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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

波紋編 第一章「転入初日」

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03-15 やっちまった!?

男子寮は外観も内装も高級マンションを思わせる造りと意匠になっており、
彼のイメージする学生寮とは程遠かったがさすがにもう驚かなかった。

「待ってたよ、君が転入生の?」

ヨーコを肩に乗せたままロビーに入るとすぐに声をかけられる。
茶髪でビジネスマンのようなシャープなメガネをかけた男性。
学園の男子制服を来ているから生徒だと思われるが、違和感があった。

「…………あなたは?」

「これは失敬。私は雨宮 要(あまみや かなめ)
 このガレスト学園の生徒会長をやっている」

「生徒、会長?」

思わず疑いの眼差しで彼を見てしまうシンイチだ。
確かに彼は制服を着ているのだがどう見ても高校生に見えなかった。

「ははっ、やっぱり変に見えるよね。
 23を超えたおっさんが高校生の制服着てるとさ」

その数字をいわれると妙に納得する。
確かに若々しい部類ではあるが高校生というには少し無理があった。
よく見れば童顔のようなので眼鏡を外し黒髪にすれば化けれそうだが、
それをしないあたりわざと歳相応に見られようとしてるのだと邪推する。
彼もあちらではよく実年齢より下に見られることが多かったので
気持ちはよく分かるためその点には触れないであげるシンイチだ。

「…………留年か、大変だな」

そのくせデリケートそうな部分には大雑把に触れた。

「違うっ!! いや、失礼。事情は案内しながら説明するよ」

強い声で否定したがすぐに自分を落ち着かせると通路を歩いていく。
ついてきて、と促す背中に黙って従って後を追うように続く。
歩きながら一階にある共用のいくつかの部屋の紹介と諸注意を済ませる。
そして寮長でもあるらしい彼はこの学園の特殊な生徒会についても語り出す。

「ルオーナくんからこの学校の生徒会や委員会についての説明は受けた?」

「校舎を案内されてた時に軽く。それぞれの役目と漫画みたいに実権があるって」

「また彼女は大雑把な説明を……」

痛くもない頭が痛い、とでもいいたげに額を押さえる生徒会長。
しかしシンイチからすれば雑な説明とは思えずフォローする。

「いや、要点をついた簡潔な説明で助かったよ。
 どうせどこにも入らないんだからその程度でちょうどいい……と思います」

しかし相変わらず相手が誰でも敬語が咄嗟に出てこない。
ガレスト人にはそれでも通じてたが同じ日本人である彼は渋い顔だ。

「………君がそういうなら、別にいいが……まあつまりは、だ。
 まだまだこの学園、というよりは異世界交流にこの世界が慣れてない。
 ゆえに人材がまだまだ揃いきっていないのが現状だ。
 けれど、若ければ若いほどそれら異文化に慣れやすい。
 こういうのは時代とか世界とか関係ないみたいだね」

新しい技術や文化は歳を重ねれば重ねるほど受け入れるのは難しくなっていく。
そのため昔のやり方では現代の問題に対応できなくなるのは自明の理。

「だから、学園内の問題はできる限り生徒だけで解決させる。
 そのためにそれぞれの委員会の権限が強くなっているっていうんでしょ。
 異世界技術やスキルに順応しやすい子供が起こす問題は
 同じくスキルが扱える子供の方が対処しやすいってこと……なのでしょう?」

「………その通りだ。けど、そうなると次に問題になるのが、
 そうやって権限をもった委員たちが暴走する危険性だ。
 だからそれらを統括する生徒会のメンバーは彼らより上に立つ必要がある。
 これを同じく学園で学んでいる最中の生徒に任せるのでは本末転倒。
 だからOBやOGの中から成績優秀者を募って生徒会を運営してるんだ」

教師でさえどちらの世界出身者であろうとまだまだ慣れてないのだ。
実質的に慣れているのはこの学園で学んだ生徒達の方だった。

「なるほどね」

さらに完全な部外者では意味がないし、されど慣れてる生徒は使えない。
そうなってくれば卒業生を使うというのは理には適っているように思える。
本来の生徒会の存在意義から離れてはいるがそれは各委員会がかねているのだろう。

「別にあんたらの就職先が無かったとかいうオチじゃ……ないんですよね?」

「君ね、丁寧風の言い回しすれば何いってもいいわけじゃないぞ。
 だいたいそんな就職できない者を生徒会に入れても役に立たないだろう」

「あ、それもそっか」

納得といった顔で頷く。
委員会に所属できるような生徒が暴走した時に止める役割を持つのが生徒会。
それがどこからも求められないような人材では確かに意味がない。

「ってことはつまりあんた……あなたはこの学園の?」

「卒業生さ。8年前世間に公表された時に集められた第一期生。
 つまりはどちらにしろ(・・・・・・)君の先輩さ、八期生の中村信一くん」

「へえ、そう……なのですか」

自分の経歴を知っているという牽制を軽く流す。
既に知っているという情報は得ているのだから驚く要素はなかった。

「それより俺の部屋ってどこだ……ですか?」

「ん、あ、ああ……こっちだ。ついてきてくれ」

彼のその反応が意外だったのか。
少し戸惑いながら会長はエレベーターに乗ると階層のスイッチを押す。
そして目当ての階層につくといくらか歩いてその部屋の前まで案内した。

「ここが俺の部屋か……ですか?」

「ああ、中身は一般の寮室だがとっても見晴しがいい。良かったな」

なにがだよ。思わずそういいかけたのを抑える。
何せ最上階の一番端の部屋だ。エレベーターを使うにしろ階段を使うにしろ。
外に出るための距離が他のどの部屋よりも長くなっている配置の部屋。
何かしらの意図があると疑うなというのが無理な部屋だった。

「ここが君の部屋となる。人数の関係でいまのところ一人部屋のようになるが、
 増員、欠員が出た場合はもちろん、君の成績次第ではどうなるかは解らない。
 慣れないだろうがそういう学園だと納得してくれ」

「分かった。
 まあ屋根があってベッドがあるならどこでもいいけどな……いいです」

どこかに宿泊した日と野宿した日なら後者の方が圧倒的に多かったのだ。
その二つがあるなら彼にとっては安宿も高級スイートも同じであった。
そんなようなことをつい本音として洩らせば呆然とされる。

「少し話しただけだが………君は本質的にこの学園と合わない気がするよ」

先程のヒナの時以上に痛そうに額を押さえている会長。
競争主義・実力主義の学校に向上心ゼロの男が入学してきたのだ。
そりが合うわけがなかった。

「心中お察しするよ、会長さん。ご愁傷様です、頑張ってください」

「他人事だね…………まあいい。
 どういう行動をとるかも含めて自己責任なのがここだ。
 先輩であり会長でもある自分としては頑張れというしかない」

「頑張る気はないけどわかったといっておくよ……いっておきます」

「………まず敬語の勉強から始めたほうがいいな。
 語尾だけ変えればなんとかなるレベルじゃないぞ君」

ほっとけ。と内心で毒づいて一通り部屋の中のことや、
門限や消灯時間などの寮全体について説明すると去って行った。
何かあれば寮長室にまで、とだけ最後に付け足して。

「………なんかあの人、俺とは方向性は違うけど苦労する人の匂いがする。
 ぶっちゃけ中間管理職というか……いや生徒会ってそういう立場なんだろな」

生徒と学園運営側に挟まれている立場と思えば何か同情してしまいそうだ。
どちらの実態もまだよく解ってないがそう思わせてしまう“疲れ”を彼から感じる。

「……ま、頑張れ」

「いえ、その……この場合ぶっちぎりで迷惑かけるの主様ですよね?」

「大丈夫、バレなきゃいいんだよ」

「それは犯罪者の思考論理です主様……」

どこか肩を落としたような素振りを見せる彼女にまた笑いつつ、
シンイチはフォスタを扉の前でかざして内部から部屋をロックした。
鍵の開け閉めにもこれを使うのは登録した本人以外には使えない仕様なためだ。

「……なくすと本当に大変そう……」

「もう投げないでくださいね」

努力すると頷く彼にまたも溜息を吐くがすぐに口を閉ざす。
元よりファランディア語で小声で喋っていたが部屋の奥に入って完全に閉ざした。
彼もまた何も喋らずに、黙って部屋の奥へと向かうと内装を眺める。
部屋そのものは単純な構造で入口から続く短い廊下がありその左手側には扉。
開ければトイレと洗面所。浴槽やシャワーなどの設備は普通科生徒にはない。
共用のシャワールームと大浴場が寮ごとに用意されていると会長は説明した。
そこから出て数歩分の廊下を抜ければ二つのベッドと勉強机が並ぶ空間。
さらにそこから奥にいけばガラス窓越しに小さなベランダがあった。
部屋の隅には小さな白い冷蔵庫が置いてあるが当然中身は無い。
そして部屋の中央にはダンボール箱がいくつか積み上げられている。
事前に送っておいた着替えや日用雑貨などが入った荷物である。
彼は静かにそれを開いて送ったものがきちんとすべてあるのか。
通常授業用の教科書などが揃っているか。などを確認する作業に入っていく。
ヨーコはそれを黙って見守りながら片方のベッドの上で丸くなる。
そしてある程度の作業が済むと彼もまたベッドに寝転がって横になる。

「…………初日から疲れたなぁ」

「キュイ」

贅沢に一人と一匹でそれぞれベッドを占領しての気の抜けた会話。
傍目には慣れない場所での緊張から解放されて自室となった場所で
さっそくリラックスしてる風に見えていることだろう。もっとも。
魔力が蠢いている(・・・・・・・・)部屋で気を抜けるほど図太い精神ではさすがにない。
頑張れと確かに彼は言ったがこういう方面で頑張ってほしくなかった。
ここでいう魔力は本来この世界ではフォトンと呼ばれるエネルギーである。
ならば当然ながらそれらで動いている所謂家電や電灯から感じるなら理解できる。
だがこの部屋は不必要なほどに部屋全体でそのエネルギーが蠢いていた。

「……………」

彼女にだけ見えるようにファランディア語の形で唇だけを動かす。
“見られている”と。それを受けて彼女は小さく頷いて室内を探索しだす。

「さてと、俺はフォスタの扱い方でも勉強しますか」

「キュイキュイ」

頑張って、とでもいいたげな様子を見せながらあちこちを巡る。
一方ベッドから降りた彼は制服を脱いで荷物から出した部屋着に着替える。
何もないクローゼットに脱いだ制服をかけて勉強机に着くと電子説明書を開く。
その後ろでは飛び跳ねながらあえて怪しげな場所を探らずに別を見て回るヨーコ。
彼女の行動はわかりやすい気配以外のモノが隠されていないか探るためのもの。

「電話とかメールはどう使うんだ、え~と目次はどこだ(・・・)?」

何せすべての場所で魔力(フォトン)が常に流動している。
仕掛けが施されているのが明白なら逆に警戒すべきはそれ以外だ。
彼らの感覚でいうならそれはあまりにも分かりやすく見えていた。

「キュイ、キュイッ」

とはいえやはりそれはファランディアの感覚。
これだけ魔力の流動を見せているのに隠している気なのだから失笑である。
彼女の鳴き声での報告はそんな意味もあってか呆れているようでもあった。

「8ページからね。しょうがない(・・・・・・)とはいえ紙の本が欲しい」

その流れを感覚で追っていけば概ね向かう先も学園校舎だと解る。
どう穿ってみても学園関係者が主犯であることは間違いようがない。
問題はこのエネルギーが何のために使われているかということ。

「キュウ?」

「今は使うより登録だけしとくか。連絡はあとにしとこう(・・・・・・・)

排除しますかという声に否と返す。
鳴き声と独り言で会話を続けつつ演技をしてるのはルームメイトが“いない”からだ。
ここまで常について回ってきた監視から彼はそういう役目の者がいると思っていた。
なのに同居人はおらず、監視の目は部屋に入ってからは消えている。
部屋の外である廊下から見張ってる者や建物を見張っている気配は変わらずあるが。
ここまでそんな不躾に監視している連中がプライバシーなんて考えるわけもない。
つまりは同じ役目のものがすでに室内にあると考えたほうが自然である。
ルームメイトがいないのなら残る可能性は単純明快。盗聴盗撮。ようは隠しカメラ。
そう思って魔力の流れをより注意深く探ればどこにカメラがあるかは一目瞭然。
フォトンで動いている以上その流動を肌で感じれる彼らには全く隠せていない。
部屋中にある総数52個の小さな点に校舎から流れ込んでいるフォトン。
小型隠しカメラの位置はさほど動き回ることもなく見つけた。


問題はそれをどうするかである。


排除するのは、かなり難しい。技術的な話ではないのが最大の問題だ。
これだけの数をすべて事故や偶然を装って見つけるのは不自然。
いくつか見つけて生徒会等に報告して残りを見つけてもらうのが無難。
それを手伝うふりをして誘導して発見させていけば、誰がつけたにせよ。
今ある物は回収せざるをえないが、のちに別の物をつけられるだけ。
学園側の何者かがつけていることだけは確実なのだから。
かといって部屋にいる間ずっと監視され続けているのも苦行だ。

「こうすればいいのか。ならあとは父さんたちのアドレスをっと……」

荷物からメモ用紙を取り出してフォスタに登録していく。
ただそれを解決するには監視する意味がないと思わせるか。
取り付けた連中をどんな形であれ自分の支配下に置くしかない。

「音声と手動での入力があるのか……面倒だよなぁどっちも(・・・・)

「キュキュイ」

前者は時間がかかる。後者は隠したい事が露見する可能性が高い。
電子機器やネットワーク技術に優れていたのなら別の手段もあった。
ハッキングや映像の改竄、すり替えなど言葉だけなら知っていることも
実際に行うことが出来たかもしれないが生憎その手の技術は彼には無い。
なにせ元々彼はただの中学生だ。ファランディアの道具ならまだしも、
いくら同じエネルギーで動いていても魔導具とカメラでは構造が違いすぎる。

「………カメラ? ムービー? 保存?」

ならば、どちらの方法をとるか。
それを考えようとして流し読みしていた電子説明書の文字に反応する。
フォスタは携帯兵装端末であり地球でいう携帯電話の機能もある。
内訳を見れば主に日本産のそれができることは全部できていた。
だから写真や動画を撮って保存することは当然のようにできる。

──ならばそれは部屋の隠しカメラとシステムとして大差があるのか?

同じフォトンで動く同じ技術文化が作った同じ映像記録装置が。

「………はい、チーズ」

「キュイ?」

「っていってもさすがに伝わらないか。
 写真撮ってみるからポーズしてくれってことだよ」

「キュイ!」

納得した彼女はフォスタに向かって立ち上がって胸を張ったようなポーズをとる。
その後ろでは三本の尻尾がそれぞれ火と氷と電光を纏わせる気合の入れようだ。
内心張り切りすぎだと思うが黙ってシャッターを切って取れた画像を保存した。

「……画像編集ソフトまであるとはね。どういじくってやろうか」

「キュイ!? キュイ?」

その発言に慌てて机の上に飛び乗って彼と同じように画面を覗き込む。
されど彼がしていることを見て、訝しむように顔を見上げた。

「ははっ、結構、簡単に、弄れるもんだねぇ……」

そのあまりの容易さに苦笑がもれる。冷や汗も流れているが。
彼が異世界に行く前の世界にあったカメラと撮影・記録の流れは変わらなかった。
彼はその機能が厳密にどういうシステムがどう動いているかを知らない。
けれど魔力(フォトン)の流れを見ることができる彼は撮影から保存の流れが視えた。
フォスタ内部の情報はすべてフォトンが作った信号のようなもので形作られている。
デジタル情報が0と1の信号の集合体という話のフォトン版なのだろう。
少なくともシンイチはそう判断して魔力で(・・・)保存された画像を弄った。

「なかなかだろ?
 背景をジャングルにしてみたんだ」

「……………」

画面をなぞるように魔力を送り込んで内部の魔力(フォトン)信号に干渉した。
たったそれだけで室内で取られた写真はヨーコをそのままに背景だけが変わる。
青々とした木々が画面狭しと広がる大自然の光景に。

「……………キュイ?」

さすがに機械類に詳しくない彼女は魔力が扱えても、
フォトンと魔力が同じモノと解っても、いま主が何をしたか理解できない。
困ったように首を傾げれば、シンイチもそれを察して「悪い」と謝る。

「分かんないよな、ごめん。でもこれが出来るってことは……」

編集した画像を別に保存して、モードを切り替えてネットに繋ぐ。
ニュースサイトの日本国内向けのものを開くと見出しを眺めていき、
気になった記事を開いては閉じて、また別の記事を読む。
そんな一連の操作をすべて己が魔力で行いながら。
各種入力操作もその手の信号のオンオフでしかない。

「なんとなくやり方がわかってきたかも」

薄らと笑みを浮かべながら魔力信号でフォスタを操作する。
元より彼は魔力を読むこと、操ることにかけては一日の長がある。
魔力はDクラス。ならば、少ないその量をうまく扱わなくてはいけない。
それで戦場を駆けた彼の魔力操作技術はファランディアでも高度な領域にある。
そしてそれを使ってハッキングめいたことをするのはこれが初めてでもない。

「そうとわかれば……こうして、ああして……ほいっと………やった」

軽くタッチするような動作で、されど繊細に魔力を操作した。
そして何かしらの作業を終えた彼はその画面をヨーコに見せる。
ディスプレイに映るのは上下二分割されたこの部屋の映像。
上には彼女にフォスタを見せる彼の姿が映っているが、
下にはまだ机に向かってフォスタを操作する彼が映っていた。

「いやあ、すぐに気付いて良かったよ。
 対策練るのに数日かかるかと思ったけどこれで安心だ。
 ここから送られる映像は全部改竄される仕組みをつけてやったよ」

してやったりなドヤ顔でサムズアップする彼だが彼女は話についていけない。

「…………どういうことですか?」

されど彼がやったというならそれはもう信頼に値する言葉だ。
ファランディア語ではあったが彼女は普通に話しかけている。

「ああそっか。やっぱ解らないよな。
 簡単にいえば俺がトラップとか施錠を通過(・・)する時のやり方と、
 魔族領の水晶球とヒューマン領の水晶球を繋げたあれの合わせ技、かな」

「……………あの、とんでもなく荒唐無稽で複雑な、アレ、ですか?」

「お前らファランディアの奴らからするとそうなるよなぁ」

思い出して唖然呆然といった顔になるヨーコを見て笑うシンイチだ。
かつて彼は地球帰還の方法を探すために様々な遺跡に入ったり、
非合法な手段で国の書物庫や研究所などに忍び込むことをやっていた。
そのさい立ちはだかったのが魔法で作られたトラップと施錠だ。
正規の手順で解呪した場合時間がかかり、解呪したという痕跡が残る。
それを避けるために彼が思いついたのは“鍵”を作ること。
その魔法には無力化や開錠するための鍵が必ず用意される。
様々な形状・種類のカギをトラップや施錠側の魔力を読み解くことで解析し、
その“鍵穴”に合う形のカギを魔力で疑似的に作り出して通過(・・)したのだ。

「えっと、つまり主様はアレで監視側の……ねっとわーくだか、
 こんぴゅーたやらの罠や鍵を突破して入り込んで、
 先程の画像を変えたように機能を書き換えたと?」

「ついでにいえば俺のフォスタと繋がってなかったから、
 もうあるネットワークに魔力で道を作って繋げてから、だけどな」

それが本来機能は同じでも規格や技術が違う二つの種族の水晶球を繋げた方法。
生じる問題も作った道に互換機能を持たせたことで強引に解決したのである。
あの日ファランディア中に魔王の映像が流れたのは真実この男の仕業だ。

「…………あちらでもやり方聞きましたけど正直意味不明です」

「あっちはパソコンもインターネットもないし、
 ハッキングとかいう概念そのものがほぼないからなぁ」

中途半端なデジタル知識とその概念を知る異世界人が
たまたま高度な魔力操作を可能としたから出来た事。
同じ境遇であっても彼以外に使える者は皆無であろう。
本人はそれがどれだけすごい事か自覚していない。
ただし、今から数秒後まで、だが。

「まさか魔力がこっちでもそういう事に使えるとはな。
 けどこれであちこち探索する必要が減って助かったよ」

すべてを鵜呑みにはできないが動かずに情報を得られる利点は高い。
いったいどこまでのことが出来るのかと会話をしながらも彼は試し続けている。
どうやら既に世界中のインターネットは基本フォトン式に変わっていた。
そのせいか彼の指先となってネットを走る魔力は様々な場所に侵入できている、

「そうなのですか?」

「ネットワークという点ではこの世界の方が断然広いしあちこちに入り込んでる。
 水晶球が一家に一台、場所によっては一人に一台ある社会っていえばわかるか?」

「………な、なんとなく」

あれはファランディアの唯一といってもいい情報の発信と共有のシステム。
どの街や村にも設置義務はあるためどこにでもあるのだが高価なので
王族・貴族といえど“家”に一台あれば自慢できる領域の代物だ。
それが一人に一台となればもはや彼女には想像できない社会であるが。

「だからうまくやれば、この部屋にいながら学園や海上都市全域。
 いや、世界中の情報を収集することも…………出来ちゃっ、た?」

「え、もう!?」

話をしながら片手間でやっていたらできてしまって彼自身が驚いた。
その内容にひきつった笑みを浮かべながらディスプレイを眺めている。

「色々と試してたら、某国の危ない情報たくさんの所に入っちゃった。
 へえ、あの暗殺事件じつはそういう裏があったんだ………ナニコレコワイ」

電子ネットワークのままだったなら彼はそこまで行けなかった。
けれどパスワードもファイアーウォールもフォトンで形作られたのなら、
彼の解析能力と鍵作成能力の前には無力となってしまう。
そして国家機密に相当する情報をたった数秒で手に入れてしまった。
そのうえ覗いた痕跡を消すために残留魔力を消していけば、
自分でも意味なく体が震えるほど簡単かつ完璧に隠蔽できてしまう。
あちらの常識が足りない事や明確な目的があった事で不法侵入等に
多少なりとも罪悪感があっても平然と振る舞えたシンイチだったが、
常識があるこちらで試しでそんなことができてしまえば平然としてられない。

「………………まずくないですか、それ」

「………………………………」

技術面について理解はできないものの。
国家が秘匿していた情報をこの数秒で見つけた事は理解している彼女だ。
反論もできない指摘に彼は冷や汗を流しながら固まっている。

ただでさえ知られては困る。世間を騒がす。混乱を起こす情報の塊の自分が、
隔離されているに近いはずの海上都市の中から世界中にアクセスできる。
機密情報は見れる。中身を改竄できる。好き勝手に操作もできる。
そんな方法を自分しか使えないとはいえ確立させてしまった。




────────やっちまった!?


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