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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」

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167/183

04-84-09 メッキを張った泥団子

なのは映画PVは、毎度心躍るなぁ………前売り券地元でまだ売ってないんですけどね(放映はされる)


あ、すいません、接続障害で慌てて、なら修正しようとなったら二日かかってしまった(汗






「腕を吹き飛ばしたつもりであったが……骨を砕くのが精一杯とはな」

またもその眼で中身を覗いたのか。
ヨハンはその成果を言葉とは裏腹に得意げな様子で語る。

「まさか既に実践できる段階だったなんて!」

そこまで堕ちたかと責めるように、嘆くように叫んで臍を噛む姫。
彼の動きの質が格段に変わっていた。肉体の能力に頼り切っていた先程までと
違って、かろうじて姫にも見えた上段蹴りは彼女から見ても堂に入っていた。
またシンイチをして防御しても吹き飛ばされた威力は推して知るべしだろう。

「…他者の脳から記憶と経験を読み取って自らに移し替える外法。
 技量の安直で危険な上昇方法……あの五つの脳はいったいどこから、
 いいえ、誰から奪ったものか! 答えなさいヨハン!」

「カカカッ、この状況でよく吠える姫じゃな。
 小僧に回復の時間でもやる気か? まあ、よい。
 待ってもらった返しじゃ、答える時間をやろう」

もはや曽祖父とも歴代の王とも見ぬ呼び捨てに、されど気分を害した様子もなく。
ヨハンはその狙いを読んだうえで余裕を見せつけるように答える時間を与えた。

「お主の推測通りよ、これはその中からさらに厳選した最高峰の五人の脳!
 音速の剣士、百戦錬磨の狩人、闘技場の英雄、魔導戦術の天才に伝説の盗賊(シーフ)
 彼らの技能、経験、力がこの肉体に集って、ワシの技量はA-に至ったぞ!」

恐れ戦けとばかりに自らが手にした力を語るヨハン。
その体は超短命のままだが性能としては高水準。それに英雄クラスの技量ランク。
それだけの力があれば十数分程度でも長過ぎるぐらいだと判断したのだろう。
姫らもそれが指し示す意味を察してか息を呑み、確認の為カードを翳した。


-----------------------------------------

筋力:AA

体力:B-

耐久:AA

敏捷:A+

魔力:AAA+

技量:A-

-----------------------------------------

「これは!」

ステータスを判断する場合における技量ランクは目安という役割もある。
それぞれの項目が持つランクの力をどれだけ引き出せているかの。
Bに至ってようやく8割前後。Aに至れば十全になるといわれている。
Sランクはさらにその三倍以上にまで性能を引き出せるのだからまだ遠い。
だが。

「技量ランクだけが高い者が相手の場合そやつに勝つ方法はあるのじゃよ。
 同ランクとはいかずとも技量を高め、他の項目を極端に上げられれば…」

「っ、総合的な能力では、負ける!」

彼等の数値でいえば技量Sで筋力Dの力を十全の三倍以上に引き出せても
技量A-で100%前後で扱えるようになった筋力AAには届かない。
基準となるランクの力の大差。十の力を三倍以上にできても元が百や千の力には勝てない。

「今までは、いやワシ以外では机上の空論。理論上の弱点ではあったがのぅ。
 何せ、よほどの外法を使わねばそんな状態に持っていくことさえ難しい」

普通にステータスを鍛える場合ここまでにするには厳しい道のりと幸運が必要だ。
そもそも上昇できるだけの余白があり、鍛え方を間違えない事が絶対条件。
そういう生まれつきの才能と幼少期から優れた師に恵まれつつ一心不乱に
鍛え続けて初めて届くというのがどれもが高水準というステータスなのである。

「じゃが見ての通りよ。
 魔導錬金と禁薬の合わせ技で一時だけこの夢のようなステータスを
 持つ肉体を作り、そこに他者の技量ランクを上乗せ、さらに!」

彼は見せつけるように両拳を握り、若干腰を落としながらその場に踏ん張る。
彼女達の目はそこで、彼が何をしているのか。両腕と両足に纏っているその
“魔力の膜”が何を差しているのか察せられないわけがなかった。

「魔装闘法術……元より知ってはいた以上、シンのを手本に真似たかヨハン!」

シンイチのそれと似た、されど圧倒的に量の違う魔力の鎧。
口許だけを歪めてのあくどい笑みを答えとしてヨハンは再び踏み込む。
意識して集中していたおかげで彼女達も目では追えたが対応できない速度。
単純な突貫とその勢いを乗せた拳は、全く同じ動きをしたシンイチの
魔装闘法術を纏った右拳が真正面から迎撃するように打ち合った。

「っ、きゃっ!?」

瞬間ソレを中心にまるで魔法の爆撃を受けたような轟音と衝撃が駆け抜ける。
残っていたガラス窓は軒並み枠ごと吹き飛び、開いていた大穴はより崩れた。
それに思わず目を瞑ってしまったリリーシャは慌てて開くとその近さに息を呑む。
手が届くほど、よりは若干遠くともいくらか距離のあった背中が近い。
互いに拳を突き出し打ち合った状態のまま、シンイチが下がらされていた。
彼自らが突貫したのは背後の自分達まで余波に巻き込むと判断してのことか。
ヨハンの顔に悦が浮かぶ。

「ふ、ふははっ、ワシの現在の技量値はまだ貴様より劣ってはおる。
 だからお主より下手ではあるが、魔力量はワシが遥かに優れておる。となれば」

「魔装闘法術による上乗せ分を考えても、俺より強い、か?」

引き継ぐように語られた言葉には抑揚がない。
淡々としたそれは真に無感情なのか内心を隠す偽装か。

「覚えておくがよい小僧、いかな手段でSランクを手にしたかは知らぬが
 他がDランクで限界な貴様は所詮メッキを張っただけの泥団子よ!」

ヨハンの足に力が込められる。
床に轍を作ってでも初撃を受け止めた少年の脚がさらにそれを作らされていく。
力で押された肉体がじりじりと下がらされる中で、少年の平坦な声が答える。

「ご高説どうも……けどさ」

そして、三日月が笑う。

「今更な話過ぎて、欠伸が出る」

「ぬ、なあっ!?」

気付けばヨハンの肉体はひっくり返っていた。
さらなる一押しを加えようとした瞬間に相手が引いたと思った時にはもう
天地が逆になって床に背中から叩きつけられ、理解が追い付かなかった。

「っっ、おのれ!」

顔を踏みつけんとする足裏が見えたのを回避しつつ飛び上がって距離を取った。
が、その途端に頭を支えるようにしながらも体をふらつかせてしまう。

「くっ、なんだ、いまの光景は!?
 ……一瞬で、腕を掴まれて、引かれ、背中に乗せられ、投げ飛ばされた?」

脳裏に何か浮かんだのか。それを呆然としながら語ったヨハンに少年は含み笑いだ。

「A-なら感触でも理解できるだろう。所詮片手の背負い投げモドキだからな」

「セ、セオイナゲ? な、なんじゃそれは!?」

わざと技名だけ日本語にして意味を通じなくさせたのは地味な嫌がらせだ。
しかしそれこそがヨハンが得意気に語った攻略法の穴でもあった。

「バカだよね、お前も。今の頭で考えてみろ。Sランクになっちまった奴が
 お前のいう分かりやすい弱点について何の対策もしてないと本気で思うのか?」

「っ、そうか! いやまてっ、なぜワシは今まで気付かなんだ!?」

「むしろ今気付いたのが技量ランクの恩恵だよ。
 お前自身は戦いを知らぬ学者。自らの発想を机上の空論だと気付かぬ三流の、だがな」

戦場における相手の行動予測。あるいは自らの弱みに対する自覚と対策の有無。
それらへの警戒が薄かった。認識が甘かったといわざるをえない。真っ当な
戦士ならばそんなあからさまな穴を見ればそこに罠を疑うものだが彼はそもそも
戦場に立たぬ元だが王であり、外道だが学者でしかなかった。ただそれだけの話。

「くっ、だがの今のはもう覚えたわい! 二度は喰らわぬ!」

それでもA-ともなれば未知でも体術の一つなど受けた以上完全に理解している。
似た系統の技等も推測しだせば対応は可能だと彼の、彼らの頭脳はそう弾きだす。
が。

「……柔道、空手、茶道、合気道、ムエタイ、剣術、柔術、プロレス、相撲、
 ボクシング、システマ、ワルツ、サンバ、カポエラ、歌舞伎、テニス」

しかしながら続けて並べられた複数の単語にヨハンはただ困惑する。
何せ、彼も彼の経験となった者達も誰一人として“日本語”を修得していない。

「は? な、何をいってるのだっ、呪文か!? ファランディア語で喋らぬか!!」

「俺の故郷にどれだけの武術があると思っているんだ、お前?」

「なっ、まさかそれらが全部!?」

「あ、ちなみにいくつかは関係ないけど、どれかわからないだろ?」

「────っっっ!! 貴様ぁっ!!」

怪しげで、楽しげな、歪な三日月を描く笑みはヨハンを嘲笑う。
こうなると解っていてシンイチは一時押されている風を装っていたのだ。
からかわれた。遊ばれた。この期に及んで。相も変わらず。
どこまでいっても、やっても、敵とさえ思われていない。

が、同時に自らが地球の武道について無知である事を露見させられた。
当然それは彼が取り込んだ5人の頭脳にもない情報だということでもある。
確かにヨハンはそれらを取り込むことで総合的なスペックではシンイチの
持つアドバンテージを奪って優位に立った。しかし未知の前では、いかに
技量の高さがあってもいくらか反応が遅れる。それは常人にとっては
無いに等しい差でも技量が高ランク同士の戦いにおいては致命的な遅れだ。

羞恥と屈辱に感情が燃え上がる。
冷静な頭がうまい手だと称賛する。

「ああっ、くそっ、なぜそんな初歩的なことに気付かなかった!
 なぜ、こんな馬鹿げたことをあんな自慢げに、なんと愚かな!」

ちぐはぐなことを考える頭を振り払うように叫ぶ。
自らが脳を取り込む前に考えていた事を幼稚な発想と評価したのに苛立つ。

「いや、違う。違うぞ、例えそうでも耐久や体力はこちらが上だ!
 いずれそちらのネタが……切、れ……ぁ、ああぁっ!?!」

「ふふ……気付いたか。そう、お前の肉体は時間制限ありだから持久戦はできない。
 こっちが逃げ回るかお前をどこぞの深海か樹海にでも転移させればお仕舞いだ。
 さすがにお前でもその最高峰の頭脳とやらは量産できるものではあるまい。
 また一度使ってしまえば再利用できるほど便利なアイテムでもなかろう」

扱うのは人体の中でも屈指の謎と繊細さを持つ部位、脳。
いかに人体を何体も作り続けられるヨハンでも中身まで同じ脳は作れない。
だからこそ頭部を奪うという行為をしなければならなかった。そしてそこに
記録された知識や経験を何度も引き出せるならヨハンは最初からそれを行って
自らの技量を上げた状態にしておくだろう。していない時点で再使用と長期間
それを維持することが出来ないのは明白だ。ならば、今の肉体の寿命が切れれば
抑えこむのは容易いとその判断(切り札)の愚かしさを少年は嗤う。

「馬鹿めっ、この地にはワシ作り上げた最高峰の転移阻害の結界が!
 っっ、無い? 無いぞ……なぜ無い!? 壊された? 否、余波や悪影響もなくなど!
 こんな完璧な破壊には、そうシルバガント製の武、具、が……ああぁぁぁっ!?!?」

半ば反射的に口から出た反論に、何より先に彼の感覚が否定を訴えた。
そして呟きという自問を繰り返しながらふらついて、絶叫をあげる。
まるで頭痛をこらえるように頭を抱える状態で。小さく「黙れ」「五月蠅い」
「やめろ」という言葉が続いているが聞こえている(理解できている)のはシンイチだけであろう。

「やっぱ技量上げるのも考えものだな………やっと理解したか。
 そうだよ、ステラの銀翼は脱出口を作るためだけに放ったんじゃない」

「がっ、ぁ、ぐっ、ぅぅ……転移阻害結界の完全破壊! そしてお前への救援要請!」

余程頭が痛いのか。
それを振り払うようにほぼ自棄気味な叫びをヨハンはあげた。

「正解……ま、来るのをほぼ期待してない『助けて』は初めてだったよ。
 おかげでじつは今日はちょっと燃えてるんだ……これでもね」

待ってはいないのに助けを呼ぶ声などおかしくてしょうがなかったと頬を緩める。
あれはシンイチにとってはまさに抜群のタイミングで行われた一撃であった。
他者による一手は詰んだ状態をいとも簡単に変える。知ってはいても彼だけでは
用意できない一手(モノ)を最後まであがく意思が、屈しない誇りが、万感の信頼が
生み出した。目の前でそんなヒトの頑張りが生み出した運命を変える一撃を視てしまえば
もはやシンイチに行かない理由など一つもありはしなかったのだ。

「ステラ、あなた…」

「……はい、彼の言う通りです。
 姫様が逃げない可能性もありましたので、一応そういう意図も……」

自分達を見捨てないかもしれないという懸念と転移阻害結界さえ破壊できれば
シンイチならばどうとでも出来るはずだという確信があの攻撃を選択させた。
それでもせいぜいリリーシャだけならば、程度の考えではあったが。

「でもそれ、あとはシン次第ということよね?
 なんですか、やっぱりあなたが一番気を許してるんじゃない」

「…………」

それは何もかも委ねるということ。その結果が何であれ受け止めるという事。
外の状況を概ね察してこれないだろうと考えていた彼女の場合は余計に、である。
尤も姫の追求には常の無表情で沈黙し、否定も肯定もしなかった。身内からすれば
その顔は都合の悪い事をやり過ごそうとしているようにしか見えなかったが。

「あ、あぁっ、わかる、解るぞ……我が手勢が全滅だ! 工房も倉庫も研究所も!
 あの一手を見逃しただけで何もかも仕舞いにっ! だからお前が来た!!」

一方壁の大穴を呆然と眺めながら理解してしまったヨハンが一人慟哭する。
シンイチほどでなくとも“眼が良くなった”彼は気配を探る事も術式を確認
するまでもなくそれらの事実が解ってしまう(・・・・・・)

「最初に言っただろう。
 俺が来た時点でお前が負けていたんだと。
 ……もうお前の頭も同じ結論が出たはずだ」

「っっ、黙れ黙れ黙れぇっっ!! ワシはこんな所で終われんのだぁ!!」

敗北が必定という見解を認められるかという激情で塗り潰して吠える。
二振りの剣を造りだして両手それぞれで握ると憤怒の感情で斬りかかる。
剣士の腕前、狩人の眼、闘士の体捌き、シーフの速度が合わさった肉体は
そんな精神状態でも一流の切れ味で少年の命を狩らんと迫る。生半可な
動きでは初撃は避けれても続くもう一振りが避けられまい。鋭き銀刃は
生半可な防御ではそれごと真っ二つにするだろう。いかに数多の戦い方を、
数多の技を知ろうともヨハンの方が基本能力が上である事には違いがない。
対応を間違えれば、一撃さえ入れば勝つのはまだヨハンなのである。

「ハッ、よくぞ吠えた愚者(フール)

しかしそれは少年が鼻で笑うぐらいにあり得ない可能性だ。
既に対策を彼は口にしている。ヨハンをどこかに飛ばすか自分達が
逃げるだけで済む。戦う必要性がもはや存在しないのである。
強制転移防御や転移魔法への干渉方法をごまんと用意した彼だが
単純な術式の腕前となれば技量ランクが直結してしまう以上戦いにもならない。
肉弾戦にいたれない時点で、逃げ道を作られた時点でこれは文字通りの悪あがき。
それゆえに。

「なぁっ!?!?」

その驚きはいかほどのものだったのか。
二振りの銀刃は防がれた(・・・・)のだ。
少年は一歩も動く事も転移する事もなく、もう動かぬはずの左手を動かし、
振り下ろしの一閃目をいなしながら剣を掴み、横一文字に迫る二閃目に
叩きつけて共に押さえ込んで止めた。

「なぜっ……」

その手際も、魔装闘法術で内外から操って強引に動かした左腕も、
もちろん驚きの対象ではあったが何より何故そんな余分な行動をしたのか。
理解できないとヨハンが絶句する中で、三日月が笑う。

「その妄念に免じて───」

そして彼の体では比較的な無事で自由な右手がその顔を覆い隠す。

「───()の切り札で正面から叩き潰してやろう」


────マスカレイド────


黒が満ちる。夜より、闇よりなお深い漆黒がその場で人型を取る。
顔を覆う猛禽類を模したような仮面だけが白さを訴える不気味な風体。
仮面の暗殺者。ファランディアの英雄。たった一人の世界の守護者が顕現する。

「っ、ぁ、マ、マスカレイド、だとっ!?」
「やはり、あなたが当代のっ」

いくつものあり得ないという叫びを含んだ絶叫と疑いを確信に変えた声。
後者の彼女達はそうではないかと考えていたから出たものだったが、
どちらが正しい反応かといえばそれは前者のヨハンのそれだ。

「か、仮面を異世界人に託しただと!? なにを考えておるのだ先代は!?」

『それについては同感ではある』

老若男女は不明なれど呆れの感情だけは伝わる声で語る仮面だがその右手は
躊躇なく目の前の空間を薙いだ。瞬間生じた爆発的な衝撃がヨハンを弾き飛ばす。
受け身を取る事もできずに床を転げる彼は5人の英傑達の“痛みの経験値”が
無ければ突き抜けるそれに意識が飛んでいたことだろう。逆にいえばそれが
あっても意識を保つのが精一杯だったともいえる。

「ぐっ、がっ、がはっ!」

魂も傷つけられたのか青い輝くような吐血をするヨハンは半ば無意識に
立ち上がって今の一撃をなした“漆黒”を愕然とした顔で見据えようとして、見失う。

「っっ!?!」

最高の狩人の眼が標的を見失った衝撃、程度ではない。
見失ったと彼が認識できた途端に白い仮面が眼前にあったのだ。
転移ではない純粋な速さでの接近は、異常な速度であったろうに
空気すら揺らさないほどに静かなものであって思考が追い付かない。

「くっ!」

振り上げられた腕に気付いたのはむしろ肉体の反射が終わった後。
突き立てられる左拳を剣を捨てた両掌を重ねたそれで受け止めた時だった。
瞬間的に意識を肉体、特に腕はもちろん足にも向けて衝撃を覚悟する。

「ぐおおぉっ!?」

それでも明らかに─壊れた─左手一本にヨハンは力負けして押された。
それも最初の一撃のような体を弾き飛ばそうというそれではなくまるで
力比べでもするかのような押し方で、だ。ずるずると、易々と押し込まれる。
ヨハンの筋力は、技量は、もはや何の加減もしてない全力を発揮しているのに。

「うぐぅ……な、なんだこれは!?
 例え貴様がマスカレイドであろうともスペックの差が覆ったわけでは!」

ないはずなのに、負けている。
どういうことだと困惑する顔に仮面の奥で三日月が嗤う。

『愚かな、これはこの世界を長年守ってきた守護者の面ぞ。
 まさか姿を隠蔽する程度の能力しかなかったと本気で思うかかつての魔導王よ?』

一般にマスカレイドの仮面には装着者が攻撃的な行動を取らない限りはどのような
手段を用いても事前の検知や発見が不可能という驚異的な気配遮断と認識阻害能力が
ある事は知られている。だが逆を言えば“それしか知られていない”のだ。

「そういうこと……マスカレイド伝説のおかしな点、違和感は、それが!」

リリーシャはその言葉に理由を推察する。
もしそれだけでしかないのなら、きっとマスカレイドは生きる伝説には
なっていなかった。今日まで続く、否、世界にあり続ける英雄にはなれなかった。
これまで何人の、どういった者たちがマスカレイドだったかは一切が不明だ。
されどその誰もが、どんな相手とどんな風に戦っても勝てる強者であった、
などというそんな都合のいいことがずっとあったわけがない。それでも
マスカレイドは存在し続けていたし敗北の事実は歴史に刻まれていない。
ならば、マスカレイドの仮面にはそれ以外のナニカがあったのだ。

『お前の言う通り、私自身はSランクというメッキを張っただけの泥団子だ。
 何の価値もなければ力もない、な……だが、知っているかかつての魔導王よ?
 泥というのはどんな形にもなるという事を』

「──っっ!! ステータスの改変能力か!?」

------------------------------------

筋力:A+

体力:D

耐久:A+

魔力:D

敏捷:A+

技量:AAA

------------------------------------

ヨハンは思わず、リリーシャ達はもしやという思惑でステータスを覗いた。
オールDに技量Sであった彼のステータスは一部除き、大きく様変わり。
バランスあるいは身体能力という面においては格段に凶悪になっていた。

階位交換(コンバート)、という。
 誰が持ち主でも、ナニとでも戦えるようにするための隠し機能の一つ。
 一部のランクを下げる事で、その分他のランクを上げることを可能とする』

「………………ばかな」

幾重もの感情が綯交ぜとなって出たのはそんな感想ともいえぬ感想だ。
仮面(カレ)が下げたのは技量をSからAAAへと下げた1ランク分のみだ。
それだけでDランクであった三項目が三段階以上ランクがあがっている。
数が合わない。しかしそれは何もおかしなことではないのだと理解させられる。

「うぐっ、がっ……技量ランク、だから、なのか!?
 SとAAAの間は他の項目においてそれだけの価値だと!」

『正解だかつての魔導王よ。技量ランクだけ他のランクとは同じ表記でも
 その性能は段違い。この世界の常識だ。ならこうなるのは当然の帰結。
 認識阻害やステータス隠蔽機能が低下する弊害もあるが、問題は無い』

当然だ。ここまで能力を迫られ、技量には二段階以上の差がある状態で
肉弾戦をするしかない状況となれば阻害や隠蔽能力を失ってもさして困らない。

「なんという、ふざけたっ、反則な組み合わせだ!」

技量だけが極端に高い人物に下げた分だけ他項目の能力を上昇させる仮面。
マスカレイドの在り方を考えれば必要な機能であったろう。だがこれほど
までに有益になるステータスを持つ装着者がかつていただろうか。

『言ったはずだ……正面から叩き潰してやろう、とな』

外法で強化したステータスを反則で強化することで上回る。
策謀も罠も技も何もない。単純なまでに能力が高い方が勝つ戦い。
もっと距離があれば、時間があれば、道具があれば、環境が整えば。
まだ“もしも”はあったかもしれないがいまはそんな妄想は意味が無い。
技量以外はヨハンがまだ上でも近付いた分、二段階以上の技量差は勝敗に直結する。
そう、まさに─────こうなってしまった時点でヨハンは負けていた。

「だ、だからどうしたというのじゃぁっ!!」

それでもヨハンは吠えるように叫んで魔法を放つ。
炎の矢。氷の刃。雷の槍。岩の巨腕。効果があるなどと微塵も思えないまま
放たれたそれらは仮面を囲むように襲い掛かって、指の音と共に全てが行き先を曲げた。
驚愕の声をあげる間もないままに使い手であったヨハンに突き刺さる。

「がぁっ!?! ぐぅっ、魔法を乗っ取ったかおのれ!」

衝撃と痛みにたたらを踏みながらも距離を取れたのを幸いと再び剣を造りだす。
両手の銀刃を構え直し、頭で勝利も逃亡も不可能という結論が出た相手に挑む。
音速と二つ名を得た剣士の技は、どんな罠も踏破しどんな追手も撒いたという
盗賊の速度が加わって生前の剣舞を上回りかねる様相を見せていたが、全ては
当たらなければ意味が無かった。

「くそっ、くそっ、くそぉっっ!!」

ひらり、ひらりと黒が舞う。どんな擬態も見抜き、どんな速度の獲物も
捉えたという狩人の目がその残像を追うのが精一杯だった。その最中、
手遊びのように瓦礫に触れた仮面はソレらを使って一本の剣を作り出した。

「貴様っ! どこまでも、どこまでもぉっ!!」

今更魔導錬金術の真似事をされても驚くことではなかったが、そんな
元はただの屋敷の壁材でしかなかった物質から錬成された剣が自らの
錬金術の腕前と魔導の天才の技量が合わさって作られたシルバガントの刃を
撫でるように振るうたびに易々と削られていく光景は理不尽極まりない。
いかに技量が高くとも素材の差で剣そのものはヨハンの方が上の出来栄えだ。
しかし剣の扱い方と使い手のスペック差がそんな現象を起こしていた。易々と。
ヨハンはかつての剣士の技と速度を維持しているというのに仮面は
片手間でそれを弄び、嬲り、貶め、辱めるように戦っていた。わざと。

「うがあああぁぁっっ!!!」

もはや棒切れのようになってしまった剣を手放して、我武者羅に突撃する。
闘技場で無配を誇ったという闘士の突貫の再現に仮面もまた廃材の剣を捨てると
わざわざ左腕を伸ばして突進を受け止めた。ヨハンはまるで山に体当たりを
したのかと錯覚するほどで激突の衝撃でよろめいたのは彼だけだった。
もはや意地どなって突き出された左腕に再度肩からぶつかるが微動だにしない。
押し込もうと床を噛む足だけが虚しく滑り続けている。

「お前のっ、お前の頭脳さえあればワシは!!」

その目は敗北を理解しながらそれでも折れていない。
現実が見えていないのか。見えていても認められないのか。
認めていても止まる気がないのか。その必死さはともすれば滑稽だ。
その無駄な抵抗を、空回りする狂気を嘲笑うように仮面は語る。

『くくくっ、なるほど……これは確かにニンゲンだ。
 Aランクの眼を持っていて己が愚かさに振り回されるとは、じつにらしい』

それに、羨むような感情が滲み出ているように聞こえたのは誰の錯覚か。
だがその懸念はすぐに消えた。何せそれを考える隙間が誰にも与えられなかった。
あっという間に、そして呆気ないほど─────即座に決着がついたのだ。

狩人の眼は、何も捉えられず。

音速の剣は、間に合わず。

魔導の冴えは、発揮できず。

闘士の肉体は、耐え切れず。

盗賊の速度は、追い縋れず。

錬金術の王は、立ち続ける事も叶わず。

全てが粉砕され、残ったのは気が付けば床に転がっていた五つの円筒ケース。
そして壁にまるで十字架のように剣で縫い付けられた幼顔のヨハンだけ。

「くっ、かかかっ……ワ、ワシの、数十年がたった数秒か。こんな矮小な若造に、
 力を持っただけの泥に押し潰されるか……くかかっ、滑稽にもほどがあるのぅ」

たった一つの目的のために外法に身を堕としてでも手に入れたモノが崩れ落ちる。
それがおかしくてしょうがないとヨハンは壊れたように笑う。いかなる術か。
魔法も錬金術はもちろん、魂の渡りさえ封じられてはもはや笑うしかないのだろう。

「ふー……そうでもないぞ。これはお前自身が招きよせた結果ともいえる」

そんなヨハンに、仮面を脱いだ少年は疲れを感じさせる息を吐きながらも迫る。
もはやそんな必要もないと警戒の色は皆無だが、その表情にある笑みの怖さを
彼はまだ知らない。

「ワシが、じゃと? いったいなんの話を…」

彼の作った剣で貼り付けになり、体と魂の血反吐まみれとなった顔でヨハンは訝しむ。

人造人間(ホムンクルス)の罪過論。あれ、お前の著書だろ?」

「ええっ!?」

「ふん、貴様(Sランク)相手では今更否定する気にもなれんわい」

リリーシャが一人背後で驚きの声をあげたのを余所にヨハンはそれがどうしたと
ばかりに肯定する。彼相手に無駄に否定した所で見破られるのは必定だと。
一時A-になった男はソレを大きく上回るSランクの目を相手に抵抗する気も
起きなかった。それどころかなまじ技量が近づいたせいかその顔には怯えという
感情が見え隠れしていた。当人はそれを見抜いていながら知らぬ顔で続きを語る。

「フィリア王女亡き後、彼女を取り戻そうと、生き返らせようと狂気の道に
 堕ちていったお前はもうアースガント王宮にとっては害悪でしかなかった」

「王族が禁忌を破っては人心は離れ、外敵を増やし、政が乱れる……まさか。
 ここにいる以上死を偽っていたのだとは思いましたが、本当は病死ではなくっ…」

その状況を想定して、どうなるかを推察した姫はその真相にたどり着いた。

「さすがに察しがいいな……そう、暗殺計画が練られていたんだ。
 だがそれに勘付いたお前は計画を利用して雲隠れする事を思いついた。
 そしてあの禁書が暗殺後に世に出回るよう手配してその後の混乱を狙った。
 目論見通りその対応に追われた上層部は自分達が暗殺した事もあって詳しく
 検死をせずに埋葬してしまった。お前が作った精巧な人形だとも知らずにな」

「まるで見てきたように語るのう…」

「そっ、そのような話、私は一切聞いていないのですが?」

「当時の関係者以外では王位を継いだ王族にしか伝えられてないからな」

「……それをあなたが何故知ってるのですか、というのは今更ですよね」

くくくっ、と悪い笑みを浮かべて誤魔化し、シンイチはヨハンを再び見る。

「あとはおまけ程度だが自分以外の者にも興味をもってもらい、違う観点、
 違う学者によるこの分野の発展を気持ち程度だが目論んでいたという所か。
 当時からお前は生命創造の分野に死者蘇生の手がかりがあると踏んでたからな
 ……しかしそれが予想外の事態を呼んだ」

「なにをやったというのじゃ」

「俺の命を救ったんだ」

「え?」

「……………は?」

一瞬、何を言われたのか分からないと諦めきっていたその顔に困惑が浮かんだ。
まるでそれが見たかったと満足げな笑みを浮かべた少年は、されど多くは語らない。

「詳細は割愛するが、巡り合いの奇跡。悪意から生まれた救いって奴だ。
 その本が世に出ていなければ俺はあの日、彼らに救われることはなかった。
 仮に別の要因で生存できてもこんな反則な力を持つ事はなかっただろう」

世の中繋がっているものだ、などとそれっぽい言葉でまとめながら
わざとらしく遠くを眺めて当時に想いを寄せている風の格好をするシンイチ。
後ろで聞いている彼女達はその経緯が気になったが同時にこういう時に
彼が見せるヒトのイラつかせ方は秀逸だと苦笑いである。

「喜べヨハン王よ、今の俺はお前のおかげでここにいる。ありがとう」

──どんな気分かなショタジジイ、これはお前自身が招いた結果だ
実際に発言された言葉よりその裏の意味の方が強く彼の頭に響く。
感謝の言葉が、恐ろしく慇懃で嘲笑う意図にしか感じられない。
諦観だけだった顔が怒りを湛えたようにひくひくと痙攣し始める。
自らがほぼ戯れに打った一手のせいでこうなったなどと言われては。

「だから、まあ、これはお礼だと思ってくれ」

その表情変化を笑顔で見定めてから、白々しい態度で少年は本題(お礼)を切り出す。
表情が笑みの形でもその目には色が無い。しいて何かあるとすればこれから
行おうとすることへの、享楽的な感情(イロ)だけ。

「では問題! お前の愛娘フィリア王女は─────何が得意だったでしょう?」

楽しげなそれを浮かべる表情にあるのは悪魔も裸足で逃げ出すような凶悪な弧。
これに比べれば、今までのそれは笑顔などではないとヨハンでも感じて震えが走る。
何せ、その三日月は「これからが本番だ」と無慈悲に告げていた。
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