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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

波紋編 第一章「転入初日」

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03-08 学園の常識的知識

せ、説明が終わらない……
「さて、パデュエールさんが落ち着いた所でフォスタの説明をしよう」

フランク教諭は何事もなかったような顔で語るが内容としては、
取り乱した恥ずかしさから小さくなっていた彼女への再攻撃に等しい。

「わ、わたくしとしたことが……」

気持ち肩を落としているものの高い矜持ゆえか。
傍目には内の感情ほど落ち込んでいるようには見えない。
それが良い事かそうでないかは判断が難しいところである。
シンイチも表情には出していないが、逆に非常に面白がっていた。
こちらはもっと反省すべきであろう。

「あの、フォスタってなんですか?」

とはいえ今は放っておいてやろうと説明を促すシンイチだ。
意外に思われるかもしれないがこれでも気遣いはできる方である。
意識しないと空気を読むのが苦手なのでプラスマイナスゼロだが。

「………そこからかい? 外にも同名の端末は出回ってたと思うけど。
 まあフォスタというのは Foton Use Terminal という携帯端末の略称だよ。
 さっき私が映像を出したのもパデュエールさんが持ってるそれもフォスタだ」

そういって二人は一方はA4サイズの、もう一方は片手サイズの
タブレット端末をシンイチに見せるようにして持った。

「元々ガレストにあった携帯型兵装と地球人が発達させた携帯端末を
 統合させて誕生した新型携帯兵装端末……といえば分るかな?
 最初は学園生徒のためだけに開発されたものでね。
 略称案の一つのフォスタと英語の Foster が意味的にぴったりだったから
 この名前に決まりそれが定着したから一般用のも同名になったんだ」

「……すいません、英単語の意味が全くわかりません……」

丁寧にフォスタという道具の名前の意味やどういった物かを説明されたが、
所々に混ざる英単語のせいでシンイチには半分ぐらい伝わっていなかった。
翻訳機は意図的に別の言語を使ったさいはそのまま発音させる仕組みにある。
そしてそんな高性能で便利な翻訳機を彼はそもそも持っていない。

「おや簡単な英単語だと思ったんだが?」

「お恥ずかしながら。
 俺、異世界にいたので中学通ってないも同然なんで……」

こればかりは心底シンイチも肩を落としている。
中学二年生になったばかりの四月末に異世界に流れた彼。
元々英語が苦手ではあったがそこへ異世界知識を覚えなくてはいけない状況から
一年次に覚えたことは完全に記憶の彼方へと消え去り彼の英語力はかなり低い。
どれほどかといえばアルファベットが書けるだけといえばわかるだろう。

「なるほど。えっとそれなら……無理矢理日本語にすると、
 “フォトンを用いた電子端末”ってなるのかな?
 Foster には『育てる』とか『助長・育成』といった意味がある。
 精神に関わるから『心にいだく』という意味もぴったりなんだ」

「その精神ってのは……というのはステータスの精神ですか?
 他と違って唯一意味がよくわからない、あの精神?」

こちらに戻ってきてからも存在すると知って驚いたステータス。
その中であちらには無かった『精神』の項目の意味は彼には分からなかった。

「本当に予備知識ないんだね。まあ帰還してすぐの転入なら仕方ないか」

少し呆れたようにいいながらもすぐに教師としての顔をとる。
若干面倒そうな顔つきになったことをシンイチは気にしない。

「フォトンについてはどれだけ知っている?」

「えっとガレストで使われているエネルギー結晶体で
 いまは使用に制限がある希少な物質になりかけている、ぐらいですかね」

直前の授業で軽く触った程度の知識しかない。
それで分かったのであろうフランクはなるほど、と頷くと続けた。

「フォトンはただのエネルギー結晶体ではない。
 生物の意志に感応するというとても珍しい特性があるんだ」

「え、なにその定番」

「え、オーソドックス?」

ありていにいえば物語における謎のエネルギーの定番設定である。
主人公が燃えれば出力が恐ろしいレベルまであがって強敵を倒すのはお約束。
そんな物語に幼き日からよく触れ、異世界で魔力なるそれっぽい力をも知った。
彼からすれば意思に感応する力なんていうのはありふれたモノである。

「あ、すいません。気にせず続けて」

しかしそんなことを正直にいえるわけもなく無理矢理誤魔化す。

「あ、ああ……コホン!
 機械的に取り出すよりもその方が一度に多くのエネルギーを取り出せる。
 ステータスの『精神』というのは引き出しやすさを表す数値なんだ。
 当然高いほど一度に多量に放出させられるまさに意志の力。
 『精神』と翻訳されたのはそういう事情からだ」

意味合い的には少しニュアンスが違うんだけどね。
と注釈するフランクの説明でようやく謎の項目『精神』の謎が解けた。
同時にそこもやっぱり自分はDだったのかと自嘲したい思いのシンイチだ。
相変わらずの無才っぷりだ、と。

「……精神の意味を知らなかったということは、もしやあなた。
 ステータスの他の項目についてもよくわかってないのでなくて?」

内心でそれに落ち込めばいいのか清々しさを感じればいいのか。
神様の言うとおりで決めようとしていた所で復活した彼女の言葉に戸惑う。
思わずそれは知っていると言いかけて、教えてくださいと言い換えた。

「いいでしょう。先程リゼットがした無礼へのお詫びもかねて。
 わたくしのステータスを使って説明します。
 先生は先にフォスタの初期設定をお願いします。
 では『ステータス・オープン』」

彼女は自らのフォスタに命じるように声を出すと画面に触れてもないのに、
それは二人の間の空間に文字と数字で彼女のステータスを映し出した。



------------------------------------------------

名:アリステル・F・パデュエール 性別:女

地球年齢:17歳

身長:165センチ 体重:60キロ

筋力:A

体力:AA

精神:AAA(限界値)

耐久:B+

敏捷:A-


スリーサイズ:B89/W54/H85

------------------------------------------------


色々と突っ込まなくてはいけない所があるような気がして悩むシンイチだ。
まず何よりそこを指摘してやらねばと妙な使命感を覚えて口に出す。

「やっぱ重たいんだな、その縦ロール……」

「っ、いいかげん髪形から離れてください!」

自分と身長は大差がないのに体重には12キロの差。
いくら肉がついているとはいえ髪の毛の比重が大きいのであろう。
女の子は大変だな。とわざとらしい哀れみの視線を向けるシンイチだ。
スリーサイズまで明らかになっている事はあえてのスルーである。
彼女なりの彼のプライバシー情報を勝手に見たことに対する詫びだったのに。

「くっ、へ、平常心です。パデュエール家の者として心穏やかに………」

自分に言い聞かせるようにして深呼吸すると理路整然と説明を始めた。
シンイチも茶化すような真似はせずにしっかりと耳を傾ける。

「ふぅ……ステータスというのは各々の能力をランクで表記したものです。
 それぞれ───」

・筋力とは肉体のみから繰り出す事が可能な物理的な“力”の最大値。

・体力とはその肉体が保持しているスタミナの最大値。

・精神とはフォトンから一度に引き出せるエネルギーの最大量。

・耐久とは自分の肉体が生身で耐えられるダメージの最大値。

・敏捷とは己の素早さや反応速度の最速値。

「────となります」

頷き相槌を返すシンイチ。それらの定義はファランディアと変わりない。
違いがあるとすればいくつかあちら側だけの項目があることであろう。
シンイチはそのためにステータスの見方に違いが出来たのだと推察している。
こちらにはない項目があちらにおいては最重要な項目であったがために。

「ランクの順番は理論上のEを抜けばDが一番下で最高がSとなります。
 AとSの間にはAA(ダブルエー)AAA(トリプルエー)があって
 マイナスやプラスはランクだけでは表現しきれない差を示すために使います。
 この場合わたくしの耐久B+とは総合的にBを越えてますがA-には届かない。
 敏捷のA-とはAに届いておらずB+よりはAに近いことを示します」

「……そこまで一緒とはね」

「ん、何か仰いました?」

定義やランク付けの基準まで同じということに違和感を覚える。
ヒトの生物としての差が三世界であまり無いだけともいえるが
果たしてそれだけで同じ評価基準が出来上がるものだろうか。

「いや、女性がスタイル維持したまま筋力・体力・耐久を
 こんな高水準に保つのは大変だろうと思ってね。
 並大抵の才能や努力だけじゃ、こうはならない。
 ガキの頃からずっと丁寧に鍛え続けなきゃいけないからな。
 なんだお前、思ってたより全然すごいんだな」

浮かび上がった疑問点はここで考えても答えは出ない。
誤魔化す意味も混ぜた言葉はされど正直な感想でもあった。
それらの項目を上げるには肉体を鍛えあげて筋肉を付けるのが一番簡単。
肉体を鍛えるのとステータスを鍛えるのは意味や方法が若干違うが
共通点が決してないわけではないからだ。
そのためファランディアで戦場に立つ女性は筋肉隆々の戦士となるか。
スタイルを崩したくないために後方に立つ術者タイプに別れやすかった。
ステータスとスタイルを高水準で両方保つのには長期間に及ぶ
計算されつくした鍛練メニューを毎日欠かさず“やり続ける”ほかにない。
だからシンイチは素直に彼女のこれまでの頑張りを褒めたのだ。
迂闊にもそんな事を知っていると告白してる事には気付かぬまま。
もっとも。

「え────っ!」

いわれた当人は顔を真っ赤にして発言のおかしさに気付いていなかったが。
『精神』の意味さえ知らなかった男がステータスとスタイルの板挟みで
悩む女性特有の苦労やステータスを“保つ”苦労を知っている事はおかしい。
ましてや彼女は元より高い地位と高いステータスを持つ者。
それを褒められたところで動揺するなどあり得なかった。

褒められたのが、これまで重ねたその努力でなければ。

容姿でもステータスの高さでもなくそれを形作る頑張りを褒められた。
努力するのは当然で誰も、彼女自身ですらそこには目を向けなかった。
それを“彼”に褒めてもらえたことがなぜか誇らしく、
動悸が激しくなってしまうほど嬉しく思ってしまう。

「と、当然のことですわ!
 パデュエール家の者として他の者の模範とならなければ!
 どちらも高い水準で維持するのは半ば義務、当たり前です!」

「そうか、偉いな」

それを正直に表現するのは気恥ずかしく誤魔化すように早口でまくしたてた。
しかし返ってきたのは年下のはずの少年のまるで親のような優しい見守る笑みで
アリステルの頬はなぜかそれ以上に赤くなって熱を帯びていく。

「キュ~キュ~」

それを体育授業という事で離れた所で見守る彼女はどこか呆れ顔。
短い前足で器用に人が肩をすくめたポーズを取ると首を振った。
“相変わらずですねぇ~”とでもいいたげである。

「ステータスの説明は終わったのかな。説明をフォスタに戻しても?」

「え、あっはい、お任せしますわ!」

準備を終えたフランク教諭の言葉に我に返ってアリステルは下がった。
自分を落ち着かせようとシンイチから距離を取って小さく深呼吸である。
入れ替わるように来た教諭は抱えてた箱から“フォスタ”を取り出す。
シンイチの知識にある物で例えるならタブレット端末。既に電源は入っていた。
異世界に行く前にテレビや街中で見たそれと見た目は大きく変わらない代物。
だがファランディアで鍛えられた感知能力はその内側にある“力”を
はっきりと感じ取って、シンイチを驚愕させていた。

「っ、これは!?」

「……さすが腐っても帰還者。濃いフォトンは感じられるんだね」

無表情を装っていた彼が表情を驚きに変えてしまうほどに。
目を大きく見開いて、フォトンの波動を感じて呆然としている。

「これがフォスタ。通常の携帯端末の機能もあるけど、
 この学園や都市では何をするにも基本必要となる必須の勉強道具。
 学生証であり教科書でもあり身を守る武器でもある。
 ほら、あんな風にね」

周囲を指し示せば皆が同じタブレット端末を腕に装着して組手をしていた。
もっともシンイチからいわせれば端末─フォスタから発せられる力場。
フォトンエネルギーによって保護された身体で殴り合っているだけ。
殴られれば殴り返し、蹴られれば蹴り返す喧嘩以下の攻撃のやり合い。
完全に名ばかりで組手というよりは互いをサンドバックにした殴り合い。
驚いていた彼の顔が一気に半目になってしまうほど白ける光景だった。

「薄ら見える光の膜がフォスタが所持者を守るバリアだ。
 戦闘訓練や討伐義務なんてものがある学校だからね。最終安全策さ。
 他にも生徒間の諍いでケガ人がでないようにという処置でもある。
 持ってるだけでたいていの攻撃は身体には届かない。
 衝撃ぐらいはくるけどね」

「…………」

どこかおどけたような言葉に、されどシンイチは笑えない。
だからなんとなく気に入らなかったのかと逆に納得した。
この学園のありかた。戦い方に対して最初から嫌悪感があった。
何に対してなのかだけが解らないままだったがそれも今分かった。
彼らがあまりに戦いを知らなさすぎるからだ。甘えているからだ。
バリアに守られているからではない。そんな結界術はあちらにもある。
問題はそれに甘えている自覚のない殴り合い。その心根にある。
打ち込まれても平気な顔をしてぶつかっていく乱暴な組手。
あれが実戦ならここにいる全員は次の瞬間死んでいる。
衝撃ぐらいは、などとそれを甘く見る思考が甘すぎる。
それだけで人を殺す術など彼は山のように知っているのだから。

「ああ……まずい、まずい。変な方向に思考が寄ってる」

わざと声に出して呟きながら軽く頭を振って切り替える。
それがあまりにファランディア寄りの考えだったから。
あそこは常に戦いが身近にあった世界だ。街の外は魔物と盗賊の巣も同然。
戦争もテロも頻繁に起こっていた世界でこことは違う世界。
異世界ガレストの在り方を受け入れようとする地球世界だ。
その現在の在り方を別の異世界の基準で判断してはいけない。
どうにもシンイチはあちら側の考え方で物事を判断してしまっている。
それではいけないと改めようとした。のだが。

「…………先生、あれ、なに?」

「ん、あれか。フォスタは武器でもあるからな。
 基本兵装としてソードとシューターが標準装備されている」

当たり前の知識として答えられたことだが、
じつのところシンイチが欲しかった答えとは違う。
彼がいいたかったのは“なんだあの武器の使い方は?”である。
腕に装着された端末。その薄い機体の側面。手の甲側から伸びる光の刃。
あるいはノズルのような銃口が展開され発射される光の弾丸。
それを打ち合い、撃ち合う。あまりに幼稚な模擬戦(ごっこ遊び)
技術が素人なのは当然だ。そこを彼は問題視していない。
だが誰の顔にも必死さはあっても、あまりに恐れがない。
武器を持つ恐怖。武器を使う恐怖。相手を傷つける恐怖。自分が傷つく恐怖。
恐れを克服したのとは別次元の、そしてあまりに幼稚な武器の持ち方。

──彼らはそもそも、そんな恐怖があることすら気付いていない

「ひどすぎる……」

地球の、日本の常識はどこにいったのかと誰かに問い質したい気分だった。
道徳や礼儀、武術。そういった文化が世界的に見て高い国ではなかったか。
異世界文化を受け入れる過程で本来持っていた文化の質が低下したのか。
痛くもないはずの頭が痛いような気がして思わず額を押さえた。

「なんとも情けない」

「…………」

その小さな呟きと仕草を、背後から見詰めるアリステルには気付かず。
視線にはどこか探るような意思もあるのだがそれ以上に敬う礼儀がある。
尊ぶように、しかし焦がれるようでもある視線は知らず熱を持っていた。

「……あ、あのっ」

「お前たち、やめやめ!
 なんだその動きは!? 入学時と何も変わってないぞ!
 相手の動きをきちんと見ろ、考えて動け!
 ただ武器を振るう事を戦いとはいわん!」

思わず出かかった言葉はフリーレの強い叱責の言葉で遮られる。
成長してないと断言されたことに不満顔の生徒もいたが、
彼女が訓練用の手持ちタイプのブレードを軽くその場で振るうだけで仰け反る。
潰されてる上に刃は遠く、誰かに向けたわけでもない。
だがその気迫だけで生徒達は縮こまっていく。

「文句はきかん! 自分の使ってる得物をきちん見ろ!
 当てるだけで相手を倒せるなら“使い手”など必要ない!
 動き回るだけのドローンかお前ら! 人間なら使ってみせろ!」

声を張り上げ、見本のように自身が刃を振るいながら指導をしていく。
辛辣な言葉で叱責しながらも身振り手振りで熱心に教え込む。
時には罵声と鉄拳が混じるそれは体罰問題どこ吹く風である。
同僚であり兄であるフランクはやれやれと首を振る。
手厳しいだけの指導で生徒がついてくるものかと。

「いやはやフリーレ先生は随分とらんぼ」
「先生も甘いことをいう。
 生身で野外フィールドとやらに放り込んでやれば基礎など一日で終わる」

乱暴で厳しい。
そういって少なからず賛同を得ようとした彼の耳に、
フリーレ以上に乱暴で厳しい意見が入ってきて、しばし固まる。

「…………過激なこというね、キミ。
 本当に危険なんだ輝獣は、奴らは暴れることしか知らない」

驚きも多分に含みながらもそれは苦言のような一言。
そこに放たれている輝獣たちの恐ろしさを知らない者の発言だと。

「え、だから放り込んだ方が手っ取り早…………気にしないで説明の続きを」

危険だからこそ、そこへ放りこめ。
そしてその危なさを体に叩き込んでしまえ。
そんな意見を言いきってしまいそうになるのを途中で止めた。
ほとんど言ってしまっているのであまり意味がないが強引に話を戻す。

「……あとは実際に使いながらがいいだろう。
 初期設定はすませてあるからあとは腕に当てれば勝手にやってくれる」

少しばかり不満顔を見せたがすぐにフォスタを手渡す。
シンイチはそれを利き手とは逆の左腕に当てた。
すると自動でアームバンドが展開されるとがっちりと固定される。
フォスタ本体も腕にあったサイズに微調整され、角ばった形に変化する。
遠目からでは分かりづらかったが間近で見ればまるで篭手のようだった。

「…………無駄にハイテクな」

他の地球人なら感嘆の思いで見る形状変化も彼にはそんな感想しか与えない。
画面には大きく『登録完了』と日本語で表示され、エネルギーの解放を感じる。
クラスメイトと同じようにフォトンのバリアにシンイチは包まれた。
彼からすればこの手の全身を覆うタイプの結界(バリア)はひじょうに苦手だ。
寝袋を着せられて動き回らなければならない感覚に陥る。

「…………」

二、三度手を振ったり、握ったり閉じたりを繰り返して、
実際に動きに干渉するか否かを確かめてもそれはなかったが、
あくまで感覚的な話であり、邪魔だと思う気持ちは消えない。
しかしそれは慣れるしかないのだろうと彼は諦めの表情だ。

「ここから先の使い方は私よりパデュエールさんがいいだろう。頼めるかい?」

「無論です。
 使い方の説明を行います。こちらへ」

休み時間に第一運動場で見たのと同じ円形の模擬戦フィールドが床に浮かぶ。
自身のフォスタを篭手のように左腕につけて立った彼女はそこで彼と向かい合う。
この授業で彼の何かを推し量ろうとするアリステルには企みがあるが、
さすがにそれを正直に表情に出してしまうほど彼女は愚かではない。

「では、戦闘時における基本的なフォスタの使い方からいきます。
 もうあなたは貸与されたそのフォスタに登録されていますので
 音声入力で『ソード』あるいは『シューター』と命じてください」

「…………口で、いうの? 武器出すだけなのに?」

真剣味のある顔で簡潔に説明されたのだが、
それでも少し間を開けてしまうほどその指示には戸惑った。

「え? あ、はい。
 他にもマニュアル入力でも可能ですが……なるほど。
 戦闘中にわざわざ使う武器の名前を口にするのに違和感があるのですね?」

実戦を想定するとマヌケな仕様と思う者もいるのですぐに彼女は勘付いた。
そして既に休み時間に彼が見た戦いで音声入力をしている者はいなかった。
尤も彼が一番戸惑った理由はそれだけではないが今は誤魔化す。

「まあ、そんなところ」

「いい指摘です。
 もっと本格的な装備ならフォトンの性質を利用して
 意志だけで動かすのは可能ですがこれはあくまで学園生徒用。
 対人というよりは対輝獣向けの訓練用とお考えください。
 学園で意志入力が可能になる装備は特別科だけなのです」

「なるほど」

打てば響くように返ってきたわかりやすい説明に納得して頷く。
じつは武器の名前を口にして使うのが気恥ずかしいのだ。
幼い時によくやったヒーローごっこの再現のようで。

「はぁ…………『ソード』」

抑揚のない一言を受けて彼のフォスタは他の生徒と同じく光の刃を伸ばす。
篭手のようになったそれの手の甲あたりから伸びるそれは金色の輝き。
フォトンの輝きを持つ刃はおおよそ三十センチほどの刃渡りの両刃。
クラスメイトのそれと比べると半分程度の長さしかなかった。

「ふーん、この長さが精神ランクの違いってこと?」

「え、ええ……一概にすべてそうとはいいきれませんが、
 精神CとDの場合は如実に長さに違いが出るのです」

「そっか。ま、俺はこの方が使いやすくていいけどね」

長得物は苦手なんだ。と気負いもなく平然と語る。
そして二、三度素振りするようにソードをその場で振るう。
周囲との違いやそれに伴う劣等感は微塵も感じていなかった。
それ以上に手持ち武器と違う篭手から伸びる刃を違和感なく振るっている。
あまりに慣れている動作もあってか彼女は何かの常識が崩れそうになる。

「つ、次はシューターを試してください。
 ここで動作不良があると後々に困りますので」

「わかった…………ふぅ……『シューター』」

一転やはり名を呼んで武器を使うのには抵抗があって表情が硬くなるシンイチだ。
じつは彼はファランディアでも魔法が使えるようになったあとで
その「属性」を必ず口にしなければならないというルールに苦戦した男だ。

「どうやら動作に問題はないようですね」

「当然だよ。
 いくら1-Dの生徒とはいえ不良品など渡さんよ」

彼らの前でフォスタは正常に動き、刃を消すと同じ部位から銃口が伸びた。
形状としては銃というよりは消火ホースのノズルのほうが近い。
エネルギーを撃ちだすという機能上こちらの方が理に適っている。

「では、そのまま射撃訓練といきましょう……固定ターゲット射出」

フォスタに囁くように命じる。
床に小さな溝が開き、円形の的が複数飛び出すと一定の高さで浮いた。
釣られていることも支えられてもいないのに空中で固定されている。

「……ほんと無駄にハイテクだな、おい」

飛び出す過程も、出たあとも含めて。そのシステムに半ば以上呆れる。
もっと人力に頼る。あるいは簡単な作りでも良いのではないかと。

「撃つのは意志です。狙いを付けて、心で撃てと命じればいい。
 口でいっても同様ですが……『発射』!」

シューターとなったフォスタから発射された拳大の弾丸。
放たれたそれは反れることなく一番高く浮いていた的に着弾。
跡形もなく粉々に撃ち砕いて、破片を周囲にばらまいた。

「へえ、いい腕してる」

見事的の中心に当たったのが見えた彼は素直に拍手と共に賞賛する。
視線は床の上に散らばった破片を掃除していく自動機械を見ていたが。

「いえ、ある程度は照準補正してくれますのでこれぐらいは誰でも(・・・)
 次はあなたが残った的を狙ってみてください」」

謙遜しながら賞賛を受け取るが機械の性能だと嘯き、誘導する。
シンイチは宙に浮く形で止まっている的を見据えた。残りは三つ。
誤射の可能性を考えてか競技場の壁を背にして浮いていた。
そのまるでダーツの的のようなデザインのそれに静かに銃口を向ける。

「はぁ、『発射』」

いわなくてもいいといわれたが見本をやった人物がやった以上。
ここではやっておいたほうが無難だろうと口に出して撃つ。
連続する三回の発射音と共に2センチ程度の小さな弾丸が的に向かう。

「…………お見事」

的の中心点に吸い込まれるように弾丸は命中。小さな着弾音を聞かせた。
果たしてこれほどの正確な射撃ができる者が学園にあと何人いるか。

「初めてでよく当てるものだ。
 しかし、いくらDでも弾丸が小さすぎたような?」

教諭はその意味がよくわかってないながらも、違和感は覚えていた。
アリステルは素直にそれを賞賛していたが思わず身震いもしていた。
普通に狙ってくれるように誘導したのは自分だが想像以上。
確かめるために授業補佐に入ったはずの彼女はごくりと唾を飲む。
本能的な何かがこれ以上は危ないといっている気がする。
それでも彼女は目の前の少年を推し量る必要があったのだ。
いつか見たあれが本物だったのか紛い物だったのか。
確かめる手段はこれが一番手っ取り早いのだから。

「君はどう……パデュエールさん?」

彼女は静かにシューターの銃口をシンイチに向けた────

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