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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」

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04-83-02 最悪の遭遇2

「え、なに!?」
「っ結界を、早く!」

閃光(ヤミ)による蹂躙。夜よりなお暗い黒に呑みこまれていく森。
それは負傷した三名と吹き飛ばされた二名の手当てを森の入り口付近で
行っていたカヤ、ミヤの所にまで及び、彼女達も咄嗟に防御結界を展開。
けが人を必死で庇った。だが襲ってきたのはまるで巨大な竜巻の直撃か。
魔法の爆撃に常にさらされる戦場に来たかと錯覚するような光景と衝撃。
結界の外で渦巻くそれらを前にして姫や同僚達がどうなったのかと
考える余裕すらないままその維持に努めていた。

「う、ぁ、ああああぁっ! こ、こんなのっ、結界がもたないわっ!」

「ぐ、うっ、ううっ! なにこれっ、なんなのよこれ!?」

自分達を覆う罅だらけの光の膜の外側はまったくの(クロ)
暴風が色を持ったとしか思えない代物が視界を閉ざすほどに暴威を振るう。
気を抜けば結界ごと世界の反対に吹き飛ばされても不思議ではないと思える
それの前で恐怖からかえって集中力を切らさなかったのは何の皮肉か。
彼女達は知らない。そこが爆心地から見て一番の外側であったことを。
だから彼女達二名の─それでもアースガント上位の─魔法で防げている事を。

「…………お、終わった?」

しかし、だからか。それともどんな暴風でもいずれは収まる時が来るのか。
いつのまにか黒嵐は過ぎ去っていた。どれだけの時間アレに襲われていたか
彼女たちは共に正確に記憶していなかった。数秒だったのか数十分だったのか。
ただ解るのは自分達が精も根も魔力も尽き果て、立つ事もできずに崩れ落ちた事。
本来なら次に出るのは安堵の息であろう。何があったかを認識してない両者だが
今の脅威が終わった事は気を緩めてもいいだけのものだったのだから。尤も
黒嵐が過ぎ去った後に見える光景に希望があれば、の話だが。

「ひっ!」
「うそ…」

何も無かった。
目の前に広がっていた深き森など嘘だったかのように荒野が広がる。
それを無情な月明かりがくっきりと闇夜に映し出して二人を慄かしていた。

ただ正確に表現するならば何もかも無くなったわけではない。
荒れ狂う黒き暴風を必死の想いで、限界まで力を振り絞って耐えきった彼女達
の目には切り取られたように広がる円形の更地しか映らなかったのだ。しかし、
それでも時間が一秒、二秒と過ぎていく内に幼少期からの教育と鍛錬の賜物か。
冷静にもなっていった彼女達は更地の円周部にいた事で逆にその異常を
直視しさらなる慄きの中に落とされた。

「な、なんで……?」

中心部にいくにつれ深くなっていく荒野の状態から
自分達が受けたあれだけの暴威がじつは最も威力が弱かった事。
そしてすり鉢状の浅いクレーターのようなそれの外側はまるで変わりがなく、
木々が乱れた様子も葉が舞うことすらなく静寂を謳う夜の森のままであり
あれだけの威力を誇った暴風が円の外には被害を出さなかった事を知る。

「……い、いったい、なにがあったの?」

「カイトさま…」

結果的に一番軽傷で結界に守られていた彼も呆然とその光景を見詰める。
目の前の異常しかないそれを前に理解が何もかも追い付いていない。
だがそこへまるで追い込みをかけるかのようにナニカが突然現れた。

「なっなに!? え?」

彼等には見慣れた光を纏って現れたナニカたち。
驚いたものの、何なのか、を認識するとただ愕然として立ち尽くしてしまう。
土埃によって汚れ、あの暴風の中にいたのか激しく損壊した姿は常の面影がない。
あちこち赤にもまみれていたがそれでも白と紺で構成されたと解る衣服を
纏うのは自分達の旅の仲間であり、同僚たちであった。

「みんな!?」

ここまでの旅路でどんな悪漢にも怪物にも負けるどころか追い込まれた事さえ
無かった彼女達のそんな姿は少年騎士─カイトを激しく動揺させていた。

「あぁ…」

「ぅ、ぁ…」

大地に倒れ伏したような状態で転移してきたのは傷ついたメイド達。
意識はどこか朦朧としているようだが全員から呻くような声は聞こえる。
生きていると胸を撫でおろした彼は、しかし続いて聞こえた悲鳴の
ような呼び声に安堵の息をもらすことはできなくなった。

「メイド長!」

「姫様!」

声の向かう先を見れば、呼びかけられた両人が確かにいた。
他の者達と比べればその目には意志が感じられ、意識はあるようだった。
しかし状態としては彼女たちの中で最も“酷い”といえる。

ステラが片手で支えて抱える姫─リリーシャには先程までの輝きはない。
魔力感知が苦手なカイトでも半分以上使い果たしていると感じる希薄さ。
美しいブロンドは泥土に汚れ、華麗なドレスアーマーは残骸が残る程度。
それもあちこちの裂傷からの流血で赤く染まっていた。そのせいか自信に
満ち溢れていた碧眼には意志はあっても正気のない怪しい光がある。

一方でステラもいつもの仮面じみた無表情さなど皆無の憔悴しきった顔で
それでも意志の力だけでリリーシャを抱えて立っていた。傷の度合いで
いえば何かを庇ったのか右半身全てに及ぶ衣服の損壊と深い裂傷。特に
右腕にいたっては動かすこともできないのか血を垂れ流しながら肩に
ぶら下がっているだけのような状態だった。

「ミヤさん、カヤさん、早く治癒魔法を!」

「そ、そうしたいのはやまやまですが…」

「先程の結界で魔力がもう…」

そんな、と愕然として固まるカイトを横目にそれでも彼女達は手持ちの
道具や薬等で応急処置を施そうとしたがステラは目でそれを拒絶した。

「カイ、トさ……姫様を、つれ…お逃げ……ください」

──奴がきます
喋るのも億劫な様子ながらも必死に訴える声にどうすればと戸惑うカイト。
リリーシャを預かるだけならそれはいい。ケガが最も軽いのは自分なのだから。
しかし彼女の目が覚悟を秘めているのを見て、まさかの予感に動けなくなる。
彼女はここで殿を務めようとしているのではないか、と。

「決断が遅い」

突如それをなじるような責めるような少年の声が響く。フードの少年だ。
同じ場所にいた彼女らがボロボロとなっているのに彼の姿は変わらない。
変わらずの古びた布で作られたフード付き外套を纏ってゆっくり歩いている。
今までどうして気付かなかったのか。彼は爆心地からただ歩いて向かってきていた。

「…………まあ早くても結果は変わらないが」

そしてもう日常的な会話の声量でもはっきり聞こえる距離まで近づいていた。

「いい判断ではあったなアースガントのメイド長。
 防ぎきれないと悟った瞬間に全員を強制転移させての回避。
 距離を稼げなかったのはあの一瞬では仕方がないことだろう」

抑揚のない声だが、どこかよくやったと褒め称えるような口調のそれは
演技か本気か判断がつかず余計にカイトの動揺と当惑は広がる。

「くっ!」
「ステラさん!?」

彼の態度とカイトの反応をどう判断したのか。彼女は矢のように飛び出した。
カイトに姫を預け、まだ動く左手にどこかから出したハルバードを握って。

「ッ────よ、(ゴーガ)っ」

もはや唱えた当人にすら聞こえない拙い詠唱から放たれたのは特大の火球。
それを盾とするかのように先行させながら一直線に互いの距離を縮める。
彼女の目には自らの火球越しの相手が見えていた。余裕か油断か。
少年にとっては視界を遮るそれを目前にしても彼は微動だにしない。
当然だろうという諦観の念を抱きながらもステラは彼に向かって
火球ごと貫くように疾走の勢いをプラスした斧槍を突き出す。

「情の熱い(・・)女だ…」
「ッ、このっ──」

瞬間、まるで風船が破裂するかのように広がり互いを包む火炎の渦。
その中で行われた一瞬の攻防。炎を通りぬけて胸を狙った突きは易々と
彼に見切られ、半身となって避けられてしまう。しかしそうであるならばと
つんのめってしまいそうな突撃の勢いを力尽くで横の動きに変える。
先端の斧刃で斬りかからんと振り切って────外套に弾き飛ばされた。

「──なっ!?」

「ん、さすがにもう限界か?」

見た目と一致しない強固さから込めた力以上の反発を受けて斧槍ごと腕が踊る。
もはや反撃は叶わず、なした成果は炎と今の一撃によるものか外套の崩壊。
そして。

「こ、こども!?」

砂のように散っていく外套の下に隠されていた素顔を引き出したことのみ。
この世界では珍しい黒髪と、予想以下の年齢を思わせる相貌はここにきて
初めて彼女を心底動揺させる程に幼いものであった。

「……もう15なんだがな」

嘘か真か。たいていの国でほぼ成人扱いを受ける年齢を自称しながら
黒髪の少年は彼女の無防備な腹部に容赦のない一撃()を叩き込んだ。

「がっ!?」

「寝てろ……すぐ終わる」

「ぁ───」

続けざまに首裏を叩くような一撃で彼女の意識は完全に刈り取られた。
意識のないそれを受け止めるように抱えた彼は静かにその場に横にする。
そしてステラの右腕を掌で触れるか触れないかの絶妙な距離で撫でた。

「…自分でやっておいてなんだが、ひどいなこれ」

掌についた彼女の出血量に自嘲気味な笑みをこぼしながら首を振ると
振り返ることもしないまま背後から突如飛来してきた石の槍をもう一方の
腕で虫でも掃うように一振りで弾き飛ばす。

「ステラからっ、離れなさい!!」

いつのまにかカイトの腕の中から飛び出していた姫が声を張り上げた。
彼女の周囲では不自然に大地が螺旋状の槍のように隆起している。
それを撃ち出したのだろうことは誰の目にも明らかだ。

「その状態でよく俺だけに当たるように撃てたものだ」

少年が振り返って発した言葉には純粋な感心の色がある。
何せ彼女の膝は笑い、狙うように突き出した腕も小刻みに震えていた。
正気の色が薄い碧眼は慄いているのか蛮勇を奮わせているのか判断しにくい。
ただ、魔法を放ったのと同じくらい虚勢を張っていることは明白だった。
それでも彼女の魔法はステラには当たらないコースだった。

「…………これだから、優先順位を下げていたんだが…」

何に対してなのか溜め息一つ吐いた少年の歩みが再開する。
姫はそれに目に見えて怯えるように狼狽えたが、逃げはしなかった。

「負け、られない! アースガントの王族が!
 こんなところでっ、こんな訳の解らない子供なんかに!」

即座に属性の違う魔法を質より量だといわんばかりに撃ち込んでいく。
が、全て彼が後から放った魔法で撃ち落とされる。まるで最初から中身を
予期していたかのように全く同じ属性の魔法によって。

「ほう」

しかしその同じ魔法の打ち消し合いに隠れるように迫る影が複数。

「よくもメイド長を!」

「やらせま、せん!」

黒竜の爆発で意識が朦朧としていたメイド達がこの短時間に復活していた。
彼女達は姫の魔法の隙間を縫うように彼目掛けて一斉に跳びこんでくる。
逃げる手はない。一番の転移魔法の使い手が倒れた今この敵からどうすれば
逃げ切れるというのか。そのビジョンを思い浮かべる者は誰もいなかった。
それに姫の攻撃は打ち消されているがそれは同時に彼の魔法を封じてもいる。
少なくとも余所に大規模攻撃魔法は撃てないと判断した彼女達はもうここしか
チャンスはないと決死の覚悟を決めたのだ。

まず左右から挟み込むように襲い掛かったのはミヤとカヤの双子のメイド。
取り出した長剣で斬りかかるが、迎え撃つように放たれた手刀によって
剣もろとも腕の骨を粉砕され、それでも止まらない一撃が肋骨を
折りながら彼女達を大きく弾き飛ばす。

だがそれは最初から囮であったのか。
刺し傷を治癒したセーラ、アリッサ、ハンナの三人がそこへ
三種類の魔法を放つ。セーラが大地を隆起させて相手の足場を崩し、
ハンナがそこへ鋭利な穂先の氷槍を雨のように降らせ、その中の一つに
幻を纏ったアリッサが紛れ込んで彼へと斬りかかる手筈。しかし
見抜かれていたのか地面のぐらつきなど意に介されないまま氷槍の雨は
隙間を縫うように駆け抜けられて易々とアリッサを撃墜し、その肢体を
二人に投げつけた所で彼女達を爆炎が包み込んだ。

けれどその四肢に決死の想いでしがみついたのは残ったメイド達。
最初に吹き飛ばされたカトレアを含めたクララ、ロベリア ルイスの四人。
影の魔法で闇夜に紛れた彼女達は攻撃動作の直後の瞬間を狙ったのだ。
そしてそこへ最後の一人であるフラウが巨大すぎる戦斧を振りかぶる。
切るではなく押し潰すという程の質量と規模の斧が落ちるように迫る。
下手をしなくても四肢を押さえるメイド達すら巻き込むが双方の目には
覚悟の色があった。だがそこで少年の口からは呆れたような溜め息と
一条と呼ぶには太すぎる黒い閃光が放たれてフラウの全身を呑み込むと
クレーターの外まで吹き飛ばしていき、森の木々に叩きつけた。
予想外の一撃とそれによる仲間が倒された事実は一瞬の隙を産んだ。
見逃さなかった少年は両手にしがみつく両名をぶつけ合わせて意識を奪い、
間髪を入れずにバック転しその勢いで両足の彼女達を空へと放り出す。
そこで小さく指が鳴る。空中で突然横合いから殴られたような衝撃に
襲われた二人はそのままクレーターの地面に叩きつけられ意識を失った。

その攻防は30秒にも満たない僅かな時間で行われた。
彼女達はアースガントが誇る精鋭の一つといわれるだけの力と連携、
覚悟を傷つきながらも見せたがまるで吹けば飛ぶ塵が如き扱いだった。
たった一人の少年の前に最初の接敵から見ても5分足らずでの全滅。
しかも姫が積極的に魔法で援護していたのにもかかわらず、だ。
何の冗談か。どんな悪夢か。自分達は何と戦ってしまったのか。

「さて……」

「「っっ!」」

あまりに終わるまでが早すぎて介入も助太刀もできなかったカイトと
魔法を撃ち続けていたのに何の意味もなかったと愕然とするリリーシャに
少年(カイブツ)はその静かながらも怒気を秘めた目が向けられる。

「次はお前達だ」

息を呑む。
怖気づく。
後ずさる。
ことすら、カイトとリリーシャは出来なかった。
人間が本当に心底怯えた時は何の反応もできなくなるのだと彼らは知る。
抵抗も逃亡も思い浮かばない。出来ないのではなく考えられもしなかった。
そんな二人をさらに追い込むかのように彼は突然に動き出した。それを
彼らは目で全く追えなかった。目を離すことができずにいたのにいきなり
視界から姿が消え、突風が叩きつけられたような衝撃のあと。

「こら、待て」

背後から少年の─困ったような─声が聞こえて慌てて振り返る。
見えたのは無防備な彼の背中だが、変わらず両名の頭には選択肢すら無い。
代わりに浮かんだのは彼が妙なものをつまみあげている事への反射的な疑問。

「え?」

「は、放してください! この者が父と母を! せめて仇を!」

それは三本の尾が特徴的などこかで見たような小型の生物。
ソレは彼に首根っこを掴まれながらも暴れてそう訴えるが首を振られる。

「今の君の力量ではまだ危うい。ここは俺に任せてくれないか?」

カイトはその小動物が喋った事そのものや内容に戸惑いつつも
それ以上に彼の声が同一人物とは思えないほど柔らかで、穏やかな声色
だった事にさらに困惑を深めて何がなんだかわからなくなっていた。

「しかしっ!」

「油断していた俺にも責任がある。この場は俺にその責任を取らせてくれ」

「………わかりました」

不承不承な声色ながらも納得した風の生物を下すと離れていろと少年は促す。
素直に従って距離を取った生物(ソレ)はだがしっかりとこちらを見据えていた。
そして少年は振り返ると再びカイトとリリーシャに視線を向けてくる。そこには
小動物には向けられていた優しさや申し訳無さの色は微塵も見えない冷めたもの。
妙な空白を入れられたせいか思わず怯んで後ずさってしまったカイトは、しかし
そこで隣のリリーシャの表情が先程までと違って震えているのが見えた。
それは、別の問題に気付いたために震えることが出来た、ともいえたが。

「まさか……勇者カイト、あ、あなたまさかテンコリウスを殺したのですか!?」

「テ、テンコ? えっと何か知らないけど、魔物ならあそこで」

彼が何のことだと思いながら指差した森の外にて倒れている亡骸二つ。
そのシルエットと闇夜にあって月光を弾いて輝く毛並に姫は絶句した。

「っ………ぁ、ぁぁ…それでは、まさか!」

全てを理解して悲鳴のような嘆きと共に両手で口許を覆う姫。
一方でその反応の意味が分からないカイトはただただ困惑の中だ。

「なにを震える必要がある。これはお前が期待した通りの展開ではないか?」

「っ───なに、を…」

急に変わった少年の口調はどこか楽しげで、彼女らを嘲笑う色のそれ。
しかし姫は衝撃を受けたようにその言葉にうまく返事をかえせないでいた。
その様子はカイトの目から見ても図星を差されたかのようだった。
期待した通りとはどういうことかと彼は口にして問おうとした。

「っ!?」

それよりも少年の動きの方が速かった。気付けばもう二人の目の前。
掲げるように上げられた腕がひどくゆっくりと彼女に向けて振り下ろされる。
半ば反射的な防御行動で前面に結界を張った姫は、しかしそれごと衝撃に
押されるように5、6m後方へと下げさせられた。動きの遅さからは
想像できない威力ではあったがこれまでに比べれば弱い一撃で彼女が
踏ん張れば大地に両足で轍を作るだけで済んでいた。尤もこれまでの
消耗と負傷が合わさって彼女はその場で崩れ落ちてしまったが。

「姫さま! このっ!」

その姿に彼は感情のまま両手で握った銀剣で斬りかかる。
人の身体を縦に真っ二つしようという剣閃は、だが少年の手が刃の腹を
撫でるように押したことで流されて相手の真横の地面に吸い込まれる。
全力で振り下ろした一撃は大地を裂いて10mは続く切り傷を作るが
そんな破壊力も当らなければ意味がない。

「なっ!?」

「テンコリウスは魔獣、地球でいえば動物というカテゴリーに入る」

「え?」

彼には初見となる柔らかで静かな動きによる受け流しの衝撃の中。
そんなことなど無かったかのようにそれ以上の静けさで淡々と語られる言葉。

「逆に魔物とは瘴気と魔素が淀んで一定量集まった場所に発生する疑似生命体。
 破壊衝動しか持たぬ見た目通り、文字通りの怪物であり全くの別物だ」

「は? 魔獣? 魔物? それに瘴気に魔素? いったいなんのっ…!?」

初めて聞いた単語の数々に彼の頭にはそれに対する疑問符しかない。
そんなことは知ったことではないとばかりに少年の一方的な解説は続く。
拳打、手刀、蹴り、という徒手空拳での攻撃と共に。

「この世界におけるヒトと魔獣の関係は概ね地球でのそれと変わらない。
 愛玩動物は一部の金持ちや貴族のみで一般的には家畜可能な有益魔獣と
 気性や能力等から共存できない有害魔獣、そして『それ以外』の三種に分けられる」

「っ、話すか殴るかどっちかに、くっ!」

全く感情の見えない無の顔で次々繰り出されるのは明らかに加減された攻撃。
速度も威力もカイトが時に避け、時に受ける事はできる程度の代物であった。
だがそれでも紙一重では肌が裂け、下手に受ければ衝撃で体が悲鳴をあげる。
既に余波でシルバガントの手甲は罅割れ、胸当ては半分弾け飛んでいた。

「テンコリウスは『それ以外』でな。戦闘力でも知性でも魔獣の中でトップに
 君臨するがそれでいて争いを好まぬ性質と見た目の美しさから家畜魔獣とは
 違った形でヒトに好まれ、地域によっては神獣とも守り神とも呼ばれている」

それでもどうしてか語られる言葉がいやに耳に入る。
全ての意識を集中させて致命的な一撃だけは避けようとしているのに、
それが精一杯なのに、脳に直接刻みつけられるようにその知識が入ってくる。
まるで理解できなければ何もかもが終わると本能(アタマ)が怯えているかのよう。

「───それを殺したとなればどれほどのヒトと国家から顰蹙を買うことか」

だからその断罪のような言葉に己が罪をカイトは自覚させられた。
自分は世界中から神聖視されている生物を殺してしまったのだと。
それによって仲間達の祖国が非難されてしまうことも。
自分のせいで。その罪状に、動揺が全身に出てしまう。

「え、がっ、っ!?」

当然その隙を見逃してくれる相手ではなかった。
半分残っていた胸当てが跡形もなく吹き飛んで、胸を突き抜けるような衝撃に
息が詰まって呼吸が出来ない。こぼれ落とすように剣が離れ、共に地面に崩れ落ちる。

「俺は襲われていたわけではない。
 用事があってここに住んでいる彼らに話をしに来ただけだ。
 そもテンコリウスに襲われた場合、たいていは被害者が悪いと判断される」

「ぐっ、あ!」

起き上らなければと考える頭を踏みつける一撃が襲う。
目の前で火花が飛びながら自らの顔が地面の中に埋もれていく。
先程はただ踏まれただけだったがこれは蹴りに近い踏みつけ。
周辺大地が一瞬で陥没し、決して小さくは無い窪みを作り出していた。
幸か不幸かひび割れた大地に生まれた隙間のおかげで呼吸はできていたが、
気を抜けば簡単に意識が飛びそうな衝撃だった。

「それほどの信頼と敬愛を世界的に受けている魔獣を殺したのだ。
 表立ってアースガントに抗議したり関係を絶つ国も出てくるだろう。
 いかに大国といえどあっちこっちからそっぽ向かれては無傷とはいかない。
 その責任は誰が取るのか……当事者達の首が飛ぶだけで済めばいいな」

他人事のような独り言が遠回しにそれで済むわけがないと宣告してくる。
いくら大国といえどその王族が、その管理下にある戦力が世界規模で畏敬を
集めるテンコリウスに手を出したばかりか二体も殺してしまった。しかも他国で。
そしてもうそれを隠せるかは怪しい所だ。街に近い森の一角を破壊したのだから
騒ぎに気付いている者もいるだろう。なのに住処としているテンコリウスから
何のアクションも無ければ“いない”ことが解るのは時間の問題である。
国際的な批判と反アースガントの感情が沸き起こる可能性は十二分にあった。
もはやそれは異世界人の狼藉や第二王女の我が儘では通らない。
国として責任と謝罪をしなければならないほどの話だった。
それほどまでにかの生物はただの魔獣ではないのだ。

「そんなことさせない! させるわけにはいかない! (ジバルド)!」

そんな未来を認めるわけにはいかないと王女はただ我武者羅に魔法を放つ。
掌から放たれ、空間を裂くように進む雷撃魔法は無言の少年に弾かれる。
近くの木々に直撃したそれは周囲全てを消し炭にしたが彼の腕には焦げ一つない。
衣服にすら、だ。なした成果はせいぜい彼女に向き直るためカイトの頭から
足がどけられたことだけだろう。

「っ、なんて出鱈目な密度の魔力!」

一方姫は一瞬の愕然の後、冷静に原因を分析していた。
初見の時よりずっと気のせいだと思っていたが事実だったと冷や汗が流れる。
少年の体を薄く覆っているその魔力。自分達の知る結界とも身体強化魔法とも
違う純然たる魔力だけの膜。信じられない程の高い密度で集まったそれは少年を
守る頑強な鎧と化していた。魔法ではあれを突破することは半ば不可能に近い。
シルバガントの刃なら貫けるだろうがだからこそ彼はその武器による攻撃を
受け流していたのだろう。

「させるわけにはいかない、か……ではどうする?」

あり得ない防御方法。彼女が知らない魔力運用方法。それへの驚きという
感情や魔法攻撃も気にもとめない静かな問いかけに屈辱を覚えながらも
もはや戻る道などない彼女は冷静な思考を投げ捨てて激情のまま叫んだ。

「くっ、あなたを殺して全ての罪を被ってもらえばよいだけです!」

彼女自身ですら馬鹿なことを言っていると思える言葉を。

「ひ、姫さま、それはっ」

カイトはそれになんてことを言いだすのかという非難と、
それは無理ではないかという二つの感情を倒れ伏したまま冷静に考える。
ただ意外な事に言われた当人(少年)は少し驚いたように目を数度瞬かせて一言。

「…これは参った……ちょっと見直したぞ」


口からビームって、なんで敵役とか怪人とかの攻撃法なんでしょうね?

まあ、ぶっちゃけこのカレがやってることはほぼ悪役ですけどね(汗
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