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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」

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04-87 試験とまいりましょう

ぎりぎり、6月中に間に合った


 その日の真昼を過ぎた辺りから、どっちつかずだった空模様は一気に傾く。
灰色の雲から雨が落ちた。これ以上は抱えきれぬとばかりに全てを放出
する瀑布の勢いで空間を雨で埋め尽くした。無数の水滴がアスファルトを
激しく叩き、それをBGMにしながら彼らは各々の時間をホテルで過ごしていた。

「50%だったわりにはとんでもない土砂降りだね、姉ちゃん」

「昔から思ってたけど、二分の一って一番いいかげんな予報確率だと思うわ」

その二階にある吹き抜けになってるラウンジから、
一階のロビー越しに外を覗くように眺めながら男女の双子(陽子と陽介)がぼやく。
午前中、北海道の歴史的建造物や博物館などを学年ごとに分けて各々に
観光していたガレスト学園一行は今晩の宿であるホテルでの昼食を終えて
その休憩に入ったところであった。

「おかげで午後の予定全部ダメになっちゃうし……色々見たかったのに」

「ネット見てると函館、釧路、札幌でなんか突然の大規模道路工事が
 入って一部で交通網がマヒってるって情報もあるからそれもあるかもね?」

「代表的な場所ばかりじゃない!
 ……だから先生や先輩たちが話し合ってるのかしら?」

双子がそっと視線をロビーを見下ろせば教師達と生徒の代表となる
アリステルを含めた面々が顔を寄せ合って何やら話し合っていた。
おそらくはこの後の予定の変更についてだろう。天気予報は誰もが事前に
把握していたが、これほどの強い雨脚は想定しておらず、外に出て
北海道の自然や街並みを楽しむ予定がご破算となってしまったのだ。
そこに主要な観光都市での交通の混乱だ。このホテルはそれぞれの
都市からは離れているが、ここからどこかに移動しようとすれば
その影響を全く受けないということはないだろう。とはいえ、
双子からでは話の中身は分からないが彼等の表情を見れば
さほど難航しているわけでもないようだった。

「晴れた空の下でラベンダー畑、見たかったな」

「時期がちょっと早いよ、姉ちゃん」

ラベンダーの開花時期は早咲きでも6月下旬だという。
現在が6月14日であることを考えると微妙な日付といえた。

「ううっ、なんか最近そんなのばっか……」

がっくりと肩を落とした姉に弟は確かにと苦笑しながら頷く。
何せ彼ら、特に陽子はもともと今日、明日北海道にいる予定だったのだ。

「運がいいのか悪いのか。折角外出許可と念願のチケットゲットしたのに
 あんな事件起きて、そのうえ修学旅行で予定が潰れて、なのに行先が
 行く予定だった日付通りに北海道だからね」

「一々並べないでよ!
 自分でもちょっと微妙過ぎて泣きそうなんだから…」

まるで地味な嫌がらせでも受けているかのようだと複雑な顔の陽子。
だが弟はそんな姉の顔を見てクスリと笑うと追い打ちをかけた。

「あ、ニャズダーでモニカ来てたのに歌が聞けなかった、のも入るか」

「いいのよっ、近くで見れたんだから!」

ムキになって否定するもそれがやせ我慢か虚勢であることは弟で
なくても態度でわかろうというもの。陽介はクスクスと笑う。
そこへ。

「ヨーくんもしっかり弟だにゃー」
「ひゃっ! なに!?」

さすがは誰かさんの弟だと突然現れた狐耳娘。
背後から耳元で囁くような登場に陽子は驚きで飛び上がってしまう。

「ルオーナさんか」

「ミューヒ! 後ろから急に出てこないでよ!」

驚いたじゃない、と若干涙目で責めてくるルームメイトに彼女はニヤリ。
してやったりとした顔を浮かべて反省の色など皆無で陽子が頭を抱えた。

「最近おとなしいと思ってたから油断してたわ…」

「どうしたの、何か用?」

姉が悔しがる様子を視界に入れながらも怪訝そうに彼女を見る陽介。
その視線には警戒に似た、何かを不安視するような色があった。
彼女が誰の世話係なのか知るために姉の前でその話題が出るのを
避けようとしているのだとミューヒは即座に察した。

「ひどいよヨーくん。用事が無きゃ友達の所に来てはいけないと!?」

だから大げさなまでのリアクションを見せながら彼女はよよよと崩れ落ちた。
一瞬冷たい視線が注がれるが、彼はすぐにそれを元に戻して姉を見る。

「……だってさ姉ちゃん。遊ばれてあげな」

「もう仕方な……ってなんで私が遊ばれる方なのよ!?」

「あ、バレた?」

思わず流しかけた彼女も目敏く気付いて弟に向けて目尻を吊り上げたが
陽介は動じた様子もなく飄々とした顔で笑っている。この姉弟は基本的に
姉が上に立っているのだが、時折こうして弟は姉で遊ぶのである。
彼女の見せる反応がじつに面白いといわんばかりの顔で。

「………本当に、弟だよねぇ」

そのからかい方も、興味のない相手への態度も。
双子のやり取りからそう感じた彼女の呟きはか細く流れた。
だからそれは別段、聞こえていたわけではなかったのだろう。

「すっごいどこかで見た覚えのある光景だな」

「…血って怖いわね」

それはなぜか引き攣ったような顔で姉弟のやり取りを目撃している男女の呟き。

「あ、トモエにシングウジ! 聞いてよ陽介が!」

「はいはい、見てたわよ。今日はいつにも増して陽子で遊ぶわね弟くん?」

「いや、なんていうか………暇で?」

「ちょっと!!」

そんな理由でと吠える姉とは裏腹に当の本人が語ったそれはどうにも
彼自身も疑うかのような声色で、とってつけた理由だったようだ。
他に何か気になることがあって、その不安を誤魔化しているかのよう。
というのがトモエが直感的に覚えた感想だった。

「それよりシングウジたちは……なんでジャージ?」

追及をさけるためか。陽介は二人の格好に水を向ける。
学園指定のジャージ姿で首にタオルすらかけている両名は明らかに
一運動してきた後のように若干荒い息と顔にすら残る汗の名残を見せていた。

「あぁ、食後の運動ってやつだよ。鍛錬さぼると怖いから。色々と」
「必要なことだからね……精神的に死なないために」

だが聞かれた途端に揃って光を失った瞳で遠くを眺める幼馴染同士。
双子はこれは聞いてはいけない奴だと察して黙るしかなかった。そのため
少しの間─理由はわからずとも─痛々しい空気が流れたがそれを破ったのも彼ら。

「けど、さすがに学園と契約してるホテルだな。ステータス持ち向きのジムや
 多目的ホールって名前の屋内運動場もどきが二つもあったぞ」

「さすがに建物内だから高さはなかったけど、十数人ぐらいなら
 別々に組手してても問題ない広さはあったから助かったわ」

「だからって同好会の連中と一緒にでタコ殴りしてくんじゃねよ」

ひどいイジメだった、とリョウが訴えれば。

「あれぐらいしないとお互いに鍛錬にならないじゃない」

「それは…」

能力の差を考えなさいとトモエが返す。
実際、彼は確かに複数人から袋叩きを受けたような気分であったが、
鍛錬の内容としては決して追いつめられたわけではなく、常に優勢で
多勢の動きを把握する練習になったとさえ思っている。逆にトモエは
ナニカを従えての戦闘練習にもなっていて互いに旨味があったのだ。
それが解るために言葉に詰まったリョウは鍛錬とは逆に敗北感から肩を落とす。
その様子にふふんと内容とは逆に勝ち誇った彼女だったが、不意に振り返る。
本人も何故そんな行動をとったのか意識しないまま、窓ガラス越しに
打ち付けてくる豪雨に吸い寄せられたかのように外を眺める。

「……どうした? 雨になんか混じってたか?」

その背にそれまでの会話を忘れたような緊張感のある声が飛ぶ。
言外に、よくないモノが、という言葉を伏せた声だが彼女は首を振る。

「雨は関係ない……よくわからないんだけど、誰かが困ってる?
 悩んでる? うーん、呼んではないけど、何かしらこの気配……」

退魔師としての勘、にも似た何か。胸の奥にじわりと広がる謎の感情。
まるで目の前で迷子の子供でも見つけたかのような庇護欲がわく。

「なんだそれ?」

「だからよくわからないんだって。
 鍛錬してた時には気付きもしな……ん?」

意味がわからないと首を傾げるリョウに自分もだと返したトモエだが、
今度もまたある一点を向いて固まってしまう。だがそれは先程までの
何かを感じ取ったからというのと違って、単純に目に入ったものへの
訝しむような感情であった。

「今度はなん、だ、って……まあべつにいいか。
 センバたち、暇してんならお前らも鍛錬にでも行ってくれば?
 ちょうど俺達が終わった辺りにはもう人もまばらだったし」

トモエの奇妙な態度に霊能力の存在を知る双子たちも何かあったかと
見ていたのだが突如としてリョウはなんでもない事のように流してそれを勧めてきた。
その際、男同士の視線の間で何か合図があったように見えたのは気のせいか。

「行こうよ姉ちゃん。
 どうせこの天気じゃ今日は外じゃろくに体を動かせそうにない。
 出来る時間があるなら有効活用しておこうよ」

「それもいいかもね。
 フドゥネっちたちの方も難儀はしてなさそうだけど、
 手配まで終わるのはまだもうちょっとかかりそうだし」

「……そうね、じっと待ってるのも性に合わないし、行こうか。
 先に部屋に行ってジャージに着替えてくるから、場所どりしておいてよ」

「はいはい、かしこまりましたよお姉さま」

声色はともかく、大仰に傅くような仕草を見せた弟に満足したのか。
よろしいとばかりに頷いて陽子はエレベーターで自室のある階に昇っていった。
見送った形になった残った面々に陽介は一言「助かった」とだけ残して
言いつけを守るためにそのままの足で多目的ルームに向かった。

「おおうっ、まさかグウちゃんに気を使う才能があったなんて!」

「うるせえ、強引にもほどがあったじゃねえか。
 一応陽介にも頼まれてたからな“今は”極力会わせられないって」

そっか、と頷いたミューヒの顔には困ったような笑みが浮かぶ。
が、即座に楽しげなそれに変えると下から覗きこむようにトモエに迫った。
尤も、その目はまるで笑っていなかったが。

「で、トモトモどうしたの? 敵でも見るような(・・・・・・・・)目しちゃって」

「なに?」

指摘に誰よりリョウが驚いて、幼馴染の視線の先。
見下ろすロビーを横切る一つの黒を同じように見据えた。
そこには彼らにとって見慣れた学生服姿の少年がいるだけだった。




天候の急激な悪化と交通網の軽微な混乱による予定変更はつつがなく進んでいた。
元々そういったことも考えられている予定を誰かさんが組んでいたおかげで
あることはフリーレと白雪しか知らぬ話ではあるが実際の手配や連絡、
細かいところの調整には引率教師や生徒側の代表たる特別科成績上位者(アリステルとその従者)
数名の力も借りなくてはいけなかった。

「─────これでなんとかなりましたね、先生方」

それも互いの協力によって予定自体は形にするのに成功した。
これは、あとは打診した相手先からの細かい報告を聞くだけの算段となっての声。
教師陣の一部はその笑みの華やかさに心惹かれ、一部は力強さに押された。

「え、ええ、パデュエールさんたちがいてくれて助かりました」

「まさか。雨天時、いえこの場合は豪雨時でしょうね。
 その場合も考えておられたドゥネージュ先生の事前プランのおかげですわ、ねえ先生?」

「う、うむ……そうだな。いや、たいしたことではない、ハ、ハハッ」

うふふ、と穏やかな微笑と共に向けられた言葉にフリーレは直感的に、
“あ、これバレてる”と察してなんともいえない乾いた笑みをもらす。
幸か不幸かそれに勘付いたのはフリーレの向かいの席を確保した佐藤教諭だけ。
当初タイトミニに不慣れな彼女の前に男性教師や男子生徒が座らないように
占拠したつもりだったのだが、存外にも真正面からしっかり見ると内心の
動きが手に取るようにわかって可愛らしいと役得を覚える佐藤教諭だ。
無論この流れで彼女も本当は誰のプランか、には気付いているが。

「ん、あいつ……ん?」

「あらぁ……あら?」

だからだろう。
ふたりの視線がほぼ同時に同じ方を見て、似た反応をしたのに気付いたのも
佐藤教諭が最初だった。一瞬の喜色に満ちた目が一転して胡乱となった。
その先に果たして何があるのかと彼女が興味をそそられた時には
これまたほぼ同時に彼女達は立ち上がった。

「申し訳ない、少し席を外します」

「わたくしもちょっと失礼します。
 オルト、リゼット。あなたたちは残って後で詳細な報告を」

その旨だけを伝えると二人は返事も待たずにロビーから速足で去ってしまう。
取り残された者達は一瞬呆然とするが、既に話し合いと調整は済んでいる以上
彼女達を無理に引き留める必要がないのもあって、雑談や明日以降についての
話に自然と移行していったのだが、誰よりも先にふたりの異変に勘付いていた
佐藤教諭だけが、訝しげな顔を浮かべてひとり首を傾げる。

「意中の相手を追いかけに……って顔じゃなかったわね」

もう見慣れた学生服姿の少年を追いかけた目は荒事の素人である彼女から
見ても、警戒の色に満ちているように思えてならなかった。





──────────────────────────────





「おい、お前ら、これはなんだ?」

学生服姿の少年が自らをぐるりと取り囲む面々に向けて不機嫌そうに問いかける。
それは突然のことであったのだ。エレベーターに乗ろうとした少年を
追いかけるように集まってきた彼、彼女らは一緒に乗り込むと勝手に
降りる階を決定し、到着するや数の力で押し出し、そしてここに連れ込んだ。
正確にいえば女教師によって握手のような形で手を繋がれ引っ張られた、だが。

───第一多目的ルーム

ガレスト学園との契約の条件か。それとも昨今のステータス世情を鑑みてか。
ある一定以上の規模の宿泊施設には学園設備のそれとは程遠い代物ではあるが
“体を鍛える”“体を動かす”のに適した施設や部屋があることが多い。
今回彼らが宿泊するこのホテルにも、それなりの規模と道具の揃ったジムや
屋内プール、そして様々な用途に幅広く対応できるという名目をつけられた
小規模な屋内運動場が、二部屋。一般的なそれに比べればホテルの一空間ゆえか。
天井までの高さはそれほどではないが広さはバスケットコートが完全に入るほど。
第一(ここ)は主に特別科生徒向けに学園が貸し切っていた。

「なんだっていわれてもねえ……詰問?」

そこに連れ込まれた少年の問いに小首を傾げながら、なぜか疑問系で
答えたのは耳と尻尾をピンと立たせて目以外で笑うミューヒだ。
フリーレ、ミューヒ、アリステル、トモエ、リョウ、と件の少年の6名は
部屋の中央に集まる形でおり、学生服の彼を他の5人で囲むようにしていた。
そしてここには彼ら以外の者はいなかった。

「そんなの部屋でいいじゃないか。
 わざわざ教師と学園一位の権力(ことば)使って他の生徒追い出す必要あんのかよ」

「それはもう、当然に必要な行為だと思いますわ」

「鍛錬の邪魔をされた彼らには、少し申し訳ないがな」

とは、順にアリステル、フリーレの言である。
これはどんな抵抗や駄々をこねようが結果が変わらないと見てか。
溜め息まじりながらに少年は耳を傾けることを決めたようだ。

「はぁ、それでなにを聞きたいってんだ?
 先に言っておくが、言えないことは答えないからな」

「ははっ、大丈夫だよ。きっと言えることで、
 それでもってたぶん……みんな同じことだから、ねえ?」

彼、彼女らは意味ありげなミューヒの投げかけに頷きという形で答え、そして。


「─────お前(あなた)誰だ(誰ですか)?」


ほぼ異口同音に問いかけた。

日本刀が、

狙撃銃が、

突撃槍が、

片手剣が、

光刃が、

非武装の少年を取り囲むのと同時に。
首に、背に、顔に、胸に、腹に、突き付けられた彼と彼女らの牙。
各々の腕には手甲化したフォスタさえあるのはその戦意と警戒の現れか。
下手に動けば、容赦なくどれかがあるいは全てが襲うという明確な脅し。
それでも彼の表情には動揺の一つもない。まさに彼らしい態度ではあったが、
この場にいた誰もがそれを“彼”だとは微塵も思っていなかった。

「誰ってそりゃ…」

「結論から先にいうけどあなたは信一じゃない。
 本人なら、ソレであたしの“眼”を誤魔化せるとは思わないわ」

「お前の手はきれい過ぎる。ナカムラ(あいつ)の手はもっと……戦っている」

「客観的な証拠が欲しいっていうなら、歩容認証って知ってるかにゃ?
 なかなかうまく化けたし学生服は本人の物みたいだけど、歩き方違うよ」

「声も耳で聞く分には似てらっしゃいますが、声紋分析での結果は違いました」

「観念しろ、これだけ別方向から違うって証拠が出てるんだ。
 あいつのフリはもうやめとけ、こいつらにボコられたくなけりゃな」

五対の瞳が、確信と共に正体を現せと無言の圧力をかけてくる。
余裕でもって平静な素振りを見せていた偽者の顔から、色が消えた。
一瞬の沈黙による思案。それを感じ取った彼と彼女らは息を呑む。
抵抗される可能性を考えて各々が武器を持つ手に力が入る。

「少々、あなたたちを侮っていましたか。
 しかし前半二名はともかく、また科学捜査という奴ですか。
 さっきといい今といい、まさか故郷の技術が天敵だなんて、おいたわしい…」

それへの観念。否、誰もそんな希望的観測はしていない中。
明確に目の前の少年の口調が変わった。なまじ見た目や声がシンイチのそれで
あるがゆえにどこか畏まった口調と憂いの瞳は当人でないと確信していても違和感が強い。
されど今はそれを気味悪がっている場合ではなく、まず二つ問うべきことがある。

「余計なお喋りはいい。貴様は誰だ? ナカムラはどうした?」

代表するようにした女教師の詰問は真実この場の全員が抱く疑問の総意。
相手は落ち着いた表情を崩さないものの頷きという動作で了承を示した。
だが。

「侮りの詫び代わりではありませんがお答えいたしましょう。
 ですが、その前にひとつだけ教えていただけませんか?
 それらの確証を得る前に、違う、と感じた要因がなんだったのかを」

まるで自らを取り囲む武器など目に見えぬとばかりに平然とした顔のまま
それが最低限の条件だといわんばかりに問い返してくる偽者である何某か。
歯牙にもかけないという態度への既視感に、ある者はほんの一瞬気圧され、
またある者は本当は彼なのかと疑問視し、ある者は答えを用意できずに戸惑う。
全ては本当に一瞬で、だから迷いがなかった彼女だけが答える形となった。



「もちろんっ、恋する女の直感ですわ!」



沈黙が流れた。
全員が度肝を抜かれた。
主に「いきなり何いっちゃってるのこの人!?」的な。
そんなあまりに自信満々に、当然の事実であろうと訴えたのは青髪縦ロールのお嬢様(アリステル)

「おい、パデュエール。今は冗談を言ってる場合では…」

「あはは……残念ながらフドゥネっち、アリちゃんこれ本気でいってるから」

「せ、先輩ちょっと! それだとあたしたち全員があいつに、その、
 こ、ここ、恋してるみたいに聞こえるんですけど!?」

「ええ、日本では恋敵と書いて友と呼ぶ素晴らしい風習があると聞きました!
 なんて素晴らしい考え! あなたが何者かは知りませんがこの場に集ったわたくしの
 親友(ライバル)たちの目を誤魔化せると思わぬことです、この偽者!」

唖然、苦笑、動揺、といった様子の彼女曰くのライバルたちを置いてけぼりにした
アリステルは物語の名探偵よろしくお前が犯人だとばかりに銃口を突き付ける。
他の者達も警戒と意識の殆どは偽者に向けられているのだがその表情からは
緊張感が崩れ落ち、その原因だけが真剣そのものというおかしな状態に。

「パデュエールのイメージが音を立てて崩れてくけど……結果オーライ?」

女の括りに入ってないのをいいことに完全に他人事のリョウだが
直球の言葉に赤面している幼馴染の様子にこれで少しは自らの恋心を
自覚してくれると楽になるんだが、と埒も無く考えていた。

「ほう、そう来ましたか。じつに素晴らしい」

「あんたも今のをなんで受け入れてるのよ!?」

「では、あなたたちは違うというのですね。
 その場合はあなた方の理由をお教えてもらっても?」

「当然よ! 確かあの時は…えっと、えっ、と……あ、あれ?」

どうして、シンイチ本人でないと思ったのか。
トモエは勢い勇んで自分の理由を告げようとして、言葉に詰まる。
なぜなのかよくわからなかったのだ。それはミューヒもフリーレも同じだったのか。
偽者を警戒しながらも三人はその表情には今更の疑問が浮かび上がっていた。
強いてあげれば、なんとなく、勘、としかいいようがないのが困る。

「あ、オレはトモエらがそういってたから、ってだけだ」

「ふふ、全員(・・)正直でよろしい。
 ですが恋する女の直感(そういった)理由となれば……少し試させていただきます」

偽者の顔がニヤリと笑う。
本物ほどではないにしても唇を吊り上げた笑みは本能的な恐怖を呼び覚ます。
そしてその視界の隅で走る紫電を認めた時には全員が飛び退いていた。
直後偽者の周囲、おおよそ彼らが直前までいた範囲が雷光に支配される。
それは見ただけで、感覚だけで、フォスタが自動発生させている個人障壁(バリア)
などでは防げない威力だと察する。

「いい判断です、飛び退きながら一撃は入れていきましたか」

「全部弾いておいてよくいうぜ!」

あの瞬間、咄嗟に全員が各々の武器を振るってはいたのだが、
衣服にさえ触れる前にバリアのようなナニカの膜に弾かれてしまっていた。

「それに部屋の内側を複数の障壁で事前に覆っておきましたか。
 荒事になる可能性を考えて、被害を抑えようとする手配は好感が持てます」

しれっとした顔で高評価を下した偽者だが、纏う空気は一変していた。
静かな水面からぴりぴりと肌に突き刺さるような戦意の暴風へと。
この場にいる誰もがそれを平和的に治めることは不可能と本能で悟る。

「……わざわざそれを破らない程度の電撃だった気もするけど?」

「ええ、なので事前にいっておきましょう。
 私はこれを破壊するほどの攻撃をいたしません……頑張ってくださいね」

「そいつはどうもっていえば満足かてめえっ!」

明確な侮りに、屈してなるかとばかりに気炎を吐いて飛び込んだのはリョウ。
フォトンによる光剣を片手に横薙ぎに切り裂かんとした振り抜きは、しかし止まる。
刃先を指先で軽く挟むようにして、突貫の勢いを乗せた一閃が停止させられていた。
偽者のシンイチの顔が不敵に笑い、リョウは背筋が凍る。

「げっ!?」

避けられる。受け止められる。のは想像の内であったが片手の指による白刃取りは
想定外で、しかも勢いまでも完全に殺されてしまったリョウは咄嗟に剣から手を
放してフォスタの銃口を起動させた。

「ふっ」
「このっ!」

リョウのそれは反撃か迎撃か。
突如として二人の間に現れた火球を撃ち落とさんとばかりに放たれた光弾だが、
勢いを弱める程度で小爆発を起こして彼だけを吹き飛ばした。しかし即座に
誰かが使ったスキルで張られたネット状のクッションがその体を受け止めていた。
一方で偽者は爆風に乗るかのように体を回転させて斬撃のような鋭い蹴りを
背後に繰り出した。ガキンッとまるで金属同士がぶつかったのような音を
生じさせて刃と脚が激突する。位置の関係で背後からの強襲となっていた
フリーレの剣による振り下ろし。実体型片手剣の白い刀身と学生ズボンの
黒い脚が交差し─なぜか─火花を散らしていた。

「ぐっ、押しきれ、ない!?」
「あなたが生徒より後に動くわけがないと思ってましたよ」

偽者は余裕の笑みでフリーレにあるのは苦悶のそれである。腕から伝わる
相手の硬さと渾身の一撃が回し蹴りと拮抗している状態に愕然とする。
が、本物とのやり取りで慣れていたため復帰は一瞬で済んだ。

「およ?」

対抗していた力を抜きながらしゃがみこんだ彼女の頭上で蹴りが空を切る。
その隙を狙ってそのまま軸足を蹴り払うと偽者の体が一瞬宙に浮かぶ。そこを
狙うかのように飛び込んできたのは円錐状の突撃槍を構える小柄な影(ミューヒ)
だがその影は確実に異世界の鎧を身に纏っていた。手足と背面スラスターだけ
であっても自らの髪と同じ色の装甲は彼女のあらゆる身体能力を強化する。
推進装置の後押しも加わればその威力は計り知れない。それこそ自分達で
用意した建物を保護する重層バリアさえ打ち貫かんとする突撃だった。

「っ!」

それを偽者はどう判断したのか宙に転がされたような体勢ながら、
受け止めようというのか両腕を交差させようとしたところへ。

「『ディレイロック』!」

アリステルの能力制限(デバフ)スキルが両手足に重石のように巻き付いた。
それは確実に動きを遅れさせる。外骨格の強化で常以上の突撃速度を出す槍の
前でその遅れは防御・回避を不可能としたまま叩きこまれた。

「死にさらせぇっ!!」

容赦なく─どころか殺意満点で─その顔面に。
しかし相手もさるもの。直撃の寸前、反撃か防御か。
槍の穂先にぶつかった何かのエネルギーは光の粒子となって周囲に散らばった。
その閃光の散弾は威力を伴っており、ミューヒ以外の者達は各々で防御
せざるをえなかった。また正にインパクトの直前の出来事だったために
結局ミューヒの一撃が当たったかどうかを誰も確認ができなかった。

「ルオーナ!」

そんな光の弾幕による視界の占拠は、しかし光ゆえに一瞬に過ぎ去っていた。
内側にバリアを張っていて煙や建物の破片が舞わなかったのも大きい。
だから即座に確認した光景は誰かのせいで色々慣れてきていた彼女達を
して動きを止めてしまう衝撃を伴っていた。

「なっ!?」

「う、そっ!」

ミューヒは床に落ちた偽者に馬乗りの状態となっていた。
そしてその突きだした腕は最後まで伸びきっていた。
当然その腕で持つ槍は相手を貫かんと迫り────噛み砕かれていた(・・・・・・・・)
愕然と半分以下となった突撃槍とそれを行った相手を交互に見るミューヒ。
彼女があの瞬間に見たのが事実であるならば、直接噛まれたのは穂先のみ。
だがそこから伝わった衝撃に槍全体が耐えられずに半ば以上が砕け散った。

「………今この顔をわりと本気で狙いましたね、小娘」

動揺が抜けない彼女に偽者は初めて不快そうな声色を向けた。
そこに混ざる明確な敵意にミューヒは我に返って握られた拳を見る。
咄嗟に両腕で顔を庇った彼女だがそこを突き抜けるような衝撃が襲う。
まるで爆撃。装甲の重量もその衝撃緩衝機能も無視して体が吹き飛ぶ。

「ぐうぅっ、ぁっ!?」

一度天井に当たって跳ね返った体は勢いが死なないまま床に落ちて転がっていく。

「ミューヒさん!」

アリステルは友を案じるように名を叫びながらも引き金を引いていた。
通じないであろうことは飛び退いた時の一発を無効化されて分かっていたが、
それは彼女への追撃を阻止するために注意を引く狙いがこもった一発だった。
しかし瞬時に起き上がった偽者は腕の動きだけで光弾を同じ軌道で弾き返す。

「それは!?」

その技に驚きながらも咄嗟に迎撃しようとした彼女の前を遮るように人影が。

「はああっ!!」

影の片腕が振るった美しき刃が弧を描いて、光の弾丸を裂く。
霊刀によって真っ二つとなったそれは朽ちていくかのように空気中に散る。

「よしっ、あたしにも出来た! って喜んでる場合じゃない、かな!」

アリステルの思惑自体は成功したのか。こちらを見据える敵に、トモエは
あらかじめもう一方の手に持たせていた複数枚の霊符を弾丸のように投げ付ける。
これには偽者は警戒心をあらわにするように大きく飛び退いて避けた。

「こいつ、やっぱりあたしのこと知ってる! やっぱり?」

その様子に思わず口走った言葉に彼女自身が内心で首を傾げた。
それはまるで知っていてもおかしくない相手だとトモエが分かっているかの
ような物言いで、どういうことだと訝しみながら次の霊符を構えて偽者を牽制。
その目はこの場の何よりもトモエの動きとその符を警戒していた。
しかし彼女はそれに笑みで答えた。

「……あたしだけを見てていいのかしら?」
「っ!」

彼女の言葉と側面から迫る影に気付いてか。
おそらくそこへ視線を向けた時に偽者は正確にナニが迫っているのかを
理解できたかは怪しい。なにせ、それは、端的にいえば───巨人の拳だ。

「こんな場所で初お披露目とはついてないな『エンデバー』!」

全身を白い装甲服で覆った少年の声が響く。
それはシングウジ・リョウに与えられた専用外骨格『エンデバー』。
色合いは彼が学園で使っていた量産型と同じく白地に黒い線が入っただけの
シンプルさ。室内ゆえか余計な装備を排したため外見に特徴はない。
その巨大な腕を除けば、だが。

床と天井の間をほぼほぼ埋めるサイズの拳はまさしく壁である。
それが外骨格の推進力と強化された脚力と腕力で突きだされてきたのだ。
その視覚的な圧力に対して思わずといった風に両腕を突きだした偽者は、
だが二、三歩ほど下がっただけで易々とその勢いを受け止めていた。

「ですが、私は外骨格(それ)が必要な相手でしょう?」

「違いない!」

憤然としたような、それでいて納得したような叫びと共に拳を射出する(・・・・)リョウ。
巨大な拳はあくまで武装。手甲型の巨大な鈍器。それが付随された推進装置
によりフォトンの火を吹いて発射された。知らぬ機能に一瞬驚いた偽者も、
両腕に込める力を少し増せばさらに半歩下がった程度である。

「っ、いい手です!」

しかし気配に勘付いた偽者は彼女に視線を向けつつ称賛する。
そこでトモエは左腕だけを突き出した状態で半身を開いていた。
そして右腕がそこにある何かを引き絞るようにして顔の横にある。
指が、何かを放す。この場では当人とリョウ以外は目視できぬ霊力の矢。
只人には風切り音すら聞こえぬそれは巨人の拳に拮抗した瞬間を狙って
放たれていた。拳に意識と力を込めた影響で出来た一瞬の動きの停止。
次に向かうには僅かに遅れる挙動。仕留めたとトモエは確信する。

「え?」

だが待っていたのは意外な行動。
拳を受け止める手を一本にしてこちらへ空いた片手を突き出した。
霊矢はその掌に命中し、直後片腕は脱力したように落ちて動かない。
胴体に当たっていればそれが全身に近い形で発現したはずだったというに。

「っ、なるほどこれは確かに厄介な」

「嘘でしょ、片腕を盾に!? あなた見えてるの!?」

「いいえ、でも腕の位置と目線からなんとなく」

指摘に思わずトモエは顔をしかめ、歯噛みした。
どうしてかいつかの鍛錬中に彼に言われた事を思い出したのだ。
『お前は刀でも矢でも術でも狙いが正確過ぎて読みやすい』と。

「だが!」

それで腕を一本確実に殺した。その意味は大きい。
そう訴えるかのような轟音と共に、フォトンの燐光を纏った閃光が走る。
動かなくなった腕がある方から迫るは白銀の装甲を手足と背に纏う剣聖(フリーレ)
ただの突撃。ただの力任せ。ゆえに止めようがない全てを吹き飛ばす豪風の塊。

「それこそ、だが、です!」

怯えも動揺も何もなく、偽者は不敵に笑って巨人の拳を掴んだ。
受け止めていた掌を閉じるように指を力尽くでめり込ませての振り回し(フルスイング)
いま正に相手に突貫せんとした所への横合いからの巨大な質量による衝撃は
彼女を易々と弾き飛ばした。不敵に笑った偽者は、しかし。

「こういう時は、チェックメイト、というのでしょう?」

その影に隠れて現れた眼前に浮かぶ兵器に表情が固まる。
アリステルが操るガトリング砲装備の自立浮遊兵器が三機。
今更銃器による攻撃は効果が薄いと誰もが理解していたはずだ。
それでもミューヒは新たな槍を構えて立ち上がると跳び込んできており、
フリーレは吹き飛ばされながら体勢を立て直して壁を蹴って舞い戻らんとし、
リョウは掌に霊力を集め、トモエはその包囲網の穴を埋めるように霊符を浮かした。
その意図をどう理解したのか。偽者はまずビット兵器からだといわんばかりに
睨み付けて拳型鈍器から手を放した瞬間────何もかもが“白”に支配された。
視界という視界を染め上げる閃光という名の暴力が眼を焼く。

「──────っ!?!?」

偽者は思わず何かを口走っていたがそれさえも消し飛ばすは強烈な爆発音。
スキルによって発射されたスタングレネード。ガトリングガンビットから
放たれたのはたった一発のそれ。同じ室内であれば、彼女達にも悪影響を
及ばすものだがフォスタ越しに事前に連絡を取り合っていればスキルないし
外骨格による閃光防御と音声遮断で無効化することが可能であり、センサー類を
使用すればその状態でも確実に偽者を狙うことができる。異世界科学の武具を
全員が身に纏っているからこそ出来た連携。相手は間近で受けた閃光と爆音に
半ば呆然自失といった様子でふらついている。それに誰よりも先に肉迫した
フリーレとミューヒは油断なく武器を振りかぶりながら渾身の一撃を。

「ふっ」

叩き込もうとした瞬間の邪悪な笑みにいいようのない悪寒が走った。
しかしながらそれはもうどうしようもないタイミングでもあった。

「くっ!?」
「え?」
「うえっ!?」
「うそ!?」
「な、なんで!」

彼、彼女らは同時にその異変に気付いて体を固まらせた。
否、ナニカによって全員の体が動けなくさせられていた。
それは肉体はもちろんのこと。浮かばしていたビットや霊符。
飛び掛かったような姿勢で空間に縫い付けら(フリーレと)れたような者達(ミューヒ)もだ。

「白雪!」

〈確定情報のみ報告。糸状の物体が全身に巻き付いています。
 種類は動物の毛とフォトンが混ざって詳細不明。直前まで感知不可。
 室内全体にも張り巡らされているのを今、確認……理解不能〉

「縛られてるというのか、それも動物の毛で!?」

そんば馬鹿なと動かない首の代わりに全員が視線を巡らすが、白雪が
報告してきた糸状の動物の毛などは目をこらしても見つけられない。
特殊な眼を持つ二人だけが愕然とした顔で絶句しているが他の三人は
そこにまで気が回っていない。

「……」

しかしフリーレの前で、全員に見える位置で。
立ち直ったらしい偽者の手が何もない空間を撫でた。途端、彼女らの
視界は大きく様変わりする。糸だった。金色の輝きを放つ糸のような
物体が縦横無尽に室内に張り巡らされ、自分達の全身に巻き付いていた。
視線を下ろせば、今はまだ緩く巻かれているだけだがその首にも糸が。
間違いなく命を握られている状況に先んじて見えていたリョウとトモエは
背筋を凍らせる。だが、残りの三人は別の意味で顔を青くした。

「……フドゥネっち、ボクこれどっかで見たことあるかも」

「わ、わたくしも同意見です先生。もしやこの方は!」

「ああ、あんなのは早々忘れられん……お前、いえ、あなたはもしかして…」

若干の苦笑いを浮かべながらも蒼白といった顔で下手に出るような
言葉を向けるが当人は黙ったままその口に向けて手を突き出していた。

「え?」

そのジェスチャーは攻撃的な気配も黙れという威圧的な行為にも見えない。
ただ単純なまでに別の意図がその苦悶の表情から感じられた。

「少し、待て、と?」

問い返すような言葉には何の反応も返ってこなかった。
まるでこちらを無視するように何度も瞬きしながら耳を軽く叩いたり、
なぜか頭頂部を押さえるようにしながら無意味な言葉を垂れ流した。

「あ、あー、ああっ、あっぁっ………わいゆえうぉ?」

「………そっか、耳が馬鹿になって音が何も聞こえないんだ」

威力(効果)の強いスタングレネードを選択しましたから
 おそらく目もよく見えていないのだと思います」

「たぶん日本人ではないだろうから、余計にだろう」

その様子と日本語で喋ろうとしている様子から正体に勘付いている三名は
身動き取れない状態のままでも相手が調子を取り戻すのをおとなしく待った。
リョウとトモエも彼女らがそうしているため訝しげながら抵抗はしていない。
やがていくらかの発声と目と耳と頭頂部をさするような仕草の後でそれは
明確に言葉となった。

「ああ、いい、うう、ええ、おお……はい、よし!
 今のは効きました。なまじ目と耳に自信があったのが裏目に出るとは…」

してやられましたと妙に明るい笑みを浮かべられて彼女らは頬が引きつる。
中身はともかく見た目はシンイチなので明る過ぎる笑みは違和感が激しい(ひどい)

「ですが良い手です。突然の戦闘からの即席チームだったのに連携も
 それなりに出来ていました……ええ、とりあえず合格といっておきます」

「え、ええっと、ありがとうございます?」

それに気付いているのかいないのか。それ以前に何の試しだったのか。
分からないままの合格判定に戸惑いながらアリステルが答えた。

「申し訳ないですがこの拘束とあいつの姿はやめてくれませんか?
 いろいろと、その……落ち着きませんので……」

そしてフリーレがこの場を代表してお願いする。
正体不明の糸に縛られているのは勿論、外見だけは同じで中身が
明確に別人というのは気持ちの悪い違和感を覚えてしまう。
それに相手は躊躇いなく頷いてくれたのだが。

「そうですね。またそのちんちくりんに本気で襲われてはたまりませんし」

「ちんちくっ!?」

何某かはしっかりと、明確に、ミューヒを見ながら鼻で笑った。
しかもその上で全員の拘束を解いてしまう。

「っ、このっ!」
「抑えろルオーナ!」

今にも襲い掛からんと牙をむく彼女を回り込んで羽交い絞めにした教師。
彼女らの視線の先では我関さずというていで何某かは室内に張り巡らした毛を
口笛吹きながら手元に回収しているのだから露骨なまでの挑発行為である。
ミューヒは勿論それを頭では理解していたのだが、どうしてかこの相手の
挑発は軽く流せなかった。こいつにだけは舐められたくないという感情が
この時彼女を支配していた。

「あら、怖い。
 幻影とはいえ、主の顔をまた狙われてはたまりません」

少年の顔でどこか女性のように微笑んで、指を鳴らす。
途端に見慣れていたが違和感ばかりの彼の姿が剥がれるように消えていく。

「う、わぁ…」

あらわになっていく何某かの本性に誰かの感嘆の息がもれた。
一言でいえば、美女だった。それもとびきり危険な怪しさを漂わせる美女。
だが、そうであるとわかっていても目が離せないほどの傾国の美女。
艶やかな金の稲穂のような長い髪を色香ごと振りまくようにかきあげ、
その頭頂部では嬉しそうに弾む狐耳が愛嬌をふりまき、巨大な三本尾を
椅子のように使って腰掛けると流し目でこちらを眺める人ならざる美貌。
それが男女問わず蕩かすような魔性の笑みを浮かべた。

「この姿では初めましてですね、みなさん。どうぞよしなに」


なぜか、かえファンでは、いわゆる主人公サイド内で、激戦をやる風潮が(汗
+注意+
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