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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

波紋編 第二章「異世界な故郷」

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02-07 憧れの“今”

帰省するので誤字脱字とかの報告あっても反応ないかもしれぬ。
ヒーローといわれて人は何を思い浮かべるものなのか。

テレビの中で悪と戦う架空の存在だろうか。

輝かしい功績を持ったアスリートたちだろうか。

身近にいる憧れの存在だろうか。



『中村信一』にとってヒーローとは幼馴染の友人たちだった。



弱虫で泣き虫な自分をいつも助けてくれた二人の友人。

一人はその大きな体躯と自慢の力で何度も助けてくれた。

もう一人は悪知恵を働かして影ながら守ってくれていた。

家が近所で物心ついた頃から一緒だった三人組は兄弟同然の関係。


そしていつも助けてくれた彼らだけが唯一の友であり、
『中村信一』にとってはカッコイイヒーローそのものだった。




それは今も変わらない───












シンイチは忘れていた。
いつも微妙な活躍を見せる自分の対人運のことを。
会いたくない相手と出会わせ、厄介事を抱える人間を見つけだす働き者の事を。
今回も大活躍しやがってと文句の一つでも盛大に叫びたくなっていた。
かつて住んでいた街ならばともかく、そこから離れた別の街で
数少ない幼馴染の友人とあんな状況で再会するなど誰が予想するのか。

「6年の時差か……道理で相変わらず小さいわけか」

そんな内心の複雑な想いなど知らない男は軽く幼馴染の頭を叩きながら笑う。
場を図書館のラウンジから近場の喫茶店に変えて、彼らは向かい合っていた。
彼は高峰(たかみね)大吾(だいご)。彼のふたりいた幼馴染のうちのひとり。
当時から体格はかなり大きかったが現在はもう2メートルに近い。
それは歳が離れたこともあってか、より大きな身長差となっていた。

「よ、よせ。お前がさらにでかくなっただけだろうが!」

地味に気にしている事を指摘されたので少し苛立ちながら手を払った。

「ははっ、無駄にでかいってよくいわれるよ」

「…………」

それに笑って返した彼の言葉に痛みが孕んでいることを感じ取るも、
あえてそこには触れずに再度口止めの言葉を高峰に向けた。

「それより、頼むから本当に誰にも言わないでくれよ。
 この話が流布されると厄介で面倒なことしか起きないぞ」

話したのは本人だとバレてしまった以上、外見年齢のおかしさを
単に背が伸びなかったとか童顔だからなどでは誤魔化しきれないからだ。
隠して興味を持たれるより話してしまって口止めした方がベターだった。
折角再会できた幼馴染に嘘をつきたくなかったというのもあったが。

「厄介で面倒って、具体的には?」

「もう対策室がなんとかしてくれたけど、誘拐未遂とか尾行とか」

これも嘘ではない。どちらも事実としては正しい。正確ではないだけだ。

「そ、そっか。分かったよ。絶対誰にもいわない。約束する」

尤も大吾が考えているより危ない犯罪を匂わせようという意図もあった。
そのおかげもあってか彼は真剣な表情になって力強く頷いてみせる。
それに少し安堵する。昔から約束を破ったことは一度もない男だ。
信用、したい。

──ホント、嫌な男になったものだ

瞬時に彼から漏れる可能性を考えている自分に嫌気がさす。
それを考えておく必要性は認めざるをえないが人間として何かが最低だ。

「しっかし、お前変な方向にグレードアップしてたな」

「え、なにがだよ?」

「昔からボソッと毒吐く奴だったけど、今もう直接猛毒吐いてるもんな」

「え、そうだったか?」

現在、素の言葉使いが悪いのは自覚しているが昔もそうだったといわれると戸惑う。
彼自身の記憶にはナニカに怯えているか泣いているか母に甘えている姿しかない。
兄弟の前では多少虚勢を張っていたとは記憶しているが毒舌家の印象はないのだ。
だが目の前の幼馴染からするとそうではなかった。

「そうだよ。それで何回血の気の多い奴に囲まれたんだよ?
 クラスを牛耳ってるような奴に何回天然にケンカ売った?
 その度に俺と武史(たけし)がどれだけ苦労したと思ってる」

「…………その節は大変ご迷惑をおかけしました」

脳裏に二人に助けられた光景が多数浮かんでいき、申し訳なさに頭が下がる。
すぐに大吾は冗談だから気にするなと笑う。彼からすればシンイチを助けていたのは、
仲の良い幼馴染ということもあったが彼の吐く毒には正しさがあったからだ。
そしてそれで逆上して暴力に訴える連中が気にいらなかっただけの話。

「ふふ、変わってないなお前は。まだ2年だもんな、当然か」

「大吾?」

それを告げても恐縮してしまう態度は彼の記憶にあるそれと変わらない。
それにどこか切なさや寂しさがこもった言葉に吐く彼に訝しむシンイチ。

「いや、なんでもない。とにかく生きてて良かったよ。
 こういっちゃなんだが………死んでると思ってたからな」

誤魔化すように、されど申し訳なさそうに目を泳がしながらそう語る。
その姿にシンイチは静かに首を振って、その抱く必要のない罪悪感を否定した。

「事情はわかってるから気にするなよ。伊達に図書館で調べてたわけじゃないぞ。
 むしろお前らまで行方不明者の会に入って捜索を訴えてくれたのは嬉しかったよ」

過去の記事を調べていて偶然目に入ったその記事。
異世界の民間発表から一月ほど経ったあとに発足した行方不明者の会。
次元漂流をしたと断定された人の家族たちが集まり捜索を訴えた団体。
地元紙の記事ではその活動に参加していた母や彼らの姿があった。

「げ、あれ見たのか。なんか本人に見られると気恥ずかしいな」

照れたように笑う大吾に釣られるように微笑むものの、
そこで得られた情報が彼らシンイチに近しい者たちが生存を絶望視した原因。
その後、その団体は1年もしないうちに縮小していき現在では残ってもいない。
なぜならガレスト側が即座に対応して捜索と情報開示をしたからだ。
これにより大多数が発見され、家族の待つ地球へと帰ることができた。
だがそれは運良くガレストのどこかの街に漂着したか入れた者たちだけ。

「けど2年もどうやって生きてたんだよ。あんな(・・・)怪物だらけの所で」

「ははは……」

会の人々はそこで初めてガレストに人類の脅威(モンスター)がある事を知る。
人を襲う化け物。空想の産物でしかなかった存在が実在している世界だと。
城塞のような巨大で頑強な塀に囲まれた街の外はそれらが跋扈する世界だと。
そんな街の中にいても怪物たちが入り込んで暴れるのが珍しくもない世界だと。
だからこればかりはこういう話にするしかなかった。

「気性のおとなしい原住生物と仲良くなって、守ってもらってたんだ」

「ああ、そういえば二種類いるんだったよな。
 暴れるだけの怪物とこっちでいう動物みたいなのが。
 けどそっか、それは考えたこともなかったな……」

何せどちらも基本的に気性が荒く、凶暴だと公開された情報ではなっていた。
ただ一部を除きという注釈があってその数少ない例外がアマリリスだっただけ。
そんな雲をつかむような話を考える者はおらず、可能性としても無さ過ぎた。
だから、そんな世界でいくら探しても見つからない時点で絶望視されたのである。
きっともうこの怪物たちの餌食になってしまったのだと。
生存を信じたくとも、その余地が見えてこなかったのだ。

「俺のことはもういいよ。それより大吾はどうしてここに?
 確か父さんの話だと中学卒業後におばさんの故郷に引っ越したって聞いたけど」

「ああ、それな……事情があって俺だけこっちに戻ってきてたんだ」

シンイチが知人との再会に無警戒だったのは親しかったのが幼馴染だけだった事。
その二人が共に中学卒業後に住んでいた街から遠地に引っ越したと聞いていたから。
なのに何故、大吾がここにいたのか。

「その事情は、俺が聞いてもいい類か?」

「はは、別に難しい話じゃない。おふくろの故郷で就職できなくてな。
 親父の知り合いが多いこっちで世話になりながらの就活って奴」

どこか聞きづらそうな話に気遣った問いかけをするが、
大吾はどこか自嘲するかのように笑って、なんでもないように語った。
図書館にいたのも面接対策や必要な勉強をするためだったという。
しかしそれは暗にある事実を示しており少なくない衝撃を信一に与えていた。

「就活って…………なれなかったのか、警察官に?」

高峰大吾の事で一番印象に残っているのが何度も助けてくれた姿ならば、
二番目に印象に残っていたのがその“夢”を強く熱く語っていた姿だった。

──俺はぜっったいにっ、警察官になるんだ!!

その体格もあってシンイチは似合いの職業だと思っていただけに衝撃を受ける。

「ああ、そっか。お前からするとそうなるよな」

ショックを受けている幼馴染の顔に苦笑を浮かべるが、
シンイチにはそんな顔をした彼の方が辛そうに見えていた。

「警察学校までは行けたんだけどそこで落第したんだ。
 鍛練とか勉強とかは何とかついていけてたけど、勝負にならなくてな」

「………何が?」

「ランクが高い連中とさ。柔道も剣道も、とかく体を動かす勝負は話にならない。
 一つか二つの項目が1ランク上ってだけなら、やりようあったけど
 2ランク上とか全部が上とかになるともう力も速さも段違い。
 技もフェイントも通用しなくて、力尽くって言葉の意味を思い知ったよ」

ルールがある試合ですらそうなってしまうのだから、
これが現場の犯罪者だったらと考えると薄ら寒いものがあったという。

「もちろん。ステータスが低いってだけでなれないわけじゃないぜ。
 警察官の装備だって進歩したし犯罪者とやりあうだけが仕事じゃないしな」

「なら、どうして?」

「…………知ってるだろ?
 俺は武史みたいに頭がいいわけでも器用なわけでもない。
 元々成績もギリギリだったんだ。なのに自慢の体は通用しない。
 ガレストの装備はどうにもうまく使えなくて評価は下がる一方。
 なんとかしようとしてたら勉学が疎かになって試験に何度も落ちたのさ」

これが今の典型的な落第コースだと大吾は自嘲しながら語った。
それに対してシンイチは語るべき言葉が簡単には見つからない。
いま彼は少しばかり迷った素振りを見せて言葉を選んだ。
おそらく語ってない事情や理由もあるのだろうと察せられる。
なら慰めるのも励ますのも当時を知りもしない彼にはできなかった。

「そうか……」

「暗い顔すんなよ。もう終わったことだ」

「………あ、じゃあさ武史がどうしてるか知ってるか?
 あいつがどこに引っ越したのかは父さん知らないみたいでさ」

佐々木武史。
彼らのもう一人の幼馴染であり三人の中では一番頭の回転が早い子供だった。
いつも悪知恵を働かせている悪童のような面もあったが、
それはもっぱら友人たちを助けるために使われていた。
大吾の腕力やシンイチの毒吐きではどうにもならない。
あるいは状況を悪くしてしまう時は彼の独壇場だった。
このさい彼についても知っておきたいと考えたシンイチだ。
しかし。

「ああ、武史か……」

尋ねられた大吾の顔は複雑で言い出しづらそうであった。

「なにかあったのか?」

「詳しくは聞けなかったけど家の中がその、ぐちゃぐちゃになってたらしい。
 ほら、共働きだったとはいえおばさんの方がすごかったろ、あいつの家」

確かそうだったと頷く。
佐々木家はキャリアウーマンの母とうだつのあがらない父。
面倒臭がりの姉と頭の回転が速くしっかりした弟という家庭だった。
正反対のようでもその関係性がうまく回っていた面白い家族。
それがシンイチが抱いていた佐々木家の印象。

「でも、時代の変化におばさんの会社はうまくついていけなかったんだと。
 代わりにおじさんとあいつの姉さんはそれにうまく乗って大成功。
 立場が逆転してなんか家の中のバランスがおかしくなったみたいでな。
 一緒に引っ越しはしたみたいだけど、行った先が同じかは微妙。
 ま、あいつの本領はあの悪知恵だから、どこかでうまくやってるとは思うけど」

「…………」

それから大吾自身の引っ越しもあって連絡がつかなくなったのだと教えられる。
思いがけなかった内容に咄嗟に言葉が出てこない。相槌をうつことさえできなかった。
あの日までいつも一緒だった友人たちが今はもうバラバラで一人は夢に挫折し、
もう一人は家庭に不和を抱えたまま行方さえわからない。

「まさか、そんなことになってたなんて……なんでそんな……」

──なんでそんな時に俺はそこにいなかった
いたところで何かができたわけではないのは分かっていても悔しさがこみ上げる。
何度も自分を助けてくれた友が一番辛かった時に傍にいることさえできなかったなんて。

「全部……ガレストのせいだ。くそっ」

「大、吾?」

その考えてもしょうがないと解っていても思ってしまう後悔は
呟くように吐き捨てられた負の感情まみれの言葉の前に隠れてしまう。
自分の知る彼に似つかわしくない暗い感情の発露に呆然となる。
爆発するようなそれなら勢いとも取れるがこれはそうではなかった。

「あ、いや、なんでもない。
 悪いな、折角お前が帰ってきたのに明るい話題なくてさ」

驚きに満ちたシンイチの視線に気付いたのか苦笑いで誤魔化す大吾。
先程からそんな顔ばかりのような気がして言葉が出てこない。
大吾はもっと豪快に屈託なく笑う男だったはずなのに。

「いや、その…………」

「おいおい、気にするなって。
 それよりお前こそこれからどうすんだよ。
 やっぱ帰還者だからガレスト学園に行くのか?
 いいねえ、一気にエリートコースだ」

曖昧に頷く程度しかできず気落ちする姿を見て明るく振る舞う大吾。
だが茶化すような言葉の中にあったその単語に信一は聞き覚えも見覚えもなかった。

「…………ガレスト学園?」

彼の口ぶりからすればかなり有名なモノらしいが調査の中で見落としたようだ。
思い返せば両世界共同でどこかに学園を作ったという記事があった気がする程度。

「ん、聞いてないのか?
 帰還者は程度の差はあれ、必ずこの学園でガレストについて学ぶんだ。
 卒業すればどこからも引っ張りだこっていう超がつくエリート学校なんだぞ。
 行けるだけでもすごい事だから帰還者にはやっかみも多いって聞くけどな」

「へえ………ど、どんな所なんだ?」

興味はあまりわかなかったが話題を変える意味もあって尋ねる。
彼が知る限りの学園の話を聞いていくと場所は日本国外で寮生活。
最新の設備と教育環境が充実しており民間非公開情報もいくらか勉強できるという。

「ふーん」

非公開情報以外はまるで関心がわかない為、行くか行かないかは微妙な所である。

「しかし本当に何も聞いてないんだな、お前」

どこか呆れるような声色にどれだけ常識的な話なのか察して目を泳がす。
大吾は言外に語っているのだ。図書館で何を調べていたんだと。
こちらの政治・社会方面とガレストについての情報を重視しすぎて
そういった施設や学校教育という点にはノータッチだった。

「多分、父さんたちの所で話が止まってるのかも。
 今日一人で出歩くのも父さんすごく嫌そうな顔してたし」

それを地味に父親のせいにして逃げたが推測は正しいとも思っている
何せ無理に仕事を休んでまで一緒にいようとするのだから困り者だ。
気持ちは痛いほど分かるが囮や調査など一人でないとやり辛い要件があったのだ。
だからそんな信彦を説得するのにはじつは地味に骨が折れたのである。

「帰ってきたばっかだからな。そりゃそうなるだろう。
 …………けどそっか、お前おじさんの方に引き取られたのか」

「え、なんで……ってそりゃそうか。中学卒業までは同じ所だったんだよな」

両親の離婚はその前の時期にあった。
詳しい時系列までは聞いていないために解らないが、
信彦が幼馴染一家の引っ越しを知っていた事を考えれば、
それまではシンイチにとっての生家で彼が生活していたのは推察できる。
なら、その周囲には当然離婚のことは知れ渡っていたのだろう。

「まあ、な。けど理由までは知らないし聞かねえよ。
 でも、おばさんたちとはちゃんと再会したのか?
 おばさんお前がもう死んでるって事になった時はすごく落ち込んでたし、
 妹や弟(あいつら)も完全にお兄ちゃん子だったからな。喜んだろ?」

「まあ、そこそこな」

そうに違いないと嬉しそうな顔で問いかけられ、即座に真っ赤な嘘が飛び出した。
ここでその一件を冷静に振り返れるほどまだあの衝撃は抜けきっていない。
暗い話題が続いている以上仮初でもそういう事にしておきたかったのだ。

「そこそこって、いやあ見たかったな感動の再会」

事情を知らないがゆえの発言だが、自分たち親兄弟がそう見られていた証明だ。
それにはやはり辛い物悲しさも覚えるが少しばかりの嬉しさも感じる。

「けどやっぱ片親で三人の子供は難しいか。
 でも、おじさんとの二人暮らしってのも大変じゃないか?」

そのため大吾の中ではシンイチが父方に引き取られたのはそういう事情と解釈された。
けれど、その家族構成についてはさすがに嘘で誤魔化すわけにはいかない話である。
この周辺で生活しているのならこれから会うこともあるだろう。

「いや、四人暮らし」

「え?」

「父さん再婚したんだよ。弟も生まれてた」

「はあっ!?」

あえてあっさりと告げてみれば店に響きかねない声量を出した。
自分もこうだったのかと思いながらそのかなり間抜けな驚き顔を見て笑う。
無論周囲に頭を下げる羽目になったのは大吾だけだ。

「ふふ、それでしかもな。けっこう若くて美人な人ゲットしてやがった」

「マジか!?
 あのおじさんがねぇ……やるなぁ……」

やはり大吾から見てもそんな甲斐性がある男性だとは見られてなかったようだ。
意外そうにしながらも小さく『俺も欲しいなぁ』と呟く姿に苦笑するしかない。
この様子では彼に妻や恋人的な存在はいないようである。
いてもおかしくはない年齢だが妙にホッとするシンイチだ。
ただでさえ変化が多いのにこれ以上変わられるとついていけない。

「けどそれだと居づらくないか?」

「大丈夫、再婚相手はいい人だし新しい弟は元気で可愛いよ」

「子供好きは変わらずか。
 にしても人見知りのお前がそこまでいうとはよっぽどだな。
 2年のサバイバル生活で治ったか?」

どこか懐かしむように笑って、良かった、良かったと呟きながら頭を撫でられる。
幼馴染に完全に子ども扱い─実際子供だが─をされてしまい渋面となる。
さすがにここで「よりひどくなってますがなにか?」とは言い出しづらい。

「あっ、まずっ、もうこんな時間か。悪い信一、俺これからバイトあるんだ」

大吾は視界に入った腕時計の時刻に慌てたように荷物をまとめだす。
それならばしょうがないと撫でる手もどかされたので頷いたシンイチだが、
彼がそれを手に取った瞬間、即座に押さえつけた。

「待て、それはなんだ?」

「な、何ってお前伝票だよ。払っておくよ」

そんなの当然だろという言葉にシンイチはにっこりと笑う。

「割り勘だ」

「い、いや今は俺が大人なんだから」

「割り勘だ」

「たいした金額でもないし」

「割り勘だ」

表情も声色も一切変えずにいかなる言葉にも“割り勘”と返す。
どうしてそこまでこだわるのかと目で問えば朗らかな声で言葉を返された。

「昔から、そうだったろ?」

「…………」

いわれて、沈黙しつつもそうだったと思い出す。
確かに彼らは助け、助けられる関係ではあった。
しかしそれ以外のところでは徹頭徹尾対等な関係でもあったのだ。
それが彼を慮った気遣いだったのか一人の友として認めてくれていたのか。
正確な所は分からないまでも、それを歳の差程度で無かった事にしたくない。

「だから割り勘だ」

「はぁ……思い出したよ。そういえばお前は妙な所で頑固だった」

これはこっちが折れるしかないと嬉しそうに溜息を吐く。
いくら泣かされても殴られても決して自分を曲げない頑固さ。
助けを求めることはあっても間違いだと思う事や相手に決して屈しない。
そこを自分達は友達として誇らしく思っていたのだと思い出したのだ。

「む? そうだったか?」

本人に自覚が薄いあたりが余計にいいと微笑を浮かべる。

「そうだよ頑固者。ふふ、変わってなくて嬉しいよ」

そういって大吾は伝票と自分が飲んだ分の代金を置いて席を立つ。
ついでにいつのまに用意したのか自分の連絡先の番号まで。

「自分の買ったら連絡くれよ」

現在シンイチが持つのは緊急用として持たされた連絡用ツールだけだ。
それで私的な連絡をすることは憚られた。何せ誰が聞いてるか解らない。
ああ、と頷いたシンイチを背に去ろうとした大吾は二歩目で立ち止まる。

「なあ信一、お前から見て俺って変わったか?」

顔だけを振り返らせて軽い口調で尋ねられた彼は一瞬戸惑いながら返す。

「え、なにいってんだよ。もう8年だぞ?
 変わってない方が変だし、それにそこは成長したかって聞く所だろ。
 俺から見ればお前は充分立派な大人になってるよ」

「……そっか。ありがとな。気を付けて帰れよ」

「お前もバイト頑張れよ」

軽く手を振って見送って店外に出たのを確認すると大きく溜息を吐く。
彼が“変わってない”といってほしかったのは薄々感じ取れていた。
だがその言葉を即座に送れるほど変化が見えなかったわけではない。
それが8年の歳月による成長ならば、別段何も問題はないのだが。

「………頭ではわかってんだけどな。身近にいるときついな……」

異世界交流の結果、割を食った人々。その怨嗟を抱え込む者。
しょうがない存在だと割り切っている自分とそうではない自分が同居する。
一方が異なる世界同士の交流である以上仕方がない存在だといえば、
もう一方が事前準備と対応さえしっかりやれていればどうにかできたという。
既にこういった形で交流が進んでいる以上意味のない議論だ。

だからこそシンイチはなんと言ってやれば良かったのか解らなかった。
無難で当たり前のようなことを口にするのがじつのところ精一杯。
またも無力感に苛まれ、小さな溜め息を吐くのだった。




バイトしている店までの道のりを早歩きで進みながら大吾は軽く後悔していた。
なぜ別れ際にあんなことを聞いてしまったのかと。無駄にシンイチに気を使わせたと。
彼は幼馴染がなんと返していいか悩んで当たり前のようなことを返したと解っていた。
言葉によどみは無かったが目が一瞬泳いだのを大吾は見逃さなかったのである。

本当はわかっていた。あれからの8年。何一つとして順調だったことは無い。
母の故郷への引っ越しは父が勤めていた会社が倒産し再就職できなかったから。
母親の親戚のコネを使って職を得て、苦労しながら両親は大吾を育てて
夢を叶えたい自分を送り出してくれたのに期待に応えられなかった。
上位ランク者との圧倒的な実力差。それまで通りの勉強や鍛練ならついていけた。
でもガレストから入ってきた知識や技術。そしてステータスの壁に道を阻まれ、
大吾はそれを乗り越えることができずにおめおめと情けなく逃げた。
あんなに強く誓った夢を諦め、定職にもつけずにバイトも長続きしない。

「フッ」

果たしてどっちが弱虫だったのか。昔を思い出して自嘲気味に笑う。
思えばわずかな時間とはいえ誰かと楽しくお喋りしたのも久しぶりだった。
2年という月日。過酷な環境にあったというのに幼馴染は相変わらず。
それを嬉しく思う反面、その強さを知っていたのに真似れなかった自分を恥じる。

「俺みたいになるなよ、信一」

かつてあったナニカを無くしてしまった自分のようには。
ステータスが軒並みDランクである彼に待つのがどんな扱いか予想がつくだけに。
けれどそれに膝をつく姿がまるで想像できないところがあの少年の凄さ。
彼は弱虫で泣き虫で甘えん坊だが、誰かに屈したことは一度としてない。
生来の頑固さによって、勝ちはしなかったが負けもしなかったのだ。

「………あれ? そういえば、あいつの夢ってなんだったっけ?」

自分は警察官だと息巻いていた。武史は科学者になるのだと言っていた。
その話を聞いて、果たしてシンイチは何に、どんな風になりたいと言ったのか。
すごく抽象的なことだったのは覚えていたがどうしてか思い出せない。


だが願わくば、それがなんであれ叶えられる道があればいいとただ祈った。
次回から時間軸は続くが、違う場所の話がちょっとだけ続く予定。
更新は最速でも土日だと思われる(汗)
+注意+
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