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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

波紋編 第二章「異世界な故郷」

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01-03 2年と8年

01-02のあと、
自衛隊“らしき”人達に囲まれた彼がどうなったかの話。
そして帰還直後から学園に来るまでの話が始まる。

“参った”
それがこの状況に陥った彼の正直な感想だった。
約2年間も行方不明だった者がいきなり帰ってくれば、
いずれはこういうことにもなるだろうとは彼とて想定はしていた。
ただ、あまりに突然すぎるうえに状況が謎すぎて対応に困っている。
ファランディアから帰還したら自衛隊のような姿の者達に取り囲まれ、
捕えられた少年は窓のない10畳ほどの無機質な部屋に放り込まれていた。

──いったいぜんたいなんでそうなった!?

「………坊主、いいかげん何か喋ってくれないか?」

その中央に置いてある簡素な造りの机で少年と向かい合っているのは
三十代ほどの男性で、この問いかけは通算5度目であるが少年は何も答えない。

「………………」

階級章らしきものがついた制服を着込む鍛え上げられた肉体。
それらから自衛官なのではないかと推察しているが名乗りはない。
いわゆるいかつい強面の人物だが威圧感を感じないのは
ひとえにその喋り方に荒っぽさがないからだろう。

「えっと、加山一尉はこんな顔してますけど怖い人じゃないから安心して」

彼─カヤマと呼ばれた男の隣りに立つ女性が柔らかい口調で言葉を続ける。
肩で短く切りそろえた黒髪の若い顔立ちが整った女性だが幼い感じはしない。
二十代後半の、しかしこういった仕事についているとは思えないほど小柄な女性。
されどその無駄がない所作と穏やかな口調とは裏腹な油断の無さから、
少年はカヤマと同じくそれなりの実力を持つ相手と感じていた。
ただしそれは傷つけずに素手だけで行動不能にするのは難しいという話だが。

「おい、笹森!
 それは俺の顔が怖くてこいつが黙ってるっていいたいのか!?」

「い、いやぁ、初対面の方には一尉のその顔は……って。
 いいかげん旧姓呼びはやめてくださいよ。
 私が結婚して何年経つと思ってるんですか?」

「ちっ、悪かったな悪人面で!
 それにな、今更呼び方変えられるか面倒臭い」

苦笑する女性と不機嫌そうに舌打ちする男性。
けれども信頼を感じる慣れたやりとりに悪い人たちではないと感じた。
それ以前に人をハメるなどできない貧乏くじを引く人種の匂いがする。
取調室らしき場所でその相手の前でこんな会話をするぐらいなのだから。
あるいは少年の緊張と警戒心をほぐそうという意図なのかもしれないが。

だが、それらはあくまで証拠のない勘。
ファランディアならともかく地球では少年はそれを信じきれない。
ましてや彼はどこの誰にどうして捕まっているのか正確に把握できていない。
そんな状態では自分の情報をなんであれ教えるわけにはいかなかった。

「……………」

そのため故郷に帰ってきてまで、あちらで染み付いた顔。
何の感情も見せない無表情をする羽目になっているのが地味に悲しい。
これなら内心はどうであれ、例え暴力を振るわれても表情は変化しない。
気配を消す一環の術だが取り調べで完全黙秘する技術でもあった。

「あはは、ダメ、ですか。
 ……どうして黙っているかぐらい教えてくれないかな?」

立っていながらも視線は座っている少年に合わせて顔を覗き込んでくる。
その困ったような顔に少年は悪いことでもしてるような気分にさせられる。
素直に色々と聞いてしまえばおそらくこの場では事態は好転するだろう。
だがそれは相手に“こちらが何も知らない”という情報を与えてしまう。
そうなれば取調室に入ってきたカヤマの最初の言葉が問題となる。

『なんだ、本当に日本人かよ。なら説明はいらないな。どっから来た?』

つまり彼らの存在や少年が捕まった理由は知っていて当たり前の情報。
彼らが所属や役職を名乗らなかったのも知っているだろうという雰囲気が強い。
だからこそ知らないという告白は後々厄介な事態を呼び込む要因になる。
伊達にファランディアで厄介事を引き寄せまくっていたわけではない。
そういったものの気配には人一倍敏感な少年なのだ。
少しその事実に泣きそうになったけれども。


いったい彼がいなかった2年でこっちでなにがあったのか。


それらを調べるためにわざわざ人里離れた場所に転移してきたのに。
彼は何もいきなり街中に出るように転移先を設定してはいなかった。
ファランディア側からではこちら側の正確な転移座標の情報が足りないが、
そこを『人気がない・森林・非接触』という概念を設定する事で補完したのだ。
無事それが成功した後はここが彼にとって戻るべき世界(・・・・・・)なのか。
それを確かめるために念入りに調査する予定だったのである。

人里に持ち込むと問題がありそうな異世界産のもろもろを隠して移動。
夜とはいえ目視できる範囲に人工の灯りが見えたのでそこを目指すと国道。
道なりにいけばどこかに行けると考えたところで彼らのあの襲撃だったのだ。
それへの対応はいま思い返せば失策もいいところ。減点だらけで赤点以下。
懐かしい「自動車」「日本人」「日本語」の存在に不覚にも心が震えて、
対応が二重三重にも遅れて、状況判断がつかないまま抵抗できずに捕まった。
そしてどこかの施設にある取調室に送り込まれて、いまに至る。

──なんて無様

「…………なんで喋らないかなぁ。
 確かにお前には黙秘権があるがこの場合黙ってていいことなんてないだろうに
 意地張るなよ坊主、なんか怖い目にでもあったか?」

「ねえ、黙ってる理由だけでも教えてくれないかな?
 困ってることや不安なことがあれば力になれると思うよ。
 私達それなりに権限あるから、ね?」

それぞれの言葉に混ざる心底からの気遣いに涙腺が緩みそうになる。
年相応の子供扱いを受けたのはそれこそ2年ぶりじゃなかろうか、と。
されど彼らが最初に訪ねてきた内容。そも自分を捕まえた罪状から不安が拭えない。

“どこから来たのか”

“どうやって来たのか”

“どうして違法に異世界渡航(・・・・・)してきたか”

彼らが聞きたいのはようするにこの三点で、
前者ふたつはともかく最後のは決定的におかしい。
彼がいた頃の地球にそんな技術はまだ空想の中の産物だったはずだ。
僅か2年かそこらで実用化して世間に出回り法律が制定されるとは思えない。

「もう腹割って話そうぜ。お前はどう見ても日本人だ。
 翻訳機なしの俺らの言葉も理解してるみたいだしな。
 だからお前があっちに行くには正規ルート以外にはない。
 それで帰ってくるのも同じ方法が普通だ。なのになんで不法に帰還してきたんだ?
 悪いが、あっちでなんかやらかして逃げてきたとしか思えんぞ?」

「一尉、そんな言い方!」

女性士官が庇ってくれたが彼の最後の指摘は地味に当たっている。
あちらで魔王を襲ったばかりかその財を奪って逃走してきたのだから。
しかしながらまるで異世界渡航が当たり前のような喋り方が一番問題だった。
間違って『似ているけど別の世界』に来てしまった可能性を疑う。
次元転移の術式の構成と仕組みを考えればかなりあり得ない話なのだが、
どうしてかその可能性を考えずにはいられないほどの違和感を覚える。
だが現状ではそれを確かめる方法はない。ここから逃げ出すのは簡単でも、
もしここが本当に彼の故郷の世界だとしたら既に顔を見られている。
乱暴な手段はのちのち家族に迷惑をかけることになるだろう。

「…………」

かといって黙秘し続けるのもそろそろ限界。これ以上粘るのは逆効果。
この二人ならば信用できると信用したくもない(・・・・・・・・)勘が告げているが、
彼らが所属する組織や上司、他の同僚は果たして信用にたる相手か。
そんなギャンブルするくらいなら彼らと会話をして情報を引き出した方がいい。
追い詰められたネズミの苦肉の策と言えばそれまでだが。

「……質問して、いいでしょうか?」

そう考えて開いた口から出たのはひどく冷静で抑揚のない声。
つい癖であちらよくやった尋問する時の声を出していた。
まずいと思ったが後の祭りである。

「やっと喋ったと思ったら質問か。こっちの質問には何も答えなかったくせに」

「一尉! そ、それで何を聞きたいのかな?」

ただそこは不自然だと思われなかったようだ。
文句を言いつつ仕方ないと肩をすくめる男性士官に注意して促す女性士官の
態度に内心で安堵した少年だがそも本来の声を知らないので当たり前の話。
それに気付かないほど困惑していた彼はされど無難な質問をする。

「今日は何年の何月何日ですか?」

「は?」

何の意味がある質問といえば実はたいした意味のない質問だ。
しいていうなら彼がいうファランディアにいた2年とは感覚の話。
それぐらいだろうというものなので実際には少しばかりの誤差があると思われる。
彼が異世界に迷い込んだのは2014年の4月の終わりのGW開始直前の時期。
ならば普通に考えれば、いまはおおよそ2016年あたりであろう。
実際に日付を聞いていまの内に誤差を修正しておこうと思ったのだ。
たいして重要な情報ではないがいきなり疑問の核心をつく質問はできない。
それにこの程度ならさして疑問なく答えてくれるだろうという考えもあった。

だから、

返ってきた予想外の言葉に少年の頭は一瞬で真っ白になった。

「今日は2022年の4月2日よ」

「…………………………………………………………2022年っ!?!?」

「おっ!?」「きゃっ!?」

長い間を開けて、我に返った少年は叫びながら机を叩くようにして立ち上がった。
あり得ない話だ。いくらか誤差があったとしても2年と8年を間違える道理はない。
彼とて日数を細かく数えていたわけではないがファランディアも1日は24時間。
プラスマイナス半年までなら彼とて許容できたがそんな大差は信じられなかった。
彼がしたのは次元転移であってタイムトラベルではないのだから。

「っ、証拠! なにか証拠ありませんか! 今年が本当に2022年だという証拠!」

それまでの沈黙が嘘のように強い口調で尋ねていた。
されど頭の奥からは冷静な声が自分自身を諌めてはいた。
彼らからすれば正体・目的不明の少年を日付で騙して意味など無いと。
それでも、どうしても彼はその年月の経過を簡単に容認できなかった。
2年と8年ではあまりにもその意味が、経過した時間に差がありすぎる。

「俺の携帯でも見るか? 年月日も表示されてるぞ、ほら。
 ってかそんなことで嘘ついてなんの意味があるんだよ」

その慌てようがむしろ理解できずに戸惑ったように携帯を開くカヤマ。
懐かしいガラケーの開く音のあと表示された液晶画面には2022/04/02とある。

「加山一尉だけので不安なら私のフォスタも見てください」

旧姓ササモリと呼ばれた女性士官はそれぐらいならと軽く端末を見せる。
大型の腕時計のようなそれは彼女がタッチしただけで空間に映像を投映した。

「なっ!?」

それに強い驚きの声をあげた少年。
ただしそれは映像を空間に映し出す高度な技術に対してではなかった。
投映されたその映像が世界中の誰よりもこの少年にだけは衝撃的過ぎたのだ。

「ほほう」
「え、あっ、間違えた!!」

──誰か、俺は並行世界に迷い込んだのだといってくれ!

実際に口にしなかったことを褒めてほしいぐらい切実に願った。
ここじゃないはずだと。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。と。
心がそう叫ぶものの頭の冷静な部分が事実だと断言する。
彼がした次元転移は彼自身が持つこの世界の因子を利用して転移した。
例えよく似た並行世界があったとしても因子が同じことはありえない。
だから、ここは間違いなく彼が生まれ13歳まで育った世界なのだと。

「ご、ごごごめんなさい! 間違えましたこっちです!」

「ははっ、悪いな。こいつまだまだ新婚気分らしくてな。
 待ち受けに旦那と赤ん坊とは見せつけてくれる」

「からかわないでください一尉! ごめんなさい本当はこっちです」

上司からのからかいに真っ赤になりながらも日付を表示して見せた。
だが少年はそれをまともに見ることなく力尽きたように腰を下ろした。
楽しげで幸せそうな話題だというのに、彼の中で何かが壊れる音が響く。
彼女の謎の端末が映し出した映像は大人の男性に抱えられた赤ん坊の写真。
会話の流れからそれがこの三尉の夫で抱えているのがその子供だと推察できる。
笑顔で愛しい我が子を抱く父親()。それを待ち受けにしている母親()


なんてことはない幸福の象徴みたいな光景の写真だ。


少年も普通なら微笑ましく見てられる。どこの世界でも赤ん坊の可愛らしさや
それを可愛がる光景が持つ癒し効果は絶大であり彼は本来それらを好む人間だ。
けれど今はそれが彼をおそろしいまでに絶望的な気分にさせていた。



──なにが、どうなってる

なんで8年たってるんだ

なんでこんなことになったんだ

なんで俺、帰ってきたんだよ

どうして、俺は!!

いったい、なんのために!?

なんなんだよ、なんなんだよこれは───!?



「──────っっ!!」

声にならない叫びをあげそうになるのを必死に抑えながら髪の毛をかきむしる。
わけがわからない。理解ができない。推測できてしまったことを、理解したくない。
だって、いうのに。

「え、まさか……信一、くん?」
「っ!?」

久しぶりに正しい発音で名前を呼ばれて、なぜか顔が引きつった。
もう無表情ではいられなかった。あまりにも衝撃的な事が続きすぎた。
その反応を彼女は肯定と受け取ったのだろう。花が咲いたように嬉しそうに笑う。

「あ、やっぱり!
 髪が長くて気が付かなかったけどあなた信一くんでしょ!」

「おい、知り合いか?」

「え、あっ、いえっその互いに会うのは初めてで………って、ああぁっ!?
 う、うそっ、あっ、あのね信一くんさっきの写真は……えっとその!
 どういうことかというと、そのぉ……えっとっ……あぁぁっ!!??」

そしてその本当の意味に気付いてしまった彼女は慌てふためくしかない。
まともな言葉が出てこず意味不明の叫びと喚きを繰り返して混乱している。
おそらくは最悪な順序で8年という月日の経過を突きつけてしまったのだと。
その顔面の蒼白具合から気持ちが手に取るようにわかった少年は
かえって冷静になっていく。冷静に、なるしかなかった。

──なんか、ごめん。ほんとごめん

むしろこちらが悪い気になって言葉にはしなかったが心で謝罪する。
彼女はドジだったかもしれないがはっきりいって落ち度はない。
ただ恐ろしく巡り合せと運が悪かったのだ。少年のだけ、が。

そうだった。思い出した。と内心で失笑する。
昔から何かするたびによく裏目に出ていたことを。
良かれと思って、きちんと色々考えて行動しても、裏目。裏目。
不興を買って叱られたり、タイミングが悪く相手を困らせたことも多い。
それを今回に限って忘れていたなんて、どこまで間抜けなのか。

「笹森? おい、どういうことだ?」

ひとりだけ話についていけていないカヤマが少年に視線を向ける。
彼女は未だ戸惑い、混乱しており意味のある言葉を口から出せていない。

「それに答える前にもうひとつだけ教えてください。
 彼女の……正式な今の名前を……」

それは最後の確認か。断ち切れない淡い希望か。
先程までの無表情と違って悲壮感すらある少年の顔に何を見たのか。
質問に対して言葉を挟まなかった彼はただその答えを口にした。


「……中村 凜子(ナカムラ リンコ)だ」


どこにでもあるはずの苗字なのにもう決定的だ。
それに自嘲気味な笑みを浮かべて少年もまた名乗った。

「………俺の名前は、中村信一です」

「は……中村?」

やっとの思いで帰ってきたらこんな状態。相変わらずの選択ミス。
先程まで自分が真剣に考えていた色んなことが急に馬鹿らしく思えてきた。

「そこの三尉さんの………義理の息子になるんじゃないかなぁ、たぶん」

「…………はああぁぁぁっっ!?!?」

乾いた笑い声と共に告げれば一瞬の空白の後。
取調室に響く大絶叫に「ですよねぇ」と呟く少年。
誰だってこれはもう驚くことしかできない出来事だろう。
2年だと思っていたら8年もの時間が流れていて、
名も顔も知らぬ女性から見せられた写真に自らの“父親”と
想像さえしていなかった異母兄弟が映っていたのだから。



「あはっ…………あははははっ……ねえなにこれ?
 笑うしかないんですけど、あはははははははっ………」






───もうどうにでもなれえぇぇっーーーーー!!!





乾いた笑い声を延々ともらしながら少年はありとあらゆる思考を放棄した────

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