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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」

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04-83-04 理不尽の掌1

ついに、というか今更スマホに手を出してしまった。
買う前は興奮していたのだが、大金支払って実際に手にして、
これを果たして自分は使いこなせるのか、払った金の分の価値を得られるか
と急に不安になってお腹が痛くなってしまった筆者でした………




人間の知的好奇心や探究心には果てが無いといわれる。

知っていることが増えた分、解らないことも増えるからだろう。

沸騰した水はどうして減っていくのか。

水蒸気はどこにいくのか。

雲は何で出来ているのか。

雨はなぜ降ってくるのか。

降らない地域とよく降る地域の違いは何か。

天候のコントロールは可能なのか。

一を知れば十を求め、十を知れば百を求める。

ゆえに果てが無い。

それはもう端的に欲望と言い換えてもいい衝動。

ある程度までならば、それは持つべき疑問への追求心。

ある程度まで知れば、人は往々にして納得して止まる。

ただ世の中には一定数、ある程度、で終わらない者が出てくる。

学者。研究者。求道者。探検家。偉人。狂人。変わり者。

示す言葉は多々あるだろう。

必ずしも好意的な表現とも限らないだろう。

しかしそこで止まれば、それはまだ(・・・・・)普通の話(・・・・)である(・・・)

何せヒトの生涯はそれらを求めるにはいささかに短い。

生きるためにはその追求だけをやっていられるわけではない。

ゆえにあまりに行き過ぎた者は時間の無さに絶望し─────“ヒトをやめる”

魔法。錬金術。邪教。邪法。異形。異能。魔物。

それらが跋扈するこの世界でその手段はじつのところ多い。

当然のように万民に薦められるような褒められた方法ではない。

むしろ当然のように普通の者達には忌避される方法しかない。

だがそんな方法を選ぶ者が、自らの探究を法や倫理で躊躇する事もない。

その行為を前にして他人は哀れみ、そして怒るだろう。

──そんなことのためによくもこんな酷いことを!

だが当人は事も無げにいうだろう。

──全ては我が知るために必要な犠牲だ、ありがたく思え





しかし“彼”はこう言うだろう




「はいはい、わかったわかった。よく頑張りました。無駄な努力(ザンネン)賞をくれてやろう」














“ソレ”はいつからか、いつの間にかそこにいた。
レストとクラシュの間にある国境線の山脈。正規の登山者が通る山道とは
距離のある岩肌の大地で構成された小さな谷に浮かぶ人影。しかしそれは
『人の姿』としての影ではない。単なる〝人の形をした影”そのもの。
ゆらゆらと漂うようにしながらゆっくりとレスト側に進んでいる。
これを見る者があれば誰しもが気味悪がったことだろう。
月明かりが僅かに差し込む谷間を人型の影が進んでいるのだから。
そして実際にソレを警戒したのは山脈に住み着いた魔獣たちだった。
岩陰から飛び出すようにソレを囲んだ数はおおよそ10体ほど。
夜に溶け込むような黒い毛並の四足の獣だ。全身で警戒心をあらわにするかの
ように毛を逆立たせながら鋭い牙をむき出しにして唸り声と共に威嚇してきた。
ナイトドッグと呼称される夜行性の犬型魔獣。群れで行動し見た目も犬型より
獰猛で危険な狼型と似ているため恐ろしいがそのじつ臆病でヒトの匂い(・・・・・)
避ける習性がある。

「……犬ころ風情が、我の匂いに寄ってきたか」

ソレのどこに口があったのか。
地の底から響くよう重たい声が影から発せられた。
彼等に囲まれている時点でヒトではない証拠のようなものだが、
声には明確な苛立ちや不愉快さを訴える感情が乗っていた。当然だろう。
自分自身が“なんであるか”とナイトドッグの生態を知ってさえいれば
臆病な彼らが得体の知れない姿と気配の自分を取り囲んだ理由は察しがつく。

「臆病者は総じて賢いというが……所詮は畜生よな」

吐き捨てたソレは己が手を翳すように動くとその“白”が月明かりの下に現れた。
途端にナイトドッグたちが色めき立つ。中には息荒く涎を垂れ流す個体も。
臆病な彼らは群れであっても自分達以上の体躯を持つモノを滅多に狙わない。
そのせいか彼らの種は少ない食糧で活動を維持できるように進化した。
また仕留めた獲物の全てを糧とできるように骨も主食の一つに。
そう、つまりは影から出た手は人間の手の骨そのものだったのだ。

「ふん、目を色を変えおって」

それが自らを覆う影を脱ぎ捨てるかのようにはぎ取って現れたのは
漆黒のローブ。こんな場所で見る物とは思えぬ上等な質感と魔法に
精通した人間なら息を呑む程の高等術式で編まれた刺繍はどこかの
大国の宮廷魔導師の代物かと疑うほど。しかしながら一番の驚きは
それほどの物を纏っているのが標本かと疑うような人間の全身骨格。

「白骨死体と不死者の頂点たるリッチロードの差もわからんとはな」

静かな怒気を放つ眼光は、しかし光無き漆黒の眼窩で闇しかない。
不愉快極まりないという苛立ちの声は、だが舌と肉の無い口からだ。
ナイトドッグたちにとってもソレは確かに得体の知れない存在であるが、
同時に宝の山にも見えているのだ。運の悪いことにここ最近まともな
食糧を得ていなかった群れは己が嗅覚を信じてこれに飛びつこうとしていた。
それが文字通り自分達の命運を決めるものとは知らずに。

「しかし────その鼻は役に立ちそうだ」

歯だけの口をカタカタと鳴らしながら笑う不死の王。
白い骨の指先で空中に小さな魔法陣を描くと群れに向かって弾く。
一匹に当たったそれは途端に爆発するかのように毒々しい色合いの紫煙を
勢いよく吐き出すと群れ諸共周囲を一瞬で飲み込んでしまう。その明らかに
生物にとって有害としか見えない煙の中を生者ではないソレは平然と歩く。
そして自分を囲んでいた獣の一匹に近寄ると骨しかない手で頭を撫でた。

「ふふ、良い子だ」

途端に媚びるような鳴き声をあげながらナイトドッグの皮肉が崩れ落ちる(・・・・・)
どろりと溶けていくそれらが周囲に腐臭をまき散らし、大地を汚していくが
それを気にするモノは残念ながらここに残っていなかった。ナイトドッグの
姿そのものは四足で変わらず大地に立っていたがかすかにこびりつく腐肉が
かつてを思わせるだけで一瞬で彼ら(・・)は動く骨格標本となっていた。
そしてまるでソレに恭順の意志を示すかのように並んで頭を下げる。

「他愛もない」

その間にも紫煙は徐々に風下に向かっていく。良くない匂いに
勘付いた他の魔獣達が慌てて逃げ出すが紫煙はまるで逃がさないとばかりに
襲い掛かって生ある者達を死体ですらないモノに変えていく。そんな悪魔の煙が
じわりじわりと地面を、山の傾斜を這うように進む。獣達の悲鳴のような鳴き声が
幾重にも木霊し続けて───やがて、全てが絶えた。

残ったのはむき出しになった白骨。元の体躯をほぼ維持し尚且つ骨の構造を
無視してそれだけで動くという非常識な存在。もはや魔獣とも生物ともいえぬ
動く屍と化した骨の魔獣軍団は不死の王のもとに集っていく。

「フフフ……」

取り囲む新たな自分の兵士達の存在に高揚感を覚えたソレだが、それも僅か。
何かを思い出したのか腹立たしげに腕を震わせると骨だけの手を握りしめて
近くの大岩を殴りつけた。筋肉の欠片もない骨の拳はまるで冗談のように
岩の方だけを粉々に砕いて無傷。

「足りぬっ……こんな下級魔獣どもをいくら集めたところで!
 そこらの街は落とせても教会の連中には勝てぬ!
 おのれっ、忌々しい聖女どもめ!!」

眼窩の奥で暗く灯る怒りの眼光。それが山脈の向こう側を睨むように射抜く。
ソレ─リッチロードの目的は本来ならこんな山にもレスト王国にも無い。
クラシュの王城に隠されているという古の魔導具を奪う手筈であったのだ。
一度も訪れた事のない土地に転移魔法は使えなかったが闇夜に乗じての移動は
何の問題もなく進むはずだった。リーモア教会が擁する聖女シンシアの邪魔が
無ければ。かの聖女は普段各地の教会を転々としながら布教と慰問、そして
悪しきモノたちの浄化を続けているという。不死の王にとって不幸な事に
クラシュ王都へ向かおうとする限りどこをどう進もうとしても彼女の異常な
感知能力の網に引っ掛かってしまうのだ。クラシュに入る際に血肉と贄を求めて
幾つかの村を滅ぼした事が彼女を呼び寄せてしまったのだろう。運が悪い。
聖女の遠見ですら勘付くあの特殊な眼が厄介に過ぎる。しかも避けて
通れまいかと遠回りな移動をしてもそれを見越したかのように聖女と
護衛の教会騎士達も一緒になって移動してくる。逃れるように移動し続けた結果、
不死の王はまるで追われるようにレストへの山越えを余儀なくされた。

「今の我ではあの女には勝てぬ、口惜しいっ!」

その苛立ちか。
ついさっき撫でたばかりの白骨の犬を蹴り飛ばす。
山肌に激突して砕け散ったスケルトン犬は王に意に介されぬまま
されどその意識の外で勝手に元の形状に戻っていくさまは不気味の一言。
そう、このように不死の存在となれば並大抵の攻撃は意味をなさくなる。
物理的に粉砕されても元に戻って痛くも痒くもなく、元よりその感覚もない。
そも骨の体は便宜上必要だから使っているだけで本体はそこに宿る魂だ。
幾重の邪法と数多の生贄で昇華した高純度の闇の魂の塊こそソレ自身。
そしてそのモノが使う邪法で殺されたモノたちも同じ存在となる。
それゆえヒトの肉体に宿る力である魔力から変ずる魔法が効きにくい。
魂と肉体では宿る力の純度に絶対的な差があるのだ。

しかし教会、とくに聖女が持つ『理力』は違う。あれだけが不死者の天敵。
邪法で汚れ、変異した魂を浄化してしまう性質を持つ。そうなればその力で
不死者となった存在は元のヒトの魂と戻されるが元の肉体を無くしているため
そのまま昇天してしまう。数少ない不死者の滅し(殺し)方である。

並の教会騎士ならば片手で捻る自信は持っている不死の王も近年聖女として
各地でその名を轟かせているシンシアの理力は桁も格もまるで違うと
遠見によって一瞬覗いただけで怖気が走った。その莫大な力は汗腺など
ない骨の身体から一気に汗が噴き出したかと錯覚するほど不死の王を焦らせた。
さらに聖女が持つ光を映さぬ魂を視る稀有な眼は邪な考えや術をかけられた
ヒトやモノも判別するという。正攻法も搦め手も封じられたも同然だ。

「もっと上位の力か邪法とは別の力が必要か……ん、戻ってきたか」

そんな聖女への怒りとさらなる力への渇望を表にしながらも
いつの間にかこの場から離れていたさっきまでナイトドッグだったモノ。
感情的な思考をしながらも理性的にそれらに斥候代わりを命じていたのだ。
彼らは外見上は五感を有する器官を失っているが邪法によって維持された
存在ゆえか見ることも聞くことも嗅ぐことも生前と同程度にはできる。
否、肉体の限界というものが無いためものによってはそれ以上でもある。
持ち帰ってきた情報は使い魔の共感のような方法で理解したソレは
ほくそ笑むように口許の骨をカタカタと鳴らす。

「うむ、そうかここらはテンコリウスの縄張りか。ちょうどよい。
 奴らは使い勝手のいい死獣兵となろう、いや我の流儀ではないが
 生きたまま従えさせて聖女とぶつけるというのもありだな」

来るべきその未来を思い浮かべながら骨獣の軍団を引き連れて山を下りる。
近くにたいした戦力を持たない宿場町があるのは知っていたが先に騒ぎを
起こしてテンコリウスを刺激したくないと考え、音を呑み込む闇を広げて
地面を滑るかのように進む。さて、どの魔導具か邪法を使ってかの神獣を
縛ってみせようかと思考を巡らせ────異変を察知する。

「……っ、なんだこの異様な魔力残滓は?」

まだ山の麓でしかないがそれでも見える(感じる)異変があった。
光を宿さぬ眼窩に闇夜など関係なく、見れば森の一角がかなりの広範囲で
円形に押し潰されていた。何らかの高位魔法による破壊の痕だということは
その周囲に漂う魔力残滓の気配で察せられるが残滓だというのに異常なほど
密度が濃い。これならば適切な手段を用いれば再利用することさえ可能なレベル。
魔法に消費した魔力の再利用は一流と呼ばれる魔法使いですら一割が限度。
しかし目の前のそれは予想される魔力消費量を考えれば三~四割は堅い。
だがそんな技術的な凄さとは別に邪法の塊であるソレだからこそ
感じ取れるヒトではないナニカの存在を見てしまう。

いったいどういう状況か。

そんな疑問も徐々に現場に近づけば不死の王は概ね理解していった。
まだ距離があるため通常の目では状況は把握しきれないが不死者ゆえに
見えるようになった魂の気配と強さなら十二分に感じ取れている。
屍となっても尚、宿る力の強さに目が眩みそうな二つの死体。
その近くで小さいながらも匹敵する力を感じさせる個体が一つ。
戦闘の痕跡残る大地で倒れ伏しているが二つ、否、三つ特出した力を
持つ魂とそれらに従うような繋がり()が見える等しく倒れた十の魂。

何らかの事情でテンコリウスと戦闘となって辛勝したか。

目的の生物は既に死んでいたがソレにとっては生死は些細な問題だ。
気にするのはせいぜい新鮮さ。むしろ今はそれよりもどういう手を使ってか
倒した者達がいるならそれはそれでいい兵士になるだろうとほくそ笑む不死の王。
そしてその光なき眼窩で倒れ伏した者達の姿と顔を認識できる距離になると声を、
歓喜と興奮の笑い声をソレは我慢できなかった。

「フッ、フハハハッ!!
 噂のアースガント第二王女とその人形メイドどもか!!
 しかも異世界の強者も! ついている! 我はついているぞ!!」

かの魔法大国の姫君とその最強部隊と名高いメイド兼ロイヤルガード。
そして珍しいことこの上ない異世界の存在。それらが大きく負傷し、
力を使い果たして倒れ伏している状況など好機でなくてなんなのか。
スケルトンにはせず、死体を腐敗と支配の魔法式で縛ればあの国の
魔法知識や魔導具を易々と手にいれる事ができるだろう。なんたる幸運。
なんたる機運の到来だとその未来に骨の手で拍手喝采でもしたい気分であった。

「なんか典型的な取らぬ狸の皮算用してそう……って言っても通じないか」

そんな不死の王の高揚に水をぶっかけるような呆れた物言いが響く。
一瞬誰が発したものだったのかリッチロードはすぐに理解できなかった。
不死の王が認知していたどの存在も声を発していなかったからだ。

「ぬ?」

怪訝に思って意識を声のした方、姫と異世界人の間に集中させる。
すると微かに、気持ち程度な存在感を持つ魂をそこで初めて認めた。
闇夜の中に溶けてしまいそうな程の希薄な気配と魂は街中の一般人
よりも小さく見える。他の者や状況を考えれば非常に場違いな存在(それ)
傷も疲れも動揺も驚きも無いまま、むしろこの場の支配者かのように
堂々とした態度を見せていた。その不可思議さに不遜な物言いなど
不死の王は既に忘れていたがその存在もすぐに思考の外に出した。
考える必要などない。何せ力の無い只人がリッチロードの視線に
耐えれるわけがないのだから。死を超越した闇の住人の視線はそれだけで
魂の底から只人を縛り、萎縮させ物言わぬ存在にするだろう。だから
そんな最後の暴言も存在の不可思議さも気にする必要などない。

「来るのが遅いんだよ、ノロマ!
 おかげでこっちは余計な仕事が増えたじゃねえか!」

「……なに?」

そのはず、の矮小な存在はリッチロードに見据えられて平然としていた。
それどころか露骨な舌打ちと共に侮蔑の視線を不死の王に向けている。

「ホントに使えない生ゴミだな、肥料にもなりそうにねえ」

「ぁ」

困ったものだと首を振った少年は姫の頭部を片手で掴みあげると
彼女をひきずるようにしてゆっくりと不死の王へと悠然と歩いてくる。
殊勝にも直接手渡して助命を乞おうという態度には微塵も思えなかった。

「……そこの小僧、姫をそのまま渡せば不遜な物言いは聞き流してやろう」

何の道具にも役にも立たないのはお前だろうと内心失笑気味だった
リッチロードはどうでもいいとばかりになけなしの温情をかける。
どう処理しても労力の方が上では処分する気にもならなかったのだ。
が。

「黙れ、蛆虫以下の骨くず。生物ですらない癖にニンゲン様に指図するか」

少年は鼻で笑うように一度だけの情けを切って捨てた。その顔には虚勢の
色が皆無であり本気でそう思っているのが不死の王にも理解できた。
嘆かわしい、とただそう思って溜め息を吐く。

「はぁ、この手の輩がたまにいるから短き生しかない人間は困る。
 力の差、存在としての差すら矮小過ぎて気付けないとはなんと哀れな」

日中太陽が空で輝いていることを知っていても、それが本当は生物など
近寄ることもできずに焼滅させる業火の塊だと感じ取れる者は少ない。
地を這う虫にその輝きの本当の意味と怖さなど分からぬのだ。
短く、やれ、とスケルトン犬をけしかける。三匹もいれば数秒で
ただの血と肉と骨の物体に成り下がるだろう。

「っ」
「────押し潰せ、重力(ガ・ゴルガ)

誰かの苦悶の声を消し去るような短くも強い詠唱は飛び掛かった骨犬達を
その中途で潰した。まるで見えざる巨人の手で挟まれたかのような圧縮。
残ったのは小石程度の白いナニカ。だがそれさえも落ちて地上に転がる内に
風化するように散っていった。

「……な、なんだ今のはいったいっ……この気配は魔法?
 馬鹿な! 下級魔獣とはいえ我の力でスケルトン化していたのだぞ!?」

あまりの驚きに一瞬呆けてしまったリッチロードは余裕を早々に失う。
あり得ない、と大きく叫んで取り乱す。仮にも不死者となっていた存在が
魔法で潰されたのだ。地形そのものを変えてしまう程の大規模攻撃魔法なら
いざ知らず、目の前で何が起こったのかも分からない程度の魔法で、だ。

「だいたいガゴルガなどという魔法など……いったい何の属性だ!?」

しかも少年が呟いた単語を不死の王は知らなかった。だがそれは相手にとっても
予想外だったのか苛立っていたような彼も呆気をとられたのか目を瞬かせた。

「おいおい、三百年も不死者やってて知らねえのかよ……そこのメイド、説明」

指を差されたのは少年に最も近い位置─二十歩以上の距離があるが─で倒れて
いる傷だらけのたれ目のメイド。突然の指名に戸惑った彼女はしかし、何故か
少年に怯えるようにしながら若干早口で説明する。

「え、え……その、ガ・ゴルガとは重力属性の魔法となります。
 モノを浮かすことから視認できない力で力技で押し潰す事が可能な魔法です。
 不死者には魔法が効き難いですが憑代ごと、低位存在ならその魂ごと完全に
 粉砕することも威力次第では可能ですが難易度が極端に高い魔法で他と比べて
 制御が難しいため一般には秘匿されてますが高位の魔法指南書にはよく
 記述されているものになります」

「───だとさ。時間が無駄にある癖にそんなことも知らないとか。
 不勉強にも程がある。お前いったいなにを探究してたんだよ?」

くくくっ、と明らかにヒト─ではないが─を小馬鹿にした笑みを浮かべる少年。
説明したメイドも「それをあんな易々と扱うなんて」と不死の王など眼中に
無い様子で少年にだけ畏怖の視線を向けている。屈辱だった。この数百年
知と魔の探究を続けてきたリッチロードたる自分が十数年しか生きてない
存在(ヒト)に馬鹿にされ、無視される。そんなことがあっていいわけがない。
禁忌の探究者が、恐怖の象徴が、そんな扱いを受けるなど。

「小僧、お喋りな者は長生きできんぞ」

震えるような怒りを抑えて言外に、死ね、と告げながら骨だけの指先を向ける。
その頂点に集束するように禍々しい光が灯れば一条の閃光となって放たれた。
一直線に少年に向かうそれは見た目通りの光速で、彼の心臓を直撃するコース。
だが、だというのに彼の口には悠然と動いた。

「ちなみに───」
「ぐっ!?」

なんだ、と思った時には不死の王の肩は撃ち抜かれていた。
動揺する意識が反射的に穴の開いた肩骨を押さえてしまうが同時に
別の冷静な意識が何が起こったのか記憶を見直す。そして愕然とした。

「バカ、な……」

放った治癒不可能の傷を与えるはずの呪光(じゅこう)は少年の眼前でナニカに
当たると鏡に当たった光のように戻ってきた(・・・・・)のである。

「───このように攻撃を跳ね返す事も出来る。ってかなんだ今の呪光は?
 それで殺せると思ったのならまだしも全力ならマジで何やってたんだお前?」

どこか最初からふざけて馬鹿にしていた気配もあった少年からそれが消えた。
本気の侮蔑が入った言葉と視線に塞がらなくなった穴を押さえる不死の王は
歯噛みする。それを答えと受け取ったのか少年は目を細めて周囲を眺めた。

「スケルトン魔獣どもの出来栄えも悪い。あれだろ?
 これ死へ誘う紫煙(デットリースモーク)とかいう下級の死霊魔法じゃねえか。
 けどまだ死肉がついているし、自分の骨噛んでる元ナイトドッグもいる。
 術の精度、制御、どれもこれも赤点レベル……本気で聞くが、お前三百年も
 なにやってたんだよ?」

「くっ、貴様っ、小僧のくせになぜそんな知識が!?」

造詣が深いと思わせる知識。骨だけで元の魔獣と術の精度を言い当てる見識。
そのうえで赤点と評された不死の王は奥歯を噛み砕かんとばかりに歯噛みする。
顔に肉があればきっと屈辱に打ち震える表情が見れたことだろう。そして。

「所詮はヒトの煩わしさに耐えられず逃げ出した怠け者か。
 不死化しても根っこは変わらんなぁ────グルド・トールプンテくん」

少年の凡庸な顔の中で三日月が笑う。

「───っっ!? 貴様っ、どこでその名を…」

あり得ない言葉の並び。他と違い、調べて解る訳がないその名前。
その驚きに中身などない頭が一瞬で沸騰する。コレはダメだ。それ以上
喋らせてはいけない。コレは三百年前に捨て、そして消したモノを知っている。
不死者となって自らの手で全てを葬ってやっと消えたソレが今更なぜ。
口を封じなくてはと考えるが、されど情報源も知らなければならない。
相反する考えに揺らぐ不死の王を少年は気にせず語ってはいけない事を語る。

「昔あったとある国の貴族トールプンテ家の三男坊。幼少期は長兄や次兄の力と
 なるべく知を鍛えていたが途中から知識欲に取りつかれて手段と目的が入れ替わる。
 そして次第にヒトの社会や生物としてのしがらみが邪魔に思えていき、ついには
 禁術や邪法に手を出して不死者となった……で合ってるよねグルドくん?」

お前のことなんだから。笑う三日月と小馬鹿にする瞳がそう告げてくる。
知らず、息を呑む。これは敵だ。間違いなく自分の敵だ。矮小な虫だと
思っていた小さな存在が明確な殺意を向けるべき存在となった。

「けどなんていうありふれたつまらない展開。いくら王道(テイバン)には一定の
 需要があるといっても典型的にも程がある。オリジナリティが無い。14点」

骨の身体が震える。殺さなければ。ソレを知る者は消さなければ。絶対に。
残っていては何のために不死者になった。何のために祖国を灰にしたのか。
ならばやるべきことは一つ。

「だいたい三百年もかけておいて元のグルドくんと変わってねえじゃん。
 知的好奇心は強いが集中力と持続力が散漫で知識が半端で偏っている、だったか?
 お前についた家庭教師達がみんな口を揃えたように下した評価は」

聞いた者も消す。利用する策など二の次だ。万が一がないように全て消す。
そのためには何をするのが最善で完全か。相手は未知数の脅威を持つ敵。
死霊魔法への知識とあの魔法の腕前がある以上生半可な手段など
対策を用意されている可能性は高い。ならば(グルド)が取れる手段は一つ。
どんな対策も無意味とするだけの“力”で潰す。

「お前達っ、死にもの狂いで奴を襲え!!」

「……もう死んでると思うのだが?」

重力魔法を使われて潰されたのはたった三体。山の一角全ての生態系を
壊す程の数を従えたリッチロードの傍にはまだ多数のスケルトンがいる。
三十を超える骨の魔獣。肉が無いゆえに軽く俊足で、生が無いゆえに
死への怯えがなく、元の種類が違っても王の号令で連携ができる。
そんな存在が死霊魔法の影響下で生前と同等以上の力を発揮する。
普通ならば一人に対して過度な戦力だがコレが相手では不安がある。
だが囮としてならば(・・・・・・・)充分だと判断した。

「ふん」

予想通り─それでも驚きは隠せなかったが─多数の骨魔獣たちは
突如として泥沼と化した大地に足を取られてそのまま沈んでいった。
地属性の、あるいは水属性との二重魔法か。いかに不死でも気配が
感じられない程の地下深くまで引きずりこまれては活動不能となり
スケルトンとしての状態を維持している術の効果がいずれ切れて
地層の中に埋もれるだろう。なんとも骨らしい末路ともいえる。
そんな皮肉が頭に浮かぶ程、目論み通りに時間を稼げた。
僅か十秒程度だが表情のない髑髏の中で(グルド)はほくそ笑む。

「素晴らしい腕前だ小僧。だが所詮は個人の力、これを見るがいい!!」

邪気を帯びた己が強大な魔力を解放する。全身の骨から噴き出すように
ソレは辺り(闇夜)を魔の闇で覆い尽くしていく。彼等がいる森の入り口から
それこそ自らが下りてきた山の麓近くまでソレは夜を濁った黒で染めた。
ただ何か結界でも張られたのか。少年の眼前を境界線とするように魔の闇は
その線を越えられない。しかし(グルド)は気にしなかった。
コレを防ぐ事には何の意味もないからだ。
真の意図。真の恐怖はコレが晴れた後に現れる。

「なっ!?」
「う、そっ…」
「ぁ、ぁぁっ…!」

メイド達と異世界人(ユウシャ)から漏れ出た驚きと絶望の声。
あえて一気にその幕を取り払った(グルド)は満足げな笑みをこぼす。
これを見たかったのだと嗜虐的な暗い悦びを感じながら骨の両手を広げた。
今ここに呼びだしたモノを自慢し、見せびらかすように。

「見よ、我が秘術で作り上げられたこのスケルトン軍団を!!」

「──っっ!」

誰かの悲鳴のような息を呑む声が心地いい。
何せ自分が従えているのは骨兵の軍団。ついさっきまで濁った黒で
支配していた夜を今はその不気味な白さによって染め上げていた。
その数はいま潰された三十程度のものとはまるで比べ物にならない。
大地が全て骨で埋まったのかと錯覚するほどの光景()
山脈が背後になければ地平線を埋め尽くすほどかと思わせるそれ。

「三百年かけて屈強な戦士や凶暴な魔獣の死体や骨を集め、
 全てをスケルトンとすることで誕生した忠実なる我が精鋭軍団!」

完全武装を施されたスケルトンソルジャーが─一万体も─いる。
大剣を担ぐ巨躯のスケルトンウォーリアーが─数千体も─いる。
スケルトンホースに跨る名工の鎧を纏うスケルトンナイトが─五百騎─いる。
骨の翼で宙を舞う巨大なスケルトンバードが─空を埋めるほど─いる。
ヒトを丸呑みできそうな口を持つスケルトンドラゴンが─数百体も─いる。
他にも言葉にするのも億劫になるほど多種多様のスケルトンの兵と魔獣が
(グルド)を王として従い、その号令を今か今かと待っている。

仮にも三百年は生きたリッチロードだ。スケルトン魔獣が稼いだ十秒で
事前に用意していた一種の召喚魔法を使うことなど難しいことではない。
本来はクラシュ王都での用事が済む前に気付かれて抵抗された場合に備えて
用意していた召喚術式だ。数が数ゆえに一度に全てを呼ぶしかできない上に
送還ができないのが難点ではあるがこの軍勢の前では個人の武など意味はない。

「その数はおおよそ三万五千! それが死も傷も恐れずお前達を襲う!
 単一戦力ならば足元にも及ばぬがいったいどこまで抗えるかな?
 我からの冥途の土産だ、数の暴力というものを教えてやろう!
 フフフッ、ハハッ、アーハハハッ!!」

もうお前達は終わりだと言外に告げて哄笑する髑髏。
必死に抵抗すればこの軍勢でもいくらかは削れるだろう。
単一の戦力として彼女達を上回っている個体は存在していない。
だがこの白い波の圧の前ではどれだけ優れた個も海面を漂う葉に過ぎない。
満身創痍の彼女達は絶句したままこれに呑みこまれる未来しか幻視できない。
そこへ──

「グルドくんさ……俺が最初に言ったこと覚えてないのか?」

──心底相手を馬鹿にするような呆れた声がいやに強く場に響いた。
声の主は当然というべきかこの場で最も殺さなくてはいけない少年だ。
その顔に驚きも怯えも無ければ蛮勇の影もない。ただ平然とした顔で
誰が見てもわかるほど明白な侮蔑の視線を(グルド)に向けていた。

「最初に、言ったことだと?
 ふざけているのか貴様っ、この状況が目に、」

「来るのが遅いといったんだよ。
 さすがドクロ。頭が空っぽみたいで回転もノロマだねぇ」

絶対的な自分の勝利を前に、それでも変わらぬ不遜な態度。
お前の言葉など聞いてないとばかりに好き勝手いって笑う饒舌な口。
軍勢を呼んだことで圧倒的な上位に立ったはずの自分が罵られる。
恐怖でおかしくなった様子など無い。この少年は軍勢を前にしても
一欠片も何も感じていない。こんなものはただのゴミだと目が語る。
それに疑問より怒りが勝っていたグルドは、だからその事実に気付けなかった。

「……来るのが、遅い?
 あ、まっ、まさかキミはここにその骸骨が来るのを知ってたの!?」

一番に気付いたのは地に埋もれたままの異世界人(ユウシャ)
それは待ち合わせしているか予めここに来る事を知っていなければ出ない言葉。
少年はそれに正解だといわんばかりに顔の中で三日月を形成した。
相対している関係で直視する事になった髑髏は知らず全身に悪寒を走らせる。
何か、これから聞いてはいけない事実を聞かされる予感がした。

「正確には仕組んだ、だ。
 さぞ聖女様はグルドくんの目的には邪魔な位置にいただろう?」

「なっ、に!?」

グルドがここに来た最大の原因。それを知る者は彼自身しかいない。
張本人たる聖女ですら自分の存在がリッチロードをこの地に追いやった
ことに気付いていない。気付かれていたらとっくに滅せられている。
ならば、なぜそれをこの少年が知っているのか。彼はそれを実に
楽しそうな笑みと共にネタばらしした。

「クラシュにいたのは、まあ偶然に近かったがあいつらマスカレイドを
 探していてな。鮮度の高い出現情報を流せば行き先を誘導するのは簡単だったよ」

「バッ、バカな! それでは貴様が我をここに誘い込んだというのか!?」

「そうだよ。聖女から無様に逃げたお前がここまで来て彼の魔獣を欲しない、
 なんて事はあり得ない。それにここなら多少大騒ぎしても、森の一角が
 削れようとも、大地が陥没しても、テンコリウスがやらかしたと誤魔化せる。
 この地ではたまにあったからなそういうこと」

くくくっ、と悪魔のような笑みを浮かべるヒトであるはずの少年。 
思わず骨の足が一歩下がる。仕組まれていた。読まれていた。そして、
その通りに動かされてしまった。震える体の理由は屈辱か、それとも畏怖か。
この事態は全て少年の手の上。ならば、彼の態度の正体は明白だ。
最初からここにはリッチロードの戦力を滅ぼせるだけのナニカが
用意されているということ。

「だーい、せーい、かーい!」

「っ!」

パチパチパチと無いはずの表情から内心を読んだかのような拍手。
やけに明るい声が余計にグルドの背筋を凍らせる。対策をとらなければ、
と思うが一度怯んだ精神が邪魔をして考えがまとまらない。それを
まるで嘲笑うかのように少年は演技かかった態度で困ったとばかりに
首を振った。

「まあでも、大規模なものを仕込んでおくと気付かれたら警戒されて
 近寄ってこないかもしれないから小さいモノを一つだけ、だけどね」

にっこりと─胡散くさい─笑みを浮かべた少年の手が目の前の空間に触る。
途端に隠されていた魔法陣が起動してその姿を見せた。宣言通り掌サイズ
の小さなそれは重力魔法を知らなかった彼も知る珍しくもない魔法。

「……砲台魔法?」

それは軍事拠点や砦、戦争中に軍がしいた陣などに設置される魔法。
大別すれば儀式魔法であるが砲台魔法は殆どが容易に設置が可能な代物だ。
通常、魔法を放つ際には魔力操作とそれによる術式操作に呪文詠唱が必要。
しかしながら瞬間、瞬間の判断が重要となる戦場でそこへの意識の集中は
一般的な兵士の腕前を考えるとただ隙を作る行為でしかない。
だが戦争になった時、他国から侵略を受けた時、魔獣や魔物の大群に
襲われた時、魔法という力の火力は必須であり国防や抑止の観点から
誰がそこにいても同程度の火力が使える状態にあるのが望ましい。

試行錯誤の末、出た一つの解答が砲台魔法だった。魔力を魔法陣に
流し込むだけでそこから攻撃魔法を放つ砲台を形成する魔法の誕生である。
砲弾を飛ばす大砲のように場所をとらず、その場で刻むだけなので
運搬する必要もない。手入れは最低限で済み、撃つごとに砲弾を装填
する手間もない。現代では規模や威力の差はあるがどの国の軍でも
使われている魔法だ。特に掌サイズともなれば末端の兵士ですら設置
できるがその威力は同程度の魔力を使用して普通に魔法を放った場合の
三分の二程度にまで弱まってしまうという元々魔法が苦手な兵士向けの
砲台だ。当然この状況をひっくり返せるものではない───はず。

「そ、そんなちゃちな代物でいったい何ができるというのだ!?」

脅威など全く無いといえる小さな魔法陣と下級の砲台魔法。
これまでの仕返しとばかりに馬鹿にしようとした声は、されど震えていた。
この程度なら問題ないと笑う意識とは別に抱いてしまった絶対的な疑問。
ソレだけならば何故この少年はこんなに平静なのか。こちらを嘲るような
笑みを浮かべて楽しそうにしているのか。きっと、まだ、何かがある。
その確信と警戒に彼の骨の身体は固まっていた。だから。

「それはもちろん──────ゴミ掃除だよ」

クスリと笑った少年が魔法陣を空に投げ上げたのを見送ってしまう。
ただそれを目で追うだけのグルドはしかし、眼球の無い自らの目を疑った。
ボールでも投げたような小さな動きだったにも関わらず魔法陣はもはや
その存在が微かに捉えられるほどの上空に数瞬で到達していた。
そしてその上昇が頂点に達した瞬間、誰かの指が鳴った。

「っっっ!?」

「……へ?」

「は?」

「うそ、でしょ?」

途端にこの場の誰もが理解できない光景が広がった。
上空に飛んで行った魔法陣が増えた。しかしそれは二倍三倍程度ではない。
十倍百倍でも圧倒的に数字が足りない。一瞬で、そう本当に一瞬で空が覆われた(・・・・・・)
月と満点の星を眺められた夜空が隠されるかのように隙間なく増殖する。
彼等の視界で認識できる範囲の空はもう魔法陣で埋め尽くされていた。

「………………な……なにを、した?」

一度設置した砲台魔法を動かしただけでも本来なら驚嘆すべきことだ。
しかし全く同じモノをこの一瞬で、こんな天文学的な数を作り出すのは
脳という肉体の限界がないリッチロードが何体いても不可能だ。

「コピペ、なんていってもお前らには意味わからんだろうな。
 ん、いや、この場合はコントロールキーとシフトキーか?」

「ふざけるなっ! 貴様はいったいっ、いったい何をいっている!?」

うろ覚えだなと嘯く少年の態度に激昂するが返ってきたのは、
見せられたのはあのどうしてか後ずさってしまう顔の中の三日月。

「もちろんグルドくんが知らない世界の話さ。ねえ、知の探究者さん?」

なのにそんなことも知らないのかと嘲るような言葉を錯覚する。
否、この少年は意図的な言い回しを使ってグルドを嘲笑っている。
おそらくは、最初からの予定通りに。

───なんだ、なんなのだ“コレ”は!?

いったい自分はナニと遭遇した。ナニと戦ってしまった。
突撃か撤退か交渉か。選択と決断をすべき場面で、だが彼はその怯えに支配された。
どこからどう見てもソレは矮小な存在感で一般人以下の子供にしか見えない。
今でも気を抜けば不死者の目では見失ってしまいかねない程だというのに
魔法大国の姫も禁術を使う不死の王も関係なく屈服させ、凌駕するような
全能さを感じさせる得体の知れなさに彼の掌にいる自分を幻視する。
そこへ突如すっと少年の手があがった。

「ひっ!」

それだけで自然と悲鳴がもれる。そして空の魔法陣一つずつに一斉に光が灯る。
火属性の砲弾を放つ設定か。天上を満たすように火の点が輝く。
だがそれは、その光景はまるで。

「ええと、なんだっけ?
 ああ確か、数の暴力というものを教えてやろう、だったかな?」

「っ、あ、ぁぁ…ぐ!」

グルドがさっき自信満々に告げた言葉を反芻しながらほくそ笑む少年(アクマ)
今では、空の火の数を思えばなんとも滑稽で虚しいそれが屈辱的に胸を抉る。
言葉にならない声が漏れる。骨の鳴る音がいまは妙に耳障りだった。

「なら俺は、星の数ほど、という言葉を教えてやろう」

凶悪な笑みのままその手が、まるで断頭台の刃のように振り下ろされる。
本物と大地の間に生まれた偽りの天上は無慈悲に、そして美しく煌めく。







────星が、落ちた




もうすでにわかっておられると思いますが、今回の一連の過去回想シーン。
極力シンイチくんと戦ってしまった側からの視線で書いてます。

ただ、なんというか。
主役、だよね?
なんか悪党にしか見えないのは気のせいだろうか?



ああ、そういえば、前回次話で彼が当初口数少なかったふざけた理由を書くと書いたな?

…………すまん、そこまでいかなかった!


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