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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

波紋編 第二章「異世界な故郷」

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02-08 茶番軍議

更新再開が遅れました。盆休みで思ったより書けなかった。
やっぱ山の中とはいえ暑いものは暑かった………あと忙しかった。

前回のあとがき通り。
今回時間軸はほぼ同じだが地球ではない話がこれを含めて三話続く。


ある少年が偶然によって漂着した異世界ファランディア。

その歴史は長く、おおよそ六千年は続いているといわれている。

創世神である女神リーモアがこの大地を作り、ヒューマンが誕生してから六千年。

ただ現在に伝わる歴史はそのうち三千から三千五百年ほど前まで。

それも当時のことは伝説としてしか伝わっておらず、

それよりも以前のことは伝説としてすらも伝わっていない。

現在までに明確に伝わっている歴史はせいぜいこの千年ほど前までだ。

この原因には諸説あるものの定説として『邪神』による侵略があった。



───今から。
およそ三千年以上昔に創世神リーモアの加護を受け平和だったこの世界は
突如としてかの女神と敵対する邪神に襲われ、世界中が戦火に覆われた。
人々は邪神に抵抗したが彼らの持つ剣も魔法も邪神には通じなかった。
それ以前に邪神と戦える者がそもそも少なかったのである。
ヒトという生命は本質的に神を恐れ、敬い、逆らえないのだ。
それでも一部の勇気ある者たちが抵抗するもまるで敵わず。
人々は無残に殺され、街は業火で焼かれ、国は跡形もなく滅んだ。
これによってその前の文明や歴史に関する情報が多く失われたという。

この所業に女神リーモアは怒り、嘆いたものの何もできない。
神の掟により女神は世界の内の出来事に直接の干渉ができなかった。
邪神はそれを知っていて神としての階位を落としてでも内に入り込んだ。
しかし滅ぼされていく者達の嘆きに、神に救いを求める祈りに応じて、
自らの力を宿した武具を一部の勇敢な人々たちに授けた。

それがのちにリーモア騎士団が持つ必殺兵器『神装霊機』

名剣でも傷つかぬ邪神の体に傷をつけ、魔法で防げぬ攻撃に耐える武具。
これらを手にした勇者たちを筆頭にして人々は邪神に戦いを挑んだ。
決戦は七日間も続いたといわれ、最終的には勇者たちが勝利しました。
しかし邪神はいくらで邪であっても神は神。ヒトの身では完全に滅ぼせない。
神装霊機とて使い手がヒトである以上傷は与えられても殺すことができない。
仕方なく彼らは邪神の肉体と魂をいくつにも分けて世界中に封印しました。
二度と復活できないように。したとしても単独の力を極力弱めるために。

けれど邪神とて指をくわえて黙って封印されたわけではなかった。
自らを復活させようと封印されながら様々な奸計をいくつも巡らせ、
人心を惑わし自らを信奉させる教団さえ後に誕生することになる。

ですがその中で最もヒトにとって脅威となったのは別のモノ。
激しい戦いを終え、各地に邪神の分体を封印し終えた勇者たちは
邪神に乗っ取られていたリーモア教の聖地に凱旋しようとしたという。
けれど、そこで恐るべき光景を目にするのです。

支配されていた時でさえなかった巨大な塔が連なったような城。
禍々しい姿のそれが彼らの凱旋を遮るように建っていたのです。
そして聖地には角を持った種族がいつのまにか居座っていました。
そう、邪神の眷属である魔族が聖地を支配していたのでした。
勇者たちは抵抗しましたが邪神との戦いで消耗した彼らは敵いません。

それから何度も聖地奪還のために戦いを挑む彼らですが、
魔族の力は恐ろしく強く、切り札であった神装霊機も
邪神との戦いで力をほぼ使い尽くし、かつてほどの力がありません。
そのため以後三千年もの間、聖地は魔族に奪われたままになっているのです───


かなり駆け足で語ったが、
それがファランディアの大多数の民が信じている神話である。


尤も。


この世界では珍しい黒髪の少年はその神話をこう評した。



───神話使って情報操作とか罰当たりな連中だ




と。



───────────────────────────────────






ファランディアの主要な国による対魔族の大同盟は極秘裏に進んでいた。
秘匿された理由はそれが奇襲作戦を念頭に置いたものだったからだ。
魔族領とヒューマン領の境目は国境としてはじつにおかしな状態にある。
何せ彼らの本拠地であり魔族の王族たちが住む王城が砦のように置かれている。
件の魔王による水晶球の乗っ取りによって世界中への宣言が行われた城。
あれはそれぞれの領の境目に建っており、王城としてはおかしな配置。
しかし同時に長年に及ぶヒューマンの侵攻を抑えきった文字通りの“城砦”だった。

ヒューマンが取り返そうという聖地はアズーム山に囲まれた土地だ。
登頂することはほぼ不可能といわれる険しい傾斜と恐るべき高さを誇り、
そのうえ常に吹雪いている厳しい気候はヒトが踏み込める場所ではなかった。
聖地に入るには唯一開けている一部の陸路を通るしかないのである。
だがそこを塞ぐように魔王城はありヒューマンは何度も煮え湯を飲まされた。
しかしながら彼らヒューマンも何百年も手をこまねいていたわけではない。
小隊程度なら潜りこませられる経路をいくつか発見しており、
本当にその城が魔王の一族が住む城であることも調べ上げてある。

神話においては三千年も聖地を奪われていた事になる世界最大宗教のリーモア教。
その総本山たる教会本部は長年の調査と根回しで準備を重ねた計画を動かした。
各国から優秀な人材を集めて作った少数精鋭チームを複数同時に魔王城に突入させ、
その混乱を機に大同盟によって作られた大軍で攻め込んで難攻不落の城を攻略する。
概要としてはそんな計画を立てて聖地奪還を目指したのだ。

魔族領と隣接する大国「ダモレス」とリーモア教会が主導した大同盟は
秘密裏に着々と進み、領外に出てこない魔族にそれを知る由は無い。

はずだった。

ところが侵攻直前での魔王の発言は事前に察知していたどころか。
こちらの主戦力まで的確に見抜いており彼らを激しく動揺させた。
そのうえ伝説の暗殺者マスカレイドの登場と暗殺未遂は民には不安を与え、
兵士たちの士気は下がり、為政者たちは一部を除き消極的な姿勢を見せだす。
そこに輪をかけての異常事態(・・・・)が起こり同盟は致命的な決裂を迎えようとしていた。





「いったいこれはどういう事態なのですか!?」

大きな円卓に並ぶ各国代表の顔の中で祭服を着込む中老の男性が叫ぶ。
彼は今回議題となった異常事態とこれまで続いた想定外に神経をすり減らしていた。
長年準備をして漸く成った歴史上最大規模となった同盟がなぜこんなことに、と。

「ですから。
 それを今から説明するといっているのですよオレイル大司教さま」

憔悴と動揺で一気に十ほど歳を取ってさらに老いたような大司教に対して、
その場で一際若く、可憐な容姿を持つドレス姿の女性が冷静に言葉を返す。
他に並ぶは老齢な将軍か威厳に満ちた王たちが多かったために、
金砂をまぶしたような美しい髪と翡翠の宝石のような瞳を持つ美姫は
常以上に周囲の注目を集めて、そして円卓の空気を支配してもいた。

「何を悠長な! あなたの国が召喚した勇者が消えたのですよ!?」

「正確には他にもいた異世界人たちが一斉に強制転移された、ですよ大司教さま」

数人の例外である大司教は声を荒げるが彼女は他人事のように語る。
彼は顔をみるみる赤くして今以上に感情を爆発させんとしていた。

「まあまあ、大司教さま落ち着いて。
 リリーシャ王女、ことの次第を順番に説明していただけますか?」

それを隣に立つ若い男が諌めながら彼女にそれを求めた。
王女リリーシャ・アースガントは頷きながら目配せで配下の侍女を動かし、
円卓の中央に置かれた水晶球を起動させるとヒトの顔を幾人も映した。
その下には名前や役職も出ており、それが今回消えた異世界人たちだった。

「ここにいる皆様もご存じのとおり。
 この世界ファランディアではごく稀に異世界からの迷い人が現れます。
 これは我が国が開発した召喚術とは別のただの天災であるために
 本来なら彼らに故郷への帰還の道はありません」

そのため遅かれ早かれ彼らはこの地で生活することを考えなくてはいけない。
彼らの存在が為政者たちに認知されているのは異世界固有の考え方や
こちらにはない知識や発想を迎え入れてきた例が過去に何度かあったからだ。
尤もこちらの常識がない危険性をも孕むため世に広くは知られていないが。

「ここに出した者達は今回の同盟軍に参加した異世界人たちです。
 彼らは全員同じ日に、魔王暗殺未遂事件の四日後の同じ時刻に消えました。
 見ていた者の話では転移の光のようなモノに包まれていったと」

「逃げたということか!?」

「………強制転移されたと最初に申し上げませんでしたか?」

説明の腰を折る短絡的な言葉にうんざりしたような王女の視線が飛ぶ。
ひどく屈辱的なそれに再び大司教の額に青筋が浮かぶのをまた男が諌める。

「大司教さま、ひとまず最後まで聞きましょう」

「うっ、うむ……」

「では続けます。
 その際の本人の様子と転移の痕跡を我がアースガントの者が調べた結果。
 断定はできませんが、彼らは故郷の世界に強制的に戻されたと思われます」

「故郷の世界に、強制的に戻された?」

しかし予想していなかった単語に若い男も言葉を反芻して訝しむ。
周囲の他の代表者たちもその言葉にはさすがに動揺と戸惑いが見える。
異世界人が語る故郷は多少の違いはあれど次元を超える術は夢物語の世界。
そんな世界がどうやって流れ着いた彼らを戻せたというのか。
にわかには信じられない話ではあったがアースガントは魔法大国として名高い。
その調査チームが出したという推論だ。それなりの根拠の上なのだろうと、
皆が王女を見据え、それに答えるように彼女は続けた。

「はい。
 まず目撃情報によれば当人たちは全員何が起こったのか。
 まったく把握できない様子で転移させられています。
 その場に術式の痕跡が無いことからも他者による転移は間違いなく、
 強力な魔力反応と転移に似た痕跡は残っておりそれを追わせた所、
 全員がファランディアの外に出ています。それも同じ方角に向かって」

転移魔法の話をしている時に出る『方角』とは東西南北の話ではなく、
転移した先が正確には解らなかった際に跳んだ先が近い事を示す表現である。
この場合は全員が世界の外にまで出たうえで同じ世界に向かったという事だ。

「なるほど、外部から異世界人だけを狙った強制転移術。
 それらがファランディアの外の、それも同じ世界に向かっていると」

「天災とは思えぬな。明らかな意図が見える以上、
 目的はこちらに流れついた同胞の回収とみるべき、か」

誰かからの納得したような呟きに王女は大きく頷いた。

「他にも軍に参加しなかった異世界人にも同様のことが起こっていましたし、
 同じ日に突然目の前で知り合いが消えたという事件の報告もあがっています。
 我々が把握してない隠れ異世界人までとなればその可能性が高いと見ています」

それを裏付けるような証言や出来事まで提示され、円卓には溜息がこぼれる。
逆の立場であれば自分達も奪われた形の同胞を取り返そうとするだろう。
彼らからすれば天災で二度と故郷に戻れぬ地に流れ着いたのだ。同情心もある。
人数としても何百人という数ではなく軍としては10人前後。
民間や隠れを合わせてもせいぜい20人程度という少数。
世界の情勢や奇襲作戦の成否に関わるという数ではなかった。
彼らがただの雑兵であれば、の話だったが。

「即刻呼び戻せ、リリーシャ王女。
 伊達にアースガント一の魔法使いとはいわれておるまい」

屈強な肉体に鎧を着込む見るからに武人といった風体の男は
自分の娘でもおかしくない年齢の彼女に嫌味ったらしい言葉を吐く。
慇懃無礼とも思えるダモレスの将軍の言葉にしかし彼女は余裕の笑みだ。

「おや、ダモレスの将軍さまは何を勘違いしてらっしゃるのでしょうか。
 確かにあなたは同盟軍の司令官でしょうが私に命令できる立場でしたか?」

見た目から感じ取れる歴戦の迫力を持つダモレスの将軍。
そんな相手からの隠しきれない敵意と皮肉がこもった視線を気にせず。
さもおかしいといわんばかりに王女はわかりやすく彼を嘲笑した。
それに唸る彼だがかなり痛いところを突かれているのも事実。
確かに王女リリーシャは同盟軍に参加しているわけではない。
一国の将軍である以上、他国の王族に命令する権限は確かにない。

「おのれっ」

小娘が。そう罵ってしまわないだけの理性はあった。
彼からすればこの場にリリーシャがいることに不快感がある。
さもありなん。ここに集うは同盟国の代表そのヒトと軍事の代表者が多い。
だというのにアースガント王国は王位継承権第二位の王族とはいえ、
即位したばかりの女王でも魔法騎士団のトップでもない彼女を出してきた。
それも戦力としてならば納得できる魔法の腕前を持つ彼女を
なぜかあえて自国の意志を伝える国家代表としてだけ、だ。
この戦に全身全霊をかけてきた将軍としてはあまりに手抜きな対応。
さらに彼の国は王位継承に手間がかかり漸く女王が即位したばかりというのを
理由に気持ちばかりの手勢と召喚した勇者のみを戦力として提供している。
勇者の戦力は貴重であったために渋々納得したがいなくなっては意味がない。
将軍は怠慢ともいえる対応の彼の国にいい感情を持っていなかった。

「お前たちはこれがヒューマンの存亡をかけた戦だと分かっているのか!?」

「……本当にそうなら私も必死になりましょうが……」

「なにを!?」

「まあ、どちらにしろ再びこちらに連れてくる術はありません」

円卓を震え上がらす怒号を涼風でも受けているように流す王女は
あっさりと“できない”と白状したというのにその顔には微笑がある。
その事実に対して彼女自身が何とも思っていないという証左だ。

「出来ぬと申すか。召喚術を作り上げて勇者を召喚したそちが?」

異世界の勇者。
こことは異なる世界の強き戦士を呼び寄せる術。
召喚術とセットだったとはいえ本来帰せないはずの異世界人を
送還させる術も作ったのだから魔法大国アースガントの歴史において、
彼女が歴代最高の魔法使いといわれる由縁はそこにある。
また彼女が呼びだした勇者は勇者と呼ばれるだけの実力を秘めていた。
彼女を内心小娘と蔑む将軍もその魔法の実力だけは認めざるを得ないほどに。

「彼らが現在故郷のどこにいるのかこちらに把握する術がないのです。
 別の勇者を再召喚をしろということなら色々とモノと時間を
 用意していただければ………1年後ぐらいには可能ですけれど」

「手ぬるい!
 お前たちアースガントは魔族領から遠いゆえ奴らの脅威を知らんのだ!」

「…………知っているのなら、もはや勝ち目のないこともわかりましょうに」

「なんだと!?」

白々しく冷めたような態度で吠える将軍を見据える王女リリーシャ。
憤怒燃える視線を鼻で笑うように微笑んで誰もが口にしなかった事実を発した。

「当初の作戦では我が国の勇者や異世界人たちを中心とした精鋭部隊を
 城内に送り込み、それで魔王を討ち取れればそれで良し。
 できなくとも混乱する魔王城に同盟軍の大軍を城前に転移させ、
 対応させないまま一気に攻め落とす、というものでした」

これが此度の魔族討伐の概要でありダモレスとリーモア教会がたてた作戦。

「ここに少なからず勝算があったから我が国は同盟に踏み切りました。
 さて、お聞きしますが司令官殿。現状戦力でこの作戦が実行できるのですか?」

「くっ………」

その指摘に息巻いていた将軍は振り上げた怒りを下ろすしかなかった。
この作戦の肝は奇襲である事と潜入させる精鋭部隊の戦闘力にある。
一般的な軍の兵士1人と魔族の兵士1人との能力差は1対50といわれる。
兵士50人で襲ってやっと1人の魔族を討ち取れる計算なのである。
一部の一騎当千の猛者を除けばそれほどまでに魔族との能力差は著しい。
唯一の慰めは魔族が少数民族であり総数ならばヒューマンが圧倒的に多い事だが、
そうであるがゆえに半端な実力の少数部隊を送り込んでも混乱など起こせない。
ゆえに今回の作戦は尋常ではない戦闘力を持つアースガントが召喚した勇者と
彼ほどではないが戦いに長けた異世界人の存在が必要不可欠だったのだ。
彼らは異世界人ゆえにこちらにない発想力と生活基盤がない必死さがあり、
それらが彼らに他と一線を画する一流の実力と評価を与えていたのである。
この場の為政者や軍人達が持つ兵力は所詮能力の差を数で埋めるためのもの。
皮肉なことに魔王の言葉通り実に嘆かわしく情けない有様である。

「勇者さまを筆頭とした戦力の要を失い、奇襲作戦もあちらに漏れていた。
 作戦の大前提が崩壊した今、強大な魔族にどうやって打ち勝つつもりなのか。
 出来ればこの若く非才な身にご教授いただけませんか司令官殿?」

敬ったような言い方なれど嫌味と皮肉がこもったそれに彼は額に皺を寄せるだけ。
頼りの将軍にもはや弁がないと悟ったのか黙っていた大司教が声をあげた。

「リリーシャ王女! あなたは此度の聖戦をなんと心得るのですか!」

「無論、もはや行う前から敗北が決まった無駄無意味な負け戦、ですが?」

宗教に携わる者として戦略眼がない自覚はあるのだろう。
相手の義憤を期待しての発言はされど、即座に冷めた声で返された。
そこに一切の躊躇いはなく侮蔑するかのような色もあって唖然とする大司教。
立場上そのような言葉を向けられた経験がなかったのであろう。

「そもそも大司教さまほどの方が聖戦だと仰るのなら、
 何故教会は虎の子のリーモア騎士団(ナイツ)を出してこないのです?
 神装霊機をまとった彼らがいれば戦力不足は補えたというのに」

今回の同盟に教会は私兵である教会騎士団は出向させてきていた。
だが、その中に教会の秘蔵にして最強の戦力であるリーモア騎士団は不参加。
神話にて女神から与えられたという武具をまとった文字通り女神の騎士たち。
彼らがいたなら話は違ったのにとわざとらしく残念がるリリーシャ。

「あ、あれは教皇さまの許可がなくては……それに今は別任務についていて……」

語るに落ちる。
その見本のようなそれに笑うより先に王女は呆れた。
今のは彼らの立場でなら決して口にしてはいけない情報である。

「大司教!」

「あ!」

隣りに座っている将軍が強い声で止めに入るが既に出た言葉は戻らない。

「つまり今回の同盟に参加することは無いと?」

「そんな話は初耳だぞ」

「どういうことかな、大司教どの。
 参加する予定があるという話だったが?」

「う、あ、いや…………打診はしましたが無理だったのです」

これまで曖昧な表現で逃げてきたがさすがにこの状況では虚言は口にできない。
渋々といったていでリーモア騎士団の参加はないと白状したのである。
尤もそんなことは最初から他の者達は事前に調べはついていたが。
知られていないと思っていたのは黙ってしまった同盟の立役者二名だけ。
その様子に呆れたように息を吐いたリリーシャは円卓に集った者達全員に
聞こえるようによく通る声を響かせて自国の言葉を伝えた。

「皆さま、現在の同盟軍の状態は今のでお分かりになられたと思います。
 アースガントはこれらを理由に此度の同盟を白紙に戻すことを提案します」

「なんだと!?」

「なんということを!」

大同盟の白紙。
その締結に時間と手間をかけた将軍と大司教は騒いだが悲しきかな。
それに賛同する声は響かず、彼ら以外はそれも仕方なしといった雰囲気の沈黙。
いくら主導する立場でも参加国のほぼ全てから反対されては同盟維持はできない。

「何をいうのです!
 皆さまお忘れですか、マスカレイドが暗殺に失敗しているのですよ!?
 きっとあの悪魔の王は怒り狂い、即座にこちらに攻めてきましょう。
 これを抑えるという意味がいまこの同盟にはあるはずです!!」

これでは瓦解すると判断したのか。さすがは説法慣れした者である。
もっともらしい言葉で説得にかかるが、リリーシャの顔には嘲笑が浮かぶだけ。

「そういってもう一月半ほど経過していますが?」

「それはっ……」

世界中が見ていた魔王暗殺未遂事件からそれだけの日数が経過している。
代表者を揃えての軍議を開くのにここまでの時間がかかったのは
主導している立場にある教会(大司教)ダモレス(将軍)が混乱し事態の処理が遅れに遅れたから。
されどその間に魔王の軍勢が報復にこちらへ侵略してくることもなく平和だった。
まだ警戒を緩めてはいないもののこれといって動きが見えないのも事実である。

「軍備を整えている可能性もあります!
 攻められる前にこちらから攻め込まなくては先手を奴らに……」

「────それは、無いでしょう」

それでもなお言い募ろうとした大司教の言葉をリリーシャ以外の人物が否定した。
この場ではリリーシャの次に若い女性ではあったが軽装ながらも甲冑を着込み、
可憐さからは程遠いが鋭い刃のような研ぎ澄まされた美しさを持つ女騎士だ。

「…………どういうことかな、フィリアス公国騎士団長?」

軍事の代表者ということならば自分が相手にすべきだと思ったのか。
ダモレスの将軍の語気を強めた問いかけに女騎士は臆した様子もなく答えた。

「あれが起こった直後なら大司教さまの懸念は現実味がありました。
 ですが今日までの魔王城の様子を探る限り彼らは外からの攻撃や侵入者を警戒している。
 あの日厳重に警戒していたはずの城に誰にも気づかれずマスカレイドが侵入し、
 あろうことか城主である魔王に奇襲をかけたのです。当然の対応でしょう。
 “しばらくは”あの警戒が解けることはないと見ていいでしょう」

たたでさえ堅牢な城砦に魔族の兵たちによる昼夜問わない警備が加わった。
それも自分たちの王が狙われたこともあってかその士気は傍から見ても高い。
これを攻め落とすのは全てのヒューマンを集めても厳しいといわざるを得ない。

「だが大司教殿がいうようにそれが見せかけで、軍備を整えている可能性も……」

「これは魔族の戦い方をよく知るダモレスの将軍とは思えぬ言葉。
 彼らに戦略などないことぐらい知っておられたと思うが、違いましたか?」

「う、ぬっ……」

正しすぎる指摘に反論の言葉さえない。
何せ生来の身体能力が大幅に違う。僅かな兵でも数国程度なら力押しで滅ぼせる。
過去の歴史上彼らの報復を受けた国は数多くの戦略を力で潰されてきたのだ。
ダモレスも“彼らのいうことを信じれば”それなりにその脅威にさらされている。
そも奸計や計略は基本的には劣っている側がすることである。
魔族にそれをする意味はまるでない。彼らの戦略は力押しのみだ。

「仮に軍備を整えるにしても攻撃手段から武具、移動手段に至るまで。
 何もかもを自身の魔力で都合できる彼らのそれは非常に短い」

いくら時計の進み(・・・・・)が違っても攻めると決めれば早いのが魔族だ。
それ以外のことは長命種らしくヒューマンから見ればのんびりに映るほどなのに。

「それに問題はこの“しばらく”の警戒態勢がいったいどれだけ続くかです。
 我らヒューマンと彼ら魔族とでは時計の進みが大きく違っています。
 我らが生きている間に解かれるかどうかは怪しい所でしょう」

何せ魔族はヒューマンの十倍以上の寿命を持つといわれる種族である。
実際に今の魔王ギオルは記録上300年ほど前からずっと魔王として君臨している。
そんな彼らと百年生きるのが精一杯のヒューマンでは時間の感覚が違いすぎる。

「ですね。何か劇的なことでもない限り。
 最低でも2、30年はあの厳しい警戒が解かれることはないでしょうね」

「2、30年!? 将軍ほんとうに!?」

「……口惜しいが十二分にあり得る話だ」

王女は言外にそこまでこの同盟を続けるのかと問いかける。
問われた大司教はその年数に思わず将軍に振り返るが事実は事実だった。

「な、なんということだ!
 ようやくっ、ようやく聖地ギャレス・トゥールを取り返せるとっ!」

席に崩れるようにして頭を抱えた大司教を尻目に忌々しげに将軍は言葉を吐く。

「おのれっ、何が伝説の暗殺者だ!
 あやつが暗殺に失敗するからこんなことに!」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………?」

落ち込む上司を慰めながら付き人たる男はその変化に首を傾げた。
それまで王女と将軍たちの言い合いの傍観者だった他国の代表者たちは
どこか議論の行く末を“あえて”見守っていた雰囲気があった。
だが将軍の発言で途端に場が白けた(・・・・・)ように空気が大きく変わった。
苛立ちからマスカレイドに向けて侮蔑の言葉を吐く将軍は気付いていない。
そしてはっきりと感じる彼らへの見下すような視線に若い男は勘付く。

──マスカレイドの行動には別の意図があった

将軍と大司教以外の国家代表たちには半ば周知の事実として。
そこに気付きもしない彼らを未熟者として蔑む空気がそこにあった。
それは今も頭を抱えている大司教もまったく感じ取れていない。
ああ、終わったな。男は言葉に出さずとも内心で笑った。

「そうです……将軍のいう通りです!
 許せません! 我が(・・)聖戦を汚しあまつさえ邪魔をするなど!
 マスカレイドは不穏分子です、即刻彼奴を始末するためにこの同盟をっ!!
 あの怪しげな仮面に我らが女神リーモアさまの鉄槌を下すので─」

「─────いいかげんになさい、見苦しいっ!!」

円卓の場に厳かに、されど強く支配するように声が響く。
一番年若い王女のそれは声を向けられた者以外をも圧倒する迫力があった。

「それでもファランディアに名高いリーモア教の大司教ですか!
 計画の破綻を認められず、マスカレイドに責任転嫁したうえに
 ヒューマンの未来を想った大同盟を私欲で使おうとは!
 さらに我らが女神にその処罰を求めるなど、何様のつもりか!
 恥を知りなさい!!」

「わっ、私はそのよう」

「黙りなさい! もはやあなたが語る言葉に何の価値もありません。
 これ以上はわずかとはいえ我が国の兵士を預けることはできません!
 我がアースガントは今日この日より同盟を脱退させてもらいます。
 正式な手続きや書類は後日しかるべき所に出させてもらいましょう」

「では、フィリアス公国も同じく。
 現状ではどれだけ国を束ねても魔族討伐など夢物語に過ぎない。
 また現在の魔族の脅威度は低い。死力を尽くす意義は今の所ありません」

ふたりが席を立ったのを切っ掛けに次々と彼らは同盟の席を立った。
口々にアースガントが抜けるなら、討伐が不可能、戦費が賄えないなどと
いいながらも代表者たちの顔には強い蔑みのそれがあると気付いたが時既に遅し。
その意味を解ったしても王女の気迫に押された二人は身動き一つとれなかった。

「馬鹿な、何故こんなっ……私がっ私こそが魔族を討つ運命にあるはずだ!」

「生涯をかけてまでここまできたのに! 何故ですか女神さま!!」

残ったのは全てが終わってもそれを認められない将軍と大司教。
先頭を取って席を立った二人を面白そうに目で追う若い男だけだった。


一週間後。
ダモレスと教会の名を“使った”同盟の失敗とそれによる魔族討伐の失敗。
二つの責任をとらされる形で彼らの権威は失墜し、その地位と権力を失った。




──────概ね世界中の為政者たちが推測した通りの大同盟の結末だった

これでファランディアと地球の時間の流れがほぼ一緒だと読者には判明。
え、ひと月半ぐらいずれてない?って方は「母親を舐めるな!」で語られた
次元の壁を超えるさい最大で一ヶ月時間がずれることがある。
という話を思い出していただけると嬉しい。
+注意+
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