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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

波紋編 第二章「異世界な故郷」

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02-06 ヒーロー

前回までの一時的なタイトル変更は……その、言い訳っぽいけど、事故でした(汗)今回少し短いです。
あと異世界モノでよく出てくるこういうバカって
こっちにもいると思うんだ!(自説)


昼食をとることも忘れて調べ物をしていたシンイチは全ての資料を元の位置に戻すと
図書館内のラウンジにある休憩・飲食スペースに移動して席についた。
少し遅れたが昼にしようとバックから大きなハンカチに包まれたモノを取り出す。
昼に戻るかどうかわからないと告げたシンイチに凜子が持たしたものだった。

──はい、お弁当!

今日も彼女は張り切って“母”をやっていた。
事前に出かける予定を告げてなかったのにいつ用意したのか。
家を出るさいに当たり前のように渡されて戸惑ってしまった少年だ。
それでもきちんと仕事をしている辺り小柄な外見とは裏腹にパワフルな人物。
何がどうして自分の父とそういう仲になったのか未だに謎と感じている。

「しかしどうして………サンドイッチオンリーかね?」

広げて開けてみれば色鮮やかな具材を挟んだそれらが詰め込まれている。
食卓に並ぶ食べ物がどうにも洋食に偏っている気がするが言い出しづらい。
やはりどうしてもまだ彼は自分が居候してるような気分なのである。
本当は白いご飯と味噌汁が食べたいがワガママはいえないシンイチだ。

「はむ、んぐ、とはいえ充分おいしいからそもそも贅沢いえないんだけどね」

コンビニのものとは違う味付けと手作りゆえに出る個性に舌鼓を打つ。
こちらに戻ってきてから数少ない楽しみの食事を堪能しながらこの後を考える。
本や記事の検索機能が充実していたおかげで調べたいことは調べ終えた。
正確には真っ当な手段で得られる情報では限界になってしまった。だが。

「んぐ、もぐ………しかしなんで綿密な所と雑な所があるのやら。
 陰謀の匂いを勝手に感じてしまうのは俺の悪いクセだよなぁ」

あちらであまりに国家の裏や闇に関わり過ぎてしまった。
納得できない点やおかしな点を見つけるとそういった思考に寄ってしまう。
何せどうしてもわからないのだ。民間への公表と交流を始めた理由とそのやり方が。
題目としては民間とも貿易を行えれば資源不足の問題へは対処しやすいというものと
地球側の彼らの進んだ技術を表立って使えるようになるという利点は確かにある。
だがおよそ30年もかけて世界事業として地球と極秘裏に交渉していたわりには
民間への公表はあまりにも突然で混乱するのは読めていたのに対処は先送り気味。
それに伴う弊害より長期的な視点での全体の融和を優先するという考えは
理解できなくもないがそこが最初から解っていたのならもっと早期に公表し、
少しずつ認知させていってから交流した方が混乱は小さかったはず。
調べるほどに政治・産業・軍事において事前準備(ねまわし)はかなり進んでいたと思われる。
公表と同時に発売されているあちらの技術を使ったあらゆる機器や道具。
それらによって装備が充実されたことをアピールする自衛隊や各国の軍。
38年前から交流していた政治はいうまでもない。
にも関わらず民間への公表とそれに伴う弊害に対してだけがおざなり。
8年前の公表と交流はどちらが先に強く望んだものなのか。
それとも双方の思惑とは別の事情で公表するしかなかったのか。
その疑問に対する答えは多くの蔵書の中にも広大なネットでも見つからない。
民間への公開が年単位での順次である以上、彼の欲しい情報は現時点では手に入らない。
あくまで合法的な範囲では、だが。

「…………いやいや待て待て。
 落ち着けよ、裏の裏まで調べようとするな」

頭の中でどこに行けばガレストの情報を入手できるか。
そんなところまで考え出した自分に声を出してストップをかける。
彼が知りたいのはあくまで一般人が知っている及び知れる情報だ。
そこから先に踏み込むのならそれは今の社会の暗部に関わろうという事。
異世界同士の交流という大きな渦の中に飛び込んでいく気なのかと自問する。
交流している世界がファランディアであるというなら彼にはその義務がある。
あの仮面を“勝手に”託された時からあの世界では彼は裏を知る必要があった。
だが、いまそれはこの世界でもガレストにも全く関係のない話。
厄介事に首を突っ込む義務はここではないのである。

「クセってのは恐ろしいねぇ」

2年で染みついた思考というのは簡単には抜けないらしいと苦笑する。
自販機で買っておいたリンゴジュースの缶を開けて喉を潤す。
懐かしい味と甘さに軽い感動を覚えながら思考をリセットする。
この後は自分のこれからについて調べて、考えるべきだと。
父も義母も何も言ってはないがいつまでも何もしないわけにはいかない。
年齢を思えば学校に行くべきであるがどういった所へ行くべきなのか。
そもそも中学時代の基礎ができてないのだからその勉強を先にすべきか。
どうすべきかと考えながらサンドイッチを味わって租借していく。
じつにおいしいと舌鼓を打ちながら。

「ちょっと悪いんだけど、どいてくれる?」

「はぁ、まさか学がないことで悩むことになるとは」

あちらでは国家機密まで知っている博識で通っていただけに。
故郷世界で無知という現状は何の皮肉かと誰かに文句をいいたい気分だ。

「は?」

「なにいってんだこいつ?」

「どうしよう……このご時世だから手に職つけた方が無難かな?」

余談だが彼が食事しながら考え事をしている時は名前を呼ばれない限り、
自分が呼びかけられたとに気付くことは絶対にないのである。
日本からファンタジックな世界に行った彼にとっては食事以外の娯楽が少なく、
また生来、考え事に集中すると周囲の声が聞こえなくなる性質であったため。
つまり現在彼は食事を楽しむのと考え事をするのに集中しすぎて
“本当に”その声に全く気が付いていないのである。

そういったさいに対応すべきか否かはいつも頭に乗っている“彼女”任せ。
当然いない場合は傍目には完全な無視行為に見えてしまう困った悪癖だ。
そんな態度でもあちらでは何も問題はなかったのだ。
問題になっても問題ない状態に力技で出来るため。
彼に自覚は薄いが発言通りクセとは恐ろしいものである。

「おいっ、聞いてるのか!?」

「っ、なんだ、なにか用?」

とはいえ、さすがに肩を揺すられれば気付く。
見れば5、6人の男女入り混じった集団に囲まれていた。
年齢はおおよそ十代後半といった所で姿恰好だけで判断するなら、
図書館で勉強しようという少年少女たちと思えるものではなかった。
タダで使える休憩スペースを利用したいだけなのだろうと当たりをつける。

「なんか生意気なやろうだな。さっさとどけよ」

「まあまあ。ねえ、他の席空いてないんだよ。譲ってくれない?」

見た目通りの血の気の多そうな少年をなだめる軽そうな少年。
二人が引きつれている少女たちは面倒そうな顔でシンイチを見てもいない。
その言葉に周囲を見ればひとりでテーブルを占領しているのは自分だけ。

「わかった。2分待て、片付ける」

個人と個人なら相席という選択肢もあるだろうが相手は集団だ。
ここは自分が席を譲るべきだろうと残っているサンドイッチを急いで頬張る。
敬語という概念と年上を敬うという考えをどこかに置き忘れた彼の態度に
短気そうな少年を余計に苛立たせたのには気づかず。

「おいガキ、俺はいまどけって言ったんだ!」

「んぐ、んぐ、ごくっ、んっ」

否、最初から無関心なのである。

「………え、なにこいつ?」

威嚇するようにテーブルに強く手を叩きつけるが全く動じず食べ続ける。
その態度に呆気にとられているうちに彼は早々にサンドイッチを食べ終えた。

「あのさぁ、見てわかる通りこいつ短気なんだよ。
 さっさと席をどいたほうが身のためだよ。
 なんせこいつはオールBでね。あ、疑うなら見る?
 ほら証拠だよ」

何も語らずジュースを飲み干そうとしていた少年に見せられたカード。
そこには苛立っている少年の顔写真とランクを示す単語が並ぶ。
確かにそれを見る限り彼がオールBランクであるのは本当らしい。
それを聞いた周囲が少しびくついたのを視界の隅で見えた。
どうやらランクが高いのだから言う事を聞けという事らしかった。

「はっ、マジでいたよこういう奴。
 その歳でチンピラはやめてくれ、腹がよじれる」

思わずその態度に鼻で笑ってしまう。
いまの社会のステータスの誤認識を知ったあと。
おそらくはこんな愚か者もいるだろうと想像した通りの相手が現れた。
これはもう笑うしかないが今はそれよりも残ったジュースである。
一気に飲み干してしまうが彼からすれば何故か短気な少年の目が鋭い。
反応するのも面倒だと感じるほどの矮小な怒気を含ませて。

──本当にチンピラだな。日本の将来が心配だぜ

“また”余談であるがシンイチは気を使う状況や相手ではない限り。
生来の素直さ(・・・)を全開にして容赦のない物言いをする毒舌家だ。
これは日本人的な曖昧な表現やオブラートに包んだ発言が
ファランディアの文化と合わなかったことが一因である。
主因は生来そうであった事とそんな態度をしていても問題に“させなかった”ためだが。
なにせ今にも殴りかかってきそうな短気な少年を前にして。
どう叩き潰してやろうか。最後はどうやって心を折ってやろうか。
そんなことを反射的に考えている時点で何故なのかは察せられる。

「お前いい度胸じゃねえか!」

「ああ~あ、知らないよ、こいつがキレた─」

「─ってかそのカード最終更新2年前じゃないか。
 そんなのぶら下げて威張ってるとか分かり易いクズだな」

その潔い屑さにどこか感心するように言葉を遮る。
正確には彼らが何を喋っているのかなど興味がなく聞いてすらいない。
だが、暴言を言われ慣れていないのか全員が絶句して固まってしまう。
その姿をどの程度のものかと特殊な目で“視”ればまた鼻で笑う。

「今はもう……はっ、C以下とか。しかも全員同レベル。
 虎の毛皮で鼠が威を借りるんじゃないよ、恥ずかしい」

道具を使わなくては正確なランクは分からないが、
個人の魂を覗き“視”ればおおよその範囲は見抜くことができる。
あちらではステータスは魂の力が肉体に降りたものという考えがある。
諸説あるが魔力の負荷をかけての鍛練は実は魂を鍛えているのではないか。
そんな説を立証するかのようにこの見方は大雑把なれど的中率は高かった。
ちなみに狐というべき所を鼠と表現したのはそれが“彼女”の代名詞であり、
彼らを鼠と思ったわけではないが他に適切な表現が思い浮かばなかっただけ。

「お前っ!!」

「ここまで馬鹿にされたのは初めてだよっ」

軽そうな少年ですら顔を真っ赤にして怒気をあらわにしていた。
一緒にいた少女たちは自分たちも馬鹿にされてるとようやく理解したのか。
罵詈雑言を口にしていたがじつは彼はそれどころではなく聞いてすらいない。

ふと、というべきか。ようやく、というべきか。

ここで彼らを叩き潰してしまうのは不味いのではないかと思い始めたのだ。
公共の場であり人の目があり、彼が現在住んでいる地域である。
そんな所で暴力沙汰を起こせば警察の厄介になる可能性は十分にあった。
逃げるのは簡単だがこれまでの利用で既にその顔を監視カメラに見られている。
日本の警察組織が調べればあっさりと自分のところまでやってくるだろう。

──それはいささか、いやかなりまずい

あまりにいつものこと過ぎて注意することさえ考えていなかった。
そう、日本において暴力を振るってケガをさせれば犯罪なのである。
何を当たり前と思うかもしれないが荒事が日常茶飯事だった異世界生活で
そんな日本の常識がいつのまにか抜け落ちていたことにいま気付いたのだ。

ならここは逃げるべきだと判断するシンイチ。
それで追いかけてくるような執拗な者達なら、
誰の目も無いところで心の奥底まで叩き潰してやればいいのだ、と。
それが報復や逆恨みを避けるためにファランディアで染みついた対処法。
結局そこに戻ってしまう辺り、考え方の根幹があちら寄りである証明だった。

彼が基本平和な国・日本で普通に生きられる日は遠い。

幸い荷物は既に手に持っている。
適当な速度で走れば追いかけさせたまま逃げる事は簡単である。
では、早々に走り去ってしまおうかと席を立った。

「あ、ああっやっぱりここにいた!」

途端、見ず知らずの男性から声をかけられた。
スーツ姿で長身の体格のいいその男性はシンイチに向かって歩み寄ると
囲んでいた集団から庇うように後ろに隠しながら口を開いた大声で喋りだす。
あたかたも、決められていた台詞を口にするのが限界の大根役者のように。

「ごめんね。なんかあったかな。
 この子、見た目は日本人だけど外国暮らしでさ。
 日本語がぜんぜん上達しなくていつもこんなことになるんだよ」

──なんて、嘘くさい
思わずそう言ってしまいそうだったのを押し止める。
何せこれはまさかの“知り合いのふりをして助ける”という
漫画の主人公などがよくやりそうな手段でありその対象になった事に
シンイチは少なからず感動を覚えて、事の成り行きを見守ることにした。

「え、そうなの?」

「……バカっ、そんなんで騙されんな!」

少年は仲間に怒鳴ったが僅かに間があったので少しは信じかけたよう。
しかしそれが火に油を注いでしまったようで対象が少年から男性に切り替わる。

「舐めてるのかよおっさん!」

「うっ、やっぱりだめか……」

「…………」

残念。しかし。
手段としては稚拙ながら助けようとした心意気は充分立派である。
現在も後ろ手がせわしなく動いて逃げろと急かしている姿に笑みがこぼれる。
こんな人物を見捨てるのは本当に寝覚めが悪いし、その必要性もない。
気は乗らないが実験(・・)もかねてという理由を付けて“その声”を解放する。

「“もうやめないか。俺はオールDランクの弱者なんだ。
  そんな弱い奴をいじめてもお前たちつまらないだろう?
  空いたテーブルで仲間たちと喋ってる方が有意義だ。違うか?”」

自らの声から自分の意識を取り外し、ただ命じたいことを対象に向けて喋った。
周囲にとってはただの言葉。ただ当人たちにだけ重く響き、何かを変える声。

「っ……そうだな。もう放っておこうぜ」

「っ……だよね、それよりお喋りしましょうよ」

「っ……いいねぇ、昨日駅前にできた新しい店なんだけど──」

途端に彼・彼女らは言われたままにテーブルに向かう。
抑揚のない言葉を呟きなながら席につくと楽しげに会話をし始めた。
まるで直前までの出来事など無かったかのように。

「……相変わらず人間の尊厳を蹂躙する最低の力だ……」

こっちの者にも効果があると判明したために複雑な表情で溜息を吐く。
その声に意識を再度込めてその最低さを“封じ”ながら。

「え、なにっ、なんで?」

一方。
関わりあいになりたくないため見て見ぬフリだった周囲はともかく。
目の前で起こった突然の心変わりに理解がついていかない彼の困惑は当然。

「単に飽きただけでしょ。
 それより気を使っていただいてありがとうございます」

暗に気にするなといいながら小さく会釈する。
できなかったとはいえ助けようとしたその心意気には頭を下げる価値がある。
そして顔をあげると長身の上にあるその顔をそこで初めてきちんと見た。

「飽きたって、あ、いや結局何にもできなかったわけで………えっ?」

「ん?」

同じく身長差から見下ろす形になった彼は初めてシンイチの顔を見た。
互いにその状況と相手の顔に言葉にできない既視感を覚えて動きを止める。
そして自然と呼び慣れていた名前を口にしていた。

「………大吾?」

「まさか………信一、か?」

長身の先にある顔が動揺と驚きのそれに切り替わる。
あり得ないと呟きながらそれでも彼の視線は“かつての幼馴染”を捕えて離さなかった。

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