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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

波紋編 第二章「異世界な故郷」

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02-11 正当と過剰の境目

風邪がなかなか治りませんでした!
おそくなってすいません!!

今回から場所が主人公のところに戻ります。
そして02の時間において、最後に起こった事件を書いていきます。

まあ、この話ではまだ起こってませんが(汗)




人は毎夜夢を見ているという。
ただそれを覚えているかいないかの違いなのだと。

例外として、どうしてかナカムラ・シンイチは必ず夢を覚えている。

それもその内容は必ず彼の身に起こった出来事(キオク)の再現だ。




  それはどうってことはないお話。

  野垂れ死にしかけた少年が心優しき人たちに救われ、

  なんとか恩を返そうとした少年が奮闘するもうまくいかず、

  最後に少年は縋るように“神”に祈った結果、

  少年は恩人たちを皆殺しにしていましたとさ。

  めでたし。めでたし。                』




もうそれは悲劇というより、もはや喜劇だ。

悲痛な慟哭よりも痛ましい笑みしか出てこない。


だって人は慣れる生き物だから。


同じ夢を2年も見続けてしまえば、もはや悲鳴も涙も出はしない



だだ心のどこかが軋むだけだ。





それさえも人は慣れてしまうのだから、恐ろしい生き物である。





──────────────────────────────







時代がどう移り変わろうとも。そこがどんな場所であろうとも。
人の営みがある場所なら程度の差はあれど変わらないモノはある。
具体的な例をあげるとするなら『犯罪者』はどこにでもいるものだ。

「…………」

金髪のウィッグで地毛を隠した男が二人。横に並んで街を歩く。
どこかに向かう予定はなく、ただすれ違う人々を気付かれぬよう物色。
探しているのは気弱そうでこの場に不慣れで手持ちか肩掛けのバッグを持つ女。
さもありなん。この男たちの目的はひったくりである。
そこそこ高い敏捷ランクを利用しての逃走と変装のおかげか。
これまで13件も犯行を重ねたというのに捕まる気配は微塵もない。
ある意味時代が産んだ犯罪者といえなくもないが自分の意志で犯した罪。
生活に困っていたわけでも同情すべき事情があったわけでもない。
ただ物を盗み、誰も彼をも振り切って逃げるのが楽しいだけの愚か者。

「おい、あいつ」

片方の男が短い言葉で相棒に視線だけでターゲットを示す。
歳は15~18ほどの眼鏡をかけた少女が周囲を見回しながら顔を曇らせている。
明らかに迷子、あるいは連れとはぐれたような姿で荷物は肩掛けのバッグ。
いわゆるたすき掛けにはなっておらずひったくるには好都合の状態。
難点があるとすれば大きなベレー帽から僅かにはみ出た髪色が青色であること。
つまりはガレスト人であることだがこれまでの成功で意気揚々な彼らは
その点に対しては楽観的にとらえていた。むしろ挑戦しがいがあると考えた。
少女がどこか気弱そうに見えたために調子に乗ったともいえる。

「行くぞ」

男達のやり口は単純だ。
片方が故意にぶつかって意識をずらした隙にもう一方が持ち物を奪う。
こうすれば最悪片方はひったくりの仲間だと気付かれずに済むというわけだ。
短い掛け声とアイコンタクトで息を合わせて、片方が先に少女に近付く。
背後に回って人混みに紛れながら歩み寄って小突くようにぶつかる。

「邪魔だよ」

「きゃっ!?」

突然押された形になった少女はよろけて驚いた顔をこちらに向ける。
無論そちらはバッグがかかってない方であり、今がチャンスだと
もう一人が駆け寄って一気にそれをひったくる。

「え、なにっ……あ、待って!」

連続した衝撃に少女は事態の把握が遅れた。
持っていたはずのバッグが奪われたとわかってもその対処が咄嗟にでない。
追いかけるか泥棒だと叫ぶべきであったが少女は戸惑うばかりである。
いつもの犯行が成功した瞬間であり、だからこそ彼らは油断する。
そして囮役は目の前の獲物に欲を出してしまう。少女が手に握る物体に。
純粋なガレスト産の携帯端末(フォスタ)。登録した本人しか使えないとはいえ、
売りさばけばそれなりの額となるのを知っていた男は無防備な背に手を出す。

「いたっ、きゃあっ!」

腕をとって強引にフォスタを奪い取ると少女を突き飛ばして走る。
周囲は突然起こった連続したひったくりに即座に反応できずに固まっていた。
尻餅をついた女の子に誰も駆け寄らない辺り、もしかしたら
ただ人混みに突き飛ばされただけと思っているのかもしれない。
その隙に囮役のひったくりも駆け出し、逃走をはかった。

「あ、ど、泥棒です!」

駆ける後姿にようやく少女はそう叫べたが少しばかり遅かった。
周囲は声をあげた彼女に意識を持って行かれ走り去る犯人に気付かない。
いいカモだったと内心で笑うひったくりたちは奇しくも同じ方向に走った。
単なる偶然だったのか。もはやバラバラに逃げる意味もないと高を括ったか。
しかし。

「な、なんだこれ!?」

「なんでこんな人が多いんだよ!?」

そこで予想外の邪魔が入る。人の集団という壁が立ちはだかったのだ。
二人が知ることはなかったがどこかのアーティストがゲリラライブを行った。
ひったくりの前に出てきたのはそれが終わったことで流れてきた人の波。
位置が悪くそれるための横道はなく来た道を戻る選択肢はない。
さすがに後方で騒ぎになっているのが音として聞き取れたからだ。
そして彼らは運良くかあるいは運悪くか。突発的なイレギュラーの経験がない。
うまくいっていない時に冷静であろうとする意識がなかったのである。

「ちっ、どけっ、おらっ邪魔だ!」

焦れた彼らは急いで逃げることだけに意識を持っていかれ、
もしもの時に備えて所持していた武器を振りかざしてまで道を開けさせようとした。

「ケガしたくなかったらどけ!」

一人はナイフを振りかざし、人々は悲鳴と共に距離を取る。
もう一人もまたバチバチと紫電を光らせるスタンガンを持っていた。
多くの者に見られる危険はさすがに頭にあったが変装を過信して進む。
だがそうして開いた先にある親子連れがいた時点で彼らの命運は尽きていた。

「どけ女!」

「邪魔だガキ!」

一人が駆け寄りながら女性に向けてナイフを向ける。
もう一人が遅れながらも少年にスタンガンを突きつける。
これでふたりとも道を開けるだろうと根拠なく思ったが、
両者の目に宿ったのは恐怖ではなく剣呑な輝きだった。





──────────────────────────────────






「ふあっ、んぶっ!」

鼻の疼き。
今にも飛び出そうなくしゃみに少年は自らの肩口に鼻を押し付けた。
なぜそんなことをしたのか。第一の理由は周囲に人が大勢いたから。
第二の理由として、いま現在両手がふさがっていたから。
第三に手をふさいでいるのが大事な赤ん坊であったからだ。

「あぁ、きゃうぅ?」

「大丈夫、信一くん?」

腕の中の弟が突然の動作にびっくりしたような顔をする中。
小柄な女性─凜子が心配するようにしながらティッシュで肩をふいた。

「ありがとうございます。
 はい、真治には一滴も飛ばしてません」

それにお礼をいいながらもズレたことをいう少年─シンイチに渋い顔だ。

「…………あなたが風邪気味かどうか聞いたのだけど?」

「え、あ、ああそうですね。大丈夫です。たぶん誰かの噂話かな」

ははは、と苦笑しながら誤魔化す。実際風邪などひいてはいないが。
しかし何となくではあるがどこかの姫とメイドたちの姿が脳裏に浮かぶ。
この時期に自分のことを噂する面子に他に心当たりがないだけだが。

「ならいいけど、次はどこいきましょうか?」

「そうですねぇ」

合いの手を返しながら、あちらの知人たちへの申し訳なさが胸中にわく。
結果的とはいえ自分の行為は説明もなく後始末を押し付けたに等しかった。
しかし行き来の方法とそのための魔力(魔王の瞳)があっても時間がない。
さすがに自由時間が一晩しかない現状で異世界間を行き来するのは
もし時間のズレがまた生じた場合、言い訳できない事態になる。
例えそれが統計学的に許容範囲の一月以内であっても、だ。

「………二人ともそういうのはこの流れから出られてからじゃないか?」

どうしたものかと熟考する姿を勘違いしてか。
先を歩く妻と息子の会話に呆れたような声色で割って入る信彦。
中村家は今日も休日を利用しての家族そろっての外出である。
シンイチに必要な物の買い揃えは終わっているのだが凜子の強い希望だ。

「そうですね、困ったことに真ん中にいるから出られないですし」

そんな夫からの指摘に苦笑いの凜子である。
揃って外出したはいいが偶然ゲリラライブによる人の集まりと流れに
彼ら中村家はまんまと嵌ってしまって容易に抜け出せずにいた。
今はただ流れに身を任せながらはぐれないようにするのが精一杯。

「しばらくはこのままかな……父さん、財布すられんなよ?」

「気を付けてる………というかなんで父さんだけなんだよ?」

「なんでって、ねえ?」

「ええ、そうですよねぇ?」

自分にだけ注意されたことに少し不満げに言い返したが、
二人はまるでグルだったように顔を見合って頷き合っていた。

「……君ら本当に仲良いよね、ほんと」

相変わらず自分より仲がよさそうな親子関係に微妙な嫉妬を覚える信彦。
その渋い顔を見て、困った人だと互いに笑いあう義理の親子である。
だがそこで不意に少年の顔があらぬ方を向いた。

「っ、え、どろ、ぼう?」

「なに、どうした?」

「あっちで誰かが泥棒って」

流れに身を任せたままながら顔だけをその声が聞こえた方に向ける。
そして義理母子は確認するように見合って似たようなことを口にする。

「言ったよね」

「言いましたね」

「ああ、うぅ」

何故か真治まで一緒になって。

「また父さんだけ置いてけぼり?」

そんな疎外感に信彦ががっくりと肩を落としている間に事態は動く。
凜子とシンイチの視界には他の人と違う速さで動く二つの人影が見えた。

「ちっ、どけっ、おらっ邪魔だ!」

先に走っている金髪の男はナイフを振り回しながら、
男には似つかわしくない女物の小さなバックを抱えている。
当てる気がない振り回しではあったが周囲は悲鳴と共に距離を取り道を開ける。

「あ、やば!」

「押さないでください!」

どう見てもこちらに向かっているのが見て取れるが隙間のなかった人波が
暴れる男から逃れようと動いたために中村一家は押し込められてしまう。
その圧迫から真治を庇うのが精一杯でシンイチも身動きがとれない。
だが続く男の手にスタンガンがあるのが見えてさらに舌打ちする。

「ケガしたくなかったらどけ!」

しかし幸か不幸か。そしてそれがどちらの話かは別にして。
先頭を走っていた男が脅して切り開いた空間に中村一家は出れた。

「どけ女!」

道を切り開くようにして凜子にナイフを突きだしながら迫る金髪の男。

「邪魔だガキ!」

その後ろから数歩遅れながらもスタンガンをシンイチに突きだし脅す男。
武器を握る手とは逆の手にはそれぞれの戦利品が見えて彼らの正体を察する。
間違いなく先程かすかに聞こえた声の犯人(ゲンイン)である。

「はっ!」

尤も。そんな事を確認するまでもなく。
街中で武器を振り回す相手に遠慮する考えは凜子にはない。
背中にいる家族や周囲にいる一般人のことを考えて彼女から踏み込む。
突きだされた腕を身体を開いて避けながら掴んで力任せに捻る。

「いてえっ!?」

痛みで相手がナイフを落としたのを音で確認するとそのまま引き寄せて、
腹目掛けて膝蹴りを叩き込むとその一撃だけで男は短く呻きながらその場に蹲る。
その手と足に何かを巻くように指を動かせば腕時計型の端末が光って
エネルギー状の縄が男を縛り付けた。犯罪者捕縛用のスキルである。

「なっ!?」

「私は対策室遊撃班の者です。おとなしくしなさい!」

残ったもう一人がその光景に唖然となって固まった所で
凜子は腕時計型の携帯端末から身分証明を空間に投映した。
対策室の人間がいた事と放たれた鋭い声での一喝に犯人は怯む。
しかし、近場の少年が目に入って歓喜の笑みを浮かべた。

「しまっ!?」

一見するとおとなしそうで凡庸な少年は都合がいい事に赤ん坊を抱いている。
迎撃するために踏み込んだことで凜子より男の方が子供達に近かった。
運がいいと男は思った。危ないと彼らの両親は焦った。

「おい、お前おとなし、だっ!?」

けれど少年だけは面倒臭いなと思っていた。
人質にしようとした男と駆けだそうとした女と盾になろうとした父。
それよりも先に少年の蹴りが武器(スタンガン)を持つ手を弾いて、飛ばす。
武器は宙を舞って男の手から離れ、それに意識を持っていかれた男は続く衝撃に
頭の処理がついていかないまま、痛みを訴える腹を抱えて呻きながら後ずさった。

「がっ、はっ……な、なんだ?」

見れば少年は最初に蹴り上げた脚とは逆の脚を突きだした格好になっていた。
彼は蹴り上げたあと勢いを殺さず身体を回転させながら次の脚を繰り出していた。
敏捷ランクは元より耐久にもそこそこ自信があった男だが体が訴える痛みと衝撃に
相手が自分より上なのではという可能性に今から怯えだそうという、その寸前。

「ま、待って信一くん!」

止めに入る言葉より素早く少年は駆けていた。
目の前で上がろうとする脚を見て男は咄嗟に腕で顔を庇うが、
その腕ごと蹴り折らんばかりに鋭い回し蹴りを叩き込まれる。
男は何かがひび割れるような音を聞きながら僅かな浮遊感。
そしてすぐさまに固い地面に落ちて転がる衝撃に情けなく喚いた。

「ぶべっ、がっ、あっ、うっあ……ぐぎゃ、痛、い、痛っ、あ゛あ゛っ!」

仰向けに何とか止まった男の口からは止めどない痛みを訴える声。
受け身を取ることもできなかった男の顔は路面にぶつけたのか。
それとも他の衝撃のせいか気持ち歪んでいるようにさえ見え、
歪んだ鼻からは血が流れ、歯は二、三本抜けてしまっている。
蹴りを受けとめたはずの両腕には傍目に解るほどの窪みまであった。
転がった先でそれを見る羽目になった人々は怯えるように後ずさる。
何に対しての怯えなのかは彼らの中ではまだ解っていないが。
そして距離をとっていた人の壁がより一層動揺しながら離れた。

「痛いっ、痛いっ! 腕、腕がぁっ、顔がっあ゛あ゛っ!!」

語るまでもない。
そこには何の感情も浮かべてない顔で大人を蹴り倒した少年がいた。
蹲り痛みを訴える男を見下ろす目には何もない。戦いの高揚も無ければ、
犯罪者への憎しみも非難も無ければ、哀れみの感情さえ存在しない。

ただ邪魔だったから路傍の石を蹴っただけ。

誰も言葉にはしないがそんな雰囲気に周囲は怯えている。
気付いていないのは痛みに我を忘れている男とおそらく本人(・・)だけ。

「し、信一くん。大、丈夫?」

そんな彼に最初に声をかけたのは誰よりも先に我に返った彼女。
ただ聞いておいて何を大丈夫かと聞いているのか本人もよくわかっていない。
それを彼自身がどう解釈したのか無表情から一転して明るい笑みを見せた。

「はいっ、真治には何も見せてませんから大丈夫です」

「あうっ、いぃ、きゃー!」

「……………」

「お願いっ、誰か救急車! 痛い痛い痛い! これ絶対骨折れてるって!!」

凜子はどこか自慢げにしっかりと抱えられていた息子を見せられる。
シンイチは衝撃がないように弟を守りながら同時に目許も手で覆っていた。
赤子に見せる光景ではないという考え(自覚)はあったらしい。少し、惜しい。
一方で視界を封じられていた真治はどこか不満顔で叫んでいたが。

「あ、あのね、信一くん私は……」

大いに色んなことがズレている。
やはり文明社会で生きていなかった弊害かと諭しにかかる凜子。
されどそれは誰かの悲鳴のような叫び声によってかきけされた。
蹴られた腕と顔、腹から響く痛みに喚いていた声が彼女の声を遮ったのだ。

「頼むよ誰かっ! つっ、ああっ痛いっ痛いっ、助けて(・・・)っ助け──」

「っ───うるさい黙れ」

「ぶぺっ、がっ!?」

途端それまで気にもとめていなかった雑音の根本(かお)を彼は容赦なく踏みつけた。
短い呻きのような悲鳴をあげて、鼻が潰れた血まみれの顔で男は倒れ意識を失う。

「死ぬわけじゃねえんだ黙って寝てろ………それで凜子さんなんでしょうか?」

「…………」

平然とした顔で痛みに呻いていた男の顔を踏みつけ窪ませた少年が
自分に対して人懐っこい笑みを浮かべてきたのだから彼女は頭が痛かった。
そしてさりげなく真治の目を再度塞ぐ辺りの良識はあるのだから余計に。

「とりあえず………信一くん、やり過ぎ」

「はい?」

溜め息混じりにそういうが少年は戸惑うだけ。
凜子は僅かな逡巡を見せるものの周囲を指差した。

「…………う、ぬ?」

なんなのかと釣られるように見回せば、初めて見る視線があった。
知っているモノに近いのは戦場においての何度か見た畏怖に似ていた。
勝ち目がないと悟っても、それでも戦うしかない状況。
どう戦えばいいのかもわからなくなっている兵士の顔。
抗いようのない脅威を前にして逃げれもしないそれへの恐怖。
そうだったなら彼にとって見慣れたものであるが、コレ、は少し違う。
恐れも怯えもある。だが同時に未知の生物でも見たような顔がある。
理解することができない。したくないという恐れからくる拒絶感。

「…………」

「…………」

誰もが遠巻きにただ見ているだけだがその視線は硬い。
怖がりながらも目の前の異物(・・)を認めない意志を感じ取る。
思い出した。これは初めてではない。異世界で初めて向けられた視線。
なまじ外見が同じだけに“普通と違う”ことに恐怖し拒絶する視線だ。

「まいったね、これは」

そういえばとそういう国だったと苦笑する。
関わらないようにすれば一生暴力沙汰と無縁になることも可能な国。
一般人にとってはこの程度(・・)ですら非日常だという認識の国。
良く言えば平和に慣れ過ぎた国。悪く言えば汚いモノは見ない国。
シンイチからすれば国内の世情を最も理解していないのが自国人ということを
再認できたので収穫はあったしどうでもいい他人の視線など空気と同じだ。

「………信一、おまえ………」

だから、一番困ったのは父親の信じられないという愕然とした表情だけだった。




──────────────────────────────────




信彦にとって『息子の信一』は甘えん坊で少し臆病な子というイメージが強い。
そして嫌なこと、怖いことに対しては耐えようとしてしまう子だった。
とはいえ最終的には誰かに泣き付いて“助け”を求めてしまうのだが。
しかしそんな状況になっても彼は手を出したりなどしなかった。
暴力に対して、暴力で返さない。相手を傷つける事を怖がる。
彼は父親としてそれを立派だと褒めたことさえあった。

だから『息子』と『暴力』は彼の中でどうしても結びつかない事柄だった。

殴り合いのケンカなどしたことのない息子が大人を蹴り倒したなど。
平然と、当然と、ごく自然と暴力を振るって相手にケガをさせるなど。
自業自得とはいえ助けを求めてきた相手にトドメをさしたなど。
信彦はその事柄とそれをやったのが息子だとすぐに認識できなかった。

「………信一、おまえ………」

誰だ、と言ってはいけない言葉が出そうになって口を閉じる。
信彦とて悪いのは罪を犯し、こちらを傷つけようとした男たちだと解っている。
自分の妻と息子はその凶行から自らや周囲を守るために暴力を振るったのだと。
凜子はその仕事の関係もあって何も違和感は感じなかったが、
同じ悪漢を退治したという出来事でもその中身が違う気がしたのだ。
凜子は強烈な一撃で前後不覚にして捕縛するのが目的だったのに対し、
既に二回の蹴りでふらふらになっていた男に追い込みをかけたのは過剰だ。
あれは身を守るための行動ではなく、相手を叩きのめすための行動。
そしてそれをシンイチは凜子に指摘されるまで何の疑問も抱いていなかった。

「……………」

言葉がない。
凜子と何やら話をしている様子の息子に彼は言える言葉がない。
暴力がいけないというのは簡単だが今は間違っているとも思う。
あの状況では身を守るために立ち向かったのは正解だった。
自分のはただ親のエゴでシンイチがそれをしたと認められないだけ。
やり過ぎだと諌めるのは既にもう彼女がしている。なら言うべき事がない。
自慢ではないが生まれてから取っ組み合いの経験さえ一度もない自分が
そのことについて何を語れるのか。何を語るべきなのか。
困ったように苦笑して近づいてくる息子に彼は本当に言葉が無い。

「父さん、真治お願いね」

「え、あ、ああ!」

父親の動揺に気付いているのかいないのか。
変わらぬ表情で差し出された赤ん坊を戸惑いながら受け取る。

「警察への受け渡しとか事情説明とかは凜子さんがやるって。
 ちょっと時間がかかるからふたりはそこで待っててって」

そしておそらく彼女からの伝言を受け取ってわかったと頷く。
何か気の利いた事でもいえないのかと焦るが口から出たのは別の事。

「……ふたり? え、お前は?」

伝言の“ふたり”に入っているのが自分と真治だと気付いて問い返していた。
するとシンイチは手に持った女物のバッグと携帯端末を見せて答えとした。

「これ、持ち主に返してきてくれって。
 本人がなんでかこっちに来ないし、
 誰かわかってるの俺だけみたいだから」

それだけ告げて背を向けた息子に何かいわなければと焦る。
自分は動揺したとはいえ息子に向けてはいけない視線を向けていた。
しかしそれを拒否するように見えてしまう背中が遠い。
だからそれ越しに届く声に父は本当に言葉を失った。

「父さん………敵は徹底的に潰さないとダメだったんだ」

「え?」

「じゃないと奴らはまた向かってくる。
 もう二度と戦う気が起きないぐらいにやらないとまた襲われる」

静かな何の感情も孕んでない声に信彦はぞっとする。
息子がいたのがどんな場所だったかは聞かされている。
アマリリスの保護下だからとその意味を軽く考えていた。

「………そういう場所にいたんだ、俺………ごめん」

息子は自分が想像もできない過酷な環境の中で2年も生きていた。
変わっていない所ばかり気にして、変わらざる得なかった所を見逃した。
その事実を叩きつけられ、ショックを受けている間に息子の姿は消えていた。
言葉通り被害者に荷物を返しに行ったのだろう。

「………はああぁ、私はどうしてこうダメなのやら……」

情けないと頭を振って近くにあったベンチに腰掛ける。
結局また息子の方に気を使わせて、言わなくていい言葉を使わせた。

「守ってくれてありがとうって言えばいいだけだろうに」

やり過ぎた事はもうシンイチ自身がわかっていた。
なら自分はそれをするだけで良かったはずだったのに。
どうしてその程度の言葉がすぐに出てこなかったのか。

「うーあー?」

「真治、父さんダメダメだぁ……」

「あぁいぃ!」

無邪気に笑う我が子の声がそれを肯定しているようで、
けれどそれでも励ますように聞こえるのは都合が良過ぎるだろうか。




──────────────────────────────────



一連の事態を見ていた者が多かったからか。
ひしめきあっていた人混みは少年の前に自然と開かれていく。
これで本人が落ち込めば可愛いものだが彼は楽だとしか思っていない。
むしろモーゼみたいだと面白がっているのだから親の心子知らずである。
尤も父親の視線の意味を深く考えないための自己防衛ともいえるのだが。
それをわかっているのか。“彼女”はあえて吠えた。

「なんですかこの連中の失礼な態度は! 主様は悪漢を退治しただけでしょう!」

たすき掛けしたバッグから顔だけを出した小動物が小声で憤慨している。
当然のようにファランディア語であり声量から聞こえているのは彼だけ。

「仕方ないんだよ。ここは基本的には平和な国なんだから。
 流血沙汰なんて見たことある人の方が少ないだろうよ。
 あれは下手すると過剰防衛かな。ここが日本だって忘れてたよ。
 凜子さんにはほんと申し訳ない。迷惑かけっぱなしだ」

別れ際に“本当はいけないけど誤魔化しておくから離れてて”と切実に頼まれた。
過剰防衛で事情聴取されるのを覚悟したが対策室権限でどうにかする気らしい。
申し訳はなかったが彼自身もうまく穏便な方向で話せると思えないので乗った。
聴取中に余計なひと言を口にしてしまう自分が簡単に想像できたのである。
とはいえその感覚はあちらの生物には通じないようだ。

「はぁ? あの程度で過剰って、なんですかそれ?
 過剰っていうのは叩きのめして動けなくなった相手の四肢を斬りおとすとか。
 やり返されて武器を手放し無抵抗になって命乞いする者を殺すとかですよ?」

ファランディアではそこからなんだけどね。と苦笑いする主だ。
あちらでは正当防衛の範囲がかなり広く定義されている。
日本に比べ、ナニカ、に襲われる危険性がかなり高いためだ。
よっぽどの事情でもない限り犯罪者側の人権など語れば失笑もの。
もし先程の騒動がファランディアだったら周囲からは拍手喝采であろう。
やはりどうにも彼の基準はあちら側寄りになっていた。
生まれ育った国の空気に居心地の悪さを覚えてしまうほどには。

「ですが、あの盗人だけとはいえ……地球人とはあんなに脆いものなのですか?」

「俺もあれにはびっくりした。ちょっと転ばす程度のつもりだったのにな」

だから何を隠そう。
あの一連の出来事で周囲も驚いたがシンイチも驚いた。
加減したはずの蹴りで腕が窪み、顔が歪み、鼻が潰れる。
危険なものが日常的に多いあちらと平和な国の安寧を甘く見ていた。

「ステータスに無い時点でもしやとは思っておりましたが、
 継母さまはともかく、誰も彼もどうしてこう技量が低いのやら」

「知らないから上がらないだけなら(・・・・)いいんだがな。
 まっ加減に加減しないと最悪の事態になるってわかっただけでも良しとするか」

彼の感覚で語るのならあれは街の不良(ワルガキ)を黙らせる程度の威力。
想定では三回目の蹴りであそこまで遠くに飛ばす気は全くなかった。
その場で昏倒させるつもりが想定以上に相手が脆く、軽かったのである。
初撃目と二撃目の蹴りで加減しすぎたのかと勘違いしたせいもあったが、
誰が2割程度“引き出した”力で人間が空を飛ぶと思うのか。
あちらの感覚のままステータスを見ることの危険性に彼らの方が怯えていた。

「……攻撃するさいは細心の注意を払うことにします」

「そういう事態にならないでほしいんだけどな………隠れてろ」

互いにしか聞こえない会話を終わらせて、その少女の前に立つ。
おそらくは持ち物を盗まれたのであろう被害者の前に。
彼とて声を聞いた程度で誰が被害者だったのかは見ていない。
それがどの位置から発せられた声で、発した者の気配を掴んでいただけ。
それを目印にして歩いてきたのだが我が事ながら何とも超常的な感覚だ。
少し歩いたおかげで幾分か冷静になった彼は内心ひどく呆れた。
もはや“あちらのヒトとしてもおかしいレベルだ”と。

「これ、君ので合って……日本語って通じるのか?」

だが表情には一切そんな感情を出さずにバックと端末を差し出す。
この国の言語が通じるかと思ったのは少女の容姿ゆえである。

「はい、翻訳機つけてますから! ありがとうございます!」

動きづらそうなほど大きなサイズのパーカーを着込むベレー帽の少女。
ちょっとした俯き加減と大きなレンズの眼鏡のために瞳の色は見えないが、
帽子から少しはみ出た青色の髪だけで彼女がガレスト人とわかる。
初対面であるはずだがどうしてか自分を見る視線がおかしい。
差し出した荷物よりもシンイチを見て、彼女は顔を輝かせていた。
そして彼が戸惑う暇もなく彼女はこらえきれない気持ちをまくしたてる。

「あ、あのっ、すごかったです! 腕に赤ちゃんを抱えたままであの挙動!
 鋭い蹴りを流れるように繰り出し続け、ただ一度も反撃も逃走も許さずに
 一方的にあのひったくりを打ち倒すなんて!」

「…………」

なんだこれは。
光の加減と角度のせいでレンズ越しの瞳はよく見えないが、
それがキラキラ輝いているのだろうことがなぜか想像できた。
あちらで似たようなことをした時によく向けられた視線ゆえに。
そこでふと気付いた。先程の畏怖と拒絶の視線の中でそうでなかった視線を。
ガレスト人だけは程度の差はあれど目の前の少女のようであったと。

「……そんなすごいことではないと思うが」

「いえ! 鍛えていてもいざという時に動けない人は多いです。
 私も全然対応できませんでした……だから動けて倒せたあなたはすごいです!」

探りをいれるための言葉に純粋な尊敬のまなざしを向けられて胸が痛い。
“ガレストでは”そういう考え方なのだろう。遠巻きに見る彼らの頷きが視える。
資料から得た知識だけだがあちらにも身近な脅威は多いとされている。
感覚としてファランディアに近く、対処できる人間への憧憬が強いのだろう。
あくまで目の前にいる少女を基準とした場合だが。

「さぞ名のあるお強い方なので、すね。
 お名前を伺って、いえ、聞いてもいいですか?」

妙な言い換えをしたことに疑問があったが小さく首を振った。
赤の他人とはいえ『強い』と思われた相手に名など知られては困る。
そしてその認識だけは訂正しようと丁寧に言葉を吐いて誘導していく。

「俺は強くないよ。
 本当に強い人なら一撃で終わらせるものさ。俺、何回蹴った?」

「えっと……全部で四回?」

武器を弾いて一回。腹を蹴って二回。
顔を蹴り飛ばして三回。顔を踏みつけて四回。
たかがひったくりを倒すには確かに過剰かもしれない。

「そう。あの程度の相手に四回も、だ。俺は弱くて臆病だからね。
 たくさん攻撃して動けなくしないと安心できないだけだよ。
 それに、もっというなら本物の強者は誰にも襲われないものだろ?」

どこか詭弁が混ざったようなことをさも当たり前のように語る。
されどステータスを戦闘力の基準と見る彼らなら納得してくれると。
ランクを告げるのはかえって困惑と懸念を抱かれると考え、告げなかった。
しかし。

「え────!?」

いったい何に、いや何がそこまでの驚きを与えたのか。
目の前の少女は先程の信彦とは別種の信じられないものを見た顔をした。

「……なんか変なこと言った俺?」

「あっ、いえ、な、なんでも……ないです……」」

表情が発言を大いに裏切っていたが他人の彼が踏み込める話ではない。
それでもどうやら自分の言動が彼女の触れたくないナニカに触れたらしい。
先程までの興奮が一転してなりを潜めて、意気消沈してしまうのだから。

「……ほら、今度は取られないようにしっかり持っててね」

自分が話題を変えるべきだろうとまだ受け取られてはいなかった荷物を再度差し出す。
小さく頷きながら受け取った姿は別人のようにおとなしくて気弱に見える。
あるいはこちらが本来の姿で先程のが珍しく興奮した姿なのかもしれないが。

「被害届とか出してほしいっていわれて来たんだけど、大丈夫?」

「え、あ、はい! もちろ……ん、だしますとも。
 は、はは犯罪者を、許してはおけ、ないですし、
 そういうのは、義務、だと思います、ですから、ですよねぇ……」

「…………」

ちらちらと受け取った端末の画面を見ては妙な言い回しで言い淀む。
そしてどこか自分に言い聞かせるような物言いに目を瞬かせてしまう。
義務と口にした以上本人はこういうことをいい加減にする気ないらしいが
それでも困ったように画面に浮かぶ時刻を見る様子に察しはつく。

「………凜子さん、聞こえる?」

仕方ない。
シンイチは緊急連絡用に持たされた携帯で凜子に呼びかけた。
別段こんな会話なら第三者に聞かれても問題はなく戻るのもまた面倒だった。

「え?」

「うん、見つけた。けど急いでるみたいでさ。後日ってことでいい?
 ああ、大丈夫。目撃者もそこそこいるだろうし上に監視カメラもあるしさ。
 その時できる限り今日と同じ格好で来てもらえば大丈夫でしょ?
 ありがと、じゃ…………ってことになったから行っていいよ」

たいしたことではないように装って、あっさりとそう告げるが、
それで困ったのは少女の方だ。あまりに展開が突然過ぎた。
それこそがシンイチの狙いともいえたが。

「……え、え? い、いえっ!
 私の用事なんてたいしたものじゃっ!」

「でもそういうことにしちゃったし用事はあるんでしょ?
 被害届に提出期限なんてないんだから、あとでもいいよ」

だから、行っていい。そう笑顔で言い切って強引に押し切る。
そうした方が相手が乗りやすいと経験上知っているからである。
出来ればこれで“強い”ではなく“強引な少年”と印象が変わる事を願って。
などと都合がよいことを考えているので親切心は“少し”しかないが。

「………すいません。自由時間に限りがあるので、正直助かります」

「じゃあ気を付けて、バッグはたすき掛けにしておいた方がいいよ」

「はっはい! 助かりました、ありがとうございます!」

丁寧に大きく頭を下げると急いで人混みを走り去っていく。
背中から見ても解る喜びぶりからして楽しみな用事があったのだろう。
気落ちしていた姿は消えて、人の波を縫うように走って彼女は点になっていく。
その脚力と小回りはたいしたもので取られた時、追うと決断できていたなら、
今回の一件はおそらく彼女だけで対応出来ただろうと思われる。
本人も鍛えているらしいことはいっていたのでステータスは高いのだろう。
ただ、能力がいくら高くとも遭遇した犯罪者と対決できるかは別問題。
慣れてしまった自分と比べるのがおかしいと考えながら見送った。
そしてゆっくり振り返ると─周囲の視線を無視して─家族の下に戻っていく。

「はぁ、しかしな。
 ガレストの一般人の方が受け入れてもらえるとか、なんだそれ?」

「…………とことん平和と合わない人ですよね、主様って」

「言うな……色々虚しくなる」

その道すがらバッグの中の相棒と視線も合わせず軽く言葉をかわす。
まさかあんな程度のことでこんなことになるとは思ってもいなかった。
“たかが”犯罪者への対処でそれが判明するなんてとため息もこぼれる。
そしてたかがと思ってしまう程度に自分の精神性はもうこちらと乖離していた。
13歳まで生きてきた世界より2年過ごした異世界の理屈の方が染みついている。
そして厳密な意味合いでは前者の世界はもう存在してすらいない。

「……時間、かかるよなぁ……」

それをどう受け止めればいいのか。彼はまだそこまでの整理が出来ていない。
割り切ってしまうにはこの世界はまだ元の姿を残してもいる。
拒絶しきってしまうには彼はまだこの世界について知らなさすぎる。
中途半端に故郷(ふるさと)で、中途半端に異世界(アンノウン)

結局どうするか未だ決められずに場の状況を理解するのが精一杯。
そのため状況に流されることすら、うまくできていない。
帰還から2週間経過しているが心はあの日のまま止まっている。
喜んでもらえたことを喜べばいいのか。拒絶されたことを悲しめばいいのか。
それすらも彼はまだ決められないでいる。

「それでも主様は相変わらずどこでも女の子に優しいのであったぁ」

「…………なんだそのモノローグは?」

そう憂いていた顔に“彼女”はしかし、真剣な声色でそう語った。
思わず会話してないように装うために前だけを見ていた視線を下げれば、
狐顔なのにじつに楽しげに見える表情を浮かべている彼女がいた。

「おい、あの対応のどこが優しい? こっちの都合でやったことだぞ、全部」

「でもそれを思いついたのは彼女が困っていたからでしょう?
 それにきっと好印象ですよ。主様の腕前も惚れこんでる様子。
 ふふ、やりましたね主様! こっちに戻ってきてからの初ですよ、初!」

楽しげな声に、されど不機嫌さも混ぜるのは“見慣れた”態度だ。
シンイチにとってはそんな態度はうんざりであり、謎なのだが。

「やめてくれ、あの程度で人が人に好感持つかよ。
 お前、こっちにきてからその手の漫画読み過ぎだ」

彼女がこちらに来て食べ物の次に興味を持ったのは漫画だった。
それもどうしてか一昔前のラブコメ物だったのだから頭が痛い。
尤も。その手の漫画の持ち主が誰かといえば異世界に渡る前の彼自身。
現在シンイチの部屋にある私物はそういった次元漂流する前の荷物だけだ。
彼自身は戻ってきてからそれらを一度も手に取ってはいないのだが。

「ええ、確かに。
 これで何回かあちこちで再会して騒動に巻き込まれればいうこと無しです」

物語(マンガ)的に。
そう微笑むキツネに場所が場所ならバッグごと捨ててしまいたくなる。
この女はなにを期待しているのかと小一時間ほど問いただしたいほどだ。
あちらにいた時からシンイチが異性と触れ合うと重い溜め息を吐くくせに、
そういった行為を助長したがるのだから、わけがわからない。

「はぁ、もう会わないだろうよ。どう考えても旅行者か。
 普段は別の所に住んでるって感じだったじゃないか」

「それでも再会してしまうのが主様の対人運の恐ろしいところであったぁ」

「だからそれやめろ! 俺の場合シャレにならないから!」

周囲に気付かれないようにしながらも、
ふたりはそうして“いつものように”言い合って笑う。
その意図を理解しながらシンイチはその気遣いに感謝し乗っかるのだった。
作者の俺自身はこんなの見たら引いて怯える側の人間です。
どちらが実際に多いかはわかりませんがこのお話の人達はこうです。
そしてこの世界ならではの別の理由もあるといえばあるのですが
……語られるのは次々回になります。
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