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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」

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04-84-04 絶対的上位者

二話連続投稿、という名の長くなったので二分割した、という真相!!









──なにが、こやつらの精神を支えている?

いったいどれだけの時間その攻防は続いているのか。
錬金術師からすれば滑稽なほどに彼女らは抵抗をやめなかった。

「倒せないなら封じる方向でやってみましょう」

いくらかの魔法と魔導錬金術による応酬を終えた後、これみよがしに方針を
わざわざ口に出した姫に全員が頷く中で放たれたのは様々な捕縛の術である。
手錠、足枷、魔法の鎖、結界、一つずつで通じないなら数仕掛けるとばかりに
放たれたそれを錬金術師は時に魔法の衝撃波で、術式を紐解き、道具は分解する。

「ならさ!」

それらを隠れ蓑にしていたのか。接近していたカイトが物理的にその体を
拘束しようと関節技をかけたのだが、ゲル化されて抜け出されてしまう。

「そうきましたか…とりあえず次の身体に移ってもらいましょう」

技から抜け出し子供の姿に戻ろうとした所で放たれた室内を割く轟雷。
貫く、どころではなく肉体全てを呑み込んだ雷光にゲルの人形は消し飛ぶ。

「……その歳を思えば、うむ、威力と制御は侮ってはいけないレベルだな」

砕けた床材を加工したのか。少し離れた場所に現れたのは石の人形。子供に
擬態する能力は無いのか切れ目が入っただけの石の顔がしかめっ面で頷く。
そこへ姫の無言の指示。手を振り下ろしただけの合図を前にメイド達が
一斉に手元から刃を投擲する。ナイフもある剣もある斧もある槍もある。
一瞬でハリネズミと化した石人形はわずかに呻いた。

「ぬっ、ええい効かぬというにうざった──ッ!?」

パチン、と指を鳴らした音がホールにやけに響いた。
途端に突き刺さった武具が爆発を起こして石人形は四散してしまう。
衝撃が閉じきった室内の空気を揺らし粉塵をまき散らすが誰一人微動だにしない。
その一瞬の静寂を破るかのように粉塵を突き破って突貫してくるは鈍色の全身甲冑。
まるで壁かと思えるような巨躯のそれが圧迫感を伴いながら疾風の速度で姫に迫る。
振り上げた戦斧もまた巨大で振り下ろせば何もかも叩き潰してしまいそうなそれは
不敵な笑みで肩を竦めている彼女を切り裂かんと振り下ろされたが眼前で止まる。
否、止めさせられた。

「ぐっ、次から次へと……メイド服を魔法鞄にするとは横着しおって!」

空っぽの甲冑から響くはあの錬金術師の子供のようでそうではない声。
その手足と胴体に巻き付いて行動を制限している鎖が誰らの手から
伸びているかを認めて悪態をつく。四方に散っていたメイド達である。
彼女らが放った分銅付きの鎖で縛られた巨躯の甲冑はその拘束から
逃れようともがくが全身から軋む音を立てるだけで鎖の締まりと
メイド達の膂力の前に微動だにできなかった。姫はにたりと笑う。

「効率的といってください。
 それに、女の服には秘密がいっぱいあるものですよ?」

「ちっ、まあよい。いまのは何じゃ?
 なぜ普通の武具がいきなり魔力爆発など起こす!?」

以前のリッチロードもだが学者肌の者は目の前の疑問を放置できないのか。
魔装闘法術と異世界人の発想が合わさって誕生した魔力の遠隔爆破は魂の
渡りが出来るほどの錬金術師をして未知のものだったようだ。

「さあ?
 魔導錬金術師ならお得意の頭脳で解き明かしなさいな」

「おりゃあぁぁっ!!」

素直に答えを教える義理はないと嘲笑する姫。
そこへ彼女と鎧人形の間に割り込んだカイトが全力のフルスイング。
大剣の腹を使ったその一撃はメイド達が鎖を放したこともあって
勢いそのまま鎧人形を反対の壁際まで弾き飛ばしていた。そこへ。

「我が魔力(チカラ)を糧としてこれより理の力を我は乞い願う。
 それは不浄を裁断する光の刃群……来たれ、(ギャレス)!」

珍しく(・・・)多重属性でもないのにされた長い詠唱に応えて、
彼女の前─カイトの左右─に銀光だけで構成された剣がずらりと並んだ。

「行きなさい」

号令にしたがって飛ぶ剣群は一直線に壁に僅かに埋まっていた甲冑に
全てが深々と突き刺さった。が、途端にガラスが割れるような音と共に砕ける。

「…物は試しと苦手な聖属性魔法を使ってみましたが、やはり対策済みですか」

「その様子ではこれが切り札、というわけではなかったか」

わざとらしく疲れたような溜め息が鎧からこぼれる。
光の聖剣により穴だらけとなった鎧から兜が落ちる。そこから這い出たのは
ゲル状の物体で意志を持つようにうねりながら拘りなのかまたも少年の姿に。

「ええ、数多の魔法属性の中で唯一魂に攻撃できるのが聖属性。
 ある意味あなたの弱点である以上、対策はなされてるのが道理。
 耐聖特化の結界を常に身に纏うとはなかなかに慎重ですわね」

まるで相手の対応を褒めるような言葉だが皮肉に満ちている。
錬金術師はその裏に「腰抜けの臆病者め」と罵る声を聴いた気がした。
大半が挑発目的の皮肉だったのだろうが彼はそれには流す対応をする。
魂の渡りによる不死性は魂そのものを攻撃されては当然無意味となる。
魔導に携わる者にとって聖属性のその特性は常識である以上、これほどの
錬金術師ならばその致命的な弱点を放置するとは考えにくかった。姫から
すればこれは確認のために放った魔法といえる。尤も分かっていたとはいえ
ここまで完全に防がれると魔法大国を背負う姫の一人としての矜持が傷つく。
だからこその皮肉でもあったが。

「確かめるためだけに消耗が激しい聖属性を?
 ……いったい何を企んでおるリリーシャ・アースガントよ」

文字通り抜け殻となった甲冑に腰掛けるようにしながら眼光鋭く問いかける。
教会が秘匿する理力を用いた術を魔法で真似たせいなのか。『聖』は属性魔法の
中で最も難易度が高く、消費する魔力量も破格である。また無詠唱での使用は
どれだけ腕をあげた魔法使いでも不可能という厄介な点もある。それを確認の
ためだけに無造作に放った事は疑問を通り越して、不審とさえいえた。

「別段、これといって何も」

「…まあ素直に答えるわけもないか」

状況を思えば気味が悪いほどのすまし顔でとぼける姫への懸念は強まる。
錬金術師は追いつめたつもりであったが彼女達の目にはそれ特有の色がない。
正しく状況が見えていないならともかく、理解しておきながらのその意味に
本当に警戒しなければいけない相手を見逃した彼は解らない。

「……テンコリウスの救援なら期待せぬことじゃ。
 あれは数だけは用意しておる。三日は抑えられるじゃろう」

「あら、なら三日持ちこたえれば私達の勝ちですわね」

手扇で口許を隠しながらくすりと笑う姫の態度は苛立ちを誘うものだが
それに引っかかってやるほど喋り方通りこの錬金術師に血気盛んな若さは無い。

「気付いておるか知らぬが、逃げ道ももはやないぞ?」

「存じております……まあ、壊せばいいだけですが」

逃亡するのを画策しているのかと疑っていた錬金術師は戦いながらも
屋敷中を壁で覆って物理的に塞いだ上に結界も張って閉ざしていた。
確かに彼女らが相手ではせいぜい脱出に時間がかかるものでしかないが
それはこの錬金術師を打倒できなければ作れる時間とはいえない。それでも
姫の顔にも、その他の者達の顔にも、絶望どころか諦観の色さえない。
かといって過剰なほどの希望に満ちた顔というわけでもない。現状を正しく
認識しているがゆえの緊張感とそれに屈していない強い抵抗の意志が垣間見える。
だからだろう。そんな態度にその錬金術師もさすがに自らが認識していない
何かしらの手立てがあるのでは、と勘付きだしていた。

「……思い当たる節はないが、面倒な」

「あら、なんのことですか?
 良ければ教えていただきたいですわ」

なんてことはないという顔で返した彼女だが胸中には焦燥がある。
気付かれた。それは姫の失策、とはいいきれない単なる時間稼ぎの限界の話。
怯んだまま、気が沈んだまま抵抗する形で時間を稼ぐほうが不自然であった。
だから虚勢を張ってる風を装って抵抗したつもりだったが失敗したと彼女は
臍を噛む。しかしどちらにしろ何もしていない者に彼は手を差し伸べない。
何よりただ時間を稼いで彼の助けを待つのは彼女達全員が『嫌』だったのだ。
自分達だけで出来ることをやっておかなければ、その助力を得ることも、
このまま一緒に旅を続ける資格もないような気がしていたのだ。だがその
現実的な話と感情的な理由で行った抵抗も狙いを見透かされては続けられない。

「ちっ、仕方ない。これを使うと素材が傷つくと思って控えておったが…」

顔つきが変わったと姫は息を呑む。これまでも不審さはあったそれだが、
主に表情を占めていたのは余裕と楽観だ。それがいま完全に消えてしまう。
本気になった。そう判断したメイド達はより強く緊張感を高め、カイトは
大剣を握り直して何が来ても対応できるように身も心も構えた。

「プライオリティコード『我が一輪の華のために』────シグナルオールカット」

だが、たったそれだけの言葉でそれらを打ち崩すような現象が起こる。

「なにを、っっ!?」

魔法使いとしての直感に囁くような、背筋をぞわりと駆け巡るような不吉な声。
詠唱とは違う、されど何かを命じるようなそれはその突然の異変を簡単に起こした。
がくり、とまるで糸が切れた操り人形かのように彼女(メイド)達が一斉に崩れ落ちたのだ。

「みんな!?」

方々に散る形で周囲や錬金術師を警戒していたメイド達はそれぞれの場所で倒れた。
思わず駆け寄りかけたカイトだが背後から聞こえた悲鳴のような叫びに足を止める。
動ける自分がここから動いてはいけない理由がそこにあった。

「フラウ! アリッサ! どうしました!?」

姫は自分の護衛として両隣に立っていたはずの二人を抱き起す。
メイド部隊では年長者組になり、共にステラの補佐をする立場の両名は
姫より少し年上の長身女性であったが軽く身体強化魔法を使えばそんな
女性二人を抱えることなど彼女とて難しいことではない。だがそれでも
二人の肉体はまるで意識の無い人間のそれのような嫌な重さがあった。

「っ、あ、ぁぁ……こ、これはいったいっ!?」

「ひ、め、さま、なにか、変です……か、体の感覚が、ありませ…っ」

意識はあった。ゆえに彼女らの表情にあるのは驚愕と焦りである。
目や口、そして首ぐらいは動かせるようだがそれ以外にまるで力が入っていない。
何が、と呆然としながら姫は他の者達の様子を見る。受け身すら取れなかったのか。
彼女らは硬い床と全身で激突していたが痛みに悶えることさえできないでいる。
そして姫が抱える両名と同じく意識はあったが指一本動かせない様子だった。

「うそっ、だめっ…魔法も使えません!」

「魔力がうまく動かないわ!」

それでも彼女らなりにこの状態から脱しようとしていたのだろう。
だがそれは体どころか魔力さえ思う通りにならない事を浮き彫りにする。

「きっ、さまっ! 私の部下()達になにをしたのです!?」

聞き慣れた、しかし珍しく怒りを見せつけるような声がホールに響く。

「ステラさん!」
「ステラ!」

思わず同時に声をあげた二人だがそこにあったのは歓喜でなく不安だ。
確かに彼女は自分の両足で立っていたが、それだけであったともいえる状態。
他の者達より体に力は入り、動かせるようではあったが得意の斧槍をまるで
杖代わりにし、その重量を重石にすることでなんとか立ってるだけ。常の
無表情こそ崩れていないがその鋭い眼光はこの状態を引き起こしたであろう
錬金術師への隠しようのない敵意と怒気を孕んで貫いている。今はそれしか
できないといってもいいが。

「………驚いたわい。
 一人か二人なら単なる動作不良じゃろうが、全員意識があるとな?」

それをそよ風のように受け流しながらも彼の顔にあったのは素直な驚き。
呆気にとられたといってもいい表情で下手人にもそこは予想外だったようだ。

「何故じゃ、経年劣化でどうにかなるものではないぞ?
 成長による浸食などあるわけもなし、神経系が独自進化? 馬鹿な。
 括りとしては人間ぞ、そのようなこと……ならば何故不具合が出る?
 ニコラスが術式でも仕込んだ? 馬鹿な、政治屋のあの若造に何ができる」

余程想定外であったのだろう。彼女達の事が意識にないかのように
ぶつぶつとああでもないこうでもないと一人で議論を続ける錬金術師。

「何かお父様を侮辱してるようなのが癪ですが、いまのうちに…」

原因は分からないままだが、このままではこちらが全滅する。
数の優位性が失われたばかりか動けなくなった彼女達は的でしかない。
余裕の意味を理解する。敵はいつでも彼女達を無力化できたのだ。

「引き延ばし策はもう使えそうにありませんね…」

未知の手段をとられたとはいえ不甲斐無さに歯噛みする。
結界と壁のせいで外部の状況が分からないが果たして自分達が稼いだ時間は
どこまで彼にとって有益な時間となっているのか判断がつかない。されど
今は次の判断を早々に下さなくてはいけない。

「みんなだけでも外に逃がそう。僕が壁や結界をなんとかぶちぬくから…」

「私が強引にでも風で飛ばします。屋敷まで届ければあとはシンが…」

気付かれぬよう囁き声で相談し合うがメイド達は当然気付いており
主を残して自分達だけ退避する事に苦々しい顔をするが現状自分達が
足手まといになっているのを理解してか沈黙を選んでいた。だが。

「ん、させると思うたか!」

壁をぶち抜こうと剣を構えたせいか。
気付かれぬようにだが魔法の準備をしたせいか。
それとも一人議論で出せる可能性が潰えたのか。
どの道、ふたりはそれを実行に移すことはできなくなった。

「────ロイヤルコード『反逆者は(こうべ)を垂れる』」

それはメイド達を無力化したのとよく似た雰囲気を持つ声と言葉。
途端に顔を青くした姫は自らのスタッフを投げ捨てながら叫ぶ。

「っっ、いけません! カイト様武具を捨て、きゃあぁっ!?!」
「え、なっ! ぐわあぁっっ!?」

しかしそれは遅かった。否、その言葉(コード)が発せられた後では意味がない。
まるで先程のメイドたちに起こったことの焼き直しだ。崩れ落ちるように
二人は倒れた。体中にまるで巨大な重石でもつけられたのかと錯覚する。
意識はある。体の感覚もある。動かせないということはない。だが、
動こうとすればその動きとは反対の力が内外から加わって邪魔をする。
カイトに至っては大剣の刃がまるで飴細工のようにぐにゃりと溶けたかと
思えば鎧の上から彼の体を縛り付けて固まった。

「このっ、このっ、ぐおぉっっ!
 あ、はぁっ、はぁはぁ、ダ、ダメだ壊せない! 鎧がなんか変だよ姫さま!」

何が起こったのか理解するより先にまず自らを縛るモノの破壊を狙った彼だが
飛びぬけて高い筋力を持ち、それをシンイチの教育で使いこなしつつあるカイト
でも全身にのしかかってくるような重みを引き離せない。それどころか力を
込めれば込めるほど重みが増していくように身動きが取れなくなる。

「あ、がっ……っ、こ、答えなさい!
 なぜそのコードを知っているのです!? それは私達直系王族だけが!!」

「その通り、だがだからといって知る方法が皆無というわけではないぞ姫よ」

そんなっ、と悲鳴のように嘆くリリーシャの横でカイトが疑問を顔に浮かべる。

「ふふ、知らぬであろう勇者殿にも教えてやろう。
 アースガントで作られたある一定レベル以上の武具や魔導具には
 直系王族に伝えられる魔力コードを発信することで自壊や機能停止、
 装着者の拘束などが可能になる術式が組み込まれておるのだよ」

「なっ、それじゃまさかこれは……なんでそんな機能が…」

「いやいや、当然のことだよ勇者殿。
 外に出した技術が自分達に向けられた時や強力な武具が反逆者の手に
 渡ってしまった時等を想定しておくのは為政者には当たり前の話だ。
 だからもう何百年も前から必ず組み込まなくてはいけないように魔法教育や
 法制度にもっともらしい理屈を付けて当時の王族が紛れ込ませたのだよ」

訳知り顔で得意げに話す錬金術師の言葉には何一つ間違いがない。
だからこそ彼女は声を上げずにはいられなかった。

「あぁ、なんてこと! 最高の装備を揃えたのが裏目に出るなんて!」

仰向けに倒れたまま動けない彼女はすまし顔を気取る事もできずに歯噛みする。
その装備を選んだのが他ならぬ自分であることが何よりも悔恨の念を強めた。
ナニカが起こるのをある種決定事項と考えていた彼女らは対策の一つとして
メイド達の収納空間に持たせていた武具の中で最上級のものを準備したのだ。
それは元々我が儘王女として振る舞うための演技の一環として国の宝物庫から
違法にならないぎりぎりの手段を用いて無理に持ち出したものであった。
ただ持ち出しても比較的問題の少ない性能だけが高い武具を選んで。
まさかそれに足をすくわれるとは夢にも思わなかった。

「いまお主たちは鎧にかけられていた本来挙動を補助する術式や
 肉体強化系の術が完全に逆に働いて動きを拘束しておる。当然ながら
 封魔の首輪並の魔法封じも発動していおるので何もできぬよ」

「ええ、ええっ! わかっていますとも!
 これが出来たのに、たった一言二言で私達を最初から無力化できたのに!
 それをここまで泳がしてくれるとはずいぶんとまあお優しい性格してますわね!」

自らの不甲斐なさと想定以上に軽視されていた対応に苛立ったのか。
皮肉まじり、といえはまだ聞こえのいい激しい怒気の含んだ声が飛ぶ。

「ふふ、姫がナニカを待ちつつも打開策を模索していたのでね。
 できればソレが判明するまでは付き合おうと思っておったのだが……
 老人の勘かの、それはまずい、と感じてな」

「それはもう運の良いことで! さすが年長者と敬えばよろしいかしら?」

「構わぬよ、中身がなくとも敬いたいなら受け取ろう……なにせ」

言葉を途中で止め、子供らしからぬ悪意に満ち満ちた顔で笑う老錬金術師。

「ここまで時間稼ぎに付き合ってやったのじゃ、それなりに好々爺であろう?」

「っっ、がっ!?!?」

「姫さま!?」

彼女は一瞬なにが起こったのか。誰が自分を案じて叫んだのかも分からなかった。
倒れ込んでいた床が爆ぜたのだ。天井に叩きつけられるように吹き飛んだ姫は
そのまま重力に身を任せるように落下して罅だらけの床を転がった。
一番間近にいたフラウとアリッサも巻き込まれて同じような有様だ。

「あぐっ、ぁ、ぅっ! っ、コードが!?」

彼女は全身を貫くような衝撃と痛みで意識が一瞬途切れたのを認識する。
拘束具と化した鎧はもはや布きれ一枚程度の防御力しかなく、身体保護の
結界も拘束機能による阻害で大幅に弱体化して機能していない。
それにより集中が途切れた事である術式が霧散した。

「くくっ、知っておるともリリーシャ・アースガント。停止コードがあれば
 当然その解除コードもある。直系王族たるお主は当然知っておろうな。
 苦境に喚いているだけなのを装ってそれを狙ったのはさすがといっておくが、
 その状態で使うにはお主でも一、二分はかかるじゃろう」

「それっ、でも!」

もはや隠すことに意味は無いと判断してか。彼女の手の平には魔力で形成された
小さな魔法陣が浮かび上がる。それこそが解除コードを具現化したものである。
だがそれは非常に不安定な形状をしており波打つ水面のように揺らぎながら
時にいくつかの線が消えたり途切れたりを繰り返して完成しきらない。
鎧の拘束機能による阻害を騙しながらの魔法陣形成は彼女の腕前を
持ってしても高い集中力と滝のような汗を要求した。その様子では
老錬金術師のいう時間があっても完成するかは怪しく思えた。

「往生際の悪いお転婆姫よな」

それでも諦めないのは一縷の望みをかけてのことか。
それとも完全に身動きできない彼女(メイド)達に注意がいかぬようにか。
あるいは一秒でも多くの時間を稼ごうとしてのことか。
本人にですらどれなのか全てなのかすら判然としないまま魔法陣に集中する。
だが生まれて此の方感じた事のない魔力の扱い難さにどうしても手間取る。
この時ばかりは才能が有り過ぎてその点で苦労してこなかった自分が憎かった。

「はぁ、そろそろ潔く覚悟を決めるがいい」

その必死の頑張りを見苦しいとばかりに老錬金術師は指揮者のように手を挙げた。
半ば椅子代わりにしていた穴だらけの鎧人形の一部が変化していく。
盛り上がるように出来た細い突起物は鋭き矢となった。その数、四。
一斉に放たれたそれはコード生成に集中する姫目掛けて向かう。

「姫さま! こ、のぉっ!」

それは火事場の馬鹿力とでもいうべきか。
射出された矢群目掛けてカイトは転がっていた床の破片を投げつけて叩き落す。
思いっきり以上の力。うまく動かない魔力を量による力技で強引に押し流すように
動かす。拘束ごと、常に反動を与えてくるような鎧の拘束を一瞬だけ追い抜く。

「っ…おやおや、箔を付けるだけの称号かと思いきやさすがは勇者殿か。
 仲間のピンチにはとてつもないパワーを出すか……まあそれで限界らしいがのぅ」

「はぁっはぁっはぁっ、あぁぁっ……くっ、そぉぉ…」

錬金術師の言う通りだった。
そんな一回の動作で彼はまるで何kmも全力疾走したかのような尋常ではない
疲労感に襲われる。しかしそれでも一度迎撃したことを警戒してか今度は彼が
寝転ぶ床が爆ぜた。痛みと苦悶の声をあげた彼は先程の姫と同じように弾き飛ばされる。

「だっ!? がっ……くぅっ!」

素の耐久ランクの差か一瞬も意識は飛ばなかったが気力体力魔力を
一気に消耗した身にその衝撃と痛みは意識を飛ばすように誘惑してくる。

「いうておくが殺されないと思うておるのなら甘いぞ。
 欲しいのはお前達というサンプルじゃ。別段生死は問わぬ。
 もっといえば最悪……手足や頭は別になくともよいのだぞ?」

「っ、よ、よせ、やめろっ」

落下の衝撃で息がまだ詰まっているような中でそれでも彼は叫んだ。
無情にもそれを待っていたかのように鎧から錬成された矢群が再び射出される。
もはやカイトには手段がなく、姫は先程から解除コードに集中しきってその
事態に気付いていない。そのまま彼女に突き刺さるのを見てるしかないと
思われた刹那。

「ぐっ!」
「あぁっ!」

二つの苦悶の声と飛び散った鮮血に姫の集中は即座に掻き消えた。
それが何を意味するか聡い彼女はもう気付いていた。だがまるでそれを
認めたがらないかのように緩慢な動作でリリーシャは顔を上げる。

「……フラウ? アリッサ?」

よく知る、幼少期から共にあった人物の後姿には異物があった。
彼女らのスラリと伸びていた美しい長身や手足を歪めるように矢が───。

「ぁ、ああっ」

まるで出来の悪いオブジェのようだと脳は現実逃避しかけていたが、
それよりも先に彼女の精神の方が悲鳴をあげて現実を直視させる。

「ひ、ひめさま……おにげ、くだ…かはっ」

「みんな……じかんを…ぁっ」

どちらも最後まで言い切ることができないまま崩れ落ちる。
リリーシャは声にならない悲鳴を上げたが駆け寄ることさえできない。
自らを盾として姫を庇った二人はあちこちを矢に貫かれていた。咄嗟にか偶然か。
頭部や心臓等、即死するような場所は避けられたものの放っておいていい傷では
ないのは一目瞭然。すぐに治療すべきだが誰も動くこともできず簡単な止血魔法を
施す事すらできない。息はしている。まだ意識もある。だが手立てがない。
倒れ伏した者達は床を指でかく事しかできず、立ててはいたステラも咄嗟に
駆け寄ろうとしてしまったのかよろけて膝から崩れ落ちてしまう。それが
どこか似た状態となった半月前を思い出す。そして同時にどこまでも彼には
自分達への怒気と呆れこそはあっても殺意が無かったのを実感させられる。
同じ重傷でもその加減の無さが余計に彼女達の「死」へのカウントダウンを
意識させる。しかし。

「バ、バカな……なぜそこまで動けるっ!?」

どうしたことかそこで一番の動揺を見せたのは老錬金術師の方であった。

「あ、あり得ん! あり得るわけが! 意識があってもせいぜい這う程度!
 一瞬とはいえあんな速度で動けるはずが! ワシのコードに不備など!」

何かしら(・・・・)を行った彼にとってそれが完全に作動しなかった点で首を傾げる事態
ではあったが動きは封じられたのでさほど重要視していなかった。しかしほんの
一瞬とはいえ普段の動きが出来るとなれば話は別である。確かにあの二名が
一番姫に近い位置にいたが直前まで動ける素振りさえなかった。それが
爆発的ともいえる速度を出して我が身を投げ打ったのだから。
なぜ、そんな動きが出来たのか。推測すらできない事態に、自分が
仕込んでいたモノに絶対の自信があったゆえに、彼はあり得ないと喚く。
皮肉にもその姿は外見通りの子供らしい駄々のようですらあった。

「お前、うるさいよ」
+注意+
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