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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」

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04-88 美女狐は語る

三十分遅れたか………許容範囲、許容範囲!!(虚勢


そんな挨拶に対しての皆の反応は、どうにも個性が出た。

「やはりあなたでしたか」

と納得した風なのがフリーレ。

「ううっ、こいつ敵だぁ」

とある部分を凝視して親の仇のように睨むのがミューヒ。

「直に見ると思っていた以上です…」

映像越し以上の美に魅了されつつ愕然としたのがアリステル。

「マジか…………」

あまりに過ぎた色香と美しさに現実味を感じられず呆けたのがリョウ。

「なにこの人間離れした美女っ!?」

どうあっても女として立ち向かえない美に憤慨しているのがトモエ。
ひとりを除いて、まずその外見の美しさと漂う色香に意識が引っ張られていた。
だから美女の“格好”の問題点に誰よりも先に気付いたのはそのひとりの方。

「しかしそんな状態で対応されていたと思うと……本当に自信を無くす」

そんな肩を落とした彼女に引っ張られるようにして彼女らもソコに気付く。

「え、あ、二重に屈辱だっ! なんなのあの暴力的な肉体!」

「先生の言う通りなのですが……すごい、淫靡ですわ」

それは色々と“おかしい”のだ。彼女はいわゆる長身なのである。
頭頂部に狐耳があるせいか。同程度と思われるフリーレより高く見える。
そんな彼女がいま着ているのはその二人より背丈の低い少年の学生服なのだ。
すらりと伸びた長い手足は学生服を当然に裾や袖足らずとしたばかりか。
驚異的な胸囲により丈足らずとなり、かろうじて第二ボタンだけ止めて
ソコに乗っかってるような状態で羽織られていた。ゆえに白いきめ細かい肌ごと
ヘソは完全に丸見え。それどころか立派過ぎる南半球も若干、というべきだろう。
学生ズボンもサイズが合っていない。ウエストは細いがそこから見せる見事な
ラインの先にあるヒップのふくよかさは布地がはちきれんばかり。
それゆえかベルトはゆるい状態で絞められ、所謂腰履きの状態だ。
さらに背面では尻尾を出す為か臀部の上部が若干露出していて
彼女の色香を隠すどころかむしろおかしな方向で強調している始末。
この状態で先程までの戦いをされていたのならば、どれだけ自分達は
手加減されていたのか。それも当然彼女らの心に重くのしかかるのだが、
それ以上にその色香は強力過ぎた。

「…学ラン姿に色気を感じることが人生であるなんて…」

「バカいってんじゃないわよ、あれは中身が規格外なせいよ!」

尤もこの場で唯一の男であるリョウは、退魔師の血筋による直感と
耐性からか“これは魅入られてはいけない美貌”という警鐘が先に
あるせいか。それとも過ぎた美は見惚れる前に感心してしまうのか。
まるで美術品でも眺めるような心境でぼそりと呟いてしまう。
幼馴染から即座に至極もっともな反論を食らったが。

「お前達騒ぎ過ぎだ、サーフィナやシングウジはともかく
 ふたりは彼女を知っているだろう、落ち着け!
 まずは彼女からナカムラについて聞く方が先決だ」

「ううぅ、わかったよぉ」

「そうでした、あまりに肉感的で且つ美しい方でしたので、つい…」

そんな空気を一喝したのは立場上か自他の見目を気にしない性質かフリーレ。
妙な敵愾心を抱くミューヒも見惚れてしまったアリステルもこれには静まる。

「サーフィナ、シングウジ。
 彼女はこの前の事件の時に学園を影ながら守ってくれていた人だ。
 あの時は学園の者達を守っていただき、ありがとうございました」

そしてふたりへの説明を挟みながらその助力への感謝を示した。

「ふふ、先生は本当に律儀な方ですね……いえいえ。
 私はただ主様にいわれたことをしただけですのでその感謝は
 どうか我が主へのそれに上乗せしてくれた方が私は嬉しいです」

「そうですか……ならそのように、あ、ええっと」

当人がそういうのならと頷きかけたフリーレだが、言葉途中で浮かんだ疑問を
どう尋ねるべきかで悩んでしまう。人見知りゆえか圧倒的な実力差からか。
どこまでを、どう、踏み込んでいいか解らなかったのだ。
その間に彼女の方が先に疑問をぶつけてきた。

「しかし、おかしいですね。
 私はあの者達の外骨格の記録媒体を概ね壊したと思うのですが?」

なのになぜあなた方はこの顔を知り、その事実を知っているのか。
その問いにフリーレは申し訳なさそうに、苦笑気味に、首を振った。

「確かに破壊されていましたが、全てが修復不可能というほどではなく、
 いくらか映像記録をサルベージできましたし足りない部分は彼らの証言から
 補完したのであなたの姿やあなたが行ったことはほぼ全て……」

把握されている。
少なくとも学園生徒会とクトリア防衛に携わる高官の一部は知っている。
そう告げられ、一瞬きょとんとした顔をした彼女はすぐに困った様子で眉根を寄せた。

「出来るだけ拡散させないように指示しましたがある程度は広がっているでしょう」

「あらら、また律儀なことを……しかし想定以上に高い技術力ですね。
 そのことをできれば後でよろしいので主様に伝えてくださいますか?
 おそらくは私とそう変わらない認識でしょうから」

「わかりました……ですがその、あなたの主というのはやはり?」

ここまで来て違うということもないだろうが相手から決定的な発言も無かったため
判断しきれなかったのだ。彼女がマスカレイドの部下なのではないかというのは
状況的な推測にすぎなかったのだから。そんなフリーレの根っ子にある慎重さとも
臆病さともいえる態度に微笑ましいものでも見るように目を細めた美女は首肯する。

「ええ、あなた方のご想像通り私はナカムラ・シンイチさまの忠実なる従者です」

誰もそこまでは想像していなかったのだが、はっきりとした宣言には
やはりという空気が流れるた。しかし彼女はそこで狙ったようにニヤリと笑う。
そして途端に立ち上がって腕を広げるとまるで舞台俳優のような過剰な動きを
つけて勝手に語りだす。

「そう、彼こそがっ、あのお方こそが!
 私の耳の天辺からつま先や尾の先まではもちろん……毛の一本、血の一滴、
 心の一欠片までこの心身全てをお捧げしている唯一にして絶対なる我が主!
 我が愛しきヒト! です……うふふ…」

だが魔性の美を持つゆえかそれは完全にさまになっていた。
魅せるようなうっとりとした陶酔しきった顔からは主人への敬愛と情愛が
溢れんばかりであり、その演技臭い言動も観客達は誰一人そう受け取らなかった。
永遠の忠誠を誓うように、少女の恋心を歌うように、彼女は彼女の意志を何の
躊躇もなく─ほぼ脈絡なく─さらけだしていた。

「なっ!?」

だからこの驚きの声が返った理由はこの発言だけが原因ではない。
それだけなら“まだ”良かったのだろう。単にあの少年の傍に自分達が
知らなかった想いを寄せるとんでもない美女がいたという話である。
それはそれで心中穏やかではないだろうが、彼女は余計な行動もしていた。
特に、この心身全てをお捧げしている、と言った時に意味深な微笑みと
目配せをしたばかりか意図的に自らの肉感的なスタイルを強調する
ような仕草を見せたのだ。発言と相成って完全に何かを匂わしていた。

「ふ、不潔っ!」

「わぁ、つまりは…わ、わぁ……シンイチさんったら、大人っ」

「だからかっ、あいつ! だからあんな女慣れして!」

それを読み取った彼女らはそれぞれの衝撃を受けていた。
羞恥、妄想、憤慨、という形ではあるがそういうことなのだと察していた。
尤も唯一の男子であるリョウは自分でも一応耐えられているのにあの男が
この色香に負けるだろうかと若干首を傾げているが賢くも沈黙を選んだ。

「だから騒ぐなと……あなたもうちの生徒で遊ばないでください」

ゆえに話を進めたのは自他の色香に鈍感ゆえ呆れた顔をする女教師だ。
そのくせ“遊んでいる”ことは察するあたりは鈍いのか鋭いのか。
主人に似た笑みを浮かべつつも彼女は大仰に頭を下げて謝罪した。

「これは失礼しました……皆さま可愛らしいのでつい冗談を」

「冗談?」

「発言は純度100%の本音ですけれどね。
 ふふ、心配せずとも私と主様の関係はまだ清いものですので」

「……へえ、まだ?」

「ええ、まだ、です」

とはいえ、にっこりとそこを強調する辺りまだ遊んでいるのか。
あるいはしっかりと主張することで煽っ(牽制し)ているのか。
意図的に勘違いさせられたと気付いた女生徒たちはこれまたそれぞれで
別の表情を浮かべているが、それを傍目にリョウはこれは手強いと天を仰ぎ、
意図は察していても意味はわかってないフリーレはさらなる溜息である。

「はぁ、遊び好きの主従め。
 ……それで、その、あなたは何故ひとりでこちらに?
 ナカムラに……何かあったわけではないのですよね?」

これは無理にでも話題を変えるべし、と判断した女教師ではあるが
深くは聞けない上に聞いても答えないだろうと考えて、どうしても
迂遠というか大雑把な問いかけになってしまう。だが事情を察してか
相手はそれに困惑した様子もなく答えてくれた。

「何も無かった、といえば嘘になりますが別段命の危機にあるわけでも、
 厄介な事件に巻き込まれているわけでも世界中を脅すような事もしてません。
 私はただ、一人にしてほしいから自分に化けて先に戻れ、と頼まれただけですので」

しかし果たして、意図的か否か。奥歯に物が挟まったような表現であったが。

「………」

本来なら問題無いといってるはずなのに、どうしてか不穏さを隠していない。
彼女の言葉は“他に何かがあった”ことを言外に示し過ぎていた。

「ねえ、答えてくれる? 信一は今どこで何してるの?」

それに真っ先に斬り込んだトモエの真っ直ぐさと切り替えの速さにか。
あるいは全員に浮かぶ彼を案ずるような表情にか美女は頬を緩める。

「口止めは幸い(・・)されていませんのでお答えしましょう。
 どこで、となれば別れたのは旭川でしたのでまだその辺りかと。
 何をして となれば激しく落ち込んでいる(・・・・・・・・・・)としか」

「…激しく?」

「落ち込んでいる?」

一瞬、そんな馬鹿なと半ば反射的に思ってしまった面々ではあったが、
よくよく考えてみればあの少年は妙に卑屈であったり変なことを気にしたり、
露骨に他人を羨んでいたり、他にも時折────誰よりも辛そうな顔をする。
彼らがシンイチと過ごした時間はさほど長くはないが、それでもそれらが
すぐ脳裏に過ぎるほどあの少年が〝落ち込んでいる”という話に違和感が無い。
だがそれは次の疑問を呼ぶ。なにがあって彼が落ち込んでいるのか、だ。
唯一その心当たりがあった女教師は問いかけるように呟いた。

「それは……友人とケンカした、からですか?」

「え、それ、どういうこと!?」

しかし意外にも、いの一番に反応したのはミューヒで、
困惑しつつもフリーレはあの時語られた事を他の者にも聞かせた。
その様子を微笑ましく見ている従者の視線には気付かずに。

「あ、ああ…一昨日の夜にそういう理由で一時離れると聞かされてな。
 ケンカしなきゃいけない友がいると……挨拶したい人がいるとも言っていたが」

それだけを聞くとあまりに勝手な理由としか聞こえないが、
ここに集まった面々はそれを額面通りに受け取ってはいなかった。
シンイチの発言に嘘は少ないが裏がある事が多いと彼らはもう知っているのだ。
だから何があったのかと彼の従者に視線が集まるのは当然といえるだろう。
それを彼女はどう受け取ったのか。少しだけ考えるように瞑目するも
すぐに開けると頷いた。

「そちらも口止めはされていないのでいいでしょう。
 挨拶したい人というのは主様が昔からずっとお世話になっていた方です」

「だからってあいつわざわざ修学旅行中に…」

「今日が、命日でしたので」

「っ!」

行かなくとも、という誰かの言葉は続けられることはなかった。

「……そう、でしたか」

「そっか、そうだよな。そういうこともあるんだよな」

昔からずっと。今日が命日。彼女が語った二つの事実の意味が解らない者はいない。
今でこそ漂流者達は発見さえされれば数日で帰還できるようにはなっているものの
異世界公開前や公開直後は年単位の時間が必要で、その間に元々あった生活環境や
人間関係が破綻してしまっている例が無いわけではなかった。帰還してみたら
親しい人と“死”という形で永遠の別れになっていたケースもまた珍しくない。
だからといって即座に受け入れて流せるかというのは別の問題だ。
身近な人間との死別を経験している者が多いこの場では誰もそれ以上
口を開くことができなかった。従者もまたそれ以上何かを語る必要は
ないとしたのか話題は友の方へ。

「ケンカした友人というのはその方の関係者です。
 まあ簡単に言えば主様の幼馴染で──ああ、男ですから安心してくださいね」

軽口か冗談か。沈んだ雰囲気を上げるためかからかうためか。
付け足したその言葉は余計なお節介だといいたげな苦笑を呼んだだけだが。

「そのご友人、ちょっと悪いことをしていましてね。
 主様は止めるつもりでケンカしにいったのですが、さすが幼馴染でした。
 お互いに相手の事をよく存じていたがゆえに、結果は痛み分けでしたよ」

「へぇ、あいつと引き分けたのか………人間かそいつ?」

「あのね、ケンカだからって何も殴り合いとは限らないでしょうが」

信じられない、とわりと本気で驚くリョウに短絡的だとトモエが呆れる。
その様子に微笑みながら彼の従者は午前中の出来事を思い返しながら語った。

「ええ、互いに相手の弱い所に適切なジャブを打ち合うようなやり取りでした。
 見ているだけで本当に相手を理解しあってるのだと……少し妬けましたけれど」

「ですが、いえだからこそ痛み分けになってしまったと?」

「主様は負けたと思っているようですがね……まあ、さもありなんでしょう」

「なんでよ、その話しぶりだと相手にも痛手を与えたっぽいけど?」

「それは勿論、結果として逃げられてしまったのですから負けでしょう」
「………え? 信一が捕まえられなかったの!?」

あの、敵を誰一人逃さず叩き潰している男が、友人一人捕まえられなかった。
その話は彼の友人が“悪いことをしている”という話以上に衝撃的だった。

「おいおい、そいつ本当に何やったんだよ!?」

「離れた三つの都市に危険物仕込んで逃がさないとひどいぞ、と脅してきましたね」

「そ、それは……ちょっと悪いことをしてる奴の手口じゃない……」

どんな大悪党だ。呆れるようなフリーレの呟きは、だが内容以上に力が無い。
何せそれは彼の友人がそれだけの悪党だというのに等しく、そしてそうだった
からこそシンイチはケンカをし(止め)にいったのだろう。結果は失敗だったようだが。

「………」

重い沈黙が落ちる。
帰還後に知った身近の人の死と犯罪者に堕ちた幼馴染。その説得も失敗。
これで落ち込むなというのは無理からぬ話だろうと誰もが理解するも、
されど当人すらこの場にいない現状で何をどういえばいいのか分からない。
ゆえか。

「……ふーん、つまりこのハレンチ狐さんは大事な大事な主さまが
 そんな目に合ってすごく落ち込んでるっていうのに放ってきたんだ?」

「ルオーナ!?」

そんな棘だらけの噛み付くような発言が彼女の口から出た。
それは先程(ちんちくりん)の意趣返しなのか露骨なまでの挑戦的かつ挑発的な言葉。
違うのはあの時の彼女はミューヒで遊ぶ意図が多分にあったが、
ミューヒのこれには憤りにも似た感情がある。にこにこと笑っていても
その目は責めるようにその美女を見据えている。尤も相手はその視線を
涼しげに受け流しているので余計に彼女を苛立たせているのだが。

「そういえばあれだけ謳っておいて、君が現れたのって今日とクトリアの
 事件の時だけ……その間も主人を放ってどこにいたのやら?」

だから余計に棘のある発言が口から出た。彼女も実力差を考えると
あまりに無謀な挑発であるとわかっているのだが感情が止まらなかった。
どうしてかミューヒはこの美女従者を相手にすると我を抑えきれない。
しかしそれでも美女従者が見せたのは微笑である。彼の主人のそれと似た
好ましいものを見る時のそれ。

「うふふ、力の差を理解してなお吠えますか。その意気は良し。
 これは褒美をあげないといけませんね……ん、しょっと」

ひとりで何か満足そうに頷いた美女は突然として
胸の間に下から手を突っ込ませると見慣れたフォスタを取り出した。

「っ、どこに、なにを、仕舞ってるんだこのハレンチ狐!
 それどう見てもイッチーのフォスタじゃないか!!」

「だからこそ挟んでおいたに決まってるでしょう色々小さい娘。
 そんなことより誉れと共に受け取っておきなさい」

コンプレックスを明確に刺激してくる言動に叫ぶミューヒをほぼ無視して
主人のフォスタを放り投げる美女従者。半ば反射的に受け取った彼女だが
微妙に美女(むね)の温もりが残っていて渋面となってしまう。

「あなたにそれを主様にお返しする栄誉を与えましょう。
 これからもいまの感情を忘れずに精進しなさい」

「訳の分からないことを偉そうに……これで誤魔化そうっての?」

「まさかっ、でも私は最初に言ったはずですよ。この姿では初めまして、と」

「あ」

それはこの美の化身のような姿を見せての第一声。
確かに彼女はそういっていた。あの時はあまりの美しさと色香に皆が
流してしまったが再度いわれれば嫌でもその可能性に気付いてしまう。

「……別の姿なら既に会っている、ということですか。
 確かに姿だけならシンイチさんそっくりに見せられたのですから」

「他の姿にも、か。充分にあり得る話だがそうなるといったい誰に?」

「ヒントはけっこう出していると思うのですが。
 この見た目とあなたたちの勝ち目がない相手となれば、早々いないでしょうに」

「あ、あのねぇ、力はともかくこんな美女一度見たら忘れるわけが……ん?」

そこまで口にしたトモエはふとその可能性が頭を過ぎった。
あるいは不可思議な存在を当たり前のように知っているからこそ出た見解か。
これほどの美しさと肉感的なスタイルが残っていれば気付かぬわけがない。
ならばきっと他の姿とはそこが全く残っていない姿であろうと。その考えのもと
彼女の容姿から、その美貌、スタイルの良さを訴える全身を外して
残ったパーツを頭に並べながら強い存在を思い描いて、途端。

「っっっ!?……あ、あなたっ…信一のアマリリスッ!?!?!」

狐耳。尻尾が三本。シンイチの身近にいる者。そしてその高い戦闘力。
条件が一致しすぎて、あり得ないと霊視さえして解ってしまった答えに絶叫する。
何をいってるんだと集まった皆の視線も次の瞬間には同じ条件の一致に
気付いて蒼白となってしまった。

「大、正、解っ! あなたにもご褒美をあげましょう!」

いたずらに笑って上下の学生服に手をかけると剥ぎ取るように脱ぎ捨てた。
あらわになるのは傾国の肢体。極上、垂涎の女体───ではなかった。
彼等にとってシンイチと共に見慣れた異世界の最強生物がそこに。

「この姿でお話をするのは初めてですね。どうぞ、よしなに」

同じ艶やかな女の声ながら。先程の第一声と似た台詞でありながら。
全く違う獣の姿でウインクする彼女にあんぐりと口を開けて唖然とする面々。
それは落ちてきた学生服に覆い被されて出たトモエの悲鳴に誰も反応しない程。

「ちょ、なんであたしに投げたのよ!」

尤もそれゆえにトモエが一番早く我に返ったともいえるが。

「正解のご褒美といいましたでしょう?
 主様が戻ってきたらあなたから返してくださいな。
 それまではどうぞご自由に。匂いを嗅ぐも良し、一緒のベッドで
 寝るも良し、羽織って温もりを感じるというのもなかなか…」

「しないわよそんな変態ちっくなこと!
 だいたい今あるとしたらあなたの匂いや温もりじゃない!」

「あ、そうでした。すいません。ちょっと私もその欲望に負けてしまって、つい」

「え、そんな真面目なトーンで謝られても困る、ってそれだとなんか
 あたしまでそうしたかったみたいに聞こえるじゃない!!」

思わずツッコミを入れてしまったトモエだが、その事実に気付いて
学生服自体は抱えながらも赤ら顔で吠えた。しかしながらそれに
意外な方向から待ったがかかる。

「ま、待て! 頼むからあっさり対応しないでくれサーフィナ!
 アマリリスが喋ってる、だと!? いや、それはいい、のか?
 そうだ、人語を理解する程の知恵があるというのだから喋れても問題ない!
 はず、だが、これは、ええぇっ!?」

「それだけで充分にガレストの学会を騒がす話でしょうが、今は先生に同感です。
 アマリリスが、人間の姿になれるだなんて、だとするならもしかしたら
 ガレストの住民の中にはアマリリスが混じって!?」

トモエらと違い、人間に化けそうな存在(似たようなもの)に耐性がないせいか。
学園の教師と生徒のトップ二名はおおいに、激しく、混乱していた。
それもそうだろう。幼少期より、干渉してはいけないと教わった最強生物。
それが実は意思疎通が想定以上に容易な存在で、人間の姿にもなれるとなれば
これまでの常識があっさりと崩れ落ちるうえに様々な懸念や問題も発生するのだから
心中穏やかでいられるわけがない。

「………………道理で、なんかむかつくと思った…」

尤も一番噛み付いていた当人は逆にすごく納得していたが。

「あー、はいはい。落ち着いてくださいね。
 とりあえず全部の個体がヒトの姿になれるわけではありませんよ。
 喋れるのもおおよそヒトの生息地域に近い個体ぐらいでしょう。
 まあ数週間もあれば会話に問題ない程度には勝手に覚えるでしょうが」

原因がなにを、という感情すら飛び越えるほど他人事な態度で。
手─前足─を叩き注意を引いての簡潔な説明に頭を抱えるガレスト組。
最後に爆弾を放り込む辺りさすがはあの主の従者だと溜め息さえ漏れた。

「で、これなら文句はないでしょうちんちくりん。
 私がどれだけ主様のそばにいたのかはあなたはよく知っているでしょうに?」

「っ、想像通りの嫌な奴。
 はいはい、すいませんねぇ、見当違いなこといいまして!」

クスクスとしてやったと笑う狐顔の生物とそれに憎々しげな表情を向ける狐娘。
体の大きさは逆転しているがどちらが上に立っているかは明白だった。

「ルオーナまで普通に話をして。
 最後の最後でこんな特大なものを放り込まれて私は頭がパンクしそうだよ」

「あはは、シンイチさんの近くにいると良くも悪くも常識が崩れますね」

シンイチの偽者から続いたこの一連の流れで知った、語られた、話はすんなりと
呑み込むにはそれぞれ重さも種類も違うものであった。驚異的な戦闘力を
見せつけた謎の美女とシンイチとの関係から、その正体。彼の単独行動の
理由とその結果。そしてまだ秘密がありそうなアマリリスの生態や能力。
苦笑気味なアリステルはもちろん特にフリーレは疲れた顔で額を押さえていた。

「おやおや、それでは健闘したご褒美にと考えていた情報はいりませんか?」

その様子を原因がさもおかしそうに笑いながら主に似た笑みを浮かべた。
答えなど解っていますけれどね、という言外に出ている態度に狐娘が
青筋を立てるがアリステルたちが影で宥めていた。

「それは………内容次第で、どうでしょう?」

それを横目にフリーレは消極的肯定ともいうべき返答をした。
いっぱいいっぱいではあるが、新しい情報をもらえるなら欲しいのも事実。
出来ればこれ以上頭を悩ますようなものではないことを望みながら全員の
視線と意識が集まったのを狙ってか。彼女はそこに別の爆弾を落とした。

「主様の力の不可思議さ、その一端を明かすとなれば?」

場が静まり返る。そうならざるを得なかった。
いってしまえば正体の暴露に驚き、緩んだ空気が一気に引き締まる。
この場にいるのは全員が彼の戦闘能力の高さを知る者達だが、それが自分達が
知るあるいは教わってきたステータスの理屈に合わないものであるのも事実。
そこにどんな秘密があるのか気にならないといえば嘘であった。

「………いいの、それ聞いちゃって?」

「あくまで一端、一部の仕組みを教えるだけ。
 別段口止めもされてはいない程度の話ですよ」

たいした情報ではないと真偽のわからぬ態度をとるアマリリスに
彼らは困惑しつつも好奇心には勝てぬゆえに彼女の話に耳を傾ける。

「主様の力は、いわば完全手動出力調整による任意発動型の力なのです」

「……そんなドヤ顔でいわれてもちっともわからない」

アマリリスは何故か胸を張ったような仕草で自慢げに語ったのだが、
胡乱げなミューヒの言葉通りその意味を誰もすんなりと理解してはいなかった。
とはいえそれも予想通りだったのか彼女はすんなり頷くと続ける。

「でしょうね。ではあなたたちが使っているステータスの場合で例えるなら、
 あれはいわば半自動出力調整による常時発動型の力でしょう。実際あなた方は
 そのステータス的には高い能力を日常的に使っているわけでもなければ、
 加減を間違えた所もないご様子、ですがいざ使おうと思えば簡単に
 扱っているでしょう?」

「でしょうって、まあステータスだから常時発動ってのは解るけど、
 半自動出力調整ってなによそれ。あんたのいう通り日常とそれ以外とで
 ちゃんと加減できてるんだから自分で調整しているってことでしょうが!」

それのどこが半自動だと噛み付くミューヒであったが別の所から否の声が。

〈いえ、この場合間違っているのはミューヒ・ルオーナ嬢と思われます〉

「白雪?」

「……どういうことAIくん?」

予想外の横槍に不機嫌そうな顔を浮かべた彼女に白雪は淡々と説明を始めた。

〈例えば筋力Aの者がいたとします。その人物の一挙手一投足全てが常に
 Aランク相当の力を振るっているわけではないのは皆さまには周知の事実です。
 各々のランクはあくまで最大値。全力を出した際に出る値であり、使おうと
 意識しなくては出ない値。他の項目もスタミナを意味する体力以外は同じです。
 しかしそれは、半自動的に出力が抑えられている、ともいえます〉

あ、と誰かあるいは全員が納得したような呟きを漏らす。

「もっというなら、最大パワー出すにしてもそう思うだけでいい。
 その一歩前、二歩前も、似たような感覚なのではありませんか?」

「…確かに」

それもまた半自動的な調整がされているといえるでしょう。
言葉にせずともどこかしてやったりな顔をした獣はそういっていた。

「白雪さん、ついでにお聞きしますが使おうと意識してない状態では
 実質はどの程度の性能になっているのですか?」

〈個人差はありますが無意識の動作や気を緩めた状態では当人の
 ランクから1~2ランクほど下がった程度の能力というのが定説です。
 日常的な動作ではさらにその中で場面ごとに必要な力や速さや耐久力を
 発揮しているのであなたのいう半自動というのは実に適切な表現です〉

「無意識下にある“これぐらい”に合わせてくれているともいえますからね」

コップを持つ。荷物を取る。軽く走る。投げられたボールを受け止める。
それぞれに必要な、彼ら自身がイメージした出力に合わせて性能を発揮する。
自らのステータス内の話であってもそれは十分に半自動といえた。

「そうか、どんな才能があっても幼少期のステータスはみんな低い。
 だから先に覚えているんだ。日常的な生活に必要なちょうどいい出力調整(力加減)を」

「ランクがあがってもその頃の感覚があれば滅多に加減を間違えない。
 ああ、いわれてみれば当然の話でしたが半自動という発想はありませんでした」

「まあ人体にある普通の機能がステータスにも適応されている、ともいえますが」

「おい」

目からうろこだといわんばかりに新たに得た見識に驚いている面々に、
狙ったかのように投下される身も蓋もない意見に彼女らは一転して頭を抱える。

「この自分で言って、自分で軽く否定する喋り口どっかの誰かにそっくり」

「うふふ、お褒めに預かり光栄です」

ああ、間違いなくこいつあいつの従者だ。全員が呆れつつも納得していた。
だから。

〈つまり、あなたの主人の能力はそれら全てを自らの意志で微調整
 しなくてはならない上に、任意でしか発動しない力ということですか〉

冷静な人工知能が出した疑問のていをとった結論に場の空気が再び固まった。
自分達がさして気にせず、彼女のいう半自動的に行っていることを意識的に
しなければならない上に最低限常に発揮している能力でさえ彼の場合は任意。
それは力を使う最初の一歩目が他者より遅く、その調整には手間がかかるという事。
そして力を使っていない時は無防備に等しいということでもあった。
自然と彼女がどう答えるのか問うかのように視線が集まる。

「ええ、その通りです」

そしてアマリリスはそれを待っていたかのようにあっさり頷く。
それどころかまるで笑い話でも語るかのようにあるエピソードを口にする。

「ですからたまに気を緩めた時なんか部屋で何か尖った物を踏んで
 簡単に出血してしまって痛がって転げまわる、なんてこともありましたよ。
 ドジですよねぇ、まあそこも愛おしいのですが」

などとくすくすと笑う彼女以外の全員が、その脆さに愕然となる。
やせ我慢か本気かはともかくどんな攻撃を前にしても彼は平然としていた。
目に見える傷をどれほど負っていたかは、シンイチの性質が身に染みていた
彼女らでも思い当たらないほど覚えが無かった。なのに、そんなごく普通の
どこにでもいる誰かのようなケガをしていたのか。そのアンバランスさに
言い知れぬ怖気を彼女らは覚える。

「つまり……ナカムラは、気を緩めている時は本当にオールDレベル?」

「いえいえ、1つか2つ下がると白雪さん仰ったじゃないですか」

何が楽しいのか笑う獣に、だから皆ついにその怖気に背筋を凍らす。
あの超常的な力が任意でしか働かないのなら素の彼を守るのはステータスだが
それさえも仮に最低にまで落ちるのなら、彼の普段の能力はオールF相当。
それはガレストにおけるステータスの理論上最低値のさらに下。
赤ん坊にさえ匹敵する無力さと脆さであった。

〈通常、その状態における不意打ち等を避けるために
 兵装端末は常時所持が望ましいとされていますが現在彼は………〉

「………あ」

誰かの手にある携帯端末に視線が集まる。
シンイチに与えられたフォスタはいま彼の手元にはない。
それどころか彼の従者は告げていた。主はいま激しく落ち込んでいる、と。
果たしてそれは、不意打ちや事故を警戒できる精神状態であるのか。

「っ!」

「ルオーナ待て!」

止める間もなく、誰も声も聞かず、彼女は多目的室を飛び出していった。
その何の加減もない文字通りな風のような疾走を見ればそれがホテルからも
飛び出す勢いで、誰のもとへ向かうものかなど考えるまでもなかった。
その手には大事そうにシンイチのフォスタが握られていたのだから。

「あらら、一目散に飛び出していきましたか……あなたたちはどうします?」

驚いた風ながら微塵も動揺していないアマリリスはどこか挑発的に周囲に問う。
主に女性陣な辺りは明け透けであるが。

「……いまここを放り出していくとシンイチさんに叱られそうですので」

不安げな顔色ながらも毅然とした態度で行かないと選択したアリステル。
彼女にはここに残り、生徒たちの代表として振る舞わなくてはいけない。
その責任を放棄する者を彼は好まないだろう。

「はぁ、あいつに危険があるとしても私が離れるわけにはいかないでしょう。
 こいつら全員を私は守らなくてはいけないし、いない二人のアリバイも
 作っておけるのは私ぐらいなんだから」

頭痛に耐えるように額を押さえながら自分がフォローするしかないとしたフリーレ。
続いてあなたはと向けられた視線に、だがトモエはここで強い敵意にも似た
意志を乗せて彼女を睨む。トモエは気付いてしまったのだ。すべてこの
腹黒い生物の思惑であったことを。そのために彼女が何を利用したのかを。

「あなた、わざと不安を煽ってミューヒが動くように仕組んだでしょ?
 きっと信一が知られたくないような話までしてあたしらの同情集めて!」

「落ち着けってトモエ! 口止めされてないって言ってたじゃねえか!」

怒りを湛えた瞳のまま詰め寄っていく幼馴染に危機感を覚えた彼は
羽交い絞めにして止めに入る。彼女の血の気の多さを知る身としては
アマリリス相手でも殴りかかってしまいそうな無謀は止めざるを得なかったのだ。

「放して! そんなの!
 口止め忘れるぐらいあいつが落ち込んでたってことじゃない!」

「サーフィナさん、あなた…」

そこを都合よく利用したのだと猛るトモエに女性陣は暖かな視線を送る。
羽交い絞めにしている幼馴染はこれでどうして自覚ないんだかと呆れているが。

「ふふふ、でも、嘘はいっていませんよ」

何様のつもりだと小さくも最強の生物に彼女は怒りで立ち向かうように睨み付ける。
が、相手はさる者。誤魔化すように、されど否定も肯定もしないままはぐらかした。

「っ、だいたいおかしいじゃない!
 その危険性なんてあいつだってあなただってとっくにわかってる話でしょ!
 対策の一つや二つだってあるだろうし、本当に危ないならあなたが放置
 してここに戻ってくるなんて、そんなことっ─」

「─私は、主様のお願いを断れません」

あるわけない、と言い切る前に遮って呟かれたのは真剣な声色での憂い。
不思議と後ろめたさは無くとも悲哀は感じる言葉は、強くも、どこか弱々しい。

「どんなことでも、どんな状況でも、あの方の願いが優先します。
 それが私の生き方であり、同時に限界でもあります。が……」

──あなたたちはそうではないでしょう?

言葉にせずとも、目で問いかけるそれにトモエは悔しそうに引き下がる。
人の気持ちを利用して、試すように動かしたことに憤慨はあるものの
主人のいつかのためにそんな者達が必要だと心を砕いた従者をなじることもできなくなった。

「……お騒がせしました。これより私も別行動を取ります」

「一緒にナカムラが戻るのを待たないのか?」

「いえ、元より主様は私をガレストへは連れていかないと決めていました。
 騒ぎになるからというのもありますが、地球側を見張る者が必要ですので」

さすがに主様といえど世界を越えてはそう易々と移動できないので、と
告げれば今それに気付いたように彼女らも納得した。あまりに仮面が
神出鬼没なため地球ガレスト間も同じくらい簡単に移動しそうだったが
冷静に考えればそれはいくらなんでも異常が過ぎる。何より単独で
容易に世界間移動ができるのなら彼はもっと早くに帰還していただろうと考えた。

「とりあえず護衛もかねて主様のご家族のところに身を寄せます。
 なのでガレスト旅行はどうぞ気兼ねなく楽しんでください。こちらで何か、
 そう例え第三次世界大戦が起きても即座に叩き潰して終わらせますので」

ご心配なくと獣顔ながら朗らかに笑ったアマリリスだが、皆は微妙な顔だ。
冗談か本気か解らない例えなのだが、本当に出来そうだからあまりに怖い。
だから苦笑いを浮かべたお嬢様は、しかしそれに気付いた。

「ははは……ああ、だからアマリリス。
 あなたはここでシンイチさんの弱点を教えてくれたのですね。
 自分がそばにいない間にそこをわたくしたちに補助してほしいと」

「ふふ、これだけ頭数あってその程度もできなければ隣り立つ資格はありませんよ?」

肯定するように微笑みながらも口から出たのはそれが最低ラインという言葉。
一瞬驚いたアリステルだが、確かにと頷いて真摯にそれを受け止めた。

「手厳しいですね、精進いたしますわ」

返答に満足げに頷いた彼女は視線を今度はフリーレに向けて、溜め息。
どこか微笑ましいものでも見るような顔がお気に召さなかったらしい。

「あなたはもう少しきちんと女になってほしいのですけどね」

「ん、ダメな女という自覚はあるから見逃してくれ」

「ふぅ……いつまで兄代わりのつもりですか?
 あの方とあなたは赤の他人の男と女ですよ。
 家族になりたいなら別の手段があるではないですか」

「……なに?」

どういうことだと首を傾げる彼女にもう処置なしと諦めたのか。
ここから先は自分次第と放置したのか周囲の女生徒二名が一番の
危機感を覚えるなかアマリリスは最後の標的を見据える。

「それでトモエさん」

「な、なによ!?」

先ほどまでのことと会話の流れから。
警戒して強気な言葉で迎え撃つぞといわんばかりに吠えた少女だったが
アマリリスは親愛を見せる笑みを見せて一言。

「次に会う時は共に主様に仕える者として女子トークしましょう、では!」

「え、え、ちょっ、なんであたしだけ仕えるの決定なの!?」

妙な肩すかしといつの間にかの決定に戸惑っている内に一匹(ひとり)
窓辺に寄ると器用にガラス戸を開けた。ここはかなり上の階層だが彼女なら
落ちたところで心配する必要もないため誰もそこには触れなかった。

「ああ、そうそう最後に忠告を」

その今にも飛び出しそうな状態のまま振り返った彼女は、なぜか
楽しげな声でそれぞれの表情を浮かべる彼女らへとどこか意味深に告げる。

「落ち込んで、一人でいる時の主様って自分が危ないことが解ってるからか。
 気分を変えようとしているのか無意識に厄介な事件の匂いを探すんです。
 するとあら不思議、厄介なモノを抱える女性(ヒト)と出会います」

「は?」
「なに?」
「え、つまり?」

何が言いたいのか。
そう問わんとする声にアマリリスは口の端を吊り上げて笑う。

「たぶん今頃どこかで面倒な女相手にフラグ立ててると思いますよ」

そんなこれまでとはまた違った爆弾(予言)を放り込んで、彼女は飛び降りた。
どういうことだと思わず追いかけた彼女らだったが窓の向こうの豪雨の中には
僅かな光の残滓しか残っていない。困惑顔を浮かべたままの三人は顔を見合わせるが
結局は各々で考えるしかなく、妙な沈黙がおりる中。

「ええ? また増えるのぉ?」
〈また増員ですか。厄介〉

何故かリョウと白雪のそんな嘆きだけが虚しく響いたのだった。
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