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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

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01-02 逃亡、帰還、そして……

後々の展開と冒頭が矛盾しだしたので修正しました。
これはどこにでもいた普通の少年のお話。

彼からすれば2年ほど前の4月末。

世間の流れと同じくGW前のその時期に少年とその家族は

全員そろって久しぶりに旅行へ出かける予定だった。

とても楽しみにしていた少年はその日、学校が終わると急いで帰路についた。

しかし突然何かに落ちるか吸い出されるかのようにして、彼はとばされる(・・・・・)

気が付いたら見渡す限りの大自然の中でひとり佇んでいた少年はパニックに陥った。

性格的な要素から喚き散らしはしなかったが、しばし呆然となるも当たり前だろう。

我に返ったら返ったで結局なにをすればいいのか解らなくて呆然は続く。

サバイバルの知識や技術もないまだ13歳の少年は彷徨うことしかできない。

携帯の電波は通じず、見たことも聞いたこともない植物だらけの森。

角を持つ蝶。火を吐く兎。空を舞うジャンボジェット並の巨大さを誇る怪鳥。

彼は必死に自分を騙して現実から目をそらしていたが、限界が訪れる。

巨大な怪鳥に恐れをなして無我夢中で走ったら、偶然森を抜けれたのは僥倖。

しかし幸運はそこまで。

鳥から逃げ森を抜けたことで安堵したが、同時に彼は気付いてしまったんだ。

正確には、認めざるをえなくなったのだ。ここが異世界だと。

小動物程度ならまだ誤魔化していられた。自分が知らないだけだと。

けれどそのような巨大な鳥が仮に地球にいて世に知られていないわけがない。

彼はその時になってやっと異世界に辿り着いてしまったのだと、認めてしまった。

活字好きの少年はその手の物語をいくらか知っていたのである。

早々にそれを理解できたことは幸か不幸かでいえばプラスマイナスゼロだろう。

正しく状況を理解できたが、それゆえにどうしようもない事も理解したからだ。

森から離れるように歩きながら、少年は不安に押し潰されそうになる。

なんで異世界に来てしまったのか。これからどうすべきなのか。人に会えるのか。

会えたとして自分を助けてくれるだろうか。そもそもここは人がいる異世界なのか。

いたとして自分の身に起きたことをどう説明すればいい?

そんな考えれば考えるだけ不安になることを考えて、考えることで少年は自分を守る。

一番考えたくない不安を頭の片隅に追いやろうと別の不安でかき消していた。

けれども結局は考える不安のタネがなくなって、そこまで考えてしまった。


───帰れるのか?


あの家に。両親や兄弟が待つあの家に帰れるのか。

大きな絶望感に襲われながらも、同時にそんな非日常に心が沸き立った。

まるでアニメか漫画の主人公になったかのような高揚感が───一瞬で冷める。

そんなことを信じるには彼はあまりにも夢を見る子供ではなかった。

ただ絶望から逃げるための虚勢や現実逃避だと彼自身が自分をなじる。


──いやきっと俺はこの世界を救うために───俺なんかが呼ばれるわけねえだろ


即座に分かってしまって、バカな考えに酔うことさえもできない。

それでも彼はなんとか小さな農村らしきものを見つけて少なからず安堵した。

もっともそれは5分も持たない儚いものであったことを少年は知る。

当たり前の話だが、日本語はもちろん少年が知る限りすべての言語が通じない。

なにせここは異世界だ。

元の世界の知識や常識が通用する場所ではない。

なら、使用されている言語すら違うのは当然の話だったのだ。

見た目が似ている“ヒト”がいる世界であったのが判明したのが唯一の救いといえる。

少年はあまりコミュニケーション能力が高くなくジェスチャーすらうまく通じない。

そして特別鍛えてもいない日本の中学生では農村で何か働き口があるわけもない。

農村の者達からしてみればいきなり現れた言葉が通じないひ弱な子供。

不運はさらに重なる。この世界、ヒトが使う言語は統一されている。

違う言語を使っているのはヒトと敵対している種族だけだったのだ。

翻訳魔法(・・)は存在するが田舎の農村にそんなものは伝わっていない。

伝わっていた所で日本語が存在しない世界では翻訳できるわけもなかった。

そしてなまじ見た目が自分達と似ている分、余計不気味に見えたのだろう。

結局彼は逃げるように、追い出されるようにして村を去るしかなかった。

それからの少年の日々はお世辞にも良いものといえない。

助けてくれた人がいなかったわけではないのだ。

知り合って友となった人たちが全くいなかったわけでもない。

そういった者たちのおかげで言葉を覚え、この世界のルールを覚えた。

しかし彼が異世界人なことが、彼のした行動が原因で事件が起きた。

そのために不幸になったヒトや死んでしまったヒトも一人や二人ではない。

だからか彼はどこにも定住せず2年も世界を彷徨いながら帰る方法を探していた。

自分がいたせいなんだと。自分がいなければよかったんだと。

そうすれば不幸にならずにすんだヒトがいた。

そうならば死なずにすんだヒトがいた。

それを考えるとこれ以上この世界にいることが、

誰かと関わるのが恐ろしく思えて、少年は帰るために必死になった。

そうせざるを得ない体になってしまった、ということもあったのだが。

しかし異世界へ渡る手段。それも元々いた世界に帰る手段はこの世界でも夢物語。

日常に広まっている優れた魔法文化があってもそれだけでは世界の壁は超えられない。

それも目的とする場所に行こうとするには別の技術や知識が必要だった。

だがヒントさえ見つからなくて、少年は一度諦めた。諦めざるをえない。

どんな高名な学者や魔法使いに聞いても、多くの蔵書を誇る図書館をひっくり返しても。

古代から残っているという遺跡を調査しても、あらゆる部族の伝説を調べても。


どこにも、帰る手段の手がかりさえ存在しないのだ。


その頃にはもう少年は生きていくのなら問題は無い知識と技術を手にしていた。

だから、もういいやと投げやりな気持ちではあったがこちらに永住する決意をした。

人里離れた場所でひっそりと暮らそうと。

そんな生き方はそれはそれでいいじゃないか。

諦めなのか慰めなのか判断が難しい考えで彼は決意を固めた。

当時周囲にいた人たちにも実情は隠しながら冗談めかしてそう語っていた。

ずっとは無理でもその人たちとならしばらくは共にいれる。

その日々を少し楽しんでから、自分は離れようと。

それを最後の思い出にできるのなら自分は幸せだと、そう決めて。



──途端に帰れる手段が見つかった時、少年は途方に暮れた



喜ぶよりむしろどこかの誰かが自分に嫌がらせをしているのかと思ったという。

友好を結べたヒトがいなかったわけではないが、トラウマが距離を作る。

仲良くなればなるほど、良き人たちだと思えば思うほど、

近くにいるのが怖くなってなんだかんだと理由をつけて旅を続けた。

帰れる場所はどこにもない。

作るのが怖かった。作ってまた失うのが少年はあまりに恐ろしかった。

故郷の家族を夢に見ることは、少し願ったが、一度としてなかった。

見ないこと、見れないことに、何度か自分で呆れて、だからこそ思い出す。


──帰りたい


両親や兄弟との些細な思い出が懐かしくて、苦しい。

母はいつも通り元気で笑っていてくれるだろうか。

父はぞんざいに扱われて一人ですねていないだろうか。

妹はまた男子に喧嘩を吹っかけていないだろうか。

弟はそれに巻き込まれて泣いていないだろうか。


──帰りたい


どうしても思い出してしまうが、それがどうしても辛くなってくる。

そしてどれだけ調べても帰還の方法は見つからず、不可能の証拠だけが揃う。

だから、必死の思いで諦めたのだ。

その決意をした少年の想いはどれほどのものだったか想像さえできない。

だというのに冗談のようにあっさりと見つかって怒りの方がこみ上げてきていたのだ。

あまりの理不尽さに激昂するが、帰れるなら帰りたいというのが少年の正直な気持ち。

またこの世界に居続ける危険性をそれで消せるならと帰還を決意する。

けれどそのためには魔王城の宝物庫に入る必要があると知った少年は──────








 城内にいた魔王軍の兵士たちはほぼ一斉に侵入者の捜索に走っていた。
外への出入り口は集まった群衆が塞いでおり元々薄暗いこの国では窓そのものが少ない。
いくつか出入りできそうなそれらに警備を割いておけばあとは袋の鼠だ。
そう多くの兵士たちが考えている中、問題の侵入者たる仮面は、
まるでその動きを始めから(・・・・)知っていた(・・・・・)ように躱してある場所で足を止めた。

厳かで巨大な扉はいかにも重厚そうで暗殺者ひとりで開けられそうなものではない。
そもそもドアノブも取っ手もなければ『扉』としての隙間さえ見当たらない。
知らなければ壁の模様かと思うだろうそれは真実扉でありその部屋への入り口だった。
無造作に暗殺者は手についた魔王の血を扉に塗りたくるように振って飛ばす。
途端に扉は震えだして自ら閉じたそれを開かせていく。まるで歓迎するかのように。

「…………」

事前に(・・・)聞いていたとはいえ血を手に入れるだけで開くシステムに
暗殺者は防犯システムとしてそれでいいのかという疑問が沸いてくる。
しかしながらここは魔王本人か魔王の血がなければ開かない部屋だ。
前者はともかく後者は現・魔王を倒せるほどの者でなければ難しい。
“魔王の身体を傷つける”というのはその言葉以上に簡単な話ではない。
茶番とはいえそれを簡単にやってのけた暗殺者にその自覚がないのが残念だった。

人ひとり分が通るには充分なほどに開くと中に入って今度は内側から閉じる。
これだけでその部屋は安全地帯。魔王が開けない限りは誰も暗殺者を見つけられない。

───ここの存在を知る者が血の痕跡に気付くまで、だが

『ふぅ……疲れた』

それまでは絶対安全であり中の音も外に聞こえない。
その安心感から初めて暗殺者は息を吐くと声を出した。
しかしながらそれは男か女か、老いか若いかすら解らないほど作られた音。
暗殺者自身がそれに気付いて仮面の前に手をかざして外すような動きだけをした。
その一瞬で仮面はいずこかへ消えて暗殺者は隠していた顔をさらした。

「一体化してるから時々忘れるんだよなぁ」

ぽつりと独り言をこぼしながらも周囲に視線を向けたのは──恐るべきことに子供。
黒いボサボサの長髪に濃褐色の瞳を持つ『日本』ならどこかにいそうな容姿の少年。
背丈は低くもなく高くもないが体格は細見で覇気もないが存在感が薄くもない。
黒衣をまとっていなければ彼が暗殺者だといわれても誰も信じない程の凡庸さ。
これで人混みにでも紛れ込まれたら異種族の街でも見失いそうである。
ゆえに、この部屋にいる彼は目立って目立ってしょうがなかった。

まばゆいばかりの黄金や輝かしい宝石の数々が部屋を埋め尽くすほどに積まれた部屋。
そこは魔王城の宝物庫。歴代魔王がその歴史の中でため込んだ財であり、
同時に彼らにとっての切り札ともいえる様々な効果の魔導具も保管されている場所。
そこに立つ平凡過ぎる黒一色の少年はかえって悪目立ちしてしまっている。
場違い感が半端ではないが、本人は気にした風もなくあちこち見回している。

「………おい、ギオル。こんな中からどうやって見つけろってんだ?」

宝物庫そのものが広いうえにその床が見えなくなるほどため込まれた財宝。
よく目を凝らせば宝剣や甲冑、いかにも危なそうな仮面も埋もれている(・・・・・・)
この中から目的の物を探す事を思うとここにいない男に文句をいいたくなる。
金銀財宝を含めて、どれも少年が欲するものではないのだ。
また金銭欲に乏しい彼は心躍るほどの財宝を前に何も感じていない。

「確か……入って一直線に進んだ先にあるんだったな。
 …………それってこの砂金の山の向こうかよ、はぁ」

何百回も人生を遊んで暮らせそうな砂金の山を見て溜息を吐くのは彼ぐらい。
げんなりしつつその金の丘を飛び跳ねるように昇って向こう側に降りる。
そこには教えられた通りに彼の目的のモノが置いてあった。否、鎮座していた。

「これだけ無造作なくせになんでそれだけしっかり飾ってるんだよ」

金で出来た豪奢な台座の上に不釣り合いなほど普通のペンダントが飾られている。
どこにでもありそうな鎖とその先にある透明な球体の中には青い液体が揺れていた。

「揺れてる?
 ああ、兵士の皆さんが頑張ってらっしゃるのね。
 急がないと予定より早くにここが見つかる、か」

それを彼らが動き回る振動と考えて少しゾッとする。
すぐにペンダントを奪うように手に取ると自らの首にかける。
元々首にかけていた三日月のペンダントとぶつかってまた揺れた。
そして首元に巻いてマント状にしていた霊布を財宝の上に広げて乗る。
布には幾何学模様の魔方陣が描かれており、すでに魔力が走っていた。

「心配するな。座標軸の固定は終わってる。実験も何十回もやった。
 あとはこれを使って実際に転移してみるだけ。
 それでもうまくいくかどうかはやってみてのお楽しみ、だがな」

誰かに語るような呟きだが少年は緊張で表情を強張らせる。
事前準備は完璧だが、それでも失敗への不安は消えない。
だがそれはこの帰還方法を見つけてからずっと付きまとっていた不安でもある。
一度はもう帰れないと諦めたが方法を知った今は試さないわけにはいかない。

「……別にここが住み心地の悪い世界ってわけじゃないよ。けど、
 いるだけで迷惑がかかるんだから、俺がいるべき場所じゃないんだ」

脳裏に蘇る生まれ育った街の光景。幼き日の思い出。家族のいる家。
決して多くはないが仲の良い友人たちとの他愛もない日々。
それが自分がいるべき場所なんだと決意を固めて二つのペンダントを握りしめる。
歴代の魔王たちがもしもの時のために溜め続けた莫大な魔力を秘める宝玉と
どこかの出店で二束三文で売られているような銀の三日月のペンダント。
それらを強く握ったのが合図になって魔法陣が起動して淡い光を放ち始める。

「っ、帰る……俺は絶対に、帰るんだっ!!」

通常の転移魔法とは違う妙な浮遊感の気持ち悪さに負けそうになるのを思い止まる。
脳裏に浮かぶのは2年前に突然離れ離れになった家族の姿で、それを想えば踏ん張れた。
会う。会いたい。絶対にもう一度会うんだと決意のように、願うように、少年は叫ぶ。
そして光に包まれるようにして彼は消えていくのだった。






────異世界「ファランディア」のどこからも










・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・着いた






それを見て間違いなく帰ってこれたのだと少年は確信した。
指定通り人気の無い森の中に到着した彼は人工の灯りに希望を見た。
そして久しぶりに見て触れたコンクリートの道路に出て、しばらくすると
目の前にはファランディアでは絶対にいない黒髪の日本人が集団が現れた。
並ぶワゴン車やジープに日本の数字や地名が書かれたナンバープレート。
彼らは間違いなく『日本語』を喋り、それを聞いただけで彼は泣きそう“だった”。
過去形になってしまったのは予想外過ぎることが起こっているからである。

「動くな!」

強く威圧するような声でも日本語なだけで少年は胸に何かがこみ上げる。
だがそれも黒光りする物騒な銃口を向けられていなければの話だ。
そんなものでさえどこか懐かしく思えてしまう自分に少しばかり呆れる。


なにがどうなっているのか。
目の前の事態への困惑と帰還が成功した興奮に心が落ち着かない。
人と会えたのは良かった。しかも無事に帰還し尚且つ祖国に帰国できたのは僥倖。
帰ってきて早々自衛隊らしき(・・・・・・)人達に取り囲まれていなければ、だが。


2218(ニニヒトハチ)、異世界からの不法侵入の容疑でお前を拘束する、やれ!」




────どゆこと!?






───この年の四月、少年は帰還する


   彼にとっては不運なことに、世界にとっては幸運なことに───


ここから少し時間が飛びます。
+注意+
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