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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

波紋編 第一章「転入初日」

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03-14 厄介な話ばかり

ガレスト学園の敷地には大きく分けて四つの施設が併設している。
ひとつは当然学園校舎で校門から見た場合は真正面に見えているが、
正確には敷地内の一番前にある建物でその背後に隠すように三つ施設がある。
片やドーム型の第一運動場と片や競技場型の第二運動場。
その特徴的な造りなためその名称に日本人は違和感を覚えるが、
数多の言語への翻訳の都合上呼称を統一する必要があったためである。
そして残る施設がシンイチが学園案内で最後に向かうことになる場所。
ガレスト学園の学生寮。彼がこれから暮らすことになるその男子寮だ。

「あとはもう寮にいくだけだね!」

校舎内の大方の場所と施設を巡り終えた時には既に空はオレンジ色。
技術科にはとくに見るものはなかった。あちこちで生徒が実験してるだけで
研究に執心し続けているために誰も彼らの存在にすら気づいていなかった。
それはそれで技術を盗まれないかと心配してしまう状態である。

「それはいいが………半日で全部回るのは、強行軍すぎじゃねえか?」

「だって今日しとかないともうする時間ないと思うよ。
 授業時間とか毎日カツカツになっているからね」

「そうですか……まあいいけどね」

そうしてシンイチの転入初日という一日が終わろうとしていた。
学生寮は学園校舎の裏手にある二つの運動場のさらに裏にある。
市街地へと繋がる校門からでは絶対に見えない場所取りになっていた。
その寮への道を彼らは二人と一匹で歩きながら他愛もない話をしている。

「ん───あれは、なんだ?」

「え、あれってどれ?」

すると突然彼は遠くを見るように目を細めてある方向を指差した。
同じ方を向いて、同じように目を細めるが何を見ているのかすぐには解らない。

「走ってる連中だよ。先頭が縦ロールってことはもしかして特別科か?」

「ああ、いつもの走り込みだね。うわぁ、イッチー目がいいんだね。
 ボクもたいがい自信あったけどこの距離じゃぼんやりするよ」

「まあな」

学園敷地内の外周部に沿う形で体操服で走っている集団がいた。
校舎から学生寮へと向かう道はおおよそ敷地内の真ん中にあるため
そこから敷地内を示す壁際を走っている集団を見つけるのは至難の業。
遮蔽物のない地点だったので望遠の何かがあればなんとか見れる距離だ。
それを素で見ていることの異常には気付いておらず、教える声はない。
魔力で視力強化などもはや意識して行う動作ではないのだ。
彼と一匹にとって。

「しっかし相変わらず重たそうな縦ロールだな。
 まあ走り込みってことは体力と耐久、あとは少しの筋力鍛練だろうから
 ウエイトと考えれば、あながち無駄な重さではないんだろうけど」

「相変わらず妙なこと知ってるよねぇ。
 ………けど女の子の髪を重石呼ばわりはやめようね」

帰還者とはいえ他の現代常識にはかなり疎いくせに、
あまり周知されてないことや一年生では教わらない事を知っている。
ミューヒが軽くその点を注意しつつ、その失礼な物言いも注意した。

「おっと、失言だったか。悪い、悪い。
 さらについでに悪いがやっぱステータス強化はああいう鍛練なんだな?」

「そっちは知らないんだ……これはこの都市外でもやってるよ。
 地球の人にわかりやすく表現するならアスリートさんの鍛練と違わないよ。
 違うのはただ一点。フォトンエネルギーで特殊な負荷をかけるの。
 するとあら不思議。ステータスが上がりやすくなるのだ!」

「ふーん、そっか」

「キュ、キュウ」

なぜか自慢げに胸を張って教えるのだが気のない声や苦笑のような鳴き声が返る。
地味に内心落ち込んでしまう彼女を余所に一人と一匹は同じことを考えていた。

“そこもファランディアと一緒なの!?”

フォトンを魔力に置き換えればあちらでもやっていること。
もはや偶然の一致というよりは何か関連さえ感じてしまう。
いまそれを調べる方法がないのでまたも棚上げになってしまうが。

「けど外の人たちが使えるのはイミテーションフォトンだけ」

「イミテーション? えっと……偽物のフォトンってことか?」

さすがに英語が苦手でもそれぐらいの単語の意味は知っていた。
元は漫画やアニメから手に入れた知識ではあるので色々偏っているが。

「うん、ガレストの技術で作られた疑似フォトン。
 エネルギー総量では大きく劣るけど量産が可能な結晶体。
 ガレスト社会でも地球でも一般に出回ってるのはこっちなんだ」

ゆえに一般用のフォスタは頭文字をとってアイ・フォスタとも呼ばれる。
また充電池としての機能もあって切れても外部から充填できる特性もあった。

「それを使った場合と純粋なフォトンを使った場合だと、
 例え同じ鍛練を同じ人がやっても成果は純粋フォトンの方が上なの」

「……そして純粋フォトンで鍛えられる学校はここだけ、と。
 なるほど、ここへの入学希望者が後を絶たないわけか」

「そゆこと、そゆこと。
 さすがに100倍近くエネルギー総量違うからねぇ」

それは果たしてどちらが少ないのか多いのか。
手元にある自分のフォスタのフォトンエネルギー総量を
把握してから考えることにしようとシンイチは歩みを進める。

「にしてもあれだけランクが高いと維持するだけでも相当大変だろうな。
 授業でもするんだろうが一日の大半が鍛練で潰れるだろ?
 みんなして、よく走る、走る……」

寮へと向かう足を再開させるが視線は走り込みをする特別科に向いていた。
それはどこか親が子供を見守っているかのような暖かい視線に思える。
先程のそれに比べれば遥かにマシな目線の高さだったので彼女はスルーした。

「よく知ってるね。ステータスが高いことの弊害。
 上げたら上がったままじゃないから鍛練をさぼれば下がっちゃう。
 今のランクを維持したいなら続けるしかないけどその大変さは伝わってない。
 本人たちにとって日常になっちゃってるせいもあるんだけどねぇ……」

そこはガレスト人にとっての常識がうまく伝わりきらなかったせいもある。
誰だって当たり前だと思うことをあえて教えたりすることは少ない。
そのため学園に来てから維持のための努力が必要と知った生徒もいる。
ステータス傾向以外で地球人の高ランク者が少ない要因のひとつだ。

「俺ですら放っておくとすぐEに落ちるしなぁ……」

そこからワンランク上にあげるのはさほど難しくないので
彼女等特別科のメンバーほどの苦労はまったくない。しかし。

「………一応Eランクってあくまで理論値なんですけど?」

あるいは測定する意味のない赤子から幼年期の子供までの数値だ。
そこを規定するために便宜上作られたのがEランクのはずである。
平気で常識を壊してくる相手にさすがの彼女も笑顔が保てなくなっている。

「あははっ、理論上人類最弱か。面白いなそれ」

しかし自ら口にしたその称号が気に入ったのか屈託なく笑うシンイチ。

「豪快というべきか無頓着というべきか余裕というべきか。
 とにかくイッチー、そういうことさらっといわないほうがいいよ」

転入生。帰還者という言い訳が通用しないレベルで、
知識や常識が変な方向に偏っているのは間違いないのだから、と。

「………………いや、正直もう色々と手遅れな予感がする」

その指摘に思わず渋面となる。
この半日で色々やってしまった気もするのだ。
頑張って隠す気でこの学園に来た。これからも隠すつもりである。
けれどそも常識に食い違いが見える現状で果たしてどこまで隠せるのか。
いや、それ以前に隠すべき情報がいったいどれなのか判別できない。
現在の当たり前の知識や常識が圧倒的に足りないのである。
それを補う目的もあった入学だったが本末転倒になりそうだった。

「ま、いいさ。お前ならうまくやってくれそうだし」

ある種そんな悲観的な予想もしていながら本人はあっけらかんとしている。
元よりうまく全部隠せるとは思ってなかったからこその開き直りともいうが、
自分の彼女に対する評価を絶対的に信じている様子もうかがい知れた。

「いやあ、こちらとしてもそんな信用されてもなぁ……ボク困っちゃう」

ミューヒからすれば変なところで楽観的な少年である。
そう思いながらもその全く根拠ない信頼が妙に嬉しくもあって顔が綻ぶ。

「キュイ~」

頭の上の一匹はその様子にまたも呆れ顔である。
“たらしなのは変わりませんねぇ”とでもいいたげだ。
そんな会話を続けていたふたりの目の前にY字の分岐が現れる。

「あ、ここから先は完全に男子寮だね。
 女子は男子寮に入っちゃだめなんだ。もちろんその逆もダメだよイッチー」

その分かれ道の手前で彼女は彼には右の道を示すと自分は左の道に足を向けた。
視線をより先に向ければ高層マンションを連想させる建物が二棟並んでいる。
彼女の話によれば寮内における異性交流は厳禁となっているとのこと。
寮は同性との交流と集団生活の場ということになっていた。

「ちなみにボクの部屋は三階の端っこの312号室だけど、来ないほうがいいよ」

「……意外だな。お前ならいつでも来いとかいいだすかと思った」

「ルームメイトがいるしね!
 あ、でも今日は見回り当番だったから11時までいないけど、どうだい?」

なにが、どうだい?、だというのか。
いなかったら呼んでもいいという理屈がどこから来たのかと渋い顔をするシンイチだ。

「行かないからな。
 ん、あれ? でも確か特別科は一人部屋じゃなかったか?」

基本的に寮は二人ないし最大四人部屋に入ることになる。
成績があがれば融通が利くようになり特別科は全員一人部屋となる。
そんなことを寮案内のようなものに書かれていたような気がする彼だ。
正しい情報だったがそれはあくまで基本の話であり正確には、好きにできる、だ。

「ボク、寝床にはこだわらない性質だからさ。
 それよりも誰かと一緒の方が面白いし!」

特別科の彼女はそういう理由で誰かとの同室を望んだために
普通科生徒と同じような同性との共同生活を送っていたのだ。
ただその理由を面白いと語る彼女のそれは幾分か不穏だ。

「……ようはその無駄なテンションの高さでルームメイトをからかいたいんだな?」

「うんうん、そうすると結構可愛い顔見せてくれてお姉さん超嬉しい、って違う!」

ノリツッコミするもあながち間違いでもなさそうな笑顔に内心で合掌。
年下らしいルームメイトに同情を禁じ得ないシンイチである。
“これ”と寝所を共にするのは何か苦行な気配がする彼だ。

「なんか失礼なこと考えられてる気がするけど………まあいいや。
 じゃあ、これにて私の案内終了! イッチー、ごくろうさまでした!」

そんな考えを敏感に察知しながらも元気に流して別れの挨拶。
彼もまたそれを受けて同じ言葉を返して、礼を述べる。

「そっちもごくろうさまでした………ありがとう、助かったよ。
 最初に話した時は本当にこいつが案内係なのか、と思ったけど」

「あー、最後だけ余計!
 もうっ……けど、どうだったこの学園。なんとかやっていけそう?」

「無理だ」

「………後ろ向きの返事が速いよイッチー」

迷いのない即答に渋い顔でがっくりと肩を落とすミューヒ。
ここは嘘でもやっていけるという場面ではないのか、と。
あるいは頑張ってみるという決意表明するべき所だろうと。

「いや、言いたい事はわかるがな。
 俺だってここまでひどいと思わなかったよ。
 完全に集団生活のやりかた忘れてる…………元からうまくなかったけど」

元来、彼は人付き合いが上手な方ではなかった。
友人と明確に呼べた人物は13歳までで結局ふたりしか作れなかったほど。
どちらも幼馴染なので作れたというよりは物心ついた時から友人だった、に近い。
そんな彼が2年に及ぶほぼ一人旅に近い生活で野宿も多かったために
余計に悪化した結果が現在のマイペースとも傍若無人ともいえるあり方である。

「まあ最初からみんなと仲良くしたくて来たわけでもねえし。
 面倒なら誰とも関わらなきゃいいわけさ。うん、何も問題はない」

そのためこんな風に妙な方向に振り切ってしまっている。
尤も色々と知られたくない事情や背景がある彼からすれば、
まともな人付き合いをする気は端から皆無に近かったのだが。

「うわぁ……なんて発想が極端な子」

「ははっ、けどお前で助かったのは本当だ。ありがとう」

彼女でなければ色々と踏み込んだ会話は怖くてできなかっただろう。
それ以上に何より、ただ純粋に会話を楽しんだのは久しぶりだった。
そんな感謝を示すように想いを込めた笑顔で気持ちを告げた。

「う、うん………こちらこそどういたしまして……これからも、よろしく?」

僅かに言い淀む間があったものの誤魔化すように小さく頭を下げた。
されど彼の極端なセリフの後なせいか戸惑いながら首を傾げて聞く。
いわれて初めて彼女とも交流を持たないと聞こえる発言だと理解した。

「これでも一度できた友人は見捨てない主義なんだ。
 これからよろしく頼む、ヒナ」

「う、うん! よろしくねイッチー!」

そうフォローをいれて手を差し出して握手を求めるシンイチ。
途端に元気になったミューヒは激しい勢いで手を握って振り回した。
地味に痛かったが嬉しいという感情を全面に出すその顔を見てされるがままに。

「えへへ……それじゃ、またねぇ~!」

そうして握手を一通り楽しんだのか。
パタパタと短い手を全力で振って、女子寮へと走り去っていく。
相変わらずその後ろで小さな尻尾が嬉しそうに揺れていた。
彼も軽く手を振って見送ると途中で突然振り返った彼女は声を張った。

「ボクのルームメイト、ヨッピーだから本当に来ちゃだめだからねぇぇっ!!」

「は?」

ヨッピー。彼女がその愛称で呼んだ相手をシンイチは知っている。
食堂でそれまでと違う騒動を起こしかけたここに来る前からの知り合いの少女。
その彼女とルームメイト。知らぬ間に人ひとり挟んだ妙な距離感が出来上がっていた。
できれば、もう顔を合わすことも避けたほうがいい相手と。

「…………最後の最後になってとんでもない情報を……いや助かったけどね」

思わずその場で崩れ落ちそうな気持ちをなんとか上昇させる。
前向きに考えればミューヒを通じて動向を窺えるのだから、
遭遇せずにすむようにもなるかもしれないと思うことにした。無理矢理に。

「ってかあいつめ、言うだけいったらもう見えねえし」

文句の一つでもいってやりたいが既に影さえない。
だがこれも彼女で良かったともいえた。興味本位で根掘り葉掘り聞かれないと。
テンションの高さで誤魔化されがちだが引いた線を越えてこない律儀さも感じた。

「さて、俺たちも寮にいくか?」

「…………」

肩に乗る“彼女”に声をかけるが珍しく返答がなく目線が鋭い。
どうしたのかと首を傾げていれば、彼女は小さな口を開いた。

「────初対面の方なのに、
 ずいぶんと気楽に話されていましたね主様(ぬしさま)
 私が主様に拾われた頃はあまりお話してもらえませんでしたのに」

耳元で囁かれた声は実に流暢であり動物の声とは思えぬ女の美声だった。
しかし、どことなく非難するような声色であり不機嫌さも訴える声に
シンイチは微笑を浮かべて独り言のように返した。
共に使っているのはファランディア語である。

「さてな。
 誰かさんと感じが似てたからじゃないか。
 アマリリス・フォックスさん?」

「や、やめてください主様。その呼び名は不快です。
 だいいち造形が似ているだけで一緒にされては困りますし、
 ヒューマンが勝手につけた名で呼ばれるのも許しがたいのです!」

彼にしか聞こえない声量なれど、強くそんな名前などいらないと。
自分にあるのはたったひとつの名だけなのだと言外に訴える声に苦笑する。
その名を与えたのは紛れもなく自分で、戻ってこれた今は呼びづらい名だ。
分かっているから彼女はそれを強く求めないでいてくれる。けれど。

「はいはい、わかってるよヨーコ(・・・)

それはあまりにもここまで付いてきてくれた相棒に対する不義理であろう。

「っ、主様……あの、本当に呼びづらいのでしたら改名しても」

「やだ。俺の都合で勝手につけた名をまた俺の勝手で変えられるか」

本人ならぬ本狐が気にいっているならば余計に。
そんな本音を隠しての我が儘のような言い分に笑みがこぼれる。
されどすぐに憂い顔を見せると小さくを頭を振った。
あの姉弟がいたことは彼らにとって予想外中の予想外だった。

「まったく……そんな状態(・・)でもそういうこと仰るのですから」

だからあちこちで人間たらしになるのですよと言外に苦言を呈する。

「お気持ちは嬉しいですが……どうかご自愛ください主様。
 ここに来てからもお心の浮き沈みが激しく、また気もそぞろです。
 本来ならこの地で皆さまと距離を取って落ち着かれる予定でしたのに……」

偶然にも案内役となったミューヒのテンションの高さで隠れたが、
ファランディアでの彼を知るヨーコからすれば今日もまだおかしかった。

「結果、自ら近づいた格好だよな……俺のことを誰も知らない場所で
 心が落ち着くまでの時間をつくろうと思ってたのにな」

自嘲するようにかすかに笑いながら意味もなく遠くを見る。
やっと帰ってこれたはずの彼に福音はあまり多くはなかった。
想定外の事態の連続に訳が分からないまま結局彼の帰還は波紋を作った。
ようやく年月というもののおかげで落ち着いていたはずの水面に。

「帰ってくるしかなかったのに。
 帰れる場所がなかったなんて、どんな笑い話だよ。
 まあ父さんたちは喜んでくれたから、マシなんだろうけどさ」

これでそれさえなければ一体どうなっていたのか。
考えたくもないと首を振って、男子寮への道を歩いていく。

「主様?」

「そのくせ逃げるみたいにこっちにやってきたら、これだ。
 相変わらず面倒事と厄介事の気配だらけで泣けてくる……見てみろよ、これ」

肩に乗る彼女に見せるように両手を掲げた。左手にはフォスタを付けている。
ヨーコはそれがどうしたのかと何の変哲もないはずの両手を眺めてハッとした。

「………あのっ、まさか右手と左手でまとってるの……違うのですか?」

両手がまとっているエネルギーの膜は一見同じように見えて、
左右でわずかにその濃さや純度に差があるように感じ取れた。
左は安定しているけれどもどこか薄く、右は揺らぎがあるも濃い。

「正解。左手のはフォスタのフォトン。右手のは俺の魔力。
 間抜けな話さ。スキルを使うまで同じモノ(・・・・)だと気付かなかったなんて」

「……私もです。見比べるまで気付きませんでした……」

ファランディアしか知らないヨーコ。
ファランディアに行ってから魔力を知ったシンイチ。
彼らにとって魔力が身近にあるのはあまりに当たり前の環境だった。
攻撃か探査目的で自分達に使われない限り気にも留めない程度には。
そのため同質のエネルギーではかえって違和感を覚えなかったのだ。

「これで一体いくつ目だ?
 意味は違えど発音が同じ単語。ステータスの基準や表現方法の同一性。
 お前とアマリリスという生物との見た目や能力、特徴での類似性。
 他にも似てると思えるところは少なからずあったというのに、
 ここにきて魔力とフォトンが同じモノときた。笑えないけど笑うしかねえ」

厄介事の気配に渇いた笑い声しかでてこない。
彼女もまた主がそう感じていると察して渋い顔で沈黙する。
なにせこれで隠さなければいけない事情がまたひとつ増えた。

「いま手にしているフォトンの情報だけで考えても、
 魔力というものを人が持っているなんて誰にも教えられないな」

相手がガレストであれ地球であれ。ろくでもないことになる可能性がある。
フォトンがガレストだけの希少な物質であり重要なエネルギー源である以上、
魔力という同質エネルギーが人体から発せられると知られたらどうなるか。

「あちらにもいましたよねぇ。
 人間を動力源にして邪な儀式とかする不埒者とか。
 魔力量の多い人間さらって自分のモノにしようとする馬鹿者とか」

「まったくだ。怖すぎる」

魔力が創世記以来ずっと人と共にあった世界でもそうなのだ。
全く知られていない世界で露見するのはメリットよりもデメリットが恐ろしい。
警戒し過ぎな可能性もあるが彼にはそれを一笑にできる情報が何もない。
言いかえてしまえば、シンイチは今の世界(故郷)を信用できないのだ。

「迂闊な行動はできないんだが……知らないという事はやはり難しい」

冷静になってこの半日程度の自分の行いとその周囲の反応を思い返す。
どうにも彼らにとっての常識や当たり前とはかなり違う言動をしていたらしい。
驚いたり唖然としたりひきつったりしてる顔ばかり浮かぶのだから。
だからこそ誰とも関わらないというのは発想としては極端ではあるが、
同時に彼がとれる最も現実的な情報の保護方法でもあった。

「それにここに来て色々と知れば知るほど不味いよな。俺の戦い方って」

「ええ、この学園が教えている事と正反対の極致にある戦い方ですからね。
 主様のは美しく繊細で無駄がなく華麗で容赦のない洗練されたものですが、
 こちらは手抜きというかいいかげんというか力任せ以下というか」

さりげなく自分を持ち上げガレスト流をけなす彼女の言にどう反応するか。
で、悩んだものの結局シンイチはそれを受け流すことにした。

「いや、うん…………科学技術が進歩し過ぎただけだろう。
 だから武器やスキルの使い手が達人である必要がないんだ」

優れた科学技術が生み出したのは誰が使っても同じ結果を作り出す兵器。
必要とされるのはそれを振るうだけの性能(ステータス)であって達人のワザではない。
おそらくそういうことなのだろうとシンイチは今のところ推測している。

「『ステータスを上げて強力なスキルや武装で敵を倒す』
 別に間違いじゃないし同じ土俵の上なら何も問題はないんだ。
 そこに……俺という異物が入り込まなければ、な」

「し、仕方ありませんよ!
 こうなってるなんてファランディア側からじゃ知りようがないのですから!!」

自分さえいなければ、そんなニュアンスが込められている言葉に
ヨーコは慌てたように否定の言葉を告げて力強くしょうがなかったのだと主張する。

「でも運は悪かった。速攻で対策室の隊員たちに囲まれたからな。
 あれさえなきゃなぁ……もっとうまく立ち回れてたのに」

「それは………」

本来あの時の帰還はあの方法で本当に帰れるのかという実験と、
成功した場合故郷がどのように変化しているかの調査が主目的だった。
何の変化もないと思えるほど楽観視はしていなかったのだ。最初から。
それでも彼は許容できないほどの変化を目の当たりにした結果、
色んな理由があったものの逃げるようにしてここに来ていた。
“中村信一の帰還”という消しようのない波紋だけを作って。
そして今もなお作り続けている。

「少なくとも俺の運が悪いのは間違いない。
 ステータスに『幸運(luck)』なんてあればそっちも間違いなくDかEだろうな」

「うっ……否定しきれないこの身の不甲斐なさが悲しいです主様。
 あちらでもこちらでもどうしてこうも巡り合せが悪いのか。
 今朝だって、船に乗っただけで愚かな者達と遭遇するし!」

動けば厄介事を引き寄せる。あるいは集まっている場所に来てしまう。
その点だけを見れば間違いなく運が、あるいは巡り合せが悪いといえる。
行動を共にしてるだけに彼女はそれをよく体験している。否とはいえない。
それに憤慨した様子の彼女に微笑むと頭を撫でながら男性寮の門をくぐる。

「さて、ここはどんな厄介があるのかねぇ?」

経験上無いわけがないと確信を持って建物を見上げる。
その妙な確信に自分の事ながら苦笑するしかないシンイチだった。

次回、そんな彼が、厄介なことを、やってしまいます?
+注意+
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