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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」

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04-75 窮鼠、猫に利用される

誰が、猫だったのか。



しかしただ一人、そういうことかと少年だけが納得顔で頷く。

「………そりゃ怒るわな、よっと」

腐れ縁ゆえに解る頂点に達した怒りの理由をそこに見て、彼は腕を振った。
途端に小さな悲鳴と絶叫と共に残っていた黒の半数が彼の霊力の前に沈む。
たった一振りの一撃でそんなに倒された事に弱いと呆れるべきか。
そんな理不尽な攻撃からそれでも主人を守ったと賞賛すべきか。
どちらにしろ彼女ばかりに働かせたのではそれこそ後でなんといわれるか。
それだけを懸念して再び縁側から庭に降りたリョウは上の邪魔をさせぬよう
下の掃除を始めていた。

「相変わらず胸糞悪い連中っ、だ!
 時代に取り残された粗大ゴミどもが、おらっ! 死者の魂を弄んだな(・・・・・・・・・)!」

反撃かそれとも足止め目的か。
次々と飛び掛かってきた黒装束達を、だが彼は徒手空拳で物理的に沈めていく。
リョウの表情にもその非道に対する怒りが浮かんでいる。身近な者を
失った経験のある者にとってそれを弄ばれる事は許しがたい行為だ。
こいつらは死者の眠りさえ守る気がないのか。

「き、貴様! 誉ある我らをゴミなどとっ……許さん!
 礼儀を知らん猿めがっ、お前達さっさと殺せ!
 この私の前にいつまでこのような下郎を置いておく気だ!」

叱責も入った喚き散らすような命令にも彼等はただ首肯し、駆けた。
引き付け役か正面からいの一番に迫る影を蹴り払い、その隙を狙ってか。
死角から刃を持って首を掻き切ろうとした者の腕を掴んで振り回した。
リョウを左右から挟むようにして追撃を企んでいた一団をそれで薙ぎ払う。

「なっ!?」

驚きは誰の声か。一瞬の攻防で10人以上がリョウに叩き潰されていた。
彼もまたこの数日で急激に目が肥えた者だ。一般的には素早く、見事な
連携を見せる黒装束達だがアレの“酷さ”を体感している身にとっては温い。
四方八方から襲われるよりシンイチ一人の方がどこから何をされるかが
分からない恐怖と圧力を感じさせる。だが彼らのそれは手堅過ぎて読みやすい。
そんな次が読める攻撃に恐れなどなく、彼は確実に黒装束達を仕留めながら
道真までの距離を圧迫するように一歩ずつ詰めていく。

「ひっ、な、なぜだ……なぜそいつ一人も潰せない!?」

「たいして知識のないオレでも分かる。
 あれはてめえの術で無理矢理とらえられてた誰か達の魂だろう」

そのあまりに一方的な光景に狼狽える男の震えた悲鳴など、
聞く気もないリョウは言いたいことだけを口にしてさらに一歩進む。

「そっ、それは!」

疑問ではなく断定した問いかけに息が詰まったように道真の口が止まる。
それは肯定の反応であり同時にそれがまずい事であると認識している証。
当然だ。退魔一族は魂の流れが正常であることを監視するのも仕事なのだ。
なのに自分達が死者の魂を無理矢理現世に留めて術に利用するなど言語道断。

「確かそういうのは禁術扱いで勝手に使ったらダメだとどっかで聞いたな。
 しかも今の土御門家当主はその系統を嫌ってて滅多に許可を出さない、とも」

母親からか幼馴染からか。
昔か最近かは判然としないがそんな話をリョウは聞いた覚えがある。
だから、無許可だろ、と言外に問えば歪んだ顔をさらに歪めて歯噛みする道真。
なんてわかりやすいと呆れながら、自分達がいた頃と何も変わってないと彼も
その嫌悪感を表情に出していた。

「う、くっ、うるさい! 卑しい血の者に相応しい術を使ったまでだ!
 そも仮にも我ら一族の血を継ぎながら異界の玩具を使う卑怯者に
 とやかく言われる筋合いはない!」

「へいへい……よっと」

反論にしてもお粗末なそれに心底から呆れる。
だが聞き流しながら掃除を続けるリョウの斜め上で鼻で笑う声が響く。

「ハッ、お生憎様」

それは数多の魂を正しい流れに戻し終えたトモエだ。地上から手が
届きそうな程の高度にいる彼女はその顔にゴミでも見るような
冷めた目と無の表情を浮かべながら続けた。

「こっちはとっくの昔に退魔一族を見限った(・・・・)身よ。
 そっちの流儀に付き合ってあげる筋合いも義理もないわ。
 まさか、同じ土俵の上で戦ってもらえるとでも思っていたの?
 そんな優しい『敵』は普通いないわよ……所詮は世間知らずのお坊ちゃまね」

まだ怒りが収まらないのか。あるいはここまで来たら徹底的に潰す気か。
その両方の意志で彼女は盛大なまでに道真を嘲笑うと物理的にも精神的にも
言葉でも彼を上から見下ろす。それに何度目かの感情の爆発を彼は起こす。

「──っっ! 黙れ、黙れ、黙れっ黙れっ黙れぇぇっ!!」

沸き立つ激情のまま道真は我武者羅に術を放った。
これまでは一応に誤射を考えて控えていたそれも幸か不幸か。
既に当初の十分の一にまで減った黒装束達の隙間を通って彼等を襲う。
だがその霊刃は前に出たリョウの研鑽も何もない分厚いだけの霊力の膜に弾かれる。
幼馴染から馬鹿げたと評されるそれは並の術では易々とは突破できない鉄壁の鎧だ。
そこにあるのは純然たる、そして単純なまでの“霊力の量”という差。
鍛錬や知識だけでは越えられない生まれ持った才能という強力で理不尽な力。
道真がこれまで当然に振るってきた力だった。

「く、そ、くそっ、くそくそくそっ、くそぉっっ!!」

本人にそんな自覚はなく、彼はただただ地団太を踏みながら無意味に吠える。
この十数分の間、まるでこれまでの彼の人生が嘘だったかのように
津守道真という男にとって思い通りになったことは一つとして無かった。
生まれた時から特別扱いが普通であった男にはそれはあまりに屈辱で
我慢ならなかったが何をしても目障りな存在は消えないどころか彼の
持つ力はたった二人の少年少女の前にいとも簡単に潰され、激情は悪循環。
生の感情をむき出しにした憎悪の怒号も彼らの眉ひとつ動かさない。
もはや哀れみどころか敵とすら見られてない冷めた目が感情を逆撫でる。

────なぜだ、なぜだ、なぜだっ!

────不愉快だ、不愉快だ、不愉快だ!

────もっと、もっと、もっと、もっともっと力があれば!

「お待たせしました道真さま」

沸き立つ激情でぐちゃぐちゃとなる心に染み入るような女の声が響く。
甘く囁くようなそれは悪魔のそれに聞こえるが道真は何も思わず声の主を見る。

「お前は…」

「っ!?」

一方トモエとリョウは半ば反射的に身構えて道真よりその彼女を警戒する。
主人の前に跪いているかのような一つの影は他と変わらぬ黒装束の誰か。
だが二人だけが彼女に強烈な違和感を覚えて、だからこそ動けなくなる。
その間に女は脇に抱えていた布で包まれた細長い物体を道真に差し出した。

「これを」

「は?」

「ご所望の品でございます」

「お、おおぉっ! これか! これがあの!!」

短い言葉で理解した道真は喜色満面でそれを受け取った。
それ自体に歴史がありそう布に包まれた物体を興奮した様子で天に掲げる。
布越しに薄らと浮かぶそのシルエットに周囲は刀剣の類であると察した。

「ついにっ、ついに手に入れたぞ! 我が手に相応しい霊剣が!
 これがあればこのような下賤の者達に私が負けることなど!!」

「……霊、剣?」

トモエはそんな彼の様子など気にもとめず、ただその単語に引っかかった(・・・・・・)
そして同じ引っかかりをリョウもモノを包んでいる布を見た時から感じていた。

「あの布は前にどこかで……そう、母さんが前に……」

───これは──ない─のを──るものです

「…おい、アレなんか不味い気がするぞ!?」

不鮮明なれど不安感がこみ上げてくる記憶に彼が叫んだのと、
トモエが空を蹴るようにして道真に突っ込んでいったのはほぼ同時。
黒装束達の誰もがその速度に反応しきれなかった中で振り下ろされたカムナギの刃。
青白い光を煌めかせた一閃は、しかし突如発生した半透明の壁に突撃の勢い共々防がれる。
壁と刃の間で激しい火花が散るが刃は壁を斬れず、壁は刃を弾けず拮抗していた。
しかしそれは互角ではなく、攻撃が止められた時点で刃側の負けだ。

「くっ!」

「ふっ、ははっ、あはははっ!」

一瞬怯んだ彼もその強固な守りを目にして笑いをこらえきれなかった。
そして自慢げに剣をさらに前に突き出すとまるで空中で止まったように
静止させられていた『神威』がその分、後方に押し返されてしまう。
二人を遮る壁は外骨格の推進力すら通す気はないらしい。

「はっ、ははっ……やったぞ! 本物だ! どうだ紛い物っ、これが私の力だ!」

一般の人々が見れば我が目を疑うような光景だが周囲はその異常さよりも
それを成した未だ包まれているそのナニカを驚愕の目で注視していた。
“あれはいったいなんだ”と。

「あんたっ、それが何なのか分かってて使ってるの!?」

だがそれもこの場で最も分かっていない(・・・・・・・)男は気付かない。
この場で最も無意識に理解している少女の叫びもまた届かない。
道真はただ満足げににやつくだけ。

「ほう、お前達程度でもこの剣の素晴らしさがわかるか。
 遥かな昔、祭器として使われたこれは次第にこれそのものを祀るようになったのだ。
 歴史は弥生とじつに古い。せいぜいが五百年程度のその刀とは比べるまでも…」

「はぁっ!? 馬鹿いってるんじゃないわよ!
 封印されてるからって実際に手にして、何も感じてないの!?」

まるでもらった玩具を誇るかのような言葉のあまりの的外れさにトモエは
衝動的に怒鳴りつけるがそれは彼の機嫌を損ねて次の行動に走らせただけだった。

「ふんっ、所詮は汚れた身か。
 この清廉な霊気の波動がわからぬとは……とくと見るがいい!」

「っ、やめなさい!」

制止する声は何の効力もないまま、その剣は月光の下に曝された。
それは一見して青銅の剣のようであったが教科書や博物館等にあるような物とは
全く違って、歴史を感じさせる汚れも鈍さも欠けた部分も見当たらない代物。
刀身が放つ輝きはまるで今しがた磨き上げられた新品のように眩しく、
刃渡りは80cmに及ぶ祭器用と考えるには少し長いものだった。
しかしそんな見て分かる異常など問題ではない。

「っっ!?!?」

誰かが、否、誰もが息を呑む。ソレを感じ取れない者などここにはいない。
ソレが纏う空気は道真の言う清廉な霊気とは程遠い黒く濁った邪気だった。

「へ?」

さすがに(ようやく)気付いた道真の間の抜けた声がまるで合図であったかのように、
封じられていた濃密な邪気は現実を侵食するほどの濃さを持って噴き出した。
ガシャドクロの瘴気などとは比べ物にならない濃度の紺の煙が一瞬で彼を覆う。
トモエは咄嗟に後退しながらも右袖から何かを射出するがその効果の程も
煙の向こうに隠れて見えなくなる。彼の悲鳴も呻きも聞こえない。

「若様!?」

「よせ馬鹿! あんなのにてめえらが突っ込んでどうにかなるか!」

駆け寄ろうとした何人かをリョウは押さえつけながら一か所に漂う濃紺の煙を睨む。
幸か不幸かトモエの突撃の余波で黒装束たちは弾き飛ばされていた。あの中に
飲み込まれたのは道真ただひとり。

「ちっ、こんなことなら母さんにもっと習っておけばよかったか!」

あれは本当に力を持った剣だった。ただしおそらくは霊剣などではなく魔剣の類。
あの布はその悪しき力を封じ込めていたそれこそ最後の防波堤だったのだ。
この状況を見てからならリョウもあの布がそういった力を持つ霊具なのだと
誰かに語っていた母の姿をはっきりと思い出すことが出来ていた。
時既に遅し、だが。

「今更そんなこといってもしょうがないでしょ! それより気を抜かないで!」

カムナギを構えたまま隣に降り立ったトモエの声には少し前までの余裕がない。

「わかってるよ! ったく、なんなんだよあの気持ち悪いのは!?」

見た目だけをいうならそれは濃紺色なだけの煙かあるいは霧。
内部にいる道真を完全に隠すそれは見るだけでどうしようもなく気分が悪くなる。
胃液が逆流してくるような不快感。悪寒が止まらず、頭で警鐘は鳴り響いている。
それは何もリョウだけが感じているものではないことは他の者の顔色や
弱い息遣いから感じ取れた。

「……まあ、圧迫感はあいつよりマシってのはどこまでの安心材料なんだか」

「まったくよ────みんな、身構えて!」

それでも。
アレ(カレ)と比べると少し笑える余裕が生まれたが、すぐに彼女は全員に声をかけた。
黙って従ったのは付き合いの長いリョウだけで残りからは疑問の目が届けられる。

「………」

「巴さま?」

僅かに残った黒装束たちは戸惑いの空気を纏いながらも煙から距離を取る。
後方にいた少女達は訝しむように名を呼ぶが今度は様付けを嫌がる声は来ない。
否、出す余裕がないというべきか。

「っ、来るわよ!」

叫びながら彼女は刀印で目の前の空間に五芒星を描く。
瞬間、濃紺の煙は突風で吹き飛ばされたかのように周囲にまき散らされた。

「────禁!」

その言霊を宿した星は瞬時にその場にいる─倒れた者も含め─全員の
前に現れ、拡散した邪気からその身を守る盾となって煌めいた。
誰もがその術の完成度と展開した速度に唖然としている中、ただ一人
理解してないリョウだけが前に飛び出て拳を突き出す。その先から
放出されたのはこの状況で彼唯一の飛び道具である霊力そのもの。
別段事前に打ち合わせをしたわけではない。彼女が警戒を促した
時点でなんとなくアレが暴れ出す兆候があったのだと察しただけ。
これしかできないリョウはだから自然と攻撃は任されていると動いた。
だが。

「ちっ」

紺煙の膜の向こうにいたソレは砲弾のような霊力塊を軽く弾いて空に消した。
思わず舌打ちしたリョウはこの攻撃は効果がないと何となく察して顔を歪める。
そこへさらに不快感を煽るような甲高い笑い声が闇夜に響く。

「ヒャッ、ハハッ! ヒィィッ、ヒャハハハーーーーッ!!!」

声は─かろうじて─道真とわかるそれ。
されどそこには別の色。あるいは微妙に加工したかのような歪さがある。

「わ、若様?」

それでも今日初めて彼の声を聴いたリョウですら当人のものと分かる。
だが長年付き従ってきた黒装束達は全員がソレ(・・)を道真本人かどうか訝しげに、
そして愕然とした顔で見ていた。

「間に合わなかった……邪気に呑みこまれてしまったのね」

トモエの悔しげな声はそこにいる歪な“紺色の肉塊”に向けられていた。
人型ではあるが筋肉が肥大化したような手足はそれだけで大人の胴回り程はある。
それに準じるかのように全体的にも体中の肉という肉は増量され、着こなしていた
高級感あるスーツはスラックスの腰回りしか残っていない。さらにその色は濃紺。
少なくとも今確認されているどの人種の肌色とも一致しないそれは不気味の一言。
唯一面影(・・)があるのがトモエの膝蹴りと拳によって歪んだ顔というのは何の冗談か。
尤もそれでさえ全体的に膨らんで肉が増しており、黒く濁った眼に正気の色は皆無。
もはや怪異そのものといえる姿だった。

「馬鹿な、道真さまには霊的な防御術が幾重にも施されて……」

「それを超えるだけの力があの剣にあったってだけよ……わかるでしょ?」

苦々しい顔で歯噛みするトモエは一度も視線を“道真だったモノ”から
決して離すことなく、されど動揺している黒装束たちに理解を促した。
彼らもトモエたちもソコから目を離してはいない。だから解ってしまう。
怪物(道真)の右腕にある魔剣は怪物自身よりもどす黒い邪気を未だ放ち続けている。
あのガシャドクロ達が放っていた気と比べればマッチと打上花火程に火力が違う。
その力の前では“あらゆる霊的害意”を考えた汎用型の防御術は紙の鎧だ。
本人の心が隙だらけだったのもあって呆気ないほど簡単に飲み込まれた。
だからこそ視ただけで解る。あれは武具と担い手の関係が逆転している、と。
あれは自らを使うために道真という人間を取り込んで利用しているのだと。

「アヒャ」

しかしその目の良さと強い警戒心はここで裏目に出る。
あまりにも禍々しい気を放つ剣に意識を取られていた彼らはその時、
道真だったモノの顔が口角を上げて嗤ったのに気付くのが遅れた。

「っ!?」

怪物の右腕があがる。ただでさえ膨大な邪気の輝きが一層増す。
一気に膨れ上がったそれは夜の暗さを染めるかように黒く燃え上がっていた。
気付けばもう魔剣は振り下ろされ、剛腕(見た目)通りの怪力で大地を叩き割る。
そして、爆音と共に解き放たれたどす黒い炎の奔流が彼らを一瞬で呑み込んだ。
+注意+
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