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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

波紋編 第一章「転入初日」

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03-19 死の恐怖

前話の技量についてはそこまで深く考えないでほしい。
ランクが高すぎるがために入った補正値の結果が300だと。
前話のあとがきにも書いたけど日本語訳した結果です。
あと、それだけが強さの理由ではないので。

あともうひとつ。独り言が多い設定ではありますが、
一応ここまでの話で独り言いってるのって前話か01-02だけですよ?
なのになぜ前々から独り言キャラだと思われてたorz
学園校舎中央部にある生徒会室で会長である雨宮は事務仕事に追われている。
彼の仕事は転入生に語られ、また彼が推察した通りの各委員会の監視と
学園運営部からの注文を請け負う文字通りの中間管理職に近いものがあった。
一般生徒たちからの声に目を通し、上からの要望という名の命令に嘆息する。
それがこの学園における生徒会長という仕事の実態であった。


「さっそくかい。あの転入生は人気者だね。
 これだけの数の声が一個人に集中したのって初めてじゃないか?」

苦笑しながら生徒や教師からの報告を読んで痛くもない頭を押さえる。
クラスメイトからの声はかなり感情的な批判が多いので読み流すも
フランク教諭からの報告は見逃せない結果を出していた。

「彼が、ねえ。
 中身はともかくそんな強そうな子に見えないんだが」

精神が図太く思える態度が目立つがランクの高い生徒特有の気配はない。
体格も少し細いとすら思える一般的な体躯に凡庸でおとなしそうな外見。
人を見た目で判断すべきではないという道徳は分かるが強さを感じないのだ。
しかし、だからといってその結果を見逃すわけにもいかない。
学園運営部や日本政府からも彼の監視を命じられているのだから。
政府からのは会長個人に向けた特殊な命令ではあったが。

「仕事とはいえ、いや仕事だからこそかな。
 ベッドで気持ちよさそうに寝てるのを見るのは気分がよくないなぁ」

自分は大量の事務処理におわれているというのに。
プライバシーの侵害の自覚はあるが恨めしい目つきでそれを見ていた。
空間に投映されたモニターには仕掛けておいた監視カメラの映像が出ている。
彼らはそれが問題の転入生によって書き換えられた映像だとは知らない。

「わざわざ会長が見なくとも。
 他の者にやらせればよいでしょうに。どうぞコーヒーです」

同じく生徒会の仕事をしていた女性が遠回しに彼を諌める。
仕事のし過ぎだと、彼の前に湯気が立つカップを差し出した。

「ん、ありがとう。ティナくん。
 気持ちはありがたいが、さすがに上層部からの命令だからね」

ただでさえ彼を直接に監視するメンバーに人数を割いている。
部屋にいると判断されてる間は減らせるがその分休ませなくてはいけない。
ならその間の映像監視という変化の少ない地味な仕事は自分がするのが一番。
他の仕事に追われながらもそれが出来る自分が、と彼は考えていた。

「………わかっております。ですがきちんと休んでくださいね」

不承不承という顔で副生徒会長リルティナ・バーグマンは頷きつつ釘を刺す。
彼女も卒業生で第三期生。違和感のないオレンジの髪色がガレスト人と示している。
人種は違えど彼らは付き合いの長い先輩・後輩。言いたいことは伝わっている。
雨宮も、わかっている、とは頷くが監視自体はやめない。

「本当に何かあるのでしょうか、彼に?」

「わからないから、監視しろってことさ。
 確かに不自然ではあるしフランク教諭からの報告は問題だ」 

当初はランクが低く知識もない相手にどうしてと生徒会側も困惑したが、
彼の特殊な立場と帰還直後から起こる不可思議な事象を知って納得した。
外での護衛監視任務についていた対策室のプロが何度か見失う。
そればかり次に見つけた時には予想外の場所にいる神出鬼没さ。
偶然だったが巻き込まれた事件の不可解で早期な解決。
彼の身柄を狙っていた非合法な裏組織の突然の壊滅。
監視を率先して行っていた対策室管理官の不自然な方針転換。などなど。
一つだけならたいした問題ではない話も彼に集中すれば不可思議だ。
だから彼らには護衛だけでなく調査・監視という命令も出されたのだ。
そこにきての壊せないはずのモノを簡単に壊したという話に
上の懸念を行き過ぎだとさすがに彼らも思えなくなっていた。

「とりあえず今日はこれで何も起きなくて助か──」

『──アマミヤいるか!?』

それだけは安堵したいと思いかけた彼の前で通信モニターが開く。
同時に監視している事がばれないようにカメラのモニターが切れる。
生徒会外部の人間には知られてはならない非合法な手段だからだ。
開いたモニターに映っていたのは慌てた様子のフリーレ・ドゥネージュ。
彼女からの通信ということで概ね事情を察して本気で頭痛がしそうだった。

「………いますが、何“が”あったんですか?」

何かあったのか。ではない。何があったのか。
彼女からの通信な時点でもうそれは決定事項といえる。
学園と都市保安部の橋渡しや協力体制は彼女を中心としているのだから。
そんな彼女からの緊急通信が問題事でなかった試しが無い。

『緊急事態だ。すぐに見回りに出ていた生徒たちを引き上げさせろ!
 そして動かせる生徒会メンバーを使って都市中で不審物の捜索を!』

説明も何もない要請だったがそれゆえに緊迫しているのだと、
感じ取った両名は頷き合って副会長が各所へと伝令を始めた。

「わかりました。いまやらせています。ですがどうしたのですか?
 もっと詳しい情報を、何を探せばいいのです?」

『昼間お前の方にも報告があったろうが朝に来た船にいた武装集団についてだ』

「ああ、あの地球製の旧式武装を所持し、なぜか全員気絶させられ
 縛られていた状態で見つかったっていう、あの?」

言葉の内容は実に不可思議であほらしいものだが両者の顔は真剣だ。
この都市は異世界交流をした結果変わった現状に不満を持つ勢力にとって
格好の的になっており、強い持ち込み制限や検査体制、防衛体制を敷いている。
そのために平時における輝獣討伐の戦力が足りず生徒で補っているのだが。
報告のあった一団は何かをする前に捕まったが体制(システム)の穴をついて
船に武装を持ち込んで乗り込み、あと一歩の所でテロ事件を起こす所だった。
その対応策をねるために今晩の彼の仕事は格段に増えている。

『保安部からは意識を取り戻したあとも意味不明な言葉。
 白い仮面が襲ってくるとか、黒い化けものが来るとか、邪神に食われるとか。
 意味不明なこといってたんだがさっきようやく取り調べができたらしい。
 それで奴ら清掃ロボットに似せた外観の爆弾を複数都市にばらまいたと!』

「なっ、清掃ロボに似せた爆弾ってそんなのいったいどうやって!?」

危険物やその手の部品などはこの都市に当然無許可で運び込めない。
正規ルートでさえ二重、三重のチェックを受けなくてはいけないのだ。
旅行者の荷物でさえ怪しいものはそも船にさえ乗せられないはずなのに。

『パーツは現地(ここ)で購入するなどして集めたらしい。
 そして可燃性の高い液体や薬品をごく少量ずつ荷物に混ぜて運び込んだ。
 調べてみればそいつら一人一人は少ないが全員で合わせると
 かなりの回数この都市に旅行者としてやってきていた』

「くそっ色々と考えやがって。もっと別のことに頭使え!」

例年その手法は巧妙化していく。対策しなくてはいけない側からすれば、
こんなに迷惑な話はなくそのために思わず素で悪態をつくが諌める声はない。
話を聞いている全員がほぼ同意見なのだ。

「それで威力や正確な数は?」

『保安部はまだそこまで聞き出せてない。
 だが奴らの語り口から威力の強い時限式になっているのではないかと』

既に捕まっているのに嬉々として爆弾について語ったらしい。
自分達が捕まっても爆発する仕組みになっており威力に自信がある証明だ。

「わかりました。
 既に生徒達には指示を出したので、あとは生徒会も協力、っ!?」

これから動き、捜索に移ろうとした瞬間。
大気を震わす衝撃と爆音が彼ら全員の言葉を遮った。

「………遅かった!?」




───────────────────────────────────




少しばかり時間は遡る。
ドッグ型を討伐し終えた千羽姉弟率いるチームは輝獣の結晶を回収していた。
これにはフォトンや疑似フォトンにも劣るが利用可能なエネルギーがある。
それらは疑似フォトンすら買えない地域や低出力で充分な装置の動力源になる。
出来る限り傷つけずに回収すると高評価になるのはそのためだった。

「やったね、大量、大量」

「この数なら一気に回収数クラストップに出れるわ」

少し前までの緊張感を無くした喜色満面の笑みで回収していく生徒たち。
発光器官の結晶にフォスタをかざせばまるで溶けていくように収納された。
彼らが最初手にしていた武装も回収には邪魔だからと同じく仕舞われている。
小さなパーツ状に戻せる(・・・)ために剣一本・銃一丁程度なら収納できるのだ。
いま現在の彼らのフォスタでは、という注釈は必要だが。

「油断しすぎよねぇ」

「初めての大勝だから、まあ最初は大目に見ようよ」

それらを呆れた様子で見守る姉弟だが、させるがままにしているのは
彼らがその間に周囲の警戒と索敵を続けているからという理由が一番大きい。
戦闘に勝利して浮かれる者達にはとてもじゃないが任せられなかった。

「………私たちも最初はああだったかしら?」

とはいえ油断しきっている彼らの姿は過去にもあったものだ。
懐かしむような声色で隣の弟に問いかけるが、否と返ってきた。

「どっちかというと姉ちゃんは回収より次の輝獣、次の輝獣って
 ひとりで突っ走っていきそうだったけどね」

そして止めるのが大変だったとこれみよがしに大きく溜め息を吐いた。
過去の暴走を指摘されて真っ赤になった陽子は弟を黙らせようと口を開く。

「陽介あんたねぇ、弟のくせに生意気なのよっ」

ついでに、頭を脇に抱え込んで締め上げながら。

「いたたたっ! ギブギブ!
 ったくもう暴力的なんだから。そりゃ生意気にもなるさ」

ヘッドロックを仕掛けられて即座に腕を叩いて逃げる。
しかし陽子は知ったことかとかえって胸を張った。

「姉は強くなきゃね。守ってあげてるんだから働きなさい」

「はいはい……双子なのに先に生まれたからって横暴なんだから」

「なんか言った?」

しっかりと聞こえていたが据わった目で見据えられると彼は降参する。
長年の刷り込みという名の教育は伊達ではない。弟は姉に逆らえないのだ。

「千羽先輩たちって仲良いよね、うちの弟は言うこときかないわよ」

「母子家庭で二人揃って、支え合ってきたって話よ。
 美しい姉弟愛、家族愛よね…………夏の題材にいける?」

「実在の人物はやめなさい! これで終わりじゃないんだから急ぐ!」

何か不穏当な物言いをする女子生徒を別の女子が止めて回収を促す。
男子生徒の大半が意味がわかっておらず首を傾げているがすぐに回収に戻った。 

「ん、あれ、なんでこの時間に清掃ロボットが?」

その騒ぎに気付かぬも陽介は視界の隅に映った存在に違和感を覚えて振り返る。
この都市では一般的な四角柱型の自動清掃ロボットが動いて近づいてくる。
輝獣との戦闘に巻き込まれる恐れがあるため今の時間動くことは無いはずなのに。

「故障でもしたのかな。ちょっと私が見てくるわ」

「うん。こっちは俺が警戒しとくから任せた」

見回りの役目にはそういった街の機能の故障がないか調べる仕事もある。
見慣れた清掃用ロボということもあってあまり警戒心なく陽子は近づいた。

「ガレスト学園2-B、千羽陽子よ。
 風紀委員権限によりメンテナンスモードへの移行を要請します」

フォスタをロボの認識用のカメラにかざして語りかける。
通常ならそれで端末と声の情報で本人と認識されて稼働を停止する。

『ピーピー、ガー。
 チキュウせいととカクニン、ウラギリモノはシマツします』

「え?」

都市で動くロボットからはあり得ない拙い電子音声が物騒な内容を語る。
その一瞬の隙を突かれ、飛び出してきたロボットアームに反応できなかった。

「あ、な!?」

カメラ横から突きだされたアームにフォスタを弾かれてしまう。
驚く暇もなく機体からロープが飛び出し彼女に巻きついて縛りつける。

「ロープ!? でもこんなものでっ!」

だが彼女の筋力はAA+だ。ただのロープなど素の力で引きちぎれる。
しかしそれよりも早くに拙い電子音声がまるで脅すように喋った。

『これがキラレタばあい、ソクザニばくはつします。
 ハンケイ100メートルハひのうみだ……』

「な、嘘でしょ!?」

咄嗟に背後を振り返って、仲間たちを見た。
回収に夢中になっている後輩と輝獣の襲撃を警戒している弟。
半径100メートルの中に確実にいる無防備な姿。迂闊な行動はできない。
陽子は力を込めた腕をそのままに全く動かせなくなっていた。

『バクハツマデ、あと10びょう…9…8…』

されどその機械は無情にも非情なカウントダウンをし始める。
動きが無くとも時限式に切り替わるようにプログラミングされていたのだ。

「あと10秒!?
 陽介、みんなっ周りを守って! 爆発する!!」

「え、姉ちゃん!?」

必死の叫びにようやく事態に気付いた弟の叫びを背に彼女は
内心間に合わないと感じて繋がったロープを利用してロボを引きずる。
切らないように丁寧に引っ張りながら少しでも遠くへ。
少しでも建物や人のいない方角へ爆弾ロボを動かしていく。

“弟は、陽介は私が守らなきゃ!”

自らの命への脅威は完全に頭から抜け落ち、守るという意志だけで。
この8年の間ずっと共にあって一緒に努力し続けた、たった一人の弟だけは。
姉である自分が守らなくてはいけないとその想いだけが彼女を動かした。

「待って、姉ちゃんフォスタを!」

危険を自ら引き受けようとする心情を弟ゆえ読んだ陽介だが、
彼女がそれを落としているのを把握してそれだけでも渡そうとする。
フォスタが無ければスキルを使うことも最低限のバリアを張ることもできない。
耐久値が高くとも至近距離での爆発だ。どうなってもおかしくはなかった。

『5…4…3…』

「だめっ離れて!」

だが、その動きはカウント終了までにどうしても間に合わない。
陽介は知ったことかと自分のバリアと脚力をスキルで強化して駆ける。
敏捷AA+は伊達ではなくあと一歩、手はもう肩にかかる位置まで一瞬で詰め寄った。

『…2…1』

だがもう爆発まで1秒もない。強化した自分を盾にするにはもう1秒足りない。
ロープが無ければ強引に後方へ跳躍することもできたが繋がっていてはできず、
切るための時間は無く弟はそれでも前に出ようとした。
また同時に姉は咄嗟に腕を広げてそんな弟を庇おうとした。

『…ゼ』

「「っ!?」」

どちらもカウントが終わろうとしていても互いを守ろうとした。
だからその瞬間を、美しい極光の煌めき(・・・・・・)を姉弟はその眼で目撃する。
ロープが斬り裂かれ、その信号が伝わる前に黒いナニカの腕か脚が爆弾ロボを一瞬で空高くまで弾き飛ばした。

『伏せろ!!』

黒のナニカは叫びながら姉弟に覆いかぶさる。他の生徒達もならって地に伏せた。
途端、大気と大地を震わせる衝撃と爆音が周囲を染めあげ、夜空を赤く染める。
爆炎の華を咲かせたそれを全員が伏せながらも見上げて唖然とした。

「う、うっそ……一瞬で100メートル以上吹っ飛ばした!?」

爆発の規模に驚く面々の中で陽介は自らに覆いかぶさっている何者かの
その所業に愕然としながら、この距離でもよく見えない姿を訝しむ。
しかしすぐに我に返ると隣の姉の肩を掴んで激しく揺すった。

「っ、姉ちゃん!? 姉ちゃん大丈夫!? ケガは!? どっか痛いところは!?」

「だ、大丈夫よ。
 伏せた時にちょっと背中打ったぐらいだから、ってそれよりあんたは!?
 この馬鹿っ、無茶してケガしたらどうすんのよ!!」

「ええっ!? ここ俺が怒られるところ!?」

姉弟の互いを思いあうもいつも通りな会話にナニカはそっと立ち上がった離れた。
動きに視線を向けたが目の前にいるのにピンボケした映像のように彼だけがよく見えない。
かろうじて人型であること。顔らしき部位に白い仮面をつけていることだけが解る。

「あ、どこの誰かは知りませんが、ありが」

陽介はその存在に訝しんでいたが陽子は単純に礼を述べようとした。
目の前の黒衣は謎だらけで怪しいがそれでも命の恩人である。
このあとどうするにしろまずは礼をいうべきと思った。が。

『すまん』

それよりも早くに黒衣の人物から謝られてしまった。
さすがに陽介も謝られると思っておらず姉弟は共に困惑する。

『礼をいわれる筋合いではない。すべては私の怠慢だ。すまなかった』

それだけいって体を動かしておそらくは背を向けた。
相変わらずピンボケした黒衣にしか見えないので前後もわからない。
仮面が見えなくなったので背を向けているのだろうという考えだ。

『都市の保安部か生徒会に連絡しておいてほしい。
 フォトンを用いず動いているモノは全て今のような爆弾である可能性があると。
 中には大量のガソリンと、爆薬の臭いもするな……気を付けて解体しろ』

そしてその体勢のまま背後の姉弟に指示のような言葉をかけた。
男女か老若もわからない声を黙って聞いて頷いた姉弟に仮面だけが振り返る。
その口元らしき場所がどことなく少し綻んだように見えた。

『良い姉弟(きょうだい)だな。大事にしろよ』

正体不明の声がどこか優しい音を奏でて、黒衣は風に乗るように姿を消した。




──────────────────────────────




「………………出たな、白い仮面」

『………………出ましたね、黒い化けもの』

千羽姉弟からの報告を受けた生徒会と保安部。
対策のために保安部に出向したフリーレが会長とモニター越しに向かい合っていた。
既に報告を受けてフォトンが感知できない動体反応を探って処理班が動いている。

『テロリストどもはこの仮面にやられた。ということですね。
 去り際の言葉からそこで対処をやめた事を悔いているようでしたが……』

邪神に食われるという言葉の意味は解らなかったが、
それほど圧倒的であったということの比喩だと彼らは考えていた。

「それを信じるなら敵ではない、と思いたいな。
 コンマゼロ秒以下で適切な動作をしたらしいこれを見ると、
 例え完全武装してもまったく勝てる気がしない」

フォスタが記録した映像でも謎の仮面は完全に黒いモヤだったが、
それだけにその速さが際立ってフリーレは冷や汗を流している。
バトルマニアではあるが戦いにもならない相手とでは意味がないのだ。

『怖いこといわないでくださいよ、あなたが学園最強の戦力なんですから』

しかし事実上の敗北宣言に近いそれに今度は会長が冷や汗だ。
彼女が敵わないのであれば都市の誰もが敵わないということでもある。
そうなってくれば真っ当な手段で捕えることは不可能にも近かった。

「私だって無敵ではない。今日だって、あ、いや何でもない。
 どっちにしろ、確実にひとり不法侵入者がいることになる。
 警戒は続けないといけないな」

『ええ、念のため明日は生徒達に街に出ることを禁止します。
 保安部にはその間に爆発物の排除を行うよう言っておいてください』

「わかった、伝えておこう………互いに眠れない夜になりそうだな」

『被害者が出ないならそれぐらい苦ではないですよ。頑張りましょう』

違いないと頷き合ってフリーレは通信を切った。
そして周囲の保安部の人間を捕まえて頼みごとをする。

「すまない。私にも外骨格(アーマー)一式を用意してもらえないか。
 指示する側にいるより私は現場でもしもの時に盾になった方がいい」

本来学園からの協力者である彼女だがここでの実績は高いために発言権は強い。
すぐに快い返事をもらえて準備に走っていくのを見送って、硬い溜息を吐いた。
だがそれは今夜起こったこの騒動に対するものではない。
自分の中に浮かんだ一つの懸念のせいだ。



「……お前じゃ、ないよな。ナカムラ?」



生徒会が部屋まで監視している事を知らないがゆえに。
フリーレはこの都市で誰よりもその事実に近付いていた。




──────────────────────────────




いつもなら静かなはずの夜の海上都市クトリアはいま慌ただしい。
生徒会と保安部の人員があちこちで走り回って爆弾ロボを探している。

『……あとは2体だけか』

人気の無い捜索範囲から離れた建物の屋上で黒衣は隠れるように潜んで
それらの音と声を、そして件の臭いを風を操って集めて位置を把握した。
近くにいる捜査員たちを風の魔法でたてた物音や臭いを使って誘導していく。
器用(・・)な彼はそんなことをしながらも、つい別の事を考えてしまう。

『俺の、ミスだな……あいつらを仕留めただけで安心するなんて。
 少し考えれば行き当たりばったりの計画じゃないって分かっただろう!』

クトリアに来るために乗った船。
その中ですれ違った誰かから感じた火薬の臭い。
怪しんで後をつければ仲間らしき集団と気持ちの悪い主張で
都市の住人たちを惨殺しようとする計画を誇らしげに語っていた。
顔を見られたくなかった彼はマスカレイドとなってテロリストを叩きのめすと
発見できた武器類を周囲にばらまいて匿名で船員を呼んで発見させた。
それで、終わったと思ってしまったのが間違いだと彼はいう。

『厳重な検査があるのも知ってたのに、
 あれだけの武器を運び込めたことをもっとっ、
 俺がもっと深く考えていれば……こんなことにはっ!』

正体が解らないはずの声が、どうしてか震えていると解る音をもらす。
それは仮面の阻害能力以上の震えを元の声が出していることを意味していた。

『駆けつけるのだって遅れた。バカだろ俺。
 あの距離なら、見えてる距離ならすぐに転移できただろう。
 なに焦って飛んでんだよ、そのくせ制御を失敗なんて……うっ!?』

魔法の選択を間違え、そのうえ途中で初めて制御に失敗して落ちた。
彼の到着が結果的にギリギリになってしまったのはそれが原因。

『がはっ、ぐっ、ううっ!?
 ははっ……バカみてえ、肉体を強化するのも忘れるなんて……』

むせるように口から赤いモノを吐いて、苦笑しながら蹲る。
激しい風に乗って空を飛ぶさいには様々な負荷が肉体にかかってしまう。
それを軽減する魔法か肉体がそれに耐えられるように強化する必要がある。
いくら技量で高い耐久能力を発揮できるといってもそれは任意のうえで、だ。
彼がそれを使うことを失念していれば彼の耐久は表示通りのただのDランク。 
300%どころか10%程度も使えていたかは自らの消耗を思えば怪しかった。
激しい焦りと動揺、そして恐れが彼の最大の長所である技量を殺した。
今までの彼ならあり得ない初歩的過ぎるミス。

『はぁはぁはぁ…………くそったれ!
 どれだけ、いつまでっ、動揺してんだよ! いったいいつまでっ!!』

内心の動揺が収まらない。沸き上る感情が抑えられない。
身体中が勝手に震えだして止まらない。だって彼はまた失うところだった。

『また、死なすところだったんだぞ!?
 俺が間違えたせいでまた人が、陽子が死ぬとこだったっ。
 またっ、またっ、またっ俺はっ!! あっ、がっ、はぁっ!?』

呼吸が荒くなっていき満足に吸えなくなっていく。
フラッシュバックする自分が起こした惨劇の記憶が動悸と呼吸を乱す。
震える手を震える手で抑えるように握りしめて、しかし必死で首を振った。
そしてまるで悲鳴のような叫びをあげながら自らに強く言い聞かせる。

『はぁ、はぁ……ああっ違う違う違うっ!!
 大丈夫、間に合った。今回は間に合ったんだ!
 誰も死んでない、無事だった。だから落ち着け!!』

暗く怖いナニカが湧き上がってくるのを避けるための言い訳をする。
いつかの光景が脳裏によぎって胃の中身を全てぶちまけてしまいそうだった。
黒衣で包まれた手が真っ赤に染まっている姿を幻視して悲鳴がこぼれる。
それでも心が落ち切ってしまわないように内側の声を無視して強引に浮上させる。

『ぐちゃぐちゃに乱れて落ち着かなくても、いいから。
 胸の中がぐるぐるして吐きそうでも、いいから。
 頼むから壊れないで……大丈夫、俺はできるんだ』

胸の奥の悲鳴を何もかも無視して、意識の外に絞め出す。
這い上がってくるナニカも胸の息苦しさもみんな一緒に。

『そうだ、爆発物の処理が終わるのを見届けたら今日はもう戻ろう。
 それですぐに寝てしまおう。朝になったらいつもの俺だ。
 どうせ学校行けばヒナも来るだろうし縦ロールは怒ってやってくるな。
 なに、いつもみたいに(・・・・・・・)それをからかって遊べばいい。
 俺ってそういう奴だろ、なあ俺?』

まるでそうであってほしいというように拙く笑う。
結局のところ。彼が見せた傍若無人っぷりも彼女らへのからかいも。
本来の性格を極端にすることで落ちていく精神とのバランスを取るため。
強い自分を作って、楽しんで生きてさえいれば自分()自分(シンイチ)でいられるから。


苦しみ壊れることも、罪と罰の意識に飲まれて堕ちることも許さない。


その強固で、頑固で、されど脆い意志を瞳に宿して胸のペンダントを握る。
結局形見になってしまった金の三日月を壊してしまわぬように力を抜く。
そしてゆっくりと息を吸って吐くのを繰り返して呼吸を落ち着かせる。
彼は時折そうやって自分を落ち着かせ続けていた。この2年ずっと。
結局のところ彼の独り言もそこから始まっている。
こうやって自分にずっと言い聞かせてきたのだ。
だから、癖になってしまった。


『………ああ、でも、やっぱり辛いなぁ。
 別の異世界だなんて……8年なんて……俺にどうしろってんだよ……』


誰にともなく、されど問うように呟いた彼は結局そのまま、
爆弾の処理が終わるまでそこで都市全域を今にも泣きそうな顔で見守っていた。
次の話より01の時間軸に戻る。
こいつがどうしてここまで追い込まれた(追い込んじゃった)のかはそこで。
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