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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」

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04-93 天の歌声4

仮面、少し、壊れる(いつも通りともいう)




邪神、とはそもそもいかなる存在か

かの世界においては概ねこのように語られている



──ヒトを滅ぼそうとしたため天上にある神々の世界から堕とされた神──



それがどこまで真実であるかは定かではない

だが本来「神」がいるべき場所より落ちてきた神であるのは事実だろう

そこにいることを許されなかったモノ

あるいは天上にいられなくなったモノ

神のあるべき姿と力を失ったモノ

ヒトへの憎悪に己のありかたすら邪に委ねたモノ

ならば、

きっと邪神にとって“ソレ”はかつての己にして天敵に他ならない








──────────────────────────────







まるで声自体が踊っているかのような軽やかな歌だった。
聞いているだけでこちらも楽しくなってくるような陽気さ。
それでいて元気づけてくれるような暖かさを持った声の旋律。

伴奏はない、バックバンドもいない、BGMもないアカペラ。
そのうえ距離があって隣家の室内にはその歌声は完全には聞こえていない。
耳に入ってくるのは鼻歌のようなどこかぼんやりと聞こえる程度の歌声だ。
だというのに。

『っ!』

聞き惚れるとはこういうことか。己が赤き鎧の中でミューヒは素直に、
戦いの中では致命的だとは分かっていても、歌声に惹かれてしまっていた。
彼女の歌は知っていた。なるほど世間を騒がすだけはある、とその分野に
明るくない彼女をしてそう思わせる程の歌唱力を確かにモニカは持っていた。
そして彼女のファンは誰もがいう。生の歌はもっとすごいのだと。
だがそれが戦いの場にいた自分の心を奪うほどだとは思わなかった。
今まさに飛び掛からんとした動きが完全に止まっていた。ただそれは
何もミューヒに限った話ではない。まるで時が止まったといわんばかりに
室内は歌声以外の音が無い静寂に包まれる。ただその理由は彼女とそれ以外では
大きく異なっていた。

「な、なぜだ!?」
『これ、は!?』

愕然とする誰かの声を覆うように目に見える形で“理由(ソレ)”は発現した。
室内で連鎖していく小爆発。あちこちで放電音(スパーク)が響き、鉄片が舞う。
暴発か機密保持を狙った自爆を疑った彼女(ミューヒ)だがそれにしては小規模で散発的。
確かにそれらはあの使徒兵器とタンクを中心に起きていた現象だったがよく見れば
強烈な負荷に内部のあらゆる機構(システム)が耐え切れなくなったように感じられた。
そしておかしな事に小爆発が起こるタイミングがあるものと重なっていた。
正確に言えばワンテンポは遅れているため、続くように、だが。

『え、うそ、まさか……彼女の歌に反応しているの!?』

そんな馬鹿なといいたい心境ながら礼拝堂から漏れ聞こえてくる歌声に
まるで合わせるかのように室内に転がる使徒兵器たちは火花を纏いながら
小爆発を起こしていく。それは歌姫のアカペラを破裂音という下手な
演奏が追いかけているような不協和音だった。

「ベノムっ、殺ったんじゃなかったのか!!」

偶然とは思えぬ光景に半ば呆然とした彼女を我に返したのは皮肉にも
火花散らす外骨格から這い出てきたシックスの怒号であった。口許は
自ら吐いた血で真っ赤ながら話が違うとばかりにベノムを睨んでいる。

「馬鹿な! なぜまた歌が聞こえる!?
 私は確かにあの女を狙って使徒兵器で撃ったんだぞ!!
 生命反応だってそれで消え、て……っっ、まさか貴様ら!?」

「ちっ、道理でタイミングばっちりで出てきたわけか!」

ふたりの視線は赤と黒を纏う者達へと確信と共に向けられる。
彼らからすれば理屈は不明なれど使徒兵器を無効化してみせたのだ。
そんな者達が端から待っていたかのようにシックスが踏み込んでから登場。
それがどのような勘違い─とも言い切れないが─を生み出したかは読める。
おおよそ最初から彼らを追っていたかモニカの護衛依頼を受けたかのどちらか。
その驚愕や憤慨、苦悶の混ざった顔は何時からだったのか。どんな経緯か。
どこから自分達の情報が漏れたか等を推理しながらこの状況にどう対応
すればいいかと必死に頭を働かせているのだろう。
実際は全くの偶然なのを知ればどれだけその顔を歪ませられるだろうか。
などと考えてしまったミューヒは隣に毒されていると顔が見えないのを
いいことに素直に渋面を浮かべた。尤も悩むだけ悩むがいいと何も
答えない選択をしているのは戦場の駆け引きか単なる嫌がらせか。

『─────ぁ』
『え?』

そんな、両者にとって意味の違う無言での睨みあいの空気を一変させたのは
まるで気の抜けたような、まるで意味を成していない声を吐き出した仮面だ。
ふらりと黒衣が揺れ、止める間もなく─あるいは光景を理解できず─カレは
派手な音を立てて床に倒れ込んだ。

『イッ、マスカレイドッ!?』

おそらくうつ伏せに倒れ込んだであろうカレに寄りそうようにしゃがみ込む。
槍を彼らに突きつけ警戒し牽制しながら声をかけ続けるが返答はない。

『う、ぐうぅっっ! あ゛あ゛っ…こ、の歌、は、がああぁっ!?!』

代わりに返ってきたのは痛みと苦しみを切実に訴える絶叫。
しかしそんな声に反して肉体はいっそ不気味なほど動かなかった。
ただそれが真実動いていないのか動きを認識できないのか。
それともあるいは動かせない(・・・・・)のか。
黒靄の人型は敵対する際にはその挙動が読めないという厄介さが
あるが味方になってもその状態が把握できないという問題があった。

『おい、しっかりしろ! なにが、っ!?』

だから彼女の手はおそらくは肩辺りを揺さぶっているのだろうという
推測の下で向けられたものであったが、手甲越しに妙な感触を覚えた。
外骨格にはそういった感覚を正確に装着者に伝える機能が完備されている。
だからこそ感じた違和感はあまりに彼女にとって慣れたものではあったが、
同時にどこか信じられないものがあって理解と把握が若干遅れてしまう。
自らの赤き手甲のその色合いとは別の“赤”。その液体に手が濡れていた。
それがカレのものであるとやっと認識するも何故か息が詰まる。
マスカレイドは出血を伴う傷を負っていた。

『……なんで?』

それは「いったい何時」という意味でも「何によって」という意味でもなかった。
何せよく目を凝らせばそれらの答えはあるのだ。黒衣に何かが突き刺さっている。
おそらく倒れ込んださいに散らばっていた武装の破片が運悪く肩部のどこかに
刺さったのだろう。問題だったのは、否、信じられなかったのはここまで易々と
弾いていた武器の破片程度が、倒れ込んだ拍子にという馬鹿げた話で突き刺さったこと。

───ですからたまに気を緩めた時なんか部屋で何か尖った物を踏んで
   簡単に出血してしまって痛がって転げまわる、なんてこともありましたよ
   ドジですよねぇ、まあそこも愛おしいのですが────

憎らしい笑みを浮かべた女の言葉がまるで狙っていたかのように蘇る。
思わず、どこがだ、と彼女は胸中で叫んでいた。愛おしいどころか最悪だと。
絶叫する程の苦しみがいつもの力を維持する意識をかき乱しているのか。
それとも単に─最悪なことに─力を発揮できなくなっているのか。
どちらにしても素の能力が低すぎるカレにとってそれは致命的。

『っ、抜くよ! 聞こえてるなら食いしばって!』

『ぐぅぅっ、響くっ、天の、声が、あぐっ、ううっ…!』

スキルによって治療に向かない環境を一定範囲清潔にして破片を引き抜き、
腰部にある収納スペースを開いて回収する。血液という個人特定を容易と
する情報の塊を万が一にも彼らに渡すことなどあってはならないからだ。
そしてこのままでは流れ弾一つで致命傷になってしまうため治療スキルと
共に強化、防御スキル等いま必要と思われるスキルをかけられるだけかけていく。
幸いにして出血は止められたようだが傷口にも黒靄がかかり状態を確認できない。
また意識はあるようだがこちらの呼びかけが聞こえているのかは怪しい。
呻きや苦悶の声を漏らし続けているが、それは破片を抜く等の治療行為には
無反応で、だがそのタイミングは全く違うモノに反応しているかのよう。
まるでその様子は周囲の。

「……そういうことかい……はっ、こりゃいい!」

意識と視線の殆どを向けていたふたりの内のひとり(シックス)が訳知り顔で膝を叩く。
これまでは彼らも突然仮面が倒れたことに困惑と驚愕を感じていたのか。
動きを止めたまま一言も発していなかったのだが一番の脅威が動けないのに
安堵してか口許を拭いながらゆったりとした動きで腰をあげた。

「噂のマスカレイドの弱点がまさかウチと同じだったとはね」

『同じ? ではやはりこの現象は彼女の歌が原因だと?
 確かにそう考えればお前達が歌姫を狙う理由としては充分だが…』

「ここまで見られたら隠す意味もないからいうが、
 じつは開発班の一人にファンがいてね。流した方が作業が捗るって
 お気に入り流したら完成間近の試作品が軒並みこんな風になった」

何が面白いのか喉の奥で笑うようにしながらシックスは周囲を示す。
相変わらずそこでは彼女の歌に僅かに遅れる形での雑な演奏が続いていた。

「原理は不明だがなぜか彼女の歌声にうちの使徒兵器は耐えられない。
 けどそれがまさか世界の脅迫者さんにも当てはまるとは思わなかった。
 正直もうダメかと思ったが俺もなかなか運がいい」

仮面か。庇う彼女にか。存外の幸運をまるで見せつけるように笑うシックス。
さもありなんとは彼女も思う。逆の立場ならば、仮面に襲われた側としては
諦めるしかない状況がこれでなんとかなりそうなのだから。しかも
世界中を騒がす存在の致命的に近い弱点を手に入れたのだ。
勝ち誇るように笑っても仕方がないだろう。
尤も、どうしようもなく腹が立つのは感情的な話なので別問題だが。
何より。

『…ぐ、がっ、あ゛あ゛っ!
 歌が、これは、ああ、なんて響きっ…ぐっ、がぁっ!?』

未だに苦しみが続くカレが心配で個人的な苛立ちを取り上げる余裕がない。

『マスカレイドっ、まさかこれでも聞こえているのか!?』

「へえ……遮音系のスキルでも使ってみたか?
 即座の対応としてはさすがだが、無駄だよ、無駄。
 そんな当たり前の対策をこっちが実験してねえとでも?
 何をやってもこれを止める方法は無かったんだよ」

おそらく散々対抗策を考えたのだろう彼らは自慢げに一度聞こえてしまうと
もう歌い手が止めるか絶対的に声が届かない距離まで離れるかしない限りは
異常な負荷がかかり続け、無残に砕け散るまで壊れていくのだと
聞いてもいないのに揚々と語る。

「まあそれが人体の場合どうなるかはさすがに知らないがね」

『っ』

舌打ちながら彼女は効果が無いと分かった余計なスキルは解除する。
未だにここが戦場である以上は使うだけフォトンとリソースの無駄だ。
動けなくなったとはいえカレ自身の聴力を封じる不利も大きい。
また動けなくなったカレを庇ったままとなれば彼女も余裕がない。
一瞬も気を抜けない。そう気を張った瞬間だ。
室内の下手な雑音たちによる演奏が急に止まる。

『え?』

「おっと、ちょうどいい。一曲目が終わったようだ。
 次を歌いだす前に少しいいかいマスカレイドさんよ?」

それは遮音系のバリアが解かれたのを見抜いての問いかけではあった。
彼は倒れたままの仮面を見てはいたが返答や反応を期待していないのか。
どれも待たずに喜色満面で言葉を続けた。

「そこの無銘の槍がどんな依頼受けてここに来てるか知らねえがお前さんは
 それに付き合ったか俺らの武器が気になったかだろう?
 どうだいここは痛み分けといかないか」

『痛み分け、だと?』

自分に向けられた言葉ではないとは彼女も分かっていたが怪訝そうに問い返す。

「おたくにとってもこの歌が無視できるものじゃねえってのは身に染みたろ?
 だがあんたはどうも一般人を相手にどうこうってのは嫌いみたいだ。
 ソコは俺らがやるから、まあこの場はお互いに一旦引いてくれねえか?」

それはこの場でお前達を見逃す代わりにモニカを見殺しにしろというに等しい要求だった。

『…………』

あえて黙ったミューヒは警戒は続けながらも意識を少し隣に向ける。
倒れ込んだままのカレは果たしてこの言葉をきちんと聞いているのか。
苦悶の声は歌声がやんだと共に消えたが動きがない────かと思われた。

「っ!」

人型の黒靄はいつの間にか立っていた。これに彼らは見るからに警戒する。
もはや隠す仕草すら無意味と判断してか堂々と新たな兵装端末を二人とも
己が腕に装着している。ベノムはともかくとしてシックスは三つ目となるが
あれが実験機以下の試作品となれば正規のそれを持っていても不思議ではない。
とはいえ即座に外骨格を装着しないのはそれが刺激となって戦端が開かれた場合を
警戒しているのだろう。弱っている、傷を負っている、そう分かっていても
マスカレイドが与えた裏の者達への存在的な畏怖は消えていない。

『……いい』
「あん?」

だからその言動を何も見逃さないと意識していたつもりであったのだろう。
それでもカレからまず漏れた声は隣にいるミューヒですらよく聞こえない程の
呟きであった。だから思わずといった風に聞き返した言葉に反応したのか。

『じつにいい……そういうことか……わかった』

途切れ途切れながらそれでもこの場の全員の耳に届く声が紡がれる。
これに傷のある強面をいやらしく喜色に歪ませた男は今にも手を叩きだしそうだった。

「お、思ったより話がわか」

『まさか天声を昇華させた者だったとはっ!
 だから彼女の声は私の認識を鈍らせたのか……ハッ、アハハハっ!
 なんたる僥倖! じつにいい! なんて素晴らしい歌声か!!』

尤もそれは合わさる前に急停止する羽目になったが。

「…………………は?」

『あぁ、そうきたかこいつ』

呆気にとられたシックスは顔も思考も固まった。
断るのは目に見えていたミューヒもそんな理由とは思わず呆れた。
マスカレイドはそもシックスの話なぞ聞いてすらいなかったらしい。
それどころかこの状況を失念しているかのようにひたすら興奮した様子。
仮面越しの瞳をまるで子供のように輝かせて己が想いを声に乗せた。

『私が生きてる時代に聞けるとは、ああっ、夢にも思わなかった!
 いやこれはそんな陳腐なものではない、なにもかもが想像以上!
 アンコールだ! もっと、もっと聞かせてくれ!』

「なに!?」

『ちょっ!?』

その要求が届いたわけでは決してなかったのだろう。おそらくは子供達に
せがまれたか手持無沙汰になったモニカがたまたま歌いだしただけの事。
これはその二曲目に過ぎない。たちまち室内は先程の不協和音の再演だ。
しかし仮面は今度は倒れることなく立っていた。

『あははっ! うぐっ、がっ…ああったまらない! まさに天上の歌声!
 人類が到達できる最高点、否、それすら飛び越える気か歌姫! 
 いいっ、いいぞっ! 頭痛も眩暈も全身の痛みも魂の軋みも何もかもが
 どうでもよくなる! よもや我が身にここまで響かせるか!』

だがその頭部は酔っぱらいか具合の悪い人間のそれのように大きく揺れ、
黒靄に包まれていても足元が踊るかのようにふらついているのが分かる。
体を襲う不調も痛みも今の仮面にはその興奮(ヨロコビ)を増大させる一因に過ぎないのか。

『生まれ持った天声をここまで見事に鍛え、奏でるとは! よくやった!
 ああ、見える、見えるぞ、どれだけの真剣さと熱い想いを不屈の努力で
 彼女が積み重ねていったかを!』

カレは真実あの歌声に聞き惚れていたのだ。
自分が苦しもうが痛みに全身が襲われようが知ったことではないと笑いながら。
今も、先程までも、この何でもないじつにありふれた童謡の調べを尊ぶ。
それを奏でる歌姫の声に酔いしれる。それが出来上がった道のりを見抜いてか
覗いてかカレはただただ素晴らしいと拍手喝采。

『ホント、何に反応するかよくわからない人ね』

周囲がまるで眼中にないカレに代わり警戒は続けながらひとりごちる。
言葉使いこそまだマスカレイドっぽさを残そうとする理性はあるようだが、
その興奮度合いはこれまで見てきた数少ない“素の彼”のそれと大差がない。
自らの痛みへの関心の薄さも含めて、らしい、と苦笑するしかなかった。
だがそんな彼女の反応すら分からないと彼らはより困惑を深めたらしい。

「ま、待てマスカレイド! 分かってるのか!
 この歌がある限り貴様も俺達もその力を十全とは使えない!
 いや、お前に至っては下手すれば命に関わる話だろう!
 ならまずはあの歌姫を消すべきじゃないのか! 最低でも歌を奪う必要が!」

『………彼女を、消す? この歌を、奪う?』

「っ」

だがそこで初めて興奮していたマスカレイドの意識と声がシックスに向いた。
そんな状態のカレですらそれは聞き逃せない─言ってはいけない─言葉だった。
返った声のなんと冷たいことか。あまりの落差に対象ではなかったミューヒですら
背筋が凍るほどの絶対零度な声。真正面から受けた彼はただ息を呑んで青ざめる。

『なにをふざけたことをいっている?
 世が世なら大帝国の皇帝だろうが頭を垂れるべき歌声だぞ。
 何度も聞いて何も思わなかったのか感じなかったのか震わなかったのか?
 ああっ、これだからモノの価値がわからぬ下郎は度し難い程に哀れな』

静かに諭すような口調なれどその声はもう冷たささえ持っていなかった。
そして仮面越しの目は道端の石ころを見るように無感情である。
ミューヒは今までの付き合いからそれが相手の戦意を折るための
ポーズではなく本気でそう思っているのだと察して内心頭を抱えた。

『この歌声はもはやこの地に二つとない人類種の宝だ。
 それをたかが(・・・)その程度の理由で消してどうする愚か者どもが、恥を知れ!』

仮面は彼女のその苦悩に気付かぬとばかりに彼らを一刀両断する。
ただし、付け加えるように、まるで喜ぶように、続けられた言葉の方が
周囲への衝撃という意味では強力であった。

『そもそもだ。この私の命に届く歌だぞ? すごいではないか!!』

──苦楽どころかそこの基準もおかしかったこの子!
嬉々として宣言する姿に表面上は沈黙していたミューヒだが、
ここまでの発言は一応戦闘中なので流そうと努力していた彼女だが、
許されるなら天を仰ぐかあるいは隣のこの仮面(バカ)の頭を叩きたかった。
相変わらず自分の扱いが軽い。あるいはぞんざいでその点だけは苛々する。
ただそれもまたある程度カレを知る者だからの程度の軽い反応だったらしい。

「な………なん、だ。なんなのだ、こいつは?
 シックス、こいつはいったい何を言っておるのだ!?」

何が目的だったにせよ。あの脅迫が全て真実にせよ。
世界を引っ掻き回せるだけの力も。何を成すためにも必須な己が命も。
この歌声の前では霞むものだと、たかがとさえマスカレイドは言い切った。
カレの所業に手こずり、それなりの被害を受けていた者達としては信じがたい、
あるいは信じたくない主張であろう。その困惑をじつは一番理解しているのが
仮面と隣立つミューヒ(クリムゾン)と知れば余計に彼らは屈辱だろうが。

「ああぁ………ダメだこりゃ。
 そんな気も薄らしてたが、損得どうでもいいタイプだったか。
 しかも自分の価値観マンセー野郎とは……いるんだよなぁ」

認めたくないと頭を振るベノムと違い、苦笑しているのはシックスだ。
そういった人物がいると思ってなかった者とそうでない者の差か。
それでも苦々しい顔なのはその度合いが過ぎているからであろう。

『ハッ、そんなに褒めるなよ。微塵も嬉しくはないが照れる』

仮面が鼻で笑うようにしながら淡々とこう返したのだから余計に。
絶句するベノム、舌打ちするシックス、呆れるしかないミューヒ。

「本当にふざけた野郎だ。
 つまりお前さんは歌姫を守る方針ってことでいいのか?」

そして疲れたとばかりに溜め息を吐きながら最終確認をしてくる彼は強面な
外見とは裏腹に何日も徹夜で残業をした後の社会人のような顔をしていた。
尤も仮面から返ったのはポーズではない本気で小馬鹿にした笑いだ。

『フン、そんな決まりきったことをいちいち聞くな。程度が知れるぞ?
 後ろで呆けてる間抜けと違って頭は働いているようだが、露骨だ』

「……どういう意味だ?」

訝しげに問うたシックスに、だが仮面はあっさりと答えを突きつけた。

『出来る限り歌を聞かせて弱らせようという魂胆が丸見えだ』

「……………」

それに一瞬で彼の疲れ顔は消え、無言のまま外骨格を展開する。
先程の巨躯と違う通常サイズのくすんだ灰色の装甲服が一瞬で装着された。
頭部はヘッドギア型でその無表情があらわで、それがより自身の面構えを
凶悪に見せる。余計な装飾も武装も翼もない細身のそれは屋内(ここ)での
戦いを想定したものだと、いま戦う気であると言外に示していた。

「色々情報を集めてはいたが、想定以上に食えない奴だな。
 そうだと分かってて、呑気に話をするか普通?」

『その方が負けた時、より屈辱的だろう?』

「ハッ、いい性格してやがる、嫌がらせの達人かてめえは」

『似たようなものだ……それに的外れだからな』

「どういう意味だ?」

『いま私はこの素晴らしい歌声に最高潮のテンションでね。
 正直、歌をきちんと聞きたいから君達が邪魔で邪魔でしょうがないんだ』

「……へえ、それはすまなかったな」

『だから─────容易に止まると思うなよ?』

「っ!?」

果たしてその凶悪な三日月は見えていたか。
マスカレイドが真正面からシックスに突っ込んでいった。
だがそれは目にも止まらぬとはいかず、外骨格を纏う戦士ならば決して対応できない速度ではない。

「舐めんな、その程度で!」

振り下ろされんとした右腕を体を捻るようにして紙一重で避けると、
その勢いを利用した回し蹴りを黒靄の腹に入れた。が、それはカレの
両手に受け止められたようで叩き込んだ足は男の身体ごと引っ繰り
返されるように押し上げられた。体勢が大きく崩れるがその勢いに
逆らわず利用したシックスは宙返りしながら距離を取って見事に着地する。

『うぬ………?』

「その靄を纏っているのに動きに対応されて不思議か?
 それの映像解析方法が見つかったのを知らなかったようだな。
 俺達の技術班はそれを即座に行えるシステムを組み上げたんだよ!」

そういって指で叩いたのはヘッドギアのゴーグル部分。
おそらくはそこで仮面の姿は限りなく暴かれているのだろう。
しかしマスカレイドもミューヒもそれに動揺などしなかった。
彼女に至ってはベノムと他の者達の動きを警戒しながら憐れむしかない。

『思ったより早く出来上がったな、すごいすごい』

「なに?」

『その情報を流させたのは私だよ、知らなかったようだな』

「……は?」

──わかるわー、その気持ち死ぬほどわかるわー
彼の意表を突かれた顔を見ながら、彼女はそう口にしたいのを必死に我慢する。
その経緯を知る身としては苦笑いを浮かべながらそうするしかなかったともいう。
ある少女が暇潰しで見つけてしまった解析方法はクトリアから世に流れていた。
今やマスカレイドの存在を知る個人や組織にはある程度浸透している。
無銘においても彼らのと似たシステムは現在開発中である。完成後は
それなりの値段で裏の世界に流れることになるだろう。だがそれが
仮面当人が学園の生徒会長を脅して流させた情報だと知る者は少ない。

『フフ、いい顔だ』
「っ!」

開いた距離を埋めようとするかのような突進。
正確に見えていないミューヒからすれば相変わらず微妙に気味が悪い挙動を
する人型の黒靄だが、果たしてシックスにはどう見えているのか。

「っ」

易々と間合いに入り込まれた様子から見えていても防ぎようがないと知れる。
礼拝堂で格闘戦もどきをした身としてはあの見えていても次が読みづらい動きは
初見では余計に対応できないだろうと彼女は相手に同情する。それでも
怒声と共に拳を突き出したのは経験者として内心称賛もしていた。

「何アホなことしてやがんだてめえ!?」

『ハハッ、仕方ないじゃないか!』

だがそれは弾かれ、次いで顔を狙う仮面の左拳を首を捻って紙一重で避ける。
その腕を掴んで投げ飛ばそうとすれば逆にさらに踏み込まれ、腹に膝蹴り。
間に片腕のガードを滑り込ませたがずんと響くような衝撃が入っている。

『あまりに攻略不可能と思われると過度に恐れられてしまうだろ?』

しかしここで止まれば畳みかけられると判断したか男は近付いたその
白き面目掛けて思いっきり頭突きを繰り出して──盛大に空振った。
仮面に突然飛び退かれたのだ。勢いをつけすぎて体勢を崩した彼は
牽制程度になればと思ったのだろう。手甲に内臓されていた射撃兵装
を起動させ、狙うこともなく連射する。

『それで仮に二世界が完全に一致団結して大規模な討伐軍でも出してくれば
 激しく面倒臭い。だから決して無敵な超人ではないとアピールしないとな!』

光弾の雨は仮面の手が撫でるように弾き、足がリフティングのように操る。
それが意識が戻りつつあった部下達への追撃に使われているのは明らかだったが
シックスは自らの体勢を整えるのを優先した。でなければそうしながら
恐るべき速さで歩み寄ってくる仮面に対処できない。

「冗談じゃねえぞ、なんだそりゃ!」

これのどこか攻略法有アピールか。本当にこれで弱っているのか。
そんな感情を爆発させたように仮面の無貌へと武装を纏った拳を向ける。
フォトンの刃をまるで剣山のように隆起させた拳は当たれば相手の装甲も
肉体も粉砕し抉るだろうという凶悪な形状であった。無論、当たれば、だが。

「ぐぅっ!」

否、正確な意味で当たりはしたのだろう。黒い拳が真正面から突き出した拳と
衝突したのだから。結果フォトンのスパイクだけが木端微塵となって霧散し、
衝撃に拳が弾かれる。しかしまだ終わりではないと逆の腕がフォトンの鉤爪を
伸ばして薙ぎ払うように迫る。それを跳び越えて避けた仮面は天井に手をつけ、
一瞬の静止を得ると相手の頭頂部を小突くように踏み蹴ってよろめいたその背中に
降り立つとさらに蹴り飛ばす。もろに食らったシックスは前のめりの姿勢で宙に舞った。

『とはいえあまりに弱く思われるのも、
 確実な攻略法を構築されるのも、困るんだ』

悩みどころだ、といわんばかりの口調はその先を見ている。
見事空中で体勢を整えて壁に着地した相手がこちらに跳び返ってくるのを。
同時に黒靄のあちこちに黄金光を纏う拘束具が多数出現する。それは外見通りの
拘束系スキルかはたまた能力低下(デバフ)系スキルか。生身であるカレにはその効果が
まるで制限なく発動するであろうそれを過剰に行使しながら男は跳び込む。
その手には短くも太い刀身の巨大な鉈のような実体剣が握られていた。
疾風の如き勢いそのままに全身で体当たりをするかのように振るわれたその一閃。

『だってそうでないと誰も恐れてくれないだろう?』

それでも返ったのはここまでの続きの言葉で、平然とした声。
黄金光の拘束具は溶けるように霧散し、鉈型の凶器は黒腕の手刀で砕かれた。
一瞬の虚がシックスの顔に浮かぶ。仮面はそれを見逃さずに胸倉の装甲を─
どういう理屈か─片手で掴み、跳び込んできた勢いを殺さずに背負い投げの
要領で床に叩き付けた。

「がっ、ぐっ!」

受け身は取れたシックスだが先程の傷が癒えていないのか血を吐く。
それでも転がるように距離を取ったのはその顔を覆わんとする黒を見たからだ。
彼の頭があった場所では仮面の黒い足が床板を抜いていた。ミューヒからすれば
抜いただけとしかいえない結果だが。

『…………まいったわ』

おそらくはマスカレイドとこの世界で最初に戦闘した人物であるミューヒは
カレが見せるここまでの結果からその弱体化を確信していた。まず動きが遅い。
傍から見ているという差はあっても動きの精彩さに欠け、反応も若干鈍い。
一撃の威力も弱かった。拳を打ち合ってフォトンのスパイクを破壊しただけで
止まるなどありえない。通常ならその手甲すら砕け散ったであろうし、
投げ落としに踏みつけの威力も元より本気でないにしろ弱すぎる。
いつもなら床に人型ができるか床下の地面まで穴を開けただろう。
また防御にも不安があるのかわざわざ武器の一閃を迎撃した。
そも攻撃手段が殴り合いの範疇だけなのはそれ以外の攻撃手段が
使えなくなっているからか。
──ああ、そういう意味では確かに弱体化はしているのよね、けど

『かなり頑張れば、多大な犠牲を出せばなんとか、
 という程度に落とし込む苦労があるんだよこれでも、ね!』

「っ、がぁっ!?!」

尤もそれで倒せるかどうかというのは別の話だと彼女は溜息だ。
転がった先で立ち上がったシックスのしかしふらついて隙だらけな
姿に人型の黒靄が肉迫した。精彩さを欠いていても、その程度の距離を
詰めるには充分な速度をカレは持つ。そして弱まっていてもガレスト武装を
容易に破壊するだけの破壊力のある一撃を使う。それらを十分に合わせた
鋭い掌底は腹部へと突き刺さると何もかもを突破してみせた。
厚さはなくとも戦車の砲弾すら耐えられる装甲に深い手形がつく。
装甲の強度も、表面を覆うバリアも、衝撃を緩衝する機能も、関係なく。
外部から威力を計測する分にはそれだけの破壊力があったわけではない。
まるで外骨格が持つ複数の防御機能が全て機能しなかったような一撃(結果)であった。
──まだ私達はカレの不可思議な能力を何一つ解明していないのだから

「ぐ、ぁ、がほっ、ごほっ!?」

周りからは体が僅かに押された程度にしか見えないがその掌底は少なくとも
彼に再度血を吐かせるほどには人体の内部に耐えがたい衝撃を与えていた。
そこへ容赦なく同じ手から二撃目が叩きこまれる。装甲の壊された方から
今度は拳を叩き付けられたのは容易に想像できた。既に密着した状態からの
それは寸勁か。さらに血を吐いてよろめいたシックスは腹を抱えるように蹲る。
その姿を見えるようになっても、この歌によって能力が低下しても、
それを補えるだけの他の手段をこの仮面は確実に複数持っている。
少なくとも近接戦闘能力では裏で一流とされる戦士達でも届かない。
そう思わせるだけの隔絶したものを今の結果だけでも見せつける。

──いつかコレと戦うのかなぁ

想像するだけで生きた心地がしないミューヒの心情を知ってか知らずか。
一回だけ指を鳴らした仮面はゆっくりとした進みで彼に歩み寄る。びくりと
カレ以外の全員が緊張感を走らせた以上その行為が仮面が何かしたことを匂わす
行動だというのは察しているらしい。実際に何かしたかどうかは別として。

『知ってる情報全部くれるなら本当に命だけは助けてやるけど、どう?』

「そこは嘘でもその後の生活を保障してやるぐらい言え!」

仮面に襲われ、廃人となってベッドの上で生きているだけの人間を彼らも
知っているのだろう。冗談じゃないとその提案を蹴りながら彼は跳び上がる。
手にはフォトンのナイフ。全身のバネを利用して突きだした腕が白き面を狙うが
最初から彼自身がそう動かすつもりだったように凶器は彼の(・・)肩口に突き刺さる。

「ぐぅっ!?」

驚愕と苦痛に彼の顔が歪む。それは瞬間の反応。一瞬の早業。
仮面の両手に腕を反らされ、捻られ、己が刃を返されたのだ。
短い光刃は何故か易々と装甲を抜いて男の鮮血を飛び散らせる。

『へえ、そうくる?』

だがその攻撃が合図だったかのように周囲は動いた。意識があった、あるいは
取り戻した兵士達は一斉に起き上がって紅槍(クリムゾン)を取り囲んで襲い掛かる。
その手にある武装は通常のガレスト製武器。仮面の不可思議な加護に頼れない以上は
普通に迎撃するしかないが、その敵兵だらけの視界の片隅で動く影に彼女は舌打ちだ。

『っ、マスカレイド、ベノムを!』

最初に飛び掛かった5人を槍で薙ぎ払いながら声をあげる。
外骨格を纏ったベノムの手には肩で担ぐ必要がある程の大型砲身(バズーカ)
その矛先が家の外、教会に向けられているのを見ては黙ってはいられなかった。

「フハハッ! 見ろ、この私が全て吹き飛ばしてくれる!」

「ぐっ、黙ってやれねえ、のか。バカが!」

苦悶の顔ながら悪態を吐いたシックスの態度が全てを物語る。
彼の最後の抵抗も敵兵達の後先考えない突撃もその一瞬を求めたがゆえ。
自らそれを台無しにしているとも知らずベノムは引鉄に指を乗せただけで
もう全てが決したかのように錯覚して感極まって叫んでいた。

「がはっ!?」

カレも気付いたのか気付いていたのか。
即座に加えられた回し蹴りでボールのように弾みながら転がっていくシックス。
だがその後ろでベノムが躊躇なく人の顔程はある砲口から黄金光を発射した。
そのエネルギー総量は一軒家を簡単に吹き飛ばす程で、掃き出し窓の枠ごと
吹き飛ばす衝撃を室内で対流させながら庭を焼いてその光流は走る。
もう手段など知ったことかと。これで全てを消してくれると耳障りな
哄笑をベノムは響かせた。

「アハハハハッ────は?」

さも当然のように光流の前に黒い影が立つまでは。
いくら全体的に遅くなったといってもそれは素の能力の話であろう。
カレもまたフォスタを持つ者。動きを強化する術はあり、他にもあるのだろう。
あるいは単に本気で動いただけかもしれないがあっさりと仮面は光流を追い抜いた。
ならばもう結果など決まりきっている。

『ハッ』

小さな呼気と共に突き出された腕が光の砲撃を殴りつける。
その単純な一撃が─今更だが─非常識なれどその破壊光を爆散させた。
光そのものは霧散し、されど衝撃だけが放ったベノム側に跳ね返って室内で
さらなる対流を起こして倒れていた者、起きていた者関係なくかき混ぜた(・・・・・)
ミューヒだけがそれに突撃時の姿勢制御や急停止用のアンカーを壁や床に
咄嗟に打ち込んで耐えた。

『うっ…………はぁ、乱暴ね』

その室内乱気流に耐えたあとのリビングは完全に見る影もなくなっていた。
ここまでの戦闘痕で穴や凹みが出来ていたがもうそのような次元ではない。
調度品、生活雑貨、電化製品等は原形が不明に近い形で散乱していた。
ものによっては壁や天井、床に突き刺さっている代物さえある。
それと関係あるのかあちこちに穴が開き、隣室や二階は覗けていた。
そんな何かの破片が乱雑した空間で敵兵たちも無残に瓦礫の下。
尤もそれが元々倒れていた者達か最後に自分に飛び掛かってきた者達かは
さすがにミューヒも区別がつかなかった。尤も。

『あの威力ともなるとまともに跳ね返せないってことかしら?』

この惨状ですら仮面が弱体化してる証明だとすれば絶句すべきか笑うべきか。
あの程度の砲撃なら周囲に悪影響なく壊す事も霧散させる事も砲手にそのまま
弾き返す事もカレならできたはずである。二曲目の歌声はもう止まっているが
それでもカレの挙動はまだどこか拙い。

『それともわざとやったの?
 指パッチンで教会を覆う純フォトンの膜をわざわざ作っておいて庇うなんて……』

室内に戻ってきた仮面にどういう事かと問うが肩を─おそらく─竦めただけ。
明確な返答はなく、しばらく床や天井を見回すように白き面を動かすと
天上に開いた穴を見つけてその向こうを眺めた。同じ穴を見上げれば
午前中が、先程までが、嘘のような青空(・・)が彼女の目に映る。

『表面に出ていたより冷静だったな、あのシックスってやつ』

『蛇の戦闘部隊の実質トップですもの。蛇を知る組織じゃ有名よ。
 冷静な戦闘狂だって……うまいことやってよく逃げたわね』

倒れている者達の中に少なくとも名を持った者はいなかった。
シックスと呼ばれた強面もベノムと呼ばれた狂信者もいない。
瓦礫下になっている者もいるので正確な数は分からないが何名か
兵士達も脱出したようだ。あのタイミングで彼女を抑え、教会を
狙えばマスカレイドが迎撃するしかないと読んだのだろう。
果たしてはそれは、どこまでが、どこからが、誰の、思惑か。

『そういう部分も見えたが、遊びも感じた』

『遊び?』

『うまいこと性能試験やらされた気分だ……だがなんだ、あの妙な余裕は?
 例え自分がここで捕えられても得た情報に意味があると確信していたかのよう…』

『……一応サーチしたけど、測定器や盗聴器、カメラの類はないよ。
 まああったとしてもこの状況で動いているとは思えないけど』

周囲を指し示せばさもありなんという光景しかない。
それに、そうか、と頷いて周囲を見回して、首を振ると何事かを呟いた。
恐ろしく重く、響く声はそれだけでなぜか彼女の背筋が凍る。

『“あり得ざるモノよ、我が元に集え”』

途端にリビング中からあの使徒兵器とそのエネルギー源であるタンクが
宙に浮かび上がってマスカレイドの眼前に勢いよく集まってくる。
それらは武装部分は損壊が目立ち、タンクも亀裂が入っていたが
中身が漏れ出ている様子は見られなかった。

『“汝ら、存在すること許さず”』

そこへ強い敵意とおぞましい力の圧力が容赦なく叩きつけられた。
余波を受けただけのミューヒでさえたじろいで後ずさるがその目の前で
武器もタンクも消えた。崩れたのとも、溶けたのとも、消し飛んだのでもない。
瞬きのような一瞬で本当にただ消えたのだ。

『っ……』

規格外なのは分かっていた。しかしコレはただ呟くだけで物質を跡形もなく
消滅させるのか。やろうと思えばもしや人にも同じことができるのではないか。
その懸念に自然と冷や汗が流れる。だから白き面がこちらを向いた時、思わず身を固くしたが。

『あとは君らの好きにしろ、どうせたいした情報な、ど……ちっ』

『ちょっ!?』

ぐらり、と黒靄越しでもはっきりと分かるほどに大きく体が揺れる。
舌打ちと共に仮面を剥いだ彼は、だがそこで力尽きたように崩れ落ちた。
間一髪自らを滑り込ませた彼女の腕が床との衝突を防いで受け止める。
慌ててメット部分を収納すると直接腕の中の彼を覗きこむ。

「イッチー大丈夫!?」

「うん、ちょっと無理だな………だるいし、眠いし、あと硬い」

若干寝ぼけ眼のような顔で外骨格の装甲を叩く少年がそこにいた。
どうせ抱き留められるなら柔らかい方がよかったといいたげな様子に
彼女は慌て損したような気分で苦笑を浮かべた。そこには一瞬前まで
あった彼への恐れなど微塵もない、いつもの彼女(ヒナ)がいた。

──こんな呑気な顔で体を預けられたら怯えるのも馬鹿らしい

彼女はそんな本音か言い訳か分からないことを胸中で呟きながら
ちらりと肩の傷が塞がっているのを確認して静かに胸を撫で下ろしていた。





地味に最初に倒れた時反応できなかったのを気にしてました……

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