。


「くそったれ!
 毎回急いで駆けつけてるのになんで毎回ギリギリなんだ!!」


今日一日で通算三度目の遭遇となった少年は訳の解らない憤りを叫びながら
下から突き上げるような鋭い拳で巨漢の顎を文字通り殴り飛ばす。

「心臓に悪すぎるんだよ!」

「がっ!?」

脳を揺らす一撃。などという次元ではない。
体格の大きな男がただの少年のアッパーカットで宙に浮いていた。
そしてその勢いのまま演説していた男の足元に落ちて巻き込んでいく。
ベンチは重さで壊れ、立っていた男は巨漢に潰されるように転げ落ちた。

「なっ、ぎあゃっ!?
 うぐっあっ、くそっどけっ、早くどかせ!」

彼がリーダー格であったのだろう。
慌てた仲間たちが駆け寄って巨漢をどかそうとするがうまくいかない。
その中で突如乱入してきた15歳ほどの少年に残りが鋭い眼光を向けた。

「何をするんだ! 君も俺たちと同じ日本人なら戦うべきは!」

「うるせえ黙れっ蛆虫ども!!!」

「なっ……」

だがそんなものは少年の怒鳴り声と彼ら以上の威圧感を伴う視線が黙らせる。
彼には武装犯たちの言葉など聞く気はない。語る必要さえ感じない。
ただ一方的に“彼の当たり前”を叩きつけるだけ。

「武器を持って暴れているだけのゴミクズと子供を庇った女の子。
 どっちを助けなきゃいけないかなんていちいち言わなきゃ分からないのか!?」




──────────恥を知れ!!





突如乱入して少女達の危機を救った少年ははっきりと、
少女らを除いたその場にいる全員を恥知らずと切って捨てた。
彼は本当に今ようやくここに辿り着いたがそれでも分かることはある。
少女に突き飛ばされ庇われた男の子。武装した者達。離れている客達。
自分達は正しいのだという武器を持つテロリスト特有の気味が悪い顔。
そして怯える対象がずれている客達の視線と表情とその距離。
大まかに何がどうなっているかなどそれだけで充分だった。
似たような状況に何度かなったことがあるだけ、ともいうが。

「なにを、勝手な……」

「わ、私たちは銃で脅さ──」

だがその言葉はどちらかといえば客達の方を強く非難していた。
なぜそこまでいわれなければならないのかと納得がいかない顔をする。
けれどその中で、ひとりがぽつりとつぶやくように声を発した。

「───お母さん、怖いよっ」

「え?」

「あの人たちもお母さんたちも怖い!」

誰かの子供がそう告げたのがキッカケとなったのか。
他の子供達までも次々と似たようなことを言い出す。

「らんぼうしちゃだめっていうのになんでとめないんだよ!」

「ワルイ人たちのマネしないで!」

「ぼくここ怖いよ、やだぁ」

「ママ怖いよ、あの人たち怖いよぉ」

我が子たちの、そして幼き子たちの必死の声が大人たちに居た堪れなさを覚えさせる。
子らはこうなる前から必死に小さな声をあげていたが誰も気付いていなかったのだ。

「はっ、ガキたちの方がよくわかってんじゃねえか、よっ!」

床に落ちていたスライムをアンダースローで掬うように拾って投げつける。

「ぶべっ!? やだっなにこれ!?」

騒ぎ出した客達に銃を向けそうだった女の顔を狙ったそれは正確に命中。
顔面を襲った不快さに慌てた女はそのまま何かに蹴躓き自滅して転ぶ。

「ほら、まだ終わりじゃねえぞ!」

「があっ!?」

「ぎゃあっ!?」

「ぎいぃっ!?」

続けて捨て置いてあったポールを蹴り飛ばし並び立っていた男らのスネに当てる。
激痛に悲鳴をあげた彼らは足を抱えながら堪えるようにその場に転がり回った。

「今のうちに急いで逃げろ! あっちの階段だけは通れる!」

「は、はい!」

巨漢はまだ起き上がれない。潰された男も同様。
起こそうとする者達と痛みに転げまわる者達で彼らは手一杯だ。
状況からしてあとほんの数十秒程度の時間だが逃がすだけならそれで充分。
一斉に駆けていく彼らを見送って再度犯人たちに視線を戻す。が。

「お姉ちゃんどうしたの!?」

「う、あ、あとからすぐに追いつくから先に行って……っ」

背後にいる人物の気配が動かないのを訝しむ。
おかしいと振り返ると少女の方がその場に座り込んでいた。
そこで初めて今日三度目の遭遇をした少女だと気付いたが、
いまはそれを驚いている時間がない。

「おい、まさか動けないのか?」

「い、いいですからこの子を連れて」

「黙ってろ! 坊主こいつ何された?」

「さっき兄ちゃんがけった棒みたいなのでいっぱい叩かれて……」

言葉途中で中腰になり袖が汚れている少女の腕を引き、そして軽く背中に触れる。

「っ!」

腕からの反応が薄かったが背中に触れた瞬間苦痛に耐えるように呻く。

「ちっ、当たり所が悪かったか。
 これじゃ痛みがひくまで動け──っ!」

時間切れ。そんな言葉が脳裏によぎる。
背後に立った気配と突きつけられた銃の音でそれを察したのだ。

「ガキがいつまでも好きかっ──え、ぎゃっ!?」

しかしそれで抵抗を諦めるかどうかは別の話だ。
振り向くこともせず背中に立った誰かの脚を刈るように蹴り払う。
続いて視界が突然変化した事にに慣れぬまま倒れ込んだ男の顔を踏みつけた。

「ちっ」

だがそれでお終い。これ以上は危ない領域の抵抗となる。
なぜなら完全なる時間切れ。自分たちの周囲を犯人たちが取り囲んだのだ。
まだ動けない者達もいたが全方位から銃口を向けられてはどうしようもない。
全員が手の届く距離から銃を突きつけていたのならまだ手段はあったが、
武装犯もこれまでのことから少年の格闘能力を警戒してか距離を取っていた。
これで少年─シンイチが『銃』という武器を知っていれば、まだ対応ができた。

だが彼は“銃という武器”を知らない。

無論現代日本で生活していた人間が銃を知らない事はない。
だが撃ち方・反動・威力・弾丸の速度・種類による性能の違い。
それらは余程の銃マニアかミリオタ、発砲経験のある者でないと解らない。
そういう点でいえば銃という武器はシンイチにとって実在は知っていても
実際に見たこともないという点では架空で未知の武器にも等しい存在だ。
それに囲まれているという状況は彼の動きをより制限した。
射線上に自分どころか背後のふたりがいるのも痛い。

「お、お姉ちゃん!」

「ごめんなさい、私がっ──」

「黙れ、それ以上いったらお前を先に吹っ飛ばすぞ」

取り囲む犯人達の中でとくに自動小銃を持つ三人の男達を睨みながら怒鳴る。
同時にそれも一つの手かと視線を動かさずに記憶していた建物の構造から
ガラス張りになっている所から落とせないか(・・・・・・)と考えるが内心ムリだと舌打つ。
落下の衝撃は風の魔法で見た目に分かり辛く誤魔化すことはできるが、
どうやってもここからでは距離があって乱暴な手段を使っても届かない。
ましてや相手は怪我人と子供だ。そういった手段はあくまで最後である。

「……それは……俺達を先に吹っ飛ばす予定だということか?」

リーダー格なのであろうスーツの男が忌々しげにいう。
態度や突発的事態への対応は三流だが銃口にブレがない。
他の者達に比べて、自動小銃の三人だけが銃の扱いに手慣れて見えた。
そしてスーツの男だけが正面から自動小銃をシンイチに向けて構えている。
残りはシンイチから見て左右に別れて彼の背後の少女らに銃口を向けていた。
人質の取り方は地味にうまく彼はまったく動けなくなってしまう。
明らかに突如乱入してきた存在を一番に警戒した布陣であり、
自動小銃の引き金にかけた指に一切の震えがないのが恐ろしい。
何かあれば他はともかくその三人は容赦なく引き金をひけるだろう。

「なにか問題があるのか?
 ゴミはゴミ箱に吹っ飛ばすもんだろう」

それを理解したうえで強気に正面のスーツの男を嘲笑うように喋る。
そんなことは当たり前のことだろうといわんばかりの顔で。
ただそれはその男だけに向けられた発言ではなかった。

「お、俺たちがゴミだってのか!?」

「薄汚いテロリストがゴミ以外のなんだっていうんだよ?」

激昂する誰かの言葉にさらに嘲笑交じりの言葉を返す。

──頭おかしいんじゃないの?

そんな声に武装犯たちの敵意が少年を貫くがどこ吹く風。
むしろ不敵な笑みさえ浮かべて、彼らを小馬鹿にしていた。

「テロではない! 必要な戦いだ!
 ガレストに奪われたものを取り返すための戦いだ!」

「お前等が勝手に(・・・)無くしたもんなんか知るか。
 子供みたいに駄々こねやがって、いい歳した大人が恥ずかしいと思わないのか」

どこまでも冷めた目と呆れきった声が容赦なく犯人たちを挑発する。
そしてそれはどこまでも続き、彼の口は止まることがなかった。
挑発に反応しない例の三人に介入できる隙間を与えないように次々と。

「ったくこんな連中が簡単に銃を手にできるとか。
 少し離れている間に日本の銃刀法はどこに消えたんだか。
 異世界どうこう言う前に自分達のことどうにかしろよ」

「それだってガレストのせいだろう!
 あいつらの装備が出回って銃の価値は暴落した。
 あっちの武器のライセンスを取れたメーカーは生き残れたが、
 できなかった会社は潰れ、職人たちは裏で生きていくしかなくなった!」

「はっ、なんだよその最低の言い訳」

鼻で笑いながら内心その説明には勉強になったと感謝している。
あくまで一つの噂として受け取っている辺りが彼の本音だが。
ガレスト製の装備品は世界的に警察や軍の標準装備になっている。
だがそれまでの装備が現在どう扱われているのかを気にしていなかった。
元々こちらの世界の武器への興味と知識が全く無かったのが原因である。
だがいわれて考えてみれば銃が淘汰されたのは当然というべき話であった。
武器としての威力は大きく劣り扱いやすさや携帯性も劣っているという。
一方で非致死性兵器が高い技術力を背景に問題なく完成されていた事。
また銃ではガレストの装備には全く効果がないという事実。
実戦では威力不足。生身の人間相手には殺傷力があり過ぎる。
この二点で大きく負けている銃という武器は廃れていく運命だった。
そしてこれは言ってしまえば“それだけ”の話でしかない。

「だから一般人も少し裏に入れば銃が手に入るようになったと?
 はぁ、情けない。元々銃社会だったならある程度同情も納得もするがな。
 日本でそうなるのって結局あんたら大人が情けなかったからだろ?」

「なんだと!?」

法整備をし排除に力を注げばそんな事にはならない。
裏でしか生きられないというのも甘えでしかない。
手にした技術を活かせる方法などいくらでもある。
それができなくとも生きたいだけなら何も同系統の職業である必要などない。
勤めていた会社が潰れるなんていうのは異世界交流が無くとも起こりうる事。
彼にいわせれば異世界交流という分かり易い大きな出来事が起こったのだ。
それまで通りできると思えるほうがどうかしている。

「それもガレストのせいだとか言ってるのあんたら?
 自分が時代の変化に対応できなかったのを世界のせいにするとか、はっ!
 くだらない。ねえねえ、恥ずかしいこと言ってる自覚ある?
 勘違いで憤って暴れて、それでどうにかなると本気で思ってんの?」

あり得ない。なるわけがない。無謀。無駄。無意味。
彼らの決起を言外にそう評して変わらず嘲笑う少年。
自分達の何もかもを否定し馬鹿にする態度に彼らの手元が怒りで震える。

「お前っ……状況見えてんのか。俺たちが撃てば死ぬんだぞ!」

「はんっ、お前等もわかってるか?
 それは殺人の道具だ。それも直接手を汚す事もなく、
 命を奪った感触さえも残らない最低の武器。使いたくば使え。
 そしてゴミクズ以下の人殺しに堕ちるがいい」

「っ!」

鼻で笑った声はそれまで以上に嘲笑交じりで、そして強い怨嗟が込められている。
その呪いのような言葉は彼らが潜在的に持っている武器を使う恐怖を刺激した。
一部を除けば彼らに何の覚悟もない事は最初に見た時からすでに解っていた。
武器を持つ覚悟。命を奪う覚悟。罪を犯す覚悟。人殺しになる覚悟。
まともな精神性を持つ人間が自分の意志で人に向けて武器を使うにはそれがいる。
しかし彼らはただ怒りによってそれらを一時的に誤魔化しているに過ぎない。
それらの()を望まない形で超えさせられたシンイチにとって、
彼らの姿勢は武器を持つ者として到底許せるものではなかった。 
だからこそシンイチは犯人たちの怒りを煽って、挑発する。

「……ってなことをっ……勝手なことをいうな! 何も知らないガキが!
 異世界交流のせいで俺たちの人生は目茶苦茶になったんだよ!!」

だからこそ、釣れた、とほくそ笑む。
内心の笑みを隠したまま怒りに拳を震わせて銃を下ろした男を見た。
二十代後半ぐらいの染めた金髪の男は強い殺意を込めた視線を向けるが、
戦場のそれに遠く及ばないものでは彼はたじろぐことさえない。

「ゴミクズの事情なんて知るか!
 そんな武器(モノ)使わなきゃ暴れる事もできない臆病者が、
 一人前にキャンキャンと吠えてんじゃねえよ、この負け犬!!」

「っ───黙れぇっ!!」

「よせ、近寄るな!」

元々沸点が低かったのか。彼の言葉が何かの琴線に触れたのか。
男は激情のまま詰め寄って感情を叩きつけるように銃のグリップで殴りつけた。
ガンッという鈍い音が響いて、少年の頭が斜めに下がった。

「お兄ちゃっ、っ!?」
「お願い静かに」

背後の子供が悲鳴のような声を出したのを少女が抱きかかえて封殺する。
胸中で少女に感心しながら彼は衝撃でずれた頭を元の位置に戻すと男を黙って見上げた。

「っ、負け犬じゃねえ。俺は負けてなんかねえっ!!」

そこにあった眼光の鋭さに、怯えたように男は繰り返して拳を振るった。
痛みに怯えるわけでも、恐怖に震えるわけでもない少年の眼差しは強かった。
その目で見られることへの本能的な拒絶感から何度も顔を殴りつける。
いつしか男の手からは銃が零れ落ちてたが誰も気付いていない。

「ガキの頃からボクシング一筋で、親父の下で頑張ってきたんだ!
 なのに! 突然ステータスが低いからダメってなんだよ!
 ルールが変わるってなんだよ! 無期限停止ってなんだよ!
 やってる連中の意見は全部無視かよ! ふざけんな!!
 おかげでみんなやめちまって親父のジムは終わっちまったんだ!」

抱え込む怒りを拳に乗せるかのように叫びながら次々と殴り続ける。
シンイチがこちらに戻ってきて驚いたことの一つにスポーツ産業の縮小化がある。
スポーツ界はある意味ステータス文化の影響を一番に受けた業界といえた。
ステータスの差による能力差が顕著すぎて高い者と低い者では勝負にならない。
これを階級のように考えて分けるべきなのか。個人の才能と考え、分けないのか。
ガレスト人を入れてもいいのかダメなのか。団体競技ではどうするのか。
法律や人道問題、娯楽としての価値。様々な要因から業界全体でも、
一つの競技だけでも意見はまとまらず、未だルール整備が進まない。
結果どの競技もほぼ興業できるとはいえないほどの混乱状態に陥っている。
趣味としてはまだスポーツ人口や人気は落ちていないが職業としては落ち目。

「くそくそっ、負けてねえんだ。戦うこともできなかったんだ!!
 あとちょっとでプロテストだったのに! ふざけんな!」

この青年の叫びはそれによって職を失い夢破れた者達の言葉だ。
スーツの男が警戒した事など何もなく少年は気味が悪い程に無抵抗。
男の拳に合わせるように頭が左右に振れて、口許からは赤いモノが飛ぶ。

「くそったれっ……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

そうしていったいどれだけ殴り続けていたのか。
肩で息を荒くしながら疲れからか男の拳が止まる。
途端にシンイチは最初に戻るかのように青年を静かに見上げた。
最初の一撃で頭にも傷が出来ていたのか額から血が流れ落ちている。
顔中あざだらけで口許からも血が漏れており口内を切っていると分かる。
それでもなお彼の顔にある眼差しの強さは変わらず、男を怯ませた。

「っ、なん、なんだよお前……」

「お前さ、格闘技やってたくせに俺の動きを見て何も思わなかったのか?」

「え?」

男の気味悪がるような問いかけに答えず、逆に問い返すシンイチ。
だが彼の顔に浮かぶのは戸惑いだけで感じ入ったモノは何もないと見えた。

「そうか……ならどっちにしろお前にその世界は無理だったんだよ。
 無能な奴がいくら頑張っても何もできやしねえと知れ、負け犬」

だから彼は嗤った。
お前の頑張りは、夢への想いは、その程度だと馬鹿にして。
その裏にあるどうしようもない憐憫の感情を押し隠しながら。

「っ、黙れぇっ!!」

だがその言葉は彼にとって最大の侮辱だ。その激昂は無意識の手加減すら抑えて、
ボクサーを目指した男の全力の拳(右ストレート)がシンイチを殴り飛ばした。
少年の体が軽々と宙を舞って、書店の本棚に身体ごと叩きつけられる。
激しくも鈍い音に少女はこらえるように腕の中の子供を抱きしめた。
おそらくだが、彼女は薄らとシンイチの狙いが見えていた。

「うっ、ぐ………合わせて跳ぶのは加減が難しい……」

耐久をほとんど引き出さなかった肉体が訴える痛みをこらえながら、
衝撃で崩れ落ちた書籍の中から身体を起こして、聞こえないように呟く。
ちょうど良かったのだ。自分の立っていた位置が。
誰でも良かったのだ。激昂して殴り掛かってくる短気な者なら。
そうすれば背中に庇う者から離れられ且つ一時的にせよ注意を自分に向けられる。
案の定、例の三人さえも殴り飛ばされながらも即座に起き上がった彼を見ている。
そしてあの位置からならどこに転がっても“ちょうどいい大きさ”のモノがあった。

「はぁ、はぁ……」

肩で息をするふりをしながら自分より高い本棚(・・)に手をついて立つ。
恐れにせよ脅威とみなしているにせよ。いま彼だけに視線が集中している。
床に固定されていようが本気で引き抜けば一瞬だ。それをスーツ男目掛けて投げつけ、
意表をついて混乱させた所を残りの二人を先に仕留めて残りは乱戦に持ち込む。
相手は10人にも満たず、また銃や戦いに不慣れな者が大半だ。
動揺させれば人質に銃を向けるという選択肢が浮かぶ者さえいないだろう。
だから本棚を掴む手に力を込めて────動きを止めた。

「お、ずいぶんと派手にやってるな」

途端に響いた楽しそうな男の声に彼は舌打ちしながら本棚から手を離す。
目の前の犯人たちとは別方向から銃を構えた5、6人の集団が歩いてきたのだ。
別の階にいた仲間だろう。先頭に人質を立たせてこちらに向かっている。

「俺らしいといえばらしいんだが……なんて間の悪い……」

もう少しタイミングが後にズレてくれれば対応できた。
しかしここで予定通りの行動を取れば危ないのはそちらにいる人質だ。
そしてそれは何があろうとも彼が決して見捨てることができない相手。

「信一!?」

「……なに捕まってんだよ、お前……」

あざと血まみれの顔を見て絶句する幼馴染を前にして、
しょうがねえなぁ、と柔らかな声色で彼は愚痴を吐く。
シンイチはもう苦笑するしかなく、されどその瞳には覚悟があった。



───ふりだしに戻ってもうひと頑張りしますか







02-06でちょろっと語った交流準備の「雑な部分」の代表がスポーツ界。

ガレスト人が参入できないってなると人権問題起こりそうだし。
才能と見るか階級と見るかでルールが全然変わってくるし、
才能として同列に扱えば一方的な展開になり競う意味が薄れる。
階級と見れば、明らかに低い者が多く高い者が少ないため、
偏り過ぎて競技として成り立たない。
あるいは差別だと人権団体から抗議がきそう。
個人競技は最悪どっちかでなんとかできたとしても、
なら団体競技はどうするのってなる。
チームプレイだから一人や二人優れていても問題ないとして
人数制限やランク制限を設けた場合今度はステータスの高い人間の
職業選択の自由を奪うことになりかねず、高い者同士まとめるにしたって
人数が少ないので現実的な対応策でもない。どうすりゃいいのさ!?

なんていう議論がここ最近ずっと続いてるのである。
現実なら多分どこかで妥協して新ルール決めちゃうと思うけどね。
この世界ではあちこちで意見が割れてまとまってないため衰退しかけている。
と思ってほしい。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ