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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」

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04-83-05 理不尽の掌2

ここまではできていたのだけどね。
もっと書いてから、書いてから、としてたらいつのまにかもう月末とかなにさ?
す、すべては夏の暑さのせい、そう夏の暑さのせい!

あとはやっぱとある無人島で低レベルなのに素材回収しまくってたせいか?
そうか、石は回すためじゃなくてコンティニューでゴリ押しする道具だったか。
……まあうちのカルデアには水着の父子が揃ってるのでもういいかな…………


もっと一部がでかい方が良かったとかまったく思ってませんよ?



もはやそれは“戦い”などと表現できる光景ではなかった。
星の数ほど設置された天空の砲台から放たれ続ける炎の砲弾。
一発、一発はせいぜいが拳大でそれだけならスケルトンや不死の王には
幼子が小石を投げつけてくる程度だったろう。着弾後に炸裂するような
いやらしい設定が施されていても、だ。しかしその数と密度が尋常ではない。
流星群ほど可愛らしく(・・・・・)もなければ雨あられでも程遠い(・・・)。重ねていうが一発、
一発は拳大だ。ただそれが数億単位(・・・・)で連続して隙間なく降ってくる。
それは“空そのもの”が秒単位でとめどなく落ちてくるようなもの。
終わらない火の空による圧迫と圧潰と爆炎に爆裂の円舞。

真っ先に叩き落されたのは低空を舞っていた骨だけの怪鳥や飛竜達。
翼を撃ち抜かれ、バラバラとなった骨が地上のスケルトン達へと墜ちる。
それだけなら落ちた怪鳥も飛竜も、巻き込まれたスケルトンたちも
再生の時間さえ与えてくれれば数秒で元の形状を取り戻していただろう。
ただ彼らを襲う空そのものような砲弾にはその慈悲はなく、放たれ続けた。
追撃かトドメかダメ押しかの判別もできない地上を呑み込む墜ちる火の空。

大剣や盾を傘のように構えて防ごうとしたスケルトンたちもいたが
着弾後の余波や炸裂の衝撃の前では一方向だけの防御は意味がなかった。
名工の鎧も盾も、伝説の大剣も、無残に砕け散って使い手達と共に灰と化す。
中には魔法耐性を持つ武具もあったが無効化ではなく耐性では使い手達と
同じくいずれ耐え切れなくなる。抵抗力があるならそれが無くなるまで
ぶつければいい。あるいは通る僅かなダメージを壊れるまで蓄積させて
やればいいという技術も戦術もへったくれもない考えの前に骨の兵士達は
欠片さえ残せず散っていく。

ブレスを吐いて対抗しようとした骨竜もいたが、いかに疲労というものが
無いスケルトンといえども永遠に吐き続けられるわけではない。体力は
無限でも魔力は有限なのだ。ましてや幾度も落ちてくる火の空という質量と
物量を前にすれば個体のパワーでは強力なブレスといえど簡単に押し切られて
彼らは圧潰するか燃え尽きるかの末路しか用意されなかった。

そうして火の砲弾という名の空ごと落ちてくる絨毯爆撃は容赦なく、
空や地上の支配者ぶっていた骨の軍団をただただ数の暴力という力技で
強引に、そして単純に押し潰して“焼滅”させていく。



──────蹂躙



そうとしかいえない光景に誰もが言葉もない。
元より当事者の大半は言葉無き者達ではあったが喋れる者達も声を失っている。
三万五千とたった一の戦力のぶつかり合いで起こったそれはあまりに衝撃的だ。
逆であるなら当然だが蹂躙しているのが『一』の戦力だからこその異常。
それも超常の力で無双しているのならばともかく、下級の砲台魔法をただ
尋常ではない数で設置して撃ち続けているだけなのだ。それで痛みも
徒労も恐怖も知らない三万を超える骨の軍団が見る影もなくなっていく。
不死の王が三百年かけて揃えた精鋭が、ものの数十秒で骨片すら残せず灰となる。

「ふ、ふふ……あははっ、ハーハッハッハッ!!!」

ただ爆音と轟音と僅かに骨が砕け散る音しか響かぬはずの爆撃地。
その中で不死の王は誰かの高笑いを確かに聞いた。狂ったように、こちらを
嘲笑うように、少年が耳障りな笑い声をあげている。視界すら定まらない爆撃の
海の中でもあの三日月と共にこちらを見ていると何故か解る事にグルドは震える。

彼は満身創痍だった。
名のある凶悪な魔獣の皮から作ったあらゆる防御術式と状態維持の術が
刻み込まれたローブは布片すら残せぬほど燃え尽きており、その他の
多種多様な効果を持たせた装身具も欠片すら残っていない。それでも
骨の体を総じて四十秒は守っていたのだから面目躍如といえなくもない。

またいくら怯んでいたとはいえ彼は最初から抵抗を試みてはいた。
持てるだけの、知るだけの防御の秘術を使えるだけ使っての攻撃準備。
八秒しか耐えられなかった紙の結界であったがその隙に天空の魔法陣を
直接狙う攻撃魔法を二十四個準備し放ったが弾幕という名の落ちてくる空を
前にしてはどれも木々の高さを超えられなかった。持てる魔力を、秘術を、
禁術を用いたが斉射開始から一分弱の辺りで彼は抵抗を諦めた。そこで
手持ちの装備も防御も全て燃え尽きてしまったのだ。だから必死にまだ
残っていたスケルトンたちの骨をかき集めて自らを守る壁として組み上げた。
砕ける傍から残った魔力を総動員させて即座に組み直すという行為を繰り返して。
そうして星が落ち始めておよそ二分。その非常識な絨毯爆撃の斉射は止まった。
たった二分。百二十秒程度で全てが終わり、何もかもが変わっていた。

森から山へと続く大地は無残にも、されど最初からその状態であったかと
疑うほど大規模に、元々がどうだったか思い出せない程に地形が変わっていた。
一直線に敷かれた幅広い窪み。その底にある地ならしをした後のような整った大地。
まるで干上がった大河川。全てを押し潰すような空の連射は破壊というより
整地に近いことを偶然か意図してか行っていた。

「ぁ………ぅ、っ………ぁ」

そんな冗談のような爆撃をグルドは─幸か不幸か─なんとか乗り切った。
しかしそこに安堵の感情は皆無であり、大地に倒れ伏して呻く以外の反応を
見せないソレは見た目通りの白骨死体かのよう。もう満身創痍などという
状態すら超えて、意識がまだあるのが不思議な程だ。元の形が見られるのは
髑髏と上半身のみ。だがそれも肋骨は下半分が失われ、左腕は跡形もない。
右手も指は一本も残っておらず、頭部も罅だらけで下顎は右半分が欠けている。
そしてそこに宿る本体の魂もその力を大いに削られていた。

「っ、ぁぁ……ぅぅ」

魔法が効きにくいといってもそれはダメージをゼロにできるわけではない。
理屈の上では知っていた話を実感しながら言葉にならない声で喘ぐグルド。
例え気にする程でもないダメージしか与えられずともそれを一秒ごとに
数百万発分も受け続ければ蓄積するそれに耐えられなくなるのは自明だった。
長い年月をかけて水が硬い岩等を削ってしまうようなもの。
これはただそれをとてつもなく短い時間で再現したに過ぎない。
この場合削ったのは途方もない数の火の砲弾で、削られたのは
不死の王(リッチロード)の器と魂とその三万五千の兵力というだけ。

「──────あらま、なんとか残っちゃったか。可哀そうに」

「っっ!?!?!」

少年(アクマ)の声が間近で聞こえて弱った魂が悲鳴をあげた。
眼窩の奥の─弱まった─暗闇の目は一度周囲を見回したが姿が見えない。
それでも思わず逃げ出そうとして下半身(アシ)が無い事に気付いて止まる。
手を使おうとしたが片腕でしかも指がないため、半分以下に(より軽く)なった体でも
満足に動かす事ができない。それでもただただ恐ろしいという感情が、
そこから逃げようとする感情が無駄に土を腕でかいてしまう。
その腕に突如重みが加えられた。

「っ!?」
「慌て過ぎだ。まずはしっかりと声の方を見ろ」

静かな。
嘲りも哀れみも無い声に誘われるように気付けば普通の視界を開いていた。
力が残っているスケルトン兵の骨を集めようと不死者特有の視界のみに
なっていたのだとそこで初めて気付く。そして仮面のような無表情で
自らを見下ろし、唯一残った腕を踏みつけている少年をやっと見つけた。

「ひっ、ぁ、が……ぁぁ…なぜ…どうやった?」

「ん?」

より一層の悲鳴をあげる部分も勿論グルドの中にはあった。
なのに口から出たのは、真っ先に思ったのは『何故』という疑問の声。
それは少年をきちんと認識したからこそ余計に強く感じてしまう。

「わ、わからないっ。なぜこんなことができたのだ!?
 お前は確かに一般人以下っ、いくら下級でもあの数では魔力が足りないはずだ!」

腐っても(骨となっても)その知的探究心に従った存在ゆえか。
疑問を、知りたいと思った事を前にしてそれが一番に口から出た。
確かに気持ち程度のダメージでも蓄積すれば不死者の抵抗力をも突破する。
そのために使われた砲台魔法も一つ一つは僅かな魔力で作成できる。
一発ごとに消費する魔力量もたいしたものではない。しかしながらそれも
同じ理屈で積み重なっていけば莫大な魔力量となる。だがどう“視”ても
この少年(アクマ)は確かに悪辣だが魔力保有量は並以下である。
周囲に散らばっていた魔力残滓は根こそぎ回収されていたが、
それでもこれほどのことを起こすには魔力がまるで足りない。

「……頭の次は目も空っぽか」

こうなっても問うてきたことかその理由に気付かぬからか。
溜め息一つ吐いた少年はただ自らの腕をその掴んだモノごとあげて見せた。

「グルドくんさ、俺がなんでこの姫さまをわざわざ持ってたと思うのよ?」

「ぅ、ぁ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

少しばかり苦悶の声を出したものの壊れたように謝罪を繰り返す姫。
それはそれで異常ではあったがグルドはさすがに三百年を存在し続けた者か。
疑問に関わる事として出たその発言が答えそのものであると気付く。

「っ、まさか……そ、そんなバカなっ!
 アースガントの姫から魔力を奪ったとでも!?」

にいっとした笑みが浮かぶ。
同意のうえでの譲渡ならば現在のまっとうな魔法文化にもある技術だ。
だが強引に奪うとなるとそれは禁術や邪法の類の領域にあるやり方である。
グルドは当然知っており、また過去には何度か実際に使った覚えさえある。
ただそれは力尽くに他者からその生体エネルギーともいえる魔力を奪うため
対象者はその喪失に強い苦痛を感じて最終的には死に至ってしまうという代物。
様子はおかしくはなっているが痛みも感じずに生きている姫の姿はグルドの
知るそれらとは明らかに様子が違う。

「そのまさかだよ、こいつの魔力ランクはS-という破格のもの。
 この程度ならせいぜい3割といったところだろうよ」

「バカな! だからこそ姫には複数の封印や外部干渉を防ぐ術が施されて!
 いや、そもそも同意なく魔力を、それも苦痛を与えずになど!?
 道具も魔法陣も無くそんなことが! あり得ん! なんだその反則は!!」

いったいそれはどんな手法だというのか。
知る限りの禁術や邪法を照らし合わせてみるが見当もつかない。
姫に施された数多の術が今も機能しているのは視ればわかる。
そこに触れずに、対象が呆然自失な事も踏まえても何も感じさせずに
その莫大な魔力を奪い取るというのはどう考えても不可能な所業だった。
いわば幾重にも頑丈な鍵や強固な壁で守られている倉庫をどこも壊さずに、
誰にも気付かせずに、中の宝だけ盗んでしまうようなものだ。いったい
そこにはどんな反則(トリック)があるというのか。

「はぁ……あっちのメイド達もそうだがよ、チャンスはあったんだから
 まず最初に相手のステータスをチェックする癖つけた方がいいぜ?
 自分に自信がある奴ほど怠っていくから俺と戦おうなんていう馬鹿をする」

「ステー、タス?」

呆れた顔でやれやれだといわんばかりに首を振る。
しかしなぜここでステータスの話が出たのかグルドは内心首を傾げた。
そこへ。

「────ぃゃあああぁっっ!?」

突如、女の悲鳴が響いた。
緩慢な動きで視線を向ければそれが倒れ伏したままのメイドの誰かだと知る。
そのメイドは顔面を蒼白にして小さなカードを掲げるように持っていた。

「どうしたのクララ!」

「ス、ステータスが!
 こんなっ、うそっ、私達こんな相手に仕掛けて! ひぃっっ!」

恐怖に慄いたような顔で下すことも怖くてできないカードを暗に示す。
慌てて駆け寄った他のメイドもそこに浮かんだモノを見て、目を見開く。

「っっ、そ、そんなっ…ぎ、技量がSランク!?」

あり得ないそのランクに一瞬唖然となった彼女達は咄嗟に、
各々にステータスカードを翳して彼のランクを測った。そして。

「ぁ、ぁぁっ……う、嘘でしょ、こんな!?」

「ほ、他は全部Dだけど……技量がSって、何よそれ!?!?」

「っ………………」

悲鳴のような絶叫と死者のような沈黙が一気に広がった。
ざわり、と空気が変わる。訳の分からない強さに身を竦ませていた彼女達だが
それを理解できるステータスで表された事でその畏怖を明確な形で認識した。
だからこそ皆が皆、体を小刻みに震わせながら怯えた目で少年を見ている。
だからこそグルドはそのランクが嘘偽りや間違いなのではないと理解した。
何より、そうであるならばこの状況は納得がいくのだ。絶望的なまでに。

「技量が、S………は、ははっ、なんだそれは?」

他がオールDである事など何の慰めにもならないデタラメに高すぎるそのランク。
ステータスの他項目とは同じ表記(ランク)でも意味が違うのは子供でも知っている常識だ。
Cランクで一人前、Bランクで達人、Aランクで英雄級といわれるのが技量ランク。
そこからさらにAAやAAAを超えた先にあるのがSランク。伝説の中にすら
出てこない便宜上のランクといわれるその階位。それはもはや化け物や伝説を
通り越した神話の中のカイブツだ。何せソレは英雄達が幾人も集まり、必勝の策や
強力な武具を用意した上でなお苦戦し最終的に英雄達の天運と勇気─と話の都合─が
揃ってようやく勝てる相手だ。単独で見た場合、神話の中のカイブツはそれを結果的に
倒す英雄達より遥かに強い。例えこちらが百万の軍勢でも敵対した時点で敗けている。
否、勝ち負けの概念で語れる相手ではない。ただただ戦ってはならない相手。
いかにして敵に回らないかを考えなくてはいけない歩く天災。


──それが目の前にいる少年の正体


「ぅ、あ、ぁぁ………なんでそんな奴がいるんだぁっ!?!?!」

だから彼女達と同じように絶叫しながら、不死の王は子供のように喚き散らした。
五体の骨が満足にあったのならそれこそ裸足で逃げ出すか腰を抜かしているだろう。

「ふざけるなよ、なんだよそれは!
 い、いやだっ……頼むから許してくれ! 知らなかったんだ!
 こんなのあんまりだ! 助けてくれっ! こんなところで終わりたくない!」 

それだけそれは万が一にもあり得ない不運。
数百万人分の不幸を寄せ集めたような天文学的な確率の遭遇。
そんなモノに目を付けられた彼はまるで支離滅裂に嘆きながらも
必死にその災害(・・)から逃れようとしていた。

アクマなど、なんとも可愛らしい表現だったか。
三百年存在したリッチロードもコレの前では何の意味があるのか。
グルドの疑問もたいした話ではない。技量がSならそれは朝飯前。
どういう理屈か手法かなどではない。それが出来るからこそSランク。
その前では原理や理論、手段の方が己を曲げて頭を垂れる(・・・・・)
生物が呼吸するレベルで伝説級の魔法を従える(・・・)
それがその階位の異常さにして当たり前。

「そうか、消えたくないか………なら、頑張ってね」

まるでそれを裏付けるような、にっこりと─胡散臭い─朗らかな笑みを
浮かべた少年は指を鳴らした。たったそれだけの動作でSランクの衝撃に揺れて
いた空気に淀みが生じる。重く暗いどろりとした陰鬱した空気が、リッチロードから
すれば馴染み深く且つ活力を与えてくれるようなものが満たされていく。
そしてソレが現れる。

「なっ、怨霊どもが……集まって、きた?」

ヒトからすれば寒々しい気配を、不死者からすれば心地よい空気を、
纏っているのはかろうじて人型を見せているかつてヒトだった者達。
揺らめく幽体は負の想念が集まった存在ゆえ毒々しい色合い。どれも
髑髏を潰したような目鼻や口の穴が開いているだけの相貌で差が見えない。
言葉にならない声をもらして呻いているソレらはグルドと少年を囲むように
徐々にその数を増やしていく。そしてカレらに向かって少年は厳かに告げる。

「………お前達に機会を与えよう。
 恨み、憎しみ、怒り、嘆き……いくらでもあるだろう。
 今ここで俺がそれを刃とする……ほら、お前達を殺した奴はここにいるぞ」

少年(天災)は指し示すは大地に転がった髑髏(自分)
それに釣られるように怨霊たちの視線がゆっくりとだが向けられた。
途端にその目に赤き狂気の色が浮かび、その手には憎悪の刃が現れる。

「っ、死霊兵(レイス)!」

誰かがその姿を端的に表して叫ぶ。
半透明で不安定に揺れていた姿がこちらに確かに干渉できる身と力を纏う。
幽体のまま、されど宿る無念が向かう先を得て形が定まり、鋭利な刃を持つ。
武装した悪霊と呼ぶに相応しい姿は凶悪で不気味。スケルトンが骨や死体を
媒介にした不死の兵ならばレイスは死霊そのものに現実に干渉できる力を
与えて使役するもの。どちらも禁忌の術に分類される。

「なんて、ことを」

死者を冒涜する行為なためか誰かの嘆く声が漏れるが当人達は聞いていない。
少年はただ笑みを浮かべるだけで、グルドはただ呆然とするだけで、そして
レイス達の赤い眼孔からは─────激しい憤怒と憎悪と悲嘆が溢れだした。

『オノレヨクモォォッ!』

『カエセカエセカエセッッ!!』

『ウバッタ、ナニカモオマエガァッ!!』

『シネシネシネシネシネ、シネェッ!!』

『アノヒトヲカエシテ、アノコヲカエシテ、ワタシヲカエシテェッ!!』

声が、殺意が、形を持てばこれほどに重さを持つのか。
蚊帳の外であるメイド達が背後であまりの重苦しさに呻く中、
積み重なった恨みが込められた複数の刃が次々とグルドを貫く。
どこから、そしてどれだけ湧いてくるのか怨嗟の刃は加速度的に増えていく。
幾重にも突き刺さった刃によって担がれるように宙に浮かぶ崩れかけた白骨。
その切っ先は骨そのものではなく確かにその中身に差し込まれている。
それをしっかりと感じ取りながら、だが髑髏の顔がにいと笑う。

「フ、フハハ! じつによい! じつに心地よいぞぉっ!!!
 いくらでも憎め、恨め! それこそが我には最高の馳走だ!!」

高笑いと共に次々と差し込まれる死霊の剣を受け入れるリッチロード。
数多の贄と血肉をもって不死者となった彼に、そこにある無念と憎悪は
これ以上はない程に己が魂に馴染む栄養でしかない。ましてやそれが
自らの手で害した者達。いったいどうやってこの場に呼び寄せたのか。
相手がSランクともなれば方法を推察するのも馬鹿らしいとばかりに
注ぎ込まれる怨念を彼は満面の笑みで飲み込んでいく。

『オオオオオォォッ!』

『コロセコロセコロセコロセッ!!』

それを理解できないのか。
哀れ、目の前の仇敵にのみ思惟が向いているレイス達の刃は止まらない。
十を超え、百に迫るそれを嘲笑いながら受けるグルドの器たる白骨は
傷つくどころか、増していく(・・・・・)

「……も、元に戻っていく!?」

これ以上は無い活力を得た以上、無様な姿をさらし続ける必要はない。
失った部位を再生させ、元の姿と力を取り戻す。そう考えたグルドは、しかし
すぐに否と首を振って哄笑を響かせた。

「クッ、ハハハハッ! すごい! すごいぞ!
 さすがはSランクが作ったレイスどもだ!
 なんて完成度! なんて純度の高い憎悪と嘆き!! 最高だ!!」

自らに流れ込むそれらの負の想念はかつて彼が取り込んだ以上の上質さ。
今まで糧としていたのが泥水かと疑うような豊潤な死と怨みの香りに酔いしれる。
元に戻る、程度ではない。かつて以上に自らが滾っていく。力が、死が漲る。
無数に突き上げる、増加していく刃に担がれた白骨は失った五体をあっさりと
取り戻すと溢れ出るような負の想念を身に纏う。吹き出した瘴気が漆黒の
ローブとなり、蛇を象った禍々しい杖となり、どす黒い宝石で彩られた王冠となる。
発せられる邪気もその淀んだ気配も先程までとは比べ物にならない。

「っ、ぁぁ……なんてことっ、力が増して!」

敏感にそれらを感じ取ってか。誰かの怯えの混じった声が心地よい。
これこそ真の不死の王(リッチロード)のあるべき姿であると眼窩の奥で闇が煌めく。
今ならば手が届かなかった禁忌の深淵にまで手が届きそうだと高笑いが止まらない。
次々と注がれる際限の無い憎悪がもたらす多幸感と歓喜にカタカタと骨を鳴らした。
心成しか全身の骨も太くなっているような気配すらある。否。

「なんとっ! そうとも何故気付かなかったのか!
 人間サイズに拘る必要は無かった! 我は偉大なる不死の王なのだから!」

本当に自らの骨の大きさが変化していた。より太く、より長く。
グルドはそれでいいと感じた。死から逃れられぬ哀れで下賤な者達と
同じサイズでいる必要は無いのだと。より巨大であってしかべるきだと。
レイス達の刃が剣山のように並ぶそこを玉座とするかのように不死の王は
注ぎ込まれる怨念による沸き上る高揚感のまま両腕を広げた。既にもう
元の大きさから1.5倍ほどに増量している。だがそれは単に身長や体格が
変わったのではない。端的にいえば、体積が増えている。もはや形だけが
ヒトと同じで違う種族の骨だといわんばかりの大きさ。そしてその増量に
よる膨らみはまだまだ終わる気配が見えてこない。

「クククッ、なんとも素晴らしい! 僅か数秒でこれか!
 いったいこの三百年はなんだったのだ! アハハハッ!!」

巨大化していく自らの器。それは注がれる負の念を糧にリッチロードと
化した己が魂がより強大になっていく証左である。三百年に及ぶ研鑚と
研究では届かない領域に軽々と到達しようという事実に憤慨はなく、
待ち望んでいた瞬間に手が届く狂喜に心を躍らす──────しかし。

「これこそ我のっ、む?」

最初の違和感は広げた腕。手にしていた蛇の杖が手元から落ちる。
変わらず突き上げてくるレイスの刃にそれが貫かれて霧散したが彼自身は
膨らむように巨大化する腕に次々と音を立てて罅が入っていくのを見た。
そしてそこから砕け散る指先の骨。骨片となって散らばった手は、されど膨大な
負の念を注ぎ込まれるグルドにはさしたることではなく自動的に再生された。
ただ、それは。

「な、に?」

砕けた骨が元に戻ったのではなく新しい骨の手が再び生えた。
それは不死者固有の復元力ではない。膨大な怨念による力尽くの再生。
何かが変だ。そう彼が感じた時にはもう3倍にも体積が増えていたグルドだが
全身にひび割れが走り、次の瞬間に砕けては再生するという事を繰り返していた。

「くっ、なんだ!? おっ、がっ、これは、いった…んぐっ、ぉぉ!」

両足の脛骨が割れて恨みの剣山に転がる。起き上がろうと動かした上腕骨が
弾け飛び、戸惑う内に両足が元に戻って強引に立った状態に起こされる。
下顎骨も何度も砕けては再生するため感覚的に発声がうまくいかない。
まるで剣山の上で下手な歌と踊りを披露しているような動きだった。

「ふぉれはっ、くっ、なにぎゃ!?」

謎の自壊と自動再生。痛みは無い。されど彼のコントロール下にも、ない。
不死者にとって骨の身体はただ他に干渉するための触覚でしかない。それが
好き勝手に壊れては、欠損部位を好き勝手に生えさせる。思い通りにならない。
それどころか宿る魂を振り回すかのような狼藉。ただただ苛立ちが募る。が。

「いったいなんだと!」
「ふふふふっ」

静かな、それでいて骨が砕ける音より小さいはずなのによく聞こえる嘲笑に
何よりも意識が引き寄せられる。見れば少年の顔に浮かぶ三日月の微笑。
息を呑む。ついさっきまであったほろ酔い気分にも似た高揚感も、
今芽生えたばかりの苛立ちも、一気に霧散する。そして思い出す。
こうなる前に少年が告げた言葉を。

『そうか、消えたくないか………なら、頑張ってね』

それは頑張らなければ消えることを暗に示してはいなかったか。
そうであるならば、と自らに意識を向けてグルドは無いはずの背筋が
凍ったかのような感覚に陥る。はっきりと自覚したのだ。その異変を。

「ま、まさ、か……我を、リッチロードたるこの我を怨念で押し潰す気か!?」

少年は答えない。ただ変わらぬ三日月を見せるだけ。
しかし原因はそれしかなかった。不死者の本体はその魂である。
ヒトの魂から邪法で変異したソレの栄養源はあらゆる負の感情だ。
極めて純度の高い濃密で多量の憎悪と嘆きが注ぎ込まれて確かに力は増した。
自らの存在階位が上がったのを───否、上がり続けているのを感じている。
彼自身の技量も魂の容量も邪法の腕前も関係なく、ただただ力が増していく。
骨と同じく(自ら)が強大になっていくのを確かに感じ取りながらもグルドは
それをどうしてか皮袋に際限なく大量の水を注ぎこんでいるようにしか思えなかった。

「おぉっ、がぁっ! バカな、こんなバカな事がっ!」

「ちゃんと真面目に勉強しておかないからそうなる」

まるで親が子の不勉強を叱るような言葉が聴覚に入って、流れる。
それどころではないのだ。彼が許容できぬ量で、彼が扱えぬ濃度で、
彼の制御下にないあらゆる負の念が延々と注ぎ込まれてくる。

『ユルサナイユルサナイユルサナイッッ!!!』

『タスケテクレルッテイッタノニ!』

『ナンデヨ、ナンデヨ、ナンデヨ、ナンデェッ!!』

レイス達はグルドのそんな状態や戸惑いなど知らぬとばかりに。
事実見ていながら目に入ってないレイス達は憎悪と怒りと嘆きをぶつける。
その数はまだ増えていた。そして彼がそれを持て余しているというのに
怨念達が減る様子は微塵も見られず増える一方。

「グアッ、ぉ、オオオォッ! もうやめてくれ、これ以上はいらぬ!!」

久しく、本当に久しく覚えていない腹が破裂しそうな満腹感。
だというのに誰もそんなことを気にせず食べ物を注ぎ込んでくる。
リッチロードの魂はそれを拒絶する性質を持たない。ヒトでいえば
呼吸のようなものなのだから。だから破裂しそうな自らを気を張って
なんとか維持しながら縋るように少年に訴えるが彼は肩を竦める。
まるで自分はもう何もしていないとでもいいたげに。

「…悪いけどさ、最初から制御とかしてないんだ。
 単にお前にこびりついてた残留思念とか纏わりついてた怨念とかを
 レイスにしてお前に干渉できるようにしただけなんだよねぇ」

悪びれる様子もなく、少年はだからもう自分には何もできないと嘯く。
元からそうやってグルドを追い込むつもりだったのだと何より雄弁に
その三日月が語っていた。

「あっ、あがぁぁっ!! くそ、そんな馬鹿な! よせお前達!
 もう入らぬ! こんな、濃すぎる! 多い、消化できぬぅっ!!
 リッチロードたる我が、恨みで、憎しみで、こんな、うごおぉぉっ!?!」

数多の怨念と屍の上に成り立つ不死者、そしてリッチロード。
それがその根源であり活力源でもある怨念によって追い込まれていた。
その非常識、その理不尽、その不合理さに彼は悲鳴のような唸り声を上げる。

だがその間に自壊と自動再生のバランスは崩れていた。
内部から破裂するような崩壊に再生がもう追い付いていない。
それはそこに宿るリッチロードの魂が際限ない程に膨らんでいるから。
ここにきて“なぜ骨が巨大化しているのか”という事象の原因を察する。
加速度的に膨らむ魂を抱える為に骨の器が体積を増やす事で対応したのだ。
だがその苦肉の策ではもう限界であった。

『ムクイヲウケロォッ!!』

「やめろといっ、おがあぁぁっ!?
 もう、入らなっ、ああっ、やめてくれぇっ、グ、ぐるジイぃっ!!」

『クルシメッ、ワタシタチノヨウニクルシメェッ!!』

終わりのない怨嗟の渦が、ついに骨の器(からだ)の限界を超えた。

「あっ、がっ、ぐ……があぁぁっ!
 ワ、ワレ、の、からだが、ぁ、うわあ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛っ!!」

断末魔の叫びと共に彼と三百年共にあった生来の骨は呆気なく
砕け散って、その骨片すらすぐさま砂と化して風に舞う。

「……やった?」

「ここでフラグ台詞はやめてくれ、本気で笑いそうになる。
 まあ……そもそも誰も逃がす気はないみたいだが」

メイドの一人がこぼした何気ない呟きにおかしそうに少年はそう返した。
その視線の先。レイス達が掲げるようにグルドを突き刺していた空間。
被害者達の怨嗟はまだそこに注ぎ込まれている。

「器を捨てて逃げるつもりだったか?
 甘い、甘い。それが魂そのものに突き刺さってるのを忘れたか。それに──」

指が鳴る。途端にその姿が誰の目にも映る。
そこに浮かぶはどす黒い魂の力で形作られたおどろおどろしい髑髏。
優に大人三人分はある横幅と全高を持つ大きさと雰囲気は本来なら見る者達を
怯えさせるものではあったが、幾重にも突き刺さる恨みの刃によって
それは確実に苦しみの声をあげていた。

「おっ、オオオォッ! ヤメロォ、キエルッ!
 ワレガッ、オウたるわれがっ、ツブレ、るゥッ! キエテシマウッ!!」

『オレタチガウケタイタミヲアジワエェッ!!』

『ケシテヤルッ、コノヨカラケシテヤルッ!!』

「──まだ、彼らの憎悪は尽きていない。
 ほら、御馳走なんだろ? もっと堪能していけよ、お前が消えちゃうまでさ」

三日月が笑う。くくく、と喉の奥で嘲笑が響く。
聞いている余裕などないのに、それがグルドの精神(ココロ)をさらに甚振る。
限界だった。もてる力と知識を用いてもこれ以上の怨嗟を彼は受け取れない。
必死にこらえていても時間の問題。あとはもう先程の器と同じように魂も
破裂するのを待つだけ。それでも、そんな状態でも。

「オオッ、ナゼダ!?
 ナゼ、コレほどのコトがデキルおまえガっ、我などヲネラウ!?」

グルドは、何故、という疑問の声をまたあげた。
もう助かる道など無いと理解してか疑問を追い続けた道のりだったからか。
それともあまりにも自分を苦しめる事に念頭を置いた手管の数々だったからか。
自分はどこで、どこから、どうして、この天災(オトコ)に狙われていたのか。
それが知りたくてしょうがなかった。しかし。

「ふふっ」

「ッ!?!?」

まるでその質問を待っていたといわんばかりの凶悪な笑みが浮かぶ。
莫大な怨念に押し潰されそうなグルドが一瞬それを忘れて怯むほどで
してはならない問いかけだったのではないかと体も無いのに震えが止まらない。

「いいよ、教えてやろう。聞くも涙、語るも涙のその理由を」

それが見えているだろうに少年は平然と語りだす。
グルドは一瞬、少年の顔にある三日月がそれを突き破りかねないほどの
弧と鋭さを描いたように感じた。そしてその証明のような答えが続けられた。

「────────ストレス発散だ」
はい、ということでひどい理由が来た……まあ戦闘中に彼が言ってることが
どこまで本音かは怪しいですが。

あと、やっとこの世界的にSランクの凶悪さがわかってもらえるかと。
シンイチがあまり人里にいなかったのは生来の人見知りと騒動誘発体質もあったが
いちいち隠蔽や改ざんしないとバレるたびに町中がパニックに陥るから、もあった。
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