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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」

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04-84-12 似た者同士の密会


お久しぶりでございます。
一か月以上の停止……もうなんでこうなるのさ!?

理由は単純である   ほぼ書き終える。読み直す。「あ、これ違う」
全編ほぼ書き直し……やっと直った! ん?あれ、なんかこれ劇中の日数感覚がおかしいぞ?
一日、ずれ、てる?  うわーーーーー!!!??

なんとか辻褄合わせ←イマココ




「解せぬ」

眠りから意識が浮上するあの独特の感覚の中、彼が口にしたのはその一言。
自分は当然の疑問を口にしただけなのに何故あんな目にあわされたのか。
甚だ遺憾である、と思いながら目の前の食べかけのハンバーガーにかぶりつく。

「……この場合、それは私の台詞だと思うのだが?」

「あむ、んく、ん?」

雑踏に紛れ込むと目立たないこと請け負いな地味な私服姿のシンイチは口の中の
物を租借しながら寝ぼけ眼で隣席、その上方から落ちてきた声に顔を向ける。
金の瞳を半眼にして睨む顔は元々ある鋭さが増しているが整った美貌があった。
背中に結んで流されている白い長髪は色素が抜けたそれとは段違いの輝き。
何故かスーツを着込む事で際立っている肉感的なスタイル。それらを併せ持つ
女性はさながら仕事帰りの出来るキャリアウーマン風だが実態は外見とは
正反対の幼さでブラコンと人見知りをこじらせている女教師。
フリーレ・ドゥネージュその人である。

「ごくっ、ん……なんだ、残念な美女か」

「どうしてその言葉がまず出たかを小一時間ほど聞きたいものだな、おい」

さすがに色々と問題があると自覚している彼女も面と向かって『残念』と
いわれれば不愉快にもなったか、それとも彼の居眠りが尾を引いたのか。
眉根を寄せて睨みつけたが、腕にあるフォスタからは抑揚はないものの
呆れを感じさせる電子音声が流れる。

〈マスター、そこは『美女』というフレーズにも反応するべきと推奨〉

「ん、美女?」

「誰のことだ、なんてお決まりの台詞は言わせねえからな。
 一般的にも俺的にもあんたの顔は間違いなく美女といえるものだろうが」

不思議そうな表情の彼女に間髪を入れずにお前のことだと少年は言う。
からかうような色は皆無で、さも常識だろうという調子でいうのだから
かえって彼女はどぎまぎしてしまい、勝手に頬に熱が入ってしまう。

「ぬっ、そ、そうか……あ、ありがとうといえばいいのかこういう時は?」

「さて、照れた横顔というのもそそるから礼はこっちの台詞かもね」

「な────────っ!?」

良いモノを見させてもらったと空になった包み紙を畳んで次を開けてかぶりつく。
その言葉も動作も変に作ったものでも揺らぎもない自然で本気なものであった。
余計に照れ臭くなった彼女は頬を占拠した朱のさらなる侵攻を許してしまう。
少年は時折こうして裏も打算も悪戯心も無しでフリーレを魅力的な異性として扱う。
それが─悪戯心でのも含め─本気であるのだと彼女ですら理解できる態度で。
不意打ちに過ぎるそれは不慣れな年上の乙女を容易く動揺させている。

〈……驚愕。声色、表情、脈拍、発汗、体温、どれも平常値と観測。
 寝起きという悪条件下での素の発言が凶悪。マスターの勝率がさらに低下〉

意訳─こいつ、寝起きで平然とうちのマスター口説きやがった!?
恋愛未経験者が勝てる相手じゃねえよ、どうすればいいんだ!─である。

「キュイキュイ、はむあむ」

同意するように頷くヨーコだが即座に自らのバーガーを両前足で抱えて食す。
彼女からすると今更な話であり、彼女の中ではもうフリーレは手遅れなのだ。
どんどん主の沼に沈むがいいとわりといいかげんな相槌でもあった。

「こいつ、普段は私以上に周りと没交渉なくせしてどうしてこう!
 ……って、なんでいつのまに私の容姿の話になっているんだ!
 お前が寝てたのが解せないって話をしてるんだこっちは!」

いいかげんにしろと吠えながら照れを誤魔化すようにもはや氷しか残ってない
紙コップから水気をストローですする。尤もそれはそこが店内であることを
弁えた隣席にだけ届いた叫びではあったのだが。

ここは日本全国にチェーン展開している誰もが知る大手ファストフード店。
“東京”に数多ある一店の二階窓際カウンター席である。ガラス越しの眼下には
日が落ちてなお減ることを知らない雑踏と人工の明かりが占めており僅かに眩しい。
少し前まで野山や森での野宿が主だったシンイチと夜は文字通り真っ暗になるのが
当たり前の世界出身のフリーレには少々眩しくもあり騒がしくも見える街並みだ。
その色合いは少し過去の人間である少年からすれば色々増えているようだが、
ある意味において異世界交流があろうとなかろうと変わらないモノといえた。

「え、ああ、悪い、悪い。最近どうも油断すると眠気に襲われて…」

「うそつけ! 何が最近だ。最初からだろう、この居眠り常習者!」

そんな光景をお互いに眺めながら隣の相手と会話をしていた。
ふたりの視線が交わったのは先程の声掛け後の一瞬だけである。
店内は全ての席が埋まっているほど盛況しているわけでもないが、
閑古鳥が鳴くほど誰もいないわけでもない程よく埋まっている客入りだ。
また二人の会話は店内の喧騒に紛れ込む程度であり、一つ席を挟んで隣り合って
座っているのもあって傍からみれば、たまさか近い席にいる男女でしかない。
そうしている理由はひとえにシンイチが気を使いすぎているからであると共に
彼の提案をフリーレがお前がいうならと素直に、真面目に、守っているためである。

「だいたいお前が言ったんだぞ。頼みがあるから夜食がてら外で話をしよう、と」

二人が外に出たのは宿泊しているホテルでは他の者達の目や耳があるからだ。
既に“引率教師と問題児”として行動を共にしても問題ない理由は作ってあるが、
さすがに日が落ちた時間に若い男女が室内で二人っきりになるのは対外的には問題。
ある事情で殆どの教師や生徒が既に夢の中でも全員ではなく、あの城田奈津美は
いつでもどこでもシンイチの隙を狙っているような雰囲気であり、ホテルの従業員は
普通に勤務している以上は避けるべきだった。話が漏れる危惧よりもシンイチは
主に“彼女の”体裁を考えて何重もの警戒や他人を装う小細工までして
この状況を作り出していた。周囲から関心を持たれにくくなるという結界まで
張っている念の入れようはそれほど彼女を気遣っている証左であり、ヨーコは
微笑ましく見ている。もう少しそれっぽい場所に誘えなかったのか、とは思っているが。

「なのに、お前の言う通り時間をずらして入店してみれば居眠り中。
 頼んだメニューのすべてをゆっくりと味わう時間が出来てしまったよ、ふん!」

どうしてくれると彼女はどこか仏頂面な横顔を見せる。
心底からの怒りは感じられない単に不貞腐れているようなそれに彼は目を瞬かせた。
拗ね方がどこかの妹とそっくりだと、思わずシンイチは微苦笑さえ浮かべてしまう。

「なんともこれは……ってか怒ってるのそこだけかよ」

彼もまがりなりにも女性を誘って来る場所や状況ではないとは分かっていたが、
これでは相手をしてもらえなくて拗ねてる子供である。それを、可愛いものだと
好意的に受け取る辺り彼の根本はやはり“面倒見のいい兄”なのだろう。
尤もこの状況を見るに『心配性』か『過保護』も頭につくだろう。

〈報告〉

またほぼ同時に手元に置いたフォスタに密告(メッセージ)が。

〈マスターはホテルを出る前、無駄に話の長い同僚に捕まってしまい、
 少々苛立っていると推測。ただしその前は鼻歌を口ずさむほど上機嫌。
 あなたとの逢瀬を楽しみにしていたと推定、どうか平に〉

白雪なりの、だが露骨な言葉選びでの援護射撃にはただ呆れを。
しかし嘘ではないだろうその要点には苦笑する以外にどうしろというのか。
少し─実際には一瞬だが─考えた彼は、結局真摯な声色でただ謝罪を告げた。

「本当に悪かったよ。
 確かに呼びつけておいて眠ってるとか非礼にも程があったな、すまん」

策を弄する必要などない。非があるのはこちらだと向かい合わずとも頭を下げる。
尤もそこまでは予期していなかったフリーレにしてみればこれもまた立派な不意打ちだった。

「ん……そ、そうだぞ、まったく失礼な奴め。
 隣に座って話そうとしたらバーガー片手にぐっすりだからな、不用心だ。
 何かあったらどうするんだ、一応表のお前も狙われてる立場なんだからな」

変なところで律儀だから対応に困る、と感じながらも振り上げた拳は易々とは
下ろせないのか文句を続けた彼女だが後半心配する台詞になっている辺りが
彼女の本質であろう。

「え、そうか?」

しかしそれに返ったのは心底意外だといわんばかりの、困惑の声。

「そうか、ってナカムラいくらなんでもそれは…」

「お前がくるんだから何か問題あるのか?」

「っ」

発言と共に心底不思議そうに首を傾げるのを横目にしたフリーレは音を立てて固まった。
妙に力んでしまったせいで手にしていた紙コップをぐしゃりと潰してしまったが。

「あ、いや、だからって開き直ってるわけじゃなくてだな。
 こいつ(ヨーコ)いるし、お前の気配も感じ取ってたから、気が抜けてつい…」

それを怒ってると誤解したシンイチは慌てて言い繕うも気を緩めていたのも
事実だからか恥ずかしそうに悪かったと謝罪する。ただ、それは、どこか。
お前が来るのだから身の危険などそうそう無いだろう、と。
お前がいるからつい気を緩めてしまったんだ、と。
そう告げてはいないか

「そ、そうか…」

ゆえにフリーレはそんな短い言葉を返すのが精一杯だった。
いまほど彼女は向き合って食事をしてなくて良かったと心底思っている。
鏡など見なくてもいま自分の口許が盛大に緩んでいるのが解っているのだ。
頼られる。気を許される。この男に。それがどうしてか自らの表情を崩す。

〈これが天然たらしという存在。REC〉

「キュキュキュ…」

それぞれの従者はそんなやり取りをある意味で微笑ましく見守るだけだ。ただ
後者は計画通りといわんばかりにあくどい顔をしたのは気のせいではあるまい。
尤もこの件で彼女(ヨーコ)が何かしたわけではないのだが。





その後、彼女は一言詫びをいいながら席を外した。
まるで逃げるように─真実逃げたのだが─一階のレジに向かうと新たに
注文をしてその場で完成まで待ってから受け取り、なんでもない顔(・・・・・・・)
同じ席に戻ってきたのである。ちなみに余談だが、対応した店員が同じだったため
「さっきのクール系美人さんがだらしない顔してる!?」と思われたとか思われなかったとか。

「────すまない、小腹がすいた」

「あ、ああ…」

シンイチも彼女の行動がどこかおかしいことには気付いていたのか。
鬼気迫る横顔に無難な相槌をうつという対応を取ったようだ。

「待っている間、少し考えてみたんだが……」

「お、おう」

尤も彼女のそれは話題をぶり返される前に先手を打たなくてはという若干の
強迫観念からのものである。尤も一番の理由は別の所にあったのだが。

「……お前に頼っている私にお前の居眠りを責める権利は無いな、と。
 その寝不足の原因のいくらかは私にもあるというのに……なのに居眠りしてるお前を
 見て、ちょっと、ちょっとだけ……約束を反故にされたような気持ちになってしまって」

お前も色々と疲れていただろうに小さなことで苛立ってしまったと。
大人気無かったと。謝罪をしながら彼女は疲れたように力無く頭を振る。

「明日からの予定を手配したのも実質はお前だというのに、自分が情けない。
 私は大阪からの直行便が埋まっていて特別便も却下された時、頭を抱えるだけだった」

突然の修学旅行であったために日本国内の飛行機の手配は壊滅的に手遅れであった。
次の目的地である北海道に向かう大阪からの便は満席で特別便も用意できなかった。
訪れる場所を東京、奈良、京都、大阪、北海道と決めたのは様々な観光地及び
宿泊施設、行政等に打診をした結果対応が間に合い、許可が下りただけに過ぎない。
しかも相手側の受け入れ準備もあってその順番でなければいけなかった。
ガレストへの渡航日は動かせず、誘蛾灯になりかねない学園の集団を日本の
一都市に長く留めておくことは出来れば避けたかった。ゆえに向かう場所と
向かう日程そのものは大きくは変えられない。そのための苦肉の策として
大阪から夕方陸路で一旦東京に戻って一晩明かしたあと列島を北上するように
陸路で北海道に向かうことが決まった。本来、日本での旅行の疲れと気の弛みを
取るためにガレスト渡航前日をクトリアで過ごす予定であったのだがそれを
消すことでなんとか日程の辻褄を合わせることに成功したのである。
そしてそれに必要な諸々の手配をしたのはシンイチなのだ。
フリーレが意気消沈するのも仕方がない。
だが。

「いやそれはあれを押し付けた連中が無茶苦茶なんだぞ?
 お前に落ち度はねえ、どっちかというそれでお前の働きにケチつけられるのが
 嫌だったからちょっと黒い手や黄金(こがね)色の力を使っただけだぞ?」

彼からすれば腹立たしいのはなんやかんやと理由をつけて彼女に仕事を
押し付けて責任から逃れようとした学園上層部であり、彼女は現場の職員として
出来る限りはやっていた。それでも無理なものは無理であったが、そこを
真っ黒な交渉と力技で“なんとか”しただけなのである。そのため上層部(彼ら)
枕元に仮面が立つことが決まってしまったのだが、彼等の自業自得であり
その点に関しては彼女はシンイチを止める気がない。

「むしろ俺はあの説明で納得してしまうあいつらが心配だよ」

ゆえに問題だったのはそれを生徒達に知らせた時の反応だ。
その予定は直前になって生徒たちに知らされた。それ自体はこの特殊な
修学旅行ではよくあることではあったがこのちょっとした強行軍にはさすがに
僅かに動揺した生徒達もフリーレの『軍ではよくあることだ』という強弁を
受けて訓練的なものと受け取って不満の声すらあげなかったのだ。技術の
底上げによって車両や道路整備、交通整理事情等が従来より発展していても
陸路での大阪─東京間はまだ4、5時間はかかる長距離移動である。
特別科や普通科の成績優秀者は新幹線でそれより早くに到着しているのだが
大半はバス移動で、しかもついた途端食事に就寝の強要と翌日早朝の出発だ。
しかもその後も移動と各地での観光を行いながら北海道を目指すため一日が潰れる予定。
おかげで今日の移動で疲れ切り、また明日を考えて生徒達は夜更かしも出歩くことも無く、
ベッドに沈んだ。それで教師達は楽ができ、こういう時間を彼らが取れたわけだが
シンイチはそこが気になってしまったようである。
つまりは─────少しは、疑え。

「軍では本当にたまにあるんだが……確かに、複雑だ」

輝獣の出現はある程度予測できているものの自然現象である以上は
突然としてあらぬ所に現れて、別の討伐に出動していた部隊に急に命令が
下って転戦という事も珍しい話ではないが移動距離はこちらの方が段違いに長いので
比べられる話では本来無いのである。そのため心情として騙されてはほしいのだが
ここまで素直に信じられると不安にもなってしまう。それだけ彼女の言葉に生徒達が
信を置いてくれているということでもあるのだがそこには教師や元軍人という立場や
過大評価な剣聖の名声等が多分に影響しているのも理解している当人としては相手の
立場や名声に目を曇らして荒唐無稽な話でも鵜呑みにして騙されやしないかと頭を
抱えたくなっていた。

「ま、その点は頑張って教育してくれよ先生(・・)

「うぅぅ……あとでサトウ先生に相談してみようか。
 しかし、お前って奴は面倒見いいくせに時折あっさり放置するよな?」

自らの職業を指摘されたら真面目な彼女は唸りながらも頑張るしかないのだが、
シンイチのそういったところには少しばかり疑問が出てしまう。なんでも
かんでも頼り切りはいけないと彼女も思っているがその線引きをフリーレは
まだわからないでいるのだ。

「一から十まで手を出すのは単なる甘やかしだ。俺の場合は特に、ね。
 適度に手を貸さない、のがバカみたいにでかい力持っちまった奴のマナーだよ。
 いまこうして修学旅行の裏方手伝ってるのだって一応は例外なんだぞ?」

シンイチはそれが自らの方針だとし今回のこと(修学旅行)はサービスという。
最終的な切っ掛けが自分。迷惑を被る相手にほぼほぼ落ち度がない。
通常の手段だけでは最初から破綻している状態だったから。と彼は語る。

「あとは、身内贔屓ということでどうか」

そして付け足すようにクスクス笑いながら冗談めかしていう。

「ふふ、それはなんともひどい癒着があったものだな」

フリーレもまたそれに付き合うように笑うと軽口で返した。
彼はそれを気に入ったように受け取ると、スッと目を細めて外を見た。

「まあ、本当は単なる妥協点なのかもしれないがな」

「ナカムラ?」

その目は鋭く、そして無機質で、だが隣の呟きが聞こえていないかのよう。
熱も冷も無い瞳は確かに、そこを、ガラスに映る彼自身を見据えていた。

「最後の防波堤以外やっちゃいけないのに。それが限界のくせして、
 その都度自分勝手に……その余波をお前は(・・・)どこまで制御できるんだよ?」

続いた呟き(嘆き)には、
出来る訳がないだろ、といいたげな諦観があった。
“できない”という自らの無力さに対する苛立ちがあった。
ソレまでは手を出してはいけないという事実への悲観があった。
横顔にはそれら以上のナニカへの苦々しさというものがあった。

「力尽くで出来ることなど、たかが知れてるというに」

「………」

シンイチが自身の力を好意的に見ていない事は彼女も知っている。
自らを貶め、卑下する態度には理解が及ばないでいるが、コレは違う。
フリーレの中にはそれを適切に表現できるだけのものがなかったが、
まるで自分と兄との関係より断絶したものを感じてしまっている。
拒絶とは違う形で、たった一瞬で、隣にいたはずのシンイチがもう遙か彼方。
そう感じ取った時には、彼女の口は勝手に動いていた。

「ナカムラ、それやめろ。お前がどこにいるのかわからなくなる」

それはどこよりも高い所で全てを俯瞰しているような。
それはどこよりも沈んだ場所から全てを見上げているような。
それはどこまでも続く地平の果てまで見通しているかのような。
自らを含めて全てを見ているのに、どこからも遠い場所。

「…………」

彼女の言葉は、足りずとも、脈絡がなくとも、端的に彼がいる場所を告げていた。
無言ながら驚いた顔でこちらを向いた(に戻った)シンイチはだから目を瞬かせる。
しばらく彼はその状態のまま怒ったような顔のフリーレと向き合っていた。

「─────────もしかして俺、どっか行ってた?」

やっとか。ようやくか。出てきたのはまさかという顔とそんな言葉。

「少なくとも私にはそうとしか見えなかったよ」

あちゃあ、と羞恥からか頬を赤く染めながらも手でその顔を覆い隠すシンイチ。
さらに項垂れるようして身悶えしている姿に彼女は少し珍しいものを見た気分だ。
唯我独尊でマイペースな所がある彼が純粋に恥ずかしがってるのはどこか微笑ましい。
そういう顔もあるのかとさっきまであった置いてかれたような不機嫌さなど忘れて彼女は破顔した。

「笑うなよ……たまになるんだ、意識が変な所に行くというか向くというか…」

恥ずかしがりながらも説明が難しいと唸る少年にフリーレは首を振る。
最初の取引で約束したから深くは聞かない、と。ただ二人の間でそれはもう
互いに都合のいい部分しか活用していなかったのだが彼女は守る気でいた。
出来れば言いたくないと書いてある横顔を見てしまったのも大きい。
それに。

「お前だから見えてるものがあるのはクトリアの一件で理解しているよ。
 なら、そういうこともあるんだろう」

彼は少ない情報から、ありていにいえば状況証拠と直感で真相に迫り過ぎていた。
視点の違い。理解と推測、予測の精度が違うのだろうことは彼女にも解る。
そして彼にだけ見えてるものがあるなら、そんな彼にだけの悩みもあるのだろう。
フリーレはそれをなんとなく察せられる程度には社会や組織で人にもまれていた。
立場や能力の違いで、見えているものが違うことはよくあることなのだから。

「……さすが、無駄に大人じゃなかったか」

「ん、だからじゃないし語彙もない私の陳腐な意見だが、
 ああしてくれたのがお前(ナカムラ)で良かったと私は思っているよ」

彼女にはシンイチが何を気にしているのかわからない。が、それでも彼が
あの場にいて手を貸してくれたことを悪かったことだとは思いたくない。
ただそういわれた少年自身は気持ち沈んだ表情を浮かべていたが。

「………そういう言葉を素直に受け取れない捻くれた自分が嫌いだ」

「それは、また……具体的には?」

「結局それって俺がやった事で一応コトを収められたからだろう、とか?」

結果を出せたからじゃないのか。その身も蓋もない物言いに彼女は呆れる。

「おいおい…偉そうな事は私もいえないが、卑屈が過ぎる。
 私はあの時もその後もお前が色々気遣ってくれたのを忘れてない。
 さっきもお前言ったじゃないか、私の働きにケチをつけられたくないと」

「いや、まあそれは…」

「そういうのが嬉しかったと私は言っているんだ、素直に受け取ってくれ。
 少なくともそれはお前がお前だったからやってくれたことだろう。
 出来たかどうかじゃなくて、そう思ってくれるお前がいいんだ」

そういって感謝と言葉を押し付けると新たなバーガーにかぶりつく。
いくらか、やはりこちらの食事は簡単なものでもおいしい、と舌鼓を打ったあと
視線に気付いて顔を横に向ければ少年の呆気に取られた表情があった。

「…なんだ? あれだけ食べておいてまだ欲しいのか?」

トレイに山積みになっていたバーガーとポテトを既に食べ尽くしていた彼だが
その胃袋の無制限っぷりを知る彼女はまだ足りなかったのかと首を傾げる横で。

「………白雪、どう思うよこれ? 一瞬口説かれたかと思ったぞ?」

〈他意はないと推測〉

「無さすぎて、不安だこっちは……何をどうしたらこの純粋さを保てるのやら。
 これもう矯正するよりこのまま伸ばしていきたい気分になってきたぞ」

〈条件付き肯定。最終的な引き取りを要求〉

「まいったな、これはちょっと心揺れる」

彼女の端末と生徒がフリーレにはよくわからない事を相談し始めた。

「何の話だいったい?」

問いかければ二人(?)して気にするなと返して、だがシンイチだけは
調子が戻ってきたのかいつものからかうような口調で続けた。

「それよりもさっきのは素直に受け取るよ。ああ、うん、存外いい気分だ。
 これからも俺で良かったと思わせ続けたいね、じつにやりがいがある」

「ん、何か違う意味にも聞こえるが……あんまり思いつめるなよ」

それでもその顔にある妙な疲労感とも悲愴感とも取れる色に彼女は釘を刺す。

「あははっ、それは無理かな。俺、バカだから」

が、返ったのはいっそ悲痛なほどに気楽な声での自らを卑下する言葉。

「ナカムラ…」

「俺の成績の悪さは知ってるだろ、先生。
 どう思ってくれてるか知らないけど俺は悪知恵が働くだけであれが実力だよ」

「自分がバカだと思うなら深く悩むな。お前の国の諺にもあったじゃないか。
 ほら、確か……バカの考え休むに、なんとかっていうの」

心情的に受け入れがたい自己評価に半ば反射的に噛みついたものの、
途中で言葉が出てこずに強引に濁したのを何より先に手元の端末が突っ込む。

〈マスター、馬鹿の考え休むに似たり、です。
 またそれは元から変じた言葉で元々は、下手の考え、です。
 例としてあげるならば教師として適切な言葉の運用を期待します〉

「余計な茶々をいれるな白雪!」

どうせ検索した結果を提示しただけだろう、と。
お前の言葉使いもたいがいおかしいだろう、と。
日頃たまっている文句もついでのように付け足すが、
白雪は素知らぬ顔(画面)で沈黙を押し通して我関さずである。

「くくっ、まるで仲の良い姉妹だな」

それをクスクスと隣から笑うシンイチの声に一人と一端末は揃って
嫌そうな表情と顔文字を使ってその感情を素直に表していた。

「くっ、ああ、怒るな怒るな。それでなんだったけか……そうそう。
 どうせ馬鹿なんだから深く悩んでじゃねえよ、だったか」

「そこまではいってない……が、お前は思いつめすぎてるように見える」

「ありがと、それはそれで正しいんだろうけど俺はさ、
 馬鹿は考えるのやめちゃダメだと思ってるんだ。
 自覚してるのに、考える事さえ放棄するのは馬鹿以下の愚者だよ」

それにはなれないんだ(・・・・・・)と彼は続けた。
前を向いているのに不思議と見上げているような目で。

「ま、そっちがたまに羨ましい時もあるけどね。
 こればっかりは生まれついた性分だ。今さら変えられないよ」

お前もそうだろ、と水を向けられては彼女に返す言葉は無い。
十ほど年上─当人達に実感は薄いが─とはいえ充分にまだ若い彼女でも、
今から性分からくる諸々の苦手を克服しろといわれると無理としかいえない。
だが、だからこそフリーレは今まで不思議だった事がわかったような気がした。

「……だからお前は時折、周りの人間で遊ぶわけか」

まるで年齢相応の男の子が考え無しに馬鹿をやってるように。

「趣味と実益をかねております」

にやり、といつもの笑みと共にそう返す彼に彼女はただ「最悪だな」と
微笑と共に答えた。これからは少しばかりは付き合ってやろうと思いながら。

「ま、それならちょうど明日からは実質お前が手配した旅路だ。
 明日(13日)はほぼ移動だけで北海道初日(14日)は集団行動で名所巡りだが、二日目(15日)は自由。
 なにお前ならどこでもなんでもあのメンバーで好きに楽しめる(遊べる)だろうさ」

「あ……」

だから明日からも旅行で、彼女らで存分に遊べ、楽しめといったフリーレだったが
シンイチの顔には誰が見ても“しまった”という言葉が浮かべ上がっていた。

「ん、どうしたその顔は?」

少し言いよどんだ彼は、苦笑を浮かべながらそもそもの要件をやっと口にした。

「その、頼みがあるっていったろ? 悪いんだけど14日、
 いや明日(13日)の夜ぐらいからか。お前らと一緒にいることにしてくれない?」

わずかばかりの沈黙と互いのなんともいえない表情が妙な痛々しさを呼ぶ。
彼のお願いの形を取った事実上の“そうしろ”といったも同然の決定事項。
妙な言い回しのそれは言外にいっている。『別行動をとるからアリバイよろしく』と。
察したフリーレは大きなため息と共に頭を抱えるしかなかった。彼がこう言う以上
そうしなければならない何かがあるのだから止める発言は無意味だ。

「はぁ……言ったそばからお前はどこに何をしにいく気だ!?」

明確な答えなど期待してないがそれでもそう叫びたくなるフリーレである。
その心境を理解し申し訳なく思っているのか心底すまなさそう顔で彼は。

「その、えっと挨拶したいヒトと………ケンカしなきゃいけない親友(ヤツ)がいてね」

懐かしさと親しさと、少しの怯えを感じさせる声でそう言った。





まったくの余談ですが、

フリーレは地球及びガレスト系ヒロインの中ではシンイチと一番距離感が近い、です。
属性が兄、妹なのもありますが似た部分が多いがゆえに欠けてる部分がうまく合うのです。

ちなみに他は
アリステルはシンイチを一番信頼しており、トモエは一番理解しており、ミューヒ(ヒナ)は一番心配している、といった所(作者評)

ヨーコは単純に一番優先し一番従う者であり、リリーシャは(危ない意味含め)一番敬愛している


え、ステラ?

彼女の場合は、………いずれ本編で
+注意+
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