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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

波紋編 第一章「転入初日」

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03-11 ガレストの敗北(妹)

目を付けられた、意外な理由が明らかに?

「急げ、っていってたくせにあいつのせいで結局俺が最後じゃないか」

急がなくては本当に席がなくなると急かした狐っ娘だったが、
悪乗りな悪ふざけをしかけられてそれを諌めて抑えるのに彼は時間をとられた。
最終的に相棒たる“彼女”を監視につけたうえで男子更衣室に逃げ込んだ。
その時点でもう更衣室にいたのはシンイチだけとなっていたが。

「しかし、どの道あいつの案内がないと食堂がどこかもわからんし。
 今からだともう席無さそうだから時間潰す意味もかねて入り口で待ってるか」

“金”の三日月を首元で揺らしながら学生服に袖を通して更衣室を後にする。
ほぼ全校生が集まってしまいそうな食堂を想像してげんなりとした顔をしていたが。
ただそれは彼がイメージするありきたりな食堂が元となった想像であるので、
すぐにこの学園に使われている技術とそれによるカルチャーショックの連続から
そこももう自分のイメージ通りではないのだろうと察して彼は遠い目をした。

「ああ、やっぱ食堂もハイテク化されるのかね。
 変な立方体が機械で混ぜられてレンジでチンな感じで皿の上に出てくるとか。
 あるいはもはや料理という形ですらない栄養剤的な食事なのか……」

どちらも心底お断りしたいというのが彼の正直な気持ちである。
最悪外で何か獲るかなぁ、などと呟きながら競技場の外へ向かうシンイチ。
更衣室から施設の出入り口へと向かう通路は4時限目終了後という時間もあって
彼以外の人気はなく、ただ彼の独り言と足音だけが静かに響いていた。

「……………」

あくまで、表面上は。
正直シンイチは“俺は珍獣か何かか”と思いながら眉根を寄せていた。
彼の進路方向から見て後方の物陰にて気配を消して隠れ見ている者がいる。
およそ80メートルほど離れたところにいるその何者かから強い視線を感じた。
自分を監視している者達とは隠れ方や視線の熱が違うようにも思われる。
そもこれまでずっと監視していた者達は今の授業中はいなかったが。

「さて、どうしたものか」

呟きながら気付いたことを悟らせずに通路を歩く。
この手の温度の視線はあちらでも何度か受けたことがある。
だから、後ろにいる相手の目的はおそらくだが読めている。
そのため相手がこの距離をどう縮めるかで彼は対応を変えるつもりだった。
徐々に縮めてくる気なら詰め寄られる前に地味に速度をあげて外に。
一気に駆けだしてきたのならその途端振り返って出鼻をくじく。
予想通りの目的なら、争うことじたいが厄介なことになる。

しかしながら後方の謎の人物の動きは想定外を見せた。

無気配の気配は突然、真後ろに現れて瞬間肉体は迎撃に動いていた。
もはや隠す気さえない闘気を乗せた剣閃を肌で感じて体を横に流す。
相手からは突然横にずれたように見える幽鬼を思わせる動き。
空振りとなっていく刃を右目の視界の端に捕えながらそこを軸に振り返り、
床に叩き付けられた瞬間には左足で踏みつけて左手を相手の顔面に伸ばす。
不躾な襲撃者の視界を覆うように阻害して勢いそのまま掴むと壁に叩き付けた。

「がっ!?」

相手の苦悶の声はこの時点では耳に入ってなどいない。
優先すべきは襲撃者の排除による自己の安全確保。
そのためにこの“女”を行動不能にしなければならない。
左手で頭を壁に縫い付けたまま右手の手刀で胸部を狙う。
そこで、ようやくながら頭の理性が追いついてくる。

「っ、まずっ!?」

遅れて活動してきた知性がこのままでは“彼女”が危ないと判断するが
既に突き刺すために放たれた手刀は止めようがなく強引に掌を逸らした。
勢いも何とか弱められた結果、掌底を入れたような形となって手は止まった。

「あぶないなっ! いきなり何するんだあんた、って先生!?」

それに安堵しつつも襲われた以上文句のひとつも言いたかった。
されど見上げたその顔。未だに左手で押さえつけていた状態でも、
特徴的な美しい白髪と指の隙間から見えた金の瞳ははっきりと見えた。
今日出会ったばかりとはいえ見間違うはずのない襲撃犯の正体に固まる。

「……これ、どうしよ」

ただしその理由は徹底的で容赦のない反撃をしたことではなく、
教師相手にここまでしたことをどう誤魔化そうかを悩んで、だったが。

「あ、その、なんだ……いきなり襲った私が悪いのは重々承知している。
 だけど、あの……悪いが、まず手をどけてくれっ。これ以上交戦の意思はない。
 ないっ、からっ、早く手をどけてぇ!」

「あ、そうですね」

何か焦っているような口調に訝しむもこのままでは満足に話もできない。
顔を覆っていた左手を彼女から離したがその下の顔は妙に赤かった。ふにゅ。

「ん?」

「やんっ、こら馬鹿者! 右手だ! 右手!」

「え、右手?」

むにゅ。
指名され思わず力を入れてしまった手に跳ね返る柔らかな感触を
不思議がってしまうシンイチとより顔を赤くして悶えてしまうフリーレ。

「んあっ、それ以上は!? は、始まりは事故でも故意と見るぞ!!」

「え、あっ、わりぃ……ごめんなさい」

ようやく何を掴んでしまっていたのか把握した彼は右手も離して、
まるで降参するかのように両手を上げながら彼女と距離をとった。
何もしません。意図してのことではありませんというポーズだ。

「不覚だ……今まで誰にも、同性にだって触らせたことなかったのに!」

それを恨めしい顔で睨みながら両手を胸元で交差して庇う彼女。
理性では襲った自分が悪く胸に触ったのは事故だとわかってはいるが、
感情的な部分が触られたという一点に過剰反応してしまう。
一方そんな視線に困ったように頭をかいてしまうほど彼は冷静だった。
それどころか主犯の右手を見下ろしながら何度か閉じて開くとニヤリと笑う。

「はじめての感触、ごちそうさまでした」

「なあっ!?」

「余裕あるサイズのジャージで解らなかったけど、
 先生って意外に………大きくて、柔らかいんですね」

にっこりと顔だけ見れば人の良い笑顔を浮かべながらいう。
恥ずかしがっている彼女の顔を見て、妙なスイッチが“また”入った。
言ってることはギリギリアウトなただのセクハラであるが。

「お、お前……本当に、本っっ当にっ、15歳か!?
 女の胸を触っておいてそう開き直れるものなのか思春期の男は!?」

とてもではないが年齢や立場が下でしかも触った側の言葉ではない。
明らかにそのネタで彼女をからかって遊ぶことに執心していた。
シンイチはおとなしそうな見た目とは裏腹にそういう所があった。
根はいじめっ子なのである。

「だから、3015歳ぐらいだって。
 あと俺を基準にすると他の男子じゃ何しでかすか解らないから、
 そのすごく魅力的な胸部は解放しないことをお勧めするよ」

「い、いわれなくとも誰が!」

怒ったように彼女がそう口にすればシンイチはおかしそうに笑った。
そしてそんな笑みを浮かべたまま気軽な態度で、声だけを重くして問うた。

「で、俺はなんで襲われたのかな?」

「うっ……それは……」

思わず目を泳がした彼女の様子に彼は推測が当たっていたと確信する。
それでもフリーレ自身の口から聞きたいので張り付けたような笑みで見詰める。

「なんで?」

「あ、ああ、その……なんだ……す、すまん」

「謝ってほしいわけじゃないよ、理由を知りたいんだよ」

あえて明るい口調で聞いているが張り付けた笑顔は地味に彼女に迫っていた。
羞恥に染まっていた彼女の顔が若干引きつって及び腰になっている。
荒事に慣れている相手には逆にこういった笑顔の押しは効果的なのだ。

「…………笑うなよ?」

「それは笑われるフラグだけど、笑わないよ」

だいたい想像できてるし、とは口には出さない胸中の言葉。
そして案の定彼女が語った理由は、なんとも推測通りであった。

「あの不意打ちの捌き方があまりにキレイで、見惚れるほど精錬された動きだった。
 あれを見た時から、その……お前と………戦ってみたくなってしまって……」

先程と違う意味で顔を赤くしながら視線を彼からそらすフリーレ。
内心でやっぱりと思いながらも口には出さず聞く姿勢のままでいるシンイチ。
背中に向けられてた熱を帯びた視線は俗にいう戦闘狂(バトルマニア)のそれだった。

「……なんで不意打ち?」

「お前はその、目立ちたくないみたいだしあれだけの動きが出来る事も
 なんでか隠しているようだったから不意打ちでないと戦ってくれないかなって……」

誤魔化すように両手で指を意味もなくからめながら赤い顔で苦笑する教師。
先程まで授業で生徒たちを怒鳴りつけていた人物と同一人物か疑わしい態度である。
かと思えば。

「そしたらお前! すごいんだな!
 私の強襲をあんな風にやり過ごして一瞬で抑え込むなんて!
 生まれて初めてだ。生身の対人戦でここまでの完敗をしたのは!!」

一転して彼女の方から詰め寄って興奮した様子で先程の一方的な攻防を語った。
誰がどうみても彼女の完全な敗北であったがそれをどこか喜んでいる素振りだ。
彼からすれば一歩間違えば彼女に大けがさせていただけに複雑な心境である。

「そうかよ。
 俺は先生を怪我人にする所だったから内心冷や冷やしたよ」

「……ほう、つまりお前は素手でフォスタのバリアを破れると?」

「そこで目を輝かせるな! やらねえぞ、絶対戦わないからな!」

失言だったかと思えば彼女は嬉しそうに笑うだけで問題にすらしていなかった。
その事実が知れ渡るとかなり面倒な事態になるのでありがたい結果だが、
どうにも面倒な気配しか感じない彼女の瞳の輝きようである。

「いいじゃないか。一回、一回だけでいいんだ」

「あのな先生、俺は生徒だぞ。
 しかもステータス底辺……そのあたり解ってる先生?」

彼からすればそんな自分が剣聖や鬼教官と呼ばれる相手と戦ったなど。
そんな話が流れるだけで勘弁願いたい。これ以上の話題性は全く欲しくないのだ。
それ以上に“戦える”という事実が表沙汰になれば問題しかないのだから。

「いいじゃないかそんなこと!」

だが彼女は強いならそのへんの事情はどうでもよくなっているらしい。
シンイチが相手の羞恥心に反応して妙なスイッチが入るいじめっ子なら、
フリーレはどうも相手の強さを察知してスイッチが入る戦闘狂のよう。

「ここに来てから3年、まともに戦ったことがないんだ。
 輝獣退治は生徒の義務だし他の教員や生徒は戦う気にもなれん。
 たまに応援要請でテロリスト掃討を手伝ったりもするが脆弱な連中ばっかりで」

「その欲求不満を俺に向けるな! 自重しろこのバトルマニアめ!」

「お前以外にはこの熱は受け止められると思える相手がいないんだ。
 頼む、一度で、一度でいいから相手をしてくれ!」

「それで一度で終わったことはないんだよ!」

この手の連中の相手を一度すれば彼らは満足するまで再戦要求をするのである。
経験上それが解っているシンイチは思わずヒートアップして拒絶する。
自分達がとりようによっては際どい言い方をしていることには気付いてない。

「…………どうしても、ダメか?」

「どうしても、嫌です」

いくらかそんな不毛な言い合いをしたあとようやく諦めたのか。
最終確認のような問いかけに、それでも否と答えるシンイチ。

「仕方ないか………まだ学園生活は長いからな、チャンスはある」

「聞こえてるぞ。はぁ、俺もう行っていい?
 食堂行くのにヒナ……ル、ル、ルオーナさんに待ってもらってるから」

「ああそうか。そういう時間だったな、すまなかった。行ってこい」

本当に気付いてなかったという顔に何か教師として色々間違っている気がするが
これ以上問答するのも時間の無駄と感じて、一応は会釈して彼女に背を向けた。
フリーレはそれを横目に見ながら通路に転がっているブレードを拾おうとした。が。

「ナカムラ、ひとつだけいいか?」

その手を途中で止めて、去ろうとする背中に問いかける。

「どうしてパデュエールの避ける方向がわかった?
 お前はあいつが動く前にもう地面を蹴っていただろ」

それだけは当人である彼女も気付いていない事実。
また近すぎたうえに戦いを見慣れてないフランクは気付いてもない謎。
あの時、彼女が避けれる方向は左右に後方、そして上空があった。
そしてそれぞれの方向に斜めの角度が入ればさらに増える。
その多くの選択肢の中からなぜアリステルが選ぶ方向が分かったのか。
一人の教師として、また戦士として地味に気になっていた。

「………そんなの、あいつの敏捷さが優秀だからだよ」

「敏捷が優秀だから?」

「敏捷ランクが高いってことは反応が早いってこと。
 だから、俺が跳ね返したあと、あいつはもう避ける準備に入っていた。
 それを見ればどこに移動しようとしてるかぐらいわかるさ」

振り返りもせずあっさりと告げられた言葉に唖然とするフリーレ。
確かに人は身体を動かすさいに予備動作が必要になってくる。
その動きを見切れさえすれば、行動予測は容易になるだろう。
敏捷A-ともなればその反応は常人などより遥かに早くなっている。
しかしそれはその予備動作を即座に相手に見せてしまう行為。
ステータスの高さを逆に利用した見事な戦法だった。
あくまで、理屈の上では。

「……なるほど、参考になったよ」

「いいよ、事故とはいえ触ってからかったお詫びってことで」

手だけ軽く振って彼は背中を向けたまま競技場をあとにした。
見送って再び剣を拾おうと手を伸ばして柄を掴むが滑り落としてしまう。

「っ……ふっ何が、怪我人にする所だった、だ。こっちは殺されるかと思ったぞ」

誰にともなく呟いて、未だに震える(・・・)両手を見下ろす。
彼の指の隙間から自分を貫かんとする手刀と何の色もない瞳が見えた時。
フリーレは数多の戦場でさえ見なかった死神を幻視したとさえ感じた。

「それにいったい何百人と戦えばそんば予備動作を見切れるようになるんだ?」

高ランクのそれはまさに一瞬の変化であり動作だ。
それを見極めるなど並大抵の眼力と状況判断能力ではない。
これまでと別の意味で本当に15歳かと聞きたくなったフリーレだ。
何よりそれは。

「保護区にいたとか嘘だろお前。
 それは対()戦に慣れたからこそ出来たやり方だろうが」

人がいなければ人型の生物もいないあの地でそれが身につくわけがない。
ましてや反射的にやってしまうほど体に染みつくとも思えない。



「…………お前、本当に何者だ?」



もう彼が去った空間に向けて、彼女はどこか楽しそうに呟いた。

こういうのもラッキースケベというのだろうか?

本人は面白がってしまうので役得とかラッキーとか全然思ってないけど。

一応、気にしてしまいそうな女性なら真摯に謝罪しますよ。

ほんとだよ!!


次回はこっちと違い、
分ける所がどうしてもできず最長になってしまった一話。
食堂で意外な出来事が巻き起こる?

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